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使用お題:『深海』『女体化』『氷河期』『人形』
+最後の一行を『強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない。』とすること

【深海に生き延びた者達】

 若い男と年老いてはいるが威厳のある男が睨み合い、口論を繰り広げている。

「おい! ふざけるな!」
「……ふざけてなどいない。状況は分かっているはずだ」
「だからって、なんでこんな選択肢なんだ!?」
「そうしなければ我らは生き残れないからだ」

 記録のある範囲で分かるのは地球上の全ての生物の脅かす氷河期が訪れたのが500年ほど前。人類は生き残る為に、いくつかの手段を取った。
 卓越した技術を持ったあるグループは地上で耐寒フィールドを作り上げ、その内部で生存を図った。またあるグループはまだ見ぬ新天地を求めて宇宙へ旅立った。

 言い争いをしている2人の男の所属するグループは海の中へと逃げ道を求めた。ただの深海ではただ死ぬだけであり、海底火山の地熱を利用して生き残る術を確保したのであった。
 深海であってさえも、それに耐え抜く場所を作る事は不可能ではなくなっていた。だが、氷河期という極大な自然の猛威に対してまではなす術を持たなかったが……。

 そして、今まさに彼らは絶滅の危機に向かって進んでいる。深刻な男女の出生率の偏りが発生しているのだ。現在の男女比は9:1。このまま進めば、氷河期が終わるまでには男しかいなくなり、やがて滅ぶであろう。

「……男女比が偏り過ぎているのはわかっている! だからといって男の4割を女体化はないだろう!」
「ならば人形のように眠りにつく事を選ぶか? コールドスリープ装置ならあるぞ?」
「そういう事を言ってるんじゃねぇよ!?」
「ならばどうする? 無理矢理にでも少ない女性達に子供を産ませ続けるか?」
「それは……!」

 密閉された海底の作られた生存圏。それにより彼らは生き残る事自体には成功した。だが予測では氷河期が終わるのはまだ数百年は先とされている。だが、その内部で発生した極端な男女比の偏りにより人口は減少の一途を辿っている。

「ならクローン技術を再び復活させてだな!?」
「それは駄目だと何度言わせる気だ! それが今の原因だろうが!」
「……すまん、つい……」
「……もう二度とあれを使うな。遺伝子異常もだが、あの人を人とも思わぬ、人形扱いなどもう二度と見たくない」
「……そうだな。その通りだ」

 今の出生率の極端な偏りの原因は、五十年ほど前に行われた人口減少を食い止める為のクローンを使っての母体作り。
 そしてそのクローンの女性から生まれた子供は総じて男ばかりとなった。詳しい原因は判明していないが、それがクローンを使った事であるのは明白であった。
 ……そして不要となったクローン達は食料も無尽蔵という訳ではないため、処分された。それこそただの人形のように……。

「こんな環境だ。心が強くなくては生きてはいけない。だがな、それ以上に人道を外れて優しさを忘れてしまえば俺たちに生きていく資格はないんだよ!」
「……そうだな。確かにその通りだ。……拒むのであればここで滅びを待つのも1つの選択肢か……」
「……どうするかは、若いお前たちに任す。ただし、クローンだけは許さん!」
「……分かったよ、爺さん。……婆さんがクローンだったんだよな……」
「もういい、行け! 今はお前がここのリーダーだ!」
「あぁ分かったよ」

 その後、性転換による女体化を受け入れたのが2割、コールドスリープを選んだのが2割。即座に男女比の偏りが改善された訳ではないが、世代を重ねて徐々に比率は正常に戻っていった。そしてその時の決断を後世に伝える言葉が残されて続けている。

『強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない』と……。