原稿終わんねぇ……
使用したお題:『楽器』『ホットドッグ』『爪切り』『白魔術』『にんにく卵黄』
【ハウリング】
「尻尾揺らして飛んでく♪ そう、ぼくはきみのホットドッグ♪ おやつはにんにく卵黄、それからホットドッグ♪」
 右へ左へ、行き交う蛍のように揺れるサイリウム。
「爪切り、ブラッシング、きみのためなら我慢するよ♪」
 熱気と熱狂を包括したライブ会場のステージで彼は弦楽器をかき鳴らしながらエネルギッシュに歌う。
「いつでも今は今だけだから、駆けだそうよ〜♪ ぼくはきみだけのホットなドッグ♪」
 力強いベースラインが跳躍前の踏ん張りを彷彿させるように、僅かに勢いを鎮める。……サビが訪れる直感。
「一緒にっ!」
 ボーカルがコーラスをギャラリーに求める。
 けたたましくドラムが鳴ったのが合図だった。
「「「「「BOWーWOWーWOW! BOWーWOW!!」」」」」
 一斉に揺れながら歌い出すギャラリー。物凄い一体感と疾走感。いいぞもっとやれ。
 カルト的な人気を誇るサブカルロックバンド、スチームゼリーを代表する曲の『ホットドッグ』。
 とあるファン曰く、「ああ、なんて味わい深い歌詞……天才だ」とのこと。
 そんな心の底からスチームゼリーを愛して止まない観客達の中に、落ち着き払った者が二名いる。
 一人は、冷静に観客の様子に注目しながら巡回していた自分。
 そして、もう一人は顔を隠す様にパーカーの黒いフードを深く被った何者か。
 黒フードはポケットから手のひらサイズの何かを取りだし、ボーカルへと狙いを定めた。
 手に握られた筒状の先端を持つそれは、込められた魔弾を高速で打ち出す魔力投射器であった。
 周りはその事には気づかず、熱狂の渦を絶賛形成中。
 ――ただ一人、自分を除いては。
 背後から魔力投射器をもつ手を抑えると、黒フードはようやくこちらの存在を認識したようで、慌てて身を暴れさせた。
 すぐさま揉み合いへと発展する。感情を宿さない瞳がフードの影でギラリと光ったかと思うと、音なく暴発した魔力投射器。
 射出された魔弾は真上に向かって一直線に飛んでいき、天井に衝突。プラズマの断片を振りまきながら爆発を起こした。