俺も、因果な仕事を請けたものだ、寿町の写真を撮ってこいなんて。
 ここでは、まともな機材は使えない。
 普通のカメラを使おうものならよそ者とわかり、殴られるか、たかられるかだけだ。
 たかられていい絵が撮れればいいが、そんなことはキリストが石をパンにするようなものだ。
 ただ、めざとい奴はいる。
 俺が、通りを何往復もしていると気づいた奴がいた。
「にいちゃん、何を狙っているんだい?」
「なんのことかわからないな」
 俺はとぼけた。
「そのポケットに刺したペンがカメラだろ」
 ばれたか。
 しょうが無い、万札でも握らせるか。
「まぁ、メシと酒でまわりの連中にはだまっておいてもいいぜ」
 おっと、意外な展開だ。
「しょうがねぇな。それで頼むぜ」
 おっさんは、近くの店に入った。
 わりときれいな店だった。
「にいちゃん、汚ぇ店を想像していただろ?」
「ああ」
「今時、この辺も外人が来るから、そうでもないんだ」
「おっさん、詳しいな」
「おい、おっさんじゃないぜ。まだ三十代だ」
 よく見ると、来ている服はユニクロだったりした。
「つい、この前までは土地持ちの社長だったんだよ」
「それがなんで、こんなところにいるんだよ」
「俺の先祖は笠井肥後守で、名家の出なんだぜ」
 この手の取材をしているとこういう奴とはよく出会う。
 まぁ、地球人自体がみんな神の子だと言っていたジャンキーと話したこともある。
「まぁさ、匿名掲示板に夢中になって、一日中やっていたのよ」
「たんなるニートだろ、それ。親が死んだか」
「いや、だからさ。産廃業者をやっていたんだよ」
「自分の土地に受け入れてったわけか」
「ものわかりがいいじゃねぇか。にいちゃん、酒、もう一杯いいか?」
 ネタになるかわからないが、ここまで付き合ったらしょうがない。
「ああ、構わないぜ。で、どうした?」
「そうしたら、社員の連中がヤバイものを引き受けるようになってよ」
「ヤバイものって?」
「まぁ、福島からだよ。あと事件性のあるものもな」
 このオヤジは狂っていると思った。ネタにはならない。
「で、おまわりに追われるようになったわけさ」
 支払いをせずにおっさんがわきを向いている隙に店を出た。
 ムダな一日をすごしたものだ。