「別れるなら春がいいね」とあなたは言った。
 ああ、あなたがいつもそうなのだということは知っていた。前々からよく口にしていのだ。
 あなたは酷い男だった。秋の涼しくなった頃に恋人を探し、春が来て暖かくなった頃に面倒になって別れるのだと、私を抱きながらも得意気にそんなことをよく口にしていたものだ。なんてことはない、私もその一人になったというだけの話だ。
 カレンダーが視界に入った。三月に差し掛かってから、三寒四温が続いていた。本格的な春が訪れる日も近いだろう。
 あなたは裸でベッドに座って、天井を見上げてぼうっとタバコを吸っている。
 逞しい身体つきだ。まるでギリシャの彫像の様な引き締まった筋肉。私の目は、あなたの身体から離せない。
 あなたは鼻を鳴らし、くしゃくしゃっと髪に触れる。その何気ない仕草のすべても愛おしかった。あなたははあと溜め息を吐いて、天井へと目を向ける。
「そろそろ、だな」
 私の気持ちなんてまるで知らないというふうに、あなたはそんなことを言う。
「愛していたよ」
 終わったことを後で語る様な、そんな言い方だった。
「本当に、酷い人ね」
 あなたは少しだけ私を見る。そして頬へと手を触れた。
「俺が酷い奴なのは、出会ったときに知っていたことだろう」
 そんな台詞を、無感情に口にしてみせる。そうしてあなたはベッドを立つ。
「最後のデートは山にしようか、海にしようか」
 山がいいと、私は返した。あなたは小さく微笑んだ。

 ○県△市にて、四月二十日、十一月より行方不明になっていた△△さん(当時25)の遺体が◇山奥地より発見された。○県警は死体遺棄の容疑で××容疑者(30)の身柄を確保し、同容疑にて逮捕した。
 ○県△市では数年に渡って同様の若い女性の行方不明事件が発生しており、××容疑者と関係があるものと見て、○県県警は調査を進めている。


 また、△△さんの遺体は腐敗が進んでおり、死後半年近く経過していると見られる。