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お題:『誕生日』『たこ焼き』『ダブルミーニング』『女装』『過疎』

【ディスタンス】(1/3)


 白い息が筋を引き、北風が吹きすさぶ。
 駅前のコンビニで買ったたこ焼きを頬張ると、木佐田 臣はその光景を何と無く眺めていた。
 シャッター街と言うのも憚られる寂れた街並み。アーケードから見えるのは、店のシャッターどころか打ち付けられたベニヤ板や工事用のガードフェンス。
 下手をすれば、三角錐の赤いコーンと呼ばれる物で、境界を示しているだけの場所さえある。
 そこから覗く風景が更地ですらなく、朽ちた家の基礎だけと言うのが、この街がどれ程過疎化しているのかを表していた。

「昔はなぁ……」

 学生時代の思い出を幻視し、思わずそんな呟きが漏れる。
 都会の喧騒と他人との柵に疲れ、臣が田舎に帰って来たのはつい数ヶ月前の事だった。
 落ち着いた環境で再起を図ろうと、故郷で就職先を探してはいるが、その結果は芳しくなく、結局今は、年老いた両親のスネをかじりながらの家事手伝いをやっている。

 向こうに居る内に、手に職を付けておけばよかった。そんな事も思うのだが、如何せん、欲望と誘惑に溢れたあの街では、そんな事をしている時間など有りはしなかったのだ。もっとも、それは彼女の怠惰の所為でもあるのだが。

「だぁ〜れだ?」
「阿藤 岬」

 不意に視界を遮られ、声を掛けられる。聞き覚えのあり過ぎる声色に眉根を寄せながら、臣は岬の名を告げた。
 そもそも彼女をここに呼び出したのは彼なのだ。

「うん、あたり!」

 視界が開かれ、振り向いた先に有ったのは肩口で切りそろえられた黒髪と、うっすらとされたナチュラルメイクの女性の顔。
 臣は思わず「へ?」と言う間抜けな声を漏らした。しかし、その顔には確かに面影が残っていた。

「あ、えっと、岬の……妹さん?」
「ブー! あたりって言ったじゃん。本人だよ! 僕が岬本人!!」

 耳障りの良いソプラノボイスは、確かに記憶に有る岬の物だ。しかし、30手前の男性だと考えれば違和感を抱く。
 だが、外見と合わせれば何ら違和感はなく、むしろ普通に女性としか思えなかった。