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スレ6→294の続編、前々回お題作品です

使用お題→『誕生日』『たこ焼き』『ダブルミーニング』『女装』『過疎』

【彼女たちと僕の一日】(1/3)

 ここは迷宮の第六層。

「わわわきゃっ! 魔法使いさまー、やっぱりっ、ちょっとっ、無理ですー! 攻撃が重いですー!」
「やっぱり無理かー。ファイアボール!」

 小さなドワーフの少女が、大きな盾で、オーガファイターの拳を受け止めている。
 単調で工夫のない攻撃だが、両手で盾を支える彼女、新人探索者のカリンは、相手の腕力に対して力負けしているようだ。
 そんな彼女を尻目に、僕は後衛のゴブリンメイジに集中する。

「あわわわ、助けてっ……あっ、ありがとうございます、ダリアさん」
「いえ、あとちょっとだけ耐えてくださいね」

 横でレッドゴブリンの相手をしていたダリアが、一度だけオーガファイターに斬り付けた。
 途端にオーガファイターの動きが鈍る。竜人の剣か、ドワーフの盾か。分かりやすく迷っている。

「ファイアボール! ……当たらない!」

 今日は調子が悪い。魔法三発で倒せるはずの相手に、六発も費やしてしまった。
 ダリアは既にレッドゴブリンを片付けて、カリンと二人でオーガファイターを囲んでいる。
 カリンの後ろから魔法を連発する。オーガファイターは四発目で息絶えた。

「あ、危ないところでした。ダリアさん、魔法使いさま、ありがとうございました」
「いえ、やっぱり第六層は、私たちには早かったようですね」
「ごめん、なんか調子悪くてさ。魔法が当たらなかった」

 ダリアが、いつもと変わらない表情を僕に向ける。

「第六層からは、ゴブリンたちの動きが素早くなります。魔法が当たらないのは、きっとそのせいです」

 そうなのか。なんかそんな気はしてた。

「今日はもう上がった方がいいでしょう。カリンさんはお疲れでしょうし、ご主人様の魔力切れも心配です」

 不慣れな階層で、経験者の言葉に逆らう理由はない。僕たちは来た道を戻る。
 各階層の入り口には転送装置があり、迷宮ギルドの係員が待機している。
 人もゴブリンもいない通路の先。暇そうに突っ立っている人影が、僕たちの心を落ち着かせる。
 三人分の手数料を支払って、僕たちは地上へと帰還した。

 *

「なんか、初めて迷宮都市に来た時のことを思い出します」

 地上の雑踏を目にして、そんな言葉がカリンの口から飛び出した。

「どゆこと?」
「……私の故郷って、すっごい過疎の村だったんですけど。第六層みたいな。第五層は、まだ人がいたじゃないですか。だけど第六層は、人がすごく少なくて」

 どこか遠くを見る目で、そんなことを語り始めた。

「今、地上に出てきて。ああ、私って、こんな都会にいるんだって。ここで頑張るんだって。そう思っちゃいました」

 彼女なりの詩情、とでも言うのだろうか、僕にはよく分からなかった。
 ダリアはどう思ったんだろう。