>>459
使用するお題→『はなまる』『ホームビデオ』『天使ちゃん』『幼稚園児』『七夕』

【だから、笑顔を覚えてろ】(1/3)


「七夕までには、わたしは死んじゃうんだってさ」

 六月のある日。
 当たり前みたいな顔をして、病室の窓の外を眺めながら。
 幼馴染の女の子は、そんな風に口にした。

「……そっか」

 突然のことで、私はそんな莫迦みたいな答えしか言えなかった。気の効いた慰めとは

程遠い。
 いや、突然のことだったから、というわけでもないのかもしれない。
 だってずっとわかっていた。彼女だってそうだったのだろう。
 彼女を蝕む病気はずっと進行するばかりで、治療の見込みは万に一つもない。
 どう考えたって、彼女は死ぬ。それが遅いか早いか、それだけでしかなくて。

 だから私は驚けなかった。中学の制服は梅雨の湿り気にじめじめとして、
濡れたように重い。湿気と一緒に私の涙も吸い込んでしまったのだろうか。
本当ならドラマのようにわっと泣き出してすがりつきたいはずなのに、
一滴の涙だって私の乾いた目からは零れてきそうになかった。

「願い事をするチャンスさえくれないっていうんだから。神様って残酷だよね」
「どうかな。どうせ叶わない願いなら、そんなチャンス、ない方がマシじゃない?」
「それ、普通死にかけのシンユーに言う台詞? やっぱ知世(ちよ)って頭おかしい」

「かも。どんまい纏(まとい)。運が悪かったね、死ぬ前に見るのがこんなやばい幼馴染

の顔で。あの世で神様に文句言っていいよ」
「いや、むしろわたしは今あんたに文句を言いたい」

 そんなやり取りをして、病院着の纏はベッドの上で笑っていた。私は冷めたような
目つきのまま、ふざけた事を言って鼻を鳴らす。

 それでもあと一ヶ月もしないうちに。
 この幼馴染は、この世からいなくなるのだ。