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使用お題→『大好き』『スイカ』『お題スレ』『レゾンデートル』『イーノック』

【私信】(1/2)

 僕はお題スレを開いて閉じた。
「誰かなんか面白いこと書かないかなぁ……」
 お題を出してもらって短編小説を書く、匿名掲示板のスレッドだ。
 率直に言って過疎っているが、僕は毎日見に来ている。
 このスレが大好きだ、とか、これが僕のレゾンデートルだ、とか、そこまでは思っていないが、いつもなんとなく気になって、開いてしまうのだ。

 ピンポーン

 と、その時、玄関の呼び鈴が鳴る。誰だろう。宅配便か、近所の人か、何かの営業か宗教か。
「はい、お待たせしました」
「ドウモ、コンニチハ」
「あっ、イーノックさん。どうも、こんにちは」
 隣の家のイーノックさんだった。彼はイギリス人だ。グレーの瞳に高い鼻、僕より少しだけ年上の彼は、なんだか僕の、会ったことのない兄を思わせる。
「コレ、家庭菜園デ作ッタ、スイカ、デース。食ベテクダサーイ」
「おおっ、ありがとうございます。随分大きいですね」
「デッカクナッチャッタ、デース」
 両手で抱えられるかどうか、その大きさに僕がまごついていると、イーノックさんが、試しに持ってみろ、という風にスイカを差し出してくる。
 縦にはっきりと模様の入った、緑色の、大きなスイカ。
 僕は、それを受け取ろうと、両腕を伸ばす。
「ソンナ筋肉デ大丈夫カ?」
 そんなことをイーノックさんが言ってくる。彼はこのネタが大好きなのだ。
「大丈夫だ。問題ない」
「ウム。ハイ、ドウゾ」
「はい……うおっ、おもっ!」
 見た目通りの重さ、これは大丈夫だろうか。イーノックさんの顔がスイカの陰に隠れてしまう。
「確カニ渡シマシタ。デハ、マタ」
 そう言ってイーノックさんは帰ってしまった。僕はスイカの重さで身動きが取れない。
「どーすんだこれ…………んん?」
 僕が一人で途方に暮れていると、不意に、腕の中の重さがなくなった。
「あれっ? イーノックさん?」
 僕を助けるために戻ってきてくれたのだろうか。そう思って、スイカの向こうに目をやるが。
「はっ? えっ?」
 そこには誰もいなかった。そしてスイカはそれ自体で、空中に。
「……うっ、浮いてる!?」

 *

 僕の目の前、玄関に、スイカが浮かんでいる。意味不明な光景だ。
 上下左右から眺める。どんなトリックなのか分からないが、確かに浮いている。
「どーなってんだ……」
 なすすべなく眺めていると、突然、スイカの表面に切れ目が入る。水平に一直線、緑色の球体が、上下二つの半球に分かたれる。
 おお、と思って見ていると、その二つが、それぞれ上下にスライドする。ゆっくりと広がる、緑色に挟まれた空間。その中で、何かがくねくねと動いている……。
「……サ○エさん!? じゃない、イーノックさん……?」
 それは小さな人間だった。そしてその『人間』は、僕のよく知る人物にそっくりだった。
「イイエ、ワターシハ、イーノックサンデハ、アリマセーン。ワターシハ、宇宙人デース」
 大きなスイカから現れた、小さいイーノックさん。
 彼は、くねくねと踊りながら、そんなことを言ってきた。