>>673
スレ6→696と同じ世界の話、再びの供養枠で失礼します

使用お題→『用水路』『エクセル』『脳内』『同人誌』『シスター』

【今は昔の武勇伝】(1/3)

 用水路に何かが落ちていた。
「『ふたなりシスター快楽堕――だ、だち? 堕(だ)ち……――〜背徳の淫乱調教〜神様ごめんなさい、私、もう……』なんじゃこりゃ?」
 それはエロ本だった。いかに世間知らずの私でも、さすがに一目瞭然のエロ漫画だ。どうしてこんな所に落ちているのか気にはなったが、それよりも大事なことがある。
 この見るからに頭の悪そうなタイトルを目にした瞬間、私の脳内では灰色のニューロンが激しく発火を始めていた。シナプスを通過する電気信号が私のイマジネーションを形作る。
 時間にしてコンマ数秒、素晴らし過ぎる思い付き――これぞ正に天啓と言える――を得た私は、周囲に誰もいないのを確認してから、快哉(かいさい)の声を上げた。
「こっ……これだー! 神様ありがとう!!」

 *

 家に帰るや否や、私は自室のパソコンを起動した。手始めにブラウザを開いて、先ほど目にしたタイトルで検索する。
 フィルタリング? 私は検閲には反対だ。
 通販サイトらしきものが並ぶ。出版社のサイトも。感想みたいなのは引っ掛かってこない。とりあえず一番上のリンクを開いてみる。
「なるほど、これか」
 見覚えのあるキャラクター。何しろさっき見たばかりだからな! グロテスクなまでに誇張された人物。何やら刺激的な絵柄。これはなかなか忘れられないだろう。
「早苗ちゃんに似てるような気もするな。ふふふ、だがそんなことはどうでもいい」
 こちらもつい先刻、帰りのホームルームで一生懸命に話す姿を目にしたばかりの、担任の教師だ。ただ彼女はシスターではないので、実際言うほどは似ていない。
 作品のページから離れて、成人向けコーナーのトップを開き、新着一覧のリンクを探して開く。
「ふむふむ。思った通りだな」
 個性的なタイトルばかり。ここまでは予想通りだ。少し意外だったのは、これらの中に、例の『ふたなりシスター』が含まれていたことだ。
「新刊なのに、買って読んですぐ捨てるのか。お大尽だな」
 金持ちの考えることは分からない。
 続きを適当に眺める。大体の様子が分かったので、次は、今見ていた商業作品のコーナーから同人誌のコーナーへと移動する。
 こちらでも同様に新着を調べる。傾向の違いは感じられるものの、正直よく分からない。
「ま、いいだろ。それでだ」
 商業作品の方に戻って、新着一覧のページのソースを表示する。ここから作品のタイトルを切り出す。
「ごちゃごちゃだな。もっとシンプルにすれば、転送量だって抑えられそうなものを。だが、どんなソースであろうとも、所詮私の敵ではない!」
 さくっとスクリプトを書いて実行する。一瞬にして、タイトルだけの一覧が完成する。
「よし! 君に決めた!」
 エクセルを起動する。そしてタイトルの一覧を貼り付ける。
「大丈夫だ! 問題ない!」
 タイトルが入っているセルの隣に『LEN関数』の式を入力して、最後の行までドラッグする。これで各タイトルの文字数が分かる。
「そして頻度を…………『ピボットテーブル』!」
 文字数別にデータの個数を集計する。これで、何文字のタイトルが何件あるのかが分かる。
 最後にグラフを作って終わりだ。
「やった、完成だ! 『エロ漫画のタイトルの長さに関する研究』。なんて自由な研究なんだ! これが自由! 私は自由だ! 自由研究万歳!!」
 本当はまだ完成ではないが、私は興奮して叫びまくった。
「あおいー! うるさい!」
 母に怒られた。