お題:『樽』『さつまいも』『つりっくま』『ワタリガラス』『相棒』
【箱庭の探偵】(1/3)
ニ〇ニコで『つりっくま』をプレイしていた僕は、相棒が戻って来たのを確認すると座っていた酒樽から飛び降りた。
“ポイント”から離れた途端に手に持っていたスマホは接続が切れ、ただの万能電子装置に成り下がる。
いや、ネットが繋がらなっくなるってだけなんだけどね。
『ターゲットは市街地をテール河方面に向かってるぜ、お前の予想通りだったみたいだな! カケル!』
「……やっぱり、誘拐犯と繋がってたんだ。正直、予想は外れていて欲しかった」
とは言うものの、確信があったからこそのこの結果だ。半信半疑じゃ“見えなかった”だろうし。
僕、渡部 翔は、石畳にもアスファルトにも見える通りの道を駆けだした。僕の相棒でもあるワタリガラスのイブンは、バサバサと羽根をはばたかせながら、先導する様に上空を飛んで行く。
そう言えば、カラスに先導されたって神話は神武天皇だったけ? あれはワタリガラスじゃなくてヤタガラスだけども。
いつ見ても不思議な街並みだと思う。都内の繁華街の様にも閑散とした田舎道の様にも見える。
『シュレディンガーの箱庭』
誰が付けたのか、この世界はそう呼ばれている。何処でもありどこでも無い街。
“今は”ナーロッパじみた街並みを相棒のイブンに案内される形で僕はひた走る。
こうしなければ下手をすると辿り着けないからだ。
僕だって、相手の目的地がはっきりと分かって居るなら、目的地に辿り着けないなんて事は無い。
いや、はっきりと分かって居るのであれば“必ず”辿り着ける。
ここは、そう言う世界だ。
無限の可能性と不確実な現実が混じり合う『可能性』の世界。故に『シュレデインガーの箱庭』。
“僕”の認識では、何処に有るかはっきりとは分からないから、イブンに“目視”させ、さらにそのイブンを僕が“目視”する事で追跡が出来る様になる。
後は相手の出方次第。
目的地である『誘拐犯のアジト』がどこに有るかをハッキリと認識しているかどうかにかかっているんだけど、残念ながら、“彼”はアジトを知っているらしい。
確信を持てる程の証拠が手に入っているのか、誘拐犯と係わっているのでなければこうはいかない。
だけど、彼には証拠を集められるだけの有能さも伝手も無いから、つまりは後者の可能性しか無いって事だ。
「本当に、残念だ……」
『ん? 何?』
「いや、何でもない」
******
“いかにも”な赤レンガで造られた半地下の建物。随分とはっきりとした存在なのは、彼のイメージが固まっているのか、イメージの共有者が多いからなのか?
僕は、イブンが止まっている窓を見上げると、煉瓦壁に手を掛ける。窓までの距離は4m程。
僕はできる。僕ならできる。
そう念じながら、成功のイメージを頭に思い浮かべる。
次の瞬間、僕の体は窓を覗き込める所までよじ登っていた。
格子の嵌まった小さな窓から僕とイブンが頭を寄せて様子を伺う。
『ビンゴ!』
「だね」
薄暗い室内は座敷牢の様に成っていて、そこでは粗末な服を着せられた少年少女達が虚ろな目で、蒸かしたさつまいもだろうか? それをモソモソと食べている。