>>850
お題:最後の一文『もう何も見えない』+『斧』『錬金術師』『周年』『ソロキャンプ』

【フォッグマン】(1/3)
 焚火の火をぼんやりと眺める男の目の下にははっきりと分かる隈ができていた。
 既に四日近く不眠でソロキャンプをしている男の傍らには一振りの斧が。

「今日で最後だ。これで終わらせる……」

 ポツリと男が口にする。と、同時にキャンプをしている森の暗闇から、こんな山奥には似つかわしくないコートを着た怪人物がぬっと現れる。

「フォッグマン……」

 その人物を知っているのか、男は何処か憎々し気に怪人物を睨んだ。

 ******

 既視感……と言うのは誰にでもあるだろう。
 川岸 恭吾の場合は、それは常に“夢”という形で現れた。
 何かを行った、ふとした瞬間(あぁこれ、この間、夢で見たな)と思うのだ。

 恭吾が自分が殺される夢を見始めたのは半年ほど前の事だった。当初こそ、ただの夢だと思っていた恭吾だったが、自分が既視感を夢と言う形で見る事が有ること。そしてあまりにもくり返しにその夢を見る事で、ソレが所謂『予知夢』の類ではないかと考え始めた。

 そこで彼は、先ず、必ず自分を殺す相手の事を調べようと思い、夢の中でソイツを観察するところから始めたのである。

 夢の中のソイツは、必ずトレンチコートを纏いつば広のフェルト帽をかぶっていた。だが、その顔は輪郭の分からない曖昧な霧の様の物で、その中心に真っ赤な光が灯っただけの様な姿をしていたのだ。

 夢故の曖昧さかとも思った恭吾だったが、しかしコレはただの夢ではなく予知夢である。ならば、そう言った超常的な物なのではないかと思い直した恭吾は、トレンチコートや、フェルト帽、霧の様な身体、赤い瞳と言ったキーワードで、その正体を探って行った。

 そしてそれ等で見つけたモノが『フォッグマン』と言う存在だった。