戸田山和久『「科学的思考」のレッスン』(NHK出版新書)。
自分はちょっと勘違いしていて、「科学哲学」の入門書かと思っていたが、微妙に違っていて「科学リテラシー」の啓蒙書である。
もちろん科学哲学の成果にも基づいているが、科学哲学自体を詳しく検討しているわけではない。二部に分かれており、
第一部では、科学的思考の方法について基礎的なレクチャーを行い、第二部では、政治や社会と科学の関係、STSなどの話。
第一部第一章では、まず「科学が語る言葉」と「科学を語る言葉」を区別し、後者を「メタ科学的概念」とし、これを身につけることを第一部の課題としている。
さらに、「事実と理論」「科学と疑似科学」のような、白か黒かの二分法的思考を廃し、程度問題として考えることを勧める。
すなわち科学とはグレーゾーンの中で、より良い理論を目指してよりマシな方向に進歩していくものだということである。完全な白や完全な黒はありえない。
師匠の内井惣七氏と同様、ベイズ主義的な立場だろうか。著者は他の考え方は最初から排除しており、やや天下り的。
本当に「マトモな科学者」はみなそう考えるのだろうか?という疑問は残る。たとえば、白とグレーと黒という三分法で考える科学者もいるのではないか。
しかし著者は二分法でも三分法でもなく、連続スペクトル的な科学観に沿って議論を進めていく。
よって、疑似科学問題にしても「疑似科学」と断定するのではなく「疑似科学っぽい」とグレーな言い方をしている。正確さを期すがゆえに曖昧な言い方をしているわけだ。