>>717
中村の顔を一目でも見たかったのか。
母におねだりした水玉模様のワンピース姿の自分を見て欲し
かったのか。

彼女は中村を憎むことすらできず、もっと深く傷つき流血し、
生きる欲望を失い絶望していった。

そして、彼女は気が付いていた。
中村は、その時の彼女の厳しい状況下での逃避先対象であり、
中村を鏡にし、実は自分自身を見ていることを。
厳しい状況下でのほとんど唯一の希望の光として、中村との
関係にすがってみたが拒絶されてしまった。

彼女が言うところの、孤独と未熟という二十歳の原点にまた
戻ってしまった。
今度はより凄惨な孤独、より深い自己嫌悪をもたらす未熟の
自覚となった。
もはや孤独からの出発も、未熟の自覚からの旅立ちもできる
力は残っていなかった。