しかし、現在保持する核爆弾と近中距離弾道ミサイルは放棄しない。その結果、日本が北朝鮮の核ミサイルの脅威にさらされる。
このような事態を米国が黙認するならば、日米同盟の基盤を崩す事態に発展しかねない。北朝鮮の核をめぐる脅威が、
地政学的要因から日本と米国では異なることをトランプ氏に理解させる外交努力を日本は続けなくてはならない。

 署名式後の記者会見でトランプ氏は、日本人拉致問題について「(首脳会談で)取り上げた。安倍晋三首相の最重要課題でもあるからだ」と明言した。
「共同声明に盛り込まなかったが、これから協議していきたい」とも語った。拉致問題についてトランプ氏が直接、金正恩氏に伝えたことは日本の国益にかなう。
ただし、北朝鮮の狡猾(こうかつ)さに対する警戒心を緩めてはならない。トランプ氏が日本人拉致問題を提起したことを北朝鮮が利用する可能性がある。
北朝鮮は日本に拉致被害者に関する再調査を約束したが、いまだその回答を伝えておらず、次の米朝首脳会談の際、金正恩氏がトランプ氏に対して、
日本としては到底受け入れることができない内容の「回答」なる文書を「安倍晋三首相に渡してほしい」と言って預ける可能性があるからだ。
安倍首相はこのリスクを十分に認識している。

 それだから、安倍首相は12日、トランプ氏が拉致問題を取り上げたことに対し、首相官邸で記者団に「感謝したい」と述べ、
その上で「今後、日本としてこの問題で全力を尽くしていく。日本と北朝鮮との間で解決しなければならない問題だ」と重ねて強調したのである。