もちろん全然ありでしょう。
視点を増やすことでテーマを立体的に描くことができる。
また、複数の視点が相互補完的な役割を果たせば
いわゆる謎解きのような、読み手を飽きさせない効果も期待できる。
個人的には一人称と三人称が混在するものより好感が持てる。
そうやって相互補完的に描くのはどうも無粋に感じる。

難しいのは文体の変化のつけかたなのかもしれない。
「ぼく」、「おれ」、「わたし」、このくらいなら誰にでもできる。
文体とはすなわち「ものの見方」であり「考え方の筋道」だ。
例えば同じ部屋を見渡したとき、何を、どこから、どんな順番で
どんなふうに捉えていくか、人によってまるで異なる。
自分のなかのバリエーションをいくつか切り出す程度では、
結局のところ自己完結した狭い世界を描くにとどまるだろう。
そこに「まったくの他者」を感じさせるだけの技量がなければならない。