〜 サリー姫の目覚め 〜

「サリー姫よ・・・後ほど私の執務室に来るように。わかったね?」
銀河帝国帝王であり、サリーの父であるヘイドレク王は、そうつぶやいた。
そのままヘイドレクはサリーには目線もくれず、ソテーした子牛のフィレ肉をほおばる。
それは明らかに命令であった。父から娘への言葉ではなく、帝王が臣下の者へ下す命令。

いつごろからだろうか?父との間にこのような溝が出来たのは。
サリーはテーブルの向こうに座る父ヘイドレク王の姿を見つめる。
サリーが幼かったころの、あの優しかった父の面影はそこにはもうなかった。
厳しい表情を浮かべながら、無言で淡々と食事をするヘイドレク王。
それはもはやサリーの父としてのヘイドレクではなかった。
全銀河を統括する銀河帝国の、その第1387代銀河皇帝ヘイドレク43世・・・銀河最高の権力者の姿だった。

「・・・はい。分かりましたお父様」
冷めかけたスープの皿に目線を落とし、サリーは小さな声で答えた。
嫌な予感がする、彼女の小さな胸は不安で高鳴る。
その日の食事は殆ど味がしなかった・・・。


・・・時は5325世紀。宇宙世紀に修正すれば、現在は宇宙世紀2932世紀。
三十万年近く昔、銀河辺境の太陽系第三惑星から一人の英雄が生まれた。
その名をヘイドレク。のちに初代銀河皇帝ヘイドレク一世となる男だ。
現皇帝ヘイドレク43世は、初代ヘイドレク一世の再来と噂される名君である。

だが、サリーにとっては、ヘイドレク王は普通の父であった・・・そう、最近まではそうだったのだ。
だが最近、父ヘイドレク王との間に距離を感じるようになった。
かつては無かった心と心の間の溝を、ここ最近は感じ取れるようになった・・それは一体何なのだろう?