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よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ4
0001名無し物書き@推敲中?2012/01/29(日) 16:13:19.51
お約束
・前の投稿者が決めたお題で文章を書き、最後の行に次の投稿者のためにお題を示す。
・お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
・感想・批評・雑談は感想スレでどうぞ。

前スレ
よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ3
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/bookall/1284209458/

関連スレ
よくわからんお題で次の人がSS書くスレ 感想メモ
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/bun/1284739688/
0003名無し物書き@推敲中?2012/01/31(火) 23:46:48.67
「世界統一王者の憂鬱」

「お世話になりました」
大男はゆっくりと頭を下げた。
「いいえ。お大事にしてくださいね」
看護婦は男に微笑みかけると、病室を出て行った。
男は、格闘技の世界統一王者……チャンピオンだった。
トーナメント制の試合は熾烈を極め、彼は勝ち上がるたびに身体のどこかを故障していた。
特に優勝決定戦は熾烈を極め、ほんの少しの気合いの差で彼は勝利した。勝ち名乗りの後、彼は崩れる様にリングに倒れた。大きな声援に包まれながら。
そして彼はそのままここ、試合会場の側にある病院に緊急入院することになった。
「ゆっくり休めたかな?」
所属事務所の担当がチャンピオンに声をかける。
「退院おめでとう。それから、明日から練習のメニューは入れてあるから」
担当は、いたづらっぽい笑顔をチャンピオンに向けた。
「勘弁してくれよ。まだ全快ってわけじゃないんだから」
十カ所以上の骨折、全身打撲、顔を中心に裂傷も数えきれない程負っていた、チャンピオンは文字通り満身創痍だった。
「冗談だよ、もう少しゆっくり休んでから復帰してくれ。俺も応援しているから」
担当はチャンピオンに微笑みかけた。
「そういえば、賞金の件だけど」
「ああ、手続きはしておいたよ。賞金一千万円の半額を恵まれない子供達に寄付だっけな?」
「ありがとう。そういう事務は苦手でね」
チャンピオンははにかむ様に言った。
「それからチャンピオン、言いにくい事なんだけど、ここの治療費は……事務所からは出ないんだ」
担当は申し訳無さそうな顔をした。

つづく
0004名無し物書き@推敲中?2012/01/31(火) 23:47:11.08
「分かっているさ。今回の試合は事務所を通していないんだから、自己負担なのは仕方が無い」
「努力をしたんだけど、無理だった。悪いな。その代わりといっては何だけど、医者には最高の治療をお願いしておいたから」
「ははは。ありがとう。そういえば、そろそろ会計に行かないとな」
「俺は先に行って車を手配しておくよ。会計を済ませたら正面玄関に来てくれ。
 あと、賞金の残りの五百万円は口座に振り込んでおいたから、カードで支払いができるはずだ」
「何からなにまで済まないな」
担当に頭を下げると、チャンピオンは病室を出て行った。

平日だというのに、その病院の会計は混雑していた。
けれども、しばらくすると、チャンピオンの名前が呼ばれた。
「治療費は五百万円になります」
会計の女性はチャンピオンに事務的に告げた。
五百万か……子供達への寄付を足すと丁度賞金と同額だ。チャンピオンは、けれども考えた。差し引きゼロでも子供達の笑顔が残るなら、それで充分だ。
チャンピオンはカードを出した。
「これでお願いします」
事務員は手続きをして、チャンピオンに明細を渡した。
明細には五百二十五万円の数字が記載されていた。
「この二十五万円は?」
「消費税です」
差し引き二十五万円のマイナスか……チャンピオンは顔を曇らせると、少しだけ憂鬱な表情をした。

次のお題は「悪夢の語り部」でよろしく!
0005悪夢の語り部2012/02/03(金) 22:53:31.15
 時刻は午前0時を回っている。
 百物語の会合は詰めに入ろうとしていた。
 九十九人の怪談が終わり、部屋を赤々と照らしていたローソクは今や最後の一本を残すのみである。
「次はわしの番じゃな。ふぉっふぉっ」
 禿頭の老人が気味の悪い含み笑いを引きずって、蝋燭台を持ちながら半歩前に出た。
「ではぼちぼち、いくかな」
 今まさに老人の口から最後の怪談が紡がれようとしていた――その時である。
 突然、部屋の襖が乱暴に倒され、数人の武装集団がなだれ込んできた。
「いたぞ!」リーダーらしき男が老人を指し示すと、残りの工作兵が老人を取り押さえた。
「おやすみの時間だ」工作兵はそう言うと、老人の口に手榴弾を詰め込んだ。
 すぐにピンを抜き、もう一人が大型のフルフェイスを被せた。
 ボン、とフルフェイスの中で爆発音がして、老人は頭を傾け、人形のように全身の力を失った。
「君たちは何だ?」我に返った発起人の沢田が怒声をかませた。
「正義の味方、ということにでもしておいてくれ」
「それじゃ説明になってない。清順さん、死んでるじゃないか!」
「こいつは『悪夢の語り部』というコードネームを持つ心理テロリストだよ。実はなかなか尻尾がつかめなくてね、
土壇場まで君たちに説明しなかったのは謝る。確実に確保したかったんだ」
「冗談じゃねえぞ。殺すのが確保かい!」
「今の我々ではそれが最善の選択だよ。しかしターゲットが怪談を話し始めたら全てが終わっていた。
君ら全員血みどろの肉片と化しているところだ。死んだのが一人で良かった」
 武装集団は、淡々と老人の死体をビニールに封印すると、畳の血を拭き取って撤退した。
 後に九十九人のメンバーが茫然と取り残された。
「おい、どうする」沢田が誰にともなく訊いた。
「蝋燭はまだ一本残っているわ。やりましょうよ百物語」
 そう言ったのは、初回を話したゼロという銀髪の少女だった。
「まだ話が残っているのか?」
「ええ、こういうのはどうかな。悪夢の語り部はまだ死んでないのよ」
「というと?」
「武装した人たちは間違えたのよ。本当の悪夢の語り部は、わ、た、し――」
 そのとき最後の蝋燭が、武者震いしたかのように大きく揺らぎはじめた。

次のお題は「学園災」
0006悪夢の語り部2012/02/03(金) 23:34:06.32
寒い夜だった。そして寒い部屋に二人の男がいた。
椅子に座った男は目の前のスチール机の表面を
ぼんやりと眺め、立っている男はその男を眺めていた。

やがて朝が来て鳥の声が聞えた。それでも椅子に座った男は
姿勢一つ変えずスチール机を眺め続けた。
立ったままの男は仲間の別の男に連絡して交代してもらい、部屋を出ると
食事をしトイレに行った。お昼になって男がまた部屋に戻っても
椅子に座った男は机を眺め続けていた。

そしてまた寒い夜が来た。二人は会話を交わさず我慢比べのように
黙り続けた。立ったままの男は朝と同じように仲間を呼び
夕食をとるために部屋を出た。

「雪が降り始めたよ」
夕食をして戻った男は机を眺め続けている男にそういった。
それを聞いて座った男の肩が少し動いた。ゆっくりと立っている
男の方を向きしゃべり始めた。

「あの日もとても寒い日でした。私が子供の頃、秋田にいた頃です。
刑事さんはなまはげって知っていますか?」
そして男は悪夢のような事件を運命に翻弄された自分を語り始めた。
しかしそれはある意味、滑稽だった。
それが腹上死のせいなのか私は知らない。


>>5のお題で
0007学園災2012/02/05(日) 09:57:47.15
「修一?くん?…」
その声が僕を呼ぶ声だと気付く迄に、ずいぶんと時間が掛かった。
或いは、そう感じただけでさほど時間が経っていたわけでは無いのかもしれない。

振り返るとそこには麻里が酷く疲れきった表情をして立っていた。
「麻里…僕だ。修一だよ。それより…大丈夫なのか麻里? 他の皆はどうしてる?」
僕がそう言うと、麻里は今にも泣きそうな表情で首をブンブンと横に振った。
「皆もうだめみたい…」
そうして大粒の涙が麻里の頬を伝って床に落ちるのが見えた。
「多分、この場所で生き残っているのは、あたしと修一だけみたい…もうここにはね」
と麻里は言った。
僕は反射的に麻里の身体を抱きしめた。
麻里は僕の胸に顔を押し付けるようにして泣いていた。
しばらくそうしながら僕は、この場所からどうやれば脱出できるのか考えていた。

いくら慣れた学校の校舎内とはいえ、この尋常とは言い難い状況では
いささかいつもと勝手が違うのだ。
まして、学園祭の真っ最中だった今日は
廊下や教室の至るところに机や椅子が固まって置いてあり
その上には展示物や何かが飾られていた。
おそらく、その机や椅子が倒れて散乱し、展示物が至るところで割れて床に散らばっている筈だ。
そして、決して見たくはない、同級生や後輩達の
遺体。そしてそれを食い散らかすアイツら
そして歩き出す遺体。
そんな事を考えていると、首に激しい痛みを感じた。
麻里が僕の首筋に噛み付いていた


次は「ブラックバスのムニエル」
0008ブラックバスのムニエル2012/02/05(日) 12:37:23.72
 頭上から魚が降ってくる。それを左手でとって、素早く右手で口から釣り針を外す。左手のスナップを利かせてそれを左の方へと投げる。
 また魚が降って来る。同じ事をする。また降って来る。同じ事をする。一生、多分、これだ。嫌になるほど広い仕事場だ。左の方には調理台があるらしい。確認したことはない。そんなことをしていたら、俺の周りは魚だらけになってしまう。
 この仕事を始めてもう一ヶ月くらい経つ。魚を左に投げる。給料は良い。一日中ずっとこれをやっていればいいだけだ。釣り針を外す。ブラックバスと言う魚らしい。魚をキャッチする。
 この魚は旨いのだろうか。そんなことをぼんやりと考える。けれど、仕事の規約に『魚に噛み付かない』と書いてあった。
「なぁ!」
 叫んでみる。
「なんだ!」
 左の方から叫び声が返ってくる。左に投げる。
「何やってんだお前!」
「ムニエルだ!」
 いつも同じ答えだ。ムニエル。ふざけている。何がムニエルだ。このブラックバスを、ムニエルに?
 頭上から明るい声が聞こえてくる。
「えーやだしゅう君!このさかなきもちわるい!なんていうの?」
「ブラックバスさ。こんな魚はあんまり美味しくないからね、この箱の中に入れてしまおう」
「きゃー!かっこいい!流石ぁ!」
「じゃあ、休憩所に戻ってご飯にしようか、ここは、ムニエルが美味しいらしいからね」
0010 忍法帖【Lv=14,xxxPT】 2012/02/05(日) 16:05:38.73


「テトラポッド殺人って何?」

「例えばある大きな事件があるとする。それ自体が凄く社会に影響を与える危険があると判断された場合、別のそれと同じレベルの事件を作り上げ、実行する事によって対象となる目的の事件の影響力を減衰、拡散させる。
これをテトラポッド効果におけるテトラポッド殺人って言うわけよ。」
「へーそうなんだ」
「いや違うね」
「え?」
「テトラポッド殺人って言うのはつまり人間の罪の事だな。大地から手を離してまで道具を使うことを求めた人間の愚かさ、動物本来のあるべき姿捨て不安定を選択した。
その行為を象徴的に言い表したのが君、「テトラポッド殺人」だよ」
「それはちょっと無理が……」
「どうして皆そう難しく考えるかな?」
「へ?」
「テトラポッド殺人って言うのはもうそのまんま、1984年に起きたテトラポッド殺人事件の事だよ。
なんでもテトラポッドを作っている会社を首になった社員が腹いせにその会社の社長を殺してその上からテトラポッドを落としたそうだよ。死因は絞殺だから正確には絞殺事件なんだけど、テトラポッドの印象が強くてね……」
「いやいや」
「それは違う」
「いや、この説が……」


「あーうるさい!」

そう叫び私はビルの屋上から飛び降りた。これで静かになる。
私から生まれた三人の人格、彼らを私自身が死ぬ事によって殺害する。テトラポッド殺人。

「全然上手くないな……」

まだ地面は遠い、もう少しましな話しを考えよう。

次題 「インスタント・カルマ」
0011テトラポッド殺人2012/02/05(日) 17:12:19.20
 テトラポッドを題材にした殺人ミステリーを書こうと、私は異形の構造体が積み重ねられている海岸に出向いてみた。
 「テトラポッド殺人事件」という古くさい題名が思い浮かんだが、あんなに大きなテトラポッドが凶器になるとは思えなかった。
 第一テトラポッドは商標登録されている。万が一映像化されることにでもなったら、そこでつっかえる場合があるかもしれない。
 でも「消波ブロック殺人事件」なんて題名はありえないだろう。
 あれこれと思案しながらテトラポッドの森の近辺を歩いていると、コンクリートの窮屈な迷宮に一組のアベックを見つけた。
接愛の最中らしいが、彼らは学生服を着ており、顔つきの幼さから中学生のようだった。女子のスカートが極端に短い。
これでは男子が貪り付くのも無理はなかろう。
 子供たちはこんな場所で愛し合うものなのか。私は彼らの様子を覗くことにした。
 周囲は暗くなった。二人がそれ以上の近接段階に入らないので、なんだ意外と冷静なんだなと、私は監視を止めようかと思った、その時である。
 地響きがした。テトラポッドの森が揺れている。
 私が「あっ」と叫ぶと同時に、幼いカップルの頭上に積み重ねられたテトラポッド数基が二人の真上に落ちた。
 潰れた二人はピクリとも動かない。そして私も動けなかった。
 小説で何度も人間の死に様を描いたが、これが惨死というものなのか。
(おい、死んだか)
 この声は、なんだ? 変な声が聞こえた。喋っているのは――やつら?
(ああ即死だ。俺様は生き物のこの行為が大嫌いでね。清々した)
(遺伝子を継ぐ生物に対する嫉妬か。うっかり動いてしまってバレたらどうする?)
(すまん。だがこれでまた静かになる。ここは俺たちの住み処だ)
 テトラポッドには四肢動物という意味があり、実に奇妙な形状をしている。しかし、人形のように魂が宿るなんて聞いたことがない。子供たちを媒介にしたポルターガイストか。いや待て、落ち着け。
 とにかく私は考えを中止した。奴らはまだ私に気づいてない。またこの現場を他人に気づかれるのもまずい。
 私は砂浜に何度も足を取られかけながら、その奇妙なものたちの居場所を離れていった。

遅刻ですが書いたので投下します。
0012インスタントカルマ2012/02/05(日) 18:22:42.67
「つまりね、世の中は全て上手くいくように、簡単にそして便利になっていくのよ。」
麻里はそう言いながら、グラスに残った氷で薄くなった
グレープフルーツジュースを、ストローの下品な音を立てて飲み干した。
「つまり、僕達は便利と引き換えにいろんな事を棄てたり、省いたりしてきたって事かな?」
僕はずっと麻里の顔を見続けながらそう言ってみた。
「そうなの。なんでもインスタントに変わっていくの。
インスタント味噌汁もそう、カップラーメンもそう。コーヒーだってそうでしょう?」
「でも、そうやってなんでもかんでもインスタントに変えていくといろんなところに不具合が出てくるのよ」
今日の麻里はやけに饒舌だった。
大抵麻里が饒舌になるのは、隠し事があったり
ごまかさならないといけない何かがある時だ。
「そうだね。インスタント・ラブなんてのもあるよね?」
僕はそう言って麻里の目をじっとみていた。
そこには深い森の奥の誰にも侵される事の無い、澄んで透き通った麻里の目はなかった。
「ばっかじゃないの?そんなの在るわけ無いじゃない、
ラブは愛。そんな簡単にできたり、替わりのきくものじゃないのよ」
そう言って席を立とうとした。
「そうだね、そんな事無いよね」
僕は麻里の前に「○○興信所」と書かれた薄い黄緑色の大きな封筒を差し出した。
つまり、これは、インスタント・ラブじゃ無くてインスタント・カルマって事だね。

僕は麻里にそう言って、お店の伝票を握りしめた。



次は「屋上の貯水タンク」
0013名無し物書き@推敲中?2012/02/08(水) 23:30:29.77
「もう逃げられないぞ猿人。大人しくそこを動くな」
警部がそう怒鳴ると、猿人はヒョイと貯水タンクがある台座に
飛び移りこちらを振り返った。
「ゲッッツゲッッツゲッッツ」
猿人は狂った人間が吹く笛のような声で叫びだした。
あるいは何匹もの猫の首をいっせいに絞めたような声
叫んでいるんじゃなく笑っているのかもしれない。その表情は人間のようで人間ではなかった。
身の毛が逆立つとはこのことだと僕は思った。
耳を閉じてしまいたかった。

「警部、いつでも撃つ準備が出来ています」
いつのまにか屋上にやってきた警部の部下の警察官が
拳銃を猿人に向けながら言った。銃身がネオンサインを受けて鈍く光る。ピカァ!

「ゲッッツゲッッツゲッッツ、ゲッッツゲッッツゲッッツ」
猿人は笑っているんだ。僕はそう確信した。その時だった。
「警部、貯水タンクが上がっていきます!」
まったく信じられなかった。貯水タンクは風船のように浮き始めたのだ。
そう、猿人は貯水タンクに偽装した気球を用意していたのだ。ああ何たる失態。

「ゲッッツゲッッツゲッッツ、ゲッッツゲッッツゲッッツ」
僕らはその貯水タンクが夜の都会の空へ消えていくのを恨めしげに見るだけだった。


次 怪人19面相


0014怪人19面相2012/02/09(木) 05:29:58.66
 朝、杏奈が、なかなか起きてこない息子を起こしにいくと、息子の三平は老人になっていた。
「三平、どうしてそんなしわくちゃのお爺さんになっちゃったの?」
 三平は九歳である。九歳の小さな体のまま、顔だけが別人のように老けていた。
「わしは三平ではない。三平の曾祖父の孫一じゃ」
 杏奈は怪訝そうに老化した息子を見た。孫一を名乗る三平は続けた。
「いいか杏奈、よく聞け。三平への投資を怠るではない。こやつは将来、かなりの大物になる。
今のうちにたっぷりと小遣いを与えるのじゃ。それからお風呂はまだ一緒に入ってあげるように」
「バカやってんじゃないわよ」
 杏奈は三平の老顔に手をかけ、事もあろうに彼の顔をベリベリと引きはがした。
 老顔の下に、元の三平の顔があった。
「ばれたか」
「あんな気持ちの悪い老人のお面なんてどこで拾ってきたのよ。とっとと学校に行きなさい。
それから小遣いの賃上げ交渉には応じませんからね。でも風呂は個人的興味で、まあ混浴してあげるわ」
 杏奈は老面をゴミ箱に捨ててキッチンへ戻っていった。

 その頃、怪人二十面相は七つ道具の入ったアタッシュケースの中を必死にかき回していた。
「おかしい。吾輩のコレクションの変装マスクが一つ足りん。どこだ、どこにいった?」

次は「裸獣死すべし」
0015裸獣死すべし2012/02/09(木) 21:15:08.50
その猫は、とても寒いと感じた。
回りの猫に聞けば、口を揃えて笑った。
通りすがりの黒猫に聞いた。
「お前には、フサフサな毛がないじゃないか」
吃驚して私は聞き返す。
「毛があれば、暖かいのか」
するとやってきたシャム猫は、フサフサな毛並みを自慢しながらこう言った。
「あら、貴方かわいそうね。でも近づかないで頂戴。失礼ですけど病気にしか見えませんわ」
「なんと、俺は病気だったのか?」
「え、ええ。タブン。無知な貴方は知らないでしょうけど」
シャム猫は目を逸らしながらホホホと笑った。
すると何かの声がした。
咄嗟に黒猫とシャム猫は逃げ去った。
寒さに身を縮めていた私は逃げ遅れてしまった。
取り囲む巨人。
私は、見上げるしかなかった。
「うあっ。この猫きもっ」
「うえー。毛が無いねー。スフィンクスだっけ?」
「そんなの知らないけど、触りたくないねコレ。いこーよ」
よく分からない事をわめいて行ってしまった。
取り残された私は、寒さを感じながら歩を進める。
0016裸獣死すべし2012/02/09(木) 21:15:52.15
年をとった白猫がゴミ箱の上で暖をとっていた。
「すみません」
私が声をかけると白猫は、
「おや?珍しい。始めて見る顔だな」
と、伸びをしながら言う。
「オレには、毛と言うものがないのですが、そのせいで寒いんですかね」
「ふむ。面白いことを言う。君は、私の顔見知りのどの猫よりも暖かいと思うのだが」
「いや、現にむっちゃ寒い。まじ寒いんですけど、そこ行っていいですか」
「うむ。太陽の光の加減といいベストポジションだからな。隣に来るといい」
「有難うございます。あったけー。でも風冷てぇ」
「人間の業だ仕方があるまいて」
「ヒト?の業ですか」
「うむ。君は、えーアジプト?だとかいう暖かい場所に生まれた猫なのだよ。こんな寒い所ではきつかろうて」
「おい。じーさん。さっき言ってた事とちがくねぇか」
白猫は、おもむろに立ち上がると塀へと飛び移り去っていった。
「ちょ、おまwww」
白猫の行った先を見てると目の前で音がした。
驚いて前を見れば、見慣れた”匂い”がした。
「ミーちゃんここに居たの?寒かったでしょ」
暖かい毛糸の手袋がオレを包む。
オレは、我慢ならず
「暖けぇwww」
と鳴いた。
「首輪で分かったよ。この首輪私が選んだ色だもんね」
0017裸獣死すべし2012/02/09(木) 21:16:17.48
見慣れた下僕は、よくわかない事を口にしながらコートのボタンを外した。
そして俺はその中に入れられる。
「うはwwまじ天国wwwあったけぇwww」
上二つ外されたコートの隙間からいつもよりも少し高い世界を見ながら、
温もりを体に染込ませた。
とその時、視界が暗転した。
少女が転んだのだ。
少女は、オレを潰さないように、両手をついた。
地面が見える。
俺の耳は、異音を捉えた。
この音は、だから俺は飛び出した。
十字路から車が近づいてきていた。
俺は、その車に向かって飛び上がった。
聞こえたのは、耳を劈く音。
体が痛い。
「ミーちゃん」
と言う声に一度だけ耳を動かしてやった。
車は、俺を避けようとして曲がり、少女の右横を通り止っていた。
降りてきた運転手は言った。
「悲しいけどコレ、”裸獣死すべし”なのよねー」
と。

次は「豪雪地帯」でお願いします。
0018名無し物書き@推敲中?2012/02/10(金) 00:52:55.80
「豪雪地帯」


雪が降っている。しんしんと、降り続いている。
僕はひたすらそれを眺めていた。
飽きることのない光景。
「ねえ、いつまでこうやっているの?」
僕のわがままに付き合ってくれている母親が、呆れたような声を出す。
「まだ、もっともっとだよ」
茶色かった地面はすっかり真っ白になっている。
そんなことある筈ない、とばかにしてきたクラスメイトを見返すには、もう少し降ってもらわないといけない。
「ばからしい、お母さんはもう疲れたわ」
「あ、待ってよ、あとちょっと!」
母親が呆れて作業を中断して出ていってしまった。
あとちょっとだったのに。


僕は製作途中のチョコレートケーキの前で途方にくれた。
あともう少しで、白く化粧を施した綺麗なケーキが出来上がったのに。
時計の針が0時を示し、二月十四日になったことを知らせた。




次のお題「毎朝起きると枕元にたまごが置いてある件」
0019名無し物書き@推敲中?2012/02/10(金) 11:29:21.79
「毎朝起きると枕元にたまごが置いてある件」

たまごだ。
見紛う事無くたまごだ。
どこからどう見てもたまごだ。
「たまごだ」
ぽつりと呟いてみても、たまごだ。
一体いつから置いてあるのか分からないたまごだ。
いや、昨日の朝にも置いてあった卵は、王様が食べてしまわれたはずだ。
王様とは誰だ?
たまごはここにある。
誰が置いていったものか、それはこの瞬間にもたまごであるという確信とともに存在している。
うーむ、たまごだ。

ガチャリ、と部屋の扉をあける何か。
立派な口ひげを蓄えた偉そうな誰か。
それはとても満足そうな顔で言った。

「おお、今朝も鶏が卵を産んだぞ」


次のお題「砂漠の砂場」
0020砂漠の砂場2012/02/10(金) 16:30:06.10
砂塵が舞う廃墟があった。
金属は錆付き、赤茶色の色を太陽に示していた。
まるで、己も早く焼きつき砂塵に帰りたいように我先にと歪な形を誇っていた。
その中を影を縫うように男が歩いている。
砂塵に削られ、ぼろぼろになった服と羽織っている事に意義を見出せないマントが力なくなびいていた。
男は思う。
熱い、あちい。
見渡す限り砂砂砂。
この歩く道路も大地との境界線上など砂の海に対しては存在感一つ見出せていなかった。
少し開けた場所に少年が座って何かをしているのが見えた。
男はゆっくりと少年に近づき声をかけた。
「よぉ。何してんだ」
少年は答えない。
ただ只管に砂を焼き付く砂を盛っていた。
喋るだけでも精一杯なこの世界で、男はイラつきを隠せなかった。
少年は、更に砂を盛り続けている。
男は、舌打ちをした。
イラつきは生命の浪費だ。
だが、その生命を使ってでも男は話しかける事に意義を見出したかった。
何故なら、奇跡的な確立で男は、生きている人にあったからだ。
例えソレが、子供でも生きていればお互いの生を確認し合えた筈だから、
だから、男のイラつきは募る。
少年は俯いたまま、砂を盛るだけ。
男の我慢は限界を超えて、盛られた土を踏みにじった。
0021砂漠の砂場2012/02/10(金) 16:30:47.34
どうだよ。と男は大人気なく笑った。
少年は、手を止めただけ。
顔を上げることはなかった。
男は、急に後悔の念を感じ、足をどかした。
「んだこりゃ」
そこには、黒くうごめくモノがいた。
屈んで見れば、蟻だった。
蟻が何かに群がっている。
咄嗟男は顔を離した。
眼だ。乾いていない新鮮な眼。
「すまねぇ・・誰かの墓だったのか」
男は、謝り少年の反応を見る。
少年は、また、砂を盛り始めた。
足を引いた先、少年がやっと顔を上げた。
光のない表情など作れないと訴えかける眼が男を写していた。
「砂場。砂場。砂場」
干からびた声を出しながら、少年は、盛った砂を中心に四角を指で書いた。
その一片が男の靴で防がれていた。
「お、おい。どうしたんだ」
男は、少年の変化にあわてふためいた。
男の靴に触れる少年の指先が離れた。
少年は立ち上がると
「いいいいいいいいいいいいいいい」
と叫んだ。
0022砂漠の砂場2012/02/10(金) 16:32:07.13
男は耳を塞いだ。
頭が割れるような感覚を得て、倒れこんだ。
日陰があった。
恵みの雨かと体が反応した。
空を見上げれば、あの少年が居た。
男から見れば、数十メートルはくだらない大きさで、男を太陽からさえぎっていた。
天から少年の声がする。
「砂場、砂場、砂場」
「お、おい。よせっ」
男は、のどの渇きを忘れ叫んだ。
少年が砂を盛ってくる。
熱い灼熱に焼けた砂を
男は走った。目の前にアレがあった。
男は、それを横目で見ながら灼熱の砂に覆われていった。
「そうか、あの目玉に入れば・・熱くは・・・」
男の目の前で、我先にと目玉の中に入ろうとしている蟻が見えた。
蟻は、人間だった。

次のお題「深夜の交差点 赤信号の場合」
0023深夜の交差点赤信号の場合2012/02/10(金) 19:30:36.72
この時間になるまで残業をしたのは実に久しぶりだ。
僕は駐車場に停めてあっるフォルクスワーゲン・ビートルに乗り込みカーラジオをつけた。
FENからはラバーソウルが流れて来た。靴の底みたいな音楽だ。
暫く車を走らせ細い路地から幹線道路への交差点で僕は赤信号につかまった。
僕は赤信号にうんざりしながら、ラバーソウルが終わるのを待った。
そして麻里の事を考えた。
僕は彼女との連絡を何ヵ月も絶っていた。
絶っていたというよりは、連絡をするタイミングを逃していたのだと思う。
そしているうちに連絡を取る意味が分からなくなっているのだ。
今の僕には彼女にしてあげる事はもう何も無いのだ。
今さら連絡をして何をしたらいいのかさえ分からないのだ。
しばらくしてFENはトーキングヘッズに変わっていた。
喋りかける頭
そしてカーラジオのスイッチを切った。
そして僕は交差点の赤信号を眺めていた。
その時いくらかの違和感を感じた。
そうだ、この赤信号はもう数分間も変わらないのだ。
僕は信号機に目を凝らすと、信号機のやや上に「夜間感応式」と書かれたプレートを見つけた。
そして、感応センサーは明後日の方向を向いていた。



次は「真面目にふざけた大人のROCK」で
0024名無し物書き@推敲中?2012/02/12(日) 11:27:01.54
「ロックは死んだ」
その夜、誰かがつぶやいた。
「ロックが死んだんだってさ」
そしてまた誰かが。
「良いやつだった」「うん死んだからじゃないけどさ」
街中が話題にし始めた頃、アンプがうなり始めた。
「ロックは死んだ!」「でも俺たちは生きている!」
アンプは別のアンプを共鳴させ音は増幅され街中に
響き始めた。それは街を破壊し始めた。
窓ガラスがわれ破裂したポンプから火が吹いた。
「今夜は眠らせねーぜえええええ」
体が燃えたままギターを持っている男がマイクに叫んだ。
彼の持っていたハーモニカが熱でグニャと曲がる。
「ふざけた振りしてえええええ」
街が燃えていた。美しく夜通し燃えていた。

次 春が来る前に
0025名無し物書き@推敲中?2012/02/12(日) 11:59:06.85
まだお互いの息が白く残る冬の終わり。
雪の溶け残る道路を二人並んで歩く。生憎、空は、鈍色の雲が押しつぶすように隠してしまっている。
「桜の落ちるってスピード秒速5cmらしいんだよ。なら、雪が降るスピードはどのくらいなんだろうね」
隣りのアイツがそんな乙女のようなロマンチックな事を言ったので、耳を疑った。
「おいおい、三時限目に早弁して、それだけでは飽き足らず、学食の裏メニューの王たるスタミナブルドック定食を貪ってたファンキー野郎が何しおらしい事言ってやがる。恥を知れよ」
少し早くなった鼓動をごまかすように、いつもの軽口で応じた。
そんな俺の心を知ってか知らずか、アイツは薄く微笑んでいる。
ちっ、俺の益荒男ポーカーフェイスを見破ってやがるか。さすがに小学校から同じ釜の飯を食ってきた奴は、他の連中とは一線を画す鋭さを持ってやがる。
「あんたって本当に分かりやすいね。顔にすぐ出るってクラスの連中もみんな言ってるよ」
「な、何を!! 貴様、デタラメ抜かすと叩き斬るぞ」
「おうおう、怖い怖い」
そういって少し先を行くアイツの背中を見て、何故か訳のわからない焦燥感に、俺は取って付けるように慌てて言った。
「多分一緒だろうよ」
「えっ?」
そういって振り返るアイツが、少し乱れた髪を整えながらこちらを振り返る。
「桜の落ちるスピードも、雪の降るスピードもさ」
「何を根拠に?」
「俺が言った事が全てなんだよ。俺がカラスの色を決めたら、カラスも俺色に染まるってこと。そういう事だ」
「あんたらしいわ。アホなのに妙に説得力があってさ」
そういって笑ったアイツの横顔を盗み見て、春が待ち遠しくなった。

次 ボードゲームとギャンブル
0026春が来る前に2012/02/12(日) 12:11:37.08
「今日の朝、-8℃だってさ…」
宏太は電気ストーブにかじり付いて隆にそう言った。
「なぁ…宏太。そろそろアレやっとかなきゃな」
「あぁ…アレな、そうだな…冬も寒いのは今だけだしな」
「しっかし、マジさみぃ〜、アレやるんなら早めに準備しとかねーとやべぇしな」
隆は物置小屋に向かって行った。
「隆、行動はやくね?今やんの?だりぃ〜しさみぃ〜…」
「……。」
隆は無言でスコップとバケツと炭を取り出した。
そして庭と呼べないような家の前のわずかなスペースにそれを並べた。
「宏太やるぞ!」
「うそ!マジ?やんの?」
「あぁ…まずここに穴を掘れ!」
「へ?穴?掘んの?なんで?」
「ウゼぇよ!早く掘れよ!」
宏太は面倒臭そうに穴をほった。
「こんなもんでよくね?」
隆はその穴の中を覗くと、2メートル程の深さがあった。
「そんなもんでいいよ。じゃ、埋めるぞ」
隆は宏太が中に居るのに、穴を埋め始めた。
そしてあっという間に穴は埋まった。
この地方では年に一度冬の間に人を1人生き埋めにして
人柱をたてないと春がやってこないのだ。
0027名無し物書き@推敲中?2012/02/12(日) 22:22:21.27
 メリーナは気がつくと、巨大なボードゲームの駒にされていた。
 しかし、ルーレットやサイコロによって移動するプレイヤーではなく、プレイヤーの相手をする脇役、つまりノン・プレイヤー・キャラクターのようであった。
 メリーナが定められたマスでじっと待っていると、スーツに身を包んだ男がやってきた。
 男は歩いてきたのではなく、なんと高級なビジネスチェアに座ったまま浮遊してきた。
「君だね。私の妻になるとかいう小娘は」
「小娘って何よ。私、あなたの妻になんかならないから」
「それは許されない。この巨大なボード上では、僕ぐらいの立場でないと個人の自由意思は認められない。君の役目はこのマスに辿りついたプレイヤーの配偶者になること。君は今から僕の妻だ。来たまえ」
「あなたの妻になったら何か得でもあるのかしら。大金持ちになれるの? それとも貧乏農場送り? どちらにしても夢がないわね。お金で幸福の尺度を測るだなんて」
「いや、妻は妻でも偽りの妻だよ。これから僕たちは夫婦を偽って特殊なスパイ活動に携わることになる。君はゲームの内容を聞いていなかったのか?」
 メリーナの目の色が変わった。
「へえ、で、報酬は何なの? あ、NPCにそんなのないか」
「報酬はあるさ。この作戦が成功すれば君は晴れて自由意思というものが与えられる。このちっぽけなマス目から飛び出し、自分の考えで動き回ることができるんだ」
「もし作戦が失敗したら?」
「死だ。もはや考えることもできなくなり、ゲーム上の小道具、たとえばコインとか遊戯紙幣に格下げされる」
「ギャンブルとしては面白いわね。そうこなくっちゃ。私、あなたの妻になる」
「OK。いいだろう。じゃあルーレットを回すよ」
 スーツの男は仮想現実に浮かび上がったルーレットに銀のボールを投げ入れた――

 ――あれから月日が流れ、メリーナは勝利に勝利を重ね、今やプレイヤーどころか、駒を動かす人間になっていた。
 メリーナは一人、スリルと冒険に明け暮れたボードゲームを見下ろして、スーツの男の駒に話しかけてみた。
「ねえ、私一人じゃつまらないわ。あなたも早く勝って人間になってちょうだいよ」
 男の駒は何も語らず、ただ同じポーズのままビジネスチェアに座り続けている。

   次は「任期なきトナカイ」
0028任期なきトナカイ2012/02/12(日) 23:57:13.53
「こんにちはルドルフ!君は今、何の仕事してるんだい?」
トナカイのキニーはルドルフに尋ねた。
「あぁ…キニーか。何って、随分おかしな事を聞くね?」
ルドルフはそう言って赤い鼻をぴくぴくさせた。
「そう?だって今暇でしょ?」
「暇?暇な事なんてないよ。毎日忙しいものさ」
「ふーん、だってもうクリスマスはとっくに終わったよ?
そのピカピカのお鼻は活躍しないんじゃないの?」
キニーはそう呟いてカレンダーをめくっていた。
「あぁ〜そう言う意味か…そりゃね、サンタを乗せた橇を引くのはね
1年に1日きりって契約になっているけどね…」
と言った後に大きな溜め息を吐いた。
随分疲れているのか、その溜め息はゲップのような酷い匂いがした。
「だいたいね、あのサンタって奴は本当に人使いっていうか、トナカイ使いがあらいんだよ。
クリスマスは1日かけて、何千、何万いや一億近い子ども達の家にプレゼントを運ばなきゃいけないし
休むどころか、ご飯だって食べれないんだよ…」
「それは知っているけど、じゃ、それ以外の日は?」
キニーはルドルフが少し気の毒に思った。
0029任期なきトナカイ2012/02/13(月) 00:02:54.08
「でもね、閏年だけは違うんだ。2月29日だけは
完全OFFなんだ!!今年だよ、もうすぐさ!その日だけは夜も寝れるし
晩御飯だって食べれるんだ」
「じゃその休みは何をするの?」
「大概寝て終わっちゃうね…でも、夜になるとつい起きちゃうね…びくってして起きちゃうんだ
習慣っていうか、体がねそうなってるんだ…」
「そうか…じゃ任期なんてあるようでないんだね?」
キニーはそう言ってルドルフの頭を撫でた。



0030名無し物書き@推敲中?2012/02/13(月) 00:05:48.12
あ、コピペミスって
真ん中が抜けた上に
消えてしまった…


次は 「大往生のツバメ」
0031大往生のツバメ2012/02/19(日) 00:22:52.49
「ねぇ、おかあさん。ツバメさんって何歳まで生きられるの?」
「どうしたのユキちゃん?」
「だって、まいとしあたしんちのおうちにきて赤ちゃんのツバメちゃんを生むでしょ?だから…」
ユキちゃんが顔を赤くしておかあさんに尋ねている。
「そうだね、毎年来てくれるよね。ユキちゃんはツバメ好きなの?」
「うん。好き」
ユキちゃんは窓の外に顔を向けた。
「だからね、いつも来てるツバメさんがずっとずっと来てくれるといいなぁ〜」「そう?そうよね。ずっと来てくれていっぱいのツバメちゃんが育ってくれるといいね」
おかあさんはそう言いながらユキちゃんをギュッと抱きしめた。
「ツバメさんは、きっといつまでも死なないで、ユキちゃんのお家にずっと来てくれるよ」
「ふ〜ん、そうか。いつまでも元気なんだね、よかった」
そう言うとユキちゃんはにっこりと微笑んでいた。
「そうだよ、だからユキちゃんも毎年ツバメさんに会えるようにもう寝よっか」
おかあさんはユキちゃんにそう言って、電気を常夜灯に切り替えた。


あれから何年がたったのだろうか?
ツバメは今年もユキちゃんの家に巣を作り、新しいツバメを巣だたせている。
でも、ユキちゃんはもう居ない。
ツバメ達が大往生する事を見届ける事もなく旅立ってしまった。




次 「2日目のトンカツ」
0032名無し物書き@推敲中?2012/02/19(日) 07:40:09.61
いつだって、トンカツなんて嫌いだった。台所から、油が跳ねる音が聞こえるたびに私は震えた。
そう。父が帰ってこない夜、母は決まってトンカツを揚げるのだ。
「もうトンカツは嫌」
私が言うと、
「でも、お父さんの好物だから」
と母は虚ろな顔して微笑むだけ。
私はトンカツ以上に、次の日の朝、帰ってくる父にまとわりついている母とは違う女の化粧や香水の匂いが嫌だった。
でも「もう媚の塊みたいなその女の匂いは嫌」と父に言えるほど、私は子供ではなかった。
その匂いが示す事実を、もちろん私は悟っているのだ。
父は毎回、母の揚げたトンカツなんかには気がつかない。だから私は朝、手付かずで残っているトンカツを、母が気がつく前に食べてしまうことにしている。
2日目のトンカツ。肉が固くて、衣は既に萎びてる。寝起きの胃に、ジワジワと重い肉の塊がたまってく異物感に、私は毎回泣いてしまうのだ。
肉の塊。この重さを、父も母も、きっと知らない。
次「春にみた花火」
0033名無し物書き@推敲中?2012/02/19(日) 16:28:05.17
その墓地に植わっている桜は私が中学生の頃、学校への近道を
探しているときに見つけたものだった。
見つけた――というほどの事ではないかもしれない。それでも
ある晴れた春の午後、誰もいない墓地に咲いてる満開の桜を想像してみて欲しい。
それは綺麗であって不思議なものだった。この世のものとは思えなかった。
きっと墓地という場所に咲いていたかもしれない。「桜の下には死体が埋まっている」
有名なこの言葉を知っていたかもしれない。
春になるとあの場所を思い出す。時々どうなっているんだろうと思い出す。桜が散る頃には
きっと花火のような景色が見れるだろう。誰も見ていない場所で死者のためだけに
打ち上げられる花火だ。美しく静かに打ち上げられる。


次 いつのまにか恋人になっていた
0034いつのまにか恋人になっていた2012/02/19(日) 21:58:19.31
いつのまにか恋人になっていた

――そんなわけで僕たちは、いつのまにか恋人になっていた。
遺(ゆい)はいついかなる時も僕につきまとう。
僕には拒否権などない。
遺はいつも一方的だ。
「ねえエッチしよっか」
「ここは人通りだよ。できるわけない」
「私は平気だよ。人がいるほうが興奮するし」
「君は人には見えない存在だからいいだろう。だが僕はどうなるんだ。一人で燃えまくってるところを大衆に晒すんだぞ」
遺は僕にしか見えない。幽霊という言葉が適切なのだろうか。僕だけが遺を見て、そして触れることができる。遺はそんな存在だった。
「ダメ。私もう我慢できない。光太朗、エッチしようよ!」
「お願いだからここでだけは勘弁してくれ、後で何でもするから」
「何でも? 本当に? 遺の全身をぺろぺろしてくれる?」
「光太朗、嘘つかない。唾液が涸れるまで舐め尽くすよ」僕は片手を上げて宣誓した。
これだけでも他人が見れば、変に思うだろう。ああ、なんてこった。
結局僕たちはハンバーガー店の清掃の行き届いたトイレ内ですることになった。
遺の制服が溶けるように消え落ちて、光り輝く裸身が僕の目に飛び込んでくる。
「いいよ、どこからでも、来て」
「わかった。思う存分に貪るからね」
僕もその気になっていた。目映い少女の体に顔を埋めていく。相手に実体がないから、僕の顔は、艶めかしいくらいに深く、彼女の腹の中に食い込んでいくのだった――

三日経った。光太朗は警察に逮捕された。
「君、拾得物の横領だよ。いや電脳機器への不正アクセスのほうが重いかな」
警察官はそう言うと、光太朗の耳にかかっている機器を取り外した。
途端に光太朗は目を覚ました。遺の存在がかき消え、ハッキリした現実が蘇る。
「確かこれ、ゴーストラバーっていう機械だよね。小さいが高価な機械だ。これを付けると仮想の異性が現れていろいろとしてくれるんだろ。
君は四日前、これを秋葉原で拾った。落とし主はGPSをオンにしていたんだよ。だから探すのは簡単だ。お疲れさん。楽しんだかい?」

次「学生大戦争」
0035名無し物書き@推敲中?2012/02/26(日) 21:36:24.84
ここに一枚の写真がある。色褪せたカラーの写真で僕が親のアルバムの中でしか
見たことが無いような写真。
そこには笑っている男と女が写っている。おそらくは大学の教室で撮られたものなのだろう。

黒板の横に横断幕が張ってあって「粉砕」と書かれている。
きっと学生運動のときに撮られた一枚なのだろう。僕はそれをアパートの自転車置き場見つけた。
アパートを引っ越した持ち主が落としたのかもしれない。それとも何かの資料なのかもしれない。

僕は写真を発見した翌日、誰も拾わないのでとりあえず保管しておこうと拾っておいた。
それは不思議な重みを持っている。歴史の重み、込められた情熱、人生。
部屋の空間が捻じ曲がり、僕はタイムスリップする。遠くで声が聞え、機動隊の車両の音がする。
僕に語りかける。「時代はね巡るんだよ」と。それは本当だろうか? 

少しずつ正気を失っていく僕。それは悪い感覚ではなかった。リアルな映画を見ている感じだ。
「君が呼んだんだよ。僕を」何かが語りかける。僕は誰だと問いかけるが声はしない。
夜の冬の終わりの音がするだけだ。「正気を失っていくんだよ。少しずつ。でも良いことなんだ」

僕は遠くで春の芽が弾けるのを感じる。狂って行くのは怖い。恐ろしいほど。
抗いようが無いものでも僕は抗うしかない。助けてくれと叫ぶ。それが誰かに届くように。

次 祈りとともに
0036名無し物書き@推敲中?2012/02/26(日) 22:14:24.42
「祈りとともに 」

 第一ポリス「ツイッター」から、科学実験をメインに行う第二ポリス「ケプラー」への
移住は着々と進んでいた。2006年以降、そうとは知らずに発明された第一ポリス「ツイッ
ター」は、地球上の人類を巻き込んで、拡大に拡大を繰り返した。
 西暦3000年の今では、「ツイッター」は人類とボットが織りなす新しい集合知として認
識されている。2100年ごろ、ポリスへの「移入」の時代が終わると、市民たちは現実世界
から独立した一個の人工生命になった。それは困難を伴ったが、正しい判断だったのだろう。
 市民はアイコンと無数のゲシュタルトで装飾され、望めばその人の発言履歴(ツイート)
を閲覧することも可能だった。そして何より、ポリス「ツイッター」には物理法則は存
在しなかった。観境から観境へのジャンプ。インデックスの自動参照。必要な情報のダウ
ンロード。自分自身のスナップショット。他の市民を傷付けない限りにおいては、文字通
りあらゆることが可能だった。
0037名無し物書き@推敲中?2012/02/26(日) 22:15:08.26
 そこが、居心地が悪いということは、決してない。1000年近くの実験の末、ポリスの内部
では文化的繁栄が起こっていた。ボットたちはあらゆる言語を理解し、ポリス住人はボッ
トに投票券が無いのは違法だとさえ主張するほどだった。
 そんな中、僕は第二ポリス「ケプラー」への移住を決めた。友達に相談しても、本気な
の? という答えが返ってくるだけだった。オーケー。僕はイカれている。人工生命の圧
縮ソフトウェアに手を加えて、自分の最低限のアイデンティティを残して、データを削減
させる。
 「ケプラー」までは10光年ある。10年後にも「ケプラー」は存在しているし、パンスヘ
ルミア計画もずいぶんと進行しているに違いない。異種生命体とのファーストコンタクト。
リアルタイムでしか得られない情報を求めての、移住と冒険。僕はケプラーに到着した
直後、パンスヘルミア計画に志願した。
 パンスヘルミア計画で、別の星に生命の痕跡が見つかるまで、僕というソフトウェアは
フリーズさせられる。それは100光年だろうか。1000光年だろうか。それとも僕はフリー
ズされたまま永久に起こされることはないのだろうか。人工生命にとって、それは形式的
なことだが、僕はベッドに横たわり、目を閉じる。自分は必ず目覚めるのだという、かす
かな祈りとともに。

次 「死、眠り、そして風呂」
0038名無し物書き@推敲中?2012/03/03(土) 01:25:05.20
お風呂が好きだ。真夜中、マンションの窓を開け風呂場のドアを開ける。
風が入ってくる。春の匂い。夏の闇の怪しげな匂い。秋の匂い。
明かりを消して頭まで湯船に浸かる。ここは胎内だと思う。私は胎児。

時間の感覚も空間の感覚も無い。ただお湯のやさしい揺らぎに漂う時刻。
生もないし死さえもない。ここは宇宙の果てなのかもしれない。あるいは宇宙そのもの。
どこかでママの声がする。ママのママの声もする。そしてそのママの。

私はお腹の中にいる命に声をかける。
ハローハロー私がママですよ。と。私は疲れすぎてるかもしれない。
誰も彼も忙しすぎるのだ。

次 「違います。落ちてたんです」
0039違います。落ちてたんです2012/03/04(日) 09:58:36.70
「違います。落ちてたんです」
 法子は訴えたが、派出所にいた警官は聞き入れてはくれなかった。
「嘘は困るねえ。この機械、見たことないけど、この世界の物じゃないだろう? そんなご大層なものがそうやすやすと落ちているワケがない」
「じゃあ何だというんですか」
「ズバリ! これは君が元々所持していたものだ。そして君もこの世界の人間じゃない。そうだね」
「馬鹿馬鹿しい。離してください。私はもう行きます」
「そうはいかん。君は不審者だ。早急な取り調べが必要だな」
「ざけんじゃねぇ! とっとと汚らしい手を離しやがれ!」法子は逆上してつい地が出てしまった。
「貴様、本官を侮辱する気か……」
 警官はニューナンブM60を取り出し、法子の後ろから片手を回して彼女を捕まえ、こめかみに銃口を突きつけた。
 派出所内で、ぱんと、しょぼい音がした。
「わははは、やっちまったよ。警察官、取調中に若い女を射殺かあ、わははは!」
 脳髄を撃ち抜かれた法子の死体を踏み越えて、警官は今度は拳銃を逆に向けて、銃口を自分の喉に挿入した。
 また、ぱんと音がした。尖った鉛の弾丸が一瞬で警官の延髄を破壊した。警官は法子に折り重なるようにして倒れた。
 法子の持ち込んだ機械から作動音がした。どことなく頭蓋骨に似た輪郭のそれは、眼窟の位置にあるランプをチカチカと点滅させ、怪しげな情報を行き来させはじめた。
(人類の女性体と男性体を確保、命令系統のダウンロードを開始する……)
 処理が完了後、まもなく男女の死体がむくりと起きだした。
「もうちょっとうまく撃ってよ。脳の損傷が大きくて体がうまく動かない」と法子の蘇生体が愚痴を言った。
「遠隔での生体操作には限界がある。文句を言うな。これで三日は持つ。上出来な部類だ」と警官のゾンビが答える。
 二人は早急に化粧を施し、頭部の傷口を隠した。
「おまえ結構美人だな」
「やめてよ。しませんからねセックスなんか」
「人類観察のいい機会なんだがなあ」
 髪を撫でようとする警官を振り解いて、法子は骸骨の機械を、持ってきた鞄に詰め直した。
「さあ行くわよ。あと三日でけりを付けるわ」
「ガッテン承知之助」
 二人の蘇生体は、惨劇のあった派出所を後にして、いずこともなく立ち去った。

次は「裏切った焼死体」
0040名無し2012/03/05(月) 00:25:31.35

「どうだ、」
「まて、いま火をつける」

横たえられた私の体に火が近づく。
遠のく意識の中、男の下卑た声が聞こえてくる。

「おい、こいつのガキはどうする」
「は、引きづり出してとっておけ。後で高く売れる」
「お前もひでぇ男だな」

本当にひどい人、私がどんな思いでこの子を身籠ったか知りもしないで。
生まれてすぐ故郷を追われ、放浪し、やっと出会えた夫には道半ばで先立たれた。
それでもお腹の子のために、と思いここまで来たのに。

でも、いい気味だわ。

私はマス。なのに、あなた達サケだと勘違いして大喜びなんかしちゃって。
私の坊や達はどんなに醤油につけたって、決してイクラより高い値段で売れないんだから。
教えてあげたいけど、もう体に火がついてるもの、無理よ。ごめんなさいね。

次は「他人の帽子」
0041まっちゃこーひー2012/03/05(月) 22:08:39.42
「あ、なに、その帽子。どっかの野球チームの?」
 友人の真帆は、私を。いや、私の持っている、赤いロゴが刺繍された白の帽子を茶色の瞳にうつしながら、不思議そうにたずねた。
「ん……。これは確か、誰かに貰ったんだ」
 確かね。と、はじめに言った言葉をもう一度繰り返し、記憶の曖昧さを強調した。
 誰かって、誰? と、真帆が私に聞く。私が何のために『誰かに』と。『確か』と言ったのかを理解していないようだ。
「覚えていないよ。……んー」
 何とか思いだそうと、私はうなり始めた。そのとき、――ある光景をふと思い出した。
 中学一、二年生くらいの男の子が、土に汚れた、野球部のユニホームを着て、グラウンドの隅のほうでボールを投げている光景だ。
 しかし思い出せたその光景に、その男の子の顔はうつっていない。
 その背中からは、もう二度と会えないような寂しさがみえた。もう、その男の子はどこにもいない。そういう感覚を……。
 でも、その男の子は野球が大好きで、どこかのチームの大ファンだったこと。その男の子と私は仲が良かったことは、何となく覚えている。
 私とその子は友達……だったかな。でも、もう覚えていないんだ。大した仲じゃなかったんだろう。
「思い出せないや。まあいっか。これから捨てるつもりだったんだから」
 私の予想では、その男の子と私は友達だったけど、その男の子は事故か何かで死んじゃったんだ。ああ、そんな子が、いたような。
 でも死んじゃったんだ。生きていないんだから、もう友達という関係は失われているだろう。他人だよ。
 他人がくれた帽子、か……。


次は、「ノートと黒板」で。
0042名無し物書き@推敲中?2012/03/06(火) 23:46:48.90
キーンコーンカーン…1時間目が始まると同時に、私は青くなった。
ない。ない。ない。いくら探してもない。国語のノートがないのだ。
私は今日のノート委員だった。皆やったことあると思うけど、ノート委員が
ノートに書いた内容が、そのまま教師の腕の動きになって、黒板に描かれるのだ。
ノート委員のノートがないということは、板書ができないということ。まずい!
と、国語の高橋はすらすらと板書を始めた。あれ? なんで? 戸惑うまもなく、
私の顔はさらに濃く、深く青くなる。もう藍になる。高橋の腕が止まった。
不機嫌そうな、微妙に戸惑った顔で振り返る。
「おい、山田、まじめにやれ!」
私は顔面を青黒く(多分)して、ぼこぼこ泡を吹いた。本当に吹いた。
板書の内容は、板書の内容は、『タカハシ結婚して!』だったのだ。
「あ、あ、ああの、私、きょうノート忘れ……ぼこぼこ」
「ああん? そうなら早く言え。職員室に予備がある……ん、じゃこの板書は何だ」
と、高橋の腕が踊り、『ノーといったら、あんたを殺して私は出家する』と追記する。
教室がざわついた。「おいおい、物騒だな……」高橋の声、私の意識、何がもう
どうなってんの。と、失神しかけた視界の隅に、廊下の窓から教室を覗き込む
保健婦富岡35±5歳独身の姿が見えた。そしてその手には私のノートが!
「うぎゃおえー!」私は思わず奇声を発して廊下の窓に突進した。窓際席の
中本君と郡山さんが椅子ごと倒れる。富岡が驚いてのけぞった。私は窓を
バシャンと開き、廊下に立つ35±5歳に掴みかかる。
「ちょてっちょ返しなさいよこの毒婦!」ノートを奪い返す。一番新しいページを
ひらくと、あれ? ない。さっきの文言は書かれていない。
私は振り返った。高橋は何か叫びながら『呪ってやる! 呪ってやる!』とか
板書している。あーもう何なの。学校のナナフシ? カメムシ?
「ノーと言って先生! 山田なんかになびかないで!」シンパの和美が騒いでいる。
失礼な! でも私はノート委員。ノーと言うならノート委員よ。
「センセ、お茶目はそこまで!」富岡の声に高橋の腕が止まる。センセ、ノートを忘れた
私をかばって、ギャグで場を濁してくれていたのだ。Oh、ナイスガイ!
「あたし出家しますね」私は退学した。

次「テポドン料理」
0043名無し物書き@推敲中?2012/03/11(日) 21:17:49.23
「テポドーン」
そのファミレスの新入りアルバイトは出来たばかりのハンバーグ定食を
壁に向かって投げつけた。ソースが壁に散り、付け合せの野菜とハンバーグが
そばで食べていた子供の顔にかかった。子供が泣き始めた。

「ドーンドーン。テポドーン」
新入りアルバイトは狂っていた。忙しすぎたためだ。前の日の朝の七時から働き始め
次の日の夜八時だった。食事もとらず満足にトイレにもいけなかった。
彼が病気だったせいではない。そこは信じて欲しい。

「テッポドドドドドドドドドドッ」
彼は食事を取っていた五人家族のテーブルに上がるとダンスを始めた。
「ドンドンドンドンドンドン!!」
その席に座っていたのは、いわゆるDQNだった。DQNの父ちゃんが立ち上がった。
静まり返った店内がいっそう静まり返った。DQN父ちゃんは店内でサングラスをしていた。
無精ひげが顔した半分を覆っていた。

「ひえええええええええええ」
DQN父ちゃんはテーブルに載っていた新入りアルバイトのひざにタックルすると
新入りアルバイトは滑った。そして食べかけのシフォンケーキの上にしりもちをついた。
シフォンケーキはDQN父ちゃんの好物だった。

「ちがああああああう。どけえええええええええ」
DQN父ちゃんが踊り始めた。


「警部。この料理見てください。食べ物を粗末にして」
「うん、これはテポドン料理と言うのだよ」
警部が朝日を睨みそう言った。


次 「オナニー宣言」
0044オナニー宣言2012/03/12(月) 03:55:38.05
 男は真剣な眼差しで女を見つめた。二人の横には夫婦用の布団が敷いてあり、その中には一匹の三毛猫がぬくまっている。
 だが三毛猫は今回どうでもいい。問題は二人のほうだ。
「お前を嫁にもらう前に言っておきたいことがある」彼は春樹。
「はい」うつむいて頷いたのは、広子。古風な女性のようだ。
 二人は既に婚姻を果たしているが、本当の夫婦になるのはやはり初夜、そのときであろう。
 古びた旅館の柱時計は十一時を過ぎている。今まさに二人は夫婦になる寸前にあった。
「何でも言ってくださいまし」
「うむ」春樹は腕組みをして大きく頷いた。「俺は浮気はしない」
「はい、うれしゅうございます」
「本当に浮気はしない」
「心より信じております」
「だが――」
 次の言葉は広子を驚かせた。
「お前と、セックスもしない」
「え?」広子は顔を上げて春樹を見た。新婚早々セックスレス宣言……?
 参考までに二人の年齢を述べておこう。春樹は30歳、広子は26歳であった。心身ともに健康であり、子供を作るのに何ら支障はない。
 経済的にも一人くらいなら増えても構わない。また、仮に子供を作る意志が春樹になくても、広子は十分に魅力的な女性であった。
「俺は、オナニーが大好きなのだ」
「オナニー……ですか?」広子の表情は曇らざるを得なかった。わが夫は、何を言いだすのか。
「自慰は性交より価値が低い行為に思われがちだが、それは違う。快楽を追求した者にとって、自慰に勝る快感はない」
「そ、そうですか」
「性交など単なる作業だ。あれは一種の仕事と言ってもいい。俺は夜、家に帰ってまで仕事をする気はさらさらない。第一、性交中は広子の体をよく見ることができないではないか」
 広子はだんだん頭の中が白くなっていった。それを知ってか知らずか、春樹は構わずに続けた。
「生々しいお前の体を、離れた所からじっくり視姦しつつ、自慰に耽る。それが私の理想の夫婦生活だ。何か文句あるかね?」
「いえ……」

 翌朝、春樹が目を覚ますと、布団の上に三毛猫が乗っていた。猫一匹しかいなかった。
「広子、どこだ」
 妻の姿はなく、持ち物もなくなっていた。
 当然である。

次は「保健室に入らないでください」でお願いします
0045保健室に入らないでください2012/03/12(月) 10:46:21.52
――立ち入り禁止――
真っ赤なマーカーペンで、真っ白なコピー用紙にそう書かれていた。
「汚ねえ字……」
誰かの手で立ち入り禁止になった場所は保健室。少年はその張り紙を見てため息をついた。どうやら病気やけがではなく、自主休憩に来たようである。
普段、養護教諭が不在の時は、かわいらしいリスの描かれたプレートに『せんせいはでかけています』と貼られているはずだ。だとしたら、いたずらか何かだろうか。
遠くで、始業のチャイムが聞こえる。もう教室に戻っても、遅刻になるだろう。
「センセー」
そういいながら引き戸に手をかけて力を込めると、あっけなく開いた。少年はまたため息をつき、保健室に足を踏み入れた。
「保健室に入らないでください」
彼の目の前には一人の少女。小学生くらいだろうか。身に着けているのは少年と同じ学校の制服だ。
「は?」
「張り紙が見えませんでしたか」
困惑する少年になおも彼女は続ける。その表情はまるで機械のようだ。
「あーあの紙、アンタが書いたのか? にしても――」
「保健室に入らないでください」
少年の言葉を遮って、またしても少女はそう言った。
「……まあいいけど、センセーは?」
少女は答えずに、少年の横を通り過ぎて扉を閉めた。振り向いて彼女は言う。
「あなたは私のおねがいを聞きませんでした。なので閉じ込めます」
終業を知らせるチャイムは、まだ鳴らない。

次→透明な魚
0046透明な魚2012/03/12(月) 22:40:03.84
「みんなに伝えたいことがあるんだよ!」と屋上で叫んでいる男がいた。みんな彼が見えていないのか、ただ一人気付いている僕の横を通り過ぎて行く。
男は無駄に笑顔だった。「狂喜」といえるような表情で叫んでいる。僕はただ、その男を下から見上げている。僕と同じ高校生だろうか。それにここは学
校だ。僕が通う学校だ。その屋上で彼は叫んでいる。僕は彼を知らない。あんな人間見たことない。ここの生徒じゃないだろう。でも、ここの制服を着て
いる。
「みんな!よく見とけよ!」と叫ぶと制服を脱ぎだした。制服だけに限らず下着まで脱ぎだした。男は全裸になった。しかし、みんな、彼の叫びや姿に
見向きもしない。
「俺は透明な魚を見に行くんだ!きっと綺麗なはずさ!俺は透明な魚を見に行くんだ!」
男はそう叫ぶと、屋上から飛び降りた。まるで空を飛ぶかのように。男は飛んで落ちていく間も笑っていた。
迫り来る地面。きっと硬いはず。この地面は僕の脳を喰らい尽くすのだろう。でも、大丈夫さ。僕は透明な魚が見れるんだ。透明な魚を。
あれ?なんで僕は落ちてるんだ?さっき僕が見ていたのは落ちて行く男のはず。空じゃない。地面でもない。これはなんだ?これはなんだ?死ぬのか?
なんで裸なんだ?でも、まぁ、いっか。僕は透明な魚を見に行くんだから。
透明な魚を。

次は「はいからはくち」です。
0047はいからはくち2012/03/15(木) 00:16:52.04
「いててて」
俺は目をさました。どうしたんだ。殴られたのか。うむ。ガツンとやられた。
「気づいたようね。バカ」と夏希が、横たわる俺を頭上から俺を見下ろして言った。
「あんたが悪いのよ。あんたが動揺して暴れ出すから、こうするしかなかったの」
「何も殴りつけて気絶させることはないだろう!」
「スキンシップよ。お許しになって」
この暴力女。俺の人生の暗転した一瞬を返せ。
「それより問題はどうやってここを抜け出すかだわ」
「うん、そうだな……」
俺は頭を振って、記憶を整理しはじめていた。そうだ。俺たちは《組織》に閉じ込められたのだ。
非人道的な生体実験か、それとも処刑の一歩手前か、それは不明だ。俺と夏希と雪子、三人の男女がかれこれ四時間も密室に閉じ込められている。
両手に花だって? 断じて違う。雪子だけなら多少は気が向くかもしれないが、夏希は花と呼べるものではない。美人ではあるが。花というより爆竹花火だ。その爆竹が爆ぜて俺を気絶させたわけだ。
雪子は寝ていた。彼女はアンドロイド。詳しく説明しているとラノベが一冊できてしまうので省く。最近彼女はメンテ不足なのか、よく寝る。
キスをして起こしてやろうか。いやそれは、抵抗を示さない機械娘に触れるのはどこか罪悪感が残る。例え二人きりでも。
などと思案していると、ふいに雪子が目を覚ました。
雪子と目が合うと、俺は今までの煩悩が彼女に見抜かれていないかと不安になった。彼女は頭がいい。
「私に任せて」雪子は立ち上がって、前に出た。速い。彼女の電脳では、即座に状況判断が完了しているようだ。
雪子が扉の横に手をかざす。すると壁からこっくりさんの文字盤みたいなキーボードが出てきた。なんで神社のマークまでついてんだよ。
「は、い、か、ら、は、く、ち」
とキーを操作すると、空気の抜けるような音がして重い扉が開いた。
「すごいぞ雪子! どうして判った」
「計算するまでもない。キーボードに暗証番号を操作した手垢がついている。それを古い順番になぞるだけ」
「行きましょう。確か外で胡桃ちゃんが待っているはずだわ」
夏希は雪子の偉業に礼も言わず、先頭に立って扉の向こうに駆けだした。
そうだ。外で胡桃さんを待たせてあるのだった。
俺は三人目の女子の心配をしつつ部屋を後にした。

次は「驚愕すべき憂鬱」
0048驚愕すべき憂鬱2012/03/17(土) 06:11:03.98
 精神科に一人の男が現れた。やせこけた顔でいかにも精神的にまいってる感じだ。目の前の椅子に腰掛けたその男を、斉藤は治療しなければならない。
 しかたないことだ。精神科医である斉藤は今日も死んだ眼をした人間と向き合わなければならない。斉藤にとってこれほど憂鬱なことはない。今、目の
前にいる男がどんな症状を抱えていようが、きっと自分の憂鬱ほどじゃない。
 毎日こんなことを考えながら仕事をしている。斉藤は男に質問した。
「症状は?」
 男は言いにくそうに、もごもごと口元を動かし、指先を擦り合わしている。斉藤は苛立った。さっさと言ってくれ。面倒くさい。
 チッと斉藤が舌打ちすると、ようやく男は言葉を発した。さ
「あなたは自分が精神病を患っていることは理解していますか?」
 意味が分からなかった。この男は質問に質問を返してきた。しかも、それがまるで精神科の医師のような質問だ。斉藤は真似されているようで気分が悪
くなった。
 そういえば、と斉藤は不意に思った。この男は自分と同じ白衣を着ている。何故だ?これもこの男の精神病の一つなのか?治療し甲斐があると思えばい
いのか。だが、面倒くさい。またこんないかれた人間と向き合わなければならないのか……。斉藤の憂鬱は増していくばかりである。もう、いっそのこと
自分が精神科に通いたいものだと、心の中で呟いてみせた。

 患者は斉藤清という、小太りで中年の男だった。この男の難点は自らが病に犯されていることを理解していないことだ。まるで自分が精神科医であるか
のように振舞っている。目の前にいる人間を患者だと思い込み、さらにその「患者」や、自分の「仕事」に対して憂鬱を感じている。
 治療する側からするれば、まったく迷惑な患者である。
0049名無し物書き@推敲中?2012/03/17(土) 06:29:20.46
次は「生活の柄」
0050生活の柄2012/03/18(日) 17:14:27.51
 彼女は本質的にはきちんとした子だった。
だからといってそれを押し付けてくることは無く
例えばゴミの分別なら、僕が適当に分けたたものを
彼女がきちんと分けてくれていた。

 彼女に旅行計画を任せると
トイレの位置まで調べていて余程のことがあっても困らない。
僕が計画を立てると行き当たりばったりだが
それも笑顔で楽しめる子だった。

生涯を想い深く付き合っていたから
彼女の生活は僕の体にしっかりと残っていた。

 朝ごはんをきちんと食べること、紅茶、音楽
内容はさておき本を読むこと、
さぼり気味だけど散歩、そして空を見上げること。

 仕事で海外に行ったときも、同じ刻に空を見て電話で話した。
昼夜逆転のときも星座すら違うこともあった。
だけど一緒に空を見上げているだけで何かが繋がっていたと思う

無地だった僕の生活には彼女の模様が描かれていた。
今後もいろいろな模様が増え消えていくのだろう。

次は「晦渋な懐柔」でおねがいします
0051名無し物書き@推敲中?2012/03/19(月) 20:32:27.40
俺は怪獣だ。
退屈に満ちた地球人共を皆殺しにすべく
ペクレリのかみさかすきの・ツからイスルミニチをカングリショウして
地球でクヌグマギサとミミロゴロンを吐き
たゅのまりちか・げ  まをクルツマリチイバスガミニス!
「タタラカチぴばそにろ、ぐ、びらびんだ」
地球人もメメソコメソコメコ、ベギレロン、ツルマユヌ、イッゾバシ、揃えてズ・ゲイソン。
俺の体はメイロケン1、チマ2、3クミロシニアンバニキシ4ポエ、地球人の干渉はメ・無意味だ。
ミミロゴロンを浴びて地球人もヒゾヒロカ、顔面がボクニジウ(オレンジ色に溶けて)、ボクニリボ、ボクニリボ!
俺の特製のミミロゴロンは地球人と相性がよく、ボクニジウボクニリボの!ろ。に減少が見られない。
これは大発見だ!俺のミミロゴンは人間を使えば永久的にヒロスエリョウコ。うれべらみに。
ウダゲンガバッショ学会に発表してノーベル賞だ!

「うー、ミミロゴロンで……えっと、ボクニジロウベニクだー。ぐえー。げろげろー」
「がはは、メ・グミニアス!うばばば!俺は天才博士ノーベルだ!ヒペ・ソメニキア、ロペ、ローペ!」
「そうです、あなたはノーベル博士!ぜひ学会へ発表しましょう!東京大学はあちらです」
「うむ、ろろろろろろろ」

精神病院に患者が一人、収容された。


次のお題は「ピュア文学」で。
0052ピュア文学2012/03/19(月) 23:59:10.29
中学の卒業式のあと、僕は3年間のオトシマエをつけに行った。
折り合いの悪かったグループと会うのも最後だったからだ。
僕はいつも一人だった。誰ともつるまなかった。ワルだのツッパリだのに
興味はなかったし、喧嘩でも負けたことはなかった。が、三年間、
僕は何とも言えぬ敗北感と折り合いをつけてきたのだ。殴り合いなんて、
しょせん勝負の一部にすぎない。
コウキチの家へ行くと、タケシとカズヤもそこいいた。何も知らない叔母さんが、
僕を友達の一人と思って案内してくれた。3人は冷ややかに笑っていた。
僕は奴らを連れ出して、河川敷で殴った。鼻が曲がるまで殴った。
すっきりしなかった。空は雲に覆われて、春の空気が湿っていた。
草の朽ちた土の匂い、ひたひたと湿った石ころの匂い、僕は、いったい、
何をしていたんだろう?
僕は家路についた。家まであと三町というところで日が落ちた。雨が降ってきた。
玄関先で、僕は家中が穏やかでない気配を感じた。連中を殴ったことがばれたかな。
魚の匂いがしている。寿司でも取って待っていたのだろう。
僕は引き戸から手を離し、玄関フードを見上げる。むき出しの白熱球がむらっけに光って、
庇と壁のあわいに、きっと去年のうちに死んだに違いない蛾の、汚れた巣のあとがみえた。
僕はサーという雨音に立ち尽くす。と、塀の内側にがらくたの山を見つけた。
壊れたウクレレがあった。僕はそれに見覚えがあった。
それは5年前、帰郷して病に死んだ叔父のものだった。叔父は文学部を出て就職し、
都会の生活に失敗して、うちでぶらぶらしていた。叔父はブンガクセイネンなんだと、
みな陰口をたたいていた。
叔父は同居しながら、幼い僕にほとんど構うことがなかった。いつも2階の窓を
開け放して、このウクレレを爪弾いていた。そうだ、曲にもならぬメロディを。
僕は毀れたウクレレを手に取った。湿気に飾り板が反りかえって、弦は切れていた。
額にかかる雨をぬぐい、ウクレレを仔細の眺めると、裏に小さな字でなにか彫ってあった。
『P u r i f i c a t i o n』 ……そして、『卒業おめでとう』と。
僕はこの日、あの浮世離れした叔父が、けして文学の人でなかったことを知った。
そして、それでもなお、やはり文学を愛していたことも。

次『棺桶サンバ』
0053棺桶サンバ2012/03/22(木) 17:56:06.14
 俺のじいちゃんはとにかく派手で元気で人生を舐めきった人だった。
そんなじいちゃんも事故には勝てず、歩道で踊っていたときに車が飛び込み
文字通り踊りながら死んだ。

 葬式は生前にじいちゃんがコーディネイト済みで
その内容を一言で言うなら「ダンスパーティー」だった。
しかし、それを詳細に語ろうとすると、僕は適切な言葉を知らず
「カオス」と結局一言でしか言えなかった。

 じいちゃんの友人のお坊さんが、読経の発声で歌うポップス
バックバンドは三味線に尺八、木魚等など何でもあり。
そして、踊るじいちゃんの友達たち。

 正直、のりの良い親類を除いて身内はあっけにとられ取り残された感がある。
しばらくすると、子供の頃夢中になったアニメの歌が流れ始める

『ちょっとあれ見な、親父が通る、カブキ者ぞと町中騒ぐ・・・』
キャプ翼の替え歌で、チャンバの産婆がサンバを踊っている

 本当にわけがわからないよ……それが身内のいつわざる感想だった。

次は「青のさざめき」でおねがいします
0054青のさざめき@2012/04/04(水) 21:36:21.38
「葵……こっちに来なさい……さあ、パパの前で服を脱いでごらん」
 病床の画家、迅東一郎は十歳の娘を呼んで、命じた。
 何の抵抗も見せず、父親の前で全裸になる葵。無垢な少女の裸身は、迅の創作意欲を掻き立てずにはいられない。
「パパ、何をするの? 何だかいつもと違うわ」
 迅は葵の体に塗料を塗りはじめていた。太く柔らかな筆に乗せられた鮮烈な青が、少女の裸体を埋めていく。
「葵……私は、今まで何枚ものカンバスに君を描いてきたが、今度は君の体に絵を描く。これが私の最後の作品になるだろう」
 その青い塗料は、他の塗料とは違っていた。ぬめぬめとした光沢を放つ塗料は、異生物のように葵の肌を滴り、重なっていく。
「……パパ、わかったわ。私の体、パパにあげる。私をパパの作品に仕上げて」
 恍惚に囚われた葵は、口を閉ざして瞑目し、その肉体を父の芸術に捧げた。
 葵の全身が青一色に塗り込まれるのに小一時間もかからなかった。
 そこに模様や陰影は一切なく、どこまでも均一な青が広がっていた。葵という素材は一切の飾り付けを必要としなかったのである。
 この作品を描いた翌日、迅は他界した。そして葵が異変に気づいたのは七日後だった。
「だめだわ。シャワーでいくら落とそうとしても流れない。なぜなの?」
 青い塗料が落ちてくれない。それは、非常に細かい単位の部分で、皮膚と完全に結合しているかのようだった。
「仕方がないわね。これはパパの遺志。背くわけにはいかないわ……」
 葵はあきらめ、これからの人生を青色の女として生きる覚悟を決めた。
 ――それから五年がたち、迅の遺した画廊は娘の葵が受け継いでいた。
 時流の雨風になんとか持ちこたえてきた画廊だが、歴史的な不況には勝てなかった。弱小画廊の経営は悪化し、いつしかそこは悪徳な金貸しの餌場と化した。
「けっ、ここかい?全身を青く塗りまくった変態娘のいる画廊は」
 見るからに柄の悪そうな男達が、玄関のカンバスを蹴り倒して、踏み込んできた。
「やめて下さい。その絵は父の遺品なんです」
 葵は男達の前に進みでたが、逆に細い腕をねじ上げられてしまう。
「何だこの女? おっ、顔は青いが、よく見ると結構いい女じゃないか」
「服の下も青いんですかねえ?」(続)
0055青のさざめきA2012/04/04(水) 21:42:05.08
「調べる価値はあるな。あと金目の物があったら全部ぶんどれ。いいか全部だぞ」
 金貸しの男達は、少女を相手に卑劣な牙を剥いた。
「イヤ、やめて下さい」
 抵抗空しく、葵は、あっという間に裸にされた。男達は、彼女の裸身に、目を見張った。
「ほう、こいつはすげえ。本当に胸から尻まで真っ青だぜ」
「こういう奴って結構変態的な趣味があったりするかもね。ちょっと試してみましょうか」
「よっしゃ、俺たちもこいつの体に絵を描くとしよう。白い絵の具ならたっぷりある」
「離して。助けて、パパ!」
 男達が葵の全てをむしろうとした瞬間、〈それ〉は起きた。
「なんだよ、これ? おい!」
 葵に塗られた塗料がどろりと溶け出した。それは渦を巻いて、男達に襲いかかった。
「なんかやばいぞ! こっちに来るな。気持ち悪い」
 男達は絶叫した。青の塗料が、男達の口に入り、呼吸を遮ろうとする。
「た、助けてくれ。息が……できん」金貸しの三人はたまらずに画廊から逃げ出した。
 画廊には全裸の葵が残された。いや、もう一人いる。部屋中に飛び散った青い塗料が、じわじわと一塊になり、人の形になって立ち上がった。
(葵……今まで黙っていてすまない)
 それは懐かしい、迅東一郎その人に違いなかった。
「パパなのね。うれしい!」葵は驚愕しながらも、顔をほころばせた。
(知人に、変わり者の遺伝子生物学者がいてね。実はこれは、彼に作らせた人工生命体なんだ)
「液状の疑似生命体なのですか?」
(塗料生命体とでも言おうか。これに私の記憶をコピーするのに手間取ったが、お前の体から生体電流をわけてもらって、何とか人格まで再生することができた)
 ここで、葵の頬がピクリと引きつった。
「お父様、もしかしてそれは、ずっと私の体に張りついていたと言うことですか?」
(うむ、創作者として葵と別れることは死んでもできなかったのだ)
「私が寝ているときも?」
(もちろんだとも)
「トイレやお風呂にいるときも?」
(仕方あるまい。慣れないうちは簡単には剥がれん)
「お父様……」
(なんだい?葵)
「変態ですね」
 その日を境に、葵の肌は元の色に戻ったという。(了)
00571/22012/04/08(日) 01:50:06.01

 もうずっと前からそいつはこの家に住んでいる。いや、もともとこの家の住人だったのだろうか?とにかく僕が物心ついたころにはそいつはこの家の住人だったのだ。

 そいつは頭に紙袋を被り一年中スーツスタイルで一言も喋らない。

 そいつは家族だった。一緒に食事をし、風呂に入り、テレビを見て、たまには旅行にいく。本当に家族だったのだ。

 ただ「母」とか「父」とかそういう呼び方がないのでみんな「あれ」とか「おい」とか曖昧な呼び方でそいつのことを呼んでいた。

 違和感がまったく無かったわけではない。テレビに映る家族の風景にはそいつはいなかったし、友達の家に遊びに行ったときにもそいつと似たような(みんな同じ見た目とは限らない。個性はあるはずだ)やつはいなかった。

 でも片親の家族だっている。子どものいない夫婦やペットのいない家族。祖父母と離れて暮らす家族だってある。だから他の家にそいつらしきやつがいないとしても大したことではない。そう思っていた……あのときまでは。
00582/22012/04/08(日) 01:57:02.85

「おまえん家にいたあの紙袋のやつ誰なの?」
 家に遊びに来た友達が次の日学校で僕に言った言葉だ。
 僕は言葉につまった。僕自信があいつのことをちゃんと理解して認定していなかったので説明できなかったのだ。
「……家族だよ……」
 聞こえるか聞こえないかくらいの小さい声だった。そのあと僕はずっと喋らなかった。
 学校が終わり急いで家に帰ると僕はリビングでテレビを見ていたそいつに大声で怒鳴り散らした。
「おまえ誰なんだよ!」
 紙袋は答えなかった。ただじっとテレビを見ていた。気まずそうにも、無視しているようにも見えた。
「答えろよ!誰なんだよ!」

 突然そいつが立ち上がった。紙袋の奥の妙な威圧感に押され、僕は動けなくなった。紙袋もじっと動かなくなり、十分か二十分、二人は向かい合ったまま停止した。

 先に紙袋が動きだし、僕の脇を通り抜け出ていった。
 直ぐに裸足で後を追いかけた。紙袋はまだ近くの通りをとぼとぼと歩いていた。
その後ろ姿は寂しそうにもお気楽なようにも見えた。多分どっちもだろうと思った僕は呼び止めることもできず、彼が角を曲がって見えなくなった後もしばらくぼんやりと突っ立っていた。



 父も母も紙袋の彼についてなにも答えなかった。というより答えられなかった。僕と同じだったのだ。

 彼はなにも残さなかった。まるで最初からいなかったかのように……いや、いなかったのかもしれない。それとも今もいるのか、どちらにしろひどく曖昧で取るに足りない存在なのだ。
雰囲気とか空気とかそんなものと同じで、いると思えばいるし、いないと思えばいない、あれはそんなものだったのかもしれない。


次題「コールガール・フリージア」
0059名無し物書き@推敲中?2012/04/12(木) 14:21:03.64
「コールガール・フリージア」

やった。殺した。
私は、あいつを殺した。
私の起こした小さな交通事故、それを口外されたくなかった、その弱みにつけ込み、
多額の借金を押しつけ、それをネタに散々もてあそび、それに飽きると、今度は
売春までさせられた。コールガールとして、何人もの男のおもちゃになった。

逃げることはできなかった。つまらない奴なのに、いつどこで繋ぎを作ったのか、
怪しい連中が私を見張って逃げることも、警察に行くこともできなかった。
このままじゃ、私は本当にぼろぼろだ。死ぬよりつらいことだ。

だから、私はあいつを殺した。久しぶりに私をもてあそぶ奇異なったあいつと、
ようやく2人きりになった。チャンスはこれしかなかった。
もちろん計画なんてない。逃げる道も用意してはいなかった。
着の身着のまま、裸足て私は裏口から外に出た。手にあるのはフリージアの切り花。
私が大好きだった花。それをあいつは私が男に売られるときの目印にした。

でも、今はそんな役目も終わりだ。この花は、私だけの大切な花。
季節は春とはいえまだ寒い。足下から次第に冷気が登ってくる。
凍り付いてしまいそう。このままだと、凍えて死ぬかも知れない。
でも、私はうれしかった。だって、今このとき、私は自由なのだ。
思わず口にした。
「凍る。がーっ、フリーじゃ!」

次、「猿の腰掛け・猿・残しかけ」
0060sage2012/04/14(土) 04:29:16.61
「猿の腰掛け・猿・残しかけ」
ある昼下がり。
親友に呼び出された俺はいつものようにマンションのエレベーターに乗り、その家の玄関を開ける。
「よう」
その先のリビングでなにやら細工をしていたらしい親友は、こちらを振り返る事無く挨拶を飛ばした。
挨拶を返した俺はさっそく、それを見てみる事にした。
「それがお前の言っていた、とても面白いものか?」
すると親友は突然小刻みに震え始め、笑い声を上げた。
突然の事に面食らう俺だったが、この面白い事を見つけては俺と笑いあうのを楽しみとしている男が何を

そんなにわらっているのか。
気になるのを抑えられなかった。
背を向けた親友に隠れて見えないそれを、少し逸る気持ちで回り込んではしげしげと見つめる。
「……………………………?」
それは一目に笑い声を上げるような物では代物では無かった。
「キノコ?」
少しばかりそれが何なのか理解できなかった俺だったが、それが何なのか分かった。
それは受け皿の上に乗った、小さな切り株だった。そしてその周りにはシイタケから傘だけを切り取った

ような物がビッシリと吸い付くように群生しており、それを見た俺は「気色悪い」と素直な感想を漏らし

た。
「フッ、フフ、フフフ………」
親友は肩を震わせて笑いを堪えるのに精一杯のようだった。
「こ、これは、これは、ブフッ!フ、ハハ、ハァ…サル、フフ、サルのッ、コシカケ、ブフッ!」
それだけを言ってまた笑いを堪えるのに神経を集中させる親友に、俺はしばし考え込む。
「うーん……?」
丁度きっかり30秒ほど頭を抱えたあと、俺は降参のポーズを取った。
「わからん。さっぱりわからん。何なんだ?」
0061sage2012/04/14(土) 04:30:02.39
ようやく発作的な笑いが収まってきたらしい親友はあまりの笑いっぷりに涙を浮かべながら、俺の肩をつ
かんだ。
「そ、それがさ。これが、サルノコシカケだろ?それで、これはウチのマンションのオーナーからパクっ
て来たんだ。ほら、あのサル顔の。プクク」
「あぁ、あのオーナー?で、サルノコシカケ……」
俺は露骨にガッカリした顔を親友に向けた。
「そんだけ?」
今回は全然駄目だな……。
そんな感想を思い浮かべ、そろそろ帰ろうかとまで思い始めた。
しかし、親友は俺の肩をさらにバシバシと強く叩く。
「いや、まだあるんだよ。ここからが最高傑作になるんだ!」
「ほー?」
面倒になってきた俺は、とりあえず聞くだけは聞いてみることにした。
「これがサルノコシカケだろ?で、サルからパクって来た。そんで、しかもこれは……」
「これは?」
親友から飛び出してきたその言葉は、まさに笑い話だった。

「なんとフォークとナイフが付いた皿の上に乗ってたんだよ!」
馬鹿な奴め。

その切り株は俺が昨日オーナーをからかおうと置いておいた物だ。


次「風呂上り」
0062名無し物書き@推敲中?2012/04/15(日) 11:22:18.64
「風呂上り」

 4/14(土) 俺は今日も風呂死した。いや、風呂死という表現では何のことか分からない
かもしれない。要約すると、俺は毎夜毎夜風呂で死ぬのだ。
 俺は精神を病んでいる。そして風呂が大嫌いである。風呂に入ると、死んだような気が
するからだ。別にどこかが痛むわけではない。熱すぎて死ぬというわけでもない。ただ湯
船に浸かると、もうだめなのだ。そこにあるのは死だ。今日という日の終わりだ。
 ここまで書いて、タイトルが風呂「上り」であることに気付く。「上がり」ではなく「上
(のぼ)り」だった。畜生。俺の半自伝的小説を書こうと思ったのに、これではお題を勘
違いしたただのアホではないか。俺は風呂に颯爽と舞い戻ると、フタをされたバスユニッ
トの上に昇り、高笑いした。ふははは。これぞ風呂上り! 今度こそお題を消化してやっ
たぞ。そう思うと同時に、フタが俺の体重に負けて折れ崩れた。俺は足をすべらせ風呂に
倒れた。頭をぶつけ、目の前が暗くなり、そして――
 俺は病院の集中治療室で目を覚ました。首から下の感覚が無い。俺は目をぐるりと回す。
と、医者が俺の覚醒に気付いたようで、声を掛けてきた。返事を返そうとするが、声が
出ない。右目でウインクをして、YESの意志を伝える。さらに質問が来る。左目でウイン
クしてNOの意志を伝える。何度か質問の応酬があったあと、医者は俺がなぜ風呂場で倒れ
たのかを理解したようだった。俺は俺で、自分のノートパソコンをこの場に持ってくるように
医師に伝える。
 備えあれば憂いなし。俺はあらかじめ「脳マウス」をノートパソコンにインストールし
ておいたので、首から下が動かなくても問題は無い。脳マウスを装着し、念じることでソ
フトウェア・キーボードを立ち上げ、途中まで書いてあった小説の続きを書き足し始める。
俺は満足感に満ち溢れている。なぜならお題を消化できたからだ。それ以外の事は全くの
些事でしかない。
 結論からいうと、風呂上りはやめたほうがいい。頭を打って死ぬかもしれないし、俺の
ように全身麻痺になるかもしれないから。

「風使いの日常」
0063風使いの日常2012/04/15(日) 18:07:32.63

 朝けたたましく鳴る目覚まし時計で目を覚ます。力を使って少し離れた机にに置かれた目覚ましを黙らせることもできたが、そうはせず、十秒ほどぼんやりとしてから起き上がり目覚ましを止めた。
 朝風呂をすませ、ドライヤーで髪を乾かす。力を使っても乾かすことはできるのだが、もう大分まえからドライヤーを使っている。

「おはよう」
「おはよう」
 朝食を作っていると息子が起きてきた。
「学校はどうした?」
「なにいってるの父さん今日日曜だよ」
 そうか日曜か、それじゃあ庭の掃除でもしよう。私は庭にたまっていた落ち葉のことを思い出した。
 竹箒を使って落ち葉を集める。かなりほったらかしていたので思いの外骨が折れる。力を使えばあっという間に終わらせることも出来るだろう。でももう力は使わない。二度と使わないと決めたのだ。

 強大な力は大きな影響を及ぼす。良くも悪くも……

 力のせいで、この子にも死んだ妻にも随分辛い思いをさせた。だから顔を変え、人里離れたこの場所に引っ越してきた。

「お父さん、風がなくてぜんぜんとばないよ」
 近くで凧上げをしていた息子が不満そうに口を尖らせてやって来た。
「どれ、かしてみろ、コイツはコツがいるんだ」
 息子から凧を受け取ると私は微かに吹く風に向かって走り出した。バランスをとりながら少しずつ糸を伸ばしていくと凧は徐々に上昇していき、やがてかなり高くまで舞い上がった。
「どうだ、凄いだろ」
「うん、凄い」
「ほら、持って」
「風が弱くても飛ぶんだね」
「ああ、そうだ、風がなくても走れば風は起こるんだ」

 凧は高く上がっている。灰色の空を高く、高く。

 私はそれを横目でみながら微笑む。そして再び竹箒を手に取り、落ち葉集めの続きに取りかかるのだった。

次題「A→B→C→B→A」
0064sage2012/04/16(月) 00:11:05.71
「A→B→C→B→A」

物語はいつものAから始まる。

「仕事だ」
女だてらにぶっきらぼうな所長から渡されたのは、依頼内容の書かれた一枚の紙。

そして物語は否応無く、Bへと進む。

「報酬はいい。ウチ以外なら、この三倍は払って頂けるだろうが」
薄汚い町でしがない探偵に与えられるのは、それに見合った骨折り損の、割りに合わない危険な仕事。

そして大抵は望みもしないのに、Cに至る。

「私に構うな。その子を連れて逃げろ!」
与えられるのは、依頼主にとって使い捨ての役割だけだ。

そして物語は否応無く、Bへと後戻りする。

「あの子は病に冒されている」
気の遠くなる逃走劇の末に、その少女は微笑みながら死んで行った。

そして物語はいつものAで、終わるだけだった。

「奴らから頂いてきた報酬は三倍ではすまない。それに、報いは受けさせた。そして、あの子は幸せに生きた。それでいいんだ」
女だてらにぶっきらぼうな所長は、この日初めて涙を見せた。


次「Good Luck」
0065名無し物書き@推敲中?2012/04/16(月) 03:25:23.22


「なあ俺たち死ぬのかな」

戦友であるSはそんな言葉を吐いた。ここはもう死地だ、敵軍に包囲されている。没落するのは日暮れを見ずしてのことだろう。Sの仄暗い言葉を否定できない。

「大丈夫さ! なんとかなる。それに――いざとなったらSは逃げろよ」

「友達をおいて逃亡なんてできるはずがない」

「気にするなS」

「……」

敵の足音がする。段階を踏んで増幅していて、俺は全身が震えている。自覚するほど、恐怖は俺をつらぬく。
Sは目を充血させて涙を流した。

「さあ俺いってくるよS。じゃあなグットラッグ! 」
0066名無し物書き@推敲中?2012/04/16(月) 03:27:11.02
 俺は背後など関係なしに前進した。両足は全速力で起動していて、身体を酷使している。しかしそんなの関係なくて
俺は今から家族を守るため、王を守るため、たいせつな親友を守るため――死ににいく。
 敵の身体を一体でも、十体でも百・千・万・億のかなたまでこっぱ微塵にしてやる。殴る・蹴る・噛み付く。見えるのはもがれた足・腕・頭。
――そして俺はついにつかまってしまった。
 

「殺せよ。――覚悟は出来ている」

「いわれなくとも……しんでもらうさ」

「けれど死ぬ前に見て欲しいものがあるんだ」

「お前の親友Sの死に様をな」

「なに!? 」

Sは敵に捕らえられて、既にことが切れていた。その死は壮絶だった。
0067名無し物書き@推敲中?2012/04/16(月) 03:29:50.58
俺は、国王のことを思った。痩せこけていて、古臭くて…… とても国王には見えないけれど――いい王だ。俺はこの国に生まれてよかった。死にに行くさ。Sも死んだしな。
 表情緩ませて俺はいった。
「最後に言わせてくれ」

「なんだね? 」
「俺の名前を覚えておけ」

「いいだろう」

俺は大声をはりあげる。世界中に響くように、家族に届くように、Sに届くように。そして国王にささげるように。

「俺の名前はA、そして国王血肉。国王を守るナイトだ」

「そなたの騎士道を心得た。ワシの名もいおう……といっても我々の種族では個別の名前はないんだ」






「――――ワシの名はインフルエンザ。おぬしの国王に一戦するものなり」


「魔法使いの女」
0068名無し物書き@推敲中?2012/04/16(月) 22:38:47.33
「魔法使いの女」

「魔法使いって男限定なんだぜ」
「そうか? 女にも沢山いるんじゃないか? いやまあ、創作だけどさ」
「そうじゃないんだ。魔法使いは英語だと何て言う?」
「えっと、ああ、確か、ウィザードだっけ?」
「じゃあ、魔女は?」
「ええ? あ、ああ、なるほど、ウィッチって言うな」
「だろ? だから、魔法使いは男だけなんだ」
「そうか、確かに。しかし、なぜなんだ? どっちも魔法を使う人間に違いは
ないだろうに」
「思うに、歴史的な背景が違うんだろうな。ほれ、魔女狩りだって、魔法使い
狩りじゃないわけでな」
「はああ、そう言えば、魔女って邪悪なイメージあるかな」
「よくは知らんが、まあ、そんなことじゃないかな」
「ふーん、あ、じゃあ、なあ」
「何だよ?」
「魔法使いが性転換したらどうなる?」
「何だって?」
「いや、もちろん想像の上だが、現代に魔法使いがいたとしたら、中には性転換
したくなる奴がいたって不思議じゃないだろ? その場合は?」
「それはお前、女じゃなくておかまだろ? だったら、おか魔法使いか? わはは」
「いや、おか魔女じゃないか? ひひひひ」
「ワハハハは……ひゃあ!? ゲコゲコ」
「何なだお前……て、何で急にカエルに……ぎゃああ! ケロケロ」
(屋根の上で)「馬鹿笑いするんじゃないわよ。私は、れっきとした魔女なんだからね!」

次、「蛙日和」
0069蛙日和2012/04/24(火) 02:11:56.82
 雨上がりの下校、水溜まりを避けてぴょんぴょん跳ねる彼女。よく見ると仕方なく避けているのではなく、敢えて水溜まりを選んでいるようだ。子供みたいにはしゃぐ彼女に気恥ずかしさを感じつつも無邪気な笑顔につい見いってしまう。

 ばしゃん

 その笑顔のせいでうっかり水溜まりにはまってしまった。

「うわ、ダサ。水溜まり踏んだら負けだからね」
「負けたらなんかあんの?」
「別に、なにもないけど」
「何だよそれ」

 なおも彼女は楽しそうに跳ね続けている。まったく。なにがそんなに面白いのか……とあきれていると、再び僕の足下に水溜まりが迫ってきた。下らない……でも……。

 ひょい、とそれを飛び越える。続けて二個、三個とテンポよく飛び越え四つ目で彼女と並んだ。いひ、と彼女が笑う。つられて僕もふふふと笑ってしまった。

 そして彼女はまたぴょんぴょん進みだした。僕もそれを追ってぴょんぴょん跳ねる。少し前までの恥ずかしさはなくなっていた。ジャンプする度にふわりと舞う彼女のスカートや長い髪、そしてなによりあの笑顔が僕を夢中にさせていたのだ。僕らはその後別れ際まで跳ねていた。

 ただ、あとから思えば、道路を必要以上にぴょんぴょん跳ねている二人の姿は、端から見れば多少滑稽だったかもしれない。

次題「木乃伊取りは木乃伊になれない」
0070木乃伊取りは木乃伊になれない2012/04/24(火) 21:40:57.51
 空中に、キューブが回転している。その各面には、往年の俳優ロニー・コックスに似た男の顔があった。彼は受信者の《彼女》に言った。
『ルリクニ、ここでの君の使命を伝える。惑星マーシの三日月大陸にあるクリスタル学園。ここは美少女だけの全寮制の学園だ。
実はここで不適切な貿易の疑惑があってね。詳細を調べて貰いたい。なお君の変装は疑似記憶を含めて、バージョンアップ前のままなのでくれぐれも注意するように』
 ルリクニと呼ばれた銀髪の少女は一通りの説明を聞くと、ぷいとキューブを切った。そんな説明はどうでもいいわとでも言いたげに。
「いやー、学園生活。一度やって見たかったんだよねー」
 既に学園の制服にチェンジしているルリクニは両手を上げて背伸びをした。
 足下にはフォロワーの黒猫ジルがチョロチョロまとわりついている。彼は喋る猫だ。
(ルリクニ、くれぐれも任務を忘れちゃいけないよ)
「判ってるわよ。それよりもっと離れて歩いてよ。魔法少女だと思われちゃうわ」
(やれやれ……)ジルは渋々他人(猫)を装って、彼女から退いた。
「うっひょ、どこを見ても美少女だらけ。ここはガンダーラか!」
 ルリクニは謎の転校生としてこの学園に足を踏み入れた。
 彼女は抜群のプロポーションではあるが、尻の振り方が何となく大げさ、不自然である。
 警視員はそれを見逃さなかった。
「ちょっといいですか。そこの君」
「はい、何でしょう?」ルリクニはにっこり笑って応えた。
「あなたはここの生徒ではないですね」
「ぬほほほ、留学生よ。短期間ですけど」
「滞在期間はどれくらい?」
「二週間です」
「え?」
「二週間です、二週間、へっへっ、へくしょん!」くしゃみが出たのが運の尽きだ。
「き、君は何だ?」目を丸くする警視員。
 ルリクニの顔が崩れだした。
「へくしょん、へくしょん!」
 ルリクニの顔が完全に崩壊した。更に抜群だったスタイルが破裂し、衣服もびりびりに裂けて、本体が出てきた。
 ルリクニは、美少女とは似ても似つかぬ正体をさらしてしまった。四十過ぎの中年男。しかも全裸の。
「逃げろ。作戦は失敗だ。出直しだ! ジル、転送の用意を!」
 ルリクニは巨大な陰茎をさらしながら、美少女たちの間を全速で駆け抜けていった。

次「恍惚のプロメテウス」
0071名無し物書き@推敲中?2012/04/27(金) 23:56:29.41
〜恍惚のプロメテウス〜

「どいてよっ」
ふき飛ばされたボクには何がなんだか判らなかった
だがショックで我慢したものが一部出てしまって
恍惚感に一瞬怒るのを忘れた

しばらくするとドアが開いた
さっきとは違う穏やかな表情の女が出てきて
「ごめんなさい」と謝った
そうここは男子トイレだ

彼女はボクのズボンが濡れてしまっているのを見て
「ごめんなさい」と二度謝った
そして逃げるように去っていった

・・・逃げるように?

答えは個室トイレの中にあった
流れず詰まった便器の中
黒い塊の上に置かれたポケットティシュの広告が
「新装開店プロメテウス、一時間千円ポッキリ・・・・」
とかろうじて読めた
0073名無し物書き@推敲中?2012/04/28(土) 21:49:33.33
「なぜ金持ちが存在すると多くの貧乏が増えるか」
 俺は与えられた課題の題名をレポートの冒頭に書いて、それから考え始めた。
どんな風に答えればいいのだろう。どう考えても、変な文章じゃないか。
 その時、ドアをノックする音が聞こえ、そのままドアを開ける音がした。
「よっす、暇か? あ? お前、勉強してるのか?」
 やって来たのは隣の部屋の住人、同じ学部の同期、ついでに飲み仲間だ。頭は
いいが、変人で通っている。
「ああ、これだよ、これ。どう考える?」
「そのことだが、お前は何か気がついたか?」
「いや、分かるのは文章が変だ、と言う点だけだな」
「だろう? それで、考えてみたら、どうやらやっかいごとらしいんだ」
「え? お前、分かるのか?」
「当たり前だ。見て見ろ」
 彼はパソコン画面上の表題を指でなぞった。
0074名無し物書き@推敲中?2012/04/28(土) 21:50:32.08
(続き)
「まともな言葉じゃないのは、明らかだ。だとすれば、暗号のようなもの、何かを
隠したものであるのは間違いない」
「ああ、なるほど」
 納得したわけではない。だって、授業のレポートの表題に暗号を与えるなんて、
それこそ無意味だ。だが、とにかくこいつの意見を聞くことにする。
 彼の自慢顔は変わらない。
「で、言葉の選択が異様なことを見れば、そこに意味があると見るべきだ。この
ままで意味をなさないなら、漢字の読みを変えてみる。」
 そう言うと、キーオードに指を滑らせた。出てきたのはこんな文字列だ。
 なぜ きんじ ちが ありあり すると
 たくのひんとぼ が ぞうえるか
「なるほど、何やら意味ありげだな。だが、それで?」
「多分、最初の仮名がそのままなはずはないと思うので、一文字を後ろに回す。
0075名無し物書き@推敲中?2012/04/28(土) 21:50:51.74
(続き)
それから、意味をなす言葉を感じに置き換えるぞ」
 今度は次のような文字列が表示された。
 是 近似値 が 在り 蟻 すると 宅の ヒント
  母画像 得る 仮名
「確かに意味ありげだが、かといって意味をなすとも言えないぞ。だいたい、
母画像って何だよ」
「それなんだが、あの講師の母親が失踪しているって話を聞いたか? ほら、ここ
に記事がある」
 そう言って取りだしたのは、昨日の日付の地方紙だった。確かに、小さいながら、
初老の女性の写真が載っている。
「なるほど、母画像だな。それで?」
「多分、あの講師には人に迂闊に言えない秘密がある。それが母親の失踪に繋がって
いて、誰かにそれを知って欲しい、出来れば助けて欲しい、それを不特定多数に発信
した、そういうことじゃないかと思う。お前、俺を手伝ってくれないか?」
 その日からの数日、闇を手探りし、時には手に汗握るスリルを味わうことになった
のだが、残念ながら、ここでは語ることが出来ない。変な文章は放っておくに限る、
読者の諸兄には、これを教訓とするようにお伝えしたい。

次、「天使の羽衣もどき」
0076名無し物書き@推敲中?2012/05/01(火) 11:19:59.46
「天使みたいだよね。」
「私?」
「うん。」
「…私ってさ、色んな人に良い顔するじゃん?」
「良い顔っていうか、善人だよね。」
「ううん、違うんだ。私ね、偽善者なの。」
「そんな訳…」
「そんな訳あるんだよ。」
「…。」
「嫌われるのが怖くて怖くて、いっつもヘコヘコしてる。
本心からの善なんて、一度もしたことなんて無いよ。こんなの偽善としか言い様がないよね。
私そんな自分が嫌い。心からの善が出来ない自分が大嫌い!」
「…君の事、知ってるよ。どんなに嫌いで嫌な奴も見捨てられないこと。どんなに辛いことも我慢すること。
どんなに悲しいことでも泣かないこと。どんなときも優しい笑顔でいてくれること。
確かに君の善は偽善かもしれない。だけど心からの善なんてそうそう出来ることじゃないんだ。本物の天使くらいじゃないと難しいことだよ。
私は言ったよね、天使みたいだって。
天使みたい、だから天使じゃない。君は人間だから、天使にはなれないよ。だから、悩まなくていい。だって君は天使じゃないんだから!
偽善でもいいんだ。それでも君のことを好きでいてくれる人はたくさんいる。
君の偽善で人を笑顔に出来るんだから。」
「…でも、でも!」
「…それでも不安なら、少しだけ魔法をかけてあげる。
君がこれからも沢山の人間を幸せに出来るように、天使の羽衣もどきをあげよう。ごめんね、本物はあげられないんだ。そういう決まりでね。
…だけど君ならば、これでもきっと……」
そう言いながらあの子は消えていった。
あの子は誰だったんだろう?ずっと一緒だったはずなのに、もう思い出せない。
でも一つだけわかった。
あの子は天使だったんだ。

NEXT 「夢にあざけ笑われる」


0077名無し物書き@推敲中?2012/05/06(日) 07:46:17.26
 最近、砂漠の夢をよく見る。砂漠は僕の知っている町を覆っている。
僕は夢の中でその砂を掻き分けて何かを探そうとしている。
でもそれは夢がそうであるように、掻き分けても掻き分けても
手のひらを砂がすべるばかりで何も見つからない。
きっと精神科の医者なら適当な分析をするのだろう。
探しているものは自分自身の心だとか。多分僕も賛成すると思う。
僕は自転車に乗りながら、そんなことを考える。
「分析なんてね、意味はないんだよまったくね」
家の庭に自転車を止めながら夢がそう言うのが
聞こえるような気がする。いや聞こえたらいいなと思う。


お題 今すぐ窓を閉めよ
0078名無し物書き@推敲中?2012/05/06(日) 17:52:31.87
「今すぐ窓を閉めよ」

がしゃぁん!
 その、悲鳴のような叫びに即座に反応した一人がカーテンをなびかせ日差しを取り込んでいた窓を勢いよく閉めた。
「畜生、もう官憲の野郎が来やがったのか!?」
「ここも危ない、早く逃げよう!」

「な、何をするんだいったい」
 突然首を絞められたマドオは叫んだ。
「仕方が無かったんだ。だっていきなりおまえを絞めろって声が聞こえたんだから」
「んなあほな!」

「な、何だったのだいったい……?」
 午睡の最中であった魔導師メヨは上半身を起こし、辺りを見回した。

『ぴんぽんぱんぽ〜ん』
 そして先ほどの声はまたしても響き渡った。
『スピーカーのテスト中、ただいま、スピーカーのテスト中でございます。先日、連絡がまわったとおりの言葉が聞き取れなかった場合、速やかに町内会本部までご連絡ください。繰り返します……』

お題「減点ごま油のルンバ」
0079名無し物書き@推敲中?2012/05/06(日) 21:47:50.29
よくわからんお題ってたぶん、椎名林檎の歌のタイトルあたりから
来てると思うんだけど、センスないやつがお題出すと止まっちゃうから
ある程度、意味として通じるのを出す気持ちもわかるでしょうよ?

0080減点ゴマ油のルンバ2012/05/07(月) 00:01:35.33
「知ってるか、お前はゴマ油でも動く」

百年に一度の天才と持て囃されている生みの親の返答は、彼の最高傑作と名高い筈の
私の思考パターンのどれにも当てはまっていなかった。

「太陽光、電気、ガソリン、ハイオク、石油、サラダ油、オリーブ油、ゴマ油、エトセトラ……
あらゆる状況下でも稼働出来るように、お前をつくったんだ」

あらゆる状況下、と言っても私は生まれてからこの市内から出たことがない。

「それに燃料の種類によって人工知能の思考パターン……性格も変わる」

博士はすごい嬉しそうに説明してくるが、それって必要なのだろうか?
この人の事だから理由は後付けできると踏んで、用量いっぱいこんな無駄機能を入れたのだろう。
まだ聞いていない機能の方が多そうで怖い。

「台所に油あっただろ。明日充電するからそれまでそれで代用してくれ」

主人の指令は絶対。
なのだが、正直そんな単純なことで自分が変わってしまうのが少し怖い訳で……

「あの、博士、」
「大丈夫。
……どんな姿でも、性格でも、お前は僕の大切な家族だよ」

「…博士……」



そして私はゴマ油が切れるまでルンバを踊った。
0082日まぐれな彼女2012/05/07(月) 00:34:32.00
アンナは美人だが気まぐれな女さ。どんだけ美人か知りたけりゃ、
アトランタのLAフィットネスが配った3年前のカレンダーの4月をみるといい。
いいか3年前だぜ。それを鼻にかけて、いまだにあたしは
カレンダーガールなんてお高く止まってやがるんだ。
デートの約束は簡単だ。99%すっぽかされるけどね。
彼女を射止めたけりゃまず贈り物、サプライズのある仕掛け、
でもっていい車を用意して、電話したらすぐ迎えに行く、これがコツさ。
日をまたいじゃいけないよ。気分が持たないから。
そう、彼女は日マグレな女。確かにカレンダーガールかもしれないな。

ジョンの奴にそういわれて、俺はとびきりの指輪とピカピカの
キャデラックを用意した。トランクの中はバラで一杯。
アンナに電話して、即座に結婚を申し込んだ。そして5分で迎えに行ったのさ。
で、出てきた女は喜色満面、手には婚姻届を持っていた。
顔はカレンダーガールというよりナショナル・ジオグラフィックのびっくり生物だったけどね。
アンナ、エイプリルフールだからって、身の程をわきまえない嘘はつくもんじゃない。
3年たっても皆がネタにしてるし、そしてなにより迷惑qswでrftgyふじこlp;@:

次「サンマーメンは鯖缶のあとで」
0083名無し物書き@推敲中?2012/05/07(月) 22:49:27.93
私は猫。かわいい子猫。ご主人様に飼われてる。
あれはそう―― 一ヶ月前の雨の日
「あっ! こんなところに子猫が捨ててあるぞ」
「にゃー。拾ってくださいにゃー」
「よし、じゃあ私について来なさい。人間の言葉は分かるようだから」

もちろん私は人間。でもご主人様の前では猫の
振りをしていなきゃならない。だってご主人様は大の人間嫌いだから。
「昔、俺は女に酷いことされたんだ。それから引きこもりになった。
そして一年後やっと仕事を見つけてアパートにうつることができた」
「にゃー」
ご主人様は笑顔で私を撫でて餌をくれる。実を言うと私はご主人様の
容疑を固めるために警視庁から来た警察官なのだ。
というのはもちろん嘘。私も孤独の女の子。
愛を知らない女の子。お主人様は台所で何か作っている。
きっとまたラーメンだろう。私はサバカンが食べたい。猫の振りをしているうち
大嫌いな魚が好きになってしまった。



お題 階段が激流
0084階段が激流2012/05/09(水) 20:57:32.48
 キムは生前に13人の少女を殺害し、死体を犯した後、それを食った。彼は三年間逃亡したが、最後に自宅でキムチを食っているところを機動隊に突入され、2014発の弾丸を浴びて即死した。それが彼の最期だった。
「ん……ここはどこだ?」
 キムは目をさました。
「まさか今までの人生が夢だったとか言うオチじゃないよな」
 キムは半身を起こして周囲を見回した。
 視界が、女の白い太股にぶち当たった。キムが見上げると、下着姿の異国の美女が微笑んでいる。
「誰だあんた。俺の事を知っていて笑っているのか」
「アンタのこと、よーく知ってるよ」女は、ずれたイントネーションで喋った。
「俺は殺人鬼のキム・ドリロリウムだ。怖くないのかね」
「怖くない。アンタ、私のこと殺せない。だって私エンジェルだもの。私の名、ピッチョよ」
「ビッチ?」
「ノウ! ピッチョよ。変なこと言わんどいて!」天使のピッチョはキムに往復ビンタを食らわせた。
「痛えな。一体何の用だよ。俺はどちらかと言えば、悪魔と肛門性交したいんだがな」
 ピッチョはくっくっと笑った。
「だめね。アンタ私と一緒に天国に行くよ。アンタ地獄のが好き。判ってる。でも行けない。天国に行くのがアンタの罰だからね」
「俺に抵抗する余地はあるのかな」
「あるわけないアル!」ピッチョは自分の頭のオーラリングをキムに投げつけた。光の輪は伸びて、キムの両腕と胴体を一括りにした。「もう逃げられないよ。あきらめなキム」
「やれやれ……」
 キムは前を歩くピッチョの尻を視姦しながら、遙かな天国への階段を上っていった。
 しかし、上の方から一人の男が転がり落ちてきた。
「大変だ!」
「どーしたある? アンタ天国いけへんの」
「たった今、天国は財政難で破綻した。もう誰も天国へは上れない」
「おいビッチ、上からなんかたくさん落ちてくるぞ」キムは目を剥いた。
 天国の階段から、閉め出された人間達が大勢転がり落ちてくる。
「こりゃ大変だわ。天国の階段が激流ねー!」

「おいキム、起きろ。この死に損ない」ジェルマン警部の声が満身創痍のキムを揺り起こす。
「なんだ、また夢か。俺は射殺されたんじゃないのか」
「今、世界中で死人の生き返り現象が起きている。お前もその一人だよ」
 ガチャリ。キムの両手に手錠がかけられた。
0085名無し物書き@推敲中?2012/05/09(水) 20:58:32.87
次はねー

「竜馬の休日」
0086竜馬の休日2012/05/11(金) 22:49:13.79
逆本竜馬は教員である。某日、彼は教育の現状に失望し、あてもなくローマに逃亡した。しかし彼はイタリア語を話せない。行き詰まった竜馬は、とある公園のベンチで座り込んだ。
「おや? 隣のベンチで少女が寝ている。きれいな方だ。こんな所で寝ていたら、悪戯をされるやもしれぬ。起こしてやろう」竜馬は少女をつついて、目を覚まさせた。
「何よ、ぐっすり寝てたのにぃ」少女は不機嫌そうに目を擦った。そして竜馬を見て「あっ、武田鉄矢!」
竜馬はかなり不愉快になった。「人違いだ。私は逆本竜馬。ゆえあってローマを漂泊中の身」
「ふーん、ちょうどいいわ。あんたローマを案内してよ。私は案々て言うの」
「案々か。いいだろう」竜馬はローマにそれほど詳しくはないが、相手が同じ日本語を話すので安心した。昔見た、ローマの映画の記憶を手繰り、案々を案内した。
竜馬は案々を連れて歩くうちに、彼女に言いようのない欲望を抱くようになった。しかし竜馬はそれを口に出す術を持ってはいなかった。
「案々どの、この像が何かおわかりかな」
「知ってる。太陽の塔」
「これは真実の口という。元はマンホールの蓋だったが、今では曰く付きのシンボルになっている。ここに手を入れると嘘つきは手が千切られるそうだ」
「そんなの嘘に決まってるじゃん。くだらね」案々は思わず鼻に指を入れて嘲った。
「では試してみよう」竜馬は、自分の右手を真実の口に突っ込んだ。すると「ぐわーっ! いたたたっ!」竜馬は絶叫した。
案々は馬鹿馬鹿しくて吹きそうになった。男ってみんな同じような芸を見せるのね、と言いそうになった。
一方、竜馬は渾身の力を込めて、右手を引き抜いた。すると――
「なんだこれは?」腕がない。代わりに、竜馬の右手が、肘の少し上から日本刀の刃になっていた。意味が通じなかった。
「うおおおっ!」竜馬は狂乱して、案々に斬りかかった。「きゃああ!」目にも止まらぬ速さだ。気がつくと、案々の衣服がハラハラと地に落ちた。少女は全裸にされてしまった。
さて、帰国した竜馬は生徒達の前で再び教壇に立った。
「今から授業を始める。私語、携帯、退出、一切厳禁とする。背いた者は」
竜馬は右手を引き抜き、骨からしっかりと繋がっている日本刀を構えた。
その日の竜馬はひと味違う……そうだ…

次「ブルマは少女の戦闘服」
0087ブルマは少女の戦闘服2012/05/13(日) 17:21:27.93
験担ぎは誰にでもあるだろう。
戦いを前にして、或る野球選手はベースラインを左脚で跨ぐとか、或る柔道家は桃色のゴム紐で髪をくくるとか。
そして少女にとってはブルマを履く、これがそうだった。
部活動の大会や校内学力テストなど、勝負のときは必ずブルマを履いた。ブルマを履けば決まって良い結果が出た。
とは言え、ブルマならなんでも良いわけではない。小学校高学年から使用している紺色のブルマでなければいけなかった。
少女はあとひと月で高校卒業を迎える。短大進学をブルマを履いて挑んだ推薦入試によって早々に決めていたため、残りの高校生活は思い出作り以外に何の張り合いもなかった。
ある日、いつものように帰宅しようと下駄箱を開けた。するとハラリと封筒が一通こぼれた。拾い上げるとそれは、少女に宛てたラブレターだった。送り主は5組の○○と書いてある。
実は○○が誰かはっきりとは覚えがないが、人生初の出来事に高揚を隠せない。頬を赤らめ足早にこの場を跡にした。
自宅のベッドに寝転がり当てのない思索を巡らせる少女。
「○○君で誰だっけ?あの人だったかな?彼だったらどうしよう?」
手紙には『明日、駅の広場で待っています』と書かれている。さて、誰かもはっきりしない中で行くべきかどうか。行かずにおいたら後悔するだろうか。全く興味が湧かない相手であったとしたら。その場で返事を伝えるべきか・・・
夜中になってようやく決断した。
「よし、行こう!」
しかし、新たな問題が浮上した。
「ブルマを履くべきかしら?」
これまで少女の勝負事に大いに力になったブルマ。ブルマを履くことで良い結果が生まれてきたのは間違いない。
但し、明日は誰がくるかも、そこで付き合うことになるのかも分からない。勝敗が定まらない中で験担ぎの効果は望めるだろうか。
確かにこれまでのケースと違いはあるが、少女がブルマを履くかどうか悩む根幹にはやはり彼氏が欲しいという強い願望があってのことだった。
0088ブルマは少女の戦闘服2012/05/13(日) 17:22:06.94
約束当日の駅前広場。そこに少女の姿があった。誰を待つ素振りもみせずに俯き加減で佇む少女。心臓ははち切れんばかりに鼓動を速めていった。
しかし、意外にもあっさりと時間は過ぎ、約束の時刻になっても誰も現れなかった。
「失礼しちゃうわ。何処かで私を観て笑ってるんじゃないかしら?だとしたら許せない!」
少女は泣きこそはしなかったが、心打ちひしがれてトボトボと家路に着く。駅の高架下を通ったとき、そこへトヨタ86が猛スピードで駆け抜けた。激しいつむじ風が巻き起こり少女のスカートをめくる。
オー!モーレツ!
そのとき少女の下半身から覘いたのものは紺色のブルマだった。勝敗はどうであれ、少女が全力で挑んだ証であった。
そしてサイズの小さいブルマよってピチピチにしまわれた尻と張り出した腿肉、そのキメの細かい肌質は高架下に差し込む日光にキラキラと反射した。
「もしもし、落としましたよ」
声を掛けられ少女は振り返る。そこには気の良さそうな青年が立っていた。先の風を受けて落ちた少女のブローチを手に微笑みかけてくる。
見つめ合う二人。青年は手紙の主ではない。しかしそんなことはどうでも良かった。少女と青年は運命的なものを感じとった。
「これってもしかして、やっぱりブルマのお陰かしら!?」
出合いは、恋は、戦いは突然に訪れる。日々これ戦いとするならば、少なからずブルマのお陰だといえるだろう。
自然と会話に花が咲く少女と青年。
「これからは毎日ブルマを履いても良いかもね!」
少女はブルマの尻部分のゴムに手を掛けパチリッと鳴らした

end

次のテーマは「後ろ手にブラ紐をほどくように」
0089名無し物書き@推敲中?2012/05/13(日) 21:05:19.73
『後ろ手にブラ紐をほどくように』

「うぉおおおおお、キタコレ!!」
「喜んでいただいて何よりです」
 私は画面の言葉に返信する。すると一分も経たないうちにまたしても複数からの賞賛の嵐。コミュニケートは成功と言ってもいいだろう。
 私の仕事はこのようにしてイラストレーションの一種をソーシャルネットワーク上にアップロードすることにより他者との交流を図ることである。
 この仕事に就いたのは三年前。なぜこの仕事なのかの説明は長くなるが、単純に言えばこういったコミュニケートで理解することも出来る人間の側面があるからなのだと、まあそういったわけなのだ。
 コミュニケートの善し悪しにも多々ある。たとえば現在使用しているハンドルネーム。
【キララ】
 性別として雌を想像させる名前である場合がより安易に相互理解が深めやすい傾向にある。ただしコミュニケートを求め接触してくる人間の多くが雄であることはおそらく安易な生殖への幻想を抱いているだろうことも付記しておこう。
 また、イラストレーションによってもコミュニケーションの質が変わってくる。
 傾向としては視覚的に現物を参考にした画像ではなく、現実ではあり得ない眼球の大きさ、等身、頭髪の色彩など。
 そういった傾倒したモノがより濃密なやりとりが可能となる。
 また、相手の要望に応えていくことは心理的に相手を優位に持って行くことが出来る。
「次は後ろ手にブラ紐をほどくようにプリーズ」
「ブラ紐とは何か?」
「……ちょ、ネカマかよwww」
 ネカマ。雄がネット上において雌生体であるように名を偽るまたはそれに類する行動を指す言葉だ。
 しかし私は雄ではない。雄ではないのだが……。いったいどのように説明すればよいのだろう。
 私の緑色をした三本しかない指は動きを止めるしかなかった。

次のお題『いかそうめんで腰を抜かす』
0090名無し物書き@推敲中?2012/05/14(月) 16:31:19.66
「いかそうめんで腰を抜かす」

「画期的な新商品! これこそが本物、まさにいかそうめんだ!」
 目の前のオヤジは、魚屋ではない。海洋学者だそうだが、はげた頭に手ぬぐいのはちまきは、
どうにも魚屋だ。ただし、一応学者らしく白衣ではあるが。
「いや、いかそうめんなんて、普通のメニューでしょ?」
 すごい特ダネとのうわさを聞いてやって来たのだが、ガセだったようだ。まあ、話だけは
聞いておくか。
「いやいや、そんなもんじゃない。大体、イカの身を細く切って素麺だなんて、ばかばかしいと
は思わねえか?」
「それはそうですが、それが普通じゃないですか?」
 すると、オヤジはにたりと笑った。
「そこだ。そこでこれだ。俺の新発見、本当のイカ素麺」
 そう言ってオヤジが冷蔵庫から取りだしてきたものは、一つの椀だった。
 目の前に置かれたそれをのぞき込む。そこにあるのは、半透明の素麺だった。とぐろを巻くようにして、
椀の底に鎮座している、何の変哲もない姿。
 困惑して顔を上げると、オヤジはにやりと笑い、箸を勧めてきた。食え、というのだろう。仕方なく椀を
取り上げ、箸で触れる。すると、それがかすかに動いた。
「え?」
「よく見てくれ。それ、イカなんだよ。名付けてソウメンイカ」
 改めて目をこらし、ようやく正体に気づいた。ひどく細長い触手で、胴体も細長い1匹のイカがぐるぐる
と丸まった姿だったのだ。小さいながら二つの目玉がこちらを見上げている。
 背筋を寒気が駆け上がる。俺は思わず椀を取り落としていた。
 が、その時ソウメンイカの触手はひどく素早く伸び、俺の襟元にへばりついたと思うと、イカは腕を縮め、
そのまま飛びつくように口元へ。ずるりと口に入ってきた。俺は膝に力が入らなくなり、床に尻餅をついた。
「面白いだろう? なぜだか自分で食べられようとするんだ。俺も喰ったんだが、とっても気持ちよくなって、
それに何故か周りの人間にも食べさせたくなってねえ。もう何人に……」
 上から降ってくるオヤジの声が聞き取れなくなり、俺は意識を失った。ただ、次に目が覚めたとき、俺は今
の俺ではないのだ、それだけは理解した。

次、「怒りのイカ飯」
0091名無し物書き@推敲中?2012/05/14(月) 22:09:50.90
コンクリートの堤防に、鉛色の波が押し寄せては崩れてゆく。
そんな音を聞きながら、僕は一軒の磯料理屋の前に立っている。
カモメの声。むせ返るような磯の香り。
ひび割れたアスファルトの上を、一台の軽トラックが騒音をたてながら過ぎ去ってゆく。
観光客もめったに来ないこの店は、けれども手の込んだ料理を出す事で有名な地元の名店らしい。
木造平屋の店先には半分錆びかけた看板が掛かっている。その下には色あせた暖簾。
とても営業しているとは思えない寂れた雰囲気の店構えだ。
不安に思った僕は、ガラス製の引き戸越しに店内を覗き込む。
客はいない。店内には不機嫌そうな初老の男性が包丁を持ったまま一人テレビを見ている。
おそらく板前なのだろう。
普通、包丁をもったままテレビみてるか? 僕は不安になりながらも、せっかくなので店に入る事にした。
「こんちわ。やってますか」
包丁の男はゆっくりとこちらを向いた。
「やってるよ」
ぶっきらぼうな男だ。けれども、こういう板前がいい仕事をするのだろう。僕は席を指差した。
「いいですか?」
「あいよ。いらっしゃい」
「この店で一番うまい料理を食べたいんだけど」
「うちはなんでも旨いよ」
僕の聞き方が悪かったらしい。板前はあらかさまに不機嫌な雰囲気で僕から目を逸らした。
「すみません。じゃぁ、お任せで」
「じゃぁ……今ならイカ飯だな」
「イカ飯かぁ、それお願いします」
「あいよ。ちょっと時間かかるよ」
愛想の無い板前は、面倒くさそうに調理場へ入ってゆく。
冷水機の脇にはカップ酒の空き瓶を再利用したコップが並べられている。木製のテーブルは縁が削れて丸くなっている。
こんな所まで雰囲気が出ているなと思うと、自然に口元が緩む。僕はこんな店が好きなのだ。
冷水機の横に積み重ねられた漫画の本を読みながら、僕は料理を待つ事にした。
つづく
0092名無し物書き@推敲中?2012/05/14(月) 22:10:13.44
コンクリートの堤防に、鉛色の波が押し寄せては崩れてゆく。
そんな音を聞きながら、僕は一軒の磯料理屋の前に立っている。
カモメの声。むせ返るような磯の香り。
ひび割れたアスファルトの上を、一台の軽トラックが騒音をたてながら過ぎ去ってゆく。
観光客もめったに来ないこの店は、けれども手の込んだ料理を出す事で有名な地元の名店らしい。
木造平屋の店先には半分錆びかけた看板が掛かっている。その下には色あせた暖簾。
とても営業しているとは思えない寂れた雰囲気の店構えだ。
不安に思った僕は、ガラス製の引き戸越しに店内を覗き込む。
客はいない。店内には不機嫌そうな初老の男性が包丁を持ったまま一人テレビを見ている。
おそらく板前なのだろう。
普通、包丁をもったままテレビみてるか? 僕は不安になりながらも、せっかくなので店に入る事にした。
「こんちわ。やってますか」
包丁の男はゆっくりとこちらを向いた。
「やってるよ」
ぶっきらぼうな男だ。けれども、こういう板前がいい仕事をするのだろう。僕は席を指差した。
「いいですか?」
「あいよ。いらっしゃい」
「この店で一番うまい料理を食べたいんだけど」
「うちはなんでも旨いよ」
僕の聞き方が悪かったらしい。板前はあらかさまに不機嫌な雰囲気で僕から目を逸らした。
「すみません。じゃぁ、お任せで」
「じゃぁ……今ならイカ飯だな」
「イカ飯かぁ、それお願いします」
「あいよ。ちょっと時間かかるよ」
愛想の無い板前は、面倒くさそうに調理場へ入ってゆく。
冷水機の脇にはカップ酒の空き瓶を再利用したコップが並べられている。木製のテーブルは縁が削れて丸くなっている。
こんな所まで雰囲気が出ているなと思うと、自然に口元が緩む。僕はこんな店が好きなのだ。
冷水機の横に積み重ねられた漫画の本を読みながら、僕は料理を待つ事にした。
つづく
0093名無し物書き@推敲中?2012/05/14(月) 22:11:45.89
僕の横には、漫画本が五冊も積み重ねられている。料理を頼んでもうすぐ一時間になる。
時間がかかるとは聞いていたが、ランチタイムももう終了の時間だ。
調理場からは何も音が聞こえてこない。僕は不安になった。
「すみません」
「今、やってるよ」
調理場から不機嫌な声が聞こえる。不機嫌になりたいのはこっちなのに。
「こっちも時間があるので、早くお願いします」
「うちのイカ飯は他のと違って時間がかかるんだ。さっき言ったろ?」
時間がかかるとは聞いていたが、これ程とは。だんだんと怒りが込み上げてきた。
「いいかげんにして下さい。注文してから一時間になるじゃないですか」
「そんなでかい声だすなよ。今持って行くよ」
それから数分後に板前はドンブリを持って出てきた。そして、不機嫌そうな表情でそのドンブリを僕の前に置いた。
「あいよ。おまたせ」
「おまたせって、これ何ですか?」
「イカ飯だよ」
僕の目の前のドンブリには白米が入っているだけに見えた。
「イカ飯って、こう、イカの中にご飯が詰まってるやつでしょ? これはどう見ても」
「食ってみろよ」
「え?」
「食えって」
僕は板前の迫力に負けて、ドンブリの中の物を箸ですくって口に運んだ。磯の香りと甘い舌触り、白米だと思ったそれは、噛み締める力を跳ね返す弾力を感じた。
「これって?」
「米の様に見えるのが小さいイカなんだ。うちのイカ飯は。一粒ひとつぶ処理してるんだぜ? 俺は」
「そうなんですか。さすが……」
感心する僕に刺すような視線を向ける板前。
「時間がかかって当たり前だろ。な?」
僕が急かしすぎたのだろうか、板前は怒りのこもった厳めしい顔つきをしていた。
怒りのこもったイカ飯い……お後がよろしいようで。

次は、「蛍イカの光のような」 
0094蛍イカの光のような2012/05/15(火) 09:28:19.96
ある朝亀が海岸近くを泳いでいると、パツキンでスクール水着の
女子高生が波間に漂っているのを見つけました。よくみると小魚が数匹、
その尻をつついています。
「こらやめないか、」亀はいいました。「趣味が特殊すぎる」
亀はその娘を助けると陸まで送り届けました。すると娘はいいました。
「助けていただいてありまとうございます。あのまま死んでいたら、
私は大事な任務に失敗して一族郎党皆殺しの目にあうところでした。
ぜひお礼をしたいので、デパート『子供の世界』の隣りにある、私の
学校まで来てください」
「いいよ、」亀はいいました。「でも私は重いよ?」
娘はトラックを手配して亀を発送しました。着いたところは
私立ルビヤンカ学園。娘は亀を校長に引き合わせました。
「校長、ついに捕らえました」娘が言うと、禿げ気味の校長が笑います。
「ご苦労。亀よ、私を覚えているか?浦島…もとい、いまはウラジーミル。
ロシアの大統領だ。竜宮の策略で肉体を犯された私は、機械の体を
手に入れて、この地位まで上り詰めた。今ではすべてが思いのままだ。
だが、やり残したことがある。お前らへの復習だ!」
ウラジーミルはそういうと、「300年殺し」と書かれたスプレー缶を
亀に向かって放射しました。蛍イカの光のような、魔法の煙が
亀を覆います。しかし、煙が晴れても、亀はぴんぴんしています。
「効かぬ……亀は万年、三百年程度どうということもないわ!」
と、突然亀の甲羅が上下に別れ、背のほうが飛び上がりました。いや、
飛び上がったのではなく、甲羅の中から現れた浅黒い肌の男が、
万歳の姿勢で伸びをしたのです。
「き、貴様は小浜!」ウラジーミルが叫びます。「やはり陰謀か!」
小浜はニヤリと笑います。「次のサミットで会おう」
意気揚々と引き揚げていく小浜の背と、怒りに震えるウラジーミルの顔を
見比べながら、なかば忘れられていた娘が言います。
「欧米情勢は複雑怪奇なり」

次は「与作は木を切るな!」で。
0095与作は木を切るな!2012/05/15(火) 18:15:22.12
「与作は木を切るな!」
 村の長老は険悪な顔つきで吠え立てた。
「なぜだ? 俺から木樵の生業をとったら何も残らない」与作は泣きそうな顔で百二十歳の老人に訊ねた。
「お前は悪くない。掟を破ったわけでもない。罪も犯していない。しかしな……」長老のザエモンはモニターのスイッチを入れる。
「これを見よ」
 50インチの3Dモニターに与作の妻が映った。
「おきぬじゃないか、何をしているんだ?」与作は思わず、妻の名を叫んだ。
 おきぬは一人で森を歩いていた。そして周囲を見回し、人気のいないのを確かめると、ふいに衣服を脱ぎ始めた。
「おきぬ、気でも狂ったか? ここは川ではない。山だぞ」
 与作の叫びをよそに、おきぬは全裸になった。モニターの前に座する委員会のメンバーは、彼女の美しさに響めきを隠せない。
 村に住む女にしては、田舎か臭さが微塵もない。八頭身以上でありながら、くびれは豊かなうねりを描いていた。髪が腰まであるおきぬは、さながら松本零士の美女キャラのようだ。
「ああ……」
 おきぬは艶めかしい吐息を漏らすと、一本の木を登り始めた。
「なんというふしだらな女じゃ。与作という夫がいながら神聖な巨木で戯れるなど言語道断」
「あい、すまぬ」全てを白日にさらされて、与作は俯いて涙を流した。
「妻の行いは夫である与作が背負わねばならない。お前は暫く木を切ることを禁ずる」
「では私はどうすればいい?」
「妻を愛すがよい。毎日三回、夫の務めを果たすがよい。子が授かった時点でお前の禁令は帳消しとする」
「それは……できない」
 与作の返答に一同は騒然となった。
「何を言うか。簡単なことであろう。おきぬを犯して犯しまくれ。夫だけの特権であり義務ではないか」
「できないんだ。これを見てくれ」与作は着物の帯を解いて丸裸になった。
 その有様に、一同は驚愕した。
「この間、酒に酔って、木を切ったつもりが、間違えて自らの肉茎を切り落としてしまったのだ。もう私はおきぬを満足させられない体になってしまった」
 一件のあまりの凄惨な結末に、委員会の面々はただただ悲痛に目を背けていた。
 そして次に思ったことは勿論――
 誰が与作の代わりをやるかという奸計以外の何事でもなかった。

次「たまに女の悲鳴が聞こえる隣の家」
0096名無し物書き@推敲中?2012/05/17(木) 09:17:33.86
「たまに女の悲鳴が聞こえる隣の家」

 かすかな足音が聞こえる。普通なら気づかれない程度の、だが、意識していれば確認できる程度。
これも、今の状態ならがんばった方だろう。
 足音はいよいよ近づいてくる。しかも、その間隔が狭まっている。どうやら、脱出の成功を確信し
つつあるようだ。そう、それでいい。その方が後の楽しみが大きい。
 いよいよ玄関まで出てきたらしい。さて、では行こうか。
「何をしてるのかな?」
 目の前には顔面蒼白の女。あまりのことに言葉を失っているらしい。手首の手錠には少し血が
滲んでいる。やはり、あの支柱を折ってきたか。それから上着のシャツだけを羽織ったと。予想
通りだ。
「逃げようとしたら、お仕置きだと言ったのは、覚えているよね?」
 彼女は一転して体ごとぶつかってきた。強行突破と言うことか。もちろん、それも予想のうち。
体ごと受け止めると、女の体をくるりと回し、後ろから羽交い締めにして、家に引きずり込む。
「どうやら、もう一度、この体に教え込んでやる必要があるらしいな」
「いやー、お願い、助けて、おうちに帰して! もういや、たすけて!」
「駄目だよ、お前は俺に飼われる運命なのさ。さて、今日はどれから味わいたいかな?」
 耳に心地いい悲鳴を楽しいながら、女をもう一度部屋に引き込んで、新たな柱に固定し直す。
女の目には、様々な責め具が見えているはずだ。
 その時だった。
「あんた、どういう了見なんだい、出てきな!」
 玄関からやかましい声が聞こえた。どうやらやっかいなことになりそうだ。素早く女に
猿ぐつわを咬ませて、もう一度玄関に向かう。そこにいたのは、隣の家のばあさんだ。
「一体あんた、何をやってるだい、悲鳴みたいなのが何度も聞こえるんだ!」
「いや、大したことじゃないんです。すみません」
「大したことじゃない? 何言ってるんだ! とんでもない声じゃないか!」
 仕方がないか。こうなったら、文句を黙って聞くしかない。
 何しろこのばあさん、文句が長い。他に楽しみがないのか、一時間近くも苦情を言い続ける。
 ただ、それだけ言うと納得するのか、通報とかはしないんだ。たまに悲鳴が聞こえても、これですむなら
上々というものだ。

次、「三択ロース」
0097三択ロース2012/05/21(月) 00:02:51.57
平成24年度のトナカイ就職状況は欧州通貨危機の影響をもろに受け、
スウェーデンのサンタ企業に就職できた者は全体の1割にも満たなかった。
トナカイA君は9割のほうである。北欧を出たA君は南欧へゆき、そこでも
勤め口が見当たらず英国へ、そして米国へと渡った。半年後には東京にいた。
ここで3流のサンタ企業、富士サンタαβγへの就職に成功したが、富士サンタは
毎年3頭のトナカイが入社するのに、全トナカイ保有数は常に5頭という、
不思議な会社だった。
入社してA君は気づいた。ここは普通の運送屋で、専門性は全然ない。
クリスマスシーズンだけ、社長がサンタの格好をして、サンタビジネスを
やっているだけだ。認証も持っていない、いわばもぐりのサンタだ。
そんな会社で事故が起こるのは必然といえる。2013年のクリスマスに
富士五湖上空を飛んでいた橇は、空力ユニットの脱落によって本栖湖に
落水した。幸いA君は馬具が外れ、岸辺まで泳ぎ着くことができたものの、
仲間も橇もそしてサンタも、すべて湖の底に沈んでしまった。
すると本栖湖の妖精が、水を吐いているサンタを掴んで水面上に現れた。
「もしもし、あなたが落としたのは金銭欲にまみれたこのサンタですか?」
「いいえ違います、」A君は否定した。
「おい待て俺だよ助けてんがぐぐ」懇願もむなしく、妖精はサンタを水の中に
いったん戻し、しばらくして再浮上した。手中のサンタはぐったりしている。
「あなたが落としたのは、この改悛しつつある瀕死のサンタですか?」
「いいえ違います、」A君はまた否定した。
妖精は再度深みへと戻り、今度は紫色の顔をしたサンタを掴んで浮上します。
「あなたが落としたのは、この死んだサンタですか?」
「その人です、間違いありません」A君はいった。妖精は困惑した。「この嘘つき!」
A君は笑った。「そうかな?君が最初に10分待って、生きているサンタを一度も
僕に見せなかったとしたら、きっと『死んだサンタを落とした』で正解だったろう。
たとえ落ちたとき生きていたとしてもね。君の問いは事実に関わるのに、
君のやりかたによって正解が変わる。最低だ」
妖精はA君を殺して焼肉にしてしまいました。

次「泣くな焼き蛤」で。
0099『泣くな焼き蛤』2012/05/24(木) 22:59:00.74
「なんだぁこりゃあ?」男はヤクザ口調で、出された原稿を突っ返した。
彼は怪田太郎。漫画雑誌「少年チャンポン」の編集長である。
「なんだと言っても、これが僕の新連載です」面長の青年は、真顔で怪田に対峙した。相手の迫力にビビっているのか、頬が引き攣っていた。
「お前、アホじゃねえのか?」怪田はズバッと言い放った。「こんな貧相な漫画売れるワケねぇだろう。全部書き直せ」
「嫌です。これでお願いします」青年は、冷や汗をかきながらも、自分の意志を曲げる気は無いようだった。猛獣に崖縁まで追いやられながらも、最後の最後で踏みとどまっている。昭和中期の漫画家の気迫と意気込みが、彼にもあった。
「ちっ!」怪田も大事な戦力を殴り飛ばすわけにはいかず、突っ込みの方針を変えるしかない。
「この『泣くな百円』て漫画だけどな。パンチ力に欠けると思うんだよなぁ俺は」
「パンチ力って何ですか」
「例えば暴ちゃんや紅塚みたいな無茶苦茶さとかさあ。今チャンポンはちょっと部数弱いだろ。もっととんでもない作品で読者の心を鷲掴みにしたいわけよ」
青年は他の漫画家の名前を出されてムッとした。
「僕はあんな酷い作品は描きませんよ」
「おいおい、そんなこと言っちゃっていいの? お前ら元は同じ毛塚の門弟だろ。あ、暴ちゃんは違うか」
「では、怪田さんはどんな漫画がいいと思うんですか。編集者のあなたならアイデアの一つくらい持っているでしょう」青年は逆に突っ込んできた。怪田は一瞬、うっと唸ったが、
「そうだなタイトルを『泣くな焼き蛤』に変えたらどうだ。どうだ、ワケわかんなくて面白いだろう」
「焼き蛤って一体何ですか。たまたま酒の肴に食べたいからってごまかさないで下さい」
「うるせえ! とにかく題名は『泣くな焼き蛤』だ。これで描け」
「お断りします。題名は『泣くな百円』です。ダメならサーズデーに持っていきますから」
「なんだと? 何がサーズデーだ。てめえ、いい加減にしろ!」怪田の怒りは沸点を超え、青年の胸ぐらに掴みかかっていた。
――後日『泣くな百円』はサーズデーに連載され、それに対抗するかのようにチャンポンでは『泣くな焼き蛤』の連載が始まった。
編集者自身の描いた下手くそな絵が逆に受け、勝負は怪田太郎の勝ちとなる。

次「娼婦新聞」
0100娼婦新聞1/22012/05/27(日) 19:43:29.30
「おい!郷田君!」
 鼻息荒々しくまるで猪のように教室に入ってきたのは僕のクラスメイトの遠藤である。
「どうしたんだい遠藤君」
「いいからこれを見るんだ」
 そう言って遠藤が机に広げたのは校内新聞だった。
「この新聞が何か?」
「ここをよく見たまえ」
「ボクシング部県大会出場……」
「あーもうそうじゃなくて」
 遠藤はじれったそうに赤ペンで線を引いた。
「この線を引いた所を読んでみてくれたまえ」
「三、万、で、O、K、石、川?」
「そう、驚くなよ、これはいわば娼婦新聞だ。こんな風に誰々が幾らで性交渉OK というのを大胆に誘っているんだ。こいつは恐ろしい事だぜ」
「そんな、偶然だよ……」
「それはどうかな?」
 そう言うと遠藤は他にも新聞のあちこちに赤ペンを走らせ先程の文と似たような羅列をどうだと言わんばかりに抜き出しペン先でトントンと叩いた。
「四つも五つもこんな偶然があるかい?しかも決定的なのは金額こそ違えどここにある名字全てがこの新聞を作っている生徒会の女子メンバーの名字なんだぜ」
「でも……」
「おれは今日実際確かめてくる。そしてその相手は俺の、いや学年のアイドルの石川先輩だ」
「でも……」
「大丈夫。いわば僕は切り込み隊長だ。上手く行けば君にも紹介してやるよ」
 そう言い捨て遠藤は来たとき以上の慌ただしさで教室を出ていった。
0101娼婦新聞2/22012/05/27(日) 19:51:05.80
「バカな奴だ……」
 彼の足音が聞こえなくなると同時に僕は溢れる笑いをこらえきれず皆の視線も気にせず涙を流すほど大笑いした。
「あんな新聞あるわけないだろう」
 そう、あの新聞は生徒会の友達に無理を言って僕が細工したものなのだ。
バカなくせに顔だけはカッコよく女子からモテる遠藤のことが僕は日頃から気にくわなかった。どうにかして女子の前で恥を欠かせてやりたい、そう思っていたのだ。そして最近奴が暗号にはまっている事を知った僕は、この作戦を思い付いたのだ。
 今ごろ奴は憧れの石川先輩に恥ずかしい交渉をしているにちがいない。そしてそんなことまったく知らない先輩は残りの二年間遠藤に軽蔑の眼差しを向け続けることだろう。加えて女子の情報伝達能力の高さ……僕はその日一日中悪魔のような笑いを押さえることができなかった。

 次の日ひどく浮かない顔をして登校してきた遠藤に僕は吹き出しそうになるのを必死で堪え、心から友を気遣う調子で声をかけた。
「どうしたんだい?」
「郷田君おれはどうしたらいい」
「そりゃ素直にあやま……」
「先輩と付き合うことになっちまった」
「なにぃ!?」
 信じられない事だが彼が言うには昨日先輩に例の交渉を始めようとしたとたん向こうから突然告白してきたそうだ。
詳しく話を聞くとどうやら先輩も前から遠藤のことが好きだったらしく告白のタイミングをずっと探していたらしい。僕は意識が遠く遠くの宇宙に旅立っていくのを感じた。
「おめでとう」
 ようやく宇宙から帰ってきた僕はなんとかその場にふさわしい言葉を吐き出すことができた。しかしその日一日中遠藤の恋の悩みを聞かされ続けた僕はついに魂を宇宙へと解き放つ方法を身に付けたのだった。

次のお題 「僕と彼女の裔、微意、恣意」
0102僕と彼女の裔、微意、恣意 上2012/05/30(水) 04:12:19.43
「会長、今回のお題が発表されたぞ」
「何よ?VIPのお題スレは書いている間に落ちちゃったじゃない」
「いやいや、それじゃないって・・・」
「ああ、そういえば・・・せっかく書いてたのにスレが落ちちゃって不完全燃焼だからとこのスレに来たのを思い出したわ」
 うん、相変わらずのメタ発言だ。
「そうと決まればお題を元にssトークするわよ!」
「なんだよssトークって・・・スレの人達も「とんでもない素人がお題を拾ってきたな」とドン引きだぞ」
「グズグズしてないでさっさとお題を発表しなさい!」
「はいはい・・・これが今回のお題だよ」
 
 僕と彼女の裔、微意、恣意

「・・・・・・何この漢字?」
「さぁ・・・?」
「僕と彼女のまではいいわ・・・問題はその後の単語と思われし三つよ」
「えーと・・・さ、さい?にい?すい?」
「貴方は何をトチ狂っているの・・・」
「いや、あまりにも読みが分からないから左からテキトーに言ってみた」
「きっと正しい読みを知っている人達は、今頃貴方の読み方を思い出して腹を抱えて笑っているわよ」
「やめて!僕の事をどうしようもないバカだとあざ笑わないで!?」
 いや、でも流石に裔、微意、恣意は意味不明過ぎだろ?お題出した奴の性格が知れるぜ・・・
「自分の知識の浅はかさを他人の所為にしない!」
「す、すみません・・・」
 しかし、一体これでどうやってお題を元に話をすればいいんだよ・・・
「仕方ないわね。とりあえず今日はこの漢字の意味を探るわよ」
0103僕と彼女の裔、微意、恣意 中2012/05/30(水) 04:15:16.50
「探ると言ってもどうやって探ればいいんだよ?」
「いくら貴方でも、漢字の成り立ちは分かるわね・・・」
「成り立ちって・・・象形文字のことか?」
「そうよ。ものの形をなぞって字にしたのが漢字の成り立ちといえるわ」
「なるほど!つまり、この漢字の組み合わせや成り立ちから意味を探ると言う事だな!」
「そうよ。悔しいけど、今の私達の実力では裔、微意、恣意これらの漢字の意味を答えることは難しいわ」
「しかし、俺と会長が力をあわせて謎を解けば・・・」
「真実はいつも一つよ!!」
「読みは二つかもしれないがな」
 うん、二人で協力してもダメかもしんない。
「裔はいくら考えても読み方を理解できる気がしないから、右の恣意から読み解いていくわ」
 いきなり、なさけねぇー・・・
「うーん、カンだが最後は「○○い」って読むんだろうな・・・」
「バカでもそこは分かるわね」
「はーい!バーカーでーす!!」
0104僕と彼女の裔、微意、恣意 中22012/05/30(水) 04:16:27.31
「問題は前の読みよ次に心と書くわ・・・」
「見方を変えれば二つ欠けた心とも読めるな・・・」
  てんてんを二って見ただけだけどね・・・
「うーん、意外とそんなネガティブな意味の言葉かもしれないわね・・・」
「え!会長、マジで!?」
「うん、貴方がそう言った瞬間から私にはそんな感じに見えてきたわ」
「漢字だけに!」
「・・・・」
「・・・」
「・・・・・・」
「ゴメンなさい・・・」

「つまり、貴方の意見を取り入れるとこの漢字は二つ書けた位の心の意という漢字になるわ」
「おお!そう言われたらなんかこの漢字の意味が段々見えてきたぞ!」
「いいわ、言って見なさい」
「つまり、心が欠けてるような思いの奴って意味だ!」
「そのままじゃない・・・と、言いたいところだけど時間もないしこの際それでいいでしょう」
「読みは?」
「面倒だからこの際「【なんとか】い」でいいわよ。意味は要約すると身勝手な男ね」
  何で、男限定?それにしても身勝手な奴と言う意味かぁ・・・じゃあ、タイトル的には「僕と彼女の身勝手な奴」になるのか?なんか日本語として可笑しいが、でも身勝手な奴というのは会長にピッタリだな!
0105僕と彼女の裔、微意、恣意 下2012/05/30(水) 04:16:54.85
「次はこれよ微意」
「実はこの漢字なら、俺カンが当たりそうな気がするんだよね」
「はっ・・・「にい」が?」
「すみません・・・」
「読み方だけなら、多分これは【びい】よ」
「え、分かるの!?」
「微妙の微に意味の意よ。普通に考えれば分かるでしょう・・・」
「それじゃあ!意味もかんたんじゃん!!」
「・・・まぁ、言ってみなさいよ」
「微妙な思いだろ?つまり、気の小さい臆病者っていみだよ!」
「流石にそれはネガティブすぎじゃない?でも、読みは【びい】で意味は要約すると謙虚的な思いってところね」
  つまり、タイトル的には僕と彼女の謙遜的な思い?うわぁ・・・ありえねぇえええ!!俺と会長の間にそんな謙虚さなんて皆無だよな。
「最後は裔ね」
「これは流石に分からなくてググッたな」
「読みは【えい】意味は「血筋の末。子孫」よ」
「つまり、タイトルの意味は 僕と彼女の子孫 って事だな」
「なぁ、会長・・・」
「何?」
「俺達の子孫はどんな子になると思う?」
「そうね・・・」


次のお題「パッパライヤピーィヤ」
0106「パッパライヤピーィヤ」2012/05/30(水) 20:15:13.28
 田中くんはいじめられていた。原因は田中くん自身にある。何故なら田中くんは何をされても「パッパライヤピーィヤ」としか答えないからだ。
 バーカ、と言われて「パッパライヤピーィヤ」、鳩尾を殴られて「パッパライヤピーィヤ」、お金をたかられて「パッパライヤピーィヤ」、裸にされて「パッパライヤピーィヤ」。
 「パッパライヤピーィヤ」では伝わらないのだ。痛いだろうな、辛いだろうな、そういう部分が、伝わらないのだ。だから。原因は田中くん自身にあると思う。
「ねえ田中くん、君はもっとちゃんと自分の感情を伝えるべきだよ」
 放課後、ゴミ箱に隠されたランドセルをあさる田中くんに僕は話しかけてみた。「それとも、それが君の唯一の防衛法なのかな? 「パッパライヤピーィヤ」に逃げているのかな?」
 田中くんはゆっくりと振り返り、僕を睨んだ。そして言った。「パッパライヤピーィヤ」
「何なんだよ、「パッパライヤピーィヤ」って……」
 更に田中くんは言い募る。「パッパライヤピーィヤ」。僕はなんだかイライラしてしまって、田中くんの股間を思い切り蹴り上げた。
 「パッパライヤピーィヤ」と田中くんが呻いたので、僕はもう一度殴った。

お題思いつかないんで継続で(U^ω^)
0107パッパライヤピーィヤ2012/05/30(水) 20:54:20.29
商品企画部の布藤ウリンは鼻息を荒くして社長室に飛び込んだ。
「社長、今ちょっといいですか!」
「布藤君か、なんだね騒々しい。わしは今、韓流ドラマを見るのに忙しいんだよ」
「そんなものを見ている時ではありません。例の商品が完成しました」
「例の、というと、パッパラパーとかいうあれか?」
「違います。パッパライヤピーィヤです。ごらんください!」
ウリンはふくよかな胸の谷間から、例の商品を取り出した。
「布藤君、なんでそんなところに隠しておくんだ?」社長は眉を顰めた。
「機密保持のためです。私の胸なら絶対安心です」
「胸よりもあそこのほうが確実ではないかな」
ウリンは赤面して俯いた。
「申し訳ございません。このパッパライヤピーィヤはまだそこまで安全性が確認されておりませんので、体内への隠匿には躊躇いがありました」
「まあいいだろう。とりあえず商品を見せてくれ」
「はい、どうぞ。手にとってよくご覧下さい」
「どれどれ、ふむ。これはなかなか緻密に作り込んであるね。日本の技術はまだまだ韓国には負けん気がしてきたよ」
「ここをこうすると、二十か所が独自に可動します。この技術は只今特許の出願中です」
「なるほどなるほど、そしてこれが覗き穴というわけだね。ほほう、これはきれいだ」
「社長、それは逆です。こちらから見るのです」
「ああ、そうか。道理で視野が狭いと思ったよ。おお、確かにこれは凄いな」
「三時間視聴しても目が疲れません。マウスで実験済みです。千時間連続して見ない限り視神経が焼き切れることはないでしょう」
「ところでこの突起は何かな?」
「あ、それは気をつけて下さい。非常用のバイブです。空気が振動して鼓膜が吹っ飛ぶ恐れがあります」
「なるほど、注意しておこう」
「山梨の工場では、既に量産の準備ができています。あとは社長のゴーサインを頂ければ世界中にこのパッパライヤピーィヤが広まります」
しかし社長は考え込んだ。
「社長、いかがしました? 何か問題でもございますか」
「うーむ、精巧な商品だが、一点だけ気になることがある」
「というと?」
「パッパライヤピーィヤという名前。これはわけがわからん。すまんが別の名前を考えてくれ」

次「俺の知らない美少女フィギュア」
0108俺の知らない美少女フィギュア2012/05/31(木) 02:04:50.41
その日、私は骨董屋を巡っていた。午前中から数件、行きつけの骨董品店をめぐり、何か好みのもの
はないかと物色するのが、たまの休日の過ごし方である。
その店ではカメラのレンズを見ていた。最新のレンズも良いのだが、古いレンズもまた良い。その店は
特にそういう品を得意としていた。
学生の頃から通っているが、だいたい同じ場所に爺さんが座っており、これがいつ来ても変わらない。
もう10年以上おなじ場所に座っているから、多分動かないのだろう。私は目当ての骨董レンズを手にとった。
ドイツではなくロシア製ライカという珍品で、作りはいい加減だがそれがまたいい。ライカのレプリカである。
と、そのとき。
店の奥に目新しい張り紙があるのを見つけた。
「美少女フィギュア」とある。
フィギュア…。なんとこの店に似合わない単語。私はコピーライカをそっちのけで、その怪しげないっかくに
歩を進めた。
「いいの入ってるよソレ。人気だよ」 突然後ろで声がする。
「わ!」
私は驚いて振り返ると、そこに爺さんが立っていた。この調度品は、実は動けたのか。
「流行ってる…んですか」
「人気なんだよ」
爺さんは言う。展示を見ると、女だてらに甲冑をまとった日本人形があり「神功皇后」と書いてあった。
「あの…」
雛人形である。
「いいだろ」
じじい。
売価は15万。爺さん曰く江戸期の掘り出し物だそうだ。そういう人形が何個も陳列されている。
「こっちが楠木正成」
もう美少女ですらない。ちなみに、若者の購入者はいないそうだ。
「若いのがたまに見に来るけどね。買ってかねぇよ。値段があわねぇのかな。かどの玩具屋じゃ売れてるって聞くが」
値段の問題ではない。私は持っていた雑誌を見せたまたま載っていた美少女フィギュアを見せ、これを説明した。
「たいして違わねぇじゃねえか…。こちとら漆と錦だぞ」
爺さんは小さくつぶやいた。
「プラッチックじゃねぇんだぞこの野郎」
爺さんは言う。
                                    次 「部屋に何十何百とある缶詰の秘密」
0109部屋に何十何百とある缶詰の秘密2012/06/03(日) 00:10:02.91
缶詰と糞尿の部屋で幼児が泣いている。缶詰は幼児を産んだ女が
置いていったもので、缶詰を置いていったことで自分には殺意はないと
今まさに学生時代に好きだった歌手の曲を歌いながら自己弁護していた。

しかし三歳の幼児が缶詰の開け方を知っているだろうか?
幼児を泣かせている原因は空腹ではなく熱さだった。今夜、東京地方は
連続する熱帯夜の観測記録を更新しようとしていた。
幼児は締め切られた部屋で熱中症にかかっていた。捨てられた雑巾の
塊のようにぐったりして微かに呼吸のリズムで背中が上下するだけだった。

母親が部屋を出て行ったときは冷房をつけていったはずだった。
しかし電力がストップした。計画停電ではなく、原発にテロリストが
進入し占拠した。電力会社は要求どおり一部地域で送電をストップさせた。

女のいるカラオケルームのスタッフが休憩室でそのニュースを見ている。
スタッフはリーダーにそのことを報告しようかと思う。
そして客に知らせるのがサービスだと思うから。
でもそのスタッフはリーダーのことが嫌いだった。

幼児が泣いている。肌に白い結晶は張り付いている。今まで彼の体内にあった
ミネラルだ。彼が呼んでいるのは女かそれとも別の何かか?


次 掲げよ、希望という名の音を。


0110掲げよ、希望という名の音を2012/06/03(日) 11:52:47.58
――こうして、革命は成功した。
流血は避けられなかったが、国民の未来には自由が広がっていた。
「よし、鐘を吊り上げよ!」
「あいあいさー」
指導者エビスチニコフのかけ声と共に、長らく横倒しにされていた巨大な鐘が引き上げられていった。
顎髭の指導者の傍らには、書記官であるイサーニャ女史が恋人のように寄り添っている。
鐘は朝日を浴びて、黄金色に輝いている。素晴らしい景観だった。
「いいぞいいぞ、鐘を鳴らすのだ! 我らの勝利の雄叫びとして!」
周囲に集う、人、人、人。彼らは、おーっと大歓声を上げた。
革命の功労者である若き闘士ゴメスポロンが鐘を付きはじめる。
その瞬間、巨大な鐘がエビスチニコフの頭上に、二人に蓋を被せるように落ちてきた。
「きゃあ、助けて」イサーニャは突如降ってきた闇に驚き、エビスチニコフに抱きついた。
「心配するな。ちょっとしたアクシデントだよ。あの忌まわしい蹂躙の日々に比べれば、この闇は瞬きのようなものだ」
エビスは、ゴメスポロンの実兄であり彼自身が怪力の持ち主でもある。
満身の力を込めて、釣り鐘の闇をこじ開けた。
「あっ……」
「これはいったい?」
開かれた視界は、しんと静まりかえっていた。先程まで沸き返っていた国民達がいない。革命さめやらぬ街もなくなっていた。
あたりにあるのは、遙かなる高原。そして空には、なんと巨大な翼が悠々と飛んでいる。
「エビス様、あれは翼竜ではございませんか?」
「うむ、向こうの草原でブロントザウルスらしきものが草を食んでおる。ここはもしや」
「タイムトラベル……したのでしょうか、太古に」
「らしい」
エビスはイサーニャを抱き寄せ、突如与えられた究極の自由に、戸惑いを隠せないでいた。

次「妹、大爆破!」
0111妹、大爆破2012/06/03(日) 16:24:34.16
「妹」が好きだ。まだあどけないバランスの、しかし確かに女とわかるそのフォルム……「妹」の見た目が好きなのだ。
 まさか性的な目で見ているのか、と問われれば、否、ただただ純粋にその見た目が好きだ。そういった好きのカテゴライズを超越した好きなのだ。
 それから僕は爆破も好きだ。バラバラになっていくさまを眺めると、何やら学術的な興奮さえ覚えるのだ。

 そしてもちろん、僕は「妹」を爆破した。
 三回も。
 最初の爆破で「妹」は真っ二つに千切れた。次の爆破で頭が取れた。最後のやつで「妹」は細切れになった。もう元が「妹」であったなんてわからないほどに。
 楽しかった。記録を残してあるので、皆さんにも楽しんで欲しい。
 妹
 女 未
 女 一 木
 く ノ 一 一 人 十


次「ぼくらの三分間戦争」で(U^ω^)
0112僕らの三分間戦争2012/06/03(日) 22:36:12.53
ブツン

 ヘッドマウントを外した少年は同じ机についている他の子供たちを観察した。みなヘッドマウントをしたまま鼻から血を流し、死んだように動かない、いや、「ように」ではない、実際死んでいるのだ。長い長い戦いの末に。

「終わったのか……」

 少年は右の壁に掛かった飾り気のないシンプルなデザインの時計に目をやった。一時三分。あれから三分しかたっていないのか。私たちは三百年余り戦ってきたというのに。

 少年は立ち上がり右から順番に動かない少年少女たちの肩にやさしく手を触れていった。そして最後に少年のすぐ左に座っていた少女の側で立ち止まった。
彼女のもともと白い肌は死んでいっそう白く透き通り、美しい。対称的に真っ赤な唇。少年は手を伸ばし指先でその唇にそっと触れた。そしてそれを自分の唇に当てた。

 開け放たれた窓からは夏の爽やかな風が吹き込んでいた。遠くに見える芝生の丘には犬を連れている老夫婦が何かを語り合っている。すぐ側にいる若い男女も夫婦だろうか、妻が抱き抱える赤子を夫があやしている。

 少年は目を細めてそれを見つめていた。私たちが守ったもの。すべてではないが、報われた。意味はあった。

「終わったのだな」

 蝉の鳴き声が響いている。日差しが陰から出ている肌を焼いている。緑の匂い、何処からかふわりと漂うお菓子の香り。

「終わったのだ」

 少年は確かめるように何度もそう呟いた。何度も、染み込ませるように、反芻するように、丁寧にゆっくりと現実を味わった。

 ……不意に訪れる眠気。何故だろう、瞼が重たい、感覚が鈍くなっていく。嫌だ、閉じたくない、まだこの景色を、今を、生を、感じていたい。まだ、まだ、まだ……

ブツン

次のお題 「白雪慕情」
0113白雪慕情2012/06/04(月) 22:35:43.82
白雪ことスノウホワイト29歳は魔女に頼んで薬リンゴを食べ
7人の小人を雇って純朴なる王子のキスをせしめるも婚約には至らなかった。
「白雪さんって一回りも上なんですね」
その言葉に白雪は死羅幽鬼となり王子に飛びかかる。王子裸足で遁走し
野を越え山を越え川を越えてある寺の釣鐘に隠れるも
白雪大蛇となりて鐘に巻きつき口から吹雪を吐いて王子を凍殺してしまった。
「やっちまった……これで私のシンデレラプロジェクトも終わりね」
白雪はガントチャートを破き一路函館に向かった。津軽海峡はカモメ見つめ
凍えそうでああああ〜。朝市でイクラ丼を食べ、これは旨い!★3つだ。
しかし函館に職はなく雪の日高へ向かいヒグマと面接した。
「血のように赤い唇の雪女は要りませんか……」
しかしヒグマは冬は休業だ。鹿に面接しても断られた。キツネ、フクロウ、
山の仲間は冷たかった。北の野生は7人の小人よりも厳しい……。
流れ流れて旭川三六街のホステスとして腰を落ち着けた白雪は
はや35の冬を迎えようとしていた。そんな、ある夜……。
「スノホちゃん、あなたにお客様よ」
「え?誰かしら」
出て行くとソファに座るはあの王子。と高名な小野篁。王子は言う。
「僕は死にませ〜ん!しかも少し年を取って君のよさがわかるようになった。
あのときのことは謝りたい。僕と一緒に来てくれないか?といいたかったが、
君も年をとるんだね。忘れていたよ。やっぱいい、都に帰る」
王子は後輩の新雪ちゃんを連れて立ち去った。白雪大蛇に変じてこれを追うが
スーパーホワイトアローはJR北海道の誇る特急で追いつけない。
そして不幸な女白雪は新千歳で機影を見送り憤死する。その断末魔に呟いた
恨みの言葉を聞いて小野篁がかの有名な一文を書いた。
すなわち、「子子子子子子、子子子子子子」である。
一般に知られているのとは違い、これは正しくは
「しねしねしね、しねしねしね」と読む。

次「野武士にプロポーズ」
0114「野武士にプロポーズ」 2012/06/11(月) 04:37:39.77
明日の結婚式はやっぱり雨になるみたいだ。夕方のニュースでも
インターネットの天気予報でも東京は雨になっている。
――まあ、雨で悪いってわけじゃないけど出来れば晴れのほうが良かったな。
招待の人たちの都合もあるだろうし。

私は居間のテレビを両親と見ながらそんなことを考えていた。母は「まあ雨なの!」
って言うし父も「しょうがないなあ」とか言ってるから、なんだかそっちのほうが
へこんだ気持ちになってしまった。

野武士という渾名の彼にプロポーズした夜がなかったら、今ここにはいなかっただろうか?
それともやっぱり、運命という名の下にやっぱり結婚していただろうか?
あの初夏の夏、私たちは駅前で夕食を食べて彼のアパートに帰ろうとしていた。
住まいまでは歩いてかなり遠い距離だったけどバスも終わったあとだったし
タクシーに乗るにも私たちにはそんなお金はなかった。
「いやあ朝、自転車で来ようとしたけど雨すごかったからさあ」
彼はそういう。そういえばあの日も雨が降っていたんだ。確か傘がどうとか
会話したのを覚えてる。あの日じゃなかったかしら?
何はともあれ、私たちは夜の道を歩いていた。お腹いっぱいで好きな人と
歩いているのが幸せな気分だった。「結婚しよう?」と私が言った。
この先、何があっても後悔しないという気分だったら。
車のヘッドライト、静かな住宅街、夜の匂い。


感性の海。理性の海岸。
0115感性の海。理性の海岸。 2012/06/12(火) 09:34:54.28
 この世界には、まず海があった。そして海だけでは溺れてしまうから、必然的にそこには足場が
あった。普通、それは海岸、と呼ばれるのだろう。
 寄せては返す波に、音は無い。まるでスピーカーが壊れてしまったかのように、海は無音で波を
揺らせていた。不意に、突風が襲う。潮風に吹かれて、ああ、やはりここは海辺なのだと実感する。

 海岸には、様々なものが打ち上げられている。無数のベクトル、アフィン変換や、フーリエ変換、
群と代数学、楕円曲線とモジュラー、フェルマーの最終定理。本来実体を持たないであろう
それら数学的概念は、色鮮やかなオブジェクトとなって、海岸に点在している。
 無論、実体的概念が無いというわけではない。黒に近い茶色のそろばん。定規とコンパス。
大学ノートと鉛筆。ホワイトボード。プレゼンテーション。パーソナルコンピュータ。そして無数の
革新的なアルゴリズム。彼は数学者であると同時に、優秀な物理学者でもあり、プログラマでもあった。
 
 この世界は、彼の世界だ。もっといえば、脳を視覚化したものだ。とはいえこれを夢と呼ぶのは、
あまりに見当違いというものだ。この世界は、彼が死ぬ数日前に取った、自分の脳のコピー。
私は個人的な計算リソースの一部を用いて、時々そこに散策に訪れ、死んでしまった彼のことを思う。
 
「見て。世界はこんなにも変わったのよ。もはや人間は不死になった。計算リソースの許す限り、
好きな世界をエミュレートできるようになった。それでもあなたは、この世界に絶望し続けるの?」
「便利になったことは認めるよ。でも僕が求めた世界は、ここにはない」
「なら、あなたは過去に行きたかったの? 何も無い世界で、ゼロから何かを作り出す喜びを
欲していたの?」
「いや違う。そうじゃない――何て言えばいいんだろうな。僕は結局、何かを欲しがるフリをする
だけで、何も欲していなかったのかもしれない――」

 彼はいつもそこで言いよどむ。私は何も言わない。波の音は聞こえない。心地よい静寂が、
あたりを包み込む。そう、無理に答えに辿り着かなくてもいい。
 私は今も、彼を愛している。

次「オールマイティ」
0116オールマイティ2012/06/12(火) 23:22:38.39
海はうねり、盛り上がり、やがて崩れる。黒い波頭に切り取られた
高い高い青空が、揺れる桶の水みたいに、慌しい破線を描いて
天と地を分かっている。俺は海水からオールを抜き、背筋を一捻りして、
逆の端を白い泡に切り込んだ。俺は冒険家、このカヤックとオール一本で、
伊豆からロサンゼルスまでを横断するつもりなんだ。
カヤックは常に波間の底にあって、滅多に水平線を拝めない。島も船も
見えなかった。眠るのもカヤックの上、頼れるものは、このオールだけ。
剛毅な俺だが、そんな男でも寝覚めには恐ろしい夢を見る。起きたら、
オールがなくなっていたらどうしよう。俺は指をきつく握る。樫のオールの
感触がある。大丈夫だ。さあ、今日の航海を始めよう……!
起きたら、カヤックがなくなっていた。
「畜生!」俺は悪態をついてオールをぶん回す。パラパラパラという
音とともにオールが回転し、俺の体は宙に浮く。そこを狙って大きなカジキが
飛び掛ってきた。オールを振り下ろし、それを袈裟懸けに真っ二つだ。
カジキの血に寄って来たホオジロザメをブレードで叩き、その背を飛んで
海を渡る。みよあれが因幡の国だ。因幡の国は太平洋だ。いま限定だ。
八艘飛びにサメの背を渡る俺の足に、平家蟹が腕を伸ばす。鋏の間に
オールを掴まれ、すわ!獲物を失うかと思いきや、俺は鋏を支点にオールと
一直線になって回転すると、オールはすっぽ抜けて、俺の体は高く高く
空へと舞い上がった。オールを胸の前に伸ばして水平飛行に移る。
やがて見えてきたのさ、あれがロサンゼルスの灯だ。俺はついに
オール一本で太平洋を横断した。ハロー、アメリカ。YMCA。
ユニバーサルスタジオに着陸すると、カヤックが先回りして出迎えてくれた。
こいつう。ハハハ。終わりよければ、オールライト!

次「ドリアンの木の下で」
0117ドリアンの木の下で2012/06/17(日) 02:00:21.41

 村一番の美人のシャリファーに愛の告白をした僕ムハンマドは彼女からドリアンの木の下で待つように言われて、現在こうして素直に待っている最中である。

 しかしなぜドリアンの木なのだろう?村にはもっと分かりやすい待ち合わせ場所がたくさんある。それにドリアンの木と言ってもどのドリアンの木なのか分からない、とりあえず村の近くで一番大きいドリアンの木を選んだ訳だが……。

 もしかしてドリアンに何か意味が込められているのかもしれない、ドリアンにはトゲがある。「私もドリアンのようにトゲがあるわよ」とでも言いたいのか?それなら大丈夫。少しくらい強気でじゃじゃ馬な娘の方がが僕は大好きだからだ。

 それとも……ドリアンのあの匂い、あの独特の匂いのように「あなたの存在も私にとって鼻を摘ままなければならないほど不快だわ」とでも言いたいのか?

 いや、それはない、そこまで彼女に嫌われる理由は僕にはないし、なにより彼女はドリアンが大好物なのだから。

 まてよ、ドリアンは果物の王様とも言われている。つまり、つまりは「あなたが私の王様、あなたこそが私というクイーンにふさわしいキングなのよ」という事じゃないか?

 そうだ、きっとそうに違いない、なんて奥ゆかしい素敵な人なんだろう、自分の想いをこんな形で示してくれるなんて。僕も彼女の気持ちにちゃんと応えるために、それなりのロマンチックな台詞を用意しとかなくちゃな……



 そんな事をムハンマドが考えている間にも、彼の頭上数メートル真上にある重さ十キロのドリアンは確実に彼の脳天をとらえて熟れた身を今か今かと揺らしていた。


次のお題「声を無くした街」
0118名無し物書き@推敲中?NGNG?2BP(0)
「声を無くした街」

 歩けばそこには、幾つもの空中投影されたフォログラムパネルが並ぶ。その多くは大手カンパニーによる新作モノや売れ筋商品の広告だ。
 多分何度か登録した生体データを下にした、僕の趣向を読んだ商品ばかりなのだろう。
「どうにかならないかな」
 いつもは都合よく利用させて貰っているけれど、待ち合わせ場所に急ぐ今日に限っては目障り極まりない代物だった。大昔にはパネルの右端には自己消滅を促すボタンがつけてあったらしいのだが、さてはて一体どうしたものやら。
「ごめん、待ったかい?」
「ん、ぜーんぜん。私もいま来たところだよ」
 そう言って実に灰汁のない笑顔で手をぎゅっと握ってくるのは、先日大型コミュニティルームで出会った女の子だ。
 なんだか話の馬が合ってその上僕には不釣り合いなほどに美人ときたもんだ。コミュニティルームからの帰りに、今度会ってくれませんかと話しかけられたときには三度自分の頬をはたいた。それくらい。
「う〜ん、どうしよっか。映画でも見に行くかな?」
 そう言ってポケットの中に入れていたチケットを握る手に、少し力を込める。
「まあ素敵!」
 ほっとした。どうやら出費は無駄にならずにすみそうだ。
『CAUTION! CAUTION!』
 けたたましい電子音とともに、目の前に大きな警告パネルが展開される。
「な、なんなんだ一体」
「まあ素敵! 楽しみだわ!」
「少しよろしいですか?」
 突然肩に手を掛けられる、振り向くと、スーツ姿にサングラスを掛けた、がたいの良い男が立っていた。
「な、何なんですか?」
「ちょっと失礼」
 そう言って男は、女の子の頭に手をかざす。
「停止命令を要求する」
「停止命令ヲ、受領シマシタ」
 そう言った途端に彼女は一切の動きをやめてしまった。
「危なかったですね。これは悪徳業者による販促AIなんですよ。いやぁ、本当に間に合って良かった」
 男の頭上に展開され得るコミュニケーションパネルがピコピコと動く。僕はただ、何が何だかわからないままに、立ち尽くすしかなかった。

次のお題「回って回って感染るんです」
0119回って回って感染るんです2012/06/18(月) 20:17:13.12
メトロポリタン・エクスプレスウェイをポルシェでローリングするのは
トップクラスにエキサイティングなエクスペリエンスだ。
シティのスカイドームをルックアップし、サンセットのホットな
ビームをボディにキャッチする。マイタイム・マイラブ……。
やがてストリートライトがビーナスみたいにリット・アップし、
アーリーサマーのナイトエアーがクールなフェイスと
セッションする。ああ、ブリージング……。
メトロポリスはネバー・スリープ。だが、ロードがエンプティに
なると、バッドなフェローたちがデビューする。
いや、ボーイズはデイタイムはジャスト・ユージュアル・シチズンだ。
ワインレッドのポルシェのスピード、ウィングレスな
フィールドのファルコンにサプライズし、ホットなハートを
シェイクされたフールたちが、ノー・マッチなバトルに
ウェイクアップするんだ。そう、まるでクレイジーなウィルスに
インフェクトされるみたいに……。
ローリング、ローリング。ミッドナイトをパスするころ、フェローの
ナンバーはアンカウンタブルになる。ウィンドはチリングなくらい
クールだが、ロードのテンションはアウトブレイクする。
エブリナイト・フィーバー。ローリング、ローリング、
ローリング・ティル・モーニング。ヘイ、カモン、ジョイン、ミー。
もしエグゾーストしたら、エクスプレスウェイからオフして
はなまるうどんでカレーでもコラボしようぜ。

次「あの日マニラの街角で」
0120あの日マニラの街角で2012/06/19(火) 22:37:23.14
深夜、女は突然ベッドから飛び起きた。
「私、やっぱり呼ばれているわ……」
女は囈言を繰り返した。
「呼ばれてるのね。行かなくちゃ、私は、行くんだ……マニラに!」
AV女優、小向萌奈子は夢のささやきに導かれるように、フィリピン行きの航空便に飛び乗った。

強風にスカートを捲られながらタラップを降りると、遠くから、陽気で雑然としたフィリピンの空気が吹いてきた。
「熱い……この気候、いつ来ても体が火照るわ」
小向萌奈子にとってマニラは第二の故郷であった。
小向萌奈子のフィリピン渡航歴は公式では2011年のみとあるが、実は誤りで2005年に一度訪れている。
その件は、事件の後に探偵の等々力鈴悟が裏付け調査を行っていた――
それはともかく、小向萌奈子はマニラの懐かしい場所に足を向けた。
数年前、彼女が住んでいた赤煉瓦の家屋。小向萌奈子が夢遊病のようにそのドアを開けようとすると、中からドアが開いた。
「中に入っちゃダメ」
小さな女の子が、小向萌奈子を通せんぼした。女の子はどことなく小向萌奈子に似ている。
「あなたは? まさか……ずいぶん大きくなったわね」
触ろうとする小向萌奈子を、女の子は後ずさりして拒んだ。
「おばちゃんは悪い人ね。いつもパパから聞かされてるよ」
「パパ? ニャマンタは元気なの? 顔が見たいわ」
「パパは今ママと愛し合ってるわ。だから入っちゃダメ!」
女の子はいつの間にか手に、小さなハサミを構えていた。近づいたら殺すつもりらしい。
日本から来たAV女優は激昂した。
「ママって誰なの? なんであなたは、血の通ってない女のほうの言うことを聞くのよ? ニャマンタに会わせなさい」
「ダメったらダメ! こっちに来ないで」
その日のマニラは特に暑かった。
アスファルトに揺れる陽炎を突っ切って、赤煉瓦の家にパトカーが駆けつけたのは、それから一時間足らずのことである。

次「ちび魔流子ちゃん」
0121ちび魔流子ちゃん2012/06/20(水) 10:30:56.08
彼女は背が低いことがコンピレックスだった。だから、鉄棒にぶら下がったり、縄跳びしたり、ヨガを行ったりもしたが一向に背は伸びなかった。
かくなる上はと黒魔術に手を出した。人を呪い殺すことができるのだから、身長を伸ばすくらい雑作ないはず。して、図書室で魔術の本を読み漁り、ようやくみつけた。悪魔召喚により願いを叶える術を。
しかし、悪魔との交渉には見返りが必要だ。寿命か、身体の一部か、運命か、何が妥当か分からない。それなら悪魔に尋ねようと、早速儀式を執り行った。
青空は次第に黒く厚い雲に覆われ、通りにたむろしていたカラスや犬猫が逃げ出していく。彼女の全身に電気が奔る。魔方陣に並べた蝋燭の火が消える。そして目前に稲光が落ち、煙りとともに悪魔が現れた。
やった、成功だ。喜びも半ばに本題に入る。身長を伸ばす見返りは何が良いかしら。彼女の問いかけに悪魔は困った顔で答える。処女は認められない、オトナになってから再召喚してほしいと。
ならば私の初体験を捧げます。彼女の意思は固かった。悪魔は久しぶりの人間の女に興奮して、直ぐさま彼女に覆いかぶさった。さすが悪魔である。人知を超えたテクニックで彼女を絶頂へと何度も誘う。
彼女はもう身長のことなどどうでも良くなった。このまま、このままこの絶頂が永遠になってほしい。
かくして、ちび魔流子ちゃんはびちマ○コちゃんになりましたとさ。チャンチャン。

次は「私は雨が似合うから」でおなにーしゃす
0122私は雨が似合うから2012/06/21(木) 19:38:34.08


 ドラマみたいだなと思った。

 部屋の入り口で立ち尽くす彼女、目の前にはベッドの上で上半身裸の僕と見知らぬ女。明らかな浮気現場だ。

 動揺も言い訳もしなかったのは、どう考えてもそれが無駄だという事がはっきりしていたというのもあるが、やはり一番の理由は僕の心が彼女から離れていたからだろう。
 ゴングが鳴った気がした。彼女は気が強いほうだし、浮気相手も負けず劣らずだ。メロドラマよろしく、これから壮絶な修羅場が展開されるだろう、そう思っていた。
 だが、予想に反して彼女は少し悲しそうに微笑んだだけだった。そしてくるりと振り返り部屋を出ていった。
 僕はそこでようやくあわてて彼女の後を追った。

「待って」

 彼女は玄関のすぐ外で立ち止まった。外は雨だった。悲哀を助長するような、静かに降る雨だった。雨に濡れた彼女の少しウェーブのかかった艶のある髪に、僕は、本当に勝手だけど、綺麗だなと思った。

「……濡れるよ」
「……私は雨が似合うから」

 そう言い残して彼女は去っていった。

 僕はなにもできなかった。というより彼女の為に何かを出来る権利を既にもって無かった。僕は見えなくなるまでずっと彼女の後ろ姿を見つめていた。


 後から彼女の知り合いに聞いた話だが、彼女はこれまで僕を含めて三人の男性と付き合ってきたらしい、そして別れた理由はすべて彼氏の浮気だったそうだ。

「私は雨が似合うから」

 今でもしとしとと降る涙のような雨の日には彼女のあの最後の言葉を思い出してしまう。


次題 「左の赤子、右の死体」
0123左の赤子、右の死体2012/06/21(木) 21:52:19.67
「ずぶり」
母の大きく膨れた腹に刃がくいこむ。
「びくり」
のたうつ母を無情の刃は切り裂いてゆく。
「どろり」
母の腹から子がこぼれ出る。
「べたり」
それを左へ。
「どさり」
切り裂かれた母は右へ。
「ぽちり」
コンベアが動き出す。
「ずぶり」
また新たな母に刃を突き立てる。
「びくり」
ここから先の光景を私は知らない。
「どろり」
知っているのはその更に先……












「「いただきまーす!」」
食卓に並ぶ母子の姿と、我が子たちの笑顔だけである。
0125sage2012/06/23(土) 09:26:34.59
「自給自足の果てに」

最初に、屋根にソーラーパネルを付けたんです。
エネルギーの自給自足っていうんですか?
地球温暖化とか原発の停止とか、最近話題じゃないですか。そこから始まったんです。
でも、エコロジーについてよく考えてみると、食料品の輸送にもエネルギーって使われているわけで。
で、家の脇に小さな畑を作ったんです。食料の自給自足です。
でも、CO2削減を考えるとそれだけじゃいけないと思って。
で、家の周りに木を植えたんです。酸素の自給自足って、表現おかしいですか? まぁ、CO2削減です。
そこまでしたんですけれど、庭は狭いので食料の自給自足も、酸素の自給自足も充分じゃない気がして。
で、都心にある家を売って、山奥に、そう、ここです。土地を買ったんです。
考えてみれば、電器を使わない生活をすればソーラー発電もいらないし、食べものも山の木の実や山菜をとれば
それでいいかなって。で、土地は買ったんですが家は作りませんでした。
ちょうどいい洞窟もありましたし、山林のままの方がCO2削減になりますしね。
初めて「空気がおいしい」という言葉の意味がわかりました。自分の山の、自給自足の酸素で。
住んでいるのが山奥なので、着るものも気を遣う必要もなく、自分の山林なので人に会う事も無いので
何も着なくてもいいかなって思いました。
で、裸のまま狩猟のためのナイフを持った、こんな格好だったんです。究極の自給自足のつもりだったんです。
自分は変態でも、変人でもありません。本当です、刑事さん。
ちなみに、ナイフからルミノール反応があったのは、狩りで獲物を仕留めたからです。でも、自分の土地でした狩りですよ。
先ほどからの質問の、最近この近辺で頻発している若い女性の失踪事件とは、自分は全く関係ありません。
だいたい、自分は肉の脂身が大嫌いなんです。
経験でわかります。この写真の女性の様なのは絶対に……。


次のお題は、「朝靄と雲のちょうど境の所に漂う」で。
0126朝靄と雲のちょうど境の所に漂う2012/06/23(土) 16:09:54.92
『朝靄と雲のちょうど境の所に漂う』

どうしても傍においてと願うなら
明日の朝一番、六時の鐘が鳴り終わる前に
丘の上の楓の木の下においで。
そこで僕は待っている、君との未来を携えて

しかし遅れてはいけないよ。
それから振り向いてもいけないよ。
どんなに視界が悪く、前に進むことが怖くても
両足が宙を蹴り、羽ばたくように空を泳ごうとも

進みなさい。朝靄と雲の境を
その先に、僕は待っている。約束する。
君に向って必ず手を伸ばす、と


次のお題は『小瓶と孫娘』です


0127sage2012/06/25(月) 01:02:31.87
私は今、小瓶を手にしている。祖父の形見の小瓶。白い陶器製の小瓶。
固く閉められたコルクの蓋は、私が子供の頃から一度も開けられていない。
それは私が子供の頃、親の実家に帰郷した時の話。
夏休みのある日、葦簀を立てかけた縁側で祖父が教えてくれた小瓶の謂れ。
「この小瓶の蓋を開けて言葉をかけると、思った相手にその気持ちが伝わるんだ」
そよ風が風鈴をやさしく揺らし、音階を奏でる。蝉時雨が遠くから聞こえて来る。
「けれども、一度しか使えないからな。使う場面に気をつけるんだぞ」
祖父のその言葉は、私の中の懐かしい思い出。いや、その言葉だけではない。

祖父の話は、荒唐無稽なものが多く、たぶん子供の私を楽しませる為に作った話だったのだろう。
冒険談とか、家にある古い品物の謂れとか。
私はそんな祖父がしてくれる話をいつも笑顔で聞いていた。子供ながらに作り話なんだとなんとなく分かってはいたけれど。

私はそんな小瓶のコルクの蓋をそっと捻る。
少し力を入れただけで栓は簡単に抜けてしまった。驚く程あっけなく。
そして、私は小瓶の口に向かって話しかける。
「私、おじいちゃんの話、好きだったよ。子供の頃、いつも夏休みに遊んでくれて、ありがとうね」
そうして、私はコルクの栓を閉めた。

今はもう、祖父のいない親の実家で、私は空を見上げる。抜ける様な青空に、入道雲がふんわりと浮かんでいた。
庭先には、祖父が植えたという沢山のひまわりが、こちらに顔を向けていた。
今年も私が来る事を待っていたかの様に。

次のお題は、「深夜だけの公園」
0128名無し物書き@推敲中?2012/06/26(火) 00:23:01.37
「深夜だけの公園」


山奥の、すっかり寂れた神社。
そこの裏手にある墓場では、死んだ年寄り二人の幽霊がどこからともなく持ち出した酒を酌み交わしていた。
「ハッハッハ、まぁまぁ一杯!」
「そりゃこの寺の住職が買った酒じゃねぇか」
「いいんだよ、あの住職ときたら酔えりゃあいいんだ。味なんかどうだっていいんだよ」
「おめぇ味なんかわかんねぇだろ」
「あ、そうだったわ!ハッハッハ!まぁ、あんなハゲたタコみてぇなのに飲まれるよりゃマシだ」
「おめぇ髪生えてねぇ所の騒ぎじゃねぇだろ」
「そうだったわ!ウワッハッハッハ!まぁ、死んだ奴へのお供えだと思ってもらおう!」
「おめぇたまに来る参拝客が墓に供えてる酒と食い物ガメてるだろ」
「あぁそうだったわ、ウワハハハハハハ!……ん?あそこにいるのは住職か!おぉーい!この際あんたもやらんかね!」
「おめぇここを生きてた時の公園と勘違いしてるだろ」


二人は仲良くその場で住職によって成仏させられた。



次は「スプーン」で
0129「スプーン2012/06/26(火) 22:13:27.10
さっきまでレストランにいたお客もコックもウエイターもいなくなり
いま厨房にいるのは、物陰からピカピカのシンクの上に這い上がった
ゴキブリのみ。ダクトの空調のうねりだけが死体置き場のような
厨房には誰もいません。と思ったらおやおや話し声がするみたいですよ!
みなさんも聞いてみましょう。

「おいフォーク! お前、スプーンに何したって言うの?」
乾燥させるために並べられた調理台の上からナイフが叫びました。

「なんのことでしょうか? 僕にはさっぱり…」
フォークは仕事から帰ってシャワーを浴びていい気分でビールを飲んでる
サラリーマンのように良い気分だったのに、ちょっと不愉快な気分で
答えました。今日は忙しかった。ませた餓鬼に乱暴に扱われてくたくたなのです。

「なんのことでしょうか? じゃねーよ。殺すから。今殺す」
ナイフはがちゃつかせた音を出しながらフォークに一歩近づきました。

フォークは前からナイフのことが嫌いでした。粗野で野蛮で
血の気が多い。ここがステーキ屋だからなんでしょうか? フォークは
そんなことを考えたこともありますが、他人のことを考えるのが
めんどくさいフォークは、そんな時、他人だからどうでもいいやと思っていたのです。
でも今はそれどころではありません。中世の騎士、あるいは日本の武士のように
ナイフとフォークは向かい合いました。

「何か言い残すことはないか? この世の見納めにさ?」
思わずフォークは笑い出しそうになりました。だってメロドラマの台詞みたいじゃないですか。
何か言い残すことはないかって。やっぱりナイフは馬鹿だなあ。フォークは思いました。
0130「スプーン」2012/06/26(火) 22:24:20.86
でもそれどころじゃありません。殺すとナイフは言ったのです。
フォークは死にたくないのですから、一歩後ずさりしました。フォークは
OLの口にぺろりと舐められるときの恍惚感をまだ失いたくありません。
ナイフはきっと知らないのでしょう。OLの唇の柔らかさと甘い息を。
ああ勃起しそうです。

ゴキブリは蛇口の雫を飲むのをやめて面白そうなことが起きそうだと
調理台までやってきました。コックが客を罵倒するのも面白かったですが
今回も負けず劣らず面白いものが見れそうです。だってナイフとフォークが
戦うんですよ! 馬鹿げてるじゃありませんか。それに実はナイフの誤解なんです。
スプーンはとてつもないビッチでウエイターの愛人なのですからフォークなんて
眼中にないんです。

さて向かい合ったまま長い時間が過ぎました。冷静になってみると
ナイフだって殺したくないんです。警察の御用になんてなりたくないですから。
その時、ホールの窓が一斉にガタガタいい始めました。台風がやってきたのです。



次は フライパンティ
0131フライパンティ2012/06/26(火) 23:22:20.22
2012年オトコリンピックロンドン大会2日目、フライ・パンティ70kg級の決勝は、
過去にないほどの接戦が予想された。出場選手は8名である。
1・アメリカ代表 ハンサム・スギルゼイ(28)
2・日本代表 馬上豊(15)
3・エジプト代表 スゲイ・イケーメーン(36)
4・ギリシャ代表 エラク・エロイデス(22)
5・サウジ代表 アラー・ニーサン・イォトコネイ(29)
6・イタリア代表 トッティモ・ゴッツィーネ(34)
7・ザンビア代表 ダカレ・タイワ(27)
8・中国代表 超良男(35)
「解説の松丘衆道さん、今回は凄い面子になりましたね」
「ええ、若いのから油の乗ったのまで、なんていうか、イイ!ね」
「さて、この競技ですが、その昔ギリシアで屈強な男たちが、競技場で女性から奪った
下着を空に放り投げる数を競うというものでした」
「何で女なんですかね」
「さあ・・・。それはそうと、現在では同様のことができないため、会場でワンタンを揚げて
その旨さを競うという料理対決になっています。これがそのワンタンです」
TVに大写しになった白いワンタンには、食紅でリボンの絵が描かれている。
「このフライド・ワンタンをパンティに見立てて、フライ・パンティを行うわけですね」
「きしめんをふんどしにすればいいのに」
「黙っててください。さあ始まります、日本の馬上選手、最年少ですが美少年です。
メダルへの期待がかかります。では、試合開始です!」
8人の選手たちがワンタンを揚げ始める。遠くからでも皮膚に光る汗がキラキラ輝いていた。
やがて揚げおわった選手たちが次々に審査員の下へ皿を運んでいく。
「超良男選手、10.0、9.9、9.5、10.0、8.9」「スギルゼイ選手、4.5、6.8、3.2、5.3、7.1」
「ああ、われわれの馬上選手は…!!」
結果、金は中国の超良男、銀は日本の馬上、銅はゴッツィーネとなった。決め手は
箸さばき。揚げたワンタンを迅速に鍋から取り出すスピードこそが、勝負の分かれ目だった。
「やりました日本、今大会はじめての銀!ではインタビューです、馬上選手、ご感想は?」
「わけわかんねーっす」

次「スイミングブラジャー」
0132スイミングブラジャー2012/06/27(水) 07:18:26.36
男は問う、「なんで…?」  女は言う、「………………」
激しい豪雨のせいで男は聞き取れない。男は痛みと消えそうな意識を保つために一度唇を噛んだ。
もう一度、男は問う。「なぜこんな事するんだ!!」  もう一度、女は言う。「……………から…」
業を煮やした男はこみ上げる痛みを怒りに変えて女に叫んだ。
男は叫ぶ、「ふざけるな!!俺が何したってんだ!!何で刺されなきゃならないんだ!!」
女は叫ばない。 男は叫ばない。女は男に歩みを進める。男は歩けない。女は男に近づいて来る。
男は動けない。 女は男に抱きついた。 男は動けない。
女は言う、「あなたがくれたアレ…気に入らないから。真っ白すぎて私には似合わないもの」
女の手が動く。男の身体が前に折れる。女の手が離れる。男の身体から赤いしぶきが弾ける。
水たまりに倒れた男は腹部を抑え、もがき苦しみながら女を凝視している。
女は言う、「真っ赤なプールで溺れてるみたい」
男の悲鳴は響かない。雨に消されて響かない。 女の歓喜は鳴り止まない。雨音が喝采に聞こえてくる。
男のまぶたは開かない。 女のまぶたは閉まらない。赤く染まった水たまりに倒れた男を見下ろしたまま………

「みたいなノリの裏テーマがある新作ブラ「スイミングブラジャー(血の池ブラ)」です♪」
「いや…笑えねーし怖いんだけど。てか何?(血の池ブラ)って。( )いるの?( )の中って必要なの?」
「あなた色に彼女を染めてね♪」
「いや、男が染まってたよね?先に男が染まっちゃいけない色に染まってたよね?」
「あなたから出た液体で彼女を染めちゃおう♪」
「出ちゃいけない液体だったよね?!出ちゃダメな液体の話だったよね?!ねぇ!?」
「染めちゃわないと彼女に逃げられちゃうゾ♪」
「こっちが逃げるわー!!二度と来るかァー!!」

次「カフェオレラプソディー」
0133カフェオレラプソディー2012/07/01(日) 08:17:20.59
   『カフェオレラプソディー』

          朝倉 建次 著


 耳をつんざくほど静かなバスの車中、僕は乗客に対して主導権を握っていた。年配の運転手も

女子学生も、老若男女問わず屈強な大男でさえ縮み上がっている。右手に握っているこの模造銃に、

生命の危機を感じて怯えていた。それでも嘘っぱちだけじゃないんだ。安全装置を外した爆弾を

鞄の中に詰めている――それだけは本物だった。

 薄暗い照明の中、バスはゆっくりと目的地へ向かっている。終着は松山市。かつて城を中心に

栄えた城下町の名残が今も色濃く残る町で、道後の温泉街が有名だ。西側は瀬戸内海に面していて、

周囲を高縄半島の山々に囲まれた、こじんまりとした地方都市だった。

 そこに憎むべきあいつは、今ものうのうと暮らしているんだ。
0134カフェオレラプソディー2012/07/01(日) 08:17:54.25
 おかしなものが目に留まった。何度見返しても、後部座席から数えて三列目の背もたれから

うさぎの耳が飛び出していた。近づいてみると女子高生らしき女の子が、頭にうさぎの耳をつけて

座っていた。なんて格好をしてるんだと呆れていると、彼女と目があった。

「文化祭の帰りなので仕方ないでしょう」

 鼻に付く物言いに、無性に腹が立つ。目上の人に話すときの礼儀ってものが分かってない。

これがゆとり教育の弊害なのか。生き死にを握っているのは、僕だってことがまるで分かってない。

「まだ到着までにしばらく時間があるし、バスジャック犯さんの身の上話でも聞かせて」

 強気な口調とは裏腹に、膝の上に置いた拳を握り締めていた。説得の材料を見つけ出そうとして

いるのか、単なる時間稼ぎなのか。何はともあれ、その勇気に免じて少しばかり経緯を語ろうと思った。

 通路を挟んで隣の席に腰を下ろし、煙草に火を点けた。
0135カフェオレラプソディー2012/07/01(日) 08:18:35.79

 テレビや新聞で取り沙汰されるような、よくある怨恨だった。僕には一昨年から付き合い始めた

年下の彼女がいた。付き合うきっかけが寝取ったことだったせいもあって、自尊心をくすぶられた。

付け加えると彼女には自傷癖があって、僕だけを頼りに生きているという大袈裟な心持ちが、

しがないサラリーマンにとって日々の原動力となっていた。ところがある日、出張を一日早く切り

上げて家に帰ると、僕のベッドで彼女は会社の同僚と熱帯夜を過ごしていた。問い詰めてもごめんな

さいの一点張りと泣く喚くで話にならなかったが、僕と別れてすぐその男とくっついた。毎日のように

その男と会社で顔をつき合わせる僕にとって、苦痛でしかなかった。自尊心もアイデンテイティも

粉々に砕け散って、会社を辞職した。それからというもの、仕事もなく平日も家にひきこもっていて、

ただ許せないと言う復讐の火が日増しに燃え広がり、今に至ったのだ。
0136カフェオレラプソディー2012/07/01(日) 08:19:35.86

 押し黙って聞いていた彼女は、しばらく考えるとぼそっと呟いた。

「あなたはコーヒーね」

「珈琲?」

 オウム返しのように口をついて出た。

「だけれどカフェオレになって生きるという宿命を背負った人間なの」

 僕が理解できないという素振りを見せると、じれったそうに口を開いた。

「噛み砕いて言うと、孤独を背負って生きていくことが向いてない人ってこと」

 認めたくないけれどはっきり言って、彼女の言っていることは的を得ている気がした。ただそれを

珈琲に例える理由はまったく分からなかった。

 そうこうしている内にバスは、あいつの住むアパート、大鷹町のハイツ西岡の前に到着した。

 あとはあいつを呼び出して、爆弾のスイッチを押すだけだった。だと言うのにうさぎ耳の女子学生が

何を言っているのか気になって仕方がなかった。
0137カフェオレラプソディー2012/07/01(日) 08:21:26.80

「何で珈琲なんだ?」

「コーヒーはそれだけでも成り立ってる。でもカフェオレになりたいのならミルクが必要でしょう。

だから今のあなたを形容するにはぴったりだと思ったの」

 機知の富んだ比喩になんとなく納得してしまった。と言うより、呑まれてしまっただけかもしれない。

「カフェオレになりたいと強く願っているのに、コーヒーで居続けることはひどく辛いでしょう」

 確かにその通りだ。女子高生の例えを使うならば、あいつは僕にとってかけがえのない牛乳みたいな

ものだった。二人でやっと一人前になれる関係のはずだった。

 憂いの眼差しでじっと見つめられていると、急に腹立たしさが怒髪天を突いた。 

「何だその目は、お前に馬鹿にされる筋合いはない! 分からない癖に偉そうな口を叩くな」

「そんなことで自暴自棄になってるあなたこそ、何も分かっていない。分かった振りをして、

自分だけは誰よりも利口だと思い込んで、他人を罵るしか脳のないあなたにそんなことを言う

資格はないわ」

 車内にこだました一喝が、自分を冷静へと導いた。
0138カフェオレラプソディー2012/07/01(日) 13:17:21.88



 沈黙を続けるこのバスの周囲を警官隊が取り囲み、辺りが騒々しくなってきた。上空で旋回する

ヘリが空気を切り、プロペラの音がけたたましく鳴っている。

 後悔はある。でももう取り返しがつかないんだ、後戻りできる状況じゃない。頭がこんがらがって

爆弾のスイッチに手が伸びたとき、彼女は静かに言った。

「実はわたしもコーヒーなの。あなたは恋人を探してるよね、でもわたしは家族を探してる。

幼いころ蒸発した両親に捨てられたの。それでもずっと心の奥底ではいつか家族と交じり合って、

カフェオレになれると信じている。手に入らないものだと分かっていても」

 彼女が心に抱えていた爆弾は、僕が持っている爆弾よりずっと大きくてきっと耐え難いものだった。

「まだ見つけられるじゃない。あなたがカフェオレになれるようなそんな人を」

 なんて自分はちっぽけなのだろうか。裏切ったあいつへの復讐心みたいなものが、すっと

かさぶたになって落ちた。

「ありがとう、すべきことがわかったよ」
0139カフェオレラプソディー2012/07/01(日) 13:20:34.68


 バスの先頭に立って一礼し、両手を上げながらバスを下車した。警察の怒号が飛び交う中、

僕がやたらと落ち着いていたのは、彼女に救われたからだろうか。

 手首に嵌った手錠を見て、痛く後悔した。彼女は警察に同行される僕を見て笑っていた。

それは蔑むような目じゃなくて、応援してくれているような温かい笑顔だった。



 次のお題は、『午後三時、列車は動き出す』です!
0140sage2012/07/01(日) 16:23:15.22
「午後三時、列車は動き出す」(楡)

「私ね、イタリアに行って、本格的に服飾デザインの勉強をしようと思うの」
車窓からの景色を眺めながら、僕は彼女の言葉をぼんやりと思い出す。
彼女と出会ったのは、ちょうど1年前の夏。
当時の僕は、ウエブデザインの仕事を干されつつあった。
デザインがワンパターンになっていて、面白みがないというのがその理由だった。
起死回生をかけて僕が考えたのは、色々なデザイナーの集まるパーティーへの参加だった。
そこで、彼女と出会ったんだ。

停車駅を知らせるアナウンスが車内に響く。
また、駅に停車か。僕は、腕時計をイライラしながら眺める。
彼女の搭乗する便の出発時間はこうしている間にも近づいてゆく。
いや、始めから間に合う訳はないんだけれど。
僕の決心が遅れてしまったせいだ。
駅で停まった列車は音も無くドアを開ける。降りてゆく乗客、乗ってくる乗客。
そんな見知らぬ人々に、僕は剣呑な眼差しを向ける。

僕が成功したきっかけは、彼女のデザインからのインスパイアだった。
言い方はいろいろあるかも知れないが、彼女のデザインエッセンスを取り入れる事で、
僕はスランプから立ち直った。
そうして、僕はこうして自分の事務所まで立ち上げる事ができたんだ。
0141sage2012/07/01(日) 16:24:00.57
数ヶ月前の事、もうすぐデザイン学校を卒業する彼女に、僕は誘いをかけた。
……僕の部屋のベッドの中で。ひとつのシーツに包まりながら。
「卒業したら、僕の事務所に来て欲しいんだけど」
彼女は一瞬なにかを考えるそぶりをした。
「私が望んでいるのはそういう事じゃなくって……」
「君となら最高のビジネスパートナーになれると思うんだけど」
「それは私の望みじゃないから。……私は」
「君の望みはなに?」
彼女は少し機嫌を損ねた顔をしながら言った。
「……本格的にデザインの勉強がしたいの」

なんでその時僕は気がつかなかったのだろう?
自分で自分が歯がゆい。
列車のドアが音を立てて締まる。
やっとか。けれども、いまさら。
僕はどうしても言わなくてはならない事があって、こうして彼女を追っている。
けれども、時刻表どおりに進んでも、空港に着いた時点で彼女はすでに空の上だ。
それでも僕は自分をどうする事もできなくて、それでも列車に乗っている。

出発時刻を過ぎても駅から列車は動かない。エアコンも切れてしまっている。
車内にアナウンスが響く。
「ただいま、首都圏全域に大規模停電が発生しました。復旧までしばらくお待ちください」
こんな時に。僕は運のなさを呪った。いや、自分を呪うべきなのかもしれない。
もう少し早く決心して、もう少し早く出発していれば。
0142sage2012/07/01(日) 16:24:30.83
そういえば……首都圏全域っていってなかったっけ?
僕は慌てて携帯をとりだすと、空港へ電話をかけた。
「大規模な停電が起きたという事ですが、今日出発の○○便は、何時に出発ですか?」
愛想のよさそうな声で事務員が答える。
「確認したところ、停電は1時間との事ですので、点検の後に止まっている機から順次出発
 しますから、おそらく午後4時には出発できると思います」
今は午後2時。1時間後に列車が動くとして……。
僕は逆算をした。間に合う。
僕は頭の中で彼女に告げる言葉を繰り返していた。
電話では決して告げる事のできない思い、彼女へのプロポーズの言葉を。


次のお題は、「新緑の香りと海の思い出」です。
0143sage2012/07/01(日) 20:08:54.96
そういえば……首都圏全域っていってなかったっけ?
僕は慌てて携帯をとりだすと、空港へ電話をかけた。
「大規模な停電が起きたという事ですが、今日出発の○○便は、何時に出発ですか?」
愛想のよさそうな声で事務員が答える。
「確認したところ、停電は1時間との事ですので、点検の後に止まっている機から順次出発
 しますから、おそらく午後4時には出発できると思います」
今は午後2時。1時間後に列車が動くとして……。
僕は逆算をした。間に合う。
僕は頭の中で彼女に告げる言葉を繰り返していた。
電話では決して告げる事のできない思い、彼女へのプロポーズの言葉を。


次のお題は、「新緑の香りと海の思い出」です。
0144名無し物書き@推敲中?2012/07/02(月) 23:40:33.81
「それは草原を駆ける風。僕は海を見つめ遠く水平線を思う。
あれはまだ僕が幼いころ――どこかの海岸で見た波打ち際で遊ぶ少女。
危ない! 誰かが言った。きっと波が高かったのだろう少女は
足をとられ波に飲まれる。でも一瞬後、少女は立ち上がる。
水着から膨らみ始めたばかりの胸の先が見える。そして暑い夜。
僕は波の音を聞きながら昼間の少女を思う。そう僕は恋をしたのだ」

「あのねえ。あなた遊びに来てるの? テキストちゃんと読んでないでしょ?」

講師は首を振ってこいつは駄目だというように手を腰に当て溜息をついた。
ああまったくわかってないのだ。新感覚って奴を。これが新感覚。
わかるかなあ?

ソムリエ講座にて


次 たそがれ講座




0145名無し物書き@推敲中?2012/07/03(火) 09:27:16.28
そう、もう少し首を曲げて、ああ駄目駄目、肩の力を抜かなきゃ。
そうです、だいぶよくなりましたよ。あと、視線は下。下とをただ見るだけじゃないんですよ。
あなたは今、リストラされて、家に帰る気にもならず、途中の公園のベンチに腰を下ろして、
足下のアリを数えてる。わかりますか。数える、これ、意外と重要なんです。しかも、それに
意識を集中するでもなく、ただ数える。それが出来ないと、修了証は出せませんからね。

「たそがれ講座」の一幕でした。

次、「蜘蛛と雲とが」
0146名無し物書き@推敲中?2012/07/03(火) 22:18:44.41
蜘蛛と雲とが

 私は気怠い午後を過ごしていた。たまの休みだというのに、午前中雨が降っていたから
だ。雨が上がり、私は図書館に出掛ける準備をする。ふと見ると、庭先で蜘蛛の巣がシャ
ンデリアを作っていた。蜘蛛はとっくに、どこかに逃げ出してしまったようだ。
 雨雲は依然として上空に居座っている。図書館には到着できるかもしれないが、帰り道
に降られる危険性もあった。自転車で雨の中を帰るのは難しい。雨上がりまで、図書館の
お世話になることになるかもしれない。
 蜘蛛が作るシャンデリアは、美しい。雨を受けて無数の水滴がきらめく様子は、まるで
本物のシャンデリアのようだった。私はケータイを取り出し、それを撮影してツイッター
に投稿する。「蜘蛛と雲とが」適当なタイトルをつけて、画像を投下する。
 昔、自由研究で蜘蛛の巣のシャンデリアが何故できるのかを調べようとしたことを思い
出す。たくさんの本を読み、先生に質問し、それでも答えが得られなかった。自由研究は
白紙で提出した。無論大きな声で怒られたが、もしそのとき怒られていなければ、小学生
の記憶なんてものはまるきり残っていなかっただろう。
 私は、流体力学、水の粘性など大学に行って色々学んだ。今では、シャンデリアの生成
プロセスについて、ある程度の説明ができるようになった。
 だが、それだけだ。私はたいしたことのない論文を提出し、大学を卒業した。
 一匹の蜘蛛が、窓辺に巣を作っていた。天気予報によれば明日は雨だというのに、蜘蛛
は気圧の変化を頼りに蜘蛛の巣の建造に取り掛かる。案の定、雲は成長し、にわか雨が振
り出した。糸のまわりに水滴がくっつく。蜘蛛は慌ててその場を立ち去る。
 雨粒が蜘蛛の糸にぶつかり、綺麗なシャンデリアができあがる様子を、私はずっと見て
いた。世の中には不思議なことがたくさんある。私はケータイを取り出し、シャンデリア
にカメラの焦点を合わせた。美しさ。それは、天の与えたもうた、奇跡である。
 
9mmパラベラム弾
01479mmパラベラム弾 2012/07/06(金) 00:38:32.24
♪With the lights out it's less dangerous〜Here we are now〜Entertain us♪

A「これ誰の曲?なんか聴いた事あるなぁ」B「NIRVANAってバンドの曲だよ。このイントロ超有名だぜ?」

A「へー、そうなんだ?海外のバンド?」B「おう。お前が好きな9mm Parabellum Bulletだってカヴァーしてんじゃん。知らねーの?」

A「あー!!これが元ネタ?!マジか!」B「…元ネタって言うなオリジナルって言えファック野郎」

A「…いきなり素になんのやめてくんね?」B「Nevremindってアルバムあるから聴いてみろ。ド定番のCDだよ。ほら貸してやっから」

A「えーいいわ別n(ry」B「ああ?なに?あんだって?」

A「邦楽しか聴かないって知ってるでしょ?洋楽とか英語わっかんねーし」B「黙れファッキンアダム」

A「おおっと何だそのネーミングセンス」B「NIRVANAなめてっとマジ○しちまうぞこのファッキンカフェ野郎」

A「おおっと伏せ字。ここでまさかの禁止用語」B「おめーなんか9mm弾で○んじまいな!パンパンパン!」

A「オゥ、ジーザス!俺の頭にボンバヘッ!」B「何言ってんのばかじゃないの」

A「おおっとネタに乗った俺にまさかの対応」B「そろそろオチが欲しいところだな」

A「おおっとここでメタ発言。これはイタイ」B「こんな話があるんだ…」


次「Mr. & Mrs. Berry」
0148名無し物書き@推敲中?2012/07/08(日) 01:52:36.26
Berry夫妻の馴れ初めは、直江津で起こったある事件である。
「ったくやんなるぜアレとかコレとか」これは旦那の山田一郎。高校生である。
「きゃー、遅刻しちゃう!」これは妻の岸田美咲である。
二人はある十字路に別方向から近づいていた。一郎は徒歩だったが、不幸なことに、
美咲はジャムトーストを咥えてデコトラ『流星号』を運転していたのだった。ドカーン。
「いてて…」一郎の気がつくと、十字路の中央に胴切りになった高校生の瀕死体が
横たわっている。よく見ると自分だ。何かを言おうとしている。
「兄ちゃんすまねえ。よけ損ねた。オレはもうダメだ、オレの体を使ってくれ……」
瀕死の体が事切れた。一郎は混乱した。え、じゃあ俺の体、いまどうなってんの?
一郎の体は、デコトラ『流星号』と入れ替わっていたのである。運転手の若い女は
ハンドルの上に突っ伏していた。
「警察が来るわ!逃げるのよ!」金切り声が聞こえる。見る? と、助手席の
ダッシュボードに鎮座した古い三菱のエンブレムが叫んでいた。
「美咲は意識を失っているわ。あなたを轢き殺したせいで、ここに留まると
警察のご厄介になる。積荷を時間通りに届けられないと岸田組の名折れよ。
あんた、このまま福島へ向かいなさい!」
わけもわからず事故現場をあとにする一郎。うなるサイレン。赤い回転灯。
重量に任せて検問を突破し、関東平野に入ると様子がおかしい。
「計画通り。関東は全域停電よ。この大混乱があれば、200キロくらい余裕!」
三菱の言にしたがって福島へ向かう。だが美咲の意識は戻らない。
夜になっていた。ふくいちの南4キロの地点で、積荷を工作船に移し替える。
乗組員は南米系の屈強な男たちだ。『あの娘、寝てますぜ。始末しますか?』
『船に乗せろ。この車は足が着いたらしい。情報を残すな』
乗組員は美咲を降ろし、金目のものも漁っていった。次に意識が戻ると、一郎は
積荷の戦闘用アンドロイドになっていた。三菱と流星号のエンブレムが両肩についている。
「いやっ、助けて!」日本語の悲鳴が聞こえる。一郎は乗組員に襲われている
美咲を助け、チリに上陸、中米ベリーズに行って麻薬組織の傭兵となった。
駆け足となったが、のち二人は結婚し、ベリーズ夫妻のコードネームで呼ばれた。

次「とろろいもを下着にする」
0149とろろいもを下着にする2012/07/08(日) 19:52:13.18

 発掘された石碑に掘られていた言葉に学者達は頭を抱えた。

「とろろいもを下着にする」

 文字通り解釈すべきだろうか?それとも何かのメタファーなのか?馬鹿馬鹿しい、考察するに値しないと言う者もいたが、非常に価値のある歴史的遺跡の近くで見つかったので無視する訳にもいかなかった。そこで数名の有識者達が集まり議論が開かれた。
「そのままの意味で、とろろ芋を下着にしようとしたんじゃないでしょうか?」
 ある若い学者が先陣を切った。
「もちろんとろろ芋をそのまま使用するのではなく、それをどうにか加工して下着の素材に使ったんじゃないでしょうか?」
 皆はは首をひねり唸った。考えられなくはない、考えられなくはないのだが、どうも違う気がする。
「諺とか例えのようなものなのではないでしょうか?」
 別の学者が新たな説を唱える。
「とろろ芋を下着にするとかぶれますよね?つまりそれほど愚かな行為だとか、結果の分かりきっている事だとかそういう意味の例えなんじゃないでしょうか?」
 この説には何人かが良い反応を示したが、決定的とは言えなかった。
 それから数時間議論は続いた。何かの暗号、死者を神にするための儀式、恥ずかしがりやの回りくどい恋文等々……。様々な説が出されたがどれもこれも満場一致で納得できるものではなかった。
 長い議論に皆が疲れて新しい説を唱えるものもいなくなったときだった。
「そんなに深い意味はないんじゃないの?」
 ふいに側でずっと議論を聞いていた清掃員のおばちゃんが呟いたのだ。
 一同は皆おばちゃんに注目した。
「いや、当時の若い子達の遊びみたいなもので、適当な訳の分からないお題を出して次の人がそれを元に文章を作るみたいな……」
 会場中がどっと笑いに包まれた。学者達は腹を抱えて笑い、中には呼吸ができなくて倒れるものもいた。おばちゃんは恥ずかしさのあまりその場に縮こまり自分の軽はずみな言動を深く反省するのだった。


次題 「折鶴姫」
0150さとし(3さい)2012/07/09(月) 15:39:26.00
カーテンをあけると春の朝のやわらかな日差しが部屋に広がった。
眠い目をこすりつつ、すぐる(14)はベッドに腰掛けたが、すぐに違和感を覚えた。
―ない。
昨日の夜までベッド横のテーブルにあった折鶴が見当たらない。
まだ入院したばかりの頃に、思いを寄せていた同級生の鶴島鶴子が
持ってきてくれた、大切な折鶴がどこにもないのだ。
(寝ている間に看護婦さんが片付けたんだろうか?いやそんはずはないだろう。
あの折鶴が大事なものだということは看護婦さんも知っているし…)
すぐるは頭を抱えて昨晩眠りにつくまでの記憶をたどり始めた。
すると突然、窓がガタガタ激しく鳴った。
ハッとして顔を上げると巨大な鳥が羽ばたく姿が目に入った。
顔だけが鶴島鶴子の奇怪な姿だった。
「とろろいもを下着にしろー!とろろいもったらとろろいも!!!」
と血走った目でわめき散らしていた。
すぐるは現世に深い幻滅を感じ、カーテンを閉めてちからない足取りでベッドに
戻った。
目をつむるとすぐに睡魔が襲ってきた。
すぐるは深い眠りについた。
0151さとし(3さい)2012/07/09(月) 15:42:02.26
次のお題は「神社と浮浪者」です。
0152名無し物書き@推敲中?2012/07/10(火) 22:46:10.16
「神社と浮浪者」

 その老人は最初は子どもたちの間で知られるようになった。いつも境内の片隅の石の上に腰を下ろし、にこにこと善良そうな笑みを浮かべるその老爺に、
子どもたちは親しみを感じた。
「おじいちゃん、誰?」
「儂はここの神様じゃよ」
「じゃあ、何か不思議なこと、やって見せて」
「駄目じゃよ。儂は力を使ってはならんことになっておる」
「エーでも、ちょっとだけでも」
「仕方がないのう」
 そう言って手を出した老爺の指先から、小さな噴水が現れた。
「わーすごい」
 子どもたちは大喜びで、家に帰って親に話した。親たちはそれを怪しみ、おそらく浮浪者がちょっとした手品を使って子供を騙すのだろう、問題が起きてからでは大変だと、
その誰かが警察に連絡した。
 警察は任意で事情聴取すると言って、 老爺を拘束し、尋問した。
「神様だなんて、誰も信じないですよ! それでも本当だと言うなら、奇跡でも見せたらどうです? それも手品なんかじゃなくて」
「じゃから、禁じられておるのじゃ」
「はいはい、何が起きてもうちで責任取りますから、やって見せて下さい。でないと、帰せませんよ」
「知らぬぞ。では見るがよい」
 老爺が立ち上がり、手首に巻き付けてあった紐を引きちぎった。足を一つ踏みつけると、そこから水が噴き出した。水の柱は次第に太さを増し、
いつしか数百メートルにも達し、あたり一帯は水没し始めた。警報が発令されるいとまもなく、その町は水没し、なぜかその中に神社のあった丘だけが小島のように残った。
 その晩、その島に光が降った。光はいつもの石の上の老爺の前で止まった。
「儂はまたやってしまいました。は、わかって下さいますか、では、もう一度封印を、よろしくお願いします」

次、「酒と女と世界平和」
0153名無し物書き@推敲中?2012/07/13(金) 13:38:19.40
「酒と女と世界平和」

 俺がこのピースフル帝国の皇帝になってから、ずいぶんと経つ。禁酒法と禁女法……こ
れは俺の国民支配の根幹となる政策だ。
 アルコールに触れた者は死刑。婚前に女と触れた者も死刑。これまでに多くの連中がこ
の政策に反対したものだが、皆あの世に送ってやった。今では、反論の声を聴くこともめ
っきり減った。俺は心が広い。別に反論するのはかまわない。だが、遠かれ近かれ、そう
いう者には事故死という運命が待っている。
 先日も、倉庫に隠れて禁酒法と禁女法を破る集いを開いていた無法者たちを、帝国の重
装歩兵たちがその場で殺処分した。犯罪者に整った墓は要らない。死体はまとめて穴に放
り込み、上から土を被せる。世界平和のためには、多少の犠牲はやむを得ない。
 そして今日、医療に使うためにアルコールを認めてほしいという嘆願が上がってきた。
その医者が言うには、アルコールには消毒効果があるというのだ。そこで試しに眼前で実
演させてみた。アルコールの臭いを嗅いだ患者は、医者の持つボトルをひったくってそれ
を飲み始めた。医者は青ざめた。
 やはりアルコールは毒だ。お慈悲を、お慈悲をと繰り返す医者を、衛兵たちが断頭台へ
と連行する。私が女王(もちろん結婚している)を見ると、彼女はそれを受けて微笑んだ。
 ピースフル帝国にはアルコール中毒者は居ない。女狂いも存在しない。まさにユートピ
アである。であるというのに、不思議なことに国境から逃げ出そうとする輩が多い。
 そういう連中は、毎日ワインが飲めるだとか、女に触り放題だとか、そういう夢物語に
踊らされた連中がほとんどだ。寛大な心を持つ俺からしてみれば、連中はとても哀れな存
在だが、無論、その後に待っているのは死だけだ。
 来年には、禁酒法と禁女法を認めぬ周辺小国への、大規模な遠征も計画されている。こ
れは歴史に名を残す聖なる戦いとなろう。禁酒法と禁女法を三千世界に広め、野蛮な人々
に正常な思考力を取り戻させるのだ。アンチ・アルコール!

「喋る自転車と兄を失った妹」
0154喋る自転車と兄を失った妹2012/07/15(日) 10:36:53.99
嵐含みの風が暗い林をうならせている。曇天はおぼろな雲の小片を
恐ろしい早さで吹き流していた。ここは箱根の山の中、谷に開けた名もなき草野だ。
キキッ……自転車のブレーキ音が響く。林道に停まったママチャリに
跨るのは、セーラー冬服の女子高生だ。娘は自転車を降りると、
サドルを緩めてそれを抜き取った。
「気をつけろ陽子、やつはもう来ている」サドルが喋った。陽子は右手にサドルを提げ、
腿まである草を分けて道を離れる。と、フフフという女の笑い声が野に響いた。
「来たわね小娘。このあたしを倒そうとは笑止千万。何が目的か知らないけど、
その蛮勇だけは褒めてやるわ!」
突然、野草の間からリクスーの女が飛び上がった。手にはマウンテンバイクの
サドルを振りかざしている。暗い空を背景に、女の口だけが赤く光った。
陽子はサドルの両端を持って最初の一撃を受けた。重い! 
体勢を立て直す暇もなく、次の一撃が横から襲う。今度は受け損ね、
リクスーのサドルが陽子の肋骨に食い込んだ。セーラー服が野に倒れる。
「お粗末。もっと修行してから来るべきだったわね」
苦痛にあえぐ陽子の股間に、女のサドルが押し当てられる。「ああっ!」少女が叫んだ。
「くはは! 美咲、今日の獲物は若いな!」女のサドルが哄笑した。
「命までは取らないわ。でも、もう無茶はしないことね。あなた、弱い」
一分ほど押し当てたのち、リクスー女が手を引いた。と、体を折り曲げた陽子が震えながら言う。
「違う……外れだわ……それはお兄ちゃんのサドルじゃない……」
「何?」美咲が聞き返す。ふらつきながら立ち上がった陽子は、すでに冷めた目をしている。
次の瞬間、一陣の風、いや影が、草の間に交錯した。
「はぐぅ!」うつぶせに倒れた美咲の尻に、陽子のサドルが押し当てられる。
「どうだ! これが日本一のサドル師、鞍馬振一の技よ!」陽子のサドルが叫んだ。
勝負あり。気絶した美咲には目もくれず、陽子は自転車の元に帰った。
「ああ、お兄ちゃんのサドルを使っているサドラーがいれば、消息がわかるかと思ったのに」
目に涙を貯める洋子。「気を落とすな。いつか、きっと見つかるさ」
帰り道、坂を下りながらサドルが言った。「ところで」「何?」
「尻はあの女のほうがよかったぜ」

次「鳥と牛と海とが」
0155名無し物書き@推敲中?2012/07/16(月) 00:31:28.87
 「出ようか」
 ジュリアはそれだけ言って、僕の手を握った。

 15歳の夏、僕は叔父の運転する軽トラックに乗っていた。
 久しぶりに会えた叔父と、学校のことや、家族のことを話していると、一人の外国人が運転席の窓から顔を突っ込んできて言った。
 「殺さないで!海の一部なのです!」
 叔父はハンドルを切りって、少し離れた場所に車を停止させると言った。
 「仕事の邪魔すんじゃねー!」
 僕は何が起こったのか理解できず、呆然としていた。車が走り出した後も、緊張したままで、心臓はドキドキしていた。
 少しすると叔父が前を向いたまま、口を開いた。
 「なあ、ケン。生き物は全部同じ命をもってるんじゃねえのか。牛だって、鶏だって、鯨だって、命の重さは一緒なんじゃねーのか」
 その語気が強かったので、僕は何も答えることが出来なかった。
 「鯨が海の一部だってさ、だからなんなんだよ。だったら牛は大地の一部で、鶏は空の一部じゃねーのかよ。なあ、ケン」
 その問いかけに、ようやく僕は答えることが出来た。
 「でも、鶏は飛べないよ」
 「あ、そうか、お前、賢いじゃねーか」
 叔父は少し笑うと、また真顔に戻って言った。
 「なんだって、同じよ。全部何かの一部だし、全部尊い命なんだよ。なあケン」
 僕はやはり、また何も言えなかった。
 そして、僕は今でも何も言えないままだ。
 すぐ横の、美しい水槽のなかで、美しいイルカが泳いでいる。。僕絞める作業を見たし、何度もイルカを口にした。生きるということは他の生物を殺すこと。
 それは、分かっている。しかし、いまここで泳いでいるイルカを、自ら殺して食べようと思えば、僕とは違う、「何か」になる必要があるように感じられてならない。
 僕は牛も鶏も鯨も、全部殺した。だから生きている。しかし、その事実は机上に書かれた文字のように実感がない。
 食べるとは何だろう、生命の尊さとは何だろう。纏まりを欠いた頭の中で鳥と牛と海とが、ぐるぐる回る。

 その時、僕の手を振動させながら、ジュリアが言った。
 「サーティー・ワン行こうよ」
 「アイス、いいね」
 僕は笑顔で頷いた。
 “そうさ、僕らは加工された肉を食べているだけで、どんな生命も、一匹たりとも殺しちゃいない”

 次、「送信せよ」
0156送信せよ2012/07/16(月) 10:03:51.67
艦長は、金属製の操作パネルにある、『vision』と書かれたボタンを押した。
目の前に半透明のスクリーンが降りてきて、映像を映し出す。映像には、銀色の宇宙服をまとって、タンクを背負った彼の二人の部下が映し出されていた。
「艦長、無事着陸しました。遠くに生物らしきものが見えます。もう少し近づいてみます」
「生物だとして、どんな相手か分からない。注意して近づくんだ」
初めて来る惑星にはどんな危険があるとも限らない。

過去に、地球を温暖化から救う為の世界規模で開かれた気候変動枠組条約締約国会議という物があったという。
世界的な景気の悪化と、自国の利益を優先する各国の政治的思惑で、けれどもその会議は数回で終了してしまったらしい。
この会議が実効性のあるものになっていれば……。艦長はほぞを噛んだ。そして、遠くをみつめた。
地球を離れてもう数年にもなる。代替の惑星なんて、そんなにみつかるものではない。
各国より選りすぐられた、屈強な男ばかりの乗組員にも疲れの色が見えてきている。
「知性の低そうな生物なら、駆除できそうかどうか確かめてくれ」
自身が侵略者になるのは艦長の本意ではなかった。しかし苦渋の決断をしなくてはならない時もある。

「艦長、生物が見えました」
「どんな生き物だ? 危険そうか?」
「私の……私の娘です」
「違う、あれは地球に残してきた俺の彼女だ」
隊員の声が、それぞれスピーカーから流れてきた。
「よく見るんだ。モニターには、もやの様なものが映っているだけだぞ」
艦長は二人に注意を呼びかけた。
「いえ、艦長、こうやって触っても、娘の感触しかしません」
「いや、俺の彼女だ。この柔らかなふくらみ、長い髪、俺が間違える筈がありません」
どうやら、生物は見た者の一番愛する者に変化するらしい。艦長は一瞬、何かを考える素振りをした。
「感触までもか。とりあえず、危害を加える生物では無いんだな」
「あたりまえです。私の愛する……」
「当然です。俺の彼女ですよ」
「とりあえずその生物をよく調べたい。こちらに送信せよ」
艦長は、思い描いていた。お気に入りの風俗嬢をベッドに乗せ、隅々まで調べている自分を。

次のお題は、「夏の渚は水着と下着」で。
0157夏の渚は水着と下着2012/07/18(水) 20:26:46.21

   『うたかたの渚』

 瀬戸内海にほど近い一軒家のベランダに、少女が一人立ち尽くしていた。小型漁船の行き交う潮騒を真剣な眼差
しで見つめている。黒目がちな瞳には思春期の希望に満ちた輝きはこれっぽっちもなく、陰気な容貌がことさらに
強調されるばかりだった。蝉のぎらついた羽音や元気いっぱいに飛び回るカモメたちの陽気な歌声とは裏腹に、
ぼさぼさ髪の彼女には鬱屈した雰囲気が取り憑いている。

「だめよ、わたしもう逃げないって決めたんだから。ちっぽけな人生とはおさらばするの」
 携帯電話に何やら文字を打ち込み、自分の部屋に駆け込む。さとみは机の上に置いてある筆箱からハサミを取り
出すと足早に洗面所へと向かい、鏡の前に立つとためらうことなく自分の髪の毛を引っ掴んで勢い良く切り落とした。
流し台に長い毛の束が溜まる頃には、小ざっぱりとした健康的な少女に生まれ変わっていた。部屋に戻る途中、
台所でくつろぐ母親がぎょっとした顔で固まっていたのを横目で流し、階段を上って自室に転がり込んだ。ベッドに
転がる携帯電話を開くと新着メールが一件。さとみはメールを見終わると唇を真一文字に結んで頷き、自分を奮い
立たせるようにほっぺたを両手で二度叩いた。慌てた手つきで箪笥から市松模様の水着を引っ張り出し、着替えが
終わると薄手のパーカーをさっと羽織って大急ぎで部屋を出た。靴の紐を結びなおしていると、母親が恐る恐る足を
忍ばせやって来た。
「あんた散髪なんかしちゃって、どっか行くのかね?」
「ちょっと用事があってさ。そこの岬まで」
「引き篭もってばっかりだったあんたが珍しいねえ、とにかく気を付けて行っておいでよ。そういえば、さっき先
生がいらしたみたいで郵便受けに宿題やら連絡事項が入った袋を入れてくれたみたいだけど――」
「これから会いに行くから、お礼は言っとくね」
 首を傾げたままの母親を置き去りにして、さとみは自転車のサドルにまたがり外に飛び出していった。日に焼けてい
ない白い肌がまぶしい。潮風に吹かれながら防波堤沿いの旧道をひた走ると海に岩場が飛び出した場所に着いた。
ガードレールの脇に自転車を停めると、呼吸を落ち着かせながら岩場の先端まで歩いていった。
0158夏の渚は水着と下着2012/07/18(水) 20:32:20.37
 調度その時、自転車のすぐ側に一台の車が停まった。降りてきたのはさとみの学級を担当する松木圭一。助手席
に乗っている女は降りる気配を見せず、少女に近付いていく松木を目で追うだけだった。さとみが助手席に座る女に
気付いたとき少しばかり落胆したようにみえた。

 二人は対峙し、さとみは松木の目を見てもどかしそうに俯いた。
「髪型変えたのか、結構似合ってるじゃないか。学校のことで相談でもあるのか」
 松木の問いかけに黙って首を横に振り、拳を握り締めていた。沈黙が続く。静寂を破ったのはさとみだった――突如、
海に身を投げた。松木が制止する間もない一瞬の出来事だった。松木は血相を変えて岩場の先端まで走って覗き
込むと、さとみはあっけらかんと手を振っていた。岩場の高さは三メートルほどで命が危険に晒される可能性はなかった。
「はらはらさせるなよ。怪我とかしてないか?」
「松木先生、わたし逃げることやめたんです」
 さとみの瞳は真っ直ぐ松木を捉え、きらきらと潤っている。もう陰気な少女の影はどこにもなかった。
「もし好きになってくれるなら海に飛び込んでください」
 松木はしばらく黙り込むと天を仰ぐ。悩める松木を見つめる少女の顔には不安ではなく決意がにじんでいた。事の
顛末を承知の上だったのだろう、何かを言おうとさとみが口を開いた瞬間、松木は服を脱ぎパンツ一枚で間髪入れず
海に飛び込んだ。不細工な水しぶきを上げ、水面から顔を出した松木は笑っていた。予期せぬ出来事にさとみは目を
見開いて幽霊でも見てしまったかのように口をあんぐりと開ける。
「飛び込んどいてなんだが校内での恋愛はご法度だぞ。でもまあプラトニックな関係ならありかもな」
「うそ、だって松木先生には助手席に彼女さんが――」
 岩場から二人の様子を心配するように女が覗き込んだ。松木はすまんと言いながら手を振った。
「兄ちゃん何やってるの? 生徒と馬鹿やってるって教育委員会に報告しちゃうよ」
 どうやら、さとみが恋人だと勘違いしたのは松木の妹だった。夏の渚に水着と下着がうたかたの恋に溺れた。


次のお題は「朝まだきのこと」です!
0159名無し物書き@推敲中?2012/07/18(水) 22:43:01.33
朝まだきのこと


朝日の昇る前の時間。
帳を上げる者が怠ける時間、目覚ましより早く起きた私はランニングウェアに身を包み、長い髪を後ろで結び、お気に入りの音楽が入ったプレイヤーを再生させ家を出る。

ぼやけているのは視界か思考か、朝靄のせいか?とにかくはっきりしない世界。だがそれがいい、相手も自分も何となくで捉える時刻。足りない部分を想像で補う時刻。

足取りも軽く目的地の自然公園にたどり着く。
ふと少し離れた違うコースに二人の男性ランナーが走っているのに気付く。視線を感じる。見られている。私は緊張して顔を少しだけ下に向けた。しかし直ぐに思い直し顔を上げる。そうだ、今は相手の顔もはっきりしない彼は誰時。この時刻を選んだのもそのためではなかったか?

私はいつも以上に綺麗なフォームを心がけ彼らの心に刻み込むように美しい女性ランナーを演じた。

そう、それは朝まだきのこと、曖昧な部分を願望で完成させる時刻。


次題「薄氷のコンタクト」




0160名無し物書き@推敲中?2012/07/19(木) 09:12:23.71
「薄氷のコンタクト」

「薄氷とか、この季節の話じゃないぜ、絶対に」
「わかっているさ。でも、俺に取っては今が唯一のチャンスなんだ」
 雰囲気をゆるめようとしていって見たのだが、彼の表情は変わらない。
 まあ、当然ではある。
 俺たちがいるのは、標高三千五百メートルの高地。まさに真夏の日差しが背中を焼く中、向かっているのは氷河に連なる湖だった。
気温が低いこの地では、湖と言えど、その表面は凍っている。ただ、さすがに今その氷は薄くなって、今なら……そして今年なら……。
 俺たちはようやくその湖の畔に立つ。岸部を回って、氷河の末端へ向かう。
「それじゃ、捜索にかかるか」
 俺が荷物を下ろしながらそう言ったとき、彼は既に氷の上に立っていた。
「加世子……!」
 それは彼の婚約者の名だった。数年前、この氷河の上流でクレバスに飲まれた。深い氷のひび割れに落ちた死体を探すのは不可能だ。
それが出来るのは、流れ下って湖に入ったとき、そしてその表面の氷が薄くなった季節、つまり今。
 彼は、大声で名を呼びながら、氷をそのこぶしで叩いていた。
「見つけたのか? じゃあ、道具を持っていくから、そんなに慌てると」
 俺の口から出せたのはそこまでだった。
 彼が叩いた氷が割れ、その姿は瞬時に水に飲まれていた。助けに行きたかったが、既にあちこちひびの入った氷の上には、危なくて進めない。
ようやく足場を組んで引きずり上げたとき、彼はまだ氷に包まれた彼女を抱きしめて、事切れていた。

「誇大怪獣現る」
0161誇大怪獣現る2012/07/20(金) 06:08:16.58
 なにげなく言った言葉に命が宿って、一人歩きを始める。
 次から次へ伝播していくうちに、それは輪郭を持ち始め、都合のいいように進化していく。

 ある日、奴は帰ってきた。
「どこをどう歩いていたの」
「へえ、あの教室を出たあと、美崎くんの弟や妹、それから、電話相手の山下さんなんかにお世話になりましてね、日曜日
にガストで大いに盛り上がって、勢いで隣のテーブルに飛び移ったんですわ。そこからは、小学校、幼稚園なんかを転々と
しまして、一時などはケネディ宇宙センターなんかも通って来たんでっせ」
 お茶をすすりながら、奴は誇らしげに言う。
 全身毛むくじゃら、時速100キロ、髪の毛を全部引きちぎる、舌は2メートル伸びる、一日30人は食べる、垂直の壁を這う。
「人間じゃなかったの」
「最初はそうでしたがな、いつの間にかこうなりましてん」
 奴が、遠くに思いをはせるような仕草と共に言う。
「確かにあの教室で俺が産声を上げたときは、ただの男でしたからな、しょうじき不安定やったんですわ、だってあんさん設
定も曖昧でしたやろ」
「そう言われても…」
「深夜にJRの高架を這う人を見たって、なんでんねん。どんな人なのか、大きさは?痩せてるの?太ってるの?何色?
性格は?おとなしい?荒い?握力は何キロ?分かりませんやろ」
「いや、そんなことは話の本筋に関係ないことなんだ」
「本筋!?話が通ったらそれで、ええんでっか?対象のアイデンティティはどうなりまんねん。あんさん自分勝手な人でんな」
「まあ、作り話だからね」
「あんさん、分かってませんな、ぜんぜん分かってませんわ、ええでっか、作り話と言ってもでんなtgyふじこlp;:」

 最初人間だったものが、誇大に誇大を重ねて、いつの間にか怪獣と呼ぶにふさわしい存在になって帰ってくる。
 おぼろげに原型をとどめた誇大怪獣。深夜、受話器越しに現れたそいつとしばし話したあと、俺は眠りについた。
 多くの都市伝説がそうであるように、今噂になりつつある、この誇大怪獣も、そのうち皆の熱が冷めたら、消えていくだろう。
 一緒に茶を飲んだ記憶だって…

次のお題→「戦場の太鼓持ち」
0162戦場の太鼓持ち2012/07/21(土) 15:27:55.66
「はー。つまり儂はタイムスリップとやらでこの時代に来てしまった、と?」
「ええ、そのようです。日食が起こる時にそのような事が起こり戦闘機と共に部隊が空に消えてしまったという報告もあります」
「ふーむ。しかし儂はその戦闘機とやらは知らぬ。何より儂は合戦で法螺貝を吹いただけにござる」
「何故かはわかりませんが…何かが引き金となって今の時代に貴方が送られてしまったのでしょう」
「好きで来たわけではない。それより法螺貝はどこに?」
「知りません。いいですか?貴方が来たこの時代は昭和20年、世界中で戦争が起こってる最悪の時代なんですよ…」
「そうか。何があろうと我が国に敗北はなかろう?それより法螺貝を」
「知らん。何でも米国では最強最悪の兵器が完成したと聞きます…一番の敵国であるわが国にそれが使われないとも限らない…」
「法螺貝を」「貝貝うっせーな。でんでん太鼓ならあるからそれ持っとけやハゲ」
「ハゲちゃうマゲや。マゲ。マゲや、マゲ。ハゲちゃうからな」
「弱った…こんな時に関西弁ハゲマゲの面倒など見ていられない…ここ硫黄島が戦線の要というのに…」
「おいハゲちゃう言うとんねん。マゲやマゲ。マーゲ」「うっせー黙(ry
ーゴォォォォォォオオォォォォォォォオオオオォォォン…ー
突然、上空から轟々と鳴り響く音が聞こえて来た。その先には戦闘機の群れが空を埋め尽くしていた。
「来たぞー!!敵だー!!総員戦闘…っ?!ハゲ?!武士はどこに行った?!」

「あれがこの時代の敵か。なかなかおどろおどろしい格好じゃ。されど我が国、容易くは落ちぬわ!!」
激しく鳴り響くでんでん太鼓。緊張感に押されていた日本兵達は太鼓を鳴らしながら突き進む武士の背中を目で追った。
「然様な絡繰りを使わねば我らと対峙する事もままならぬ脆弱な敵共よ!!おのれらに我が国は破れはせぬ!!いざ、尋常に勝負なり!!」
激しく鳴らしていたでんでん太鼓を脇に差し、両手に刀を携え迫り来る米軍に一人で突き進む。
その勇ましい姿に心燃やされた日本兵達も一斉に米軍へと突き進む。
一人の武士と幾人もの日本兵達。弾ける土煙の中から聞こえ続けるでんでん太鼓の音。
-でんでん-武士道とは死ぬ事と見つけたり-でんでん-

次「レプリカ恋愛交差点」
0163レプリカ恋愛交差点2012/07/21(土) 23:30:30.06
午後6時のスクランブル。赤いシグナルが青に変わるとき、無数の人並みが
動き出す。無関心、そしてすれ違い。すれ違いに意味はない。だって互いに
人を人と見てないもの。
ここは東京。雑踏の子羊におかれましては、皆さんいかがお過ごしですか。
そして僕は神だ。ふと思いつきで交差点の中央から恐るべき吸盤つき触手を出して、
あの顔この顔をからめとって阿鼻叫喚うわーたすけてーフハハこれでもかーと
やるのも一興だけど、やんないのね。なぜ人は――あーあーなぜひとは――あー
めんどくさい。なんでだろね、人はなぜ、そうも簡単にすれ違えるの。
ラブ。誰か一人を選んで、嘘だ、あなたのたった一人の恋人、誰さ? 君が選んだ
#no nameな彼/あるいは彼女? その恋はどこかで見た紐、デジャブーを
忘れた幸せの脳にココチヨイ。だよ?
しってる。君はこれまでドラマ、とか、漫画、とか、あとなんだろ、映画? そんな
嘘っぱちの甘酸っぱい恋だの愛だのプロトタイプをどっかから垂らされて、
上向いた口にあまずっぱーーーーーく受けてきたんだ。それが 本当 の
愛だとか 思わされて。
馬鹿。そんなのは、違うよ。恋のカタチ、愛のカタチ、みな全部違うのさ。
あたりまえ? そうさ、でも、君は何に安心する? あの人が……あの子が……。
規定は悪、君の『ラブ』は、君たちだけのもの、恋なくして思う、愛なくして
おもうさまざまのナニなんて、君のわけわかんない脳からぽこっと出てきた
ありもしないシチュエーションのレプリカさ。
わかってる! それでいいよ! ラブを手に入れたひとは、こんな話を聞くまでもない。
でも思うんだな、あのスクランブルを歩いて、あのアスファルトの上で交じり合う
ごみみたいな人かげのどんだけが、あは。ね?
キミ らの手にしたものが、ぜんぶ ホンモノ だったら……、生憎それは所管外。
カミサマでも、扱っておりません。
明日のキミは笑っているの。1年後のキミは泣いているの。でも、まあ、……
どっちでも、いいんじゃないかな。

次「星のお姫様」
0164名無し物書き@推敲中?2012/07/29(日) 12:34:25.28
「星のお姫様」
 私が砂漠に不時着して困っていると、そこに可愛らしいお姫様が現れました。
「お願い。羊の絵を描いて」
こちらは墜落した飛行機の修理で忙しいというのに、そんな風に何度も言ってはつきまとうので、次第に私の中に悪戯心が湧いてきました。
「じゃあ、これでどうだい?」
 私は数珠のようなものを書いて見せました。何かと聞かれたら答えてあげるつもりだったのですが、彼女にはすぐにわかったようです。
「だめよ、子羊を五匹も飲み込んだニシキヘビなんて、ひどいわ。蛇は嫌いだもん!」
「じゃあ、蛇でなければいいのか?これでどう?」
 私が次に描いた絵で、彼女はなおさらに怒ります。
「ひどいひどい!私が子羊を飲んでる絵ね!私、そんなこと出来ないもん。おなか、そんなに大きくないもん!」
 そう言うと、上着をぺろんとおめくりになりました。そこには真っ白なおなか、かわいいおへそ、それに胸のふくらみもちらりと。
それを見て、今度は私に別な悪戯心が湧きました。私は、プンスカと可愛くお怒りになっているお姫様をなだめました。
「ごめん、冗談だよ。でも。羊は無理でも、蛇は飲めるんだよ。女の子は大人になると、誰だって出来ることなのさ」
 彼女はたいそう興味をお持ちになり、教えてほしいとおっしゃいましたので、私はゆっくりと時間をかけて、蛇を飲み込む方法をお教えてしました。
お姫様はそれが気に入ってくださり、飛行機が直ったとき、私について行くとおっしゃいました。飛行機の中でも、ずっと蛇と戯れていらっしゃった
ほどです。
 それから一年ばかりが過ぎた頃、お姫様は本当に子羊をお飲みになったようなお姿になりましたが、出てきたのは蛇でも羊でもありませんでした。
こうして私はまあまあ幸せになりました。

次、「刺身の天ぷら」
0165刺身の天ぷら2012/08/02(木) 07:02:08.66
「飯はまだか」「あら、今食べたじゃない」
「仕事前だ、食べていかないと」「大丈夫ですよ、今日はお仕事は休みですから」
「今日休みで、明日は行くのか?」「いえいえ、明日も休みですよ」
「大将が言ったのか?」「ええ、大将がそう言いましたよ」「そうか」
 生涯役所勤めだった父にとって、大将などと呼べる人物はいなかった。大工にでも成りたかったのだろうか。それともすし屋だろうか。 父は元々無口で、家では空気のような存在だった。
 それが、ボケてからペラペラとよく喋る。父なりに抑えていたものがあるのかもしれない。
 そこへ医者が入ってきて言った。
「今夜が峠かもしれません、お心積もりをしておいてください」「はい、ありがとうございます」
 母は礼を言い医者の背中に頭を下げた。母と私はしばらく何も言わずに父を見つめていると、父が突然口を開いた。
「マグロの天ぷらが食べたい」「そうね」
 母が布団の乱れを直しながら笑顔で言う。
 私は夕日が差す、病室の階段を下りながら考えた。そう言えば、父に何かをしてあげた記憶が殆どない。最後くらい…。
 料理に無縁だった私は、玉子焼き以上のものを作ったことがない。しかし、揚げ物くらいは誰に習わずとも出来るものだ。
 スーパー買ったマグロの刺身に、小麦粉を水で溶いたものを、付けて、油のなかに放り込むと、今まで見てきた天ぷらに何の見劣りもしないものが出来あがった。
 ドアを開けるとそれまで、目を瞑っていた父がかすれ声で言った。
「来たか」
 その挨拶に笑いながら、母に天ぷらを入れたタッパーを渡す。
「なにかしら」
 中身を確認して母は驚いたようだ。
「マグロの天ぷら」
「まあ、おいしそう。お父さん、功がマグロの天ぷらを作ったんですって、良かったわね」
 母は箸をカバンから探し出して、で父の口に運んで食べさせた。私が父の反応に注目していると、父は言った。
「こりゃマグロの天ぷらじゃない、刺身の天ぷらだ」
 どうやら、火が通ってなかったようだ。
「でも、こんな旨い物は初めて喰ったよ」
 私は、満足そうな顔で言う父を見て、以前の父が帰ってきたような錯覚を覚えた。
 そして、その日の深夜、父は息を引き取った。

次のお題→「土一揆に明け暮れた日々」
0166名無し物書き@推敲中?2012/08/04(土) 23:14:55.89
『うぉおおおおおお!!!』
目を閉じると、今でも昨日のことのように鮮明に思い出せる。
両手に鍬を持ち、てぬぐいを頭に巻いて国会議事堂へと突撃した日々の事。
学生運動が流行った時代が遠い昔となり、誰もが無気力に毎日を過ごしていた時、
立ち上がったのが俺達農民だった。放射能、地震、日照り、嫁無し。相次ぐ困難に対し、
何も対策をしようとしない政府に対して、ついに全国の百姓達が立ち上がった。
100年ぶりと呼ばれるその土一揆は、わざと昔ながらの装備で行われた。
これは、過去の一揆で消えていった讃えられぬ英雄たち、一揆衆の霊をとむらう為でもあり、
また弱者という立場のまま強者へ意見を通す事を目的とした為であった。
濃縮催涙弾や意識断絶閃光弾。最新鋭兵器によって次々と倒れていく仲間たちの屍を乗り越え、
数百万人と呼ばれる『日本土一揆』の参加者たちの行動は、議事堂の周囲に積もった
仲間の体で外から議事堂が見えなくなる頃になって、やっと認められた。
総額数十億円の賠償金と、全農民に対する農耕給付金制度の確立。
それによって、全国の貧困にあえいでいた農民たちは、やっと時代に救われたのだ。
失ったものも大きかったが、あの戦いによって得たものは少なくないと私は思う。
『おじいちゃ〜ん!ご飯出来たよ〜!』
そんな事を振り返って考えていると、階下の孫の呼ぶ声が聞こえた。
給付金によって安定した農民の生活に惹かれ、都会の女達は続々と地方へ飛び出していった。
今や全国どこの農村だろうと、嫁探しに困窮したりする事はない。
子沢山孫だくさん、子孫繁栄という農民にとって最も重要な要求は、完全に果たされたと言っていい。
ああ、今いくよ。そう孫に返事をしてから、手元にあったボジョレヌーボーのグラスを掲げ、呟いた。
土一揆、万歳。

次「かんぜんちょうあくってこういう字だと思ってた→完全懲悪」



0167名無し物書き@推敲中?2012/08/05(日) 20:25:19.84

携帯をいじりユキからのメールを表示させる。
『はろうけいほうってハロー警報じゃないの』
「可愛いだろ?ユキはしょっちゅうこんな間違いしてたんだ。そうだ、こんなのもある」
俺は次のメールを開いた。
『かんぜんちょうあくってこういう漢字だと思ってた→完全懲悪』
「なあ、笑えるだろ?なんだよ、完全懲悪って、本当にバカだよな、しょっちゅうこんな間違いをしてさ、そのたびに俺が間違いを教えてたんだ……でももうそれもできない」
「たのむ、許してくれ!」
鉄骨に縛られた男の必死の叫びが廃ビルの闇に吸いとられる。
「おまえはユキが助けてと言ったとき聞いたのか?」
俺はナイフを強く握りなおし、男にゆっくり近づいていった。
「たのむ!たのむ!」
「うるさい」
ナイフが男の胸に刺さろうとしたそのときだった。
「カタン」
携帯電話をうっかり落としてしまう、拾った瞬間ふいに目に入った彼女のメールに俺は動けなくなった。

『ヒロキが笑ってたら私はしあわせ』

気がつけばナイフを捨て俺は大声で泣いていた。携帯を抱き締めて、地面を思いきり何度も何度も叩いていた。いつまでもいつまでも泣き続けた。

次題 「コミュニケーション・アダプタ」
0168名無し物書き@推敲中?2012/08/05(日) 23:03:26.70
会話とは、接続である。
声を発し、空気の振動を媒介にして互いの言葉を相手に伝えるように。
文を書き、染み付いたインクが誰かの想いを記し残すように。
無機質な『モノ』が二つの感情の受け渡しをして、初めて人と人は繋がりを持つ。
それが何であるかは関係ない。ただ、そこに『在る』だけの物を介すことで、
やっと人は人を感じる事が出来るのだ。
…だが。
震える空気を、染み込んだインクを、聞くことが、見ることが出来なかったとしたら?
それは果たして、生きている人間だと言えるのだろうか。
目の前に広がる、無限の闇。光も音も感じない、閉ざされた思考の檻の中で、俺は最後の記憶を辿る。
それは確か、車だった。
視界を塗りつぶすように迫ってくる大きな車。一瞬だけ見えたその姿は、
すぐに自分の体との距離を無くし、全ての意識を消失させた。
つまり恐らく、自分は撥ねられたのだろう。そしてきっと…どこかが、壊れてしまったのだ。
何もない、永遠に続くような虚無の世界で、両手が何かを持ち上げているのを感じた。
それは薄い布のような物。腰を半分折り曲げたような妙な体勢で寝ている事を、
触覚だけで自覚する。その形状のベッドは、テレビドラマの話の中で、何度か目にした事があった。
ここは、病院なのだろう。
トラックに撥ねられた自分は、病院へと搬送され、何らかの処置を施された。
命に別状はなかったが、起きてみれば、視覚と聴覚を失っている。
もしかしたら、今も医者が目の前で何かの検査を行っているのかもしれない。
もしかしたら、既に脳の写真を取られ、もう絶望的だと、家族に説明されているのかもしれない。
もしかしたら、今この時も、すぐそこに両親や妹が立っていて、涙を流して自分の名前を呼んでいるのかも―――。
―――でもそれは、自分には見えないし、聞こえない。
0169名無し物書き@推敲中?2012/08/05(日) 23:04:43.19
『---------ッ!!』
ありったけの肺の中の空気を吐き出して、喉の声帯を震わせる。もしもそこに
人が居たら、自分を見て狂ったのかと思うかもしれない。
だが、それでも自分の耳は、何の音も拾わない。
何の声も、聞こえない。
本当に発狂してしまいそうだった。いや、もはや狂ってしまいたかった。
一体誰とも繋がれない世界で、生きていく価値が何処にあるというのだろう?
それはもはや、人間とは呼べない生き物なのではないだろうか?
気が付けば、自分の頬が濡れていた。
その滴すらも目に出来ないということにまた絶望し、涙を流す。
ああ、いっそ、今ここで舌を噛み切ってしまった方が―――。

その瞬間、ふいに誰かに抱きしめられた。
手を、握られた。
胸に、顔を埋められた。
そのぬくもりは、温かさは、とてもよく知る家族の物で。
きっと流してくれているだろう、彼らの滴の伝えた温度が、無限の世界の暗闇を、
ほんの僅かに照らしてくれた。

ああ、神様。僕がこの先どうなるのかはわからないけれど―――。

―――どうか、この温もりだけは、奪わないでいてください。


長くなってしまいましたが、どうやら文字制限などは無いようなので。
次「三十二分と十二秒の欠落」
0170三十二分と十二秒の欠落2012/08/12(日) 23:58:06.26
P教授の最後の発明はタイムマシンであった。あらゆるものを実現し、
最後の最後にそんなものを作ったPはやはり絶望していたのか? 誰も知るまい。
ここにPの行動について書く。無論Pはすでに読者の世界にはいないし、
なにか主語としての自然が語るように彼のことを書くのは幼稚な嘘じみているが、
お話とはそういうものだ。
Pのマシンには行き先を指定するダイヤルが付いていた。ダイヤルを回して
+1年、+5年、+10年……仕組みはそうだが彼はそんな時間量に興味はない。
ダイヤルを高速に、つまり、目で追えるより早く回すと、+INFという指定が可能だった。
世界の終わりへ。Pがそれを見たくなったとして何の不思議がある?
煙を放つタイムマシンからPが降り立ったのは灰色の大地だ。雲はなく星が見えた。
月世界のようなそこは確かに地球なのだろう。岩と砂の荒野の中に、一人の少年が
座っていた。Pは砂に足跡をつけて少年のもとに赴いた。
「ねえ見て、山手線だよ」少年が言う。抱えた膝の前に、緑の光がくるくると回転している。
Pはいった。
「18世紀から20世紀にかけて、世界は縮んだ。これほどの未来なら、山手線が
この環くらいに縮んでいても不思議はない。しかし、山手線の内側はどうなった?」
少年は石ころをPに渡した。掌に収まるそれは、セメントのツノのように微妙な面を持った、
目の荒い砂岩に見えた。Pは雲母と思しき黒い小片に見入った。
小さな、小さな、ときおり輝く……それは夜だ。街の夜のかけらだ。
「これが世界の終わりか」Pは言った。「ううん、無限の未来だよ」少年が言う。
「それは、終わりと同じことさ」Pは笑った。
「ここに来て、どのくらい経ったろう」Pはふと疑問に思った。シチズンの時計は
16時27分48秒をさしている。「200年くらいたったよ」少年が言う。
世界は縮退し時は早く流れる。時計すらも時間に置いていかれるのだ。Pはいった。
「私は帰るよ。17時で定時なんだ」
「もう17時、2時、8時、そして17時だよ」少年が言う。山手線は回っている。
「ああ。僕の、勤務時間のことさ」Pは呟いてタイムマシンに乗る。それはガラクタだった。
Pはシートに座って定時を待った。それはすぐにやってきて、また去った。
時計は16時27分48秒をさしていた。

次「梅心」
0171名無し物書き@推敲中?NGNG?2BP(0)
恋とは、梅の実のようだ。
知らぬ間に始まり、勝手に大きく膨らんでいき、まだ青いのに、その重さに
耐え切れずに地面へと落ちる。
彼らは、自らの重みによって大地へと無残に叩きつけられるのだ。
ここにもまた、そんな梅心を持った青年が居た。
彼が想いを焦がすのは、誰もが慕う至高の花。
白く可憐なその姿は、まさしく梅の花のよう。
彼も多くの君子に同じく、一目でその心を奪われた。
来る日も来る日も夢に見て、募る想いは増すばかり。
大きく増したその恋の実は、落ちるまでにもはて幾時か。

ところで梅の畑と言えば、そこには当然農家が住まう。
目を付けられた梅の実たちは、落ちる事無く摘み取られる。
恋の畑もまた同じ。ただ違うのは、選ばれる実は一つだけ。
彼の実もまた、その時が来た。

二人は出会う。偶然に、運命に。
そこで生まれた青春譚は、至極ありふれた珍しくも無い、そして当人達には
特別な、梅の彩る恋の一録。
それは何の変哲も無い、男と女の想いの話。
かくて梅実と梅の花は向かい合い、その実を揺らす時が来る。
重く募った果実は果たして、悲しく地面へその身を落とすか。

それとも。
0172名無し物書き@推敲中?NGNG?2BP(0)
次「朱い日のおもいで」
0173名無し物書き@推敲中?2012/08/20(月) 12:17:24.61
→朱い日のおもいで

閉めきったままの寝室は重い匂いと沈黙に満たされていて、深海の色をしていた。
息苦しさに体をよじると、くしゃりと白いシーツのさざ波が肌に擦れる。スプリングが軋んだ音を出し、赤茶色の染みがゆらりと僕に近づいた。
赤血球の死骸でできた古い化石。すっかり色あせたこの小さな痕跡だけが残された唯一の思い出になってしまった。
かつてこの上には白くてとても美しい生き物が横たわっていた。従順でひたすらに無抵抗で、触れる度に思う通りの反応を示していた。
緩慢な動作も、そばにいるのに小さくて聞こえない声も、まるで心地よい水の中にいるようだった。
彼女は震え、少量の血を流した。白い内股に一筋の朱色が伝い、シーツに落ちて吸い込まれるのを見た。スローモーションの行為は夜が開けきる前に終わり、彼女の姿もそれきり消えた。
僕の見る夢はいつも一つだけ、この痕跡が朱色であったその日のことだけだ。

next ブリキの心臓
0174ブリキの心臓2012/08/20(月) 16:20:29.85
小さい頃から笑えない性格だった。
育てた親のせいなのか、つるんだ仲間のせいなのか、それとも自分自信の問題なのか。
楽しいとか、面白いという感覚が抜け落ちていた。
何処に行っても、何をしても笑わない少年。
親はそれに関して何も思わなかったようで、僕はなんの診断を受けることもなく、すくすくと育った。
思春期と呼ばれる時期が来ると、僕はそのことで孤独を深めた。
休み時間も、運動会も、修学旅行でも、周りの生徒たちが屈託なく笑うのをみて不思議に思った。
何故…。何故あんなに楽しそうに笑えるんだろう。周りと自分との違い。笑うべく場面で、笑っていないことが後ろめたかった。
僕の心は常にフラットで、鉄のように冷静に周囲を観察していた。
どんな状況で人は笑うのか、何が受けるのか。
そのようなことに神経を張っていると、笑えないくせに、芸達者な少年になっていった。
物真似をしては爆笑を誘い、するどい切り替えしで皮肉を言えば誰かの腹筋が崩壊した。
クラスの誰かが僕をキングオブコメディと呼び、そのニックネームが不動のものとなりつつあったある日、突如あいつがやって来た。
「暗い転校生」初日からそんなあだ名を付けられたあいつに僕は興味を持った。
深い親近感を感じた。あいつも全く笑わない人間だった。
それから3日後、計らずも、僕はあいつの身の回りの準備に付き合うことになった。
担任からまだ出来ていない校舎の説明や教科書、体操服なんかの段取りを押し付けられたのだ。
僕は廊下にあった鏡の前で、いつも調子であいつに言った。
「この鏡はいわくがあってね、杉の木のいわくだよ。いや、それ木枠ですから!」
それは距離を測るためのジャブのようなものであった。
あいつは無表情なまま、真っ直ぐこちらを見据えて、冷静に言い放った。
「僕の前では無理をしなくていい、tin heart、それを組みつけられた人間は魔法が解けるまで、その通りに生きていけばいい、君も僕も」
それを聞いて、僕は泣いた。いつまでも涙が止まらなかった。

next(コナン)は「不可能を可能にする寄生虫」の一本
0175名無し物書き@推敲中?2012/08/23(木) 10:14:50.62
「不可能を可能にする寄生虫」

「いい加減にしろよ。いくらお前の身内だからって、何してもいいわけはないんだぞ。いくら何でも、犬の心臓を人間になんて、
絶対無茶だから」
 彼とは幼なじみの仲だ。ある程度の無茶でも黙っていてくれると踏んでいたのだろうが、そうはいかない。これでも医者として、
職業上の倫理観というものがある。妹の体に犬の心臓を? そのままでは死を待つだけだからとはいえ、それは許せない。
 しかし、彼が本当に無茶なことをする奴じゃないことも知ってはいた。だから、声を潜めてみる。
「正直に言えよ。勝算があるというからには、何か秘策でもあるのか?」
 そんなものがなければ不可能なのは高校生にだってわかる。だが、それがあるのなら、それが人に言えないことでも聞いてやってもいい。それくらいには彼を信用していた。
 彼はしばらく黙って、それからやはり声を落とす。
「じゃあ話す。知っての通り、最大の問題は拒絶反応で、これは基本的に非自己認識に基づく」
 私は黙って頷く。それくらいは初歩の初歩、しかし、だからこそ最大の問題なのだ。
「だが、異種動物細胞が体内で自由に生活する例を、俺たちは知っているはずだ」
 私は彼の顔色をうかがいながらその言葉を反芻し、そして気がついた。
「それは、寄生虫のことか? だが、それがどう関係があるんだ?」
 彼はにやりと笑った。
「そう、それだ。だから、それを応用できないかを考えたんだ」
0176名無し物書き@推敲中?2012/08/23(木) 10:15:27.25
(続き)
「具体的には?」
「サナダムシの表皮組織を培養して犬の心臓外皮に移植したんだ。もちろん、他にも色々工夫はあるが」
 彼は自身の専門分野の用語を交えて詳しく説明してくれた。それはいわゆる倫理の問題はあるにしても、確かに無茶なものではないと思えた。
「わかった。執刀は私がする。だが、あとの責任は持てないぞ」
「すまん、恩に着る。あとのことはもちろん俺が何とかする。あいつを一人になんてさせやしない」
 彼にとって唯一の身内である妹への気持ちは、私もよく知っている。
 手術は成功した。だが、そこからあとのことは彼すら予想しなかったことだった。サナダムシ上皮は心臓から周囲に広がり、何と彼女の全身に広がって
しまったのだ。つまり、彼女は皮膚から消化管の内容を吸収しなければならなくなった。それにはひどく大型の動物が必要だ。
 だから彼は今、水族館でシャチの調教師をしている。彼女の妹がシャチの腸に住み込んでいるからだ。彼は昼間は観衆の前でシャチに曲芸をさせ、夜には
その口から顔を出す妹とのひとときのやりとりを無上の楽しみにしている。私も時折二人のところに挨拶に行く。少なくとも健康を取り戻した彼の妹は、
とても幸せそうだった。

次、「世界制服計画の破れた時」
0177名無し物書き@推敲中?2012/08/23(木) 16:22:56.81
●世界制服計画の破れた時

世界制服計画の破れた時

 私は順調に政界での力をつけつつあった。
しかし、その力は表の力ではなく政治力学としての力であり、それを最低限に利用して支持者に利を与えて議員の座を維持している。また警察や力のある公務員には借りを作らず恩を押し売っていた。

 これはすべて「世界制服」のためである。

 まずは世界制服の前に日本制服、日本征服の前に公務員制服である。地方制服という話もあったが、公務員を抑えれば地方も押さえられるから問題ない。
そして今日は夢への第一歩、公務員制服規定法案の成立の日……既に80%の賛成票は押さえてある……だ。
 採決に先立ち、抱き込んでいない野党議員から「税金の無駄遣い」と言われ反対されたが、仕事で使用する服は公務員に限らず所得控除の対象であり、
無駄なブランド服でも所得控除対象となる事から、実際に控除を行う人は少ないが控除したものとしての減収分を説明するなど、比較として正しくない条件をそれっぽく説明し採決を迎えた。

「ふざけるな〜〜〜」
たたきつけた週刊誌に載っていた記事は「公務員制服法案の真実」
記事には私が関係者を制服漬けにした接待写真が公開されていた。野党与党官僚の実力者達がコスプレ系の店で接待されている写真……すべての写真には私が載っており、またその記事を投稿したのは私の妻だった。

 妻はコスプレが好きだったが所謂アニメ系であり私の求める制服とは違っていた。夫婦仲は冷めたが、議員の離婚は体裁が悪く別居状態を続けていたその妻からの、最後通牒というか三行半がこの記事だった。

 騒動は今まで培った人脈で収束させたが夢の階段は踏み場が崩れてしまった。
しかし、ネット上では私を支持するサイトがいくつも出来頼もしく感じたが、制服の種類で内紛が発生し、自然分解して言った。

次は「カカオとオカカとみかじめ料」
0178名無し物書き@推敲中?2012/08/25(土) 11:54:50.22


 「カカオとオカカとみかじめ料」


 今日は人生最悪の一日だ。握ったハンドルは汗でぐっしょり濡れている。助手席には一人のカカオと、ぎっしりのオカカ。
命さえ狙われ兼ねない状況に、今更ながら焦り始めた。組長からひっきりなしに電話が掛かってくる。でも後戻りはできない
んだ――窓を開け、携帯電話を夜の海へ放り投げた。隣に目をやると、カカオの目が死んだ魚のように曇っていた。妻の
最期とだぶって見える。これでいいんだ、何とかなる。邪念を振り切るように、アクセルを思いっきり踏み込んだ。

 あれは三時間ほど前のこと――。
 いつものように煙草で淀みきった受付けで、オーナーの橋と二人で店番をしていた。ここ『パラダイス』は、朝道組が
抱える違法風俗店で、組の下っ端である俺が、地代の徴収と監督を任されている。
 ふと高橋の方に目を遣ると、しきりに親指の爪を噛み、貧乏ゆすりでパイプ椅子を軋ませていた。
「どうした。なにか問題でもあったのか?」
 そう訊ねると、橋は血の気の引いた顔を見せて、口を開いた。
「松原さんも聞いてないですか? 先月から風営法が改正されて違法風俗店の取り締まりが厳しくなったんです」
 あれはまさに改悪だった。県警が違法営業を調査しているらしく、組の方からも警戒しろとの通達があったばかりだ。
高橋は額に脂汗を浮かべて続けた。
「その所為か客足もめっきりで……今月の売り上げが過去最悪なんです」
「みかじめ料の地代ぐらいは払えるんだろ」
 首を横に振り、肩を強張らせて俯いた。どうやら不味いことになってきたらしい。ここ数か月、業績不振が続いていたことも
あって、今度ばかりは窮場を凌げそうもない。指が飛ぶだろうか。
 手立てを考えている最中、近頃出入りしているウメダと言う中年の親父が来店した。こいつのへばり付くよな笑顔が癇に障る。
「おいおい、辛気臭え面だな。オカカ一袋と、カカオ一時間でよろしく」
 そう言われると、橋はバックヤードからオカカの入った紙袋を取り出し、客を奥へと案内した。オカカはコカインの隠語で、
カカオとは未成年の違法風俗譲を指す。カカオは乳房に付いた豆から連想して、高橋が名付けたものらしい。どうにも趣味が
悪いが、飯を食っていくためには気にしないことにしている。
0179名無し物書き@推敲中?2012/08/25(土) 11:56:54.18
 今日はゆみこが出勤してるな。彼女は親の借金を背負って、身体で金を稼いでいた。亡くした妻にどことなく似ている所為も
あって、つい贔屓目にしてしまう。彼女と駆け落ちしたいなんて妄想に耽ることも間々あった。
 客が入って五分もしない内に、悲鳴が聞こえた。高橋と顔を見合わせて、様子を見に行こうとしたとき、ゆみこが着のみ着の
ままでロビーへと駆けてきた。
「やばいよ、あいつ、警察だった!」
 顔を見合わせ、呆気に取られていると、捜査員らしき男女が入り口に立っているのが見えた。刑務所暮らしはごめんだ。
高橋は気でも狂ったのか、奇声をあげながら入り口へ走った。無謀だ。だが高橋が捕まっている内に、逃げ遂せれるんじゃな
いか。気が付くと、ゆみこの手首を握り、持てるだけのオカカを抱え込み裏口へと走っていた。怒号の中、ウメダを突き飛ばし、
裏手の駐車場に停めてあるスポーツカーに乗り込む。これからどうするのか見当も付かなかったが、ただ逃げるしかなかった。
 正解だったと信じたかった。

 車は行く宛てもなく、見知らぬ田舎道をひた走る。絶望とも希望とも付かない、重苦しい空気の中、二人して沈んだ目をしていた。
「わたしたち逃げてきたけど、これから……」
 後に続く言葉がつっかえたのか、口籠った。
「家に帰りたいなら、どっかの駅前で降りるか? 念のため店の名簿は偽装してあるし、運が良ければお咎めもないだろう」
 ゆみこはしばらく考え込んで、首を横に振った。家に帰りたくないのは分かっていたが、正直間違っていたんじゃないかと
不安に思っていた。そして三流のメロドラマばりの、少しばかりの期待が浮かんだ。
「もし、お前がよければ、このまま二人で逃げてだれも知らない街で暮らさないか」
 ぷっと噴き出し、ゆみこの頬がほころんだ。可愛げのある小ばかにした笑い方は、本当に妻に似ていた。我ながら臭い台詞
だったと、ちょっと照れくさくなった。
「いいよ、わたし松原さんと結婚してあげる」
「そんな簡単に決めていいのか。おじさんを騙そうって腹じゃないだろうな」
 もう嫌なムードはどこにもなかった。地に足がついていないのは分かっていたが、ひょっとすると幸せになれるんじゃないか。
そんな期待が体を支配した。
0180名無し物書き@推敲中?2012/08/25(土) 11:59:28.52
「逃走資金ならたっぷりあるし、うまく捌けばしばらくは食べていけるだろう」
「だめ、これは奥さんから初めての命令です」
 そう言うと、ゆみこはオカカの入った袋を外に放り投げた。口をぽかんと開けていると、ゆみこが続けた。
「また警察沙汰になっちゃ困るよ、これからは健全な生き方をするの。わたしもあなたも」
 助手席にはカカオだけ。朝靄の中、見知らぬ街を走らせながら、不安を掻き消すように笑い合った。


次のお題は「もし僕がヒーローだったなら」
0181もし僕がヒーローだったなら2012/08/26(日) 17:29:12.18
無意味な喧嘩はぜず、玄米と沢庵があれば雨でも夏でもがんばってしまう。
そんなヒーローを構想する。
“もし僕がヒーローだったなら、ワルモノをそっとたしなめて、故郷に返してあげるのに”

喫茶店のテーブルに座ると、さっそく僕は、執筆中の「もし僕がヒーローだったなら」を彼女に見せた。
一通り読んだ彼女は冒頭の一文に×をして、その横にボールペンでこう書いた。

“そんなあなたの優しさが、物事をややこしくしてるのよ”

「悪者はやっつけなきゃ」
上目遣いで彼女が言う。
「え…」
内容を全否定するかのような発言に僕は固まった。
「甘やかしてちゃ、味を占める一方だよ」
「でも、やっつけちゃったら可哀想だし」
「違う、やっつけられたいのよ」
「どうして」
「ワルモノだっていつまでもワルモノでいたくないの」
「……」
「今日私は1時間も遅刻したよね、なんであなたは怒らないの」
「……」
「それって優しさ?囚われの身の私を救えもしないで、あなたはヒーローなんかに成れない」
「……」
「……」
「ごめん」

僕は作品の内容を大きく変えることになった。

“もし僕がヒーローだったなら、翼の折れた天使にたしなめられることだろう…”

次「先端可愛症」
0182先端可愛症2012/08/26(日) 22:19:59.35
先端
先端が好きだ
針、三角定規、ロケット
それらの先端に興奮してしまう
力の集中、集約、貫通力、美しい形状
〈ああ、先端そのものになりたい、先端に〉
そして永遠に尖り続ける。鋭く、鋭く
ただ、ただ鋭くなるためだけに
消えて無くなるまで鋭く
先端になりたい
先端


次 「側頭葉で朝食を」
0183名無し物書き@推敲中?2012/08/27(月) 00:12:45.36
金曜日の夜、仕事から帰ると、ポストに一通の手紙が入っていた。
ブレニータさんからだ。
中には小さな便箋が入っていて、ただ一言、こう書かれていた。
「側頭葉で朝食を」
測頭葉?そんな店があるのだろうか。
おそらくは中華料理の店で、名前を間違って覚えているのだろう。
僕はその可愛らしさにクスリと笑った。
それにしてもこの手紙は、いい匂いがする。
それはブレニータさんが付けている香水と同じ匂いで、匂っているうちに、一昨日のことが走馬灯のように思い出され、ギンギンに勃起した。
ブレニータさんの白い肌、たわわな乳房、そして、僕を手玉にとるような焦らしかた。
ああ、ブレニータさんにもて遊ばれたい、ブレニータさんに玩具にされたい。
明日、またブレニータさんに、あんなことをされるのかと思うと、僕は、ぼくは……

ぼくは……
何故かテーブルに座っていた。
カーテンから朝日が差し込んでいた。
え?
向かい合う席にブレニータさんがいる。
キョロキョロと周りを見回していると、ブレニータさんが、微笑んで言った。
「おねぼうちゃんね、アーンしなさい」
ブレニータさんが、皿の上のものをナイフで切って僕の口に運んだ。
僕はぼーっとする頭で、それを口に含む。
に、苦い!あまりの苦さにむせ返り、僕は全部吐き出した。
「oh、バッドボーイね」
ブレニータさんは立ち上がって、汚れた僕のパジャマをナプキンで拭く。
「でも大丈夫よ、まだまだあるわ」
そう言って、彼女が鏡を引き寄せると、そこに写ったのは、額から上が切り取られ、脳が剥き出しになっている僕の顔だった。

次→「3524年の絶滅危惧種」
0184「3524年の絶滅危惧種」 2012/08/28(火) 23:12:06.13
サムライとは何か? 階級か? 精神か? 人間か?
アメリカ、テキサスの砂漠で最後のサムライが死のうとしている。
年老いたその体の傍らには日本刀ではなくWINMACの古いパソコンが
置かれている。サムライがこの地にやってきたのはもう何十年も前だった。
石油よりも大事な汚染されていない水を探しにきたのだ。

――あの事故さえなければ俺はここにいなかった。事故があったからこそ
   ここにいる。
サムライは乾ききった大地に屈み耳をすませる。水の音を聞くためだ。
この砂漠のどこかに昔掘削した石油の後に出来た空洞に水脈があるという。
――俺はここで死ぬ。乾いた大地は体を腐らせずにミイラにしてしまうだろうか?
サムライは体を上げると遠く揺らぐ地平線を眺めた。どこにも人間の姿は見えなかった。
いや人間はおろか小さな動物さえも、ここ何日か見ていない。
声を出そうとしたが熱い空気が口から漏れただけだった。
――俺は死なない。俺は生きる。
サムライは朽ちたハウスの影に向かって歩き出した。



「千刷太郎の強敵」
0185「千刷太郎の強敵」 2012/09/07(金) 19:20:48.18
今日キラキラネームというものが流行っている。ピカチュウだのなんだのと適当な名前を漢字に当てて、名前にすらなってない名前を付ける悪習だ。
かく言う私もその被害者である。「千刷太郎」と書いてチズロウと読む。これだけで名前である、それと太はどこへ行った。
もちろんこんな名前だから、あだ名も変てこである(変てこでもあだ名が付けられるだけマシかもしれない)。
背がでかいのも相まってオナ兄。千刷り=オナニーだからといってこれは酷い。お嫁、いやお婿に逝けない。魔法使い通り越して大魔道士になれそうと夢想出来るレベルである。
そう思っていた時期が、私にもあった。

泡姫。アリエルと自称する(本名を自称するというのはどうかと思うが、本名かどうか疑わしいレベルの名前である為)彼女と出会った時、私は戦慄した。
私より上が現れた。単純だが、その衝撃は凄まじかった。
上というのは名前だけではない。私よりお嫁に逝けなさそうな名前の乙女だが、彼女はそんな名前でありながら、たくましいなw と言われんがばかりに強く生きていた。
名前こそ変であろうと、持ち前の明るさと魅力で人並みに振舞うその姿は、はいはいオナ兄オナ兄と表面だけはへらへら笑って、なるたけ事無かれと地味に過ごそうとする私を滑稽に見せた。
私は彼女に劣等感を覚えたのは、当然の事であった。

私が何より苦痛だったのは、彼女が誰にでも優しかった事である。
もちろん私にもそうであり、私は彼女を憎む事も出来なかった。だからといって、愛する事もまた出来なかったのである。
強敵。彼女を表すのにはこの二文字が適切であろう。彼女の方はそう思ってなかろうと、彼女は私、千刷太郎の強敵に違いない。



「香港超特急inNY」
0186「千刷太郎の強敵」 2012/09/07(金) 19:22:59.26
↑ミス。
×私は彼女に劣等感を覚えたのは、
○私が彼女に劣等感を覚えたのは、
0187「香港超特急inNY」2012/09/07(金) 22:33:06.22

 童貞お断りなんて、今時流行らないでしょ?
 だってさ、一部業界の人たちがこぞって”童貞ブーム”なんて作ってたんだもの。
 まったく、余計なコトしてくれちゃうわ、みうらじゅん。

 そうそう。それでね、先日のことだけど、グレイハウンドに乗るつもりが
御堂筋線に乗ってニューオリンズ目指したの。でも着いたところがニューヨーク!
ジャックもベティもいやしねえ!おー!ニューヨーク!
 ジャスティンの店ではトムとその一味がすごんでるぜ!サンディは彼氏と本番中よ!
おー!ニューヨーク!パナマ諸島なんて出てきやしねえ!おまわりだって止められねえ!
 そんなニューヨーク・ステディ・ナイト・イン・ヘルな月夜の晩、
ニューヨーク沖の寒流からはそろそろオータムな季節がセイ・ハローするわ。
アンニュイな気分でオレンジジュースを一口飲むと、どうして御堂筋線が南海鉄道と直通じゃないのか、
目の前が真っ暗になりそうよ。でも、いつだってそう。
みんな不可解なことを心に隠しながら、この荒れきった南朝鮮のような不条理な日常と
むき出しのアンモナイトの化石がシルバーに塗られた街中をサバイバルしてるてわけ。
類似まんが「サブの町」もよろしく。
 あなたに聴きたい。「神様にあった?」
 そして胸の中でPSVita持ってぶんむくれてるエンジェルさんにきいてごらんなさい。
「はい!元気?」
きっと彼は嬉しそうにうなずいて、左手の中指を綺麗に突き立ててくれるはずよ。
そうなったらもう、わかるでしょう?愛に満ちた世の中で不安を感じるのは某政党の
魔乳フェストよりもずっと無駄ってこと。
たくさんの壁にセイ・ハロー!ぶった切れた切れ目にもセイ・サンキュー!
 こうして僕達は生きていくのです。

 「香港超特急inNY」。ちょっと舐めただけで上記のような文章が脳髄からあふれ出る
サイコーにやばいブツだ。他のちゃんねるに隠しとこう。
 ほとぼりさめたらまた開けよう。


 次回:「少女とウランと賽銭箱」
0188少女とウランと賽銭箱2012/09/08(土) 10:45:25.76
 貧乏巫女の少女曰く、「賽銭箱を開けるとウラン(濃縮済み)が入っていた」
 放射能漏れの懸念から、町はたちまち騒然となった。
 本来であれば市役所か保健所が賽銭箱からウランを回収して終わる話であったが、
なんと彼女は核燃料取扱主任者の資格を持っていたため、ウランの引渡しを拒否した。
自分の神社の賽銭箱に入っていた以上、自分のものだと言い張ったためである。
「住民への影響を考えて……」「ダメ」「国が責任を持って処分……」「却下」
「君の神社の評判にも……」「評判なら落ちるところまで落ちているのよ」
 少女はあらゆる提案を拒絶した。そこに目をつけたのが北朝鮮系の団体である。
「他の人に売るつもりはないニダか?」「最低でも現金で5億。それ以下では無理ね」
「5億……ウリの足元を見るつもりニカ?」「パチンコで稼いだ金を回しなさい」
「少し考えさせてもらうニダ」「言っておくけど盗みに入っても無駄よ? 警察が神社の
周りを絶えずパトロールしているから」「アイゴー!かんしゃくおこる!!」
 彼は火病を発病して焼身自殺を図るも、警察が消火してしまった。
「それで5億は用意できたの?」政府要人との極秘の会談。これで日本も堂々と
核武装できるとの意見に押され、与党はイエローケーキの買い上げを画策していた。
「どうか2億程度で内密に……」「拒否」少女はにこやかに言った。「耳を揃えて
5億持ってこい。さもなきゃ北朝鮮系の団体に売り払うぞ」
 こうして少女は5億を握った。しかしまだ誰も、賽銭箱の中に、二つ目のウランが
そっと投入されていることには気付かなかったのである。

「小麦粉と卵と牛乳と塩」
0189小麦粉と卵と牛乳と塩2012/09/08(土) 22:28:42.54
「レッテ、ミエーレ」
「違いますよ。蜂蜜は無いし、それにまだ二つです」
ぼくがそう訂正してもニゼルは同じ言葉を口走る。「レッテ、ミエーレ」と。
やれやれ、まだ付き合わなくてはいけないか。
倉庫内に並んだ雑貨の山が窓の向こうに上がった満月の光を受け、磨きあげた真鍮のようにテラテラと光る。
「レッテ、ミエーレ」
「まだ言いますか」ニゼルをもう一度椅子に座らせ、目の前に画用紙を広げた。
「全部覚えることはないんです。持って行く物は4つ。判ってますよね?」
「レッテ、ミエーレ」
やれやれ。この調子は変わらないに違いない。
「ニゼル、あなたは向こうに伝えなければいけない、重要な任務があるんです。判ってますよね?」
画用紙上にうねうねとクレヨンの線を引くこの小さなモグラの精の前で、軽くテーブルをタップして注意を促す。
「量まではいいから、四つの要素を捕まえて」
ニゼルは納得したように一度頷くと、倉庫内からワラワラと物を集めてきた。
真っ白い小麦粉、黒い赤水晶の卵、黒山羊のミルク。そして赤穂の塩。
「最初に説明したとおり、一つはダウトですからね?」
念のためそう告げると、「レッテ、ミエーレ」。また同じ言葉を返した。
そして集めた四つの要素を水水仙の葉っぱに包むと、背嚢にしまい込んでバタバタと倉庫を出て行こうとした。
あわてて声をかけようとしたが、そこはモグラの精、周囲に用心するのは忘れてないようだ。
「気をつけて行っておいで」
そう送ると、小さくしっぽがぴょこんと動く。そしてドアの外にある穴の中へとむぐむぐ消えていくのが聞こえた。
いやしかし、間違ったパンケーキの作り方なんて、わざわざ教えに行く必要あるんだろうか。
ニゼルが蜂蜜をほしがったのは赤穂の塩に気がついてのことだろう。いや、でも塩も使うのか?どちらにしろ甘くはならないと思うが。
これは、ぼくもまた再教育が必要と言うことか。やれやれ。



「不思議な会議室利用申請書」
0190不思議な会議室利用申請書 2012/09/08(土) 23:56:33.11
「不思議な会議室利用申請書」 



「なあ、お前あの人の顔見たことあるか?」

最近、噂になっている受付の女性はいつも下を向いているから、顔を正面から見たことがある人はとても少ない。
僕も見たことはなかったが特に気になったことはなかった。
しかし、いつもああなので会議室をよく利用する僕としてはもう少し愛想をよくして欲しいものだ。会議室利用申請書は受付に言わなければ貰えないのであ
る。

僕は今日もいつも通り受付へと向かうのだが途中にハンカチが落ちている。
「受付にでも渡しとくかな。」
僕はそう思い、申請書を貰いに行った。
0191不思議な会議室利用申請書 2012/09/09(日) 00:00:09.78
僕は彼女に話しかける。
「あの、申請書を取りにきたんですが。」
「ぁあ、・・・はい、こちらですよね。少し待っててくださいね。」
「はい、わかりました。」

いつも通りの会話である。
やはり彼女は少しうつむいている。
あっ、そうだ。ハンカチだった。
「あのぉ、落し物をひろったのですが、ここでよろしいのでしょうか。」
「はい、大丈夫ですが。」
「じゃあ、これを。」
「・・・!!、あの、これ、どこで拾いましたか?!」
「えっ、ここにくる途中のところですけど。」
「・・・そうですか。やっぱり。
すみません、これ私のです。ありがとうございます。」
「あ、そうだったんですか。いえいえ、気にしないでください。・・・あのぉ、すみませんが会議室利用申請書はまだでしょうか。」
「えっ、あぁ、すいません。今、渡しますからね。」

なぜか彼女は顔を少し赤くしながら申請書になにやら書いている様子である。

「はい、どうぞ。」
「どうも。」

彼女の正面の顔初めてみたなぁ。
0192不思議な会議室利用申請書 2012/09/09(日) 00:01:06.27
しかし、今日はずいぶん遅れてしまったな。
どうか上司に怒られませんように。
そう思いながら、僕はエレベーターに急いで乗る。
申請書持ってるよな・・・
よし、ちゃんと持ってる。

・・・ん?何か書いてあるぞ。

そこには数字が11ケタならんでいた。

「なんだこれ、不思議だな、嫌がらせか?」

これでは申請書として使えないじゃないか。

僕はもう一度受付へと向かう。
0193不思議な会議室利用申請書 2012/09/09(日) 00:04:22.05
次は「青空の下の黒い影」
0194青空の下の黒い影2012/09/09(日) 03:00:53.14
煌々と照り付ける暑い日差しのなか私は主人と共に寸分違わぬ動きでただひたすらに歩く。
主人はエイギョウという仕事に就いているらしくこの暑いなか外へと出なくてはならぬ。
都会特有の焼けるような熱さのアスファルトで私の体は益々黒く焼ける。
主人がカイシャに戻るとよく周りの奴等から「また一段と黒くなったな」などと茶化される。
時に主人はクルマに乗って移動するがあれは狭苦しくて仕方がない、クルマよりはアスファルトで肌を焼いた方が幾分ましだ。
それに最近になって私は外を歩く際の楽しみを見つけた。
私の頭上……正確に言うなら私に焼き目をつけるアスファルトの反対側に広がる空を観察する事だ。
幸い日差しは主人が防いでくれるので透き通る様な青空を私は何の煩わしさも感じずに仰ぎ見ることが出来る。
空に浮かぶ雲や自由に動き回る鳥達が作り出す空の表情を見ているだけで熱さや味気無い日常を忘れられる。
広大な青いキャンバスに描かれた雲や鳥達を眺めつつ、今日もまた私は主人と共に青空の下を歩き続ける。
 次は「道と鐘と賽」
0195道と鐘と賽2012/09/09(日) 14:28:22.04
鎮守の森に続く畦道。曼珠沙華が咲き乱れる路傍に、草むらに肩まで埋まりながら地蔵がひとつ立っている。
地蔵の脇には今にも朽ちそうな立て札が、やはり雑草に半分隠れたように立っている。
「ゆく先は賽の目のままに。一、三、五なら右、二、四、六なら左にゆく事」
他にも何か書いてあったのだが、ようやくそれだけ判別でみた。墨が所々薄くなっている。
道は目の前で二手に分かれていた。どうしたものかと空を見上げて考える。
秋空はどこまでも高く、蒼く輝いている。ふんわりと白い雲が流れてゆく。
いつまで考えていても仕方ないと思い、立て札に従ってみる。
賽を振る。一の目が出た。右か。右の畦道へ足を勧める事にした。

右に進んだ先は、薄暗い山道だった。
木々の枝が頭上で妖しく絡まり合って、日差しを遮っている。森の奥の方から湿った風が流れてくる。
「賽の目はいくつだ?」
湿った風の方角から、嗄れた、太い声が聞こえてくる。
あわててそちらに振り返る。声がもう一度。
「賽の目はいくつだ?」
賽の結果は一だった。そう答えれば良いのだと思った。
「一だ」
沈黙が流れる。
「嘘だ。おまえの目は二つあるじゃないか」
一瞬、声が何を言っているのかわからなかった。
けれども、考えているうちに「賽」は「生け贄」のことなのだと何となくわかった。
おまえの目は二つ? 賽の、生け贄の目は二つ? 生け贄は俺か。
鐘の音がした。
逃げようと振り返ると、すぐ後ろに大きな身体をした入道がいた。
「そうか、今年の賽は、その目か」
入道は俺の顔に大きな手を伸ばす。

顔から、右目のあったあたりから、暖かい液体が滴り落ちている。
俺は道に座り込み、残った目で地面を眺めながら、右目のあった場所を両手で押さえている。


次のお題は、「コスモス畑を掘り起こすと」で!
0196道と鐘と賽2012/09/09(日) 14:33:01.80
どでかいミス。「生け贄」を「賽物」に読み替えてください。
0197コスモス畑を掘り起こすと2012/09/10(月) 22:54:03.80
ナクー参りまで一ヶ月を切った。
この時期、僕たちの話題といえば進路一色だ。
たまに関係ないという、いわゆる”エリート”もいるが、
僕たち白二年の仲間内では、そんな良家の子女はいない。
「で、君はどうするの?やっぱり仕官?」
そう問いかけるとレンジは当然とばかりに胸を張り、言った。
「まあ、そうなるだろうね」
付け加えれば「ふふん」とでも入りそうだ。そして、
「で、君は?」
口語技術の初段階にありがちな言い回しで、そう言葉を継ぐ。そのターンは僕だ。
「オーディナリー(生産者)かな。地質、好きだし」
「もったいないねえ。航時法もレガッタもトップクラスだというのに」
「仕様がないよ。白なんて、分不相応だったんだ」
もうわかると思う。僕は希望した進路に進むことができない。
でも、それは状況を鑑み、自分で出した答えなので、悩むのはお門違いだ。
でも……。
空気を呼んだのか、レンジはさっきより少しトーンを落とした。
「でもオーディナリーも大変な進路じゃん。州の希望だよ」
「まあね」わかってるよとあいまいな返事を返し、軽く笑ってみせる。

僕たちの進路はナクー神殿の大参りで確定となる。そしてそれぞれが進路に散ってゆく。
その後、顔を合わせられるとしたら5年後といったところか。
「未知を追求する事にかけて貪欲な君だったからね、再会できたとして、どうなってるだろう」
レンジはそういいながら窓の向こうにある研究棟に目をやる。
今までの日々を懐かしむように目を細める。でも、僕の気持ちは変わることはない。
「謎や夢を追えるのはソラ(宇宙)だけとは決まってないよ。」
プラント(田園)での生活も発明や発見にあふれたスリリングな日々かもよ。
プラントはソラと同じくらい未知に満ち満ちていて、
土を掘り起こす鍬の一打ちごとに、自分のプラントも広げていけるに違いない。


次回:駅員は5人いた
0198駅員は5人いた 2012/09/13(木) 23:53:08.57
 どこまでも続く長い線路の途中で車両が一つしかない列車が停止した。
あたりは畑と農家、名前さえもつけられていない山と川があるだけで
列車が止まると静寂が訪れた。
運転席にいたJRの職員は脂汗を流しながらしゃがみこみ苦痛の声を漏らした。食中毒だった。

「振り替え輸送とか無いの?」
サングラスをかけた男が言って隣にいた彼女らしき女が、男の声をかけた駅員を見た。
「申し訳ありません。ただいま手配しております。もう少しお待ちください」
その駅員の顔も歪んでいた。食中毒の原因は昨晩、この路線の職員が集まった飲み屋で出された
巻貝のせいだった。

「お母さん。レール触ってごらんよ」
子供が熱いレールに触って驚くの声を上げた。目が輝いている。
お母さんと呼ばれた女は汗を手のひらで拭いて困ったようにそうねといった。
乗客は全部で二十人いた。これでも多いほうだった。夏のお盆休み。
南中をまじかに控えた太陽が何もかもを焼き尽くそうとしている。


「助かりました。まったくこんなことってあるもんですな」
男は懐かしかった。このタイプの列車には、まだ若いころ研修で乗ったことがあるきりだった。
微かな記憶を頼りに計器を確認すると記憶がよみがえった。
「まったく! 乗客の中に元運転士がいるなんて。こんなことってあるんですなあ」
その運転している男は声をかけた派手な服の男に笑いかけた。派手な男はコンビニの経営者だった。
「まったく! こんなことって!」



次 成層圏からの使者
0199成層圏からの使者2012/09/17(月) 00:53:44.59
ケン君の手を離れた風船は急速に上昇し、空の彼方へと消えていった。
彼は見上げたまま、しばし呆然としていたが、もう風船が帰ってこないことが分かると、にわかに泣き出した。
横にいた母親が、また買ってあげるからとあやしてみるが、一向に泣き止まない。
この子は泣き出すと頑固なのよ、と困り果てた。
すると、突然、どこからか、謎の歌声が聞こえてきた。
「たとえば〜、世界中が〜、土砂降りの雨でも〜、ゲラゲラ笑える〜、成層圏…からの使者〜」
しゃららーら、しゃらららーらと歌いながら、一人の中年男がびっくりするくらい大量の風船を連れてやって来た。
急に現れた不審者に、母親は目を丸くして聞いた。
「えっと、あなたは?」
「私?私は『成層圏からの使者』です。またの名を風船おじさんと言えば分かるでしょうか」
「風船おじさん?」
「はい、そう呼ばれた時もありました」
「はあ…」
「お母さん、お母さんはニュースを見たことがありますか」
「ええ、まあ…」
「そうですか、私がその風船おじさんです」
「はあ?」
男はイカレていた。
0200成層圏からの使者2012/09/17(月) 00:54:25.00
「失くした風船はもう帰ってきません。でも安心してください。代わりの風船ならいくらでもある」
「おい、坊主風船が欲しいか」
「欲しい〜」
「どの風船が欲しい?」
「赤〜」
「赤か、さあやろう」
「赤だけでいいのか」
「うん」
「ほんとうか、坊主、これはどうだ、滅多に無い透明の風船だぞ、すごいだろう」
「うん」
「欲しけりゃやる」
「やった、ちょうだい!」
「よし、いい子だ。もっと欲しくないか、みろこの風船は他のよりも大きいぞ」
「本当だ〜」
「欲しいか」
「欲しい〜」 
「そうか、さあやろう、他にも欲しくないか?欲しけりゃ全部くれてやるぞ」
「ご親切にありがとうございます、でももう、これで結構ですので」
そこまで黙って聞いていた母親が、あまりの不気味さに、いたたまれなくなって口を挟んだ。
すると男は鋭い目付きで、キッと睨み付けた。
「おかあさん、私は坊主と話してるんです。あなたは黙っていなさい」
その高圧的な言葉に母親は圧倒されて口を噤んだ。
0201成層圏からの使者2012/09/17(月) 00:55:08.44
男はしゃがみ込み少年と目線を合わせて、たたみ掛けた。
「なあ坊主、本当は全部欲しいんじゃないのか?」
「うん、ボク、ぜーんぶ欲しい〜」
「本当に?」
「うん」
「本当に、本当に?」
「うん」
「そうか、よく言った」
「じゃあ、全部やろう」
男はそう言うと、素早い手つきで、全ての風船をケン君のベルトのバックルに結びつけた。
途端、ケン君はふわりと浮いた。
足が地面から離れると、腰の一点から、弓のような格好に吊り上げられ、そのままグングンと高度を上げた。
それを見た母親はその場にしゃがみ込み、何度も狂ったような悲鳴を上げた。
「旅立ちの日が来たんです、見送ってやろうじゃありませんか」

 このまま〜、どこか遠く〜、連れ去ってくれないか〜、君は〜、君こそは〜、成層圏からの使者〜
  しゃららーら、しゃらららーら、しゃららーら、しゃらららーら…

男は母親の肩に手を置いて、満足げにその歌を歌った。

次→どん底で遊んだら
0202名無し物書き@推敲中?2012/09/22(土) 11:49:38.78
「どん底で遊んだら」

彼は典型的な中間管理職だった。年齢は中年、髪はやや薄め、眼鏡は手放せず、それに高血圧とメタボに悩んでいる。
だが、心はまだまだ若い。若い連中とだって渡り合える。若い子に面白い話をしてどっと受けることだって可能だ。だが、世間は中年には冷たいのだ。
そんなある日、休憩時間に部下達が世間話をしているうちに、ひどく深刻な顔担っているのに気づいた。何か大きな問題でもあるのか?だったら、中年の経験と知恵を生かしてやろうじゃないか。
「おい、どうしたんだね?」
それは、確かに深刻な話だった、部下の知り合いが悪質な詐欺にあって持ち家を取り上げられ、さらに一家離散の危機にあるという。まさに不幸のどん底だ。
解決策は、もう少し詳しい話を聞かねばならないが、まずはみんなを落ち着かせるべきだ。そのためには、多少とも場を和ませなければならない。それには、そう、親父ギャグだ!
ネタはどん底、これをもじって雰囲気を緩める。それには何がいいか。素早く語彙を検索して、最適な答えを探す。
「なるほど、それは不幸のずんどこだね」
その途端、彼ら全員がため息をつき、そのまま立ち去ってしまった。
情けない。どうして世間は中年にここまで冷たいんだ?

次、「パロディが世界を殺す」で。
0203名無し物書き@推敲中?2012/09/24(月) 18:11:51.54
「パロディが世界を殺す」

「パロディといえば聞こえばいいけど、それって結局パクりでしょ?」
文学少女の山田は、夕日に包まれた赤い図書室で、茫然と立ち尽くすぼくにそう吐き捨てた。
黒縁メガネの奥の鋭い瞳は軽蔑と失望の色を孕んでおり、読みかけの大学ノートをぱたんと閉じると、彼女ははぁと小さくため息をついた。
「残念だわ北川くん。せっかく仲間ができたと思ったのに」
山田と親しくなったのは二か月前。昼休みの図書室で偶然山田が『上手な小説の書き方』という本を読んでいたのがきっかけだった。
勢いで話しかけ、自分も小説を書いていることを明かした。それまでろくに話したことなかった山田と頻繁に話すようになったのはそれからだ。
「北川くんの小説、今度読んでみたいわ」
完成したのはそれから二か月後――すなわち今日。
とても自信作とは言えない処女作だったが、彼女には見てもらいたかった。
彼女の好きな小説に関する小ネタを随所に散りばめ、彼女の喜ぶ顔を想像しながら毎日夜遅くまで小説を書き続けた。
ジャンルは恋愛小説。
内なる想いが大学ノートを埋めていった。
0204名無し物書き@推敲中?2012/09/24(月) 18:13:01.66
しかし…
「なにこれ?」
それを読んだ彼女の表情はたちまち険しくなった。
「なにこのタイトル。『吾輩はタコである』……ふざけてるの?」
「……」
「それにちょくちょく出てくる小ネタがうすら寒い」
「……」
彼女のダメ出しは三時間にも及んだ。
窓の外は暗くなり、下校途中にもそれは続いた。
「パロディなんて三流のやることよ。自分はネタがないということを吐露するも同然」
ぼくはすっかり落ち込んだ。
それでもダメ出しは続き、別れ際最後に彼女はこう言った。

「今度は私の小説読ませてあげる。こんなのよりずっとおもしろい恋愛小説」

彼女の頬が赤く見えたのは、ぼくの気のせいかもしれない。

次、「あと一週間サバ缶しかない」
0205あと一週間サバ缶しかない2012/09/24(月) 23:29:31.85
針の先につけた雪の結晶が静かにゆれている。
幾本もの長い針が飛び出た黒い頭巾の男は、この雪の中で何かを待っているようだった。
彼の後ろに倒れているのは鼻の長いピエロ。そして頭からは赤と白い液体が二本の川を描いている。
黒い頭巾の男は黒く汚れた皮の手袋で針の先の雪を払う。
でも新しく舞い降りる雪の結晶が、次の住人としてその場を乗っ取る。
頭巾の下から白く息が漏れる。
なぜここにいるのか、そしてなぜこんなことをしてしまったのか。
いまさら考えても仕方ない。でも、このピエロが悪いのだ。
そうでないなら、残りの一週間をサバ缶だけで過ごすなんて、誰が我慢できるだろう。
でも、ピエロは死んでしまった。軽く頭突きを食らわせただけで、この頭巾の針の餌食になったのだ。
頭巾の男は仕方なくサバ缶をひとつ取り、ぱっかんとふたを開けた。
飴色に濁る汁に沈むサバを一切れ、手袋の指で掘り起こし、つまんだサバの身を口に挟む。
あうち!
頭巾の針が手を貫いた。頭巾は脱ぐべきだった。

次回「お仕置き未亡人の陸・海・空」
0206お仕置き未亡人の陸・海・空2012/09/26(水) 00:45:05.65
(彼は死んだのか?)
ロデムは思う。彼とはバビル二世のこと。もう長い間、彼の指令を受けていない。
ロデムが意識を持って長い時間――そう文明が生まれ、その文明が滅びる時間――待って初めて二世様の声を聞いた。
二世は少年だった。
(最後に二世様の指令を受けてどのくらい時間がたったのだろう?)
(人が生まれ亡くなるくらいの時間だろうか?)
ロデムは思ったが関係無いような気もした。何故ならロデムの耳が、その鋭敏な耳が
新しい主人の声を聞いたような気がするから。
(それは女の声だ)
ロデムは思う。
(声に仕える、空を飛ぶものと海を潜るものも声を聞いているだろうか?)
ロデムは少し首をもたげ、また目を閉じた。

次 季節は二度繰り返す
0207季節は二度繰り返す2012/09/26(水) 22:29:22.34
秋の虫の音が、部屋に響き渡る。
窓の隙間から流れ込む夜風の涼しさが、余計に寂しさをかき立てる。
一ヶ月前までは妻と二人、笑顔の絶えなかったこの家に、今は一人。
夕飯の食器を片付けながら、亡き妻を思い出す。
妻は毎日、テレビを眺めている自分を見ながら、こうやって食器を片付けていたのだなと
対面キッチンの流し台からリビングのソファーを見ながらぼんやりと思う。
胸が、押しつぶされそうになる。
自分は、いい夫だったのだろうか? 問いかけても答えはない。
もう一度、あの夏に戻れれば。そうすれば、買い物に行かないように注意できるのに。
今もカースペースに置いてある、捨てる事のできない壊れた自転車を思い浮かべながら僕はそう思った。
天井を見上げる。景色が、ぐにゃぐにゃになったかと思うと、目の前に白が溢れ、意識が薄れていった。

耳を劈くセミの声に、僕は目を覚ます。背中にはぐっしょりと汗をかいている。
あまりの暑さにエアコンを入れた。ここは寝室。夢か。嫌な夢だったと思う。
枕元に置いてある携帯を見ると、8月15日だった。夢の中で妻が事故に遇った日だ。
今日の昼、妻は自転車で買い物に行き、その帰りに車に接触して病院に運ばれ、そのまま息を引き取ることになる。
胸騒ぎがした。僕は寝顔だけでも見ようと、妻の寝室に入る。妻はいない。
階段を下り、リビングに行くが、人の気配がない。
そうか、ゴミを捨てにいっているんだなと思い、玄関に向かう。
外に出ると、カースペースには、前輪がくにゃりと曲がった、茶色の血液がこびりついた自転車が置いてあった。

夢の中で「もう一度あの夏に戻れれば」と願った事を思い出す。いや、あれは夢だったのだろうか?
季節が、季節だけが二度繰り返された。
妻のいない二度目の夏を、僕はひとりぼっちで過ごしてゆくのか。

次のお題は、「四季の種」で!



0208「四季の種」2012/09/28(金) 21:49:23.15
妻が鼻歌を歌いながら食事の用意をしている。数年前、田舎に引っ越してしばらくは、知り合いもないこの場所で鬱々とするばかりで、余りいい精神状態ではなかった。
何度も元の場所に帰りたいと泣く妻の相手にうんざりし始めた頃、妻がガーデニングをはじめた。性にあったのだろう、それから次第に落ち着きを取り戻した。
何もない田舎だが、土地だけはある。元々が凝り性の妻は、ミニチュアのショベルカーの購入をきっかけに、あちこちを掘り返し、埋め立て、小山を作り・・・すっかり造園の楽しみに目覚めたのだった。
「今度は何の種をまこうかなあ」カタログを手に、うっとりと眺める妻は楽しそうで、今ではわたしよりもこの土地の暮らしを謳歌しているように見えた。
「仕事に行ってくるよ。遅くなるから食事は先に済ましておいて」わたしは鞄を手に、家を出た。

「いってらっしゃい」
美保は夫を見送って、カタログの注文用紙をファックスした。
ずっと放置されていた広い土地は、掘り返すたびにいろいろなものが出てきておもしろかった。腐りかけの木の根や家具。よくわからないプラスチックや古い電気製品、それに・・・犬の死体やよくわからない骨・・・。
そういうもろもろを、丁寧に埋め直し、上から花の種をまいた。特に肥料を与えなくても、栄養のある場所は何を植えてもしっかりと元気よく花が咲く。
「今回はちょっと奮発しちゃったわ」
新品種の花の種を心待ちに、美保はうっとりと畑の方を見た。数日前、造園作業をしている美保の前に見知らぬ女がやってきて、子供が出来たと勝ち誇ったように告げたのだ。
夫が浮気をしていたことは全く気づかなかった。品のない赤い口紅も、金に近い茶色の髪も、思い出すのも胸くそが悪かった。
「夫が種まきしたなんて知らなかったわ。それにしても、あまりいい土地じゃなさそうだし、どうせろくな花も咲かないでしょ」
窓の遠く、視線の先には、むき出しの土肌が黒々と続いている。
ショベルカーで掘り起こした穴も、今はすっかり元通りに均されて、種をまかれるのを待っているのだ。
ゴミの埋まった肥沃な土地は、四季折々の種が芽を吹き、根を伸ばし、思うさまに葉枝を茂らせることだろう。
「立派な花がたくさん咲きそうね」美保はにっこり笑って、カタログを大事そうに棚に戻した。

次「一筆書き選手権」
0209一筆書き選手権2012/09/30(日) 13:22:06.91
極太の文字が書け、書道用の筆として使える筆ペン「書道ペン」が新たに発売された。
それに伴って、メーカー主催のキャンペーンが行われたのだが、それが「一筆書き選手権」だった。
ひとふでがきではない、いっぴつがきである。
ふらふらとショッピングしていた我が家族は「優勝者には商品券、ほか、参加者全員、ペンがもらえる」のアナウンスに釣られて、何も考えずに参加することになった。
参加者が、一人一人壇上にあがり、縦長の半紙に綴った様々な一筆を披露していく。
「もう、マージャンは止めます。」
「出来る男になりたい!」
「勉強頑張るぞ!」
そして、いよいよ我が家族に順番が回ってきた。
娘の恵子がくるくると巻かれた紙をまっすぐに伸ばすとこう書かれていた。
「今後、悪魔との取引をやめます」
会場の客は、誰もにこやかに、一定の興味を持って、その華奢な少女に視線を向けた。
司会のお姉さんは笑って聞いた。
「悪魔と取引したの?」
「5人以上殺しました」
とたんに会場がざわついた。が、いくらかの人は、その言葉に、何らかの裏があるのだろうと勘ぐって、ニヤニヤと笑った。
お姉さんは、突然現れた腫れ物に、躊躇いながらも、うまく対処した。
「うーん、ケイコちゃんの、悪魔的な魅力で、5人ころっと逝っちゃったということで」
その、努めて明るく快活な声に、頭上に立ち込めた靄が晴れ、会場に笑いが起こった。
だが、恵子は表情一つ崩さずに言った。
「いえ、薬です、5人殺しました」
それを聞くと、もう笑う人はいなくなった。
困り顔のお姉さんは、相手にしないことを決めたようで、出口を指しながら言った。
「はい、そういうわけで、ケイコちゃんありがとうございました〜」
「次の方どうぞ〜」と言われて壇上に上がったのは、妻だった。
うっすらと目に涙を浮かべて、披露したその一筆には、「恵子を警察に突き出す」と書かれていた。
会場が止まった。お姉さんが止まった。そして、すべての時間が止まった。
やっぱり、そうだったのか……
私は、「今年こそ、家族を旅行に連れて行く」と書いた半紙を、クシャクシャにして握った。

次→「不思議なXデー」
0210不思議なXデー2012/09/30(日) 21:37:57.31
その彗星が木星に落ちるというニュースが世界中に配信されてから
いろいろな憶測やデマが広がったが、関係者の予想通り肉眼では
何一つ変化を捉えることは出来なかったし気象上、地学上なんの変化も無かった。
それでも、あの金曜日は僕にとって、とても変わった一日だった。

警察官に職務質問された時の異常な質問。
「――ところで、あの猫はオスだと思うかね?」
警察官が示す方向には野良猫がいて、私たちのほうを退屈そうに見ていた。
コンビニに行った時、見ず知らずのおばさんに、あげるといわれてもらった
あんまんと肉まん。毒入りだと思って捨てようかと思ったが
少しだけ食べた。おいしかった。
みんなが精神をおかしくしたのか、あるいはもともとおかしかったのが
ちょっと顔をのぞかせただけなのか? それは分からない。

世界はこれからも回っていくだろう。あっちにゆれ、こっちにゆれ。
それが世界というものなのだ、きっと。
なので僕は時々、発狂しそうになる。時々。


次 振り向けば変態

0211振り向けば変態 2012/10/08(月) 00:23:09.53
消えてしまいたい。本当にそう思った。
公園の木々は枝に緑を芽吹きだしている。子供達は、楽しそうに砂場で遊んでいる。
四月に入社して、すでに一ヶ月も過ぎているのに、あんなミスをするなんて。
僕は自分の小ささと、頼りなさに自己嫌悪に陥っている。本当に全てを投げ出してしまいたかった。
と、耳元で、何か紙の様なものがこすれる音がした。僕は振り向いた。
さなぎから、蝶が半分頭を出していた。
「こいつらは気楽でいいな。今度生まれ変わるなら蝶だな」
そう思いながら、そういえば蝶が羽化するのを見るのは二回目だと思った。
数年前、友人の家で初めて蝶の羽化を見た時のことを思い出す。

「なぁ、幼虫からさなぎになって、蝶になるのって、なんか面倒じゃない? なんで初めから蝶の形じゃないの?」
僕の素朴な疑問に、昆虫の研究をしていた友人は答えた。
「おまえ、蝶の卵って、どれくらいの大きさか知ってんの?」
「蝶の卵って、キャベツの裏とかにくっついているやつ?」
「うん。そう。ちっちゃいよな。一回幼虫になって身体を大きくしないと、成虫になってもあんなだぜ?」
「それなら大きい卵を産めばいいのに」
「蝶の身体って、あんなもんだろ? 大きい卵なんか産めないって」
「それで、幼虫になって大きく育ってからさなぎになって、最後に大きな成虫になるわけか」
「よく出来てるだろ? さなぎの間は、じっと成虫になる準備をしているんだ。変態ってやつだな」
やつはそう言うと、愛おしそうに蝶を見つめた。

変態か。今の自分を蝶に重ね合わせてみる。
今は失敗ばかりだけれど、それは幼虫が飛べない様に、大きくなる為の、大空に飛び立つ為の
準備なのかも知れないなと僕は思い直した。それならば。
今は弱々しくて、頼りにならない自分だけど。けれど成長していくなかで、やがて蝶になれるかも知れない。

僕はもういちど振り返り、苦労しながらも抜け殻から半分ほど這い出しかけている蝶をじっと見つめた。
昆虫学者を目指していた、昆虫が好きでたまらない、あの友人と同じ眼差しで。

次のお題は、「遅刻してきた理由(魔法少女編)」で!
0212遅刻してきた理由(魔法少女編)2012/10/10(水) 21:55:33.95
そこのお前、待ちなさい。私は魔法少女だ。反論は許さない。
この紺碧の海原で揺れる海草のようなしなやかな髪、
古代中国より悠久の時を経て受け継がれてきた陶磁器のような白い肌、
雲一つ無い冴え渡った星空に浮かぶ新月のような瞳、
海洋堂のフィギュアのような顔。どこをとっても美少女だ。
なに?魔法少女であって美少女ではないだと?バカめ!
美しいに越したことは無いであろう。さらに、魔法の能力もレベル5くらいはある。
ちなみに原作は無い。信じておらんな?
よろしい。しからば、特とその目に刻みつけるが良かろう。
え?焼き付ける?無礼者!それ以上のインパクトを狙ってのことだ。
日本語が不自由な訳ではない!
なに?「そんなことししている時間はない」だ?ええい、まだ言うか!
この魔法少女の...こらまて!何が学校だ!どこへ行く!待てといっておるのに!

次回「猪の猪」
0213猪の猪2012/10/13(土) 12:45:40.78
ばさっ。
「やったな。これでもう鶏は死なないぞ。」
「そうだね、父ちゃん。それで、この猪どうするの?」
「そうだなぁ。」
ぶりゅっ。
「あっ、父ちゃん!みてみて。この猪が子供産んだよ。」
「あっ、ほんとだな。うーん。どうしようか。」
「ねえねえ、この赤ちゃん猪僕が育ててもいいかな。」
「ああ、いいけどきをつけろよ。ちゃんと閉じ込めておくんだぞ。」
「うん!わかった。」
ぶひぃーー
(もうこいつは殺そうかな。)
ドォォンッ!
ばたっ
もざもぞもざもぞ
「なんだ?」
うにゃえにゃうにゃえにゃ
「うっ、うわぁーーー!」
どたどた
「おい!さっきのイノシシはどうした!?」
「父ちゃんたすけて!」
うねうねくねくね
「うわぁーーー!やめろ!!ちかづくなぁぁ・・・ぅぅ、うねうねくねくね。。」


あなたのなかにもいろいろな自分がいるんじゃないですか?
しっかりと自分をコントロールしてくださいね。




0214猪の猪2012/10/13(土) 12:47:31.99
次は「失敗の秘訣」
0215失敗の秘訣2012/10/19(金) 21:07:14.73
失敗した貴君に、私から失敗の秘訣と言える物を教えてやろう。
単に失敗と言っても、その質から良い失敗と呼べるものと、悪い失敗と呼べるものがある。
前者はそれを踏まえて成長し得る物を指し、後者はそうでない物を指す。
失敗するのであれば、せめて次に繋がる前者にしたいと思うのは、人として当然の考えであろう。私だってそう思う。
それを実現させるに当たって、貴君には憶えておいて欲しいものがある。
まず、その根本にあるのは同じ失敗である事。
良い失敗も悪い失敗も、どちらも失敗である事に変わりない。それを生かすも殺すも、自分次第であると言う事だ。
そして、生かす為の手っ取り早い手段とは、早期の反省である。失敗を具体的に憶えている内に反省を行う事で、より正確に反省すべき点を見出す事が出来る。
次に、例え同じ失敗で反省する事になっても、それもまた成長に繋がるという事。
前回と同じ失敗をした際、前回の反省を憶えてさえいれば、前回の失敗と今回の失敗を比べる事が出来る。比較対象がある事によって、より正確に反省すべき点を見出せるようになるのだ。
勿論これは、前回の失敗を憶えていなければどうしようもない。失敗を、それに関わる反省をなるべく忘れないようにすべきである。
そして忘れないようにする為には、やはり早期の反省である。

長々と話したが、つまるところ私の下らない話を聞いている暇があったらすぐさま反省して次に生かそうとする努力をしろ、という事だ。
0216失敗の秘訣2012/10/19(金) 21:08:24.83
次は「茸の山の筍、筍の山の茸」で
0217名無し物書き@推敲中?2012/10/20(土) 14:52:38.47
筍の山の茸は、はるか遠くの、茸の山に思いを馳せていた。
茸の山の筍は、これまた遠くのどこかにある、筍の山を思い浮かべていた。
筍、茸は同時に思った。
(そこに行きさえすれば、ずっといい暮らしが出来るはずだ!)
その瞬間、二つの住処が入れ替わり、筍は、筍の山に、茸は、茸の山に住むことになった。
ああ、だが、なんということか。
筍の山で山火事が起きて、まるごと焼き筍になってしまったのだ。
山で暮らす人々は、大喜びで掘り起こして、出来立ての天然焼き筍に舌鼓を打ったという。
それを知った茸は、茸の山に来られた我が身の幸運をかみしめていた。
ところが、山火事で焼け出された、筍の山の動物たちが、食べ物を求めて茸の山にやってきたのだ。
そして、あっという間に、茸は動物に食べ尽くされてしまった。
筍も、茸も、美味しい物に、生き延びる道は無いのであった。

次は「インバータ」
0218インバータ2012/10/21(日) 14:34:15.73
その巡査は、よく分からない内容で、調書を書くのが嫌で、なんとも迷惑そうな顔をしていた。
向かいには中年のみすぼらしい男が座っていて、しょげ返った風に俯いていた。この男は半時ほど前に、交番にやって来て被害を届け出た。
男の話はこうだった。
向ヶ丘の芝生広場の真ん中に伸びる新設の道路を歩いていると、急に目の前に丸く光る物体が現れた。
なんだろう?と思っていると眩暈がして、その物体に体全体が引き込まれた。目が覚めると、自分は手術台の上に寝ており、手足が固定されている。主治医にあたる宇宙人が一人、と助手らしきのが2,3人、黒く大きな目で見下ろしていたと言う。
「それで?」
「埋め込まれたんです。」
「何を?」
「インバーター」
巡査はペンを置いた。
「インバーター?」
「はい、奴らがインバーターと呼ぶ白っぽい物を埋め込まれました」
巡査は顎に手を置いて、宙を睨みながら考えた後、もう一度聞いた。
「インバーター…ですか?」
「はい」
巡査は、インバーターについてよく知らなかった。ただ電気を、もしくは電流に変化を与えるものという曖昧な知識はあった。
「本間さん、あなたが見たのは本当に宇宙人でしたか?だって宇宙人がインバーターを使用するというのは変ではないですか?
地球で開発されたものを宇宙人が使いますか?インバーターって家電やなんかに入っているものでしょ?それを人体にって、
ちょっとSFの見すぎじゃありませんかね、アハ、アハ、アハハ」
ついに抑えていた「馬鹿馬鹿しい」という気持ちを前面に出して笑い出した。
「いいです、信じてくれないんだったら…」
男はそういい残して交番から出て行った。
「二度と来るなよ、気違い野郎め」
巡査は一人悪態をつくと調書を破り捨て、タバコに火をつけた。
しかし、次の日、男が倒れているとの通報があり、巡査が駆けつけるとあの男が死んでいた。
男はすぐ検死に回され、巡査も立ち会った。
死因は心臓発作と判明した。
検死に当たった医師は、しきりに首を傾げて、男が装着していたペースメーカーの、ある一つの部品だけが真新しいことを指摘した。

次回「私の愛した無礼講」
0219私の愛した無礼講2012/10/21(日) 17:10:02.03
遅れて、飲み会に到着すると、ざわめいていた座がひと呼吸沈黙した後、また何事もなかったかのようにざわめきを取り戻す。
ざわめきに飲み込まれ、座った横から差し出される酒を受けつつあいさつ。
「風が冷たくなって来ましたわ、歳ですかね」
「まあまあ、今日は無礼講だから」
と間をおかず継ぎ足される酒を胃に流し込みながら、
「大根とはまたいい具合に風呂吹きで練り味噌がいい仕事してますよ」
などと軽く口が回るのを確認したら、座のざわめきに身を委ねる。
杯を重ねるごとに日頃の鬱憤がとけていくようで見渡せばどこもかしこも笑顔である。
私の愛した無礼講とはそういうものだった。
酔いの残る重い頭で昨夜を思い出していると、電車が駅に停まり新たな客に押し込まれ前の若い女性に密着した。
また走りだした満員電車の振動が、密着した女性の身体の豊かさを伝えてくる。
「すいません」と小声で謝るもあせった。
嬉しくも哀しい男の性がむき出しにされていく。
遠慮を知らず硬くなっていくそれ。
不味い。不味い。気がつけば――私のマタシタ無礼講

次は「逆立ちする名月」
0220名無し物書き@推敲中?2012/10/22(月) 23:03:00.06
結婚して三十年、義姉と姑とはずっと折り合いの悪いままでした。
夫婦仲は悪くなかったのです。でも、夫の身内は私に辛くあたり、
わかっていることをいつもねちねちと、ねちねちと、ええ、もう、それは……。
夫の還暦祝いを何にするか、義姉に聞かれたのが先週です。
義姉はデパ地下で百八タルトの売り子をしており、あわよくばお祝いに
自分のところのタルトを買わせ、販売成績をあげさせようとする
つもりなのでした。むろん還暦祝いがそんな安いお菓子だけでよいわけもなく、
週末に夫とデパートに出かけ、時計のひとつでも選ぼうかと思っていたのです。
夫は華美を好みませんから、買ったのはSEIKOのちょっといいグレードのものでした。
その帰りに夫が仕事の呼び出しをうけ、わたくしがひとりでデパ地下へ寄りますと、
あれ……義姉の姿が見えません。いえ、義姉はカウンターの向こうで逆立ちして、
白い靴下をかっぽん、かっぽんと打ち合わせていたのです。
「あんた、なんでひとりで来たのよ。あんたに売るタルトなんてないわよ」
「お義姉さん、そんなこと言わず、一本売ってくださいな」
義姉は逆立ちしたまま両足でタルトを掴むと、カウンターに置きました。
「仕方ないわねえ。2千円よ。ホラ」
その侮辱的な所作に歯を食いしばりつつ、ふと前を見ると、ダイヤモンド型の
義姉のガニ股の向こう、反対側のカウンターに、姑のにやつく顔を発見したのです。
「キエー!」
私の中で何かが切れました。バッグからバレーボールを取り出すと、姑の顔めがけて
投げつけました。私をこんなに馬鹿にして!高校時代セッターだった私のボールを受けてみなさい!
「甘いわ!」
轟く義姉の声に私は硬直しました。次の瞬間、姑を破壊するはずだった私のボールは、
逆立ちしたままの義姉の両足にキャッチされてしまったのです。
「秘技、ハンドスタンド・ダブルフットキャッチ!」
私の必殺白球、ザ・グレート・ムーンが敗れた! 私は嘲笑する姑の顔を見つめ、
汚い靴下を見、鮫肌の義姉のスネを見……。
気がついたときには、義姉と姑は死んでいました。右の拳が少し痛かったです。
群馬で生まれた女には、ボールなんて飾りなのですよ。

次「ボイスチェンジャー・スクランブル」
0221ボイスチェンジャー・スクランブル2012/10/28(日) 01:02:29.85
深夜に電話が掛かってきた。
その音で目覚めたものの、何かの間違いだろうと思って、目も開けずに放置していた。
すぐに留守番電話が作動したが、何を言っているのかよく分からない。
その声は妙に甲高くて、早口である。

キュルキュルキュル…よ
キュルキュルキュル…よ
キュルキュルキュル…よ
キュルキュルキュル…よ
キュル、キュルキュル…よ
同じような音が何度も再生されている。
一体なんなんだ、これは?俺は半身を起こして、オレンジ色に光る電話のディスプレーを見つめた。
すると、得体の知れない声は少しずつ明瞭になっていく。
キュ、キュルス…よ
こキュルキュル…よ
ころキュルル…よ
キュキュルす…よ
キュるす…よ
ころす…よ
ころすけなりよ

「なんだよ、コロスケだったのかよ」
俺は、布団に倒れ込み、再び眠りに就ける喜びをかみ締めた。

次も「ボイスチェンジャー・スクランブル」
0222名無し物書き@推敲中?2012/10/28(日) 01:25:54.55
「あ、俺だけど、今、お前の夢見ちゃった」
「…えー、どんな?」
「この前、プレゼントした服を着てくれてるんだけど、中が素っ裸w」
「ばか。えっちなんだからもう」
「それで、TDL行くんだけど、なんかスカートめくれたらどうしようって、そればっかで楽しめないっていうオチ」
「TDL?」
「そう。あ、旅行だけど、ホテル取れたよ。母親の方、うまくやっときなよ。後でいろいろ言われるのは俺なんだしさ」
「うちの子とは、二度と会わせませんから!」
ブツッ。

やべえ、今のおふくろさん?
声似過ぎだろーが。あーあ……。どーしよー。


次は、『アルミサッシ』
0223アルミサッシ2012/11/02(金) 20:14:12.26
午後から風が強くなったので、出かけるのをやめて縁側でひなたぼっこをしていた。秋も深まり風も冷たくなってきた。だが風を通さないアルミサッシなら関係ない。サッシ越しの日の光は思った以上に暖かく気持ちがいい。

ごつん、ごつん――ぬくぬくしていた俺の耳が異音をキャッチした。よく見れば正面のガラスに一匹のハエがぶつかっている。部屋の中の暖かさがハエにもわかるのだろうか、こちら側になんとか侵入しようと何度もガラスにぶつかっている。
「その気持は察するがな、サッシだけに。がはは」
訳の分からない勝利宣言をハエにむかって突きつけていると、庭先の向こう白っぽい布切れが風に吹かれて飛んでいくのが見えた。
「あれはもしかして――」
コンタクト矯正視力1.0の両眼を通してわずかの時間でそれが女性物の下着らしいと判断した俺は、思わず正面にガラスがあることも忘れ、ごつんと頭をぶつけた。
(気持ちはわかるがな。がはは)
ガラスを一枚挟んでハエの心が聞こえた気がした。アルミサッシを挟んでハエと俺の気持ちが一致した瞬間だった。
あちら側に行きたいけれど、いけない。悲しみの心を秘めたままハエと俺はしばらくそうやって午後の陽だまりで友情を暖めていた。

寒気を感じてうたた寝から覚めると、すでにハエは見当たらなかった――はずだったが、立ち上がって居間に行こうとした時、いつのまにかハエが入り込んでいるのを知った。
「いつの間にっ」
ハエは肩の周りでブンブン飛び回る。いつまでもまとわりつくように周囲を飛び回るさまを見ていて唐突に俺は理解した。

コイツは「恋するハエ女」だったのだと。

次は「自縄自縛」
0224名無し物書き@推敲中?2012/11/06(火) 21:33:16.26
女もすなる自縄自縛といふものを、我輩もしてみむとてするなり。
目の前にロープがある。否、縄がある。しかしそれを手にする前に、まず断っておこう。
我輩はかような変態行為に興奮を覚える性質にはあらず。
ただ近々新刊として出た「自縄自縛の私」という書物を読むにあたって、予備知識を得んがため、自らを縛ってみようと思った所存である。
このような変態性の高い書物を購入した我輩を笑わば笑え。
本はアマゾン、縄は楽天で別々に購入した我輩を笑わば笑え。
この期に及んでは、ただ平静な心持で、任務を遂行するレンジャーのごときである。
さて、縄と言えば、古くは罪人を捕縛する際や、首吊り刑の執行などに使われていた。
西洋ではカウボーイなるものが牛を捕まえる際に使っていた。
その縄の用法が、いつやら変態行為に及んだようだが、この度はそれについては深く考えまい。
我輩の目的は、自縛の感覚の一端をこの体で確かめることである。
服を脱ぎ、シャツを脱ぎ、パンツを脱いだが靴下だけは脱いだ後もう一度履いた。これはアクセントである。
インターネットで縛り方を検索した後、一時間かけて、我輩は自分自身を縛った。
重厚な縄が、肉体を攻めてきて、インドア派でちょいメタボな、我輩のマシュマロのような肌が桜色に染まる。
さらに締め付けようと縄の一端に力を込めて引っ張ると、股間に刺激がはしる。
すると何故だかは分からぬが、叱り付けられているような不思議な気持ちになる。
アヌスの割れ目にコイル状の太巻き部分が食い込むたびに我輩は謝罪したい気持ちでいっぱいになった。
「ゴメンなさい」と言ってみたが、全ての息が鼻から漏れてハフンハフンと鳴るばかり。
我輩は悟った。これは変態行為などではない。厳しい厳しいリアリズムだ。
新しい世界が幕を開けたのだ。
ようこそ我輩、自縄自縛の我輩。

次「縁の下君」
0225縁の下君2012/11/11(日) 09:56:08.49
縁側のしたに何かいる・・・
怖い。俺は足音を立てないよう、そっと歩く。「がさっ、ささっ」やはり何かがこの下にいる。なんだ?虫か?いや、ちがう。もっと大きな物体だ。「がたっ」音がだんだん大きくなっている。俺は怖くなって、もう一度でなおそうと思い居間へかえった。
考える。人ではないだろうか。まさか、殺人鬼が俺の家に?!いや、考えられない。なんだ?なんなんだ。怯えながらも、もう一度縁側へ向かう。そっと、歩く。
あれっ?音がしないな。
ふぅ。したを覗いてみるか。ずっとこのままにするのも嫌だしな。ドクドクと心臓の音が聴こえる。
よしっ。覚悟を決めた俺は頭をゆっくりと縁側のしたへともっていった。

あっ!僕は思わず声をあげそうになってしまった。やばい。隠れなきゃ。さっと柱の後ろへとかくれる。
「がさっ、ささっ」
少し音を出しちゃったけど多分大丈夫だよね。人間には聞こえないくらいの小ささだったから。
そんなことより、この家が危ないよ。もう崩れそうだっていうのにまだ誰かが住んでるんだもの。僕がこうして定期的になおしにこなければすぐにこんな家壊れちゃうよ。
この家の人も早く気づいてくれないかな。
「がたんっ」ああ、また修理しなきゃ。

「向かいの家、早く崩してくれないかしら。危ないのよね、廃墟って。」
0226縁の下君2012/11/11(日) 09:57:34.29
次は「あの日の公園」でお願いします。
0227名無し物書き@推敲中?2012/11/11(日) 22:59:20.42
缶コーヒーの飲み口に、蟻が群がっていた。
優美は、黒い蟻がせわしなく動き回る様子を、ぼんやりと眺めた。
(いつもは無糖だったけど、疲れていたから甘いのにしたんだ……)
草と土と枯れ葉と、自分の血の匂いを嗅ぎながら、優美はまったく動く気がしなかったが、
蟻が自分の缶コーヒーにたかっているのを見て、かろうじて『そのこと』を思い出した。
いつものバイトの、いつもの帰り。でもちょっと疲れたから甘いコーヒーにして、
のんびり公園を通って行こうとして……。
それが、30分前のことだった。今はただ、息を吸って、吐いてるだけ……のつもり。
身につけていたはずのジーンズとショーツは、どこにあるのかもわからない。
顔が熱を持っているのがわかる。全身のあらゆる傷みが鼓動と共鳴している。
ずきん、ずきん。どくん、どくん。
腹の辺りから何かが、ごぼごぼと流れ出ていた。
(い、き、が、で、き、な)
優美が最後に見たものは、自分に近づいて来る黒い蟻の頭だった。


次は、「公衆電話」でお願いします
0228公衆電話2012/11/13(火) 23:11:38.91
「ジリリリリリリリリリリン」

本屋の表で立ち読みしていた僕は、突然近くで鳴り響いたその大きな音に立ち読みを怒られたような気がして、必要以上に慌てふためき、読んでいた成人雑誌を落としてしまった。

左右を確かめ近くに誰も居ない事にホッとした僕は、冷静になって音の方をみてみる。とそれはすぐ側にある公衆電話だった。イタズラだろうか?誰かが取るのを待つように依然として鳴り続けている。
「うるさいな」
無視して、いや、聞かぬ振りをして雑誌に集中しようとするが気になって仕方が無い、十回以上は鳴っただろうか?僕はついに我慢出来なくなって、受話器を取ってしまった。
『あの、もしもし?』
若い女性の声だ。予想以上に可愛いらしいその声に警戒が緩む。
「……はい、なんですか?」
『あの、ちょっとお聞きしたいんですけど』
「はい、」
『そこの公衆電話の何処かに何か落書きがありませんか?』
「え、落書きですか?」
妙な事を聞くものだと訝りながらも、これが何かのきっかけ(主に恋の)になるかも、と素直に探す。
「ちょっと待って下さい、あ、ありました」
『それを教えて頂けますか?』
「ええ、いいですよ、えーと……」
そこで僕は言葉に詰まってしまった。其処に書かれていた言葉
<お前に百万をやる。今直ぐその電話を切って次の番号にかけろ、金の場所はかけた相手の電話の近くに書いてある>
「どうしました?」
僕は直ぐに電話を切り示された番号にかけた。呼び出し音がもどかしい、近くに誰も居ないのだろうか?十数回目でようやく受話器の男が応えた。
『もしもし』
「あの、つかぬ事を伺いたいのですが」
『はい、何でしょう』
「その電話の近くに何か落書きは無いでしょうか?場所とか地名の……」
0230土から赤子が孵る刻2012/11/14(水) 01:00:11.83
これはもう昔のこと、さて大正か明治かというまあそれくらいの頃の話ですが……。
当時このあたりには赤子が生えたのです。いえ冗談ではなく、道端、庭先、河原、
畑、そんなところににょきにょきと生えた。まあいってみれば雑草ですな。
なぜ生えるのかは土地の人にもわからなかった。しかし、生えることが当たり前になっていて、
誰も不思議に思わなかった。そういうものだと。ええ、そういうものなんです。
赤子は手から生えます。地面から拳が出て、やがて指を開いて、ひじが出、
どんどん伸びて、最後には肩が出ます。そこまでで一週間くらいですかね。
ここで気をつけるのは、肩が出る前に枯らすことと、手には絶対に触れないことです。
肩まで出ると、赤子は掌を地面に突いて、体の残りを引き出そうとします。
また誰かが手に触れると、赤子はここに人間が住んでいることを確信して、
次から次へと生えてくるようになります。この、触れずに枯らすのが難しい。
手が生えたら、その周囲に囲いを作って、水を溜めます。一時間も沈めておけば、
手は死んでしまいます。あとは土を被せて腐らせるだけです。
手は生える場所を選びません。どこに生えてもすぐわかるように、
この村では古来、高床式の家が好まれました、地面を隠さないわけです。
万一赤子が地上に出てしまうと、その日の夜中、村の誰かが赤子と入れ替わります。
入れ替わった人は、他の人からは以前と同じように見える。でも、寺や社に
寄り付かなくなり、祠の前を通らなくなる。たしかに違う人間になっている。
そして、ほどなく村から姿を消します。
とまあ、そういう昔話があるのです。奇妙でしょう。いまでは家も普通に建てますし、
手が生えたから枯らすなんてこともありません。いい時代になりました……。
さて、いい時間になりました。そろそろ寝ましょう。
え、さっきの話? あまり気にしないでください。深夜の怪談って、なんか嫌ですよね。
それに、あす目覚めるのはどうせ私だけですから。

つぎ「108人の男たちの手料理」
0231名無し物書き@推敲中?2012/11/15(木) 10:54:34.76
某国王の三十番目の姫様は、食にたいへんうるさい方だった。
だが、国王がこれまた一切食事に興味が無い方だったので、
城の料理人の腕は、相当酷いものだった。
ある日、ついに姫様がぶち切れた。
「城の料理人は、全員集まる様に!」
総勢109人の料理人を前に、姫様は厳かに言い渡した。
「私の舌を満足させる料理を作れなかったら、全員の首をはねるからそのつもりで」
さあ、料理人たちは大騒ぎになった。だが、ともかく料理をせねばならない。
ああでもないこうでもない、と、厨房は夜昼無くもうもうと湯気が立ちこめ、
やがて、姫様をわくわくさせる様な芳醇な香りが城全体に漂い始めた。
ついに完成した、黄金色のスープを一口すすり、姫様は満足げにうなずいた。
「素晴らしい。待った甲斐があったというものです。お前達には褒美をとらそう」
109個の金貨の袋は、順番に料理人たちに配られたが、なぜか1袋余っている。
「どうしたのだ。なぜ、一人足りないのです?」
姫様の質問に、108人の料理人たちは、顔を見合わせおどおどとしている。
ようやく一人の料理人が姫様の前に進み出て、頭を下げながらその訳を答えたのだが…。
答えを聞いた姫様はその場で卒倒し、事の次第を知った国王は激怒して、
料理人全員の首をはねて、生首を荒野に打ち捨ててしまった。
姫様はその後、何も食べる事が出来なくなり、糸の様にやせ細り、ついに亡くなってしまった。
国王は悲しみのあまり気が狂い、ある日城の塔から身を投げて自殺をした。
主を失った城は、働く者も去っていき、いつのまにかすっかり荒れ果てた様相になった。
だが、誰もいない厨房の大鍋では、いつでも黄金色のスープがふつふつと煮えていて、
近隣50キロ四方までその香りが漂っていたという。

次は、「修正液を飲み干した透明人間」
0232修正液を飲み干した透明人間2012/11/19(月) 00:19:55.85
それは秋の終わりの頃の朝帰りだった
「おーい・ただいまぁー」 「帰ってきたよ」と私が言う
彼女が朝から出迎えてくれると思ったが、返事もなく全く
1週間ぶりに、帰った自宅の玄関の床の上に封筒に入った手紙が落ちていた
手に取った封筒には、差出人と名前が書いていない
私は怪しいと思い捨てようと思ったのだが、手紙との見当が付くので、慎重に開け
それは彼女が別れる内容の手紙と、彼女から婚姻届の名前の入った用紙だった
手紙を拝見して、冒頭から「好きでした、本当に好きでした、本当に彼方を愛する事が出来ません」
普通に読み続けて
某国の諜報エージェントとして 自分と付き合ってしまったことに対する後悔の念を伝える内容だった
私は思わず愕然とした・・・自分は何て愚かだろうかと・・・動揺して混乱をしている気持ちを落ち着かせ
自分が真っ先に書斎の部屋に駆け出して、書斎の部屋の扉を開けた途端に、頭の中が真っ白になった
密かに自宅に持ち出した研究番号S-46番の液体が消えているのと、研究番号N-30番の研究論文が無く
大学の寄付による軍事企業の秘密研究が、某国軍部に知られてしまうと大変な危機に陥る
これは大変マズイ・・焦る中で、思い出した
私は夜の営み最中に、彼女の体の中にICチップを埋め込んだ事を思い出し
自宅より電話回線を軍事企業に繋いで民間軍事衛星情報で位置情報を割り出して捜す事にした
彼女が15分前に自宅から出てから喫茶店に居る事を割り出して追いかけ、彼女の近くまで尾行をした
念の為にN-30番を密かに作り出した残りの液体を私は実践で人気の居ない所で散布と残りを全部飲み干し
初めての経験で思わず興奮しながらも、2分後には見事に体と衣服の姿が隠れた
彼女の尾行に成功した私は女子トイレまで入ったが、何故か多目的トイレに駆け込んだ
トイレに入っていきなり服を脱ぎ出すなり、信じられない行動に出てしまった
私が初めて眼にした光景として不覚にもイチモツの興奮が収まらなくなってしまい思わず堪え続けながら
理性を取り戻し、彼女のハンドバッグを開けようとした時に彼女の手が近づいて、咄嗟に手を引っ込めた
「あぁっー」と彼女が喘ぎ声を発した途端にイチモツからの白い液が彼女に掛かってしまう
凍る私と性癖を知られた彼女にバレテしまった
後戻りが出来ない、私の人生の修正液
0233修正液を飲み干した透明人間2012/11/19(月) 00:59:18.20
一箇所修正 22行目の冒頭 トイレに×⇒彼女は○ スマソ

次のお題 「ゴミ屋敷と破天荒の行方」
0234ゴミ屋敷と破天荒の行方2012/12/16(日) 19:22:13.93
十月三日

老婆の説によればこのゴミの山は、ある理論によって然るべき場所に配置されているとのことだ。
さらに、あと一つ道具が揃えばこの世界とは別のもう一つの世界との扉が開かれると言う。そして老婆は若くして事故で失った息子に会いに行くと言う。

馬鹿馬鹿しいとは思ったが、老婆の気持ちを思うと無碍には出来ない、しかし私は町長としてこのゴミ屋敷問題を解決しなければならない。
今まで様々なこの町の無理難題を解決させてきたのだ。この問題だって必ず突破してみせる。

十月五日

あと一つ道具が揃えばいいのだ。幸いなことにそれは特別入手困難というものでもなさそうだ。それを手にいれ老婆に突き出し、現実を見せてやれば、少々酷ではあるが考えを改めるに違いない。
そしてあのゴミ屋敷問題は文字通り綺麗さっぱり片付き、私の名声と信頼はさらに確かなものになるだろう。

十月二十一日

ようやく道具を手に入れた。いよいよ明日、これを持ってあのゴミ屋敷に行く。
老婆の息子の友人から想い出の品も借りてきた。これでアフターケアもばっちりだ、後は老婆が改心の涙を流して有難がるような台詞を用意すればいい、老婆の息子も彼女の新たな人生の一歩に天国から笑顔でエールを送るに違いない。

明日が楽しみだ。


ーピッー
日記を読み終え中村警部が顔を上げるとそこには新米刑事のきらきらした目が迫っていた。
「警部どうです?そのケータイの日記から何か分かりましたか?」
「何も分からん」
「そうですか……」
ケータイをポケットに隠し、警部は溜め息をつきタバコに火をつけた。町長の失踪事件とこのゴミ屋敷は関係があるのだろうか?いや、「かつて」ゴミ屋敷だったその場所。今はミサイルで抉られたように綺麗サッパリになったこの場所には。


次題「紫信号」
0235紫信号2012/12/29(土) 23:08:36.95
「ふう、疲れましたね」
トナカイが嘆息した。フィンランドの12月はツノも凍る厳しい寒さで、一仕事
終えたばかりの身にはことのほか響く。だが、橇から降りた老人は同調しなかった。
「すぐ来年の準備にかかるぞ。最近は、ドリーム分の補給に丸1年かかる」
老人は赤い帽子を脱ぐと、すぐに丸太小屋へ入った。そのまま梯子で
屋根裏へあがり、凍りついた窓を全開にする。埃の浮く焦げたような匂いが
鼻をかすめた。が、冷たい鼻はすぐに何も感じなくなった。
屋根裏の中央にはテーブルが置かれ、その上に蜘蛛の巣のような
小さなアンテナを持った装置があった。老人がスイッチを入れると、ブーンという
音とともに、アンテナが紫に光りだす。
窓の外から蝶が一匹、ふらふらと入ってきた。いや、よくみれば蝶ではなく、
蝶の翅をもった小さな娘だ。妖精である。
妖精はアンテナに向かっていく。と、その胸がアンテナに触れた瞬間、紫の光が
一瞬フラッシュのように輝き、「あーん♪」という可愛らしい声とともに、
可憐な姿は弾け飛んでしまった。「まずは一匹……」老人が呟く。
梯子口からトナカイの顔が覗いた。
「暖炉に火を入れましたよ。あまり無理をなさらないでください。昔のようには
いかないんですから……」
「わかっとる。ああ、昔みたいに、冬眠している竜を狩ったり春先の人魚を釣ったりで
ドリーム分を絞り取れればいいんじゃが。もうこんな迂遠な手しかないとはのう」
その間にももう一匹、妖精が燃えて「あーん♪」という声が屋根裏に響いた。
「仕方ないですよ。海は汚れ、山は開発されて竜も人魚もいなくなりました。
この最果ての妖精たちも、使い尽くしたらいなくなってしまうでしょうね」
老人は暗い顔をした。子供たちの欲望は尽きない。そして、山や海を駄目にした
大人たちも、子供の頃にはドリームを見て老人を待ったあの子らだったことを、
この二人は覚えていた。
「あーん♪」紫信号の光に寄せられて、また一匹妖精が燃え上がる。そのたびに、
来年用のずだ袋が少しずつ膨れていくのだった。
「子供たちに夢を……。子供たちに夢を……」ぶつぶつと呟く老人の声を聞いて、
階下のトナカイは目を瞑った。「現実って、こんなもんだよね」

次「魚雷と宝船のハッピーな関係」
0236名無し物書き@推敲中?2013/01/01(火) 04:26:17.67
「恵比寿さま、今年はよく釣れますのねぇ」
ゆるやかに衣をなびかせた美女が言う。女の子座りの彼女の、着物の裾から見える太ももが妖しい。
「今年はとくに多いのよ」と老人。こちらはやや太り肉の老人である。もう長時間にわたって同じ魚を釣り上げていた。
「もう何匹目だ」恵比寿の背中を見つめる美女の、そのまた後方に老人が数名。そのうちの一人が声をかける。
彼は釣り上げられた魚を袋に入れる担当であった。
「2012匹は……超えたかなぁ和尚。袋はまだ入るかね」恵比寿がそう問うと、さらに別の者が口をはさむ。
「千でも万でも入るのよ。この布袋和尚の袋は」彼の名前は毘沙門と言った。老人というにはいくぶん若い。
突然、妙な音色が突然聞こえてきた。
「これ、ねぇ新作」
一同が見ると先ほどの美女が琵琶をかきならしている。
「これAKBね」
「弁天、お前、ホント流行ものに弱いなぁ。」毘沙門が言う。
「ニーズに対応せねば昨今、支持も集められまいよ。彼女は真実偶像であるぞよ」今度は頭のおそろしく長い老人が言う。
「寿老人さま、イイコト言う!」
弁天の調子は否応もなく上がる。「これももクロ」と続けた。
「……恵比寿よ。ソレ何匹釣る気かね」また一人、別の老人が言った。
「しかし、釣っても釣ってもまたかかるのよ。わし、鯛が欲しいんだけども。エサが悪いかね大国さま」
彼はトレードマークの鯛をまだ釣り上げてなかった。
「鯛無いとワシ困るのよ。この魚は黒いし、あんまり縁起良さそうじゃないし……鯛の代わりになるかね」
「その魚はな、人が作ったものぞ。放っておいても東に行くよ。ただ、送り届けてもありがたがってはくれぬ」と大黒。
「えっ!」と弁天。
「ちなみに魚でも無いぞよ」と寿老人。
「えっ!」とまた弁天。
「人がわざわざ作ったものを、我らが取り上げては本末転倒ではないか」 布袋が言う。
「しかし東に送り届けても嫌がるのでは、福とは呼べぬ」 毘沙門が続ける。
「人の子たちがハッピーになるには、じゃあどうすればいいんです?」 弁天は退屈そうである。やや怒っている。
「欠けず、壊さず、元来た場所に戻せば良かろう」 と寿老人
いいコト言うなぁ……。と一同。
そういうわけで、その鉄の魚はすべて西の半島へ戻されることになった。
あと鯛は結局釣れなかった。
0239名無し物書き@推敲中?2013/01/01(火) 05:54:57.37
ごめん、末夢って普通にあったわ。
「末夢」は取り消して「門松夢」で。
0240門松夢2013/01/02(水) 22:28:05.60
初日の出を迎える前、空がほんのりと紫がかってきて頃、俺は重い目蓋を無理矢理開く。
欠伸ついでに凛とした朝の新鮮な空気を腹一杯に吸い込む。
のそのそと暖かい塒を抜け出した俺は、一番近くの門松を目指して這う様に薄暗い街を移動する。
身体が温まらない。寒いのは苦手だ。
寒さに震えながら俺は、ようやく玄関に門松を飾り付けた家をみつける。
門松は俺にとっての目印だ。
そろりと門松の間を通り抜け、俺は玄関に落ち着く。年神様を迎えるために。
空が茜色に染まってゆく。東の空が陽の光で満たされる。そろそろ年神様がやってくる。
ちょうどそこで目が覚めた。ここは塒。全部夢だったのか……。
年神様のお迎えの役目はやっぱり俺には無理なのではないかと、ぼんやりした頭でそう思った。
巳年は12年に一度しか来ないとはいえ、この季節は冬眠中なのだ。


次のお題は、「今年の抱負で抱腹絶倒」
0241名無し物書き@推敲中?2013/01/05(土) 17:50:22.67
「今年の抱負は抱腹絶倒、っと」
半紙に筆を走らせる、勢いが付き過ぎて跳ねた墨で机が少し汚れてしまった。これだから書道は苦手だ。
「ナニナニ? 抱腹絶倒? 相変わらず意味がわからない上に字汚ネッ!!」
横から口を挟んできていきなりの悪口雑言は隣の席の山田さん、フルネームの山田花児さん。
最後の一文字が残された個性とは本人の言だ。
「字が汚いのはお互い様じゃないか、あとそっちの抱負も何だよそれ」
彼女の半紙には『超絶美技』と書いてある、私としてはそっちの方が意味不明だ。ちなみに机は汚れていない。
「コレ? これは今年こそはテレビで取り上げられて一躍スターになろうという願いが籠められた一筆よ!」
胸を大きく張りながら半紙を掲げる様は恰もライ○ンキングの名シーンの様で少しばかし彼女の姿が眩しく見えないことも無い。
しかし言ってることと半紙に書かれた抱負の関係については説明しきれていないということを彼女は気づいているのだろうか?
「つまり、何かスッゲェ技身につけて周囲で噂になってその輪をどんどん拡大させてネタが無くなったTV局なんかで取り上げられるようになるぞってこと?」
彼女の言葉への自分なりの解釈で訊ねる。これが本当だったとしたらコイツはどれだけ頭に蝶々を飼っているのだろう、少し心配になって来る。
「そうそれ! 今ならネットとか使えば結構イケるんじゃあないかと自信を持っています!!」
ああ、こいつはアレな人だった。思えば今年の初めから何故か海で木刀を片手に意味のわからないダンスをしていたり羽子板でスピンかけようとしたり
色々と奇行が多かったのはこの為だったのだろう。改めて振り返ると頭に蛾を飼っているとしか思えない奴だ。
「それよりアンタのソレはどういう意味なのか教えてよ、アタシは教えたんだから早くハリープリーズ」
変人の最近の奇行に今後の友人関係について頭を悩ませている所、地味に間違えた英語で急かされる。
色々と言いたい事や考えたいことはあるがとりあえず自分の抱負について説明することにした。
0242名無し物書き@推敲中?2013/01/05(土) 17:52:04.69
「―この抱負は、一昨年昨年と不幸なことや不安な出来事が色々と起こったけど今年は笑いすぎて倒れるくらいに楽しく可笑しく過ごしたいっていう私の思い…願い、かな」
少しマジになり過ぎたかもしれない、空気的にもうちょっと軽めの説明にしておけば良かった。これで笑われたらと思うと赤面必至だよ全く。
そうやって今から来るであろう羞恥に対して心を構えているところに返事が返ってきた、来いよ羞恥!
「なんだ、アンタそんなこと考えてたの? 馬鹿だなー。そんな抱負アタシといれば1日で達成しちゃうよ? 何せ未来の大スターだからね!」
そう言うと彼女はHA-HA-HA!!と笑った。
呆然。きっと今の私はその言葉通りの顔をしているだろう、色々と思考の上の抱負を軽い感じで笑われてしまったのだ。
もうこいつの阿呆さ加減には本当もうどうしよう?どうしてくれようコイツは!?
(でも、まぁ……) 
悪い気はしない、な。むしろ何故か心が温まった気さえしてくる。
こんなにアホでバカでいい加減で成績も下から3番目でおまけにアホなのに長々と付き合っているのはこいつのこういう部分で自分に足りない何かを感じているからかも知れない。
今年一年きっとこいつの奇行に悩まされるのだろう未来が目に浮かぶ。それでも明日への思いは何故か明るかった。

これから何をしよう?

……とりあえず、机に跳ねた墨を消すことにした。


次のお題は「超絶美技」
0243名無し物書き@推敲中?2013/02/14(木) 11:29:46.43
「お見事!」
場内の拍手が彼女を包んだ。
5回転ジャンプ。とても人間業ではない。
しかし彼女は特に嬉しい顔をするわけでもなく、他の選手よりも目立つ深い痕をリンクに描きながら、コーチの元に戻った。
「あおい、よくやった。これで次のメダルもいただきだな」
「ありがとうございます」
秋葉あおいはフィギュアスケーターである。幼少時代のスケート記録などがまったくないという点で、他のスケーターとはどこか異質なところがあるが、過去よりも現在だ。
今の彼女はスケーターとして最高に輝き、絶頂にあった。
「おめでとう。回転ジャンプを失敗しない選手は秋葉さん、あなただけよ」既に二児の母となっている浅田(旧姓)が駆けつけ、あおいに花束を渡す。
「先輩、私だって人間です。いつかは失敗しますよ」あおいは静かに答えた。

「あおい、次は7回転ジャンプをしようと思うが、できるかな」
「お望みとあらば、私は天にも昇るつもりです」あおいは何の躊躇もなく、静かに答えた。
「お前に不可能はない」コーチはあおいを信じて疑わなかった。

失敗した。
だが失敗の仕方が変だった。着地に失敗したのではなく、あおいは空中で7回転を達した瞬間に、操りの糸が切れた人形のように力を無くして墜落したのだ。
氷上に激突した妖精はそのまま痙攣して動かなくなった。
医者が駆けつけて、そして驚愕した。
「なんだこれは?」
痙攣を起こしているあおいから煙が出ていた。
「先生、あおいは大丈夫ですか?」コーチが焦って医師を揺さぶった。
「大丈夫も何も、彼女、人間ではありませんよ。ロボット、と言えばいいんでしょうか」
「なんだって?」
よく見ると、首の皮膚が裂けていて、血でも肉でもないものが見えていた。

「おい」リンクの様子を望遠鏡で見ていた男が手にしたXperiaに向かって呟いた。
「秋葉あおいの正体は隠匿しろ。仮にロボットだということが暴露されても、メーカーがSONY製なのだけは伏せるように」

次「総理、それだけは勘弁して下さい!」
0244総理、それだけは勘弁して下さい!2013/02/14(木) 20:45:11.41
「総理、本気なんですか!」
「あぁ……躊躇う事など、毛頭無い」
総理は、父親を思わせる厳しい面でそう言った。
彼には一人娘が居る。年老いて出来た娘であるというのもあって、彼は娘を宝のように大事にしていた。
「しかしッ、そんな事をすれば……」
「そうだな、国民にも被害が及ぶ。だが、諸外国からの攻撃だと偽れば、ついでに日本の現状も打破出来よう。苦しむのは、巻き込まれた被害者だけだ」
「国民を犠牲にしてまでする所業ですか!」
「お前は、大切な者を奪われる苦しみを知らぬから、そのような口が利けるのだ」
その顔には、その苦痛を表さんとするが如く浮かぶ、深い皺があった。
「しかし!」
「早々に準備を済ませろ、以上だ」
彼の言い分は分からない事も無い。だが、彼の行動が起こすのは、大切な者を奪う行為その物でないか。
何がなんでも止めねばならない。私はそう決心し、自尊心をかなぐり捨てて土下座した。
「総理、それだけは勘弁して下さい! 幾ら娘の彼氏がちゃらんぽらんだからと言って、彼の家にミサイルを撃ち込もうなどと言う事はッ!」
0245名無し物書き@推敲中?2013/02/14(木) 21:13:45.16
次、「糞ったれ」
0246糞ったれ2013/02/22(金) 12:05:02.03
「俺はこの街に何を期待していたんだろうな…」

表を通れば煌びやかな街並みに華やかさを飾り溢れかえらんばかりの人、人、人。
歩くだけで欲しいものは何でも手に入る夢のような街、ただし、「金」が有ればだ。
裏を通れば昼間だと言うのに高い建物の影になりまともに光が差してこないスラム。
金を持ってそうな奴が通るたびにものを強請る浮浪者達。

故郷の田舎でヒーローに憧れ育ちいい大人になってもそんな子供染みた夢を持ち続け
そのための努力に一切を惜しまず行動し続けて大きな街からきたスカウトの話を受けてみれば
話に聞いて想像していたのとは違い実際に守るのは金払いのいいクズ以下の下衆共ばかり。
向かってくる者はそんな奴等に搾り取られもうそれ以外に希望を見出せなかった弱者達。

「もう辞めてしまおうか…」
そう呟いたそのとき、スラムの方から助けを求める悲鳴が響く。
悲鳴が聞こえた場所に到着するとそこには少女を取り囲む悪漢共。
(こいつを助けたら田舎に帰ろう)
行動は既に決まった。
相手を威嚇しその1人へ一気に距離をつめ急所へ一撃、倒れる。
それを見た他の奴等は一斉に逃げだした。あっけない。
少女のほうへ向き大丈夫か? とたずねる、少女がこくりとうなずくのを見、事件収拾のため一応警察へと電話をかける。
スラムのことだ、まともに動くとは思えないがヒーロー的にはそうする必要がある。
念のため倒した一人を拘束しようと振り返ると。

パンッ

胸に、衝撃があった。
一瞬フラっと来て気付けば視界の半分が地面だった。
「あなたが出来すぎるのがいけないのですよ?」
頭上で声がした。そこには少女が立っていた。
そうか。
「…く……っ……れ……」
俺の最後の声は、降り出した雨に流されていった…。
0247糞ったれ2013/02/22(金) 12:06:18.82
次「鉛筆削りは誘い受け」
0248鉛筆削りは誘い受け 1/22013/03/04(月) 21:27:52.41
教科資料室が並ぶ生徒のあまり使わない廊下にノートが落ちていたら、どれくらいの人が拾うだろうか。
そしてそのノートの裏にも表にも記名が無い場合、中には書かれているだろうかなどと、開けてしまう人もいるだろう。

鈴木くんはその拾ったノートを開けて、裏表紙の内側を確認し、ふとその横の最終ページにある小さな走り書きに目を留めた。
謎の一文。その下に円で囲まれた鈴木の文字。
自分と同じ苗字についつい目が行ったようだ。それぐらいそれは小さなメモ書きだった。
しかし、この謎の一文は何だろう?鉛筆削りという主語の後ろは全く意味が通じない。
鈴木くんは首を傾げながらも、鈴木は持ち主の名前ではないだろうと判断して、職員室まで届ける事にした。
放課後の職員室は意外とガラガラで、失礼します。の声に反応した見知った女性教員に声をかけに行く。
「山田先生。落とし物拾ったんですが、どうしたら良いですか?」
「ん?落とし物は用務室なんだけど、預かっとこうか。名前は書いてなかった?」
まだ若い山田先生はすぐに椅子から立ち上がって、鈴木くんの持つノートを覗き込んだ。
「表にも裏にもなくて。中も……なんか鈴木ってあるけど持ち主の名前っぽくはないです」
鈴木くんはそう言って、最終ページを開いて見せた。
女子の好みそうな淡い色のノートに可愛らしい丸文字で書かれたその一文を見て、山田先生はふいに笑い出し、
「うん。私が預かっとくわ」
そう言って受け取った。
0249鉛筆削りは誘い受け 2/22013/03/04(月) 21:28:33.80
その時小さな声で、失礼します。と、鈴木くんの同級の佐藤さんが職員室に入って来た。
ちょうど立っていた山田先生を見、その手に持つ半開きのノートを見て驚き、さらにその横に立つ鈴木くんを見て固まった。
「なに?佐藤。落とし物?」
山田先生はニヤッとしながら佐藤さんに声を掛ける。佐藤さんの顔がみるみる青ざめていくのを見ながら、鈴木くんは少しだけ空気を読んで、
「じゃあ先生。後はよろしくお願いします」
そう言って逆の出入り口から退出した。
それを見送ってから、佐藤さんは恐る恐る山田先生に近付き、小さな声で訪ねる。
「あの。それ……」
「うん。親切な鈴木が持って来てくれた落とし物」
真っ青になった佐藤さんに山田先生はニヤニヤ笑いのままノートを手渡し、自分の物かどうか確認するように促す。
自分のノートだと確認した佐藤さんはピッチリ閉じて抱え込むと、少し涙の浮いた目で蚊の鳴くような声で聞いた。
「これ。あの。鈴木くんは……」
「中まで確認して届けてくれた」
この世の終わりのような佐藤さんを、山田先生は楽しそうに眺めた後に、
「ま、意味は分かってなかったけど」
と、付け足した。
佐藤さんは、どうか忘れてくれますように。と、祈るような顔をしてから、まだ青ざめたままの顔で礼を言い退出を述べた。
山田先生もそれをうけたが、
「ああ。そうだ佐藤」
佐藤さんを呼び止めて、
「鉛筆は男にとって不名誉な呼ばれ方らしいから、その組み合わせはどうだろう」
そう言って、少し優しそうに笑ってみせた。


次は「嘘吐きと腹の中」
0250嘘吐きと腹の中2013/03/05(火) 05:22:04.56
「ねえ、君はどうしてここにきたの?」
暗くジメジメとした、どこからともなく刺激臭のたちこめるそれほど広くない空間に、かんだかい声が一つ。
「そうだね、釣りの最中だったかな。浅い釣り場だったし、海は荒れてなかった。だから、むしろどうやって来れてしまったのか。いや、来る羽目になってしまったのか。それはこっちが聞きたいぐらいだよ」
問いに答えたのは、低くくぐもったような不機嫌な声。その低い声は酸味を含ませて続けた。
「今となっては、きっと虫の居所が悪かったんだろうと、無理矢理にでも納得しているよ。それで、そっちの方はどうなんだい?」
「僕は、もうずいぶん前さ。何故だったかも思い出せないけど、何かを探していたような気がするんだ。その何かが、こんなところにあるとは到底思えなかったけど、それでもここで、やっと何かを見つけて、何かに気付いたんだ。」
甲高い声は、遠い過去のことを懐かしむように、途切れ途切れに答える。
「こんなところまで来て、見つけて気付いた何かってのは、君にとって大切なものだったんだろう?何故思い出せないんだい?」
低い声は不躾に、無遠慮に聞いた。
数秒の間が空き、甲高い声は、少し震えながら答えた。
「思い出せないことっていうのは、だいたい、どうでもいいことさ。あの時、僕がここで見つけたものは、僕にとって、きっととても大切なものだったんだろう。
でも、今の僕には大切でもない。大切でもないから思い出そうともしない。思い出そうともしないってことは、やっぱりどうでもいいものだったってことなんだよ」
まるで罪の独白のように、甲高い震え声は絞り出した。
しばらくの沈黙の後、低い声が、甲高い声と同じように震えながら言った。
「何かを思い出せない理由ってのは、もう一つあるんだよ。」
甲高い声は聞く。
「それって?」
低い声は答える。
「もうわかってるだろ。」
高い声は言う。
「わからないよ」
低い声は言う。
「わからなくないよ。」
それほど高くもない声。
「わからない。」
あまり低くない声。
「わかってる。」
声。
「分かりたくない。」
声。
「分かってしまった。」
今日も鯨は海を泳ぐ。その腹の中に、一人の嘘吐きをしまいこんで。
0252メトロノームの右側2013/03/11(月) 19:52:36.17
今日はあの人が来る、愛しい人が。
一緒に居られる時間は、とても短く感じるけどそれは仕方のないこと。
今はただあの人の声が、温かさが感じられればそれでいいと、そう思う。
ピンポンと音が鳴る、あの人が来た。
ドアを開け、迎え入れるとすぐさま抱きつく。匂いを、体温を感じる。
私の、唯一の幸せが始まるのだ。
できることならばずっとこのままで、ずっとこの温もりを感じたままでいたい。
けれどもそれは望めなくて、望むことも許されなくて。
私の身勝手な思いを無理に受け止めてくれているだけなのを知ってしまっているから。
そう、感じ取れてしまうから。
それでも「来なくていい」の一言も言えずに、優しさに甘える。
甘えずには居られない、求めずには居られない。
きっと哀れみなのだろう、きっと情けなのだろうそれを。
夜が来るまでの少しの間、ただそれだけの少しの時間。
その間だけの幸せが私の、全ての拠り所。
ああ、もうすぐ夜が来てしまう。
ずっとこのまま留めていたい。
だけどそれは望めない、言えもしない。


私はきっと――右側だから。



次は「三角図の中心点」
0253三角図の中心点2013/03/15(金) 02:20:52.76
『東部戦線、異状なーし』
『南部戦線、異状なしですー』
『西部戦線、異状ありませーん』
伝送管から、間延びした声で三ケ所の見張り台の状況報告が聞こえてくる。
戦闘開始から743と4日。三つの軍勢力に囲まれた資源採掘場の朝は、
今日も変わり映えのしない業務連絡と共に始まった。
「注意、
0254三角図の中心点2013/03/16(土) 00:10:25.86
『東部戦線、異状なーし』
『南部戦線、異状なしですー』
『西部戦線、異状ありませーん』
伝送管から、間延びした声で三ケ所の見張り台の状況報告が聞こえてくる。
戦闘開始から743と4日。三つの軍勢力に囲まれた資源採掘場の朝は、
今日も変わり映えのしない業務連絡と共に始まった。
「中尉、珈琲が入りました」
ノックの音と共に、総司令室にカーキ色の制服を着た下士官の女性が入室してくる。
「ああ、ありがとう」
部屋の中央に座る男は礼を言って、湯気の立つ黒い液体を下士官から受け取った。
「今日の戦況はどうなっていますか?」
「いつもと変わらないさ。『異常なし』だよ」
音を立てて珈琲を啜りながら、退屈そうに男は言う。
刺激の少ない戦場に辟易し、どちらにでもいいから動いてくれという心の内が透けて見えるようだった。
「そうですか………。今日は、補充の兵が何師団か着任する予定です。着任式は午後からの予定ですので、スピーチの
準備を宜しくお願いします」
「わかってるよ」
ため息を吐いて、中尉と呼ばれた男は眠たげな目で頭を掻いた。

『―――以上で、着任式を終わります』
色素の薄い肌と男殺しの胸元で一躍新任兵達のアイドルとなった女官が締めくくり、兵達の間にも緩んだ空気が広がる。
腹減ったな、ここのメシ美味いんだっけ。今夜在任兵の奴らが歓迎会でポルノパーティー開いてくれるらしいぜ。
あの曹長マジで良い女だよな、誰か口説いてこいよ。
雑多な会話や軽口が聞こえ始める中、壇上にまだ立っていた基地の総司令官の男が、顔に申し訳なさそうな色を浮かべて
マイクを掴んだ。
『あ―――悪いが、まだ休憩には入れない。着任早々だが、この基地じゃ日常茶飯事だ。今のうちから慣れておけ』
気まずそうな顔で言葉を濁す男が、最後に告げた言葉。
それを聞いた新任兵達は、皆一斉に息を飲んだ。
0255三角図の中心点2013/03/16(土) 00:12:22.59
「うっ…オェッ………」
土気色の顔をした若い兵士が、地面を向いて口元を押さえていた。
周りにいた仲間が何人か寄ってくるが、全員顔色は似たような物だ。
「吐くなよ…?これ以上酷い匂いになんかなってみろ、もう誰も耐えらんねぇぞ」
吐き捨てるように言った同階級の男は、辺りに広がる物から目を背けながら言う。
「…気持ちはわかるさ。聞いてはいたが……こりゃ予想以上だ」
男がちらりと、一瞬だけそこに落ちている物を見て、すぐに顔をしかめる。
銃弾の雨に食い散らかされた死体は内臓や骨が飛び出て、何匹か既に蛆も湧いていた。
戦場でしか嗅ぐ機会の無い正気を失いそうな悪臭は、他基地では熟練と呼ばれた兵士達からも
生気や精神の均衡と言ったものを一つ残らず奪い取っていく。
並の戦場では有り得ないほどの数の死体の山が、見渡す限りの原野に点々と散らばっていた。
「58………59……60。ドッグタグは…無しか」
軍用のトラックに死体袋を積み込んでいた壮年の男は、やがて諦めたように上を見上げ、トラックに背を預ける。
「どうせ全員死ぬんだ…誰が誰かもわからない戦場なら、その方が便利って事なんだろ」
光の無い瞳で血の付いた地面を掘り返していた黒髪の男が言う。
壮年の兵もそうだな、と頷き、胸ポケットから煙草を取り出そうとして、やめる。
「ここは三つの敵対勢力が睨み合い、数少ない貴重な資源採掘場を取り合う為に毎日数千人の命が使い潰される………
三角図の中心点、戦場の火葬場だからな」
0256三角図の中心点2013/03/16(土) 00:13:11.71
「…さて、今日も時間だ」
飲み終わった珈琲を机に置き、士官の男は席を立つ。
「………今日は、何人死ぬんでしょうか?」
女官が、悲しんでいるのか、何も想っていないのかわからない無表情で言う。
「さぁな。だが、ここを守る為に未来ある国士達を消費し続けるのが、俺達の仕事だ」
「………そうですね」
お気を付けて。と呟く女官を背にして、総司令官は作戦本部へと赴く。


数万の弾丸が飛び交い、数千の命を犠牲にして、防衛線は数メートルの誤差を生んだ。
国のため、国民のために兵士はそこで死に続ける。そして、その日、記録係は報告書の最後をこう締めくくった。


The center of triangle is no abnormality.
  三 角 図 戦 線 、 異 常 な し。

次、「目詰まりを起こした感情論」
0257目詰まりを起こした感情論2013/03/16(土) 04:36:07.50
「目詰まりを起こした感情論」

1.
 電車は今日も、駅のホームにやってくる。ごった返す雑踏、けたたましく鳴る警笛、発射の合図。
感情論的に、歩を進めながら思う。押し込まれる様にその電車の中に入る。席には座れそうも無い。
幸い本当に押し込まれるほどの混雑、それは無いにしても。流石に、退屈だ。ふと思う。何の為に?

 営業と言う仕事。自社では製品を創ってない。外部の製品をかき集め、客のオーダーに合わせ、
提案し、売る。販売目標がある、それでも年商50億円の会社だ。自分は先日の給料日には、
約20万円の振り込みを得た。入社してまだ日は浅く、最近ようやく月に20セットほどの販売を達成。

 一つの純益は、数%に過ぎない。20セット売っても、10万に届かない。電車が次の駅に付く。
ドアが開き、人々がさらに入ってくる。都心まではまだ少し遠い。これから、この混雑に耐える時間。

 感情論的に、お金の為、だ。働かなければ。秋葉原にBDやゲームソフトも買いに行けない。
電車はカーブに差し掛かる。荷重が人々を揺すり、思索を邪魔する。それは、どうでも良い事だ。
ともかくお金が無ければ。

 ・・・お金を、稼いでいるのだろうか。

 商品は膨大で、可能で有れば。全ての商品の個性や特徴を踏まえて最善のセットを提案する、
それが出来れば良い。勉強する必要はあり、今はWEBなどに仕様が細かく載っているから調査、
それは容易い。それでも期待通りには行かず、不具合も多く。先輩が言う。商品は膨大になったが、
”雑さ”が出てきた、粗製濫造。利益と機能性の板挟み、サポートや不具合の調査に時間を取られる。

 月に10万の利益と、手取りの20万円と。感情論的に。自分は、良い会社に居るのだ。
0258目詰まりを起こした感情論2013/03/16(土) 05:04:23.59
2.
 電車はやがて、次のホームへとやってくる。都心に近付いてきて、降りる人々が増える。少し空間。
ただ、運が悪いのかどうか。目の前に座って雑誌を読む中年は、まだ立とうとはしてない。最悪、
後10分程度はこのつり革だけが自分の支えだ。再びドアが閉まり、電車が発車する。この中に、
自分と同じような境遇は何人いるのだろう。自分は上か下か。自分の様な人ばかりだったら大変だ。
国家が破たんしてしまう。

 毎日、これは、何事もなく続く。問題は起こっていないのだ。人々は自分の様にお金の為に働き、
何だか疲れつつ家に帰って、得たお金を使い何かを買っている。社会はそうやって回っていると誰か。

・・・何かどこかおかしい、気はする。

 自分の成績は、しばらくはそれほど伸びはしないだろう。年商50億円の会社だ、それだけの売り上げ、
それがあって、自分がこうしてつまらない話を考えていられると言う事は。問題は起こっていないのだ。
単純に、自分の営業成績がそれほど芳しくないだけの事だ。しかし、どうやれば20万円の利益を、
得る事が出来るのか。社長や先輩方には違う世界が有るのだろう、多分そうだ。

 ふと電車の中を見回す。一様に、或いは。自分と同じような顔に見えた。漠然とした不安の様な、
違う様な。そう言えば、何年か前だ。電車が線路を脱線してビルに突っ込んだ事故が有った。ここは、
その線路ではない。ただ、自分が乗った電車は。果たしてどこへ向かっているのか?

 窓の外を、昨日と殆ど変らない景色が流れていた。そこに、自分の顔が映っていた。
0259目詰まりを起こした感情論2013/03/16(土) 05:05:16.80
3.
 電車は、やがて、目的の駅に付いた。多くの人々がそこで降りる。自分も流れに流される様に、
電車から押し出される。混雑する駅の改札に並びつつ、定期を取り出して。雑踏は同じ向きに、
進んでいる。やがて駅ビルを出ると、人々はやがてちりじりに、街の中へと消えていく。

 横断歩道の前で、信号を待つ。行き交う車、立ち並ぶビル。問題は起こっていない。単純に、
自分の営業成績は振るわず、会社は年商50億円で、月の手取りが20万円なだけだ。僕は。

 信号が、青に変わる。スイッチが入った様に、僕は歩き始めた。

 スイッチが入った様に、歩いている。スイッチだ、それで、僕は動いている。目詰まりを起こした、
何かのロジックは今は。特に何も言わなかった。だから僕は、ただ前に歩き続けた・・・なんだ、これ?


次、「USBメモリはサイコロの数値」
0260USBメモリはサイコロの数値2013/03/16(土) 15:08:17.37
ある冬の晴れた暖かい午後、老夫婦が縁側でお茶を飲んでいた。
「今年もそろそろ終わるな」
「そうですね」
庭には可愛らしい雀たちが羽を振るわせじゃれあっている。何処か近くで遊んでいるのだろうか、子供たちのきゃっきゃという声が聞こえてくる。
「来年はどうなるだろうな」
「そうですね、増えるといいですね」
「減るかもしれない」
「そうですね」
雲がいい塩梅に日差しを柔らかくしている。猫がてくてく表れて雀たちが飛びたった。
「どうしてこうなんだろうな、まるで失うために得るみたいだ」
「でも、ずっと減らない人もいるみたいですよ」
「そんなのはごく稀だ」
猫は庭の真ん中でちょこんと座り、毛づくろいをはじめた。
「最近こう思うようになったんです。例えば……」
老婆はちょうど通りを横切った子供たちを見て言った。
「あの子達は私たちの孫かもしれない」
「そうじゃないかもしれない」
「そうですね、でも私たちが何かをすれば私たちに残らなくてもそこには確かに何かが残る。そうやって紡がれると思うんです」
「うん」
「それに……」
老婆はそっと手を伸ばし、老爺の手に触れた。
「あなたの事を忘れなければそれでいい」
「……俺もだ」
日差しは暖かったが、お茶は既にだいぶ冷たくなっていた。老爺は入れ直してくれと言いかけたがやめ、そのまま冷たいお茶を飲み干した。


次題 「月がいっぱい」
0261月がいっぱい2013/03/16(土) 22:10:26.32
 その扉の向こうには、月の世界が広がっている。

 月の世界、そこは地球とは異なる環境だ。地球の月は重力が1/6だが、”月”
への扉は幾つかあって。ともかく解っている事は。そこは地球とは違う環境だと
言う事だ。独自のルールがあって、独自の生態系とかがあって。美的感覚も微妙
に違う。とある月には猫しか居なかった。誰かがそこに犬を持ち込んでみたが。
やっぱり、犬も居心地が悪くなって吠えてばかりいて、連れ戻してもらったらし
い。

 月は、いっぱいある。月への扉が見つかったのは最近の事だ。訳知り顔で「ず
っと昔からあるよ」そんな事を言う奴もいるが。月への扉は最近見つかったモノ
だ。それまで夢だった事が、現実だと解った。知らずに迷い込み、地球から消え
た人々が見つかったりもした。喜んで帰ってきた者もいれば、そのままその月の
世界で暮らしている人も居る。

 月の世界は、現実と大差ない。ただ今でも、”そこ”がどこなのか、解ってい
ない。調査が続いているが、芳しい成果は出ていないらしい。地球の月の表面は、
相変わらず殺風景なクレーターが広がり大気も無いが。地球の月の世界は、綺麗
なウサギ達が暮らしていて、おとぎ話の何かの様に、緑広がる奇妙に牧歌的な世
界だ。

 猫の居る月に送られた犬は、それ以来すっかり、猫が嫌いになった、らしい。

次、「抽象論と謎かけは水割りの値段と等しい」
0262名無し物書き@推敲中?2013/03/25(月) 20:04:00.57
なあ妹よ。
ここに一杯の強い蒸留酒があるとする。
このまま飲むのも当然ありなわけだが
これを水で割ると、飲みやすくなり量も増えるわけだ。
人生も同じことがいえないか。
強い奴はいい。辛い現実もそのまま飲み込めるだろう。
俺は弱い。だからこうして時間をかけて少しずつ受け入れる。
そして全て受け入れて初めて人間は次へ進めるんだ。
それでいいと思わないか。ん?
だったら俺のは割りすぎだって?
これじゃあただの水だって?
わかってないな。
ワインに汚水を一滴入れるだけで全部汚水になるんだぜ。
酒が一滴でも入っていればそれはもう立派な・・・
何だどうした妹よおいこら待てって。


次は「着地点は猫の額」で
0263着地点は猫の額2013/03/27(水) 17:32:54.10
「着地点は猫の額」

 今はもう、いつ戦争が始まって、俺がこんな状態になっちまったかさえ覚えてない。
解ってる事は。自分は今は核兵器を抱えてた爆撃機に乗って発進し今は抱えたそれは、
載ってない事だけだ。何度目の、こいつに”載って”の爆撃かもう忘れた。それでも、
数十回でしかない筈だ。今の自分はもう。1、2、たくさんとか?計算してたらしい、
そんな原始人と大差ない。体がスティックを操る度に、それでも聞こえる駆動音が、
なんだか眠気を覚ましてくれる。乗っているんじゃない、俺は、”載っている”のだ。

 戦争が始まって直ぐ、世界は核兵器の打ち合いになった。良くも悪くもだ。幾つか、
双方だ、敵に命中して壊滅的な被害を出したが。殆どは途中で撃ち落とされた。原爆、
その重さや精度へそれまでに十二分な防衛網が構築されていた両国はやがて全面的な、
物理的衝突へと発展。自分も最初は歩兵だった。気づいた時には被弾し四散していた。

 自分は運が良かったのかどうなのか。体の半分以上を吹き飛ばされても生きていて。
国はそんな俺へ、わざわざ機械の体を与えて蘇生させた。蘇生に対して条件は出てた。
戦闘機へのパイロットに転職しろと言われた、二つ返事だ。だから俺は、今日も空を、
この”体”と共に飛んでいる。良くも悪くもだ、放射能に汚染された水を飲む必要は、
今はない・・・もっとも、”補給”されるそれが汚染されてないとは。思ってないが。
0264着地点は猫の額2013/03/27(水) 17:34:10.48
 既に、地表の生命の8割近くは滅んでしまったらしい。高濃度の放射能汚染だ。
死の雨なんか日常茶飯事で、多分、人間と言える存在ももう居ない。殆どが俺の様な、
半分機械で出来た体で暮らしている・・・自分は特にひどい有様だ。人型の体は、
この戦争が終わってからで無ければ貰えないと来た。放射能にまみれた世界の空を、
今日も任務をこなし帰っていく。雨あられと飛んでくるミサイルや敵機をかわすのは、
まだ楽しい。猫の額ほどのターゲットにブチ込んでやった時は。スカッとする。

 今、眼下に見えるのは空母だ。それでも、幾つか被弾した機体で正確に降りるには。
流石に不具合が出てる。着艦にこんな緊張するのは久しぶりだ。ゲームの難易度がずい分、
上がっている。空母の滑走路が見える、博打をするには狭すぎる。危険だ。

ふと思った。目の前に麻雀の牌。安牌は無い。降りたくても今はもう自殺も出来ない。

 猫の額と、空疎な期待と。結果が同じなら…どっちがマシだろう?


次、「桜は猫を見ている」
0265桜は猫を見ている2013/03/28(木) 08:45:32.74
公園の隅からか細い声が聴こえてきます。
ミャアミャアと鳴くその声は幼い仔猫のものでした。
まだ肌寒い清明の夜にかような仔猫の居よう筈もなく、
大きさからして時期をずらした人工繁殖の仔猫だと思われます。
ならばこの子は捨て猫でしょう。

日本の猫は全てイエネコという種であるそうで、野生になど完全には対応できよう筈が無いそうで、
ましてやまだ自力では生きられそうにない幼い仔猫が、この寒空の下生き延びるのにはどれ程の奇跡が必要なのでしょう。

桜は泣きました。ホトホトと花びらを散らし。
ああ。なぜ今なのかと。
せめて仔猫の来るのがあと数日早かったらと、
私達の散り行くのが後数日遅かったらと。
薄く色付くピンクはもうすでにあらかた地面へと撒かれていて、
さながら白い絨毯のように仔猫の足下を埋め尽くしていました。

鳴き疲れたのか冷えてきたのかうずくまってしまった仔猫へと、桜は優しく残り少ない花びらをかけてやります。
この淡い赤が少しでも熱を伴って、仔猫を暖めてくれれば良いのにと願いながら。


次は「薫風と菫の動物園」
0266薫風と菫の動物園2013/04/04(木) 10:02:54.93
薫風と菫の動物園

薫風は、今日も、動物園に出向いた。
そこは普通のそれとはちょっと違う。みんな、少女の姿をしている。
薫風には、良く行く檻がある。そこには”菫”と言う名のキリンがいて。
薫風は金を持って居るので。その檻の中に入る事が出来る。楽しいひと時だ。
その夜も、薫風は菫と楽しく遊んで、そして二人で、眠りについた。

次の朝、薫風が首筋の痛みで目を覚ますと。隣で寝ていたはずの菫は姿を消していた。
気付くと、首に奇妙な”首輪”がされていた。ワイヤーが少し食い込んでいて、
首の後ろには箱状のモノがあり、激痛はそこから発せられていた・・・刺さっている。

動物園は、もぬけの空・・・だ。そして薫風は檻の中に居た。檻には鍵が掛かっている?
ともかく、檻を破る事が出来ない。そのまま狼狽えつつ、気づく。ワイヤーが少しずつ締まってくる。
様々な事が頭をよぎる。後ろの”それ”が、爆弾だったら?自分だったらどうするだろう?
切ったとたんに爆発する様にする。もちろん止められない様に、万全の対策はするはずだ。

これは、気まずい状況だ。薫風は悩んだ、とにかく首輪を、直ぐに、外さねば、ならない。
何故、こんな事になったのか。とにかく、首輪を外す方法はある筈だ。


次、「カーテンの向こうに戦闘機」
0267カーテンの向こうに戦闘機2013/04/13(土) 01:19:46.61
某所、窓のない部屋で。
彼は一点を見つめている。



僕にカーテンをめくる度胸はない。
かと言ってそのまま引き下がれる程日常が満たされている訳でも無かった。
幾度も布に手をつけては首を振って距離を置く。

たった数ミリの境ではないか。
勢いよくはぎ取ってしまえればいいのだが、そうもいかない。
いっそこの場所から離れられたらいいのにと思う。
それかひと思いに舌を噛みきって自害でもしようか。

気にするから気になるのだ。
気にしなければいい。

そう思い、カーテンに背を向けた。



カーテンの向こうは戦闘機だった。
バカげた話だが本当のことだ。
数ミリ先を覗く事すら出来なかった彼の負けとなり、醜いまでの銃口は彼の頭を覗いている。

某所、窓のない部屋で。
とある実刑だった。
カーテンの向こうには戦闘機が置かれている。

●●●●
次は「青いボレロとジンジャーエール」。
0268青いボレロとジンジャーエール2013/04/14(日) 00:23:13.90
「パパ、あの人の肩のとこについてるマークは何?」
小学生の娘が尋ねた。私はちょっとびっくりしたが、すぐに納得する。
ああ、いまの子供はあれを知らないんだなあ。
「あれはね、北海道。昔はああいう形の島だったんだ」
「ふーん。リクチかぁ」娘はそれ以上は訊かない。興味がないのだ。
夏の甲子園は大入り満員だ。アルプススタンドには人がひしめき、
板張りのフィールドで繰り広げられる熱戦を楽しんでいる。
ピッチャーの裸足が高く上がる。と、セーラー服の上に羽織った青いボレロがはためき、
白球がバッターボックスに投げ込まれた。空振り。ツースリー。
あと1球しのげば延長戦だ。ピッチャーがふたたび振りかぶって、渾身の球を
キャッチャーミットへと投げ込もうとする。そして、快音――。
わあっ。客席がざわめき、眼下の選手たちが訓練された動きで位置を変える。
ボレロの肩に鶴の刺繍をした群馬丸のバッターが、白線に沿ってダッシュした。
どーん。外野に落ちたボールがバウンドすると、マホガニーの床が太鼓のような音をたてた。
「3塁ー!」誰かが叫ぶ。が、ボールを掴んだライトが送球動作に入ったとき、スタジアムの底で
兵庫丸の竜骨がうねりに乗り上げた。甲板が揺れ、球がすっぽ抜けた。
ランナーが回る。裸足の指で板を掴んで、ハーフサイズのダイヤモンドを回ってゆく。
サードが悪送球を拾う頃には、バッターは本塁に向かって滑り込んでいた。
サイレンの音。涙を流す北海道丸のナインと、笑顔の群馬丸ナインが列を作り、
ありがとうございましたと叫び声をあげた。
「北海道、負けちゃったね」娘が言う。「うん。残念」そう答えてみた。だが、実のところ、
あまり感慨はなかった。私は北海道出身だが、あくまでリクチの出身であって、日本沈没後に
編成された47艦隊に属する『北海道丸』の乗組員ではないからだ。
「次の試合、岐阜と秋田だって。どっちも小船ね」パンフレットを読む娘に相槌を打ち、
私は売り子に手を振った。「お姉さん、ジンジャエール、2本!」
――2033年夏の甲子園大会。世界は滅びたみたいだが、スタジアムが切り取る深い深い青空は、
子供の頃見たそれとなんら変わることがない。
ああ空よ、そのままでいてくれ! せめて、この子が大人になるまでは……!

次「黙れ大仏!」
0269名無し物書き@推敲中?2013/04/19(金) 18:17:01.78
「黙れ大仏!」

昨夜のそれは、夢だ。
昨日の夜、窓の外では怪物と、”大仏が”戦っていた。
怪物は”自分が描いたモノ”で、それを大仏が、街中で派手にねじ伏せていた。
朝起きた時、外は何事も無かったが、アメリカの方では、爆発事故があったらしい。
外を見る。窓から良く見えるところに、巨大な大仏がある、ここからは小さく見える。

自分はアメリカ人だ。日本よりはアメリカの方が好きだ。何故か日本に暮らしてる。
自分の描く物はネットでは相応の評価を受ける、ツイッターやFacebookの評価も良い。
しかし何故か、日本のメディアでは、今の所はウケた売れた採用された事は…無い。

大概、いつもの様に、だ。笑みが浮かぶような傑作が出来た夜は、あんな夢を見る。
日本の街を蹂躙する巨大な怪物、それは、自分の描いた物だと解る。
それはパワフルに光線やら火炎やらを吐きつつ街を蹂躙するのだが。
そんな事をしているうちに、大仏が現れて、倒してしまう。
夢を見た後、大概はアメリカの方で何か事件がある。そして作品は、売れない。

遠目に見えるあの大仏は、コンクリート製の、なんというか安っぽい奴、だ。
しかしそれに、自分の作品はことごとく破壊されてしまう訳だ。仏像光線!とか、
聞こえた時は。うっかり起きてから、目覚まし時計を投げ壊してしまった。

結局あの仏像に勝てない限り。自分の作品が日本で受け入れられる事は無いのだろう。
負ける度に、本国の方では被害が出る。関連性とか、夢での立場とか、自分の罪とか、
いろいろ考えはするが。自分はアメリカが好きだ、日本はそれほどでもない。だから。

何となく、TVを付ける。あの仏像が映っていた。桜祭りの会場から見えるらしく、
それには集客効果もあるらしい?にぎわう人々の向こうで、それがTVを通して、
自分を見下ろしている。相変わらず何か言いたそうだ。ただ、黙れとは、言いたい。


次「線と千弘のニャルラトホピー」
0270線と千弘のニャルラトホピー2013/04/20(土) 10:20:34.17
千弘(せん ひろし)は木材輸入会社の課長であった。空を夢見る少年だった弘は
パイロットになりたいという夢を諦め、南洋航路の商船にパーサーとして乗り組み、
海上の一線を往復すること10年。結婚し陸に上がり、気づけば定年間際の59歳。
人生も終盤に差し掛かっていた。
娘2人に気の優しい妻、横須賀に戸建ての一軒家を持ち、悪い人生ではなかったと
思いたい。思いたい、が……。
ある日曜の朝、2階のバルコニーから横須賀の港とよく見知った青い海、波の上を
飛ぶ鴎たちを見て、寂寥の風が心の奥を吹きぬけるのを感じたのだ。
と、視界の端、浦賀水道の上空を、一片の白い影が舞っているのに気がついた。
鳥か。いや大きい。飛行機か。いや小さい。部屋に戻って双眼鏡を取ってくると、
弘は日差しにきらめく一対の翼をレンズにとらえた。それは動力のないグライダーだった。
A r t h o b b y。胴体の脇には、メーカーのものだろうか、洒落たセリフ体の文字が描かれている。
弘の心の目に、その姿は強くくっきりと焼き付けられた。
その日の午後、横浜の書店でアートホビーというポーランドのグライダーメーカーを知り、
またそれが自分に手の出ないものであることも知った弘は、家へ帰り、会社から持ち帰った
端材を使って、小さな模型を作ることを思い立った。
きっとあのグライダーも木でできているのだろう。弘の人生と翼の共通点は、そこにしかなかった。
ポーランドには多分南洋桜はない。赤く柔らかい材は木彫りには適しているが、
飛行機を作るにはあまり向かないだろう。しかし完成してみると、柔らかい木目が
ちょうど板の合わせ目にみえて、なかなかのできばえに思えた。
弘はその模型を会社のキャビネットの上に飾った。
「課長、いいですねそれ。ニヤトーですか」部下によく訊かれる。ニヤトーとは南洋桜の英名だ。
弘はよく夢想する。会社の壁に掛けられた太平洋の海図の、横須賀とニューギニアを結ぶ
赤い線の上を、この小さなニヤトーのアートホビーが飛んでゆくさまを。
その線は彼の人生のすべてだった。
- a small story of Nyatoh Arthobby, The History of Nanyo Wooden Trading co. (1987)より。

次『昼は狼、夜は羊』
0271昼は狼、夜は羊2013/05/02(木) 23:19:16.01
「食べていくためには仕方が無い」
これが、これだけが俺達のルールであり信条であり身上でありなによりの心情だった。

ボロボロのフェンスを境に貧富分かれた街の貧の方、所謂「貧民街」と言われる所。俺達のテリトリーだ。
俺達は貧民街の中でも特に貧しい身の上だ、何せ皆親無し家無しの捨て子だからだ。勿論金も無い。
そして御他聞漏れずロクな仕事も無いもんだから、フェンスを越えてはスリにかっぱらいと人様に迷惑かける鼻摘み者。悪いのは分かってるさ。
そんなんだから手を差し伸べてくれる大人なんか居ないし、助けが無いのだから生きるために悪いことをする。悪循環、っはは。
フェンスの向こうからは全面的に嫌われるし、こっちでも関わると一緒くたにされて睨まれかねないから関わる奴は少ない。
全部理解してるしそれに不満たれることも無い、生きるのに精一杯必死なんだ。収穫の愚痴は言うけどね。
俺達は夜明けとともに狩りに出る、朝に開店準備中で慌しくしてる店から気付かれないように幾つかの品を。
昼になって人が多くなったらグループで逃走経路を確保しながらスリを。財布は返してやるけどね。
夕方には皆で収穫を集めてそれから飯を喰らう。
俺達はいつでも飢えているんだ。

夜になれば廃墟で皆一塊に集まって眠る。
この廃墟は屋根つきで壁もそんなに崩れていない良い所だ。
何せ元々住んでた同じ浮浪者のおっさんを追い出して奪ってやったもんだからな。
最初はお願いしたんだぜ? だけどおっさんは俺達の仲間の女の子を要求してきやがったから殴った、そしたらすぐに逃げた。殺すつもりだったんだがな。
体も成長してないし何よりろくに食ってないからガリガリなんだ、その女の子は。
そういうのはもうちょっと成長して本人が了承してからじゃないと駄目だ。
生きるのに必死なんだ、無闇に死なせたくはない。

皆で固まって眠っていると月に一度は誰かのすすり泣く声が聞こえてくる。
不安で、不安で、不安。お腹も空いてる。
行き先なんて見えなくて、生き先なんて見えなくて。
行く当てもないし、生く当てもない。
誰かが救ってくれるのを夢見る。きっと救いの無い明日が待ってる。

鳴いて震えて、それでも明日は吠えるんだ。


次は「コンドロイチンと夢見錠」
0272コンドロイチンと夢見錠2013/05/08(水) 00:11:03.50
瓶に残ったコンドロイチンを全部飲む。
徐々に身体が温かくなり、シャボン玉が弾けるような綺麗な光の破裂が視界の色んなところで始まる。全てのものから棘がなくなり、全ての他人が愛の手を差し伸べる。
僕はドアをカーテンのように開き外に出る。外は晴れだった。
階段の手すりを滑り降り、スキップよりも軽やかなステップで表にでた。
電柱のアーチ、空き缶の拍手。野良犬や野良猫、隣人の愛。誰とでもダンスを踊れる。愛している。愛されている。
幸福だ、全てのものが僕を幸せにする粒子を発するものになったのか僕の全身が感度の良すぎる受容体になったのか、あるいはその両方か?
このまま永遠との節目が無くなっていくのかと思ったその矢先、突然大雨が降り出した。だが問題ない、むしろ好都合だ。雨は人との距離を縮めるから。
近くの軒先に駆け込むとやはり同じタイミングで女性が駆け込んできた。僕は空をうかがいながら声をかけた。
「酷い雨ですね」
「ええ……」
「散歩の途中だったかな?」
「……ええ」
彼女の反応はこの世界にそぐわない歯切れの悪さだった。僕の頭の隅で何かがカサカサ蠢いたが無視して僕は続けた。
「しばらくしたら止むで……」
「コンドロイチンを飲みましたか?」
「え?」
「コンドロイチンを飲んだのかと聞いているんです」
女からは温もりがなかった。口からレシートのように淡々と言葉を吐き出す。磨りガラスが迫ってくるような感覚。
「君は一体何を言って……」
「コンボロイチンを飲んだのではないですか?」
「え?」
「あなたが飲んだのはコンボロイチンの方ではないですか?」
「そんな、まさか……」
コンボロイチンはコンドロイチンに非常によく似ているが劇薬だ。「夢見錠」とも言われている。しかし、そんなまさか。
「いや、僕は」
「間違えないで下さい、今度は間違えないで……」


目を開くとそこは僕の部屋だった。外は雨でとても暗かった。右手に握った瓶を見るとそれはただの睡眠薬だった。そして僕は左手に握った彼女の細くなった手を胸に抱きしめた。

次のお題「イパネマのドラ息子」
0273イパネマのドラ息子2013/05/08(水) 13:51:28.44
自分は今は、イパネマの海岸でサーファーショップを経営?してる。

親は近くにデカいホテルを持ってる、リオデジャネイロでデカい銀行の頭取でもあり、
やり手だ。とは言うが一応、店の資金は自前で出した。そのくらいは。金を持ってた。

イパネマの波は今も穏やかで、ウチも、サーフショップと言うより殆ど貸ボート屋だ。
にもかかわらず経営は順調。唯一の懸念としてはサーフボードが売れない事くらいで。
毎日起きて、定時まで店に座り、客の要求に応じてボートを出し、軽いモノを売る。
店を閉めたら趣味の時間だ。店の裏に置いてある自分のボードで、海へと漕ぎ出す。
大波は、無い。天気の悪い日じゃ無ければ小波も無い。夕暮れに成れば陽も赤く、
居るのはまあ。夕日に何かのロマンを求める若いカップル位だ。そういう連中には。
自分のボードなど、自分も含めて見えていないだろう。ジョーズでも来ない限り、
ここには何の問題も無い。水をかいて沖の方へ向かう。波が自分を揺らし始める。

ふと波に揺られつつボードの上で仰向けになる。夕日は照らし、空は夕焼けに染まる。
ここには、何の問題もないのだ。この空の果てから何かが襲来するとしても、
その何かは見えない。突き抜ける夕闇に、やがては星空もきらめいてくる。
今はただ、浮かんでいるだけだ。ただ、それだけの時間。それが過ぎて行く。

サーフボードと共に引き上げつつ、ふと海の方へと視線を向ける。
”ここ”は楽園だ。ただ多分、若い奴が居る場所じゃない。
自分は何故ここに居るのか?それは今は、考えたくない事だ。

いろいろ、あった。自分は今は、楽園に居る。

次「空に浮かぶ空」
0274空に浮かぶ空2013/05/14(火) 14:47:57.94
「おいおい、何だアリャ?」
兄貴が呆れたような声をあげた。
白いおんぼろセスナが悲鳴にも似たエンジン音を上げ、私の横をかすめて行く。
「えらい急角度だな」
青い空にゴール地点でもあるかのように急上昇してゆくセスナの垂直尾翼を見上
げながら私は言った。
「度胸試しってやつか?人間ってのは寿命を縮めるのが好きな輩もいるからな」
そう言うと兄貴は笑いながら体を錐もみ上に回転させ、豆粒のような島々が見える
眼下へ矢の様に落下していった。
私は白いセスナに目を戻した。
いくらなんでも急上昇しすぎだった。
私は体を前かがみに収縮させ、いっきに伸ばし、浮上した。
セスナの真上にあっという間に並ぶ。
コックピットに顔を近づけると顔を紅潮させた初老の男が操縦していた。
後ろの席には、死相をうかべた少年がぼんやりと座っている。
セスナが上昇を止め、今度は打って変わり、急降下を始めた。
ラダーや翼がたわみ、軋んでゆく。
ぴったりと機体に張り付き、窓からキャビンを私は覗き込んだ。
ガラスを挟んで数十センチの位置にいる少年に私の姿が見えるなら今頃
悲鳴を上げていることだろう。

少年の体がふわりとキャビンに浮かび上がった。
うつろな表情が力ない笑顔に変わり、弱々しく両手をまわす少年。

これか。

初老の男の意図がわかった私はセスナから離れた。
翼には大きく「空」というマークが描かれていたが何かの意味なのだろう。
セスナは再び上昇することなく海に落ちるのが見えた。
私は再び空のかなたへと飛んだ。

次「イカした車は東へと向かう」
0275イカした車は東へと向かう2013/05/15(水) 20:24:39.16
「イカした車は東へと向かう」

街で買い物をして。その紙袋を抱える私の隣に、一台の奇妙な車?が止まった。
”そいつ”は、私に車を見せつつ言う。やたら車体からごちゃごちゃと突起が出て、やかましい。
 「ヘイ彼女、面白いレースが有るんだが一緒にイカないかい?このイカした車と一緒にさ?」
レース場までイカす音楽を聴きながらのドライブはサイコーにイカしてるぜ?とまで、言う。
レースの事は知っていた、正直、イカれた連中のイカれたレースだ。排気量に上限なし、
4輪で有ればジェットエンジンだろうが亜空間ドライブだろうが。何を積もうとかまわない。
バカバカしいくらいにチューンした車で、生死不問で走る。荒っぽいじゃすまないレース?だ。
もちろん相応金は出る。それで生活するプロも居ると言う話だ。目の前のこいつは違うだろうが。
毎年、そこで何人も死人が出ると言う。目の前のこいつはそれを知っているのかどうか。
 「貴方、勝てる自信があるの?」
 「もちろんだよ?見ればわかんだろ?この車に勝てる奴は、居ないね」
私はため息をついた。そういう事なら。答えは一つだ。
 「遠慮しとくわ、まだ命が惜しいから」
 「・・・そりゃ、残念だ」
それで、一瞬顔を歪ませた後、そいつは苦笑しながら。
バカみたいな排気音を立てながら、走り去って行った。
また、溜息をついた。苦笑も混じる。そういう奴も居ないと、盛り上がらない。
進路は東、私は今は、巨大な橋を渡っている。この橋を渡る奴は、その目的は一つだ。
そこに有るのはイカれたレース。現実と空想の狭間を隔てる先に、見えるモノ。
ゲートをくぐればもう、世界は変わる。その時から始まるサバイバルなスリル。
さっきの男と、ゴールで会えるかどうか。それは、賭けてはみようか。

次「恐竜の住む鳥かご」
0276恐竜の住む鳥かご2013/05/29(水) 16:55:18.03
「ばりばりむしゃむしゃごっくんにならないようにな」
両手を咀嚼する口のように動かし、頬を紅潮させエミリオは笑った。
絶えず激しい振動を繰り返す機内は、吐く息が白い寒さだった。
対面して座る隊員は総勢18名、プテラノドンやらスピノサウルスやらを倒した
猛者連中だ。
「間もなく着陸地点に到着、各自備えよ」
隊長の振り下ろすナタのような声に隊員達は背筋を伸ばし、膝の上に両手を組んだ。

アメリカ中西部に突如現れた白亜紀の世界。
そう、それは失われた世界。
当初一キロほどだったその世界を、巨大な壁や鉄格子で囲った。通称“恐竜の住む鳥かご”である。
しかしそれは徐々に拡大していった。
そして今や北アメリカ大陸一帯が失われた世界に塗りつぶされた。

「次元の狭間」と研究者は分析し、根源となったアメリカ中西部の洞窟の地下深くにそれはあると
特定された。
我々はこれからそこに赴き、専用に開発された携帯型原子爆弾を打ち込むに行くのだ。
人間をちょこまか動く肉片にしか見えてない恐竜どもを数十匹は粉々にできる武器は持っている。
後は任務を遂行するだけだ。

ああ、しかし外から響いてくる遠雷のような唸り声の数々。
着陸地点に近づくにつれ聞こえてくる獰猛な雄叫び。
どんなに騒いでも無慈悲に生きたまま食い殺される餌にはなりたくないという恐怖がこみ上げてくる。

神よ、どうかご加護を…


次「荒廃した世界のベースボール」
0277荒廃した世界のベースボール2013/05/31(金) 18:07:40.80
「荒廃した世界のベースボール」

今から数百年も前の話だと言う。その穴から、巨大な怪物らが現れて、人々の生活圏を脅かした。
人類は当初、彼らを恐竜の様な存在だとしか、思っていなかった。重火器やヘリ、戦闘機、ミサイル、
数多存在する兵器を駆使して殲滅出来る存在だと、そう考えていたが。「大崩壊」と今は呼ぶ、
大規模な掃討作戦の結果。恐竜達は違うモノへと変化していた、口から炎?を吐き、空を飛び、
異様な触手を伸ばし、人間を狙い、食い始める。防壁は恐竜達の火力に全く意味を成さず、
核兵器は奇妙なバリアー?に防がれ、逆にそれを糧にでもしているのか・・・、より、増殖を始めた。

近代兵器が意味を失って、なのに、それでも人類は何故か・・・滅びはしなかった。
ふと目の前を、バットとグローブを持った少年らが、走っていった。

今は、「ハンター」と言う人々が、人類の生活圏を守る”仕事”をしている。最早「怪獣」だ、元は、
子供らのあこがれでも有った恐竜が”変質”したそれは。何故か人類が手にする刀剣などの武器、
そういうモノなら倒す事が、出来た。怪獣共は、人類の文明を食い尽くそうとしていて、それは今も、
彼らの主な行動原理ではある様で。だから”ここ”は、その近代文明を捨てた村は、それでも奇妙に、
牧歌的な日常が続いている。

村の外に出れば、そこは怪獣共の暮らす荒れ果てた荒野だ。村から村へ移動するにも命がけ、
そんな世界で今日も、子供達は広場でベースボールを続けている。この新しい時代に生まれた、
彼らはこの世界を狂っているとは思わない、らしい。子供らは、真剣に、球を追い掛け、投げる。

それは奇妙な真剣さ、だ。この村は平和だ。怪獣共が襲ってくる事が何故か、無い。
ただ自分の目からすると、子供らの野球への真剣さは、少し度が過ぎている気は…する。
彼らには、自分には見えない何かが見えていて、”解っていて”、或いは戦っているのか?
何故かふと、そんな事を思った。

次「山の上に卵」
0278山の上に卵 12013/06/01(土) 06:29:12.86
右も左もわからぬような暗闇の中、私の意識は覚醒した。
ただただ狭苦しく硬い壁に囲まれて私はぷかぷかと浮いていた。
記憶という記憶は持ち合わせていなかったが、どうにも窮屈さを感じどうにかここから出たいという衝動が芽生えた。
内側から割って出ようとはしてみるものの、叩こうが蹴ったくろうが強固な壁はビクともしない。声を出そうにも
水の中で漂う私の喉は上手いこと動いてくれない。
どうしようもないので途方に暮れることにしたが、途方もない時間にもはや暮らす方もなくなり、
なんとかならぬものかと激しく動き喚いてみた。
ゴトリ。
初めて聞いた壁の外の音に、私の胸はビクンと跳ねた。
何かが倒れたようなその音と同時に世界が傾くのを感じ、この壁が球形なのだと確信した。
きっと、この外殻が転げ回らないよう支えていたつっかえのようなものが倒れたのだろう。ならばしめたものとばかりに、
私は更に激しく動き自らを転がそうとする。
だんだんと速さを増し回転する外側の勢いを感じ、この調子と動きまわっていると、一瞬上に押し付けられるような圧迫感を受けた。
回転は止まってはいないが、先ほどまでと明らかに違う感覚。
浮遊感のある液体の中で更にふわふわとした違和感を感じる。
一体これは何なのだろうか、この外殻はどうなっているのだろうか。
びりびりと焦っていたその時。
バリン。
大きな音と衝撃、それと共に、暴力的な光が目を焼いた。
全身の痛みと肺を満たしている液体によって呼吸ができない苦しみに身をよじらせる。
強烈な寒さの中、どうにか現状を把握したくて、げえげえと嘔吐するのも構わず顔を上げた。
視界は朧だが、棒状に高く伸びた鉄製の建築物を見つけ、どうやら先ほどまで自分がそこにいたであろうことが推測できる。
周りを見渡すと同じような建築物があり、そのてっぺんに卵型の物体がある。
これはどういうことなのだと狼狽えていると、私を覆っていた、今は割れてしまっている殻にモニターがあるのを発見した。
モニターの下にボタンが付いており、一瞬躊躇ったが、それを押してみた。
するとアルファベットのロゴと胡散臭い男が映し出され、男は顔を笑みで歪ませながら喋り出した。
0279山の上に卵 22013/06/01(土) 06:35:13.42
「わが社の冷凍保存サービスを御利用いただきありがとうございます!
少々手荒い方法での御起床となられたと思いますが、これも我が社のハイテクノロジーさ故であり、
計算しつくされた落下高度による衝撃によりあなたの脳は完全に覚醒されたかと思われます!
さて、この度の冷凍保存サービス、延命技術の発展を待つことができないという欲張りなあなた様の為でしたが、
そちらの時代ではお望みになられていた不老不死は実現しておりますでしょうか?
我が社の社員一同、お客様の御要望が叶われておりますことを心よりお祈りしております!
それでは、5万年後の世界で素晴らしい生活をお送り下さいませ!」

映像は義務的に途切れ、モニターにはそれ以降なにも映し出されなかった。
今しがた見ていたものを頭の中で繰り返し、やっと思い出した。
科学の力に背中を押された人間の驕りは、不老不死の完成と5万年もの繁栄という幻想を
実現可能な未来の話として自分自身に信じ込ませていたのだ。
私もそんな愚か者どもの一人であり、夢と妄想に固執して冷凍保存などという手段を取ってまで自身の欲求を叶えようとした。
その結果は、まだ光を受け入れられない私の眼でも容易に判断できる。
小高い山の上から見たものは、うるさく突き刺すような眩しさと対照的な、何もかも何一つ失われていた世界だった。
絶望や失望に滑稽さが混じり合い腐れた気分で満たされた頭を上へと向ける。
規則的に並んだ建築物の上で、いくつかの卵が蠢いている。
そのままでいた方がよっぽど幸せだろうに、あの卵どもは今にも孵化しようとしているのだ。
きっと止めた方が良いのだろう。強制睡眠の機能を使い安楽死させてやったほうがよっぽどに幸せだろう。
だが、最早私はそんなことをしようとも思わない。
既に生まれてしまった私には道連れが必要なのだ。
私は、己自身を落とし割ろうとしている卵を見つめ、遥か昔に読んだ動揺を思い出しながら呟いた。

「誰にも戻せない5万年後へ、ようこそ雛たちよ」


次「スマホスタンドにもたれかかる鉛筆」
0280スマホスタンドにもたれかかる鉛筆2013/06/01(土) 09:45:04.83
「スマホスタンドにもたれかかる鉛筆」

目の前には、コピー用紙がある。
もちろん。・・・いやそれじゃ困るが、白紙だ。
締切の時間はまだ結構、ある。だから、焦る必要はそれほど無いのだが。
いつもの事だ。時代錯誤、だ。シャーペンでさえない。鉛筆と、コピー用紙。

「デザイナー」と言う仕事は、なかなか仕事と言う認識に成らない。肩身の狭さが切ない。
サブカルチャーの業界なら尚更か、コピー用紙に描いたラフスケッチで数億?とか、言うのだ。
実際、実は仕事?の大半は、健康維持に費やされる。ロボット玩具が何故大概人型をしているか、
それは自分の中では一つの答えは出ている。作中で敵と戦い逃げ回るそれは、”誰か”だ。
現場の扱いはひどいモノだ、カタログスペックを猛進しすぎる気はする、そもそもロボットであって、
消耗品でしかない。昔の歩兵の気持ちが解る。”上”の連中は、勝手な事しか言わない。
昔は、パイロットが頑張ってくれたが。今はスマホ片手に乗るような感じ。現場の苦労は絶えない。

もっとも、最近は。そういう感じでもなくなったか。昔みたいに一人が全部創るような事が無いからだ。
システムが整備され、かなり軽く?は成っている。昔はウルトラマンだが、今は本当にロボットの様だ。
とは言うが。そのロボットに載って戦っているのは自分だ・・・、そこは変わってない気は、する。
今回も。流石にスペースコロニーを一機で運ぶのは・・・、骨だ。何機いても同じ事かもしれないが。

今の所スマートフォンは、この局面では当てにならない。検索してる時間にやられそうだ。
結局、白紙のコピー用紙に鉛筆を走らせるのが一番、正解に近い。パワーも出る。
今回の作品では、主人公機は強力な槍一本で戦う。万能の槍を手に、世界を救うそうだ。

スマホを脇に置いたまま。ついでに買った、スマホスタンドに鉛筆を立て掛ける。
鉛筆は偉大だ。何度世界を救ったか解らない最強の兵器。まだ、ここに有る。

次「充電中はご注意ください」
0281充電中はご注意下さい2013/06/22(土) 18:02:31.50
『充電中はご注意下さい』

豊かな黒髪。少し腫れぼったい瞼。セーラー服の乙女は熟睡しているようだ。その額、その腕、その肩、全身に白いコードが繋がっており、何かを彼女に注ぎ込んでいる。
ドアを勢いよく開いて男性が飛び込んできた。
「ママア、ママ〜、起きてよママァ〜」

60代過ぎ位に見える男性はスーツの上着を投げるように脱ぎ捨て、乙女に覆い被さった。

「ママァ、まああいつだよ〜、あいつがまた俺を苛めたんだよ。俺より23も若いくせに、俺を無能扱いして、俺だって頑張ってるのに〜ママァ〜」
「何が報連相だよ、知らねーよママァ」

乙女の顔が苦しげに歪む。
0282充電中はご注意下さい2013/06/22(土) 18:23:00.16
『充電中はご注意下さい』続き
男性の脚がコードを踏んづけている。

「ママァ、俺がExcelの操作を失敗したら、あいつ鼻で笑いやがった、くやしいよママァ」

乙女は身をよじる。
男性は意にも介さず更にのしかかる。

「ママァ、あの女、ブスの癖に生意気なんだよお」

もう乙女は痙攣を始めた。
コードから注ぎ込まれる電気こそ乙女の命。充電切れはすなわち即死。
乙女は目をカッと見開くと男性の頭を力いっぱい殴り付けた。

乙女型アンドロイドは母にはなれない。母には二十四時間息子の面倒を見て欲しい、のならば充電切れがめったになくてどこまでも優しい昭和30年生まれカーチャン型アンドロイドか、戦前生まれ慈母型アンドロイドにしておけばよいものを。
セーラー服だの女子高生だの外部スペックにこだわりすぎたのが男性の間違いだった。

頭部に深刻な打撃を受けてひっくりかえる男性をよそに、乙女は再び眠りについた。



おわり。
0284名無し物書き@推敲中?2013/06/24(月) 17:56:45.49
 『ブラックコーヒー』

 ねっとりした感触と、ざらざらした苦味が舌にまとわりつく。
 苦いものは苦手。だけど、大人の真似。こうやって、夜、公園のベンチで缶コーヒー。大人の真似。
 「大人」って大きな力の押し付けには、もう飽き飽きだ。言うことをすぐに変えるし。私をどこかバカにしてるし。私を見下してるし。
 ブラックコーヒーのように、脳に響く苦味、寒気。中2病?そうかもね。でもそれでいい。ちょっとカッコつけたこのスタンス。
 「はぁ…」
汗ばんだ右手から、爪ののびた左手に缶を持ち変えた。
 風が生ぬるく気持ちが悪い。
 私は立ち上がる。明日はテストだ。
缶を置き砂の付いた制服スカートを払ったとき、見上げた木が大きかった。
 私は、小さかった。

 次は「りんごの風」でお願いします!
0285りんごの風2013/06/30(日) 22:22:37.57
「青リンゴサワーください!」
僕の向かいの席で、彼女が注文する。それも、店に響き渡るような大きな声で。
「普通の女の子は、居酒屋なんて嫌がるのに君といったら。で、いつも青りんごサワーなんだね」
僕は苦笑する。
「なんでよ。青リンゴサワーおいしいじゃない。甘酸っぱい初恋の味だし」
「初恋が甘酸っぱいかは別として、僕のおごりの時はもう少しいい店でもいいんじゃない?」
「リンゴは私の故郷の味なの。いいじゃない」
頬を膨らませながら彼女は反論する。そんな彼女を僕はかわいいと思う。決して口にはしないけれど。

「青リンゴサワーお願いします」
僕は注文をする。目の前には僕の妻。
「あなた、居酒屋に来ると必ず青リンゴサワーなのね。子供っぽい」
妻はそんな僕をなじる。
「いいじゃない。好きなんだから」
『甘酸っぱい初恋の味がするし』とは妻には絶対に言えない。妻はやきもちやきなのだ。
僕の、すでに思い出になってしまった過去の恋人であっても、妻は許しはしないだろう。
学生時代の、初めての恋愛を密かに思い出しながら、僕はグラスに口をつける。
グラスの中で氷が転がる音がする。
傾けたグラスから風に乗って、微かに甘酸っぱいりんごの香りがした。
僕は少しだけ、過去のときめきを思い出す。

次のお題は、「梅雨空の雲の上には」でよろしく!
0286梅雨空の雲の上には2013/07/04(木) NY:AN:NY.AN
バスは曇天の中を走る。
一番前の座席は空がよく見える。
今日は一日雨が降ったり止んだりを繰り返していた。
隣のアミは口を開けて寝ている。
車内は静かだ。
濡れた路面を走るタイヤの、ホワイトノイズに満ちている。

昨年の12月に花束を渡されプロポーズされたが
1月には話がこじれて破談になった。
仕事は結婚すればやめようと思っていた。
その気持ちが滲み出たのか職場でのお局からの当たりがきつくなり
今もまだきついままだ。
彼氏もなく職場にも居場所がないまま半年間さ迷っている。

伊勢神宮に行こうと友達のアミを誘ったのは
伊勢神宮にいくより「みちひらき」の猿田彦神社に
行く道を導いてもらいたかったからだ。
しがない事務員から転職するのか。資格をとるのか。
30女が結婚できるのか。

目を覚まさせたメールは母から。大雨警報が出たと心配する内容だった。
天照らす神の神社へ参った日が大雨警報とは幸先は良くないのかもしれない。
私は目を閉じた。

目を覚ますとバスは関を越え西へ向かっているところだった。
目の前には明るい夕日が雲の合間から見える。
なんて温かい橙色だろう。
一日中窓からグレーの空を見た人間には、暮れかける夕日ですら眩しい。
…雲の後ろにはきちんと天照らす太陽が上り、きちんと沈もうとしていた。
そうだ、梅雨空の雲の上には太陽がある。
今は太陽に向かってバスは走っている。
0289名無し物書き@推敲中?2013/07/06(土) NY:AN:NY.AN
「やめようよ、ゆうちゃん。先生に怒られるよぉ」
私が止めるのも聞かないでゆうちゃんは七夕飾りが散りばめられた
笹の葉に必死に真っ赤な靴下をくくりつけようとしている。
「いいんだよ、これでいいんだ。大体、ワケわかんないよ。日本ではベガやアルタイルが願い事をかなえてくれるのかい?」
ゆうちゃんの言う事は私には解らない。
私がよっぽど可笑しな顔をしてたのだろう。ゆうちゃんがぽつりぽつりと訳を話し始めた。
「……ママが言ってたんだ。日本のサンタさんは暑がりだって。だから、今頃きっとオーズィに居るのよ、って」
前にゆうちゃんが言っていた。オーズィっていうのはゆうちゃんのふるさと。オーストラリアの事だって。
「サンタさんは世界中から選ばれたとびきり優秀な神様のエージェントなんだって。
だから、世界中どこに居ても赤い靴下にお願い事を書いて入れておけば必ず叶えてくれるんだって」
「でも、今七月だよぉ?」
「ぼくもママに聞いたんだ。『なんでサンタさんは夏にしか来てくれないの?』ってさ」
やっとの事で笹の葉に括り付けた靴下を満足そうに見上げてゆうちゃんは話を続けた。
「サンタさんも本当は一年中働きたいけど、寒がりで冬はお仕事できないんだって。……でもさ」
靴下に手紙を詰め込む。がむしゃらに詰め込んだから、ぐしゃぐしゃになった手紙が靴下からはみ出している。
「日本のサンタさんなら冬でも大丈夫だよな。きっと今頃オーズィで休暇中だけどさ。赤い靴下に気が付いてすぐに飛んで来てくれるよ、っと」
台からおりたゆうちゃんは、パンパンと手を叩いて何かをほろった。
「きっとこの手紙をオーズィに居るおばあちゃんに届けてくれるんだ」
「でも、おーじーは冬でも日本は夏だよ? それにサンタさんは手紙を届けるんじゃなくてプレゼントを配るんだよ?」
「きっと、休暇中のオーズィのサンタさんからジェットスキーを借りて飛んでくるんだ。それに、サンタさん赤いだろう?
ポストオフィスの車も真っ赤だ。だから手紙もきっと届けてくれるんだ」
ゆうちゃんのいう事はちっともわからない。だけども私は手紙が届けばいいと思ったから、短冊にこう書いた。
『ゆうちゃんの手紙が届きますように』
ゆうちゃんの手紙には何が書いてあるのだろう?

拙すぎて申し訳ない、頑張った! だれかバトンを頼む!
0291レモンドロップ2013/07/06(土) NY:AN:NY.AN
透明ですこし酸っぱいレモンドロップ。

他の子はピンクや赤のかわいい色の甘いドロップを好んでいたけれど
私は地味なあのレモンドロップのたたずいが好きだった。

涙の形をしていてすこし小さい。舐めていると先が尖ってくる。
先をかじっちゃおうか。チクチクするのを避けながら味わうのに疲れて、飴を転がしながら考える。
ふと気を逸らすと無意識にがりがりかじってしまってすこし残念な気持ちになる。
ちゃんと考えようとしてたのに、と。

私の日々もレモンドロップだ、とふと思う。
地味で酸っぱい。
涙の形をしている。チクチクする。
吐き出すほど痛くなくとりあえず維持する。
気がつけば飲み込んでいる。

ちゃんと今考えると、私がレモンドロップが好きだったのはイチゴドロップよりは誠実な味がしたから。
人工香料と着色料がレモンドロップは少なかった。
甘いくせに嘘くさい味は嫌いだったから。
だから。
だから私の毎日もこれでいいかも。
酸っぱいけど誠実に生きてる。ちゃんと考えて生きてる、ね。



次のお題「ゾウリムシ柄」
0292ゾウリムシ柄2013/07/14(日) NY:AN:NY.AN
 これはいいものだ。俺は素直にそう思った。
 俺の趣味であるフリーマーケットでの掘り出し物探し。その最中に、俺はそれに出会った。
 素人の目には、ただのTシャツに見えるかもしれないそれ。しかし、俺にはわかる。
 ペンキを適当にぶちまけたかのような乱雑な柄は、むしろそうなるように計算し尽くされたものに違いない。
 そう、例えるならば『ゾウリムシ柄』。俺にはわかる。これをデザインした奴は天才だ。
 だが、残念ながら目の前のおばさんはわかってないらしい。何故なら、この前衛的かつ芸術的なTシャツを百円で売ってるんだからな。
「おばさん、これ買うよ」
 財布を取り出して俺は言う。こういうのは、物の価値がわかる人間が買うべきだ。そう、例えば俺のような。
「いいのかい? これは息子が絵の具で汚しちまったやつだよ? 最初は綺麗な白いシャツだったんだけどねぇ……」
 これは駄目なものだ。俺は素直にそう思った。

次は「焼きそばパンに恋をする」で
0293焼きそばパンに恋をする2013/07/15(月) NY:AN:NY.AN
「焼きそばパンに恋をする」

 麺とは小麦粉に水を加えて練って、索状にしたものである。その麺にソースを絡めて、肉とキャベツを加えて鉄板の上で焼いたものが焼きそばである。一方でパンとは小麦粉にイースト菌の酵母を加えて発酵させたのちにオーブンで焼いたものである。
 前者はお祭りの際に屋台で見られるのが典型的で、後者は一般的な西洋料理の際の主食として用いられる。
 「パンの中に焼きそばを入れるのは、文化的に見て全くナンセンスなのよ!」
 腹を空かせた彼女のために、わざわざコンビニまで行って僕が焼きそばパンを買ってきたのに、彼女はブツブツと文句を言った。
 今日は幼馴染の女の子と一緒に釣りに来ている。彼女が怒っているのは、魚が全く釣れないからである。そう簡単に釣れるものじゃないよ、と繰り返し念押しはしておいたのだが、実際に一匹も釣れないとなると彼女がご機嫌斜めなのも無理はないと思う。
「ごめんね。今日は風が強いせいか、魚が掛かったときの振動がかき消されちゃってあんまり釣れないみたいだね」
魚が一匹も釣れないことを坊主というが、僕は坊主には慣れている。正直言えば、魚が釣れるかどうかはどうでも良いのだ。
ずっしりとした防波堤と同化し、ただひたすらにゆったりと上下する波を眺めて、無心になる。何も考えずただ潮風に身を任せる。僕は自然と一体となって一人の人間という枠組みから解放される。これが釣りの魅力だ。
ただ彼女にはその魅力を理解するには幼すぎたのかもしれない。むしろ僕が精神的に老けているのか。
ギラギラとした日光に照らされて僕の両腕は日焼けして、焼きそばの色になった。それと対照的に、日焼け止めをたっぷりと塗り込んだ彼女の肌は真っ白で、まるで白パンのようである。
「別にケンジが悪いって言ってるんじゃないのよ、せっかく私たちが餌をあげてるのに一匹も魚が釣れないのがなんか悔しいの」
 彼女は少しがっかりしたような表情をしてそう言った。しばらく彼女は退屈そうに釣竿を持って座り込んでいたが、しだいにのんびりとすることに順応したのか、どこか楽しそうに微笑みながら焼きそばパンを頬張った。

次のお題は「儲からない銀行」
0294 忍法帖【Lv=2,xxxP】(4+0:5) 2013/07/16(火) NY:AN:NY.AN
 『儲からない銀行』
 信じる者が儲かる、そういいたいのか。
 金良行(きん・よしゆき)はため息を吐いた。肺の奥を洗うような、そんなため息。
 簡単なギャンブルなのに。全然勝てやしない。
 「金さん、どうします?」
良行の前に座る…確かタナカと言ったな、ハゲがにやついた。はげたでこのまえに、ハートのキングを掲げて。
 このゲームは、言うなればただのインデアンポーカー。めくったトランプを自分で見ずに、相手にだけ見せる。自分は相手のカードを見て、のるかどうか決める。数字が大きかった方が勝ちだ。1ゲームに二万かけて、おりれば金は相手のもの。負ければさらに二万、相手に払う。
0295『儲からない銀行』2013/07/16(火) NY:AN:NY.AN
ごめんなさい挫折しました…。
次は、「アイドルヲタクは夢破れ」でお願いします。
0296アイドルヲタクは夢破れ2013/07/20(土) NY:AN:NY.AN
星空を映した様な小さな光が点々と灯る東京の夜景。
そんな景色を窓越しに眺めながら、俺はスーツから部屋着に着替える。
ここは、マンション高層階のペントハウス。
キッチンから、妻が作る夕飯の匂いが漂っている。
音がないのも寂しいと思い、俺はテレビをつけた。
少女達の歌声が聞こえてくる。流行の音楽をランキング形式で紹介する歌番組が流れて来た。
一人ひとりの顔をアップで写していたその番組のカメラは、ふいに客席を映す。
同じハチマキを締め、揃いの格好をした男たち数人が、歌に合わせて踊っていた。
「そんな時期もありましたっけ」
俺は過去を思い出しながら呟く。
「しかし、そんな事をしていてもアイドルは振り向かないぞ。彼女らと結婚するのはたいがい青年実業家だ」
俺も数年前までは彼らと同じ、アイドルヲタクだった。
俺も彼らと同じように、応援さえしていれば彼女達から振り向いてもらえると勘違いをしていた。
けれども、俺が応援していたアイドルグループの一人が突然引退宣言をし、その後に青年実業家と結婚したと報道された時に俺の中で何かが変わった。
『お気に入りのアイドルを手に入れる為にはこんな事をしていてもダメだ。青年実業家になるしかない』
そうして俺は、それだけの為に努力して今の地位まで這い上がって来たのだ。

キッチンから妻のハミングが聞こえてくる。さすがは元アイドル、ハミングさえも可愛らしい。
「あなた、夕飯できたから、着替えたら来てね」
ダイニングから妻の声が聞こえてくる。着替えを終えた俺は、ダイニングへと向かう。
ドアを開けると、振り向き様に妻はにっこりと、俺に向かって微笑んだ。

彼女を一目見た俺は、ドアの側に立ったまま目蓋を閉じると、アイドル時代の彼女を思い浮かべた。
俺がどんな努力をしても手に入れたかった、瞳の大きな、純真そうな笑顔。

ノーメイクの彼女を見た今なら、はっきりと分かる。
彼女の美しさ、かわいらしさの8割は、カラーコンタクトとメイクで作られていたようだ。


次のお題は、「夏の扉の向こう側 俺とビッチの大冒険」でおねがいします!
0297夏の扉の向こう側 俺とビッチの大冒険2013/07/20(土) NY:AN:NY.AN
夏だ!大冒険だ!
子供の頃から夏はわくわくするものだ。
飛び散る汗。照り付ける太陽。行き場のないエネルギー。
17歳になったとしてもそのエネルギーを享受する。
いや、成長した成果は自らのあふれだすエネルギーは制御不能。
この衝動は青い!
火の温度が高くなるにつれ青くなる、つまりそういうことなんだよ!!

何言ってんのかわかんないし超ウケるー、
と隣に座る俺の高校一のビッチ、ビッチオブビッチのサチがやる気なさげに答える。
いや、こうみえてサチは優しい。
すべての男を受け入れる度量がある。
たとえそれが無関心と表裏であったとしても、救われる男がいるのだ。
俺とか。そう俺とか。

お願いします!と、大冒険、もう少年の大冒険じゃないんだ大人の大冒険をしたいんだ、
僕らの冒険はこれからだ!的展開はやめて下さい!打ち切りはなしで!
訴えてみたらさすがはビッチオブビッチ、ビッチオブクイーンは
やりたいんだ?と正確に理解してくれた。
お父さんお母さん、僕は今シーツの海のサチに飛び込みます!
夏の扉の向こう側へダイブしまっす!


次は「 ドキッ 水着だらけの…」でお願いします
0298少女とウランと賽銭箱2013/07/25(木) NY:AN:NY.AN
「どうすんだよこれ」スーツを着た俺は倉庫の中で愚痴を吐いた。
「いやだってしょうがないじゃないですか。0円で売ってたんですから普通買いますって」
 安田は俺に反論する。だが俺は安田に回し蹴りを入れて言い放つ。
「『安物買いの銭失い』って諺は知ってるか? お前が知るわけないか。知ってたら女性用
水着10000着なんて買わないよな。やっぱ無知って怖いよな。バカってのは迷惑だよな。
なあ安田、聞いてるのかお前のことだぞ。いま俺はちょっと怒っている。お前の低能さに
ついてじゃないぞ。お前をビジネスパートナーに選んだ自分に対しての怒りだ。なあ安田
聞いてるのかオイ」

 二十回ほど蹴っただろうか。俺は動かなくなった安田を蹴るのをやめると、この巨大な
倉庫に置かれた女性用水着10000着の処分方法について考えていた。おそらく倒産した
のであろう前所有者に引き取ってもらうことは無理だろう。すると単純に倉庫代だけで
月十万はかかる。移動させるにはフォークリフトが数台必要だろう。人件費もかかる。
俺ははっきりいってこれが損失を生み出す負の遺産にしか見えなかった。しかも今は秋。
これから冬に突入するというタイミングである。いかな俺とて、売りさばける自信は無い。

「あ、俺いい方法思いつきましたよ。ヤフオクで売ればいいんですよ」
 安田が起き上がり提案を始める。つまり安田は自分のようなバカに押し付ければいいと
思っているのだろう。だが、そんなバカが本当にいるものだろうか? 俺は適当に返す。
「じゃあ『ドキッ 水着だらけの…』とかいう名前で出品してみろ。もちろん現地引渡しで、価格は百万だ」

 三日後、水着は百万で落札された。オーストラリアの会社らしい。あっちは今から夏に向かう。それで売るための水着が足りないという話だった。

「結局、儲かりましたね」安田は得意げに言う。
「運が良かっただけだ。今度からはもう少しものを考えて仕入れろよ」俺は安田に釘を刺す。
「えーと、実はまた0円で出品されてるものを見つけまして……」
 俺は回し蹴りを繰り出し、安田は回転しながら十メートルほど先に吹き飛んだ。

次は「壊れた温湿度計」
0300壊れた湿度計2013/07/27(土) NY:AN:NY.AN
俺を見ろ、俺を忘れるな。

昼飯に向かういつもの道で何かが違うと気になった。目をやると朽ちかける店舗兼住宅がある。
しばらく眺め腑に落ちた。
ガラス戸――正確にはプラスチック――が大きく破れて、内の暗さがもれていたのだ。
空き家は不気味だ。
満たされない家として人目にさらされ続ける怨嗟を感じるのか。
ちょっと中を覗きたくなった。何が切り捨てられたんだろう。
破れ戸から覗き込む。
予想以上に物が溢れ生活感が生々しく残っている。
食器の類いがあり、商品棚だったのか棚があり、小さなゴム草履(キャラクターがついている)があり。
床に散乱するプラスチックの破片が乾ききったように黄ばんでいる。
笑顔の女性が虚空を見つめて商品を示すポスターでいつ頃廃屋になったかがわかった。
入ってみたいが大人が入るには穴は小さく、肩までしか入らない。
手が届く物といえば床にある計器だ。引き寄せてみればそれは湿度計だった。
見る人がいない間も計測し続け、やがて力つきたか、70を示しあとはぐずぐずに分解している。
壁から落ちたのかもしれないが。
好奇心は満たされた。
湿度計のなれのはてを奥へ投げ込めばカツンと音がして消えた。
とたんにギャーっと声が聞こえて黒い固まりが飛び出しぶつかってきて、私は尻餅をついた。
家が、湿度計が、いや捨て置かれたものすべてが
怒りをあらわにして中から黒い気が吹き出したような。

道路に投げ出した足元には投げた湿度計があった。
壊れた湿度計がまた70と数値を差し出している。見ろ、と。
0302猫に擬態2013/08/17(土) NY:AN:NY.AN
「猫に擬態」

 目の前で寝ている猫は、賢い。

 どのくらい賢いか?と言うと、今が危機的状況である事を理解しているくらいだ。
 猫の向こうでは、花瓶が割れている。花が活けてあって、インテリアとして飾ってあったモノだ。
 花が散乱し、水は散らばって辺りを濡らしている。猫を飼う前は気にもしていなかった事を、
今は気にせねばならないと。解っていても、今まで通りと言うのは甘美な響きだったかもしれない。
 うっかりはしていたのだ、ともかく目の前の猫は、寝ている。

 本人は、そのつもりはないだろう。自分がちょっとドジを踏んだ事を理解しているくらいだ。
 ここは、ノラだったこの猫を飼い始めた酔狂な奴の部屋の中で、部屋のインテリアはそいつの私物であり、
それが壊れたとしたら、それは猫にしても、自分が捕ったネズミを横取りされた位には許し難い事だ、
そのくらいの理解はしているのかもしれない。
じゃなければ。目の前の光景を説明はし難い。

 何だか、腹を出して。ぐったりしている様にも見える。口を半開きにして、薄目を開けて、じっとしている。
もしかしたら、これで助かった事が有ったのかもしれない。ともかく近づいて、少し揺すってやる。
最初は強情だったが、やがて眼を開いて起き上がり、一度自分の顔を見てから、餌場の方へ歩いて行った。

 相手が人間なら、何か事件でもあったのかと疑って良いシーンだ。花瓶が壊れ、散乱し、
その前で寝ている奴は、動かない。殺人事件か何かが発生したのか、そう考えても良いシーンだが、
寝ている犠牲者?それは猫だった。あの猫が何を考えてぐったりと寝ていたのか、想像するに怖くなるが滑稽でもある。
ともかくあの猫は。賢いかもしれないが少しドジで、うっかり部屋主の花瓶を倒して壊してしまった。
その気まずさを何とか、回避しようとしたのだ。

 ともかく、不思議な猫かもしれない。”擬態”の技を持ってる。
 あまり意味も無さそうだが、飼っておいて、損も無いだろう。


次「PCの中に住んでいる」
0303PCの中に住んでいる2013/11/10(日) 09:45:52.03
まあタイトルの通りだ。

俺は
パソコンの中に住んでいる。
この中に入るのは苦労した。
だが痛みは最初だけ。
この画面に入るときに皮膚が剥がされたような痛みが走る。
その痛みを乗り越えられたのは、パソコンの中からエロい、キラキラした美少女が俺を誘っていたからだ。
それからというもの俺の人生は一変した。
毎日毎晩キラキラ美少女とやりたい放題。
働かなくても食い物が出てくる。
美少女の他にも女の子がいて、たまにはその子と遊ぶこともできる。

で、そちらの世界はどうなの?
戦争が起きた? 本当か。相手はやはり。うん、俺がそっちにいたときから怪しかったもんな。
で。なんだって。非戦闘員の家の電気は止まるのか?
そうか。それは仕方ないか。
待ってくれ。頼みがある。
あと二時間、いや一時間でいい。
俺の部屋に美少女たちを集めて楽しみたいんだ。
いいだろうそれくらい。
そしたらいいよ。
このパソコンの電源を切ってくれても。

次「その眼鏡には名前があった」
0304その眼鏡には名前があった2013/11/23(土) 18:18:03.83
 古い記憶に、祖父の老眼鏡に関する一場面がある。ある冬の夕方、
洗面所に入ったおれは、隣の浴室で湯に浸かっている祖父の眼鏡が洗
面台の上のタオルに乗っているのを見た。まだ幼かったおれは、眼鏡
というものの名称も用途をも知らず、ただ寝るときと風呂に入るとき
を除いて常に祖父の顔面にくっついているものと思いなしていた。目
の前にあるのは、黒く厳つい枠に透明なガラスがはめられた、まるで
小さな”お面”――そのとき、おれはかすかな好奇心に唆され、祖父
を真似てその老眼鏡を自分の顔にかけてみた。
「うわぁ」というおれの声に反応したのか、浴室の戸を開けて顔を覗
かせた祖父が、「こら、不動丸に触るな」と一喝した。そのときから
しばらくの間、おれが眼鏡一般を「不動丸」と呼ぶようになったのだ
と、だいぶ後に祖父がにやにやしながら語ったことがある。不動丸と
は、祖父がその眼鏡に与えた名であった。目黒不動近くの眼鏡屋であ
つらえたとして。
0305その眼鏡には名前があった2013/11/23(土) 18:19:03.07
 高校一年生になっておれは駅前のコンビニでバイトを始めた。バイ
トに向かおうと仕度をしていると、自室からおれを呼ぶ祖父の声がし
た。行ってみると、「隆、ノブトモが壊れた。駅前に眼鏡屋があるだ
ろう。あそこへ修理に持って行ってくれ。」と言われた。差し出され
た祖父の手には、右の鼻あてが根元から折れた老眼鏡が座っていた。
「ノブトモ?」と尋ねると、祖父はよくぞ聞いてくれたと言わんばか
りの笑みをして、「もう数えで十五だからな。めでたく元服したんだ。」
と言った。
 ノブは信と書くのだろう。おれの父も祖父も、知る限り遡って曽祖
父の代から名前に信の字を継いでいる。なぜだかおれは隆になってし
まったが。あいにくノブトモの字までは尋ねなかったので、トモは何
と書くか今となっては分からない。それでも、何となくその意味する
ところの察しはつくけれど。
0306その眼鏡には名前があった2013/11/23(土) 18:20:19.90
 三年前、祖父は他界した。車に跳ねられ、頭部を強打したという。
祖父の老眼鏡もガラスが砕け、縁はひしゃげ、耳あては片方失われて
いた。警察から引き取ったノブトモは、葬儀の際祖父の棺に納められ、
己を愛用した主とともに葬られた。祖父は、初めてあつらえた老眼鏡
を大いに気に入り、一度も買い替えなかったのだと父から聞いた。
 今や空室となった祖父の部屋には遺影がある。さっぱりと笑う故人
の顔に、清景院伴生正澄居士と、おれが勝手に戒名をおくった故ノブ
トモがかかっている。ずいぶん安直な名かもしれないが、きっと祖父
も喜んでくれるだろう。この単純さは祖父譲りだ。 

次のお題は「さみしく見えてさみしくない」 
0307さみしく見えてさみしくない2013/11/27(水) 17:58:40.11
 待ち合わせ場所に現れるなり、コートからポケットティッシュを出し、突きつけられる。
 ピンサロの広告だった――これが求人広告なら彼女もヘソを曲げなかったろうに……。

「多少混み合っててもさあ、ちゃんと顔見てくれりゃ判るハズだよ?」
「俺、チラシのバイトなら経験ある。……ピアスでも付けてみりゃどうだ?」

 ――そんなもん男でもする……なのに俺、なぜピアスって言葉が出たんだ?

「……ピアス?」
「一瞬で判断しなきゃいけないんだ。アクセサリーが女性的なら女性と見做してた」

 女らしい髪型、服装。そんなものを彼女は避けている。理由は『似合わないから』
 男になりたいワケじゃない。だから、たまに間違われると機嫌を損ねてしまう。

 ショーウィンドウに目をやり、しばし自分らの姿を眺める。
 学校は違えど一緒に上京し、何時の間にやらこんな季節――変わり映えしないな。
 でもないか?彼女は……髪を更に切り、スカートの呪縛から開放されたと今でも満喫中。
 俺は……人付き合いが苦手な分、少々彼女に依存気味――欠点が増長しただけ?

 ――ふらりと傍から彼女が離れ、吸われるように証明写真のボックスへ……。
 後を追い、カーテンを引く――備え付けの鏡を睨んでるが……機嫌が直ってる?

「突然『ピアスしろ』って言うから――そういうの、嫌いなのかと思ってたけどな」
「え?いや、別に、積極的に薦めてないぞ?」
「初めてだよ、さみしく見えたの……何も付けてない耳が」

 ――だったら少しは寂しそうな顔してみろよ?


次のお題は「逆立ちして手を叩こう」
0308逆立ちして手を叩こう2013/11/30(土) 01:02:01.20
 出産予定日より三週間早く、土曜日の午後妻が自宅で破水した。妻に付き添って救急車に乗り込んだとき、ストレッチャーに横たわる友達を救急車の中で見守った遠い記憶が呼び起こされた。
 「お前、逆立ちして手を叩けるか?」と義男が唐突に口にした。
 義雄は、当時近所に住んでいた同級生で、おれとは幼稚園のから友達であった。小学校に上がり、容顔が優れていたのを鼻にかけるようになった義雄は、三四年生になるその頃には随分とおれに優越心を示すようになっていた。
 気に障ったが、「カバ」とあだ名された自分の風貌と見比べると気後れして、何かと付き従う日々だった。
 ある土曜日の午後、義男と二人きり公園で遊んでいたとき、義男の侮るようなさきの言葉にむっとして「できるさ。」と答えた。
「そんならやるか?」
 義雄は公園のコンクリート塀に駆け寄り、手を突いて蹴り上がり、逆立ちして塀に足をもたせた。おれも義男の左で逆立ちになった。
 義雄は「こうだ。」と言って両肘を深く曲げたかと思うと、一気に飛び上がり、宙で両手をぱんと一つ合わせた。そして、すぐさま両手を地に着いて、少し息を荒げながら傍らのおれを見やった。逆さに見た義男のあの憎々しい表情。
 一方のおれは、ただ逆立ちしているだけで苦しくてならなかった。飛び上がるために腕を畳むことすらできない。額の汗が髪の毛の根元を伝って垂れる。
「お前、できるって言ったよな。」
義男の言葉に責められて顔が膨らんでいくように思えた。義雄は逆立ちのままもう一度手を叩いてみせる。方や、おれの腕は動かない。
 義男が「カバが逆立ちしてるから馬鹿だな。」と言ってケラケラ笑い出した瞬間、おれは、地面についた義男の手を払うように叩いた。
次のお題は「うっかり食べる」
0309うっかり食べるべる2013/12/01(日) 19:09:01.36
 偉い雨脚だ。牛丼屋の軒下で足止めを食う。さすがにもう一杯というワケにいかないし、そうしたところで時間稼ぎには知れている。ハンバーガーにするべきだった。「あの、宜しければ――」恐縮がちな声に振り向くと女性店員。片手にはビニル傘。

「――この傘を駅向こうのハンバーガーショップまで届けて頂けますか?」

 前もって駅の売店で傘を買い、預った傘を整えてから目的の店に入る。要件を店員に話すと奥へ通された。

「これはお礼です。ただし、うっかり食べないで下さいね」

 片手で紙袋を受け取り、駅へ向かう。――うっかり食べないで下さい?それなら、いつ食べりゃいい?ゴミ箱への投棄も考えたが、投入口が塞がっていた。
特別警戒って、こんな駅に要人やテロもないだろうに。コレも別に危険物ってワケじゃあ、……紙袋を開いて覗く。マフィンが3つ?朝の残りにしては温かい。……更に包装紙も解くと、姿を現したのは今川焼?我に返ると俺の手は、ソレを口へと運ぶ途中――

「「うっかり食べないでください!!」」

 南口には牛丼屋、北口からはバーガー屋、共鳴する店員らの叫びに被さるサイレン音。今川焼を放り投げ、一目散に改札へ。

 ――雲が切れ、電車の窓に陽射が映る。運良く扉が閉まる直前だった。何やら階段の下から歓声が沸き立つが、……関わりたくない。発車と同時にアナウンス。――特別警戒態勢の解除を告げるのを聞き、紙袋を握る手を緩めた。中には2つ残っているが、
……うっかり食べてはいけない、うっかり食べてはいけない、うっかり食べてはいけない、うっかり食べてはいけない……


次のお題、「社会の窓には意味がある」
0310社会の窓には意味がある2013/12/13(金) 12:21:24.19
「僕がこの言葉を知ったのは小学生のときなんだ。ずっと『世間と自分の狭間』という意味だと勘違いしてたけど、実際は、昭和のラジオ番組のタイトルが語源。社会の内情を暴くような内容だったそうだ」
「わたし、別に知識ひけらせなんて言ってないわよ?」
「その番組名が、大事な箇所を隠すジッパーを指すよう転用されたらしい」
「あなたの言うことはいつも回りくどいの!大声で聞き返して恥かいたわ」
「知らないとは思わなかったんだよ。どう指摘すれば分かりやすかったんだ?」
「えっと……『たかじんの窓』かな?」

次のお題は「野球に興味はありません」
0311野球に興味はありません2013/12/26(木) 11:28:42.91
 グラウンドを駆け回る学び舎の同胞たち、それを視界の下半分に。やや赤みがかった空に浮かぶ白い綿雲、それを視界の上半分に。
 何をするでもなくただただボーっと、焦点は二つの景色を絶え間なく往来する白球。

「何してるんだ?」

 と、声をかけ背後に立つのは我が恩師。

「特に、何も―」

 端的に、あるがままの事実を述べる。

「混ざらないのか? 内は緩いから部員でなくとも大丈夫だぞ?」

 何を察したのか心を砕きくださる我が恩師、有難く思うもやや困る。そうではないのだ。

「いえ、構いません」

 対してコチラは気の利く物言い等できず。

「ただ…綺麗だな、と――」

 やはり在りのままを述べる言葉しか見つからなかった。



次の題は「最終確認は3回までで」
0312「最終確認は3回までで」2014/02/10(月) 22:02:02.78
俺はヒーロー。たぶんそうだ。そんな気がする。
俺はどう見ても悪の組織のものとしか思えないおどろおどろしいコンピュータ室にいた。
ここのプログラマはよほど無能なのだろう、壁に大きく「デバッグは慎重に!」という
張り紙が貼られている。やれやれ、そんな標語でどうにかなるもんでもないだろうに。
俺の目の前の、液晶輝くコンソールがこういっていた。
「あなたの記憶を消去します。よろしいですか?変更は元に戻せません。(Y/N)」
当然Nだ。俺はNを押す。

俺はヒーロー。たぶんそうだ。そんな気がする。
(中略)
「あなたの記憶を消去します。よろしいですか?変更は元に戻せません。(Y/N)」
当然Nだ。俺はNを押す。

俺はヒーロー。たぶんそうだ。そんな気がする。
(中略)
「あなたの記憶を消去します。よろしいですか?変更は元に戻せません。(Y/N)」
当然Nだ。俺はNを押す。

俺はヒーロー。たぶんそうだ。そんな気がする。
ここのプログラマはよほど無能なのだろう、壁に大きく「デバッグは慎重に!」という
張り紙が貼られている。やれやれ、そんな標語でどうにかなるもんでもないだろうに。
俺の目の前の、液晶輝くコンソールがこういっていた。

「健康のため、記憶消去は1日3回までです」
なんのこっちゃ。悪徳プログラマのやることは本当にわけがわからない。
俺は何かを思い出そうとするが、うまく行かない。と、背後から声がかかった。
「そろそろ年貢の納め時だな、怪人PGフジソフトン」
なんのこっちゃ…・・・・。肩をすくめて振り返ろうとした俺の背中を、強烈なキックが襲った。
遠のく意識の中で、なぜか錦糸町のネオンが踊った。

次「ふくらみかけのフルーツは」
0313名無し物書き@推敲中?2014/03/12(水) 21:03:29.39
大分から愛知への飛行機が謎の無人島の浜辺に墜落した。
ただ一人の生存者であるヨシオはなぜかそこが無人島であることをすでに知っていた。
迷わず森に分け入り食料を探しに出かけた。
ヨシオは毒キノコっぽいキノコを片っ端から食らい尽くすと、トランス状態になり、
ふくらみかけのフルーツを地面に突き刺して、一通り射精して死んでしまった。
ヨシオは14年前小学校の卒業文集に「俺の夢は地球とセックスすることなんだ」と記していた。
0315名無し物書き@推敲中?2014/03/12(水) 21:15:44.47
継続
0316名無し物書き@推敲中?2014/03/16(日) 03:10:44.15
ふくらみかけのフルーツは、ぶらぶらしなから考えていた。
俺はなんになるんだろう?
枝先の視界は良好だ。眼下には民家の窓があり、住人が見える。
いまはテレビを見ていて、尻をかきながら寝そべっている。
俺の寄宿する木の根本は、その民家の庭に埋まっている。

地上は、しかし俺には遠い。いつか地に落ちるとしても
まだ先の話のはずだ。
俺の横には、電線が走っている。こちらの方が、俺には近い。
よく、カラスが止まっている。この民家のある通りの
せいぜい6軒分の小さな縄張りを持つ。
まだ、俺は食べられやしないさ。
まだ。まだ。まだ。
俺はなんになるんだろう?と、またふくらみかけたフルーツは
ぶらぶらと思索にふけるのだった。

次は
バカラオ
0317バカラオ2014/04/04(金) 02:01:18.37
バカラオバカラオーOH

次のお題は「桜霞の夢より覚めりし」
0318名無し物書き@推敲中?2014/04/04(金) 19:30:02.84
弁天池の浮島には、まるで羽衣でも身に付けた様な美しい姿の唯さんが、歌を謳っていた。
それは伸びやかで透明感のある声だったのだけれど、そこ儚げで哀しさをもはらむ様に感じさせた。
僕はその畔に咲く満開の桜の下で、口を大きく開けたまま眺めていた。まるで阿呆のように。
満開の桜から花びらがひとひらふたひら舞落ちたかと思うと、やがて一陣の風と伴に一斉に散り始めた。
それはまるで春霞、いや桜霞とでも表現するのが正しいのかも知れない。
僕はそんな桜霞の中で謳う唯さんをいつも以上にいとおしく感じてじっと見つめていた。

どれくらいの時間が経ったのだろう?酷い寒さに気づくと、僕は薄暗い池の前で1人立ち尽くしていた。
そして僕は、去年の春にこの弁天池の桜を見に来たのを最後に唯さんは手の届かない遠くへ行ってしまっていたことを思い出した。
夢でもうつつでも良いから逢いたいと、毎日願っていたのだ。ふと、顔を上げると空にはぼんやりとした弓張月が浮かんでいた。
まるで僕にそろそろ現実に戻りなさいと、優しく声を掛けてくれているようだった。唯さんのように。


次は「勾玉と古びた鑑」で
0319勾玉と古びた鑑2014/04/12(土) 22:35:12.30
机の引き出しに、勾玉が入っていた。
翡翠でできているのであろうか、淡い緑色をした、ところどころ欠けたところのある
手のひらにすっぽりと収まるおおきさの古びた勾玉だ。
自分で入れた覚えはない。
鍵を掛けていたので他人が入れる事はできない。
夕方の、オレンジ色の日差しが窓から差し込む自分の部屋で、俺はなぜこんな物が
机に入っているのか考えている。

考えているところに玄関のチャイムが鳴った。
「お届け物です」
宅配便の業者は、小さな白い包みを俺に手渡し、帰って行った。
貼ってあった送り札には差出人の名前はない。
包みをあけると、古びた鑑が入っていた。
鑑といっても、ガラスのそれではなく、金属の表面を磨いて顔が映るやつ。
ちょうど俺の顔くらいの大きさで、裏になにやら彫刻が施されている。
リビングに移動しながら考える。これは、誰かのイタズラなのではないだろうか?
リビングの掃き出し窓から庭をみると、石製の棺が見えた。
イタズラにしてもこんなに重さそうな物を運び込むとは。
クレーンかなにかでないと動かせないだろうに。

キッチンから音がした。
侵入者か? 俺はおそるおそるキッチンに向かう。
干涸びた人間の形をしたなにかが、エプロンをして包丁を握っていた。
俺は、逃げた方がいいのだろうか?

次のお題は「春風と制服の短いスカート」でよろしく
0320春風と制服の短いスカート2014/05/25(日) 11:42:27.19
春風とは恐ろしいもので、埃、葉桜、時には瓦と、なんでも飛ばしてしまう事が割にある。
そして畢竟春になれば服は薄くなり肌は露出する。
丈の短いなにそれが現れるのも、ごく自然ななりゆきである。
そうくればなりゆきとしては紙ぺらの如く薄い防御など春風殿にとって見れば
子錦を前にした大横綱のように鎧袖一触、片付けてしまえそうなものだが、
そこが世の不思議なところ。そう簡単には運ばない。
あれまた針金でも詰まっているのですかと聞きたくなるほどに
動かない、動かない。
むむと念じてみるものの、春風は参ったとばかりに吹くのをやめてしまう。
えい、この根性無しめ。役立たず。盆暗かぜ。
怒った春風が目に砂を飛ばしてきた。
なに、その程度で参る私ではない。とはいえ痛い。これでは見えないではないか。
やっとのことで目から砂粒を取り払う。
どうやら針金を折り曲げるのは首尾よくいったが、何分勢いが強すぎた。
女生は手で尻を押さえてしまっている。
まったく春風殿、融通の利かん男である。

あら、あすこにおわす主婦が何やらこちらを指差している。
何ぞ用件でもおありかしらん?

おまわりさん、あの人です。

おやいけない。
春風よ、私を遠くへ吹き散らしておくれ。

次のお題「腹黒人形は踊りが苦手」で
0321名無し物書き@推敲中?2014/06/01(日) 17:06:40.48
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0322腹黒人形は踊りが苦手2014/06/30(月) 16:35:03.54
生意気そうな若い顔立ちだ。俺の膝頭に届かない背丈で、小さく痩せた体つき。
素晴らしいシルクの背広を着て、俺の足元で、じっと俺を見上げている。にやにや笑っている。
俺はこの生き物に、ぞっとするものを感じて、不快な気分に苛立ちながら、口をモゴモゴと動かし、乾いた唇をぺろっと舐めた。
そして、俺は、彼に抱く動揺を悟られないようにふいと目を彼から反らし、目の前のステージを指さした。足元の人形と同じくらいの背丈の人形が美しい衣装をみにつけて、ステージの上でくるくると回り、踊っている。
「早く君もあそこに登って踊りなさい。みんなが踊る様に君を踊るんだよ」
 髭の下から強めの口調で、そういうと、その人形は、あいかわらずにやにや下品に笑って、ちっとも動く気配がない。
「逆らうつもりなら、昨日の人形の様にお前も燃やすぞ」
 俺は目をぎらりと見開き、そう脅してやると、人形は激しく笑いながらステージに駆け上がって言った。
 俺は人形の動きを黙って目で追っていた。
 人形はステージの上によじ登ると、すぐにくるくると回り出した。それはいったい踊りと呼べるものだったか。わかりはしない。
その踊りと言ったらめちゃくちゃで、俺は太股の横で握った自分の拳が震えているのを感じ、腹の底からむしむしとする怒りが込み上げてきた。頭に血が上る。見ていられない。馬鹿げている。
俺はキチガイみたいに笑いだした。そして、懐から拳銃を取り出し、ステージの人形を全て撃ち殺した。だけど、奴だけ俺の弾から逃れていたのだ。後で死んだ人形の数を数えていて気がついた事だった。

 次のお題「足の裏の穴」
0323名無し物書き@推敲中?2014/06/30(月) 20:50:55.52
私の足の裏に穴があいていた。
いつからだろう。
違和感がなくて、全然気づかなかった。
お風呂からあがって、足のむくみをとるマッサージをしていて見つけた。
胡座をかくと1円玉ぐらいの真っ黒い穴がこちらを向くのに、足の甲には何もない。

気味が悪くなって、手の親指で揉もうとしたらすっぽりハマった。
足の裏にめり込んでしまった手の親指。
その瞬間、背筋をゾクゾクゾクっと撫でられたような感覚に襲われた。
驚いて抜こうとしたら、また襲ってきた。
走り抜ける得体の知れない感覚。それは、うっとりするような快感だった。

私はゆっくり引き抜き、ゆっくり押し入れる。たまらない。
何度も、何度も、引き抜き、押し入れる。
いつの間にか下着が湿って、絨毯も汚してしまった。
あいつ、喜ぶかなぁ。
私の彼は変態で、私があいつの股間を踏むとすごく喜ぶ。これなら、私も気持ちいいかも。

次は「青色のない信号機」で
0325青色のない信号機2014/07/06(日) 19:45:00.61
とある田舎の村のはずれから高速道路へと向かう山道に、赤信号と黄色信号は点灯するのに、青信号だけが点灯しない信号機があった。
日本の高度経済成長期に、成長戦略の一環として設置はされたものの、赤字を垂れ流し続ける地方鉄道の様に、その信号機もまた
誰にも利用されず、誰に見られる事もないままに放置されていた。
勿論何度か整備を試みられたが、ライトを交換しても不調が収まらなかったし、年に数百回程度しか車両が往復しない辺鄙な場所でもあった訳で、ないのは青色だけなのだから。
そんな形で、信号を調整する人々にも青色のない信号機の噂が伝わっていった。

いつの頃からか、その場所で不可解な出来事が起きたのだった。いや、厳密にいえば単なる事故だった。
しかし分かる者には分かってしまう。
年間数百しか通らないその山道での事故が、その年その県で、堂々の二位を飾ったのだ。
まるで目立つのを拒みつつ、しかし数は稼ぐ、そんな狡猾さが滲んでいた。
青色のない信号機沿いのガードレールで、トラックを大破させたものの、山道に身を投げて一命を取り留めたトラック運転手はこう語った。
「あの時には確かに青信号を確認したはずだった」…………と。
そんな新聞の三面記事に興味を持った僕は、その信号機のある場所を調べて早速向かってみた。

ついてみたら、なんてことない。僕の様な馬鹿な若造の考えを見越していて、ガードレールは既に修復された後があった。
信号機もこうして、ちゃんと青が点灯しているじゃないか、僕は少々の落胆を土産にして、停めていた車にキーをかけて、帰りの支度を始めると、アクセルを踏んでその信号を通りすぎようとした。

「ブレーキを押しているはずなのに……」
アクセルメーターは0kmので動かない。それが確かな証拠だった。
しかし、一度アクセルを踏んで信号機に向かうと、それから車が止まる事はなかった。
いや……。それは違った。しかし、まさか。
僕がようやく気が付いた頃には、もう僕の車はガードレールを透過して、空を舞って飛び立っていた。

次は「夢見る少女と悪夢」で

これ、お題もセンスが問われますね。
0326夢見る少女と悪夢2014/07/07(月) 01:38:54.98
最悪の宵闇が今夜もおとずれる。
人々をまとめて締め上げるような狂気の奈落が口を開け、正気の者すらむしばむ太古の悪夢が、敵意と悪意の澱が溜まる小さな街へにじみ出す。
それはまるで異界の魔物たちが囁くがごとく不吉で、惑わすように逆なでるように、静かにゆき渡っては人々を震えあがらせ、一睡も許すことはない。
かつて、この街にいた夢見がちな少女が、太古の悪魔にその身を捧げ、肉も魂も捕らえられたのだ。
敵意と悪意に満ちた小さな街にあって、唯一穢れのない心を持っていた少女は、異質な存在として忌み嫌われ、それがもとで迫害を受けた。
蔑まれ嘲られ、石を投げられ、蹴り倒され、それでも少女は自分と街の者たちが救われると信じ、毎夜毎夜、神に祈り続け、聖なる人がいつか舞い降りることを願い続けた。
しかし街の者たちの醜悪な害意も、底なしの深淵のごとく深く暗く激しく燃えさかり、嘲るかわりにかどわかし、石を投げるかわりに花で誘い、蹴り倒すかわりに己の欲望を少女の体内へねじ込んだ。
囃し立てる声は高く低く、野卑で下劣で、男どころか女も、子供や老人までも、少女を取り囲み黄ばんだ唾と罵声を浴びせ、中には絞り出した膿を少女の体に塗りつけ、投げつけられる糞尿にまみれ、街の男のほぼ全てはその欲望を少女の体に刻んだ。
邪悪な宵闇は、その夜から街を多い尽くし、人々を苛むのだ。
少女は立つこともできず、うめいては咽び泣き、折られた手足のまま地を這い、苦痛の叫びと呪いの言葉を吐き続けながら、手と足と腹と胸の皮膚が破れきっても、太古に閉ざされた深い深い炭鉱に降り、そして帰ってこなかった。
邪悪で醜怪な人々は、今も狂気を孕む夜気の中でうずくまる。
明かりを灯すための蝋燭や油などとうの昔に底をつき、ただ闇夜が過ぎ去るのをじっと耐え続け、睡魔に撫でられては絶叫し、あちこちの家々から響く呪われた叫び声に震え上がりながら一夜を過ごす。
それでも街の者たちは誰も少女を思い出さない、思い出せない、気づく者もいなければ、懺悔など存在すらも知らず、ただただ絶叫と呪いがこだまする街の中に身を沈めてゆく。

次は「踊り狂う歯ブラシ」で
0327踊り狂う歯ブラシ2014/07/12(土) 17:45:53.06
「電動歯ブラシには幾つかのジレンマがある」
 博士は助手である僕に向かって蘊蓄を垂れている。いつものことだし、ある意味そのために
しか僕は存在しないので、相づちを打つだけだ。
「はあ」
「つまりな、コードレスが当然だ。だと電池がいるな。他方で、動きの複雑さはあった方がいい。
それにはモータ以外の要素を介入させるべきだ。ここに対立が生じる訳だ」
「はあ」
「そこで、これが解決策だ」
 要するに、電池を無くしたのだそうだ。電力は電磁誘導で無線送信できる。だから
そのスペースにモーター複数を組み込み、極めて複雑な運動を可能にしたのだそうだ。
「速度、振り幅の調節はもちろん、プログラムすれば連続的に様々な運動が可能にな
るんだ。これは凄いぞ!」
「はあ」
 この辺りで、僕は不安を抱え始める。だが、博士は自信満々だ。
「でだ、これから最大限複雑な動きをするようにして、実働実験をするんだ」
「博士、最初はごく簡単な動きだけにした方が……」
「何を言う! それでは実験にならんだろう。行くぞ」
 そして博士は気絶した。電動歯ブラシは博士の手の中で跳ねると、まず彼の顎に命中
したからだ。僕は慌てて博士を引きずって部屋から逃げ出した。ドアを閉めると、ぱちん
ぱちんと音がする。
 窓から覗くと、歯ブラシは一人勝手に床の上をはね回り、時には天井に当たり、あるい
は壁に反射し、勝手に踊り狂っていた。
「あーあ。この部屋も『開かずの間』だな」
 この研究所には、こんな部屋が既に五つもあるのだ。次の成功まで、あと幾つこんな
部屋が出来ることか。

次、『世界で初めての失敗』
0328名無し物書き@推敲中?2014/07/31(木) 05:31:39.41
タンニは固まっていた。額から汗がしたたり落ちそうになって、素早くのけ反った。タンニは恐る恐る紙に視線をやった。そして叫んだ。
「やってしまったー!」
そしてそのまま気を失って床に倒れこんだ。

「どうするのかね、メラン君」
場はみな厳粛を極めた顔をしている。その中でも立派な髭を蓄えた老人が鋭い視線を一人の男に投げかけた。
メランは答えた。
「この度は私の息子がとんだ粗相をいたしました。崇高なる創造を紙とインクなどという不完全なものでやろうとした。到底許される行為ではございません、タンニを抹消しましょう」
老人はしばし目を閉じていたが、地面に杖を打ち付け、思い切ったように高々と声を発した。
「抹消、そうするしかなかろう」
この世界で抹消とは死を意味する。しかし血も流れなければ亡骸も残らない。抹消は抹消であり、きれいさっぱり跡形もなく消えるのだ。
査問委員会はもう2000年も開かれていなかった。
それが、タンニが父親にそのことを報告して、たった20分の間にすべての神々が集められたのだからよほどの事件だったと言える。

タンニは立ち上がって言った。
「お、お待ちください」
私の犯した過ちは取り返しのつくものではございません。しかしこちらをご覧ください。そういってタンニは壁に一つの映像を映し出した。
「チャームポイントはホクロです」
女性は笑いながら、頬にあるその黒い点を指さした。


今日ではホクロなど珍しいものではない。だが本来は誰の顔にもホクロなどなかった。人間はみな完璧であった。こ
0329続き2014/07/31(木) 05:34:01.64
のタンニの失敗以来急きょホクロが書き足された。その時に紙とインクが見直され、神々の創造に愛用されるようになった。当然ミスが増え、不完全な人間が量産された。

次「教頭先生は辞める日に笑ったよ」です。
0330名無し物書き@推敲中?2014/11/17(月) 00:17:59.68
教頭先生が辞める日、6年生のみんなで花束を渡したよ。
「先生、ながいあいだありがとうございました。ぼくらはみんな、先生によくしていただきました」
そしたら先生、すこし涙ぐみながらちょっとお話をしてくれたんだ。
「Aくん、君は1年生のとき、6組だったね。でもクラスメイトの中で、ちょっと輝いていたよ。
あの時私は、よし、この子が6年生になるまでずっと気にかけていよう、そう思ったんだ」
「ありがとうございます、教頭先生」
「さいきんの子供は、態度がわるい。君みたいな子ばかりだったらどんなにいいか」
「ありがとうございます、教頭先生」
「でも君は2年生のとき5組だったね。正直、あぶなかったよ」
「申し訳ありませんでした、教頭先生」
「3年のとき4組、4年のとき3組、5年のとき2組だった」
「ご迷惑をおかけしました、教頭先生」
「いいんだ、ここまで来てくれたからにはみんなと一緒だ。まったく、最近の子供は、
いって聞かせても道理のわからない子ばかりだからね。そういう子は必要ないね」
「はい、ぼくたちもそう思います」
「そうだろうとも。君たち6年1組はいい子ばかりだね」
教頭先生がにっこり笑うと、波止場からおまわりさんが来て、教頭先生をつれて行ったんだ。
そのあと島にはテレビの人とかが来て、しばらくたいへんなことになったよ。

次「100日あくとモノを忘れる」で。
0331名無し物書き@推敲中?2015/06/01(月) 13:46:25.39
モノヒデオ
0332モノヒデオ2015/06/10(水) 22:11:24.74
「ピッチャー 江草に代わりまして モノ」
投手交代を告げるアナウンスに球場はざわついた。
「モノだって そんな投手いたか?」「シラネ」
はたしてモノ投手が登場してマウンドに立った。
しかしモノ投手は動かない。
動くはずがないのだ。だって彼はモノ。物体。
オブジェクトなのだから。
モノ投手は動かない。

そして永遠ともいえる時間が流れた。
モノ投手は動かない。
打者も 走者も 審判も動かない。
お客さんも動くのをやめたまま。
そうしてそれがきっかけになって
世界全体すら止まってしまうのですが
かれらは止まっているので
とまっていることを自覚することは
永遠にないのでした……

「わかったわかった
俺がいつまでたっても動かないからって
そんなイヤミな話を聞かせることないだろ。
わかったよ やるよ
今からやろうと思ってたのに ぶつぶつ」

END
0333名無し物書き@推敲中?2015/06/10(水) 22:13:05.64
失礼しました

次のお題は「人違い」で
0334人違い2015/11/01(日) 19:40:29.08
『電磁コンシールメント破損。パーティカル型光学迷彩濃度ダウン。
遠隔視点誘導デバイス全滅。インプリクションバースト残量ゼロ』
骨伝導で戦術統合AIの忌々しい状況確認を聞きながら、俺はクソッタレな戦場をひた走っていた。
戦場と言っても、俺が持ち込んだ武器らしい武器は、工具を兼ねたちっぽけなレーザーカッターだけ。
完全隠密型の潜入工作だったために、装備は全て「隠れる」事に特化した物になっていた。
それが仇になった。
内通者の手引きで職員に変装し、悠々とターゲットのコアシステムに
遅効性のエゲツない電脳ウイルスを注入し、後は誰に咎められる事もなく帰還。
などというスマートで理想的なプランは、内通者が敵の手に落ちていた事で何もかもおじゃん。
何とか敵の初撃を察知し、トップエージェントとしての意地を見せるべく
敵から奪った銃火器で混戦を潜り抜けたはいいものの、その代償として
最先端工学の産物である隠密型装備はどれも使い物にならなくなっていた。
「クソッ、何とかサイバー系の検問ラインは越えたが、
どうやったって一つは警備員のいる詰所を通るしかねぇ。
この装備じゃ、殺されに行くようなもんだぞ」
だが、他にルートは無かった。
装備には頼れない、救援を待っている余裕も無い。
……やるしかないか。
俺は、腹の中で覚悟を決めた。

「あ、検問でーす。IDカードと所属部署の提示をお願いしまーす」
「…………これで」
「ありやーす。……あれ?なんか顔写真とちょっと違くありません?
 ていうかあなた、どっかで見たような」
「人違いです」
「あれ、多分緊急警報連絡とかそんな感じのアレで」
「人違いです」
「……あー、人違いっすね。失礼しました」

何事も無かったかのように組織が手配していた車に乗り込み、
俺は寿命五年分ほどの溜め息を吐き出した。
やはりどんな時代になっても、隠密工作からこの最終奥義が消える事はなさそうだった。
0336名無し物書き@推敲中?2015/11/01(日) 19:41:50.22
一応age
0337都会の夜2015/11/02(月) 23:46:14.25
「ナイトフィーバーだか?」
「んだ、ナイトフィーバーだ」
こんなやりとりが一週間前にあった。
彼はポーカーフェースを気取っていたが、内心ではかなり興奮していた。
地元のファンシーショップ谷本で買ったスパッツが破けるくらいに勃起していたがなんとかバレずにすんだ。
そして今、いたたまれなくなった彼は、一人で都会の夜に足を踏み入れた。
地図であらかじめ歓楽街を調べていたので、比較的スムーズに都会の心臓、歌舞伎町へとたどり着いた。
「こ、これが都会というものだか、もう23時だで、なしてこげに明るい、なしてこげに人が歩いとるんじゃ」
彼は社会人になったばかりで遠出をするのはこれが初めてだった。初任給の全てを財布に詰めてバスを乗り継ぎ、野宿も交え、2日がかりでここまできた。
彼は街ゆく人の洗練されたファッションを見て、自分が浮いているのを感じた。
中綿が完全にくたびれ、ぺたんこになった灰色のダウンと地元ファンシーショップ谷本のスパッツという姿が裸を晒しているように恥ずかしく感じた。
しかしそんな考えも目の前にあったピンク色の看板を見たとたんに吹き飛んだ。
「専属ナース…」
そこに書かれた文字を口内に読み上げた瞬間、彼のモノは勃起した。地元のファンシーショップ谷本のスパッツが激しく盛り上がり、その薄い
生地から中のブリーフが透けていた。
「お兄さんこっちよ」
「いい子がいますよー」
彼には店を選ぶ余裕などなかった。男の誘うママに路地から続く地下の店内へと入っていった。
「専属ナース…」
期待にスパッツをふくらましながら店内に入ると、とたん野太い男の声が響いた。
「そこまで!全員動くな!逮捕状が出ている!」
彼は逮捕された。どうやらその店では、プレイ後にナースが違法なお薬を出していたらしい。
もちろん彼は薬物などしてなかったが、ジャケットにスパッツという姿でラリっていると判断され検査もそこそこ、うやむやのうちに刑務所に収容された。

次「少林寺のボンボン」
0339少林寺のボンボン2016/07/13(水) 23:26:20.99
「ご主人様、お紅茶などいかがですか」
「いいわね。シーラ、ではあれも一緒に」
「はい」
シーラと呼ばれたアラサーのメイド長は、屋敷で唯一自分から女主人に話しかけることを許された
ベテランだ。なんでも、女主人が上海にいた大昔からのご奉仕らしい。
「メイド長、お茶菓子は新しいビスケットの封を切りましょうか」
台所で部下の小娘が手にしたアメリカ製の缶を一瞥すると、シーラはにこりとして首を振った。
「今日は、懐かしい飴をお出しするわ。……東洋で手に入れた、すごく元気の出るものなの」
シーラはそういうと、抽斗の奥から古いガラス瓶を取り出した。中は透明な液体で満たされている。
「アチョーッ!」
シーラは突然叫ぶと、瓶の蓋を一瞬で回転させた。
「アチョチョーッ!」
気合を入れながらスプーンで中身をかき混ぜる。液体は粘度の高い水飴で、しかし古いものとは
思えないほどの滑らかさをもっている。
「ハーッ!」
メイド長がスプーンを回転させると、気合の塊が水飴にくるみこまれて、あっという間に球系の飴玉になった。
「これはね、フランスの技術と中国の武術をかけあわせた、魔法のお菓子なのよ」
シーラはそういうと、入れたばかりの紅茶とボンボン・ア・ラ・少林寺をトレイに乗せて、女主人にサーブした。
一時間後、小娘メイドは女主人とメイド長の死体を発見した。二人とも紅茶のカップを頭に乗せ、
鶴の構えで直立したままこと切れていた。そして、ボンボンはなくなっていた。
「くっ、なんてことだ!」
若いジャッキーはメイド服を脱ぎ捨てると、巨悪と戦うために山へと消えていったのだった。−劇終−

次「無自覚な太陽」
0340名無し物書き@推敲中?2016/08/19(金) 23:25:50.54
身体中の水分を引きずりながら走り回って、ようやく倒れたら、魔法のヤカンで目を覚ます。
夏のラグビー部にとって日曜日の練習試合は、飯塚コーチの指導に一層の熱を込めるに仕方のないものだった。


無自覚な太陽は燦々と光って山内を殺した

次「椅子にかかったタオル」
0341名無し物書き@推敲中?2016/08/19(金) 23:57:21.21
椅子にかかったタオル。
全裸のアケミがキッチンをウロウロしているのが目に入る。
俺がテレビを見ているというのに気が散ってしょうがない。
アケミは意外と毛深くて、目のやり場に困るというものだ。
まあ、家には俺だけだからいいようなものの、
一言いってやりたい衝動に駆られるが、相手が相手だけに言っても無駄か、とあきらめる。
しばらくして全裸のアケミが俺のところまでやってきた。
風呂上がりのまんまの姿でアケミはこう言って俺の前に皿を出した。
「はい、晩ご飯よ、タマ」

次「その紙じゃない」
0342名無し物書き@推敲中?2016/08/20(土) 21:37:54.13
日曜日の昼下がり、僕は昨日駅で買った短編集を読んでいる。
自分のペースで読めるこの長さが、僕は一番好きだ
この話は主人公は視点が猫だったのか、なるほどなるほど。
でも、猫に裸の概念があるのかな。恥ずかしいからすばしっこいのかな。
本を置いて、そんなことを考えていたら、彼女の朱美がうちにくる音がした
そういえば今日は何枚か書類に判子を押さなきゃいけないんだっけ
「早速やっちゃいましょ」
「まずはこれね」
僕は経理、経営の事はよくわからないので、ぼんやりと判子を押す
「これも、これもお願い」
押す…押す…押す……
「はいこれでおしまい」
「結構あったね。少し腕が疲れちゃったよ」
「じゃあ、ありがとね」
「うん。こちらこそ」
僕たちの関係が仕事だけになって2ヶ月
ようやくスムーズにやり取りできるようになった
あの浮気はもう許してくれたみたいだ

ーーーーーーーーーー

僕は押しちゃいけない紙にも判子押してたみたい
僕のぜーーんぶがなくなっちゃった
朱美。朱美。


次「まさか、ジャックが私を…」
0343名無し物書き@推敲中?2016/08/24(水) 21:45:30.53
怠け者のジャックがまさかりをタワシで磨いている。
ジャックの父は訊いた。その斧を何かに使うのかい?
ジャックは答えた。ああ、近いうちにね。

次の日、タワシでジャックがまさかりを磨いていた。
父は不安げに訊いた。近いうちに何が起こるんだい?
ジャックは答えた。金と自由が手に入るのさ、と。

次の日、まさかりをジャックがタワシで磨いていた。
父はいよいよ何かが起こりつつあるのを感じた。
ジャックはひとりごちていた。あいつの小言ももう終わりだ、と。

父は消え入るような声で呟いた。
「・・・、・・・が・・・を・・・?」
何と言ったかは定かでない。

次「ホームランは橋の向こう」
0344名無し物書き@推敲中?2016/09/15(木) 16:20:36.62
あの日、ホームランボールは橋の向こうへと消えていった。
野球を誰と、何人でやっていたのかも忘れてしまったけれど、
夕焼けの空へ消えていくボールの残像だけは、十年経っても鮮明なままだ。

マウンドに立つ、息を吐く。
相方のキャッチャーメットに目配せをして、小さく頷く。

球場を埋める大観衆は、もう誰一人として彼の敗北を疑っていないだろう。
扱いは既に敗軍の将だ。敵陣のファンは決まりきった栄光に舌なめずりをし、こちらのファンは項垂れている。
通路ではマスコミがあちらの監督とMVPに貰うコメントを書き出している。

それでいい、上等だ。
希望が無く、敗色で世界が色褪せるほど、あの日の残像が輝いていく。
消えていったボールは、今も見つからないままだ。
誰にも掴まれないホームランの感触を、僕はまだ覚えている。

グリップを強く握る。バットを立てる。
対岸に立つ投手の瞳をただ見据える。

大きく振りかぶって、ボールが……。


大歓声が、響いた。

次「地獄の釜の湯加減はいかが?」
0345名無し物書き@推敲中?2016/09/22(木) 14:39:10.08
「ただいま」
僕はスーツを脱ぐと妻に預けた。
まずは風呂に入りたい。当然、妻はわかっているから、既にお湯は張られていた。
もうすぐ十年にもなるルーチンワークだ。
吹き出した空気が泡となる。ぶくぶくという音は下品だと分かっていても、癖は抜けない。
肩よりさらに深く、顔の下半分を埋めないことには、どうしても風呂に入った気分にならないのだ。
ただ、今日は少しばかり湯が熱い。全自動だから、温度が変わることなどないはずなんだが……。
不意に、数ヵ月前の「過ち」が、僕のなかで思い起こされた。
あれは、飲み会の帰りだった。部下の女子と……。
ぶくぶく、とまた音が鳴る。一度きりだ。もう忘れなければ。あの子だってもう、忘れてる。
「今日はちょっと湯が熱かったね」
キッチンに立つ彼女に声をかけた。やかんを電子コンロにかけてこちらに背を向けている。
しばらく間が空いて、おや、聞こえなかったかなと僕が思い始めたとき
「……そう? 設定間違えて触っちゃったかな」
と、徐に言った。
不思議なことは続くものだ。夕食はカップラーメンだった。
料理好きな彼女に限ってこんなこと。あまりの珍しさに聞くことすら忘れ、
「……いただきます」
と、手を合わせてしまった。
「ごめんね、買い物忘れちゃって」
嘘だ。普段こんなものを買いためておく性格ではない。なかった。なかったはずだ。
「普段作りなれないと、カップラーメンでも難しいのね。湯加減とか」
汗が出てくる。
「そういえば、お風呂の湯加減どうだった?」
さっき、言ったはずだろ。どうして聞くんだ、君は。
「……熱かったよ。いつもより」
「そう。よかった」
その夜は地獄だった。

次のお題「窓のある夜」
0347名無し物書き@推敲中?2017/05/15(月) 03:51:30.98
生存確認age
0348名無し物書き@推敲中?2017/09/01(金) 23:27:08.42
ピリリ、ピリリリ。ポーン。
安っぽい電子音が暗闇のどこかで鳴り響いた。半日のあいだ何の擾乱もうけずに冷えきった空気が、
そのわずかな振動にわずかな熱を受けたように動揺した。
「20時ニナリマシタ。オハヨウゴザイマス、ミナサン」
がらがらした合成音声が響き、闇の中に2つの黄色い明かりがともった。濁ったガラス越しに希ガスによる
不安定な光源がはなつ、前々々々々々々……時代の頼りなげな光だ。
光は空間を薙いであたりの様子を確認した。コンクリートの壁がある。金属シャッターの天井がある。
そして広く反対側まで光の届かない空間の中には、壁際のわずかなスペースを除いて、
色の薄い何かの植物が無数に植わさっていた。
ウィーン。ジジジ。
どこか調子の悪そうなモーター音が響き、光の主は、壁のある一点に向かって移動した。
光束の中に、機械的なスイッチが浮かび上がる。おもむろに、蛇腹の先に金属球をつけたような手が、
そのスイッチを押した。
ゴゴゴ……。
巨大な機械音とともにゆっくりと天井が割れて、部屋の中に黄白色の光が降り注いだ。
部屋の植物はヒマワリだった。注ぐ光の日食時のような薄さにふさわしく、色に乏しい、どれも華奢な株だ。
それが巨大な部屋のほとんどを占めて、すべて天を向いている。
青い空を背景に浮かぶ、バターのような濃い黄色をした、月を向いているのだった。
「ヨルデス……。ミナサン、ヒカリヲ、タクサンアビマショウ……」
ロボットは天を見上げて腕を広げた。八百年もの間、続けてきた日課だ。地球が太陽に向かって落下し、
気温が上がりはじめると、人類は遠くの宇宙へと旅立った。いまでは昼の光はあらゆる生命にとって強すぎた。
かわりに、月の反射があたかも昼のように地上を照らすのだ。月齢により、月光は時に過去の太陽よりも強く、
あるいはかつての月のように弱く、この従順な子供らを恵んだ。
天井に空いた夜の窓は、これからも毎晩開くことだろう。ロボットが壊れるか、シャッターが動かなくなるか
あるいは夜の光がさらに強くなって、ヒマワリを容赦なく燃やしてしまうまで。
それまで毎晩、みんなは、光に、破滅に向かって、顔を上げ続けるのだ。
アゲ、ツヅケルノデショウ、ネ。

次「長雨の後で一献」
0349名無し物書き@推敲中?2017/09/23(土) 09:33:03.49
 盆を過ぎた頃というものは、おおよそ雨が降るものだ。毎年のこととはいえ秋雨は長い。今年も行脚しようにもなかなか外に出れない日が続いていた。

 ーーそして、今日になってようやく太陽が顔を出してくれた。天岩戸が開く、というほどのものではないが、ようやく下界を照らす日影はなるほど人が拝みたくなるのもよくわかる美しい輝きであった。
 彼女が照らす街の姿は照り映え、意気揚々と遊びに行く子供たちがまるで妖精たちのようにすら見え、この辺境の街がひとつの舞台のようにすら感じさせた。

「今日はお休みだ。昼から飲んでしまおうか」

 せっかくの休日で、やけにキレイに見える街がすぐそこから見渡させるのだ。飲まずにはいられない。私は起き抜けに一杯やろうと、冷蔵庫の中を漁る。塩ゆでの豆、酒盗……今回は塩辛いモノでいくとしよう。
 テーブルの上に広げたオツマミを見ながら、私は微笑んで窓の外を見た。眼下に広がる森は、きっと涙を流しているようにしっとりとした艶姿を見せているのだろう。安っぽいアパートの窓からでもそれが伺えた。
 行きつけの酒蔵から買ってきた日本酒に、キレイな風景。そして塩ゆでの豆とくれば酒の肴には困らない。さあ、一献やろうか。

「うめえ……なんで塩振って茹でただけなのにこんなウマいのかね?」

 たしかにしょっぱいのだが、しょっぱ過ぎるということはなくいくらでも食べられる。手軽につまみ、それを酒でグッとやる。なんと甘美なひとときか。
 次は酒盗をひとすくい。イカの内臓を使っているのでその臭みを消すためか、非常に塩辛い。ご飯にかけたらこれだけでいっぱいいけそうだ。されど、やはり酒。とにかく酒。美味い。
 しっとりとした町並みを見下ろしながら、一人きりの酒宴はまだまだ続く。趣味の少ない独り身としてはこういう日に昼酒やるのはやめられないお楽しみだ。

「ごちそうさまでした。」

 私はそう呟くと、ささやかな酒宴の幕を閉じる。しばらくしたら街を出歩いてみよう……そう、思いながらごろりと寝そべって微睡みに身を任せるのであった。

次『戦闘部族の日常風景』
0350名無し物書き@推敲中?2018/02/08(木) 15:59:21.80
僕の知り合いの知り合いができたネットで稼げる情報とか
念のためにのせておきます
グーグル検索⇒『金持ちになりたい 鎌野介メソッド』

9TZEW
0351戦闘部族の日常風景2018/05/31(木) 17:44:09.93
我々にとって「生きる」とは「殺す」と同義だった。

次「謎の哲学者集団ブレインドッヂボール」
0352名無し物書き@推敲中?2018/10/17(水) 11:14:15.26
誰でもできる嘘みたいに金の生る木を作れる方法
念のためにのせておきます
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

IXL
0353謎の哲学者集団ブレインドッヂボール2019/02/06(水) 22:43:10.25
ここは市内の大型体育館のサブアリーナ、一般向けに開放されているスペースだ。僕はその部屋の前にある予約名簿にしばらく釘付けになっていた。
〈ブレインドッヂボールクラブ〉
聞いたことのないスポーツだ。この木製の引き戸の向こうにその謎のクラブが今まさに活動している。
ブレインドッヂボール……もちろん脳みそをボール変わりに投げ合うわけはないと思うが……脳の形のボールを使ったドッヂボール……わざわざ脳みそ型にする理由が分からない。何かの皮肉か……無いこともないがどうもしっくりこない。
チェスボクシングみたいなものか……頭脳と体力を使いながら戦う、みたいな。
長いこと妄想していたがいよいよ我慢出来なくなった僕は引き戸をちょっとだけ開き隙間から中を覗いた。そこには脳型のボールも通常のドッヂボールも無かった。5対5の人たちが互いに横一列になって向かい合い、何か大声で言葉を交わしている。
「中村さんは足がクサイ」
「斎藤さんは空気が読めない」
よく聞いてみると交互に文句を言い合っている。なんだこれは。
「驚いたかい」
ひゃっと声を上げてしまった僕を無視して背後から声をを掛けてきたその男性は饒舌に語り出した。
「あれはブレインドッヂボールといって、僕たちの思想を具現化したものの一つさ。
心のこもった言葉をボールに見立てて相手に思い切りぶつける。避けてもいいがそればかりでは駄目だ。本気の想いを真正面から受け止めて、受け入れてそして相手にもぶつける。それを続けることによって強い人間関係が築かれていくんだ」
何を言っているんだ、明らかに怪しい、普通はそう思うかもしれない。だが意外にも僕はこのクラブに惹かれていた。
メインアリーナで行われている球技大会。同級生達の対して仲も良くないのに上辺だけは楽しそうに振舞っている彼らに嫌気がさして抜け出してきた僕にはうってつけに思えたのだ。
「僕をこのクラブに入らせて下さい」
「君は見た目がキモいから駄目だ」
すでに試合は始まっているようだ。僕はその後本当に嫌そうな顔をする彼と入れろ入れないの押し問答、もといブレインドッヂボールを延々と繰り返したのだった。

次題 「像箱」
0354名無し物書き@推敲中?2019/02/07(木) 20:16:02.68
目の前の男は言った
「像箱の前にあるボタン以外のボタンを押すと君は死ぬことになる。君はどうするかね」
目の前のテーブルの上には2つの物体。
1つ目は木製の人型。2つ目はやはり木製の立方体。そして俺は椅子に拘束され、身動きすらかなわない。
俺は考える。1つ目か、2つ目か。像箱の像を主体に考えると1だ。箱が主体だと2。外れれば死。俺は選ぶ事ができなかった。
「あと10秒だ」
男は苛ついた声で俺を急かす。
「選べない」
俺は力なく答える。
「正解だ。像箱はここにある」
男は飾りのついた箱を両手で俺に差し出す。
「お前にやろう」
そして男は俺から枷を外す。
男に促されて俺は廃墟を後にする。
暫く歩いた所で俺は持っていた箱を見つめる。何が入っているのだろう? くだらない物なら持って歩くのは意味がない。
俺は箱の結び紐を解くと、ゆっくりと箱を開ける。
そして、そのまま固まってしまう。
「やっぱり開けたな」
男は笑いながら身動きの出来ない俺を見下ろす。
「像箱というのは開けた者が像になってしまう箱なのだ。古道具屋から買ってはみたものの自分で試す気にはならなくてな」
男は箱を拾うと何かを俺に言った。
けれども、既に像になった俺にはその言葉を聞くことが出来なかった。

次のお題は、「寒空の下、ビッチがくれた大切なもの」
0356名無し物書き@推敲中?2019/11/02(土) 13:11:40.06
 東欧に位置するその小国には、三つの暖房があるというジョークがある。
 金持ちは最新式のガスストーブを。中流階級は備え付けの古い暖炉を。そして貧者は――。

「貧者は娼婦で身を焦がす、ね」

 レイラは裸身の背を向けたまま、何でもないことのようにそう口にした。
 事を終えた後の気怠い倦怠感と、安宿のシーツが肌に擦れる感触。吐き出した粘液を拭い去る事務的な作業に訪れる沈黙を埋めるように、彼女が持ち出したのは使い古されたジョークだ。
 ふん、と私は鼻を鳴らす。まったくその通り。彼女は娼婦で、私は貧者だ。何の暗喩にもなってはいない。自虐的な言葉は、私に対しても錆びた針のように鈍く刺さる。

「それは、貧乏人は後先を考えずに娼婦に溺れ、暖房を買う金もなくいつか凍え死ぬという意味を含んだ侮蔑だろう」
「あら、間違ってた?」
「いいや。合っているから腹が立つのさ」

 くすくすと笑みを漏らすレイラは、そんな喩えに持ち出されるようなはした金で買われる程度の容姿ではない。髪はほつれ、化粧も安いが、それでも磨けば光ると誰もが直観する美貌の持ち主だ。
 もちろんそれは彼女の左目が痛々しく潰れていることを除けばで、いくら美人であろうと傷物の女を高く評価する娼館はこの国にはない。
物好きも多いのだろう、どこぞの大国へ行けば違うのかもしれないが、少なくともこの小さな北国に、そんな奇特な連中が育つほどの余裕はなかった。
 だから私は、この国を出ようと決めたのだ。だが、路銀などいくらあっても足りない片道の旅の前に、馴染みの娼婦に金を落としてしまうような愚かな貧者のやることだ。どうせ、路頭で朽ちるに決まっているが。

「でも、ねぇ、ロレンス。それはそんなに間違いかしら。人が人と触れ合うことが、味気ない炎の熱じゃなく、女の生きた温もりを求めることが。そんなにおかしいことかしら?」
「……さぁね。あんたの温もりとやらは、今やさっさと冷えちまった。だからわからないよ」
「あら、そう。だったら、今度は覚えておいて」
0357名無し物書き@推敲中?2019/11/02(土) 13:12:29.44
 そう言ってレイラはそっと、私の身体を抱き締めた。覆う布のない肌が触れる。肩口までの髪が私の頬に触れ、じんわりとした熱が心臓に届く。生きている、ということを、温度で感じる。

「貧者に生まれたことは、暖かさを求めてはならない理由にはならないわ。あなたはきっと、温もりを手に入れることができる。だから覚えていて。この温度が、きっと間違いなんかじゃないってことを」

 レイラは富裕層に生まれ、けれど父が失脚し、酒に狂って目を焼かれ、今は老いた母をレイラ一人で養っていると聞いた。そんな人生であってさえ、今は貧しい娼婦の身に堕ちてさえ、彼女は確かに気高く、美しく。
 そして、温かかった。


 二日後、寒空の下で、私は列車の汽笛を聞いていた。
 振り返る街のどこかに、彼女の温もりがある。無機質な大国へ辿り着いた後にも、その温度を忘れないように。
 私はそっと、コートの裾を引き寄せていた。


次のお題は『夜よりも遠い朝の色』
0359名無し物書き@推敲中?2022/03/12(土) 20:07:13.62
此のところ悪夢に魘されて目が醒める。寝汗も酷い
呼吸が乱れているのは無呼吸症候群のせいなのか
ムクリと起き出して、洗面所に行きコップ1杯の水を飲むと
上手く口を開けられないのか閉じられないのかは
わからないが唇の端から喉を蛇行し胸まで届き服を濡らした
ふと鏡を覗くと窪んだ目の下のクマのせいなのだろうか
酷く歳を取ってしまった様に見えた
まだ俺は30歳になったばかりだというのに
鏡の中のそいつはまるで老人だ
いっそのことこのまま老衰で死んでしまえれば
幸せなのではないだろうかとそんな事をふと思う
でも命に関わる様な病気どころかここ数年風邪すらひいていない
もう3年も外出どころか家の外に出た事がないので
猛威を奮っているコロナにすら罹患する心配すらない
そして誰も殺してはくれない。殺す価値すらないのだ
いや違う、ネットの向こう側には殺意や罵詈雑言を投げかけて来る奴はいる
しかしそれは安全を約束された悪意であり殺意だ
現実的に殺してくれる人もいないのだ。
窓の外には夜明け前の陰鬱とした雲が立ち込めて
更に心を憂鬱にさせる
もうすぐ夜明けなのだろう東の辺りが紺色のグラデーションを彩る
しかしそれはこれからもう1度寝るまでのほんのひとときの夜明けだ。
そして2度と目覚める事が無いように祈りながら自室のベッドに入る。
目が覚めて夜が来ない様に


『夜よりも遠い朝の色』
0361名無し物書き@推敲中?2022/03/27(日) 16:08:27.67
>>1
10年経ったね。日本がより一層劣化したよ。
震災から11年原発再稼働も再エネも進まず劣化して停電祭りさ。今でもな。
衰退国日本!
0363ぴなっくを探せ2022/05/26(木) 02:21:09.18
「えっほい、えっほい、えっほい、え、あそーれ!」鼓手が歌うのにあわせて、男たちが力いっぱいオールを漕いだ。いや女もいた。性転換中のやつもいた。顔を真っ赤にして荒々しく息を吐く漕ぎ手たちは、イズーから来たキンメダイ星人たちだ。
俺たちは宇宙海賊。そして俺は船長。金がなくて宇宙帆船を買うことができず、やむなく宇宙櫂船をあつらえたが、これで他の宇宙船に追いつくことは不可能だった。んもう、俺のバカん!
しかし、俺たちは情報を持っていた。トウテーレ星のアステロイド帯に、宇宙商船ぴなっく号の残骸があることを。アステロイド帯は危険で、小回りの利く手漕ぎ船でしか近づくことができない。
「あったぞー!難破船だ!」
しかし誰も何も言わなかった。シラース星人の鼓手は相変わらず歌うようにリズムを取り、漕ぎ手は無心にオールを漕ぐ。と、鼓手の体に力が入っていないことに気がついた。
「どうした!」駆け寄って体をつかむと、鼓手の体が崩れ落ちる。尻から血が流れていた。しかし、鼓手はまだ歌っている。
「おい…」俺は恐怖にあたりを見回した。漕ぎ手たちのベンチからも血が流れている。尻子玉だ、尻子玉を抜かれたんだ…。
「ふふふ、これで尻子玉エンジンを動かせる。まんまと罠にかかったわね」
女の声がして俺は振り向いた。そこには読者好みの若い娘が立っていた。
「私はぴなっく。偽装商船長よ。大人しく荷を渡せはあなたは殺さないわ。さあよこしなさい」
俺は乗組員をバラして娘に渡した。これが東テレの昼めし旅にしらすとキンメダイばっかり出てくる理由である。

次「私の第8関節は素晴らしい」
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