「私・・・あの人、気味が悪いわ。どうしてもお付き合いしなきゃならないの?」
「彼は私の友人なんだ、フローラ」
強い口調で妻を咎めると、妻はため息をついて口をつぐんだ。
これもいつものやりとりだ。妻は、彼を嫌っていた。
「記憶障害だなんて、気味が悪い」というのがその理由だ。

あの事件の数日後、彼はガケから落ちてひどく頭を打ち、生死の境をさまよった。
私がその知らせを聞いたのは、失ったクジャクヤママユのことを思い出して
「あんなやつは死ねばいい」と強く願っていた、まさにその時だった。
私の願いを聞き届けたのは、神か悪魔か。多分悪魔だろう。
神は「許しなさい」と人間に命じているのだから。謝りに来た友人を許さず、
「死ね」と願うのは、どれくらいの罪なのだろう?しかも、その相手が本当に
死んでしまったとしたら。
少なくとも、クジャクヤママユを壊すよりは、遥かに大きな罪だろう。

彼が意識を取り戻した時、私は心底ホッとしたものだ。友情ではなく、保身のために。
しかし、目覚めた彼は、外傷性記憶障害になっており、多くのことを忘れてしまっていた。