「ゆくとしくるとし」で坊ちゃん文学賞大賞受賞の大沼紀子がシリーズ化したポプラ文庫「まよぱん」シリーズの冒頭を載せておく。

街の灯りが濃くなったのは、空気が澄んできたからだ。
夜は日ごとに、早くやってくるようになっていた。街路樹の花水木はすっかり葉を落とし、枝ばかりが頼りない子供の手のように暗い夜空へと向かい伸びている。

これが冒頭。なかなか上手いね。雰囲気が伝わってくる。「枝ばかり頼りない子供の手のように〜」は純文学的な擬人化の手法。

続き

冬毛を蓄えた野良猫たちは、しかし更なる温もりを求め、重なり合うようにボンネットの上で丸くなる。地下鉄の階段を上がってくる人々も、心なしか少し猫背気味になっている。

この部分はリアリズムとしてはナンセンスだけど、かわいい描写ではあるね。シリーズを通しての雰囲気にとてもマッチしている。


続き
日中はまだしも、日が落ちればもうだいぶ冷えるのだ。首都高の向こうに見えるビルの灯りが、穏やかに輝いて見える。冬はもう、そこまできているのだ。