彼のもとに、ついに入選連絡が来た。
11月も過ぎ、表彰式もとっくに終わったころのことだった。
翌朝姿を消した彼は、数日して泥と埃にまみれて帰ってきた。
ボロボロになった雑誌の切れ端を表彰状だといって大事そうに抱いていた。
出版社からは次々に原稿の依頼が舞いこみ、彼は意欲的に執筆を続けた。
やがて売れっ子作家になった彼は、ある日都心の大型書店を訪れ、
自分の本が一冊も並んでいないことに首をかしげた。
書店員たちに尋ねても誰も大作家である彼のことを知らぬ様子で、
逆に気味悪がられるばかりだった。
編集者の携帯に電話をかけたが、なぜか中国語のアナウンスが聞こえた。
彼は、ここが現実ではないと気づいた。
だからこんな虚構はすぐにも破壊しなければならないと判断した。
その書店が全焼したことは、翌日の新聞に掲載された。
容疑者の顔写真は、満足げな笑みを浮かべていた。