続き書いた

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「プラトンが提唱した『イデア』論をご存知かな?」
「形而上学かい? はっきり言ってあまり知らない」私は正直に応えた。そしてゲネの次の言葉を待っている間、彼の横顔を見ていた。
それは美しい形相(エイドス)だった。なんていうかバランスの良い顔だった。
「人間は真善美の『イデア』に近づくために生きているんだ」
「プラトニズムかい? 哲学については私は門外漢だよ」
「なに、簡単な話だよ。人間は自然の一部であって他の生き物とそう変わらない。自然によって産み出された自然の中の自然なんだ。
私たち人間は知らないことを知っている。つまりに自然の『イデア』に近づこうと理性を働かせれば何でも知っているんだよ」
「難しいね」そう私が言うと、またゲネはチャーミングにはにかんだ。
「神はいると思うかい?」
「神かい? 僕はいないと思っているよ。というのも神という概念は多種多様なもので、一つの部族や民族が信仰している神の機能はさまざまじゃない? 例えば仏教やヒンディーには神がたくさん登場するが、ユダヤ教やキリスト教やムスリムの神は一つだ」
「そうだ。一神教の宗教には預言者という神の御使が各時代に人間の前に現れる。ユダヤの民はモーゼやキュロス二世をキリスト教徒はイエスを、そしてイスラム教徒はムハンマドをそれぞれ真の預言者と称している」
「おもしろい違いだね。仏教の救済は神がするのではなく仏がする。仏は神の御使ではない」