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九月・陽子と紀州を巡る旅 1/3

我々は、先ず熊野本宮大社を目指した。
和歌山県の新宮市の熊野速玉大社から参って熊野那智大社へ、それから那智の滝を見て熊野古道を歩いて本宮大社を目指す。
陽子が「本宮大社から参拝しよう」というので、私はその意見を取り入れた。異論はなかった。女が直観で言うことの大半は、素直に受け取っておくのが吉であるのだ。
一日目は、和歌山県の新宮市まで来て、バスで本宮に登り、中辺路を通って那智大社と速玉大社まで歩くことになっていた。
先程から、チンチンチンチン、という音がバスのどの辺りから鳴っていて、何の音なのか気になって「何の音だろうな、この音」と陽子に尋ねてみたが、
何だろうね、と言ったっきり、窓側に顔を戻して風景をさも珍しそうに眺めていた。
初めは和歌山県の夏の雄大な自然や民家を珍しい、と私は感嘆して眺めていたが、十五分と経たないうちに飽きてしまった。
「陽子、知ってる? 熊野詣は、あの世への入り口になっているって」
飽きて陽子に話し掛けた。
「普通にガイド本に書いてあることじゃん」と、陽子はいつものように呆れた顔をした。
彼女は私にガイド本とそれに挟まっているパンフレットを手渡した。パンフレットを見ると、このようなことが書き記されていた。

「熊野本宮大社の「家津御子大神(けつみこのおおかみ)」は来世を救済する阿弥陀如来、熊野速玉大社の「熊野速玉大神(くまのはやたまのおおかみ)」は過去世を救済する薬師如来、
熊野那智大社の「熊野夫須美大神(くまのふすみのおおかみ)」は現世を救済し利益を司る「千手観音」の権現(仏・菩薩が人々を救済するため、仮の姿をとって現れること)とされ、
また、那智山青岸渡寺は西国三十三ヵ所巡りの第一番札所として、熊野信仰は全国に広がりました」

「裕二、少しは勉強してきたの?」と陽子は横目に私を見た。陽子のこの言葉に、また私の仏教に関する話したがりのスイッチが入る。
「熊野三山は「神仏習合」と「浄土信仰」が浸透してきた平安時代から皇族や公家を中心として多くの人々が参拝してきた聖地だ」
「なにそれ? ガイド本に書かれていることそのまま読んだの?」