>>253
つづき

 木漏れ日を浴びながら小径を歩くと、やがて男は屋敷の玄関までたどり着いた。
 ステンドグラスのあしらわれた木製の玄関扉、その脇にちょこんと貼りついた呼び鈴を鳴らす。
「お待ちしておりました」
 しばらくすると重々しく扉が開かれ、若い女がそっと顔を覗かせる。今となっては珍しい、和装の女中服だ。
「本日はお越しくださりありがとうございます、坊ちゃんのお元気なお姿をご覧になられれば、お婆様もきっとお元気に……」
 恭しく頭を下げる使用人。だが直後、女ははっと大きく目を開くと、一瞬にして後ろに飛びのいたのだった。
「あなた、坊ちゃんではありませんね!?」
 そして素早く両手を引いて身構える。その形は空手の構えに似ていた。
「冗談はよしてくれよ、婆さんが大変だって時に、さすがに悪ふざけが過ぎるんじゃないか?」
 男は苦笑いを浮かべて女をなだめるものの、女は間髪入れず「いいえ」と首を横に振って返した。
「前歯に青のり付いてますよ。坊ちゃんは昔から青のりが大の苦手なので、あり得ません」
 鋭い眼光に睨みつけられ、男は舌打ちと同時に顔を歪める。
「くそ、昼飯に焼きそば定食食べたのが良くなかったか。ばれてしまってはしょうがない、喰らえ!」
 そして男は手に提げていた紙袋にもう片方の手を突っ込むと、目にも止まらぬスピードで再び手を抜いた。
 取り出したのは携帯ゲーム機だった。
「ポ〇モンバトルで決着だ!」
「望むところです!」
 女もどこに持っていたのやら、いつの間にかゲーム機を手に構えていた。
「あれ、お前素早過ぎね? 俺のサ〇ダースが先制喰らってるんだけど」
「私はメンバー全員6Vでそろえていますから。何万回廃人ロード往復したと思っているんですか?」
 勝負はほんの一瞬だった。男はまるで歯が立たず、相手のHPゲージを1メモリすらも減らすことはできなかったという。
「もう来ねぇよ、ばーか、かーば、お前のかーちゃんでーべそ!」
 この閑静な住宅街にまるで似つかわしくない捨て台詞を吐きながら、すたこらと逃げ去る男。その小さくなっていく背中を見つめながら、女は深くため息を吐いたのだった。
「はあ、ああいう輩がいるもんだから、リレー小説にはコテハンつけてもらわないと困りますねぇ」
 とっぴんぱらりのぷぅ。