その一

 山の麓に横穴があった。登山道から外れている。名所でもない。それでいて周辺の蔦や草は綺麗に刈り取られていた。
 最初にSNSで噂となった。防空壕の説が有力で、のちに原始人の棲み処の意見が出された。掲示板を賑わせたこともあったが、
結局は真偽を確かめる前にブームが去った。

 ただ一人、現地に向かった者がいた。横穴の前で背負っていたリュックサックを下ろす。
 用意したヘルメットを被る。ヘッドランプを取り付けた。登山靴を長靴に履き替えた。
「……行くか」
 表情を引き締めて一歩を踏み出した。