>>506
その5

「くらあ! 人の家で何しとる小僧!」
 突如、その場でへたり込む男に、特大の雷が落ちた。
「え!? わ、へあ、ああ!」
「とっとと出ていけ! この盗人め!」
 雷の落とし主は、いつの間にか目の前に現れた老人だった。
「あ、は、はい! す、すいませんでした!」
 男はすぐに立ち上がり、出口へ向かって走り出そうとした―――が、立ち上がる事が出来ず、その場でビクビクと怪しい動きを繰り返すだけだった。
「……何を遊んどる。はよ出て行かんか」
「あ、す、すいません。あの、ビックリして……。腰が抜けてしまってぇ」
「なんじゃ、盗人の癖に情けない奴じゃの。家主に出くわした位でへたり込みおって」
 呆れた声音で告げられ、男はますます恐縮した。
「す、すいません。あ、あと、勝手に入っておいて何なんですが、別に盗人ではないんです……」
「なんじゃと? と、言う事はただの客じゃったか。一体何の用じゃ」
 男は誤魔化す気も起きず、正直に告げる。
「この横穴が色々噂になっていて。防空壕だとか、心霊スポットだとか……。それを確かめに来たんです」
 その言葉に、老人は再び呆れた顔で答える。
「このアホウ。ここはそんな面白い所じゃないわい。麓の村の者なら皆知っとる事じゃぞ。何も聞かんでここへ来おったのか」
 確かに、入山前に一泊した村では、村民と禄に会話をしていなかった事を思い出した。
「はい……。何も話を聞いてませんでした……」
「全く底抜けのアホウじゃな……。まあ良い、そんなアホウでもせっかく来たんじゃ。茶でも飲んで行け。もう立てるじゃろ」
 そう言うと、老人はズンズンと洞窟の奥へ進んでいった。
「あ、はい、すいません。いただきます」
 のんびりとお茶を飲む気分にはとてもなれなかったが、機嫌を損ねて警察に通報されたりしたらたまったものではない。そんな考えが、男の足を茶の席へ向かわせた。そして。
(……お茶? この奥で?)
 至極当然の疑問に突き当たるのに、さして時間はかからなかった。