新人賞受賞作、読みました。結論から言うと、先にnoteで掲載されていた小説と似ているところは全くありませんでした。あらすじで「トリックスター」とされていたのは、メディアを利用して大衆に影響を与えようとする移民の政治活動家のことで、彼の具体的な人物像は終盤の短い一節を除けば、間接的な情報によってしか描かれることはありません。
テーマの一つとしてあるのは「移民社会」における「日本語の存亡」であり、noteで掲載されていた小説のように、経済格差によって富裕層が圧倒的な地位を得ている世界で、言い知れぬ不満と欲望を抱きながら生活をしているような連中が中心となっている小説ではない。
文章力については100点満点中30点といったところでしょうか。酷いです。推敲をした形跡が見られません。本文中にもあるように「いい文章なんてものははなから存在しなくなっている」(71p)未来に向けられた小説ということでしょうか。
「僕」が「ユイから聞いた話」(69p)として始められた「リンダさん」という人物に関するエピソードの途中で、「僕」が「ユイの友達」(70p)として地の文で現れ、エピソードの終わりには「とリンダさんは僕にむかって笑った」(71p)となぜかまるで「リンダさん」が「僕」に話していたかのように締め括られる。そこまでに「リンダさん」と「僕」に面識があるという場面は一度も描かれていない。このように乱雑なところが多数ある。