「だっておかしいじゃないですか。ふつう、どんな人でも何かしら顔に出ますよ。一生懸命叩いてますよ、とか、フフン、こんなの俺には楽勝なんだからね、とか、色々演技をしながら自分の存在をアピールするんです。でも、ユースケさんは全く違うんです。他の誰よりも誰よりも激しく、切ない程に激しく叩いているのに、なんだろな、興味がないとも違う、何ていうかな、むしろどこか淋しそうな顔してる叩いてるんです。死んでるんですよ、顔が」
「あんま、ひとの顔を勝手に殺すんじゃねえやい」
「ご、ごめんなさい……。でも、そんなユースケさんのドラムを見てると、何だろな、不安な気持ちになるんですよ。この人は一体なんなんだろうって。何で顔が死んでるのに誰よりも、他の誰よりも激しく、切ない程に激しく、ドラムが叫んでいるんだろうって。俺を見ろ、俺を感じろ、そんな魂の叫びが聞こえてくるのに、その叫びにいざなわれて、いざユースケさんを見てみると、顔が死んでるんですよ? もう、頭がバグっちゃって……」
「何だろな。さっきから黙って聞いてりゃ、おまえディスってんのかな? この俺のことをよ!」
 いい終わるや否や、ジーンズの胸を揉みしだき、激しくクリックを繰り返した。
「あああっ、やめて、やめてください! 変になる、変になるからぁ!」
 彼女は胸を腕で隠して私を睨み付け、軽く溜息を交じえながら話を続けた。
「ハア、ハア。ディスってるわけなんかないじゃないですか! ハア。それからというもの、気になってずっと、スト、追い続けてたんですよ? ライブがあれば必ず見に行ったし、ユースケさんの講義に合わせて用事も無いのにキャンパスにいったり、偶然ユースケさんを見かけたときは、なんていうか、一日しあわせな気持ちになったり」
「おまえ、いま『スト』って言わなかったか? なんか不穏な気持ちになるんだけど」
「いや、言ってませんよ? 言ってません。 言ってませんから。絶対に!」