>>463の文章をリライトしてみた。結果的に別物になってしまった。ちな、>>1の作品は最後まで読んでいない。ごめんな。


 公園のベンチから眺める夕日は、缶コーヒーが冷めるよりも早く沈んでいった。夜など無くていい、と思う。明るい時間帯は仮面を被り、暗くなると正体をあらわすのが人間の習性ならば、夜などいっそ無くていい。
 私は、暴力を振るう母が本当だと思いたくなかった。しかし、昼下がりの母が愛情深かったかと問われると、口ごもってしまう。
 母から愛されている、と強く感じた瞬間が一回だけあった。そのたったひとつの思い出を、あまりに鮮やかに記憶しているために、私は母を憎みきれないでいる。切なさがふいに募り、わたしは長く息を吐いた。
 父が家を出て、母が酒臭くなったのは、私が九歳の頃だった。母から初めて暴力を振るわれたのは、十歳の誕生日プレゼントをねだった時で、贅沢を言うのはこの口か、と母は私の横面を張った。あまりに強く引っ叩かれて、ひたいを箪笥の角に打ちつけたのを覚えている。
 いつからか、母は私を習慣的に殴るようになった。手をあげる時、母は必ず理由を口にした。あのクソ男にどんどん似てくるな。ぶくぶく太りやがって。見るたびにムカムカする。お前なんか産むんじゃなかった。
 謝れよ、と母から怒鳴られるたびに、ごめんなさいと私は叫んだ。いくら謝っても、何が悪いのかわかっていない、と母は私を殴るのを止めなかった。
 十一歳の誕生日、私は包丁を持って、母のそばに寄った。怯えた猫のように部屋の隅へ逃げた母に、これで殺して欲しい、そしたらお母さんは幸せになれるよね、と私は言った。呆気に取られたあとに母は号泣して、私を強く抱きしめた。母の肩越しに見える窓を、私はぼんやりと眺めた。窓の外が妙に明るい昼下がりのことだった。