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乱立荒らしババアおはようお
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兎にも角にもようやく落ち着いて、皆がこたつを囲んだ。おせちとみかん、それに博が傾けていた銚子と何枚かの小皿が載っている。
「ああそうだ、これはいけない。僕のせいで店の売り上げを台無しにしてしまった。僕が払いましょう」そう言うと花形ゴルゴは小切手を取り出し、
さらさらと書きこむとさくらゴルゴに渡した。「こんなに頂く訳にまいりません!」とらやの10年分の売り上げに当たる金額を見て、さくらゴルゴが
また大きな声で驚いた。「そうですそうです、あたしたちはもう、あなたのような立派な方が店にきてくれただけで十分ありがたいんですから」と
おいちゃんゴルゴが続けた。花形ゴルゴは少し不思議そうな顔をした。そもそもこんな小さな商売の相場など、この男にはとんと見当がつかない。
とらやの面々を見下して馬鹿にしているつもりなどまるきりない。それどころか、まじめもまじめ、大真面目である。
「実は今日は寅さんにお礼をと思って来たのですが…留守ですか、それは残念だなあ。電話を差し上げてから来るべきだった」
花形ゴルゴの言葉に博ゴルゴと顔を見合わせたさくらゴルゴが尋ねた。「と、いいますと。兄がまた何かご迷惑でも…」
「いえ、先日、能登半島で偶然寅さんとお会いしましてね、あの方は本当に立派なビジネスマンだ。さくらさんはじめ皆さんのために一生懸命
お仕事をされている。あの人の奉仕の精神こそ、ビジネスの原点だとあらためて気付かされました。何でも、あの赤木屋さんや黒木屋さんにもショップを
構えていると仰っていたから、私などでは手の届かないような、さぞかし高級な腕時計なのでしょう」
おいちゃんゴルゴとおばちゃんゴルゴが「またか」という苦い表情を見せたが、それを気にも留めず、花形ゴルゴは続けた。
「お礼と言っても、僕が持っているものといえば、恥ずかしいことにせいぜいホテルぐらい。一応、世界の主要都市はほぼ網羅してるんですが…。
それで、皆さんに旅行でもして頂こうかと思いまして。もちろんどこのホテルもカジノ貸切で好きなだけ使って頂ければ結構ですし、ああ、
特別機のチャーターもぜんぶ僕がやらせて頂きますよ」さくらゴルゴは困ったような表情で「あの、せっかくですが兄は飛行機が大の苦手でして…」と
答えるのが精一杯である。「そうですか、それは困ったなぁ…、じゃ、船なら大丈夫ですね。僕のクルーズ船…、もっとも、乾舷が高すぎて、
レインボーブリッジの下を潜れないので、晴海埠頭には着岸できないのですが…、それで船旅でもして頂くと言うのは…」
結局、花形ゴルゴのお礼は満男ゴルゴの希望で東京ドームのラウンジシーズンシートと決まったのである。
皆の笑い声がはじける部屋の片隅に、寅ゴルゴからの年賀状が一葉、無造作に置かれていた。
「…、私こと思い起こしますれば旧年中は恥ずかしきことの数々。今はただ深く反省の毎日を過ごしております…」