東京地方裁判所 平成22年(ワ)第41244号 判決文(平成23年7月12日言い渡し)より引用

Y(引用者注: 被告の鉄道会社)には、法人として、憲法上、営業の自由(22条1項)が
保障されていることもまた否定できないものであるから、Yにおいても、事業の遂行
ないし営業に関する自由な裁量権を有しているというべきである。

そして、現在、Yを始めとする多くの鉄道運行事業者が実施している女性専用車両の
設定は、平日の通勤通学の時間帯に相当な混雑をする首都圏等大都市圏の通勤電車
において、痴漢犯罪の被害を受けるおそれのある女性の乗客に対し、少しでも安心、
快適な通勤通学環境等を提供するために行われていると解せられ、これは目的に
おいて正当というべきである。

しかも、本件鉄道において、女性専用車両が設定されるのは、平日の通勤時間帯の
一部電車、しかも、同車両が設定されるのは6両編成の車両のうちわずか1両のみに
過ぎず、これは健常な成人男性の乗客をして他の車両を利用して目的地まで乗車する
ことを困難ならしめるものではないから、健常な成人男性の乗客に対し格別の不利益
を与えるものでもない。

さらに、上記のような女性専用車両の設定目的に鑑みると、その実効性の確保は重要
であり、これを男性を含む本件鉄道の利用客に周知させる必要があることは論を待た
ないというべきである。

本件鉄道の利用者は不特定多数に及ぶものであることからすれば、かかる不特定多数
の利用者に対し、女性専用車両の存在を周知させるためには、その表示も相当程度
簡明であることが必要であると考えられる。

かかる状況に鑑みると、Yが女性専用車両について、健常な成人男性も乗車することが
できる旨をあえて掲示せず、これを「女性専用車」であり、女性および小学生以下また
は身体の不自由な人(その介助者を含む)が乗車するための専用車両であると掲示した
ことをもって、女性専用車両の表示に関するYの裁量権を逸脱した違法なものと評価する
ことは相当でないし、これが社会的相当性を欠いた、男性の乗客に対する不法行為を
構成するということもできない。