ニセAlchemy職人の朝は早い。
なぜなら、気温が上がりすぎる前に汗の仕込みを行う必要があるからだ。
「春と秋はいいんだけどね・・・。夏は暑すぎて朝でも駄目な時があるし
冬は寒すぎて、それがよくなかったりしてね・・・。」
仕込みを終えたVol'jinさんは我々との話を切り上げ、牙を握った。
汗を「Elixil of Detect Undead」のラベルのある缶にドップリと漬け、鍋に移しかえる。
速い。まるで料理人のようだ。またたく間に18リットルの汗を鍋に満たした。
息をつく間もなく次の鍋に取りかかり、また鍋が汗で満たされる。
「どれ、今朝の調子はどうかな。」 Vol'jinさんは先に煮込んだ鍋を一つ一つをつぶさに見る。
ひょいひょい、3つの鍋から汗を取り出し嗅いだ。もうすごい臭いがする。これは汗の効果なのだ。
「これは駄目。ほら、ちょっとここに毛が混じってるでしょ。3箇所も出るとは、もう冬が近いね。
今日くらいなら昼には問題なく煮えるけどこれからの季節もっと冷えてくるとつらいかな・・・。」
この仕事は、時間との勝負。本来実用ではないElixir of Detect Undeadを
ニセFlask of Fortificationに加工できる職人は、Vol'jinさんを含めても
WoWに300000人しかいない。そして、こうやって丹念に仕込まれた薬剤が
RaidにてEnd userの腕を楽しませるのだ。Zul'Aman開放までのパッチ、時間の勝負である。
「600万本、達成してみせますよ。」danceの動きを見せる時とはうってかわり、とても穏やかな笑顔だ。
この笑顔に、TrollのVoodooの伝統が支えられているのだ。
帰り道、おみやげに頂いたニセFlask of Fortificationを見ながら牛Warがため息を漏らした。
「本当に騙されましたよ。普通こんなに安いはずないのに、何故かUndeadが表示されて・・・。
それにこの汗臭さ・・・もうなんともいえないberserk感です。」
冬の足音の聞こえる秋の空は暗くなっていたが、
Vol'jinさんのニセFlask of Fortificationはそれよりも深い闇を湛えていた。