野村正樹「八月の消えた花嫁」(集英社文庫)★★★★
1989年の長編第3作。デビュー作「殺意のバカンス」(★★初代スレ参照)は、全共闘世代の勝手な価値観
を押しつける悪作でしたが(但し、トリックなどは練られていました)、同じ登場人物が探偵役となる
本作は、果たして・・・。
雑誌社の懸賞旅行に当たった加奈子はタヒチへ。ツアーの一行には著名なエッセイスト夫婦、下心のあ
りそうなカメラマン、少女時代に両親が悲惨な死を遂げ、その復讐を誓う女性、更には訳ありの不倫カ
ップルなどもいて、早くも波乱含みの予感。カメラマンの川越が落下したヤシの実に当たって死亡する
事故が起き、エッセイストの妻の溺死事故も起こる。更に帰国したメンバーを狙って、遂に殺人事件が
勃発。加奈子は恋人の速水とともに事件の追及に乗り出したが・・・。
同じ年に出た本岡類「ウブドの花嫁」(★★☆初代スレ参照)もまた、バリ島でのバブルな海外旅行を題
材にしたミステリでしたが、まさにバブル絶頂期、今読むと相当に恥ずかしい場面もチラホラしますが、
それに目をつぶれば、些細な伏線、特にヤシの実殴打事件の凶器や南十字星のエピソードなど、なかな
か侮りがたい出来栄え。またダイイングメッセージのヒネり方や毒殺トリック、ラストのドンデン返し
も計算されており、かなりの良作です。