栗本薫「伊集院大介の私生活」(講談社文庫)★★★☆
1985年のシリーズ短編集第2弾。「伊集院大介の・・・」のタイトルで統一された作品を収録。
「・・・の追憶」は、伊集院の学生時代の話。ドケチな質店の女主人殺しの真犯人を暴くもの。被害者
の知られざる性格を見抜く腕前は流石だが、ただそれだけ。
「・・・の初恋」は高校時代、同級生らが恋焦がれる女性を巡る事件。或る男には妖艶な美女と慕われ、
また別の男からは清楚な日本風の女性に思われ、また別の男からはアンニュイな大人の女性と思わ
れているその美女の正体とは・・・。文中でも指摘されていますが、チェスタートン流の思い切った着想
が上手いです。
「・・・の青春」は学園紛争の時代の話。伊集院は同級生とともに、活動家の女子大生が何者かによっ
て校舎から転落させられた事件を追及する。事件直後に伊集院が見た「緑色の腕の男」の正体とは・・・。
これはアッサリした凡作。
「・・・の一日」は、山科警部から電話で概要を聞いただけで事件を解決するや、今度はラーメン屋で
見かけた女性のなぞめいた行動からトンデモない真相を引き出す話。
「・・・の私生活」は、毎日、山手線に乗り続け、適当な駅で降りては、キオスクで脈絡もない買い物
を続ける伊集院。山科警部と森カオルのコンビが密かに尾行してみると・・・。これはいわゆる「日常の謎」
系の佳作ですね。後味も良い作品に仕上がっています。
「・・・の失敗」は雪の密室殺人。軽井沢で真冬の別荘を管理するアルバイトを続ける伊集院が隣の別
荘で起きた殺人事件の真相を暴くのだが・・・。密室トリックは、はっきりいってバカミスに近いですが、
これはこれで面白かった。
以上6編、本格ミステリとして詰めの甘い作品もありますが、奇想天外なアイディアと発想の飛躍
は、「新本格」の先駆といって良いでしょうね。