栗本薫「吸血鬼−お役者捕物帖」(新潮文庫)★★☆
浅草の芝居小屋・初音座の看板役者にして美貌の女形・嵐夢之丞を主役とする1984年のシリーズ
第1作の連作集。
「瀧夜叉ごろし」は、久々に舞台に復帰した女形・嵐采女が芝居の本番中、宙吊りの場面で転落死。
誰も近づいた者はいなかったのだが・・・。第1話としては好調な滑り出し。真犯人の大胆な登場シ
ーンが上手い。
「出逢茶屋の女」は、町で夢之丞を見かけた贔屓の男が尾行してみると、夢之丞は出逢茶屋に入っ
たまま出てこなかった。更に中の部屋では殺人事件が勃発。夢之丞が犯人なのか、そして彼は一体
どこに消えたのか・・・。いかにも役者らしい消失トリックの一種ですが、出来は大して良くない。
「お小夜しぐれ」は醜女をめぐる話で凡作、「鬼の栖」は、年増の莫連女に惚れた商家の一人息子。
彼女は店の金を盗んだ疑いをかけられた末に殺されるのだが・・・。夢之丞が些細な手掛かりから
事件の構図を引っ繰り返す手際が見事。
「船幽霊」、「死神小町」ともに凡作、更に表題作や最終話の「消えた幽霊」に至っては、夢之丞の
生い立ちや前半生を巡る謎へと傾斜して、一話完結の謎解きから伝奇小説へと変貌してしまい、
第2シリーズの長編「地獄島」へと繋がってゆきます。前半の話に見られた謎解き物から離れてし
まったのは残念です。