ニコラス・メイヤーの「S・H氏の素敵な挑戦」を数年ぶりに読み返しました。
邦題は看板に偽りありですし、お話も前半は偽の事件でホームズを連れ出すだけ、
後半は国家的陰謀事件とは言え短編でも十分片付く程度のスケールなんですが
結構よい出来で、列車追跡とそのルーフ上での対決といった活劇もあり楽しめます。

ただし個人的に納得いかない点がいくつかあるんですよね。
まず「『最後の事件』と『空き家の冒険』はワトソンによる完全な作り話」
「某犯罪王はヤク中ホームズの妄想の産物であり実際は至極真っ当な人物」
「『獅子のたてがみ』『マザリンの宝石』『這う人』『三破風館』等は
ワトソン以外が書いた戯言に等しい偽作」といった本作のオリジナル設定は、
各作品を(出来は別として)真剣に書いた(であろう)ドイルに不敬極まりないですし、
ホームズの死と生還に一喜一憂し、活躍を楽しんだ読者にも失礼としか思えません。
原作者&読者に敬意を払って、原作の設定を上手く活かして書けばいいのに。
次に「四つの署名」の名犬?トビイが再登場するんですが「病気でかなりの毛が
なくなっていて、魅力的とは言い難い外見」と描写されていて激しく疑問です。
原作の時点で既に「Ugly」(=醜い、醜悪、不格好、不細工)と十分貶されてるのに
さらにマイナス要素を付け足すなんて、この作者は犬が嫌いなんでしょうか。
あと、ホームズとワトソンの初対面の場所「Hospital of St Bartholomew」が
「聖バーソロミュー病院」ではなく「聖バルトロメオ病院」、
「四つの署名」の登場人物「Thaddeus Sholto」のパーソナル・ネームが
「サディアス」ではなく「タデウシ」と訳されてるんですが、
この二点はよく言われる「ワトソンかワトスンか?」どころの騒ぎではなくて、
あまりにも違和感が大きすぎます。一般的な読み方にすればいいのに何故?