夜の相手もする女工たち

そう簡単に単独の外出はできなくても、遊廓ではたいていの商品が入手でき、着物やかんざしのような贅沢品も買え、懇意の客にねだれば買ってきてもらうこともできた。

客との恋愛は御法度とされていながら、身請けされれば、借金を返済してくれ、なお色をつけてもらえるため、楼主にとっても歓迎すべきことであり、相手が金持ちで
身請けの可能性がある限り、本気で好きになったところで咎められない。

対して女工たちは男と知り合う機会もない。工場内では男子工員たちがその相手になり得るが、男子寄宿舎に女子は入れず、女子寄宿舎は男子は入れず、
工場の外でデートをすることも難しい。それがバレると罰金である。それでもやる人たちはやっていた。

「恋愛が女工たちの唯一の娯楽であった」というより、「セックスが女工たちの唯一の娯楽であった」とさえ言えて、このことをよく表す文章はのちほど見ていく。

工場で御法度なのは、末端の労働者同士の恋愛沙汰であり、工場長や組長といった役付は、やりたい放題だった。目をつけた女工に言い寄り、断られると、
重労働を強いるなどの嫌がらせをする。まさにセクハラである。さらには、自由に呼び出す権利があることをいいことに、個室に呼び出して半ば強引に関係する。

これに対する処罰規定もなく、細井和喜蔵自身が知る話として、数十人の女工に手を出し、そのうちの数人は妊娠し、それでも出世した例が書かれている。