「羊の皮をかぶった狼が来たぞ」

 Netflix(ネットフリックス)が全世界で発表した広告付き視聴プランのリリースを観て私がストレートに感じた直感です。日本では月790円でNetflixが見られるようになるのですが、われわれは、5年後には想像を超える出来事を目にすることになるかもしれません。それは映画や番組の中のフィクションではなく、世界経済のリアルな破壊的変化の話です。

 その話をする前にNetflixの今回の発表をおさらいしましょう。Netflixでは11月4日から790円の広告付きプランを始めます。

■一番のポイントは「安いプランでも高画質になる」

 これまでは一番安いベーシックプランが990円でしたから「200円安くなる」という報道が多いのですが、実際は今回の価格変更の一番大きなポイントは「安いプランでも画質がHDの高画質にあがる」という点です。

 つまり自宅の大画面テレビでNetflixの映画やドラマを楽しんでいたひとはこれまで1490円のスタンダードプランに入らなければならなかったのですが、これからは広告付きなら790円で見ることができるようになります。

 ちなみに広告抜きでも1台のテレビだけでNetflixを見ていた人は990円になる。私は、この実質値下げのインパクトが一番大きいのではないかと思います。

 Netflixの過去の価格の推移を振り返ると2015年の日本参入当初はスタンダードが950円(税抜き)で、当時の税込みでも1026円でした。それが2018年の値上げと2019年の消費税上げで1320円となり2021年に1490円(いずれも税込み)へと値上がりしたのです。

 その最後の値上げ後にコロナ禍による巣ごもり需要が一段落したことで、世界的にNetflixの加入者が増加から頭打ちに転じ、Netflixの株価が大幅に下落したことで経営陣が広告付きプランの導入を検討したという経緯があります。

(中略)

 さて、肝心の広告プランの中身ですが、790円コースの人は1時間あたり4~5分の広告が入ることになるようです。これはほぼ地上波と同じペースで広告が入るわけですから、気にならない人はそれほど気にならないのではないでしょうか。

(中略)

 そして一番肝心な「どのような広告が入るのか」という点については、

 ①当初は、ターゲティング広告は行わない

 ②スポンサーとなる企業は国とコンテンツジャンルを選んで固定料金制で広告を表示できる

 ということです。これを平たく言えば、地上波テレビとほぼほぼ同じ広告モデルを「最初のうちは」採用するという話です。そのうえで、

 ③それはあくまで発売当初の話で、いずれ生年月日や性別を用いてのターゲティング広告は検討する

 という予定についても正直に語っています。ここが「羊の皮をかぶってサービスがスタートするのだな」と私が感じた最大のポイントです。

(中略)

 「でもこれまで有料プランだった人も広告プランに移ってしまうから収入は減っちゃうんじゃないの?」と思うかもしれません。「月1490円ないしは990円の有料プランから790円の広告付きプランに移る人が増える」という状況になるのは、実はNetflixにとっては歓迎すべき状況になるかもしれません。

 なぜか。それはコンテンツを配信するよりも広告を配信したほうがはるかにビジネスとして儲かるからです。ここがNetflixの戦略にとっての二段ロケットに相当します。

(中略)

 Netflixの発表の中に興味深い言葉があります。

 「マイクロソフトのようなパートナーは、Netflixの広告をサポートするためにのみ、この情報を使用することができます」

 という言葉です。これをストレートに読み解けば、当初はターゲット広告はやらないけれど、いずれMSNで検索した履歴情報をマイクロソフトがNetflixの広告のために使うことを検討すると公言しているわけです。

 これが実現した未来では非常に興味深いことが起きます。マイクロソフト・Netflix連合はスマホやPCの履歴をもとにビッグデータ分析を加えて、スマホ、PC、Netflixに検索連動型広告を出せるようになります。

■二段ロケットはとてつもない破壊力を持つ

 そして今はテレビの広告とネットの広告は別の市場なのですが、いずれこの市場が連動したら単純計算で4兆5000億円の巨大な広告市場が出現することになるのですが、他のメディアがその可能性に気づいたときには、すでにNetflixは全世界で広告市場を発展的に破壊して再編成する能力を手にしているかもしれません。(以下ソース)

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