そんななかで、浮上したのが昇降式ホーム柵。可動式ホーム柵とは違って戸袋(扉を収納する部分)を設置する必要がなく、幅最大8・5メートル分まで対応。
ホームに設置する際の補強工事や搬入などが簡略化できることから大幅なコストダウンも図れるという。運用開始から1年半以上が経過した六甲道駅をよく利用しているという神戸市東灘区の主婦、戸政久子さん(55)は
「乗客が乱れることなく、駆け込み乗車も見られなくなり、ホームでのマナーが良くなった」と話す。また、同市灘区の看護師、金丸あゆみさん(25)は
「開閉式の可動式に比べて圧迫感がなく、違和感のない柵で安全が保たれているのが好感が持てます」と話していた。

 そんななか、全日本視覚障害者協議会の理事、山城完治さん(60)は「幅が広いので、ドアを探すのに時間がかかってしまう」と昇降式ホーム柵に対する不安を訴える。昇降式ホーム柵には安全対策として、
稼働する際には「ロープが上がります」「ロープが下がります」とアナウンスが流れ、柵に近づいたり触ったりした乗客に対しては「ロープから離れてください」「ロープに触れないでください」との音声が流れるようになっている。

 日本盲人会連合総合相談室長の工藤正一さん(67)は「視覚障害者はしっかりしたものに触れることで安心感を覚える。いきなり音声による警告を受けて、うろたえるケースも少なくありません。
車内のポスターなどで乗客にサポートをお願いする啓発を図ってほしい」と指摘する。視覚障害者にとって、駅のホームは「欄干のない橋」にたとえられている。

 今年10月16日には、近鉄大阪線河内国分駅(大阪府柏原市)で視覚障害者の男性がホームから転落し、電車にはねられて死亡するいたましい事故も起きている。同協議会によると、
平成6年から今年10月までに視覚障害者の転落事故や列車との接触事故が61件も発生しており、27人が死亡しているという。

 山城さん自身も4年前にホームから転落して腰の骨を折った経験があり、「駅のホームを歩くのは綱渡りと同じです。ちょっとしたミスで転落してしまう。新たなホーム柵ができることは歓迎するが、
障害のある人の目線に立った開発や検討をしてほしい」と話している。