正雪の登場はおそらく、山田風太郎の「魔界転生」(1967)への対抗心と思う。
講談的文章表現は山田風太郎の好む文体だが、新幻魔大戦にもわずかながらその手法が取り入れられている。
さらにその作品には「魔人」という表現が散見され、また屋敷の地下に怪しい隠れ家がつくられて禍々しいことが行われている描写がある。
新幻魔大戦にも「魔人正雪」という表現が為され、かつ正雪の屋敷の地下に隠し部屋が存在し、禍々しいシーンが描かれる。
登場する忍びの男の名の「月影」も、山田風太郎の作品にある。人物名でないらしいが。

当時の人気作家山田風太郎に対する不満、対抗心があったのではないかと推察する。
当時の平井和正はまだ若く、血気盛んであろう33歳だ。
体力も精神力もあり、「山田某になぞ負けない!」という強い気概があったのではないか。
高橋留美子との対談でも、名前こそあげていないが嫉妬する人気作家のことが語られている。
嫉妬の対象は一人ではないだろうが、その中に山田風太郎が入ったろうな……と、新幻魔大戦のさまざまな描写を読みながら、そう思えてくる。