犬神明は「夜と月と狼」(1969)に登場。なので、表現は悪いがキャラクターの流用だろう。
前述のとおり、「月影」という名は山田風太郎の作品にある。
「忍者月影抄」(1961)がそれだ。未読だが、その名は人名ではなく、作中の秘剣の名らしい。
またテレビドラマに「素浪人 月影兵庫」(1965)(1967)というものがある。山風とはぜんぜん関係なく、忍者ものでもないが。

「虎は目覚める」(1962)の主人公も強靭な男だったが、そうした人間はしばらく書かれていなかった。
1969年に発刊された「アンドロイドお雪」には、雑誌掲載版には存在しなかったファン・マヌエルが追加登場している。彼がフィリップ・マーロウを彷彿させるタフガイなのは語るまでもない。
この頃の平井和正はハードボイルド的タフガイを描くことに凝っていたようだ。犬神明、マヌエル以降、タフガイ系が続く。
大藪春彦の影響もある。漫画「ウルフガイ」(1970)に登場する西城は彼の造形するキャラクターから影響を受けていると、平井和正自ら告白している。
1971年からの連載された新幻魔大戦に、忍者になった犬神明を盛り込むのもそうした流れであろう。
平井和正にとってのタフガイという存在については、後々述べることになるはずだ。
人間の悪を見つめる彼にとって、希望の一部にあたるものだったのではないかと思う。