復刊ドットコムの幻魔大戦下巻をお読みのかたは御存知と思うが、平井和正による幻魔大戦構想初期の企画書には、はっきり「ドク・タイガー」の名が書かれている。丈もルーナも、その名がまだ設定として登場していない頃のことだ。
驚愕の事実。まっさきに設定されていたキャラクターが、あのタイガー!
衝撃の事実。平井和正の構想する新しい物語(当時ね)の中心に座するキャラクター、それは地球最悪の男だった!

新幻魔大戦という名の「仕立て直され、一新された幻魔大戦」(その意味は後述する)の構想段階で、なにゆえあの中途半端な時代が選定されたのか。
その不可解な理由もまたこれで綺麗に氷解するではないか。沢野忠庵がその時代にいたからだ。
では、沢野忠庵が選ばれたか。なぜ山風の描いた邪悪な沢野忠庵像が採用されたか。
その最大の理由! タイガーの前世としてふさわしいと平井和正が考えたからだ。
それから丈の前世設定として同時代の由井正雪が選ばれ、ルーナの前世にシルヴァーナという創作人物が設定された……と、まあ大体この順番で構想されたと推測する。
まっさきに設定されたのはタイガーの前世に間違いなかろう。そこは外せないのだ。なぜならドク・タイガーは幻魔大戦という物語の中央に座するキャラクターだから。
平井和正は、山風の「悪に回心した男」と出会い、これぞ天啓とばかりに新作の構想を組み立てたのだろう。