これらのひと癖もふた癖もある人物を盛り込むことに、当時の平井が舌なめずりして腕を振るう歓喜を覚えていたであろうことは想像に難くない。
また、丈やドクター・タイガーの名が新幻魔大戦の中に一瞬登場するのも、彼らがその先々で本当に登場することが予定されていたためだろう。

挫折しなければ、どのような未来が描かれただろうか。
お時の子孫が少年丈の時代に活躍することは当然として、シルヴァーナの予言にあるように、彼女の勢力は、もう一方の勢力として用意されたのだろうと予想させる。
のちの平井和正自身が「あの先はない」といった、あの強烈な漫画のラストシーンを乗り越えていくためには、そうするための種蒔きがどうしても必要だ。
大雑把に表現するなら、「幻の新幻魔大戦」は前半が種蒔きの話で、後半が収穫の話……という構成であったろう。
悪役の娘であるシルヴァーナはその重要な布石であり、「あのシーン」を超えていくための段取り、下ごしらえであろう。
新・幻魔大戦とは、大人向けに、再構成した、小説による決定版としての、幻魔大戦を目指したものであり、それが当時の平井和正の秘めた野心であったと考えられる。

そして、あの月接近のシーンを乗り越えたあとは……、
おそらくデスハンターと対になるかたちで終わりを迎えたことだろう。