客を探しながらタクシー運転手が車を走らせていると、一人の男が合図を送ってきた。
目的地を告げるその男に、運転手はどこか懐かしい感情を覚える。知り合いか?いや、違う。でもどこかで見た。運転手は記憶を巡らせながら、ミラー越しに男の姿を見つめる。

あぁ、やっぱり…俺はこの男を知っている。

客があの男であることに気付いた運転手は、期待をこめつつ目的地を少し通り過ぎて停車する。
期待する運転手の顔に気付いた男は照れ臭そうに視線を落とし笑顔を見せる。しかしすぐに顔を引き締め、俺ももう若くないんだけどなと心の中で呟き、男は言う。

____運転手さん、『イキスギ』…ですよ

会計を済ました男は運転手に礼を言うと、屋上付きの家へ帰って行くのであった。