一度私は対談の名手と言われた吉行淳之介さんと話したとき、躁病だったのでペラペラとしゃべりまくり、吉行さんが「これはちとやりにくいな」と言ったりした。
対談が終り、吉行さんが「キチガイと対談したのは初めてだ。しかしキチガイというと差別用語になるから、頭の構造がおかしな人とでもしておくか」と言うので、私は「わが躁病に敵なし」と思いつつ、或るバーに行ったらそこに星さんがいた。
それから凄まじい口論が始まった。そしたら、やりこめられてしまった
何を言ってもすぐ彼がまくしたてる。その言っていることが理論も何もないメチャメチャなものだから、つまるところはやりこめられてしまうのである。
 いつもニコニコしている。しかし、いったん酒乱になるともの凄い顔となり、凄まじい気迫となる
酒乱であるときをのぞき、しゃべることが実に面白い。SF仲間のあいだでも、その面白さは定評があった。
 ところがのちに星さんがお亡くなりになったあと、私の妻が彼の奥さまに会うと、「家ではたまにナメクジの真似をするくらいで、何てつまらない人だと思っていました」ということであった。