じゃ、「嵐が丘」の風景描写から、1つめが岡田忠軒訳、2つめが鴻巣友季子訳。

「嵐が丘(ワザリング・ハイツ)」というのがヒースクリフ氏の住居の名だ。「ワザリング」とは、こんな場所のせいで、嵐のときにさらされる激しい風をうまく言い表わした土地言葉なのである。

実際その頂では、澄んで身もひきしまるような風が終始吹いているにちがいない。
屋敷のはしの二、三本のいじけた樅の木が、ひどくかしいでいるのを見ても、やせこけた一列のさんざしが日光の恵みを求めるように、みな同じ方向に枝を伸ばしているのを見ても、崖ぎわをこえて吹きつける北風の強さがわかろうというものだ。

さいわい建築家がさきのことをよく考えて、家を丈夫に作っておいた。
小さい窓は壁に深く埋めこまれ、家の角の部分は大きな石の張り出しで守られていた。

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<嵐が丘(ワザリング・ハイツ)>というのが、ヒースクリフ氏の住まいの名称だ。”ワザリング”とは言いえて妙だが、この土地ならではの形容詞で、一天、荒れ騒ぐさまを表しており、嵐ともなれば、あの屋敷のあたりはそんな烈風に吹きさらされる。

けだし、あそこの丘には、すみきって気持ちのいい風がたえず通っているのだろう。丘の上から吹きおろす北風の猛威も察しがつくというものだ。
屋敷の奥にむれ立つ幾本かのモミの木が、ねじけてひどくかしいでいるのを見れば。身を寄せあうやせたイバラが、まるで太陽のめぐみを乞うて泣きついているみたいに、そろいもそろって枝を一方だけに伸ばしているのを見れば。

よくしたことに、建築家はこの屋敷を頑丈に建てておく先見の明があったらしい。
細長い窓はどれも壁からぐっと入り込んだ位置につけられ、大きな石が突きだして窓の隅をまもっている。