米パデュー大学と米ノースカロライナ州立大学に所属する研究者らが発表した論文
「Extracting and Storing Energy From a Quasi-Vacuum on a Quantum Computer」は、
量子力学の性質を利用して、一見空っぽに見える空間からエネルギーを抽出し、瞬間移動させ、さらには貯蔵する方法を実証した研究報告である。

量子力学の世界では、完全に空の空間は存在しない。
どんなに何もない場所でも、量子場の微小な揺らぎ(真空の量子揺らぎ)が常に存在する。
これは、ハイゼンベルクの不確定性原理に基づく現象で、エネルギーと時間の関係から生じる。
研究チームは、この量子揺らぎと量子もつれ(2つの粒子がどれだけ離れていても相関関係を保つ現象のこと)の性質を組み合わせて、
抽出、転送、貯蔵の3つでエネルギーを操作することに成功した。

エネルギーの抽出では、まず量子もつれ状態にある2つの量子ビット(キュービット)を用意する。
これらは初期状態では最低エネルギー状態にある。
一方のキュービットを測定すると、その測定行為によってエネルギーがその場に注入され、量子状態が変化する。
もう一方のキュービットのエネルギーはその時点では変化しないが、測定結果の情報を用いることで、そのキュービットからエネルギーを取り出すことが可能になる。

エネルギーの転送では、量子エネルギーテレポーテーション(QET)プロトコルを使用する。
これは量子もつれの性質と古典的な通信を組み合わせたもので、一方のキュービットの測定結果に基づいて他方のキュービットに操作を加えることで、
エネルギーを転送(テレポート)する。

エネルギーの貯蔵では、転送されたエネルギーは非常に微弱で不安定なため、すぐに環境に逃げてしまう。
そこで研究チームは、このエネルギーを第3のキュービットに転送して貯蔵する方法を開発した。
これにより、抽出したエネルギーを後の利用のために保持できるようになった。