地球上にない二重ラムダ超原子核の同定に四半世紀ぶりに成功
-歴史上2例目の快挙、核力の理解から中性子星内部の謎に迫る-

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私たちの身の周りの物質は、複数の原子が集まって生成されています。原子の基本となる原子核[8]は陽子や中性子といったハドロンが集まって生成され、ハドロンは「クォーク」と呼ばれる素粒子から構成されています。原子核を生成する際にハドロン間に働く核力は、ハドロン同士が結合しつつも近づき過ぎてつぶれないよう反発するという絶妙なバランスを保っています。この核力の起源は物質や宇宙の生成の謎を解き明かす重要な鍵であり、解明のためにさまざまな実験、理論を通して長年にわたって研究が行われています。

核力の研究における対象の一つが超原子核(ハイパー核)と呼ばれる地球上に自然には存在しない原子核です。通常の原子核を構成する陽子と中性子はどちらもアップクォーク[9]とダウンクォーク[9]という2種類のクォークから構成されています。陽子や中性子のみから構成される原子核において陽子・中性子間に働く力である核力からクォークの種類による影響を切り分けることは困難です。一方、ハイパー核は、アップクォークやダウンクォークよりも重いストレンジクォーク[9]を含むハイペロンという粒子を含んでいます。このハイペロンと陽子や中性子の間に働く力においては、通常の原子核では区別できなかったクォーク種による影響が観測できるため、核力をさらにハイペロンにまで拡張した枠組みから調べる手段として研究が進んできました。

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さらに、ラムダ粒子同士の相互作用は通常では考えられないほど超高密度になる中性子星の内部構造の謎にも深い関わりがあります。超新星爆発後に生成される中性子星の中心部は、スプーン1杯で10億トンにもなるような超高密度になっていると考えられています。このような環境では、陽子、中性子だけではなく、ラムダ粒子を含むハイペロンが発生することが予想されており、ダブルラムダハイパー核中のようにラムダ粒子同士が力を及ぼし合っているはずです。従って、ダブルラムダハイパー核を通したラムダ粒子同士に働く力の理解は、地上での実験によって中性子星の内部構造の謎にも迫る原子核と天文をまたいだ研究対象といえます。
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