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新人職人がSSを書いてみる 32ページ目 [転載禁止]©2ch.net
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0001通常の名無しさんの3倍垢版2015/06/10(水) 23:22:24.50ID:aZv8IpUP0
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。

現在当板の常駐荒らし「モリーゾ」の粘着被害に遭っております。
テンプレ無視や偽スレ立て、自演による自賛行為、職人さんのなりすまし、投下作を恣意的に改ざん、
外部作のコピペ、無関係なレスなど、更なる迷惑行為が続いております。

よって職人氏には荒らしのなりすまし回避のため、コテ及びトリップをつけることをお勧めします。
(成りすました場合 本物は コテ◆トリップ であるのが コテ◇トリップとなり一目瞭然です)

SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
新人職人がSSを書いてみる 31ページ目
http://peace.2ch.net/test/read.cgi/shar/1429885679/

まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
http://arte.wikiwiki.jp/

新人スレアップローダー
http://ux.getuploader.com/shinjin/ 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:669e095291445c5e5f700f06dfd84fd2)
0002巻頭特集【テンプレート】垢版2015/06/10(水) 23:25:34.64ID:aZv8IpUP0
■Q1 新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
■A1 ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。
但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。

■Q2 △△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
■A2 ノンジャンルスレなので大丈夫です。
ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。

■Q3 00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい?
■A3 新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。
取り扱い作品は旧シャアで取り扱われている過去作および過去作の関連作を除いた
SEED・SEED DESTINY・OO・劇OO・AGE・GB・GBF・GBFT・Gレコとなります。(H27.3現在)    

■捕捉
エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。
どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。

■Q4 ××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
■A4 基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。
理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。

■Q5 △△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい?
■A5 基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。

■Q6 ○○さんの作品をまとめて読みたい
■A6 まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます

■Q7 ○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない?△△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。
■A7 事情があって新人スレに投下している場合もあります。

■Q8 ○○さんの作品が気に入らない。
■A8 スルー汁。

■Q9 読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
■A9 現在模索中です。大変お待たせしておりますがもうしばらくお待ちください。
0003巻頭特集【テンプレート】垢版2015/06/10(水) 23:26:08.26ID:aZv8IpUP0
〜投稿の時に〜

■Q10 SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良い?
■A10 タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのか、を書いた上で
投下してください。 分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……等と番号を振ると、
読者としては読みやすいです。

■補足 SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名は位は入れた方が良いです。

■Q11 投稿制限を受けました(字数、改行)
■A11 新シャア板では四十八行、全角二千文字程度が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(>>1)個数にも制限がありますが、一般的には知らなくとも困らないでしょう。
さらに、一行目が空行で長いレスの場合、レスが消えてしまうことがあるので注意してください。

■Q12 投稿制限を受けました(連投)
■A12 新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。

■Q13 投稿制限を受けました(時間)
■A13 今の新シャア板の場合、投稿の間隔は忍法帖のLVによって異なります。時間を空けて投稿してください。

■Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
■A14 設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。

■補足
話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは
読者から見ると好ましくない。 と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の短編を一つ書いてしまう手もあります。
"読み物"として面白ければ良い、と言う事ですね。
0004巻頭特集【テンプレート】垢版2015/06/10(水) 23:26:41.26ID:aZv8IpUP0
■Q15 改行で注意されたんだけど、どういう事?
■A15 大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われる事が多いです。
一般的にその程度の文字数で単語が切れない様に改行すると読みやすいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
↑が全角四十文字、
↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あくまで読者が読みやすい環境の為、ではあるのですが
閲覧環境が様々ですので作者の意図しない改行などを防ぐ意味合いもあります。

また基本横書きである為、適宜空白行を入れた方が読みやすくて良いとも言われます。

以上はインターネットブラウザ等で閲覧する事を考慮した話です。
改行、空白行等は文章の根幹でもあります。自らの表現を追求する事も勿論"アリ"でしょうが
『読者』はインターネットブラウザ等で見ている事実はお忘れ無く。読者あっての作者、です。

■Q16 長い沈黙は「…………………」で表せるよな?
「―――――――――!!!」とかでスピード感を出したい。
空白行を十行位入れて、言葉に出来ない感情を表現したい。
■A16 三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ使います。
『……』、『――』という感じです。 感嘆符「!」と疑問符「?」の後は一文字空白を入れます。
こんな! 感じぃ!? になります。
そして 記 号 や………………!! 



“空 白 行”というものはっ――――――――!!!


まあ、思う程には強調効果が無いので使い方には注意しましょう。


■Q19 感想、批評を書きたいんだけどオレが/私が書いても良いの?
■A19 むしろ積極的に思った事を1行でも、「GJ」、「投下乙」の一言でも書いて下さい。
長い必要も、専門的である必要もないんです。 専門的に書きたいならそれも勿論OKです。
作者の仕込んだネタに気付いたよ、というサインを送っても良いと思われます。

■Q20 上手い文章を書くコツは? 教えて! エロイ人!!
■A20 上手い人かエロイ人に聞いてください。
0005巻頭特集【テンプレート】補則@垢版2015/06/10(水) 23:31:33.06ID:aZv8IpUP0
>>4
■Q18 第○話、ではなく凝った話数にしてみたい
A18 別に「PHASE-01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも「同情できない四面楚歌」でも、
読者が分かれば問題ありません。でも逆に言うとどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。
ただし長編では、読み手が混乱しない様に必要な情報でもあります。
サブタイトルも同様ですが作者によってはそれ自体が作品の一部でもあるでしょう。
いずれ表現は自由だと言うことではあります。
0007通常の名無しさんの3倍垢版2015/06/11(木) 23:46:22.51ID:TSzIGB6L0
スレ建て乙です。

>>3
> ■Q12 投稿制限を受けました(連投)
> ■A12 新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
連投規制、五回に変わってる?
職人も5レスまでしか連投できてないよね。
0008三流F職人垢版2015/06/16(火) 01:41:38.86ID:lxKyAeY90
投下します。

ガンダムビルドファイターズ side B
第14話:遊び人(プレイヤー)達

「「「はあぁぁぁぁーっ??」」」
第17回ガンプラバトル世界選手権、決勝トーナメント1回戦第3試合は
出場選手で前大会覇者のリカルド・フェリーニの、そして観客の
素っ頓狂な叫び声で幕を開けようとしていた。
対戦相手はグレコ・ローガン。昨年の決勝の対戦相手であり、
無骨で屈強なアメリカンヒーローを思わせるその大男が、筐体にセットしたガンプラが
あまりにも以外で、そして不釣合いだったからだ。
「・・・呂布トールギスだな。お前にSDは似合わなさすぎだぜ。」
まぁトールギスをチョイスするあたりはグレコらしいが、しかしどちらかというと
可愛い系のSDガンダムのガンプラを、この大木もなぎ倒しそうな大男が使うのは
あまりにもイメージに合わない。

「人のことよりお前はどうなんだ、トレミーラは直ったのか?」
「ああ、スペアパーツは一通り用意してたからな。オリジナルに匹敵する
 セッティングも出たぜ、お前さんにとっては残念ながら、な。」
粋なポーズを取って挑発するフェリーニ。もっともグレコも彼とは
10年以上のライバル、今更動揺する素振りも無いが。
「なら良かった、今年こそお前のトレミーラを撃破する、その秘密兵器が
 この呂布トールギス・スピリットだからな。」

 粒子が舞台を覆う、1回戦屈指の好カードが幕を開ける。
 ーSTAGE WILDEMESSー
「荒野ステージ!ミスターGのマックスターを思い出すなぁ・・・」
選手控え室で宇宙が呟く。東四国大会決勝の相手、ミスターGこと矢三附監督、
何故そのガンプラをチョイスするのか、バトルに大切なことは何か、そんなことに
こだわった愛すべき中年ガノタ。
「・・・そういや予選でグレコさんと戦ったけど、ミスターGとかぶったなぁ。
 パワフルで、真っ向勝負タイプで。」
「あの二人が戦うと、大抵は『力のグレコVS技のフェリーニ』の構図になるのさ。」
後ろでそう解説したのはライナー・チョマーだ、同じく世界大会の古参組。
「だがSDではどうかな・・・火器の装備が売りのトールギスだが、あれには見えないぜ。」
隣でルワン・ダラーラが呟く。呂布トールギスが持っているのは槍一本のみで
アメリカの映画マッスルスターを思わせる重火器はひとつも装備していない。
0009三流F職人垢版2015/06/16(火) 01:42:24.15ID:lxKyAeY90
 試合はチョマーの解説どおりの展開となった。スピードと多彩な攻撃でかく乱する
フェニーチェ・トレミーラに対し、直線的な動きで間合いを詰め、たまにすれ違う際の
一合で渾身の斬撃を喰らわす呂布トールギス。
「さて、呂布といえばそろそろ、かな。」
フェリーニが身構える、と同時にグレコが叫ぶ。
「旋風大烈斬!!」
呂布トールギスが巨大な竜巻をまとい、トレミーラに打ち込む。そして打ち終わった後
即、追撃の体制を取る呂布。フェリーニのかわす方向に追撃を仕掛ける気だ。

 しかし、トレミーラはその竜巻を避けようともせず、やがて飲み込まれる。
吹き飛ばされ、舞い上げられるトレミーラがやがて地上に叩きつけられ・・・なかった。
まるで空中遊泳のシメのように華麗に着地するトレミーラ。
「なん・・・だと!?」
「竜巻と同じ方向に、同じスピードで回転すりゃダメージにはならねぇよ。
 トレミーラの機動性と俺の操縦センスなら簡単なこった。」
言うは安し、というやつだな、とメイジンが呟く。一歩間違えば自爆に近い
終わり方になるというのに・・・
「俺はお前やメイジンと違って、機体をとっかえひっかえたりしねぇ、
 あくまでウイングガンダム1本で戦う、この機体が大好きだからな。
 そんな長年の付き合いだから、こいつの動きは指先一本までわかるんだよ!」
言って高速移動を開始するトレミーラ。呂布トールギスの回りをぐるぐる回りスキを伺う。
「そしてわかってるかい?呂布トールギス、いやSDガンプラの欠点を。」
「くっ!」

「欠点?」
選手控え室で頭をひねる宇宙。その質問に同じ日本人が答える。
「SDガンダムの必殺技は強力なものが多い、でもそれは裏を返せば粒子、つまり
 エネルギーチャージに時間がかかるのさ。」
サザキ・ススムの解説に、マツナガ・ケンショウが続く。
「より低年齢向けのアニメ、SDガンダムには子供ウケを取るために、現実にはありえない
 威力の技が多く存在している、その分チャージに時間がかかるようにして
 バランスを取っているんだ。」
「旋風大烈斬は呂布トールギスの技でも強力な部類だからな、しばらくは打てまい。」
マイケル・チョウの言葉どおり、次の技が出せないクレコ。遠巻きに回転するトレミーラを
睨みつづけるしかできない。
0010三流F職人垢版2015/06/16(火) 01:43:18.33ID:lxKyAeY90
「それじゃ、決めるぜ!」
フェリーニがそう呟き、呂布トールギスに突進する。槍を構えて迎撃体制の呂布。
トレミーラに一閃を振うも、その槍は空を切る。
「なっ!!」
次の瞬間、トレミーラは呂布の周囲で分身した。正確には残像を残すほどのスピードで
高速移動を繰り返しているのだが。
「バカな、これはF91の技・・・」
「質量をもった分身だろうが、トランザムの速さだろうが、このトレミーラで再現できねぇ
 動きは存在しねぇよ、終わりだグレコ!」
ビームサーベルを抜き、次々に呂布トールギスに剣撃を浴びせる。
右に左に、ピンボールのように弾かれ、次々に鎧を剥がされていく呂布トールギス、
ほどなく上半身の鎧は失われ、ホワイトボディをさらけ出す。

「鎧に頼り、SDに走ったお前の負けだよ、グレコ!」
とどめのビームサーベルを呂布に突き立てる、胸に深々とめり込んだサーベル。
しかしそのサーベルは背中からは出てこなかった。
「盾か、胸に仕込んでいたな!」
「霊亀甲盾ってんだ、覚えとけ!!」
トレミーラの腕を掴む呂布トールギス。後ろに飛んで振りほどこうとするフェリーニ。
「逃がすかあぁぁぁぁっ!」
トレミーラの腕をねじ上げ、背中のバーニアを全開にして突進、そのまま地面に激突し
体をこすりつけながら土煙を上げて疾走する2機。
「魂いいいいいいいっ!!」
呂布も、トレミーラも、地面を体でこすりながら次々に破損していく。
このままでは、どちらかの機体が完全に壊れるのは時間の問題、そしてそれは・・・
「正気か?鎧を失った分、お前のほうが早くスクラップになるぜ!」
呂布トールギスはすでに右腕が無い、左腕でトレミーラの右腕をねじふせ、半身になって進んでいる。
「いや、ヤツの狙いは・・・場外か!」
選手控え室でヤンが叫ぶ、2人のコックピットはリングアウト警報が鳴り響いている。
このまま疾走して、場外ギリギリでトレミーラだけを放り出す作戦のようだ。

「そうはいくかい!」
空いた左腕を使って地面を掴み、動きを止めようとするトレミーラ。
その腕がつっかい棒のように働いて、反転して逆立ちする2機。
その時、二人が見たのは、目の前に迫る竜巻だった。
「必殺技!いつのまに撃ちやがった!?」
「さっき『魂!』って叫んだときにさりげなく、な。」
2機が体を起こした時、すでに竜巻は目の前に迫っている。背後はもうリングギリギリだ。
「もいっぺんかいっ!」
そう叫んで竜巻に同調回転をするトレミーラ、呂布にはこの回避行動は出来まい、と。
「決定的なスキ、ついに見せたな、フェリーニ・・・」
背中の槍を抜くと、回転するトレミーラに深々と突き立てる呂布トールギス。
「なっ!」
「俺が場外に弾かれるのが先か、お前のトレミーラが壊れるのが先か、勝負!」
突き立てた槍を下に引き降ろす、タテ割りに両断されるトレミーラ。
その瞬間、自らの竜巻に飲まれた呂布は場外に飛ばされ、残ったトレミーラが爆発する。

 ーBATTLE ENDED−
0011三流F職人垢版2015/06/16(火) 01:43:54.99ID:lxKyAeY90
 水を打ったように静まる場内、そして機械的な音声が、勝者の名を告げる。

 ーWINNER・・・GRECO、LOGANー
 
 割れんばかりの大歓声が会場を包む。世界大会3連覇を目指したフェリーニの進撃は
ついにここでストップした。
「メイジンに続きフェリーニもかよ!」
「やったなグレコ、ついにお前の時代だ!」
「今年ほど予想できない大会って無いぜ・・・」
様々な感想が飛び交う中、空虚に壊れた愛機を見つめるフェリーニ。
「バカな・・・俺のトレミーラが、何故あんな急造ガンプラに・・・」
そのフェリーニの横を、一人の少女が駆け抜け、そのままグレコに抱きつく。
「やったねパーパ、フェリーニってヒトにやっと勝てたね。」
「うぇええっ!?パ、パパ・・・?」
驚いて顔を上げるフェリーニ。8歳くらいの金髪の少女は父親に抱かれて頬にキスをしている。
「お前・・・結婚してたのかよおぉぉっ!しかもそんな大きい娘まで・・・」
「ああ、言ってなかったな。お前らに羨ましがられるといかんと思ってな。」
実はグレコの家族はガンプラに随分理解ある家族らしい。選手によっては家族の反対で
しぶしぶガンプラを引退する人もいるというのに・・・
「ってことは、そのSDトールギス、まさか・・・」
「ああ、ヘレン・・・この娘のプレゼントなんだ。『これでお前に勝ってね』ってな。」

「・・・なるほど、俺を倒す秘密兵器、ね。」
納得した表情で親娘を見るフェリーニ。自分のWガンダムへの愛は誰にも負けるつもりはない、
しかし『愛する人に託されたガンプラ』の強さには及ばなかったってコトか。
両手を広げて首を振り、ため息ひとつ。そしてグレコに握手の手を差し出す。
力強く握り返すグレコ、そして拍手に包まれる会場。

「そろそろ俺も嫁さん探さんとなぁ、キララちゃんどうしてっかな・・・」
世界各地に愛人を持つ男が、修羅場を想像して身震いしながら、少し未来設計を考えた。


「さて、次は俺たちだな。前の試合に負けないように盛り上げようぜ。」
しかし、端正な顔立ちの黒人選手の反応は冷たかった。
「馴れ合うつもりは無い。」
それだけ言って、チョマーを一睨みして部屋を出て行くヨハン・シェクター。
「・・・ありゃダメだな、多分。」
アレクセイ・ジョンの言葉に、宇宙とマツナガが不思議そうな顔をする。
その二人の背中をポンと叩くサザキ。
「気合も過ぎれば毒になる、ってヤツさ。彼も初のベスト16だからムリも
 ないけどねぇ。」
0012通常の名無しさんの3倍垢版2015/06/16(火) 02:21:02.80ID:pUC51PIX0
支援
0013三流F職人垢版2015/06/16(火) 07:08:15.26ID:/i9clmFcO
規制解除待ってたら寝落ちしてた。
残りは今夜に。
0014三流F職人垢版2015/06/16(火) 22:40:13.96ID:lxKyAeY90
というわけで残り投下します。

「それでは本日最終戦、ドイツ代表ライナー・チョマーVS南アフリカ代表
 ヨハン・シェクターの試合を行います!」

 −STAGE SEASIDE−
「ライナー・チョマー、ザクレロホイシュレッケ、行くぜ!」
「ヨハン・シェクター、ズサ・グッドホープ、出撃!」

 開始と同時に火器を全開にし、ミサイルを針ねずみのように発射する
白黒のツートンカラーのズサ。
「いきなりかよっ!」
Uターンし、逃げに入るザクレロ。しかしミサイルは正確にホーミングして
ザクレロに追いつき、周囲に火炎の花を咲かせる。
さらにミサイル、バルカン、そして手持ちのビームライフルで爆風の中心に
集中攻撃を仕掛けるズサ。

「どっち撃ってんだよ、こっちだ、こっち。」
なんといつの間にかズサの少し後ろに回りこんでいるザクレロ。
「なっ!」
驚きの声が、怒りの声に変わるのに時間は不用だった。
「背後にいながら攻撃もしてこないとは、舐めるなあぁぁぁっ!」
ビームサーベルを抜刀し、ザクレロに突っ込むズサ。
2度3度斬りかかるが、ザクレロはその機動性を利してすいすいとかわす。
「まーちょっと落ち着けよ、先制攻撃失敗したのにそんな焦んなよ。」
「黙れ、黙れえぇぇぇぇっ!」
逃げた方向に、再度ミサイルを放つズサ。再度爆風が上がり、土煙が視界を遮る。

「やっぱダメだな、動きも戦略もバラバラだ。」
「予選の時は、彼も冷静だったんだがな。」
ルワンとローガンが語る。ベテラン選手なら誰もが通ってきた『1回戦の壁』の厚さ。
この舞台で大観衆の前に立って、いきなり冷静でいられる選手はそう多くはない。
特にぽっと出の宇宙や、確固たる決意で出てきたリーナやヤンと違って
苦労を重ねてようやくここまで来たヨハンにとって、そのプレッシャーは
計り知れないものがある。
0015三流F職人垢版2015/06/16(火) 22:40:43.91ID:lxKyAeY90
 土煙の中、またもザクレロを見失うズサ。
「どこだ!また背後か?それとも空中・・・海に入ったか!?」
きょろきょろ四方八方を見回すズサ。しかしザクレロの姿はどこにも見えない。
右を見れば青い空とエメラルドの海、左を見れば砂浜と堤防の海岸に、ごろごろ転がる
ちょうどMSくらいのサイズの岩。
「くぅっ!」
海から離れるズサ。海中からの攻撃に怯えつつ、周囲を見回しザクレロを探す。
右を見ても岩、左を見ても岩、また右を見ても・・・
「・・・ん?」
左手にあった無数の岩、そのひとつに何か字が縦書きしてあるのが見えた。
後退を止め、その岩の前まで移動するズサ。
その岩には日本語でこう書かれていた。

『わたしは岩』

「どこのシロクマだキサマああああああああああああああっ!」
バランスの悪い足でケンカキックを岩にぶちかますズサ。その岩がまるで
ダンボールのように吹き飛び、中からザクレロが現れた。
「ナイスツッコミ!てか、知ってるのがスゲェな。」
ドヤ顔で親指を立てるチョマー。
「試合前、急に工作室に行って何を作ってたかと思えば・・・」
フェリーニとメイジンが居並んで呆れる。秘密兵器の一つでも作ったのかと思えばコレだ。

「いい加減にしろ!真面目にやる気が無いのか貴様!!」
激高するヨハン、もはや完全に『舐められてる』と見たのか、怒り心頭である。
「心外だなぁ、俺はマジメにやってるぜ。ガンプラバトルっていう『オモチャ遊び』をな。
 お前さん、戦争でもやってるつもりかい?」
「・・・っ!」
気勢を削がれるヨハン。言ってしまえばその通りである。
「これは、世界大会のトーナメントだぞ!負ければそれで終わりなんだぞ!!」
「来年また出りゃいーじゃねぇか。」
事もなげにさらっと返すチョマーに、さすがに言葉を失うヨハン。
「楽しけりゃいいのさこんなのは。今さっき工作室でこの岩作ってた時も、
 お前さんの反応を想像しながら作っててすげぇ楽しかったぜ。
 で、その青写真通りのリアクションが貰えて大満足さ。」
0016三流F職人垢版2015/06/16(火) 22:41:19.40ID:lxKyAeY90
 しばし硬直し、だはーっ!と特大の溜め息を吐き出すヨハン。
「もういい、怒る気も失せた。俺もスキにやらせてもらうよ。」
そう言って後退し、海に入るズサ。やがて完全に潜り見えなくなる。
「(ふん、冷静になりやがったな、そうこなくっちゃ)」
ザクレロも丘から海に飛ぶ。海中には入らず、海面ギリギリを飛行して出方を待つ。

 ざっばああんっ!
いきなり水中からアギトが飛び出してきた。通りかかったザクレロに噛み付いたそれは
ズサの足部分だった。ミサイルポッドとそのフタを反転させ、まるでサメの顎のように
噛み付ける仕様になっている。
「希望岬名物、ホオジロザメアタックってか!?どうりでカラーが白黒なわけだ。」
「理解が早くて助かるよ、解説の必要が無いな。」
薄く笑いながら、ザクレロを海中に引きずり込む。そう、この足を作る時、こんなシーンを
想像していたハズだ。

 ほぼ海底まで移動したところでザクレロを開放するズサ。
「この距離ならかわせまいっ!」
ミサイルポッドを開放するズサ、泡を巻いて無数のミサイルがザクレロを襲う。
「シィイヤァァアッ!」
操縦席のチョマーが吠える、両腕のカマを振り回して、自分に命中しそうなミサイルを
両断していく。
「なるほど、ホイシュレッケ(カマキリ)とはよく言ったものだ!」
「地上ならともかく、水中のミサイルならノロいぜ!発射順もさっき見せてもらったしな!」
・・・直後、かわしたミサイルと叩っ斬ったミサイルが背後で爆発する。
水圧に押し出され、ズサの方に飛ばされるザクレロ。
「のわあぁぁぁぁっ!」
「うん、水中だからな。」
再びザクレロを咥えるズサのジョーズ、しかも回転ながら飛ばされてきたザクレロの背中から
食いついているため、ザクレロは完全に無防備かつ攻撃手段が無い。
すかさずビームサーベルを抜き、ザクレロに決めの一刀を振り下ろす。
「終わりだっ!」
0017三流F職人垢版2015/06/16(火) 22:41:57.61ID:lxKyAeY90
 瞬間、ズサの機体は猛烈な勢いでスパークする。
「ぐあぁぁぁっ!な、なんだ!?」
ズサの機体には、ひも状のものが巻きついていた。それが発する電撃がズサの動きを止めている。
「ウ、ウミヘビか・・・」
「まぁ水中だからな、電撃は効く効く。」
言ってズサに向き直り、メガ粒子砲を向けるチョマー。
「ザクレロにもカマキリにも、ウミヘビはミスマッチ・・・だぜ・・・」
「ハリガネムシ、って知ってるかい?」
「それかあぁぁぁぁぁっ!」
ザクレロの口から発せられたメガ粒子砲は、ズサの体をミサイルごと消滅させる。
・・・ただ、無数のミサイルとズサの爆発の余波で、チョマーのザクレロは
地上に吹き上げられ、海岸をボロぞうきんのように転がるハメになるが・・・。

 −BATTLE ENDED−

 拍手よりむしろ笑いに包まれる場内、勝者がこれほど勝者らしくない試合は
チョマーならではだ。
ヨハンと握手をし、手を振って声援と冷やかしに答えるチョマー。

その姿を、その戦いを見て、感動に打ち震える観客席の里岡大地。
「あれだ、あくまでフェアに、あくまで最高の状態で、なにより最高に楽しく、
 俺は、あの姿に憧れてガンプラバトルをやってるんだ・・・。
 戦いたい、あの人と。頼むぞ宇宙!」

14話終了です。1話に2試合詰め込むのはしんどかったです。
支援感謝でした。
0019三流F職人垢版2015/06/17(水) 23:28:31.42ID:KRVctG9T0
休みだったので1話書きました、投下します。

ガンダムビルドファイターズ side B
第15話:すれ違う邂逅

 一夜明けて8月12日、決勝トーナメントBブロックの4試合が行われる日、
今日でいよいよ世界のベスト8が決定する。
・・・が、昨日勝ちあがった選手は、いずれもガンプラの補修に大忙しだ。
ただひとり、宇宙を除いては。

「修理は俺がやっといてやっから、お前は試合を見て来い。」
兄、大地にそう言われて今日も会場に足を運ぶ宇宙。確かに彼にとっては
大会の様々な戦法やガンプラの特徴を見て知っておいた方が、修理に付き合うより
明日に繋げられる。といってももう第一試合は始まっているが。
 選手室に到着、眼下で行われている試合はレイラVSマイケル。
「おはようございます。」
声をかけるが、返事は無かった。選手全員が食い入るように試合に見入っている、
そういえば会場全体が、なんだか異様な空気に包まれていた。
宇宙も窓に駆け寄り、試合場のモニターに目をやる。レイラのモック、マイケルの
マスターガンダムともに特に大きく壊れてはいない。

「もひとつ行くよー!モックパーンチッ!!」
助走をつけ、モックが超がつくテレフォンパンチを放つ。マスターガンダムは
これを易々とかわし、その腕をひねって地面に叩きつける、もんどりうって転がるモック。
起き上がるより先に接近し、背中のマントのような羽根で打ち据えるマスター、
まるで野球のボールのようにかっ飛ばされて、実物距離で200メートルほど転んで止まる。
「うああ・・・一方的だね。」
宇宙が嘆く、まるで大人と子供の試合だ。
実際レイラは見たところ12〜3歳、マイケルは43歳なのだからそのまんまなのだが。
「・・・そう、見えるかい?」
宇宙の右にいたサザキが嘆く、顔に冷や汗をかきながら。

「んじゃ、もっかいっ!」
モックが再びマスターに突進、信じられないことに無傷だ。
「えええーっ!?」
「さっきからずっとあの調子なのさ。マスターガンダムがいくら殴ろうが蹴ろうが
 まるで効かず平気で起き上がってくる、並みのガンプラなら、何度壊れているか・・・。」
そう言っている間にも、どハデに蹴りを喰らってすっ飛ぶモック、石柱に激突して止まり
石柱だった石の破片がモックに降り注いで完全に埋まる。
・・・ほどなくモックが瓦礫をどけつつ立ち上がる、まるでのれんをくぐるように軽々と
岩をどかしながら。
0020三流F職人垢版2015/06/17(水) 23:29:22.34ID:KRVctG9T0
「・・・い、いいかげんにしろ!貴様の機体、本当にプラスチックかっ!!」
マイケルが吐き出すように言う、確かにプラどころか超合金並みの頑丈さだ。
レイラの後ろで涼しげに笑ってるビルダー、ププセ・マシタが笑って返す。
「プラでなければ、そもそも動かないでしょう。」
「んじゃ、次いくよー、次!」
腕をぐるぐる回して元気アピールするモック。助走をつけてドロップキックを仕掛ける。
それを半後転してよけつつ、逆立ち状態で蹴り上げるマスター。
「うおおおおおおおおおっ!」
落下してくるモックにマスターが下から突っ込む、体を回転させ、ドリルのような勢いで
モックのボディに突き刺さる。
「超級覇王電影弾!!」
そのままモックを持ち上げ、はるか上空にまで到達して折り返し、地上に落下していく。
「くたばれえぇぇぇぇぇっ!」
モックどころかマスター自身さえ破壊しそうな勢いで地面に激突する2機、爆音と振動が響き
土煙が視界を遮る。
 やがて視界が晴れた時、地面に巨大なクレーターが出来上がっていた。
中心部にはマスターが逆立ちの体制で刺さっており、その下にいるはずのモックが
無事だとは誰も思わなかった。
 すっ、とマスターの体が持ち上がる、逆立ちしたまま。
その下にいたモックが、マスターの頭をわし掴みにして起き上がってきたのだ。
完全に立ち上がったモックは、逆立ちのままのマスターの頭部をもぎ取った、
まるで果実でももぎ取るように。

 ーBATTLE ENDED−

 静まり返る会場。唯一レイナの「やったー!」の声が響くのみだ。
選手席で見ている宇宙も愕然として固まっていた。
マスターの超級覇王電影弾が、自分のスパイラルドライバーと被ったのだ。
むしろ威力はマスターのが強かったのに・・・
「どうしろっていうの、アレ・・・」
選手席の誰も返事を返さない。誰もが勝つイメージを想像できないから。
 観客横の通路を下がるレイラとププセ、その二人に観客席から出てきた二人が合流する。
「あれは・・・まさか。」
そう呟いたのはルーカス、突然駆け出し、あわただしく部屋を出て行った。
0021三流F職人垢版2015/06/17(水) 23:30:17.98ID:KRVctG9T0
「お前なぁ、あれじゃ10回は負けてるじゃねーか。ププセに感謝しろよ!」
「いいじゃん、結局は勝ったんだしさ!」
赤髪の中年男性が通路裏でレイラにお説教を垂れている、その傍らにはププセともう一人
30半ばほどの、銀髪のマダムが笑って立っている。
その顔立ちからも、髪の色からも、レイラの母親であることは間違いなかった。
 そこにルーカスが息を切らせてやってきた。
「あ、イケメンのお兄ちゃんだ!」
レイラがマセた言葉で迎える。4人が一斉にルーカスに目をやる。
「貴方は・・・アイラ・ユルキアイネンさん、ですね。」
マダムに向かって問うルーカス。
「・・・お久しぶり、ルーカス・ネメシス君。立派になったわね。」
柔らかに笑って答えるアイラ。
「誰?こいつ・・・」
その場一番の年長者のレイジが、一番ガキっぽい発言をする。
がっくりとうなだれるアイラとププセ。
「これで次期王様なんですから・・・空気読んで下さいよ。」

 30分後、第2試合が始まる。今大会屈指のイケメン対決!

 ルーカス・ネメシスVSマツナガ・ケンショウ
かつて高校時代、グラナダ学園とガバイ学園でのチーム戦で対決した二人が
世界大会の舞台で再戦を果たす。
「ルーカス・ネメシス、クロスボーン・ウッコ、行きます!」
「マツナガ・ケンショウ、ザク・シンデレラ、行くぜ!」
その宣言に大勢が噴き出す。何故シンデレラ・・・

 今日のルーカスは浮かれていた、そしてそのせいで消極的だった。
いつか憧れていた人との再会、そして「次」にその娘さんとの対戦が待っている、
そんな喜びと、本来の彼とマツナガとの実力差の認識がルーカスを蝕んでいく、
超一流のガンプラファイターも、まだまだ20歳前の若者なのである。
決められるチャンスを逃し、受けなくてもいい反撃を受け、それでも勝てるという思いが
ピンチを自覚できないでいる。
0022三流F職人垢版2015/06/17(水) 23:32:25.00ID:KRVctG9T0
コロニーの隙間にザクを誘い込むクロスボーン、迷わず突進するザク。
逃げ場の無い狭い空間でバックパックを変形させ、メガ・ビーム砲を作り上げるクロスボーン。
ザクもまた、従来より大型のシールドを変形、ビーム砲にかざす。
「そのシールド、アブソーブ・システムだね。」
ルーカスが問う。かつて第7回大会でイオリ・セイが作り上げたビーム吸収装置。
「でも、その小ささでこのメガ・ビーム砲を全部吸収できるつもりかい?」
「くっ!」
「もう遅い。」
メガビーム砲が発射され、シールドに直撃!ルーカスの読み通りそのビームは盾を貫通し、
いくつかの光の線がザクをかすめる。
「・・・え?」
貫通?吸収しきれずに爆発するならともかく、アブソーブにビームを打ち込んで何故貫通する?
事実、野太いメガ・ビームは盾に当たって吸収され、そのまま即、盾の後ろからいくつもに
分散して吐き出されている。まるで寒天の塊がトコロテン突きに押し出されるように・・・
「吸収じゃなく、受け流す盾・・・強力なビームを分散して散らすためのアブソーブか!」
時既に遅し、メガビームの反動でバランスを崩したクロスボーンに、ザクのヒートホークが
打ち下ろされる。肩から胴へ、クロスボーンの象徴ともいえるドクロが叩き割れる。
「『シンデレラ』は灰の意味、この機体のような真っ白な灰になるまで戦いつづけるって意味だ!
 お前へのリベンジを果たすためになぁっ!」
「そんな・・・」
初優勝、憧れの人に捧げたかった勝利、その娘さんとの対戦、栄光への道・・・
その全てを飲み込む爆発の花がフィールドに咲く。

 ーBATTLE ENDEDー

ルーカスに対するリベンジのみの執念で這い上がってきたマツナガ
対戦相手のマツナガがまるで見えてなかったルーカス
勝利の女神は、祝福するべき相手を間違わなかった。

 通路裏、立ち尽くすルーカスの前にアイラが現れる。お疲れ様、と残して
一瞥もせずに通り過ぎる、アイラなりの気の使い方で。
ぼろぼろ涙をこぼすルーカス。ほんの少しの油断をした自分を心底呪った・・・。

「それにしても、わっかんねぇなぁ・・・」
選手宿舎、大地がパソコンをいじりながら嘆く。
修理がひと段落ついたので、2回戦の相手、リーナ・レナートの1回戦の録画を
チェックしていた。
試合は常にメイジンのペースだった、最後のあの発光のシーンのみがあまりにも不自然だ、
何故メイジンは左にヤマを張った?何故リーナは全く同時に逆に飛んでメイジンの
背後を取れた?フェイントをかけてるわけでもなし・・・発光のシーンを何度コマ送りしても
その理由がわからない。
「とはいえ、あのメイジンが『偶然負けた』って結論にすんのもなぁ・・・」

第15話終了です、次回で1回戦終了の予定です。こんな長くなるとは思わなかったw
0023ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk 垢版2015/06/22(月) 19:30:22.78ID:dDeAstpj0
とりあえず投下します。二部開始でスロースタートなりますが

ガンダムEXSEED エデンブレイカー
第14話
C.E.2XX――エルヴィオ・マルキー二は、執筆も一段落したので、休憩がてら、昼食にでもしようと思い、家を出るのだった。向かう店は家の近くのダイナーであり、エルヴィオの行きつけの店であった。
こじんまりとした落ち着いた店構えの店内に、エルヴィオは入ると勝手にカウンターのいつもの席に座る。
「オムレツにミニサラダとコーンスープ、ついでにコーヒーを」
エルヴィオは朝食のようなメニューを頼み、店主は何も言わず、コーヒーを出してから調理を始める。話さなくて済むのは面倒がなくていいと思い、エルヴィオはコーヒーを飲みながら、料理が出来るまでをノンビリと待つ。
とは言っても、ただ待っているということも出来ず、店内に備え付けられていたテレビをボンヤリと眺める。ちょうど番組は昼のワイドショーであった。
「――ついに、我が国もオーブの攻略に成功し、地球全土への攻略の足場を築き始めたわけですが、これからの展開については、どうなるんでしょうか?」
テレビの中では番組の司会がコメンテーターに今後の展開について質問していた。コメンテーターは軍事評論家という肩書きの人間であった。
「今後の展開ですが、もしかしたら、停戦もあり得るかもしれません。地球は現在、地球連合とクライン公国残党による共同戦線がはられているので、オーブだけを足場に突破は難しいでしょうから、ここは一旦引くこともありえますね」
ずいぶんと考えが甘いとエルヴィオは思うのだった。停戦などを考えるような連中は、軍にはいない。軍部のジュール家もエルスマン家も好戦的であるし、政治の方ではカナーバの家の人間は変わらずしたたかであり、なにより、今のクランマイヤーは果断で優秀な若者だ。
少しでも国家全体の利益になると踏めば、一気呵成に攻勢に出るよう命令を下すだろう。エルヴィオは間違いなく戦いは続くし、地球全土を支配下にするまで戦いは続くだろうと思うのだった。
ろくでもないことだとエルヴィオは思う。何十年も戦い続けてきて、未だに誰も飽きはしない。そんな国を作ったのはリヒトと自分であること理解しながらもエルヴィオには、後悔はなかった。
そもそも、どうしようもなかったのだ。あの当時は人々をまとめるために、外に敵を造り、人々を団結させ、そして人々を貧しさから救うために、豊かな者たちから奪うしかなかった。方針を変えるタイミングはいくつかあったが、結局はズルズルと戦い続けることとなった。
理由は……バカバカしくて思い出すのも嫌になる。エルヴィオはそこで思い出すのをやめ、ちょうどよく食事が、目の前に置かれたので、出てきた食事に手をつけることにした。
オムレツをナイフで切って口に運んでいる間も、テレビは変わらず地球への侵攻作戦の動向についてコメンテーターが適当に話している。
「――このように、ケビン・ジェイド元帥が健在である以上は、攻略は難しいでしょうね」
不意に、懐かしい名前が聞こえ、エルヴィオはテレビの方に目をやるが、ケビン・ジェイドの話しはそれで終わりだったようで、話題は別に移っていた。
ケビンはまだ現役か。アイツも年寄りのくせによくやる。
エルヴィオは、自分より一つか二つ年上だった男のことを思いだす。ケビン・ジェイド――若い頃は仲間だったが、結局は考え方の違いでリヒトや自分と決別したうちの一人だ。
もう80歳も近いだろうに、元帥などやっているというのは、地球側は相当に人材不足なのかもしれんな。そんなことを考えながら、エルヴィオは急に思いつく。アイツのことも一応、細かく書いておくかと。
決別はしたが、今でもケビンのことは友だとエルヴィオは思っている。向こうはどうだかしらないが、一応、友である以上は、何かしら奴の足跡を残してやってもいいだろうと思い、エルヴィオは、ケビン・ジェイドについても書くことに決めたのだった。
とは言っても、今すぐにではない。ケビンについて書く前に、昼食を済ませなければな。エルヴィオはそう思い、フォークでサラダを突っつくのだった。
0024ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk 垢版2015/06/22(月) 19:31:01.82ID:dDeAstpj0
C.E.168――間違った。それも途轍もなく大きな間違いだ。ケビン・ジェイドは行軍中、そんな考えが頭をずっとめぐっていた。金髪碧眼で爽やかな顔立ちと言われる、その顔も不眠不休の行軍によって、げっそりとし全く生気を感じさせないものになっていた。
それでも、ケビンはリーダーという立場から、自分のことばかり気にしているわけにもいかず、後ろを何度も振り返り、全員が無事についてきているかの確認を怠らなかった。
後ろをついてくるのは皆、ケビンと同じ年頃の少年少女だった。それも当然である。なぜなら、ケビンも含め行軍中の全員がクライン公国士官学校の候補生だからだ。
そう、ケビン・ジェイドはれっきとしたクライン公国士官学校の士官候補生である。そんなケビンが何故、不眠不休の行軍をするはめになっているのかというと。その理由を説明するには、三ヵ月ほど時間をさかのぼることになる。

ケビン・ジェイドは期待に胸を高鳴らせながら、地球への大気圏突入のシャトルの中にいた。周りにいるのは皆、士官学校の同期の候補生達である。同期生たちも、皆それぞれに表し方は違っていたが、期待に満ちている。
「地球ってどんな所だろうな?」
「別にコロニーと変わりはしないだろ」
「特別訓練ってなにするのかな」
「わかんないけど、修学旅行みたいな感じだと思っていいんじゃないかな」
「重力に慣れる訓練程度だろ。志願してない候補生は普通に学校でいつも通りのことやるらしいし、俺達だけが、そんなに特別なことやるわけねーよ」
ケビンは周囲から聞こえてくる雑談を耳にしながら、ボンヤリとしていた。少し気になったことがあったからだ。
ケビンたちは、今回、士官学校の教官から案内された特別訓練に志願したわけだが、その定員は30名限定で志願制。と言っても志願したものの中から士官学校での成績の良い順に30人が選ばれるというものだった。
ケビンの士官学校での成績は3位であり、選ばれるのは分かりきっていたが、1位と2位の二人の姿が見えない上、他にも30番内に入っているのに姿が見えない。それも全員が貴族出身の候補生だ。
だが、気にすることはないかもしれないとケビンは考える。訓練の内容次第では貴族の生徒を出し抜ける。平民出身の自分には、願ってもないチャンスだとケビンは思うことにした。

現在のクライン公国は貴族政となっている。
十数年前に国の体勢が変わったからだ。クライン公国がプラントと呼ばれていたころから、十数年前になるまで、議員やその他の国家の要職に就く家系に対して、公王の名のもとに貴族としての身分と爵位、そして有力な家系には領地として、コロニーを与えた。
しかし、貴族という身分が生まれても、公国が変わることはなかった。昔のクライン公国は公王による独裁と圧政が行われていたが、今は少数の貴族が、貴族ではない平民を虐げるような政治に変わっている。
結局のところは少数の人間が、良い思いするために作られたものだとケビンは理解していた。そのことに嫌悪を覚えるが、嫌っても自分はクライン公国の人間であり、その社会に適応して生きていくことしかできないという諦めに似た思いがあった。
だが、それでも少しでも良い生活や待遇を受けたいと気持ちはある。平民が貴族と同じような生活を手に入れる。そのためには、軍人となるのが一番楽だとケビンは思い、士官学校を受験し、合格、好成績を修め、この場にいる。
ケビンにとって士官学校は這いあがるための手段の一つに過ぎない。
士官学校での生活は、平民であるにもかかわらず貴族の候補生よりも良い成績を修めていることで、なにかと難癖をつけられるなどして良い思い出は全く無かったが、もうすぐ、それも終わる。
ケビンはこの特別訓練の成績も、全体の成績の内に入るだろうと思っていた。この特別訓練で良い成績をとって、主席と次席の二人を追い抜く。二人は貴族であり、ケビンに度々、嫌がらせをしてきた。
幸い奴らは、ここにはいない。出し抜くには最高のチャンスだ。そして自分が主席卒業の果たし、貴族の奴らを見返してやるのだ。そんな風に考えるとケビンは、訓練への期待が抑えることができず、口元に薄っすらと笑みを浮かべていた。そんな時である。
0025ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk 垢版2015/06/22(月) 19:31:32.32ID:dDeAstpj0
「大丈夫ですか?」
ケビンは声をかけられハッとして普段の爽やかと言われる顔に戻り、隣の席に座り、自分に声をかけてきた、ジェシカ・エイプリルの方に顔を向けて、逆に尋ねる。
「何が?」
ジェシカはブロンドの髪を肩の下まで伸ばした、おっとりとした感じの少女だった。穏やかで誰に対しても優しい、士官学校が極めて不似合いな少女だった。
ジェシカは心配そうな顔でケビンを見ながら口を開く。
「何か思いつめてません?」
「別にそんなことはないよ。ただ、訓練が早く始まらないかと思って、落ち着かないだけだよ」
そう言うと、ジェシカは心配そうな顔のまま言う。
「なら、良いんです。ですけど、何かあったら言ってくださいね。出来る限り力になりますから」
ジェシカはそう言って、姿勢を戻して前を向く。いつも気にかけてくれて、ありがたいとケビンは思う。
そして、もしかしたらジェシカは自分のことが好きなのではないかと、ケビンは常々考えていた。いつか告白しよう。ケビンはそう思い、とりあえずシャトルが目的地に到着するまで身体を休めることにした。

ほどなくして、シャトルは着陸する。それは、北アフリカのクライン公国支配地域内にある軍事施設であり、正確にはプロメテウスPMCという民間軍事会社が管理している施設であった。ケビンら候補生にはそのくらいの情報しか与えられていなかった。
ケビンたち候補生がシャトルから降りると、シャトルは候補生を置き去りにするように動き出し、飛び立っていった。
まいったな、ここからどうするんだ?ケビンは基地のようにも見える軍事施設に置き去りにされ、どうしていいのか判断に困る。基地の外を見回しても荒野であり、周囲には人のいそうな気配はなかった。
そんな風にしてケビンら士官候補生達が、途方にくれていると、ゆっくりとした足取り、ケビンら士官候補生に近づく人影があった。
「やぁ、こんにちは」
声をかけられ、ケビンら士官候補生達は、その人物の方を向く。そこにはカーキ色の戦闘服を着た男性が立っていた。極めて整った容姿を持つ男性であり、二十代以上ではあるだろうが、年齢に関しては予測がつかなかった。
ケビンはその男性が、訓練教官だと理解し、男性の発言を待つ。すると男性はすぐに尋ねた。
「この中で学校の成績が一番良いのは?」
そう言われて、ケビンはすぐに手を上げ、発言する。
「自分です!」
そう言うと、男性はケビンに近づき、握手の手を差し出す。それに応じて、ケビンも手を出し、握手する。
「よろしく、ハルド・グレンだ。クライン公国軍から依頼されて、キミ達の訓練教官代表を務める。所属はプロメテウスPMCだ。今はお互い気楽にいこう」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ケビン・ジェイドです」
互いに挨拶すると、グレンという名の教官は、握手の手を離し、候補生全員に対して言う。
「取り敢えず現状はジェイド候補生がキミ達のリーダーだ。彼を中心に上手くまとまってくれ。宿舎はそこの四角い建物だ。とりあえず、宿舎に入ったら訓練開始だ。健闘を祈る」
そう言って、グレン教官が去って行くと、候補生たちは一斉に話し始める。
「すっごいイケメン。どうしよう」
「あんなカッコいい人、見たことないよ。ちょっと話しかけてみない?」
これは女子の士官候補生の言葉である。
「そりゃ顔は良いけど、民間軍事会社だろ」
「つまりは傭兵でろくでなしだ。そんな奴が俺らに何を教えるんだ?こっちは士官学校できちんと訓練を積んでんだぞ」
これが男子の士官候補生の言葉である。
ケビンはとりあえず、この場で話していても仕方ないので、候補生に指示を出す。
「とりあえず、ここで話していても仕方ない。宿舎に入ろう」
そうケビンが提案すると。どこからか小さな声が聞こえる。
「成績いいだけで、いきなりリーダー気取りかよ」
ケビンは聞こえてきた言葉を無視して、候補生の全員に宿舎へ向かうように促した。
自分があまり好かれていないことをケビンは知っている。それが勉強などに手一杯で候補生との関係をつくることをしてこなかったせいだということも。実際、候補生の殆どがケビンを好きではないが嫌いでもないという微妙な感覚であった。
反感を買うのも当然かもしれないと理解しながら、ケビンはリーダーとして指名された以上、やるべきことはやる。その思いで、候補生の全員に急いで宿舎内に入ることをうながした。
0026ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk 垢版2015/06/22(月) 19:32:10.69ID:dDeAstpj0
そうして、全員を宿舎内に入れ、最後にケビンが入ると。ケビンは宿舎内を見回して何とも言えない気持ちになった。なぜなら、宿舎と言ってもそこは倉庫に安物の二段ベッドを二列に並べただけのものであった。
ここで寝るのか?ケビンがそんなことを考えていると、候補生の女子が大声でケビンに対して呼びかける。
「女子と男子で部屋が分かれてないんだけど!」
「シャワーとトイレも男用しかないみたいだけど、女子は違う宿舎なのかな?」
ケビンは女子のその声を聞いて、どういうことだと確かめに行く前に、とりあえず荷物を置く。ベッドを迷うことが無かったのは、丁寧にベッドが成績順に並んでいるためであった。
「とりあえず、みんな、自分の士官学校の成績の順番のベッドに荷物を置こう。問題があったら、その時に変えよう。とにかく、自分の居場所を決めるのが重要だ」
ケビンがそう言った直後だった、突然、宿舎のドアが開き、銃を持った兵士たちが一斉に宿舎になだれ込んできた。
「おら!何やってんだ、グダグダとやってんじゃない!」
兵士たちの後からやって来たのは、グレン教官だった。グレン教官には最初に会った時の穏やかな様子は全くなかった。
「何を見ている。ジェイド候補生?」
グレン教官はケビンに尋ねる。
「どういうことですか!?」
ケビンはそれしか言えなかった。対してグレン教官は特に何も思わずに答えを返す。
「言っただろ。宿舎に入ったら訓練開始だと」
ケビンはその言葉に強く反応する。
「こんな訓練だとは聞いていません!」
そうケビンが言った瞬間、グレン教官はケビンの鳩尾に拳を叩き込む。ケビンはこれまでの人生で味わったことのない重い痛みに耐えられず、膝をつく。
「体罰は一回だけだ。もう二度としないから安心しろ」
そう言った後でグレン教官は言う。
「オマエが聞きたいことはいろいろあるんだろうが、それは無視する。聞いても仕方がないからだ。逆に俺の方が聞きたい。なぜ、この程度のことで慌てるのかと。
これはプロメテウスPMCが訓練に付き合うことになってから、毎回やっていることだ。情報を仕入れておけば、さして慌てることもないはずだ。だが、情報を仕入れていなかった。これは誰の怠慢だろうな?」
グレン教官がそう言った直後、候補生の一人が殴られ、倒れる。体罰は一回だけとさっき言ったはずなのに、とケビンはグレン教官を見る。
「俺は体罰をしないように努力するが、他の教官は俺ほど自制心はないかもしれんのでな。ああいうことにならないようにするのも、オマエの仕事だ。だがまぁ安心しろ、今後こちらが直接的な暴力を振るうことはないと思って良い。その辺りは常識をわきまえてるんでな」
どこが常識的なんだとケビンは思い、膝をついた姿勢で、グレン教官を睨みつける。
「お、どうした?睨むだけか、殴って来ないか?随分と臆病な奴だ。お前は軍人に向いてないな。良く分かる」
ケビンは挑発されているということが分かったが、挑発に乗ってもいけないことを理解していた。挑発に乗って教官を殴りでもしたら、自分の評価にも影響される。ケビンは好成績で訓練を通過すること目標としていたため、手を出すのはマズイと判断し耐えた。
「根性無しが。だが、まぁいい。お前のような根性無しのクソを、小便臭いガキ程度に鍛え上げるのが俺の仕事だ。覚悟しておけ、タマナシ野郎」
グレン教官はケビンにそう言ったあと、訓練生全員に呼びかける。
「とりあえず言っておく。俺はお前らを地獄に叩き落とすために仕事をしている。ここでは公国のぬるい士官学校のような考え方は通じないし、ルールも違う。ここでのルールはシンプルだ、俺の命令が絶対だということだけだ。それだけを頭にいれろ」
候補生は皆、怯えるような表情で、グレン教官を見ていた。それに対してグレン教官は言う。
「なぜ、こちらを見る?俺を見ていいなどとは一言も言ってない!全員、気をつけ!そこ、頭をこっちに向けるんじゃない、気をつけも満足にできないのか!能無しどもが!全員、その場で腕立て伏せ、俺がいいというまで、続けろ」
グレン教官がそう言うと、候補生全員が腕立て伏せを始める。
「もっと、キビキビ動け!全員、気をつけ!だらしない動きをするな、素早く動け!」
グレン教官は、腕立て伏せを始めようとした候補生全員を立たせる。
「腕立て伏せとはこうするんだ」
そう言って、グレン教官は気をつけの姿勢から素早く、腕立て伏せの体勢に移り、正しい姿勢で数回行うと、立ち上がり、候補生に指示を出す。
0027ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk 垢版2015/06/22(月) 19:33:22.72ID:dDeAstpj0
「腕立て伏せ開始!」
そう言われて、候補生全員は、素早く腕立て伏せの姿勢に移り、腕立て伏せを始める。
「バラバラにやるんじゃない!全員、タイミングを合わせろ!タマナシ野郎、貴様が声を出して合わせろ!」
ケビンは自分のことかと理解し声を出し始める。その瞬間に、グレン教官の怒声が飛ぶ。
「なぜ、勝手に声を出し始める!?了解と言え!確認は何よりも重要なことだ!理解しろタマナシ野郎!」
ケビンはミスをしたと思い、慌てて返事をする。
「了解です!教官!」
「よし、タマナシ野郎、声出しはじめ!」
ケビンはそう言われて、声を出して腕立て伏せを始める。それに合わせて候補生全員が腕立て伏せを始める。
「よし、俺がいいと言うまで、続けろ」
そう言ってグレン教官は候補生の宿舎から退室したのだった。

グレン教官は候補生の宿舎を出ると、大きなため息をついて、ハルド・グレンに戻る。
「お疲れ様です。グレン教官」
同じく、宿舎から出てきた訓練教官の一人がハルドに対して労いの言葉をかける。2mの巨躯を持った、黒人男性であり、顔には大きな傷がある。男性の名はボブ・ヴィッチャーという。
「やめろ、ヴィッチ。教官と呼ぶのはガキどもの前だけにしろ」
ハルドはウンザリとした様子で、ヴィッチャーを連れて、教官の控室に戻る。教官の控室に入ると、待機していた教官がハルドを見て、お疲れ様ですと声をかける。
ハルドは自分のデスクに座ると、とりあえず候補生へのプログラムの予定を見る。既に何年か士官候補生の訓練プログラムをクライン公国軍から依頼されて行っているが、毎年、予定通りに行かないプログラムだ。実際、今年も予定を変えざるをえなくなった。
ハルドは教官全員に伝える。
「予定変更。とりあえず初週は徹底的に体力を消耗させる」
「理由はなんです?」
眼鏡をかけた理知的な顔立ちの若い男性教官トニー・ジョンがハルドに尋ねる。トニーはクライン公国出身であり、クライン公国軍の最精鋭MS部隊、ガルム機兵隊に所属していた経験があり、今回の訓練ではMS操縦の訓練担当である。
「例年のことだが、やっぱりぬるい。とりあえず甘い考えを無くさせるのと、ここのルールを体で覚えさせるためにだ」
分かりましたとトニーは言う。するとヴィッチャーが嘆かわしいような大袈裟な身振りで喋り出す。
「全く去年よりも酷い、あんなレベルで、どうなることやら」
ヴィッチャーは歩兵技術の訓練の担当であり、本人は地球連合軍の歩兵部隊に所属していた経験があり、歩兵一筋の男であった。年齢はハルドよりも上だが、プロメテウスPMCではハルドが上司にあたるため、ハルドには敬語で接していた。
「レベルは去年と変わらんよ。ぬるま湯で育ってきたってのも同じ。客観的に見りゃあ、毎年、候補生のレベルにそんなに変わりはない。酷く見えるのは錯覚だ」
ハルドは切って捨てるように言うと、トニーの方を見て、付け加える。
「ただまぁ、士官学校に入って相当経つのに、基本的な軍人らしさが身についてないのは問題あるがな」
自分もクライン公国の士官学校出身のトニーは肩を竦めて答える。
「公国がザフトだった時から緩いですから、もう慣習のようなものですよ。私の卒業時は敬語がキチンと身についていないのだって何人かはいましたからね。
まぁ、それでも何とかなってしまう。そんな土壌がクライン公国にあるのは事実で、なにせ旧ザフト時代には階級すらありませんでしたから」
「それでも、軍隊として機能していたんだから、凄い時代だったわね」
そう言ったのは、トニーの前に座る健康的に日焼けした肌の女性教官ヨアンナ・ブレシコフだった。ヨアンナは地球連合軍の特殊部隊であるMSデルタに所属していたという経歴を持ち、今回の訓練では歩兵技術とMS操縦の二つの訓練を担当する。
さらに女性であるので、女性の士官候補生の面倒を見るのも彼女の担当であった。
「とは言っても、結局、階級があった方が面倒がなくていいということで階級が出来て今に至るわけですが」
トニーはそう言って話しを締めくくった。
「だったら、学校でもう少し厳しく教えてやってほしいもんだ」
ヴィッチャーが愚痴るような調子でトニーに言うが、トニーは自分に言われてもと苦笑いを浮かべながら肩を竦める。
ハルドは適当に同僚の話しを聞きながら、今後の訓練のプログラムを頭の中で練っていた。クライン公国軍から要求されているのは、すぐに実戦に出しても大丈夫な程度に鍛えられた士官を要請することだ。
そんなのはそっちで勝手にやれ。とハルドは思うが、クライン公国には、トニーも言ったが、ザフトを元としているクライン公国軍は無意識に軍隊らしい縦社会を嫌うような風潮がどこかにある。
0029ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk 垢版2015/06/22(月) 20:10:05.33ID:dDeAstpj0
実戦に出せるようなレベルの兵士をすぐに育成するには、どうしても厳しい方法を取らざるを得ず、そういうような土壌もクライン公国軍には基本的にはないし、現在のクライン公国の士官学校は貴族制度が出来たことにより仲良しグループのようにもなっている。
士官学校で厳しい訓練などをすると、候補生を子に持つ貴族のお偉方の反感を買うので、厳しくもできないというのが現状である。
それでも即戦力になる士官が欲しいので、クライン公国軍は士官学校とプロメテウスPMCに頭を下げて、特別訓練を実施させているのである。
基本的に貴族の候補生は来ない。士官学校の方で、そんな風に手を回している。ついでに、この時点で卒業までの成績は決まっているので、この特別訓練に参加したところで、成績は上がらないという。
成績を上げるために、この訓練に参加している奴にはご愁傷様としか言いようがないとハルドは思いながら、デスクを立つ。
「そろそろ良いだろう。ヴィッチャー教官、プレシコフ教官、行くぞ」
ハルドはそう言って、グレン教官になる準備をすると、再び役立たず共の寝床へと向かうのだった。

ケビンは延々と声を出しながら、腕立て伏せをしていた。既に周囲から声は聞こえなくなっている。おそらく腕立て伏せをやめている者も多いだろう。だが、ケビンはそれを確認しようとは思わない。
確認したら自分の気持ちも折れそうだったからだ。やめるのは仕方がない。コーディネーターとて筋力や持久力は鍛えなければ身につかない。肉体の基礎スペックはナチュラルより上だが、それでも鍛えなければ限界はある。
ケビン自身もそろそろ限界だった。声が出なくなり、身体を支える腕が震えだし始める。もう駄目だ。そうケビンが思った時である。
宿舎の入り口のドアが開き、グレン教官が二人の教官を伴い宿舎に入ってくるなり、言う。
「やめていいぞ」
その言葉を聞いた瞬間、ケビンは崩れ落ちるように宿舎の床に突っ伏した。
「全員、起立、気をつけ!」
グレン教官の言葉を聞き、ケビンはよろよろと立ちあがり、直立不動の姿勢を取る。グレン教官は候補生全員を見渡しながら、歩きはじめると、何も言わず一通り候補生を見ると、最初の位置に戻り、言うのだった。
「根性無しがどいつか、だいたい分かった。誰かは言わん。本人が一番分かっているだろうからな。だが、安心しろ、この訓練が終わるころには嫌でも根性が身についているだろう。お前たちに紹介する。ヴィッチャー教官とプレシコフ教官だ。
お前たちが根性のある兵隊になれるように手伝ってくれるありがたい教官殿だ。敬意を持て」
グレン教官はそう言って巨漢の男性教官と日焼けした女性教官を紹介した。そして二人の教官が挨拶をする。ケビンは正直、体力的に限界に近かったので、早く休ませて欲しいと思うだけだった。だが、グレン教官はそこまで優しくなかった。
「挨拶は済んだ。全員、着替えて宿舎の外に集合。五分以内だ。着替えはベッドの下にある」
ケビンはその言葉を聞いた瞬間に倒れそうになったが、別の方向からの声で意識を取り戻す。
「更衣室はどこにあるんですか?」
それは女子の士官候補生の言葉だった。その言葉に対して答えを返したのはプレシコフ教官だった。
「なぜ、更衣室が必要だ?ここで着替えろ」
「ですが、男性に見られてしまいます」
その言葉を聞くとプレシコフ教官は、発言した女子の候補生の前に行き、強い口調で言う。
「貴様は自分が女だから特別扱いしてもらえるとでも思っているのか?甘く見るなよ。ここでは全員が平等だ。男も女もない。戦場でもそうだ、女だからと言って、銃弾は貴様を避けてくれたりはしない。完全な男女平等な世界だ」
そう言うと、プレシコフ教官は、女子の候補生を突き飛ばす。
「手を出すのは無しだ。プレシコフ教官。だが、まぁプレシコフ教官の言ったことは事実だ。ここでは男女の区別はない。それで嫌な思いをすることがあるのなら、自分たちで工夫しろ。候補生同士のルールに関して、こちらは関与しない」
そう言った後で、グレン教官は時計を見て言う。
「あと三分だ。準備をしろ」
そう言ってグレン教官を含め教官全員が退出する。ケビンは疲労が抜けきらないまま、自分のベッドらしき場所に向かうと、その下を探る。
すると、金属製の大きなケースが見つかり、それを引きずり出し、ふたを開けると、カーキ色の戦闘服が入っていた。それも丁寧に名札付きである。
ケビンはその戦闘服を急いで着る。ケースの中には腕時計も入っており、それで時間を確認する。おそらく間に合っていない。だが、それでも急ぐ必要がある。そう思い、ケースの中身を確認せず。慌てて外に出る。
0030ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk 垢版2015/06/22(月) 20:10:43.52ID:dDeAstpj0
「姓名と階級を報告しろ」
ヴィッチャー教官がケビンと女子の士官候補生に尋ねる。
「ケビン・ジェイド候補生であります」
「ライア・キュールズ候補生であります」
二人がそう言うと、ヴィッチャー教官は頷き、手元のメモに名前を書くと、時計を見た後に言う。
「よし、いいぞ。では走れ。グレン教官の後を追え」
ケビンとライアの二人は訳が分からないと思いながらも、グレン教官が走り出すのを見て、それに続いて走り出す。
速い。ケビンはそう思いながら、グレン教官の後を追う。グレン教官は全力疾走ではない。あくまで、マラソンのような持久走の走り方だったが、ケビンもライアも追いつけない。遠い背中を追うような形で二人は走った。
グレン教官の走るコースは単純で、ひたすらに訓練施設を回るというものであった。だが、グレン教官に追うのに精一杯の二人はそういうことを考えるに至るのは、二週目を終えた時だった。そして、コースが決まっていることを二人は理解した。
かなりキツイがいける、ケビンは三週目の途中で全力を出して、グレン教官の隣に並ぶ。
「若いんだからそうでなくちゃな」
グレン教官はそう言うと、同じペースで走り続ける。キツイ。とにかくキツイ。ケビンは走りながら、グレン教官を見て、ありえないと思った。グレン教官は息を乱さず、散歩程度に走っている。自分は必死にペースを合わせているというのに。
限界だ。ケビンはそう感じると、段々とグレン教官から離されていく。事前の腕立て伏せで体力が削られているとしても、これほど差があるとはケビンは思えなかった。
ケビンは必死にグレン教官に追いつこうと思ったが、無理だった。どうしても遠い背中に追いつけなかった。ケビンは何とか追いつこうと、脚を速めるが、そうした瞬間に脚がもつれ転びそうになる。
マズイ。そう思った時、ケビンを支える手が伸びた。それはライア・キュールズのものであり、その手に支えられ、ケビンは体勢を整え、再び走り出す。
「追いつくのは無理だから、ゆっくりペースを上げていこう」
ライアの言葉に対してケビンは頷くと、ライアのペースに合わせて走る。そうして何週かしている内に、ケビンは後から遅れてきた集団を目にする。
「周回遅れだぞ!」
グレン教官が、そう言っても、周回遅れの集団は急ぐ様子もなかった。彼らはプレシコフ教官に引き連れられ、ひたすらに走っているだけであった。
周回遅れの集団にはジェシカもいたが、ケビンはそこに注意を向けている余裕はなかった。ケビンの意識は、グレン教官についていく。それだけに集中していたからである。
「限界の奴は俺の所に来い!」
ヴィッチャー教官の声が聞こえてくるが、ケビンはまだ余裕があった。問題なく、このまま走り続ける。隣を走るライアも問題はなさそうに見えた。
そうして、走り続けている内に、何人かが脱落してヴィッチャー教官の後ろに並んでいるのを見るようになってきた。ケビンはまだ頑張れるだろうと思ったが、諦めるのは自分の勝手だと無視をしてグレン教官のペースに合わせて走る。
何度か、プレシコフ教官が先導する集団を追い抜かし、二時間近く走っただろうか、気づくと夕方に近くなっていた。そこでグレン教官は足を止め、ケビンとライアに対して振り向き、言う。
「終了だ」
グレン教官は少し大きく息を吐くと、呼吸の乱れは無くなっていた。ケビンはそれを見て、人間離れしているとしか思えなかった。ケビンもライアも息切れと疲労で限界に近いというのに、グレン教官は問題がなさそうだった。
「お前ら二人は俺の後ろに並んで休んでいていいぞ」
そうグレン教官に言われて、ケビンとライアはグレン教官の後ろに並び、一休みする。
やがて、プレシコフ教官が先導していた集団も到着し、プレシコフ教官の後ろに並ぶ。
結果としてはヴィッチャー教官の後ろには、候補生の約半数。プレシコフ教官の後ろに10人程度、そしてグレン教官の後ろにはケビンとライアしか並んでいなかった。
そんな中、グレン教官は候補生を指さし、列を変わるように指示を出す。その結果、プレシコフ教官の列からグレン教官の列に並ぶものも何人かおり、逆にヴィッチャー教官の列に移動させられるものもいた。
0031ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk 垢版2015/06/22(月) 20:11:49.47ID:dDeAstpj0
「この列移動の意味が分かるか?分かる奴は、黙ってろ。分からない奴は考えろ。質問は受け付けない」
グレン教官はそう言った後で、さらに指示を出す。
「全員、その場でスクワット。俺の列は200回、プレシコフ教官の列は300、ヴィッチャー教官の列は500回だ。それで今日は終わりにしてやる。根性を見せろ」
ケビンはそう言われ、冗談じゃないと思ったが、教官の命令なので仕方ないと思い、声を出してスクワットを開始する。グレン教官の列はケビンを中心に全員が声を出してスクワットを始める。
ノロノロと始めるのはプレシコフ教官の列とヴィッチャー教官の列だった。ケビンは他の列が遅れていても気にすることは出来なかった。なぜなら、自分のことをするのに精一杯だったからである。
そんな中、ケビンは後ろの方で人が倒れるような音が聞こえた。気になったが、振り向くような余裕はなかった。
グレン教官が、ケビンの前から移動し、音のした方に向かう。無理矢理やらされるんだろうかとケビンは思った、だがグレン教官の態度は違った。
「よし、よく頑張った。少し休め」
グレン教官はそう言って、再びケビンの前に立つ。その時、別の列で倒れるような音がした。その瞬間であるグレン教官が怒鳴り声を上げる。
「なに休んでる!続けろ!」
先ほどとは全く違う対応にケビンは僅かに面食らったが、体力の限界のせいか感受性が鈍っており、深く考えることはできなかった。グレン教官は早歩きで、倒れた候補生の所へ向かうと、無理矢理立ちあがらせ、スクワットを再開させる。
そして、ケビンの前に戻ると、全員に向かって言う。
「俺が求めてるのは全力を尽くすことだけだ!結果はどうでも良い!とにかく全力を尽くせ!全力を尽くしてない奴は見れば分かる!自分を極限まで追い込めるか、俺たちはそれを見てる!」
グレン教官はそう大声で候補生に伝えると、腕を組んで、候補生の様子を見るの。そこからは、スクワットの回数を数える声だけが響くのだった。そうしている内にケビンは200を数え終える。
終わると同時にケビンはグレン教官に設定された回数をこなしたことを報告する。
「よし、休め」
そう言われてケビンら200回の列は全員が一休みをする。ケビンとしては正直限界であった。このまま休みたい。とにかく一刻も早く身体を休めたかった。もう食事も何もかもどうでもよく、とにかくベッドに横になりたかった。
ケビンらが休憩している中でも、別の列では延々とスクワットが続いている。
「やるべきことを全力でやらないとああなるってことだ。少しは勉強になるだろ?」
グレン教官は自分の列に並ぶ候補生に対して言う。
「お前らはやるべきことを全力で取り組んだ。まぁ完璧ではないが、許容できる範囲だ。そうして正しいことをしているから、こんな風にゆっくりしていられる。明日も今日と同じ調子で頑張れ。では、お前らは今日の訓練は終了。食事を摂り、自由時間にしろ」
ケビンはその言葉を聞いて、いいのかとグレン教官を見る。グレン教官は面倒くさそうに手を振り、さっさと行けと手で示す。
ケビンとその他のグレン教官の列にいた候補生はグレン教官の言葉に従い、その場を後に食堂へと向かうのだった。
ケビンらは限界に近い状態で、よろよろと食堂に辿り着くと、一人がバタリと倒れる。ケビンはそれを放っておくことも出来ず、肩を抱いて起こすが、自分も限界だったせいでケビンも倒れそうになる。だが、すぐにライアが手を貸し支える。
「無理しすぎだって」
ライアが言うのも無理はない。グレン教官の列にいる全員が限界であった。グレン教官の列にいたのは最終的に、5人だった。ケビンとライアそして倒れた男子の候補生。
「二人はそいつを座らせとけよ。俺とコイツでお前らの分まで、食事をとってくるから」
そう言ったのは、別の男子の士官候補生が二人であった。一人は坊主頭で、もう一人は褐色の男子である。二人は食事を取りに行く。その間に、ケビンとライアは、倒れた男子の士官候補生を椅子に座らせる。
「ありがとう、二人とも。僕はベルトリオだ」
男子の士官候補生は名乗り、ぐったりと椅子にもたれかかる。聞こえているかは怪しいが、ケビンとライアも名乗る。
「ケビンだ」
「ライアだ」
そう言うと、ベルトリオは薄っすらと笑みを浮かべながら言う。
「知ってるよ。二人とも有名人だし」
そう言われてもケビンとライアは訳が分からず顔を見合わせるしかできなかった。そこへトレーに食事の皿を乗せた、男子の士官候補生二人がやってきて、全員の前に食事を並べる。
0032ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk 垢版2015/06/22(月) 20:12:16.52ID:dDeAstpj0
ケビンは食事を見て、何とも言えない気持ちになった。食事の皿には何肉かは分からないがシチューのような物と豆を煮た物、温野菜に、良く分からない粒上の物体に、赤みがかったソースのかかった料理があった。
「とりあえず、どれくらい食うかは分からなかったから、食堂の配膳の人に少し少なめに頼んだ。そんなに食えないだろ。みんな」
ケビンもライアも頷く。すると、坊主頭の士官候補生は、ケビンとライアに握手の手を伸ばす。
「リグだ。よろしく、ケビンにライア」
ケビンはそう言えば、こんな奴もいたなと思い、手を伸ばし握手する。続いて褐色の肌の候補生が握手を求める。
「俺は、シャルマだ。よろしく頼む」
ケビンは続けて握手をする。リグとシャルマの二人はライアにも握手を求め、ライアもそれに応じる。
そこで、ケビンはようやくおかしいことに気づいた。なぜ、この二人は自分の名前を知っているのかと。ケビンは不思議に思い尋ねる。
「聞きたいんだが、なんで俺の名前を知っているんだ?」
ケビンはこの二人に自己紹介をした覚えはなかった。それはライアも同じだったようで、ライアも尋ねる。
「悪いんだけど、私も二人に名乗った覚えはないんだ」
リグは別に気を悪くする様子もなく答える。
「そりゃ、二人が有名人だからだな。貴族と張り合って必死にトップを目指す二人。キミら二人は自分より成績の下の人間には興味ないかもしれないが、俺達、下の奴らは興味があった。それだけだよ。そんなことより、さっさと食おう」
リグが、そう言って五人は食事を始めるが、誰も話すことはなく黙々と料理を食べ、そして食べ終えると無言で宿舎に戻る。
五人は特に話すこともないので、宿舎に戻ってもわざわざ話すということはなかった。ただ、不思議なことにケビンは他の四人といて息苦しいということはなかった。ケビンは自分でも不思議に思っていたが、他の四人を仲間だと思っていた。
「シャワーを使う」
ライアが他に四人しかいない宿舎でそう言う。ケビンは、その頃には頭を働かせる余裕が生まれていたので、思い出す。そう言えば、男女のシャワーが一緒だということを。
「悪いが、俺も使いたい。早く寝たいんだ」
ケビンはそうライアに伝えると、ライアは特に気にすることもなく言うのだった。
「だったら使えば良いじゃないか」
ライアの方も気にしていないようなので、ケビンは着替えの下着を持ち、シャワー室へ向かう。シャワー自体はブースに分かれているので、やはり気にする必要も無いと思い、ブースに入りシャワーを浴びて体の汗を流す。
少しして、ベルトリオらもやって来たようで。シャワーを浴びる音がする。
「では先に」
ライアはそう言って、さっさとシャワー室から出ていく。
「ああ」
ケビンも特に気にしなかったが、ベルトリオは気になったようで、ケビンに話しかける。
「彼女は気にしてないのかな」
「何を気にするんだ?男女平等なんだし、気にする方がここでは変なんだろう?」
ケビンがそう言うと、男子の士官候補生三人は沈黙し、何ともいえない空気になるがケビンは気にせずにシャワーを終えたので、シャワー室から出る。
そして自分のベッドに向かうと、ベッドの中に潜り込んで眠ることにした。明日も訓練がある、今日の疲労を残しておくのは賢明ではないと判断したためだった。
ケビンは横になった瞬間に、一日の疲れが一気に襲い掛かり、泥のように眠るのだった。
0033ガンダムEXSEED ◆7LE37x3lEk 垢版2015/06/22(月) 20:14:30.16ID:dDeAstpj0
14話終了です。支援どうもでした。
リヒト編はケビンの話しが終わってからになります。
0034三流F職人垢版2015/06/23(火) 02:18:27.13ID:OWuKMCQH0
おお!投稿乙です。
おかげでモチベ上がりました、こっちも明日夜に投下します。
0035三流F職人垢版2015/06/23(火) 22:48:18.08ID:OWuKMCQH0
それでは投下します。

ガンダムビルドファイターズ side B
第16話:ガンダムの落日

 Bブロック第3試合の開幕は、いきなり原作の逆オマージュから始まった。
アレクセイ・ジョンのガンダム・サイサリスが問答無用で打ち込んだ核弾頭を
サザキ・ススムのギャンがビームサーベルで叩き落したのだ。
「逆だろ、逆!」
観客が、選手が、主催者が一斉にツッコミを入れる。
「さすがだなサザキ、ちゃんと危険な信管部分を避けて落とすとは、律儀なことだ。」
「当然だよ、自らの毒で死ぬ毒蛇は存在しないさ。」
一応、原作で核兵器を打ち込んだマ・クベの愛機、ギャン使いの自覚はあるようだ。

 サイサリスの武装はまさに『兵器』そのものだった。原作付属の武器に加え、ビームやバルカン、
ミサイルにキャノン砲、果ては機雷にビットまで、あらゆる武器のオンパレードで
ステージの工業地帯を次々に灰燼と帰していった。
対してサザキは意外にもビームサーベルと盾のみの装備であった。が、その操縦の正確性と
剣さばきの見事さで、サイサリスの雨あられと飛来する火器を次々といなしていく。

 すでに15年、それはサザキ・ススムがこのギャンというガンプラに拘り続けた年月。
時には盾を2つにし、時には背中にバルカンを背負い、時には下半身をタンクにし、
またある年には頭から下をビグロにしたりもした。
そして今、まるで原点回帰のように剣と盾だけで戦っている。ただしその剣さばきは
単なるモビルスーツの動きを越え、まるでフェンシングの選手のように鋭く、速かった。
その手足、関節の動き、稼動範囲、塗装や仕上げのクオリティ、そして操縦するサザキの
剣技の冴えは、他の誰にも真似出来ないレベルに達していた、ことギャンに限っては。

「アロンジェブラ!」
サイサリスのミサイルポッドが叩き落される。
「リポスト!」
ビーム兵器を交差して突きを加える。
「サーブル!サーブル!サーブルっ!!」
ビットが次々と撫で斬られていく。
「プリーズドフェール!」
ビームサーベルを抜いたサイサリスの両腕を叩き落し。無力化するギャン。

サイサリスも別に無抵抗なわけではない、火器はもとより移動も常に行い
相手との距離を保ち、戦いに有利な状況を常に作ろうとしてはいるのだ。
しかし、全くギャンを振り切ることが出来ず、火器を当てることも出来ず、次々と
フェンシングの技で切り刻まれていく。
「フレッシュ!!」
ギャンの突きがサイサリスの頭を貫いた時、アレクセイのベスト8入りの夢は終わった。
0036三流F職人垢版2015/06/23(火) 22:49:18.59ID:OWuKMCQH0
「勝者!サザキー・ススムーっ!」
司会のお姉さんがサザキを称える。アレクセイにフェンシング流の礼をしてから控え室に向かうサザキ。
その姿を選手控え室から見下ろしていたエマが一言嘆く。
「・・・見事なものね。」
12歳の時、フェンシングの国内代表の最終選考まで言った彼女をして、こう言わしめた。

 1回戦最終試合、優勝候補の一角、ルワン・ダラーラの対戦相手がそのエマである。
いや、一角という言い方は適切ではない。メイジンが敗れ、フェリーニが敗退した今
このルワンこそが優勝候補の筆頭と言ってよかった。

「ルワン・ダラーラ、∀ガンダムビートル、出撃!」
「エマ・レヴィントン、オッゴカスタム、行きます。」

 かつてはアビゴルをベースにした改良機を使っていたルワン。5年前に世界大会を制してからは
様々な機体に手を出すようになった。もっとも、その改造センスは相変わらずだ。
この∀ガンダムもビートルの名に恥じず、背中に甲羅のようなシールドと、両肩には
コーサカスカブトムシのような角を備えている。
予選ではアビゴルを使っていたあたり、今大会の本命はこっちなのだろう。
一方のエマは一見ごく普通のオッゴである。誰もが瞬殺を予想していた。

「まずはこのへんから行くか!」
背中の甲羅を開く∀ガンダム、その内側には多数のビーム発射口。
一斉に発射されるビームの雨がオッゴの周囲一帯を埋め尽くす。
「ディフェンスモード。」
オッゴは機体を横に向け、マニピュレーターを操作して機体横の盾を取り、構える。
ほとんどのビームはオッゴを通り過ぎ、残ったビームは盾に弾かれた。
しかし次の瞬間、オッゴは四方八方からのミサイルの雨に囲まれていた。
ビーム発射のスキに第二波攻撃をくり出していたのだ。
「オールレンジモード。」
そう呟いてコントローラーを操作するエマ、その瞬間、なんと円筒状のオッゴは
タテに割れた。そしてそのまま割れ口を90度回転させ、十字架のようなカタチに変形。
見えなかった切り口部分には無数のミサイルポッドが見える。
乱回転しながらミサイルを四方八方に撒き散らし、自分に向かっていたミサイルを
片っ端から相殺する。

「すごいな、エマさん。よくあれで酔わないなぁ・・・」
高速で乱回転するオッゴを見て感心する宇宙。元々トリックスターのジャイロの発想が
回転酔いを防止するものだっただけに、あの操縦席なら絶対に酔う自身がある。
「なるほど、遠距離戦はなかなかのものだな、お嬢ちゃん。」
そう言ってオッゴに突進する∀ガンダム。ツインビームソードを抜き、回転させながら
オッゴに斬りかかる。一刀のもとに、バームクーヘンのように輪切りになるオッゴ。
「なに!?」
手ごたえは無かった。オッゴは斬られてバラされたのではなく、自らの操縦で
バラバラになったのだ。
タテ割り2分割+輪切り3分割で合計6つの半切り輪っかになったオッゴ、そのパーツは
それぞれがワイヤーで繋がっており、まるでヌンチャク、いや多節混のようだ。
0037三流F職人垢版2015/06/23(火) 22:49:51.04ID:OWuKMCQH0
「スネークモード」
あまりの事態にしばし固まるルワン。その機体∀ガンダムに、分離してヘビのようになった
オッゴが巻きつく。切り口を内側、つまりミサイル発射口を内側にして。
「ファイア!」
そのままゼロ距離からミサイルを放つオッゴ。密着して動けない状態でミサイルの
密着弾を浴びつづける∀ガンダム。
「お。おい。ちょっと待て・・・」
呆然として呟くルワン、その間にも巻きついたオッゴからの超至近距離攻撃は続いている、
∀ガンダムはもちろん、密着しているオッゴも次々と壊れていく、しかしそれでもエマは
攻撃の手を休めない。
 ほどなくその空間に大爆発が起き、巻きついていたオッゴが吹き飛ばされる。
かろうじて原形をとどめてはいるが、その破損状況は悲惨の一言に尽きた。
もはや1/144ジオン兵が殴るだけで爆発しそうに見える。

 ーBATTLE ENDED−

「え・・・俺、もう終わり・・・?」
呆然とするルワン、そして観客。
メイジン、フェリーニと優勝候補の脱落の流れとはいえ、あまりに呆気ない決着だった。
水を打ったような静けさに包まれる試合場、ルワンに一礼して通路を引き上げるエマの
足音だけが響いていた。

「お、おい・・・これで今大会って。」
「ああ、よりによって、なぁ。」
観客の何人かが『ある事実』に気付いていた。それは・・・

○リーナ・レナート(リーオー)   − ×メイジン・カワグチ(ガンダムレッドウォーリア)
○里岡宇宙(ボール)        − ×ヤン・ウィン(ネーデルガンダム)
○グレコ・ローガン(呂布トールギス)− ×リカルド・フェリーニ(Wガンダム)
○ライナー・チョマー(ザクレロ)  − ×ヨハン・シェクター(ズサ)
○レイラ・ユルキアイネン(モック) − ×マイケル・チョウ(マスターガンダム)
○マツナガ・ケンショウ(ザク)   − ×ルーカス・ネメシス(クロスボーンガンダム)
○サザキ・ススム(ギャン)     − ×アレクセイ・ジョン(ガンダムサイサリス)
○エマ・レヴィントン(オッゴ)   − ×ルワン・ダラーラ(∀ガンダム)

 そう、ガンダムと名のつく機体の全滅である。
本来、主役機であるガンダムは、ガンプラバトルにおいても基本的には
有利に戦いを進められるハズの機体なのだ。
しかし1回戦でガンダムの名を冠する機体はなんと全て敗退してしまった・・・
 その夜、ネットではこの話題で持ちきりになった。
”ガンダム落日に消ゆ”、”脇役の反乱”、”メイジンの呪いか?”
そんなタイトルのニュース記事やスレッドが大いにカウンターを伸ばすこととなった。
0038三流F職人垢版2015/06/23(火) 22:51:11.44ID:OWuKMCQH0
「ただいまー。」
宿舎に戻った宇宙が大地に声をかける。が、返事がない。
見ると机の上で突っ伏して寝ている兄、その傍らには完全に修理されたトリックスターが
鎮座していた。
「ありがとう、兄さん、明日も頑張るよ。」
兄の背中に毛布をかけ、部屋の電気を消す。シャワーを浴び、食事を済ませ床に付いた。

 AM3:00、大地が目を覚ます。
「あ、ありゃー、寝ちまってたか・・・この毛布は宇宙か、あいつももう寝たんだな。」
節電モードになっているPCを消すべくマウスを動かし、画面を復活させる。
「あ、そうか・・・リーナ・レナートの戦法を調べてて、そのまま落ちたんだった。」
もっぺん見るか、と、巻き戻しボタンを押す。再生中だったので時間逆行のように
巻き戻されていく。
テキトーなところで再生ボタンをクリックし、画面が歪みながら止まり・・・
そして動き出すまでのその一瞬、大地が奇妙なものを見た。
「・・・なんだ?・・・今のは」
違和感を感じて再度巻き戻す。しかし今度はそれが見えなかった。
眠い頭を総動員して、今見た物の意味を考える。リーオーの『ある部分』に見えた『ある物』。
「・・・まさか!いや、それなら辻褄が合う。」
再度巻き戻して、今度はコマ送りでそのシーンを確認する。
しかし3度、4度と確認しても『それ』は見えなかった。
「そうだ、もし俺の推理が正しければ、そう簡単に『見えちゃ』いけないんだ。」
5度目のコマ送り再生をかける大地、ほんの1/10秒ずつコマ送り再生される画面。
そしてついに、その『物』を見つける大地。
「やっぱりか!これだ、これがメイジンすら負かせた、リーナ・レナートの『罠』・・・」
眠気は完全に吹き飛んだ。さらにコマ送り再生を続け、別のシーンでも『それ』を確認する。
「なんてコト考えやがる!だが、これで宇宙には通用しないぜ!このことを宇宙に伝えれば・・・」
そこまで考えて、はっとする大地。重要な問題が解決していないのに気付いたのだ。

「伝えても・・・意味がないじゃないか、これは。」
愕然とする大地、明日の試合まであと6時間ー

第16話終了です。次回はVSリーナをお楽しみに・・・読んでる人がいたらですがw
0040通常の名無しさんの3倍垢版2015/06/23(火) 23:43:00.41ID:D381MRqE0
お疲れ様です、ずっと楽しく読ませて貰ってます
良い意味で期待を裏切る展開、次も楽しみに待ってますよ
0041三流F職人垢版2015/06/25(木) 02:04:04.62ID:LWQ0/gKX0
うあああモチベーションの上がるお言葉に感激に打ち震えております。
というわけで17話、明日夜投下予定です。
この話でちょっとした転換期になります、ちょいシリアス度アップで。
0042三流F職人垢版2015/06/25(木) 23:32:38.70ID:LWQ0/gKX0
それでは第17話、投下します。

ガンダムビルドファイターズ side B
第17話:激闘の先に

「それでは皆様、お待たせしました。これよりガンプラ世界選手権
 準々決勝を行います!」
司会のお姉さんが威勢のいい声で叫ぶ。ついに出揃ったベスト8。
ベテランありニュージェネレーションありとバラエティに富んだ8人のファイター。
その8人が壇上に上がり、パイプ椅子に腰掛けている。
一人一人、緒戦の内容を織り交ぜて紹介されていく。

「あのメイジン・カワグチをギリギリで撃破、ポニテが似合う16歳!
 アルゼンチン代表、リーナ・レナートぉーっ!」
「粒子が無ければ作ればいいさ!驚異のソウルドライブメカニズム!
 日本代表、サトオカ・ソーラぁーっ!」
「長年の宿敵をついに打倒!フェリーニの3連覇を止めたのはこの人!
 アメリカ代表、グレコ・ローガンーっ!」
「ガンプラびっくり箱は健在、ガンプラバトルのエンターテイナー
 ドイツ代表、ライナー・ちょまぁーーっ!」
「今大会最年少の13歳、いいかげんバレバレの正体を明かして欲しいぞ(笑)
 日本代表、不死身のモック使い、レイラ・ユルキアイネンーっ!」
「九州の若き白狼、ストイックな求道者精神で天才ルーカスに雪辱!
 日本代表、マツナガ・ケンショウーっ!」
「騎士道精神に目覚めたか!?見事な剣裁きがギャンに似合いすぎるぞ!
 日本代表、サザキ・ススムーっ!」
「まるでキャストパズルのような変形オッゴ、独自のセンスでかつての世界王者を撃破!
 スイス代表、エマ・レヴィントンーっ!」

 こうして見ると戦術もガンプラの改造方法も、似たようなタイプがほとんどいない、
マツナガとサザキくらいか。
それだけに誰が勝ちあがり誰が敗退するのか、まったく予想できないメンツである。

「以上8人による準々決勝、まずは第一試合、リーナ・レナート選手VS
 サトオカ・ソラ選手、用意して下さいっ!」
他の選手が退場し、中央のバトルシステム筐体の左右に分かれるリーナと宇宙。
ステージが粒子に覆われ、両者がガンプラをセット、共に修理は完璧に出来ている。
そんな中、宇宙は試合前に兄、大地から受けたアドバイスを思い出していた。
0043三流F職人垢版2015/06/25(木) 23:33:11.69ID:LWQ0/gKX0
「いいか宇宙、相手があの発光装置を使ったら、お前はまず『耳抜き』をするんだ。」
「え?耳抜きって、あの気圧差ができた時にする・・・アレ?」
「そうだ、耳に力を入れて鼓膜の内圧を調整するアレさ、お前は得意だろ?」
「そりゃまぁ、宇宙飛行士を目指すなら絶対必要だしね、でもどうして?」
「いいから、それを絶対に忘れるんじゃないぞ!」

 −STAGE SPACE−

「リーナ・レナート、リーディングリーオー、行きます!」
「サトオカ・ソラ、トリックスター、テイクオフします!」
両者のバトルが始まる。共に1回戦では謎の残る性能を見せた機体だけに
世界中のガンプラビルダー達の注目が集まる。
「先手必勝!」
トリックスターにチャージの暇を与えずに開幕マシンガンを放つリーオー、
両腕に抱えたその銃による乱射のせいで、トリックスターは防御に回るハメになる。
そのまま攻撃の手を休めずに、トリックスターの周囲を回るリーオー。
1回戦同様に中間距離を維持したまま・・・

「そうだリーナ、それでいい。ヤツをあまり飛び回らせるなよ!」
観客席からフリオが呟く。愛娘の戦術の良さに感心しながら。
「(さて・・・果たしてどこまであの戦法がバレずに使えるものか・・・)」
隣でマリオが顎に手を当て、神妙な顔付きで考える。メイジンを仕留めた『あの戦法』は
あまり多用して暴かれると問題になる。かといって今回の相手は粒子を生産するという
離れ業を持つ相手、できれば時間をかけずに倒したい。となれば『あの戦法』を
使わざるを得ない。

「宇宙、忘れるなよ、俺が言ったことを・・・」
反対側の観客席から大地が呟く。リーナの戦法は分かっている、しかし彼女の戦法は
『分かっていても防げない』ところに恐ろしさがある。そのまま宇宙に伝えても
結局意味が無い。そこであえて宇宙の得意な『耳抜き』を指示したのだが・・・
0044三流F職人垢版2015/06/25(木) 23:33:43.75ID:LWQ0/gKX0
 主砲で反撃するトリックスター、もともと盾が大きいトリックスターに
中間距離でのマシンガンはそれほど驚異ではない。開き直って動き出せば
ペースを掴めると考えたのだ。
リーオーが主砲を避けたその一瞬を利用してバーニアを吹かし加速、操縦桿をデタラメに
動かし、乱軌道移動に持ち込む。
「(彼のソウルドライブは、水平姿勢維持装置(ジャイロ)の役割も果たす。それはつまり
 あれだけ動いていても、こちらが見えているということ・・・好都合だわ。)」
相変わらず中間距離を維持したまま、今度はバスーカを手にするリーオー。
狙いをつけず、ボールの行動範囲に数発を打ち込む。
と、その弾がトリックスターの周辺で次々と爆発する、ただの弾ではない、炸裂弾だ。
「うわぁっ!」
爆風を受け、弾かれるトリックスター。彼の乱軌道移動はこのテの『置いておく』武器に弱い、
下手をすると自分から突っ込んで自滅のケースすらある。
「くっ!」
乱飛行を止め、弧を描いてリーオーに突進するトリックスター。しかしリーオーは相変わらず
近づけば離れ、離れれば距離を詰めてくる。攻防をしながらではあるが、どこか時間稼ぎの
ような気配すらある。

「相変わらず、か。」
選手席からメイジンが呟く。彼ですら未だリーナの戦法を理解してはいなかった。
もっとも実戦向きの性格なので、いざリベンジして見破りたい、と思う分が強いのだが。
「今更だがよーメイジン、あのときお前さん、なんで左に斬りつけたんだ?」
チョマーが質問する、壇上に上がっていた選手もすでにこちらに移動していた。
「・・・勘さ、それだけだ。」
そう答えるメイジン。嘘ではない、あの時メイジンの勘はニュータイプのごとく冴えていた、
だからこそ、その勘が外れたことが不思議でならなかった。
その会話を聞いて、ややいぶかしい顔をした選手が一人、グレコ・ローガンである。
0045三流F職人垢版2015/06/25(木) 23:34:24.28ID:LWQ0/gKX0
 リーオーがバスーカのマガジンを入れ替える。次に放ったのはワイヤーミサイルだった。
ワイヤーを引いたミサイルを連射し、トリックスターを追いかける。
獲物を絡め取るクモの糸のように。
「そんなの県大会で経験済みだよっ!」
機体を回転させ、あえてワイヤーを巻きつけるトリックスター、県大会の準々決勝で
アシュラジオング相手にやったように、ワイヤーを巻き込んで相手との距離を詰める。
慌ててバスーカを離すリーオー、ヒートシミターを抜き、迎撃体制を取る。
突進するトリックスターに交差斬りを繰り出すリーオー、皮肉にもその一太刀は
トリックスターに巻きついたワイヤーを切断してしまった。
至近距離で同時に振り返る両者。

「この距離なら!!」
シールド先のビームダガーを点火し、リーオーに突撃しようとしたその刹那、
リーオーの腰にある発光装置が景色を白一色に染めた。
「っ!・・・上かぁっ!!」
宇宙の意識が上に向く。と、その時、彼の脳裏に思い当たる言葉があった。

 ーいいか宇宙、相手があの発光装置を使ったら、お前はまず『耳抜き』をするんだー

「耳抜き・・・んっっ!」
いくら宇宙ステージとはいえ、リアルに耳抜きの必要は無い。それでも律儀に兄の
指示に従う宇宙。
その瞬間、コックピットの警報装置が鳴り響いた。下方向の敵の姿を表示して。
「下っ!?うああ・・・」
嘆きながらも反射的に操縦桿を動かしたおかげで、リーオーのヒートシミターは
カスるだけで済んだ。
「よけた!?っていうか上に動かなかった・・・どうして?」
リーナも目を丸くして驚いている。

「よっしゃ!よく避けた宇宙!」
「バ、バカな!効いてないだとっ!!」
観客席の左右で逆の感想を叫ぶ大地とフリオ、叫んだせいでお互いの目が合う。
焦りの表情で大地を見るフリオ、ドヤ顔で返す大地。
0047三流F職人垢版2015/06/25(木) 23:43:30.11ID:LWQ0/gKX0
「・・・やっぱりかっ!」
選手室でそう叫んだのはグレコだった。他の選手が一斉に彼を見る。
「みんな、気付いたか?今リーオーが発光した瞬間、上を見たんだ。
 ・・・お前ら全員が、そして観客全員がなぁっ!」
「「「な・・・!?」」」
思わぬ言葉に驚愕する選手たち。
「あれは・・・間違いない、サブリミナル効果だっ!!」

「なんて・・・コトだ。」
主催席で青くなっているのはニルス・ヤジマだ。隣のキャロラインが心配そうに視線を向ける。
「・・・確かに、ガンプラバトルのルールでは禁止の明記は無かった、だけど、まさか・・・
 サブリミナル効果を使ってくるなんて!」

  ーサブリミナル効果ー
 見る人の視覚にそれと気付かせないように見せ、意識下に擦り込ませる技法。
一例として、アメリカのある映画ではフィルムの中に数分に1コマだけ、コーラとポップコーンの
画像を挿入しておいた。映画を見た人はそのシーンを認識してはいなかったが、
映画の後、売店にはコーラとポップコーンを求める人の列が出来た。
このように、映像による洗脳効果のあるこの技法は、現在の映像作品では規制、自粛されている。
ただし、ガンプラバトルのルールブックには、この明記は無い。

 サブリミナル効果発祥の地、アメリカ人だからこそ、グレコとニルスはその謎に気付いたのだ。
そして抜群の反応速度を誇るメイジンだからこそ、この仕掛けにハマってしまった。
だが、宇宙は大地のアドバイスにより、発光直後に耳抜きをし、ワンクッション置くことで
反射的に誘誘導されるのを防いだのだ。

「だがよ、どうやって?どこで見せているんだ?」
「決まっているだろう、リーオーのカタチをよく見りゃ、自然にある部分に目が行くだろ?
 お前さん家にテレビは無いのか?」
「あっ!・・・頭のモニターか!!」
「・・・考えたな、リーオーのデザインを逆手にとって、無意識に注目する頭部カメラに仕込むとは。」
選手たちが次々に謎を解いていく。その声を聞きながら、メイジンがサングラスを取り、呟く。
「罠を張っていたのは・・・わたしの意識化に、だったのか、見事だ。」
その呟きを効いて、グレコが呆れて返す。
「おいおい、あんなやり方で負かされて、クレームの一つもないのか?」
「ガンプラは自由だからな。」
さらりと返すメイジン、ぶれないなぁ、と呆れる周囲。
0048三流F職人垢版2015/06/25(木) 23:46:00.18ID:LWQ0/gKX0
「見抜かれた以上、この戦法に拘ってても仕方ないわ。」
ヒートシミターをもう一本抜き、二刀流で構えるリーオー。突撃してくるトリックスターに
剣を合わせようと構える。
トリックスターは高速でリーオーの回りを回っている。相手のスキを伺って突撃技を狙う宇宙。
やがてトリックスターから粒子が溢れ出し、緑色の尾を引く彗星となる。
同じ軌道をまわっているせいで、まるで土星のリングのような輪が出来上がる。
「・・・待てよ、粒子が多いほど出力が上がる、でもそれだけじゃなくて粒子が演出する
 効果も上がるってことか、それなら!」
何かに気付いた宇宙、リーオーの周りをさらに回転、しかも座標をずらして、円から球の軌跡を
描くように飛び回る。結果、リーオーの周囲に出来た輪は、球状にリーオーを取り囲む。
「な、なに?何をする気?」

「いかん、リーナ、そこから脱出しろっ!」
マリオが叫ぶが、それより先に宇宙が行動に出る。
砲塔のマガジンを外し、それをリーオーに投げつける、粒子の球に差し掛かったところで
バルカンでマガジンを破壊する。
その瞬間、リーオーを囲んでいた『球』が、派手に誘爆を起こす。
「きゃあっ!・・・あれ?」
一瞬ひるむリーオーだが、別に爆発の威力が上がってるわけではない。視覚的にハデになった
だけではあるが・・・一瞬のスキを生むには十分だった。
「スパイラル・ドライバーっ!!」
リーオーの側面から突撃するトリックスター、相手のお株を奪う目くらまし攻撃から
一番の必殺技がリーオーのわき腹に突き刺さる。
「決まれえぇぇぇぇっ!!」
リーオーの機体にビームダガーが食い込む、そしてそのまま機体を両断し、突き抜けるトリックスター。
ちょうど上半身のリーオー部分と下半身のドム部分を綺麗に切り分ける形となった。
そしてそれが同時に爆発、四散する。

 −BATTLE ENDED−
0049三流F職人垢版2015/06/25(木) 23:46:46.88ID:LWQ0/gKX0
 湧き上がる歓声、ガッツポーズを取る宇宙に、観客席から大地が飛んでくる。
リーナは下を向き、少し目を閉じていたが、やがて顔を上げ、宇宙に近づいてくる。
「完敗よ、よく見破ったわね、わたしの戦法。」
「・・・戦法?」
ハテナ顔で握手に答える宇宙。大地が横で、いーんだよ、と嗜める。
リーナがきびすを返すと、そこには父と叔父の姿があった。
「残念、負けちゃったわ、父さん、叔父さん。」
リーオーの頭部モニターに仕込んだ”↑”のシールをはがし、舌を出してウインクするリーナ。
頭内部に発光ダイオードを仕込み、それをごく一瞬光らせて、↑矢印を一瞬だけ見せていたのだ。
「素直に俺たちの作品を使っときゃいいものを・・・」
「いらないわよ、あんなテム・レイ回路。」
「誰がテム・レイだ、誰が。」
笑いながら通路を引き上げるレナート親娘。

「これでいよいよベスト4だ、スゲーじゃねぇか、宇宙。」
「兄さんの治してくれたコレのおかげだよ、ホントに凄いよこの機体。」
兄弟で通路を引き上げる。周囲の歓声に答えながら。

と、もうすぐで通路出口というところで、二人の足元にジュースの空き缶が転がってくる。
「なんだぁ?マナーの悪いやつがいるもんだ。」
「誰かが落っことしたんじゃないの?」
宇宙が少しかがんで、空いた右手でその空き缶を拾おうとした、その時ー

 スバァァァンブッシャアアァァァァァーー!!
いきなりその缶が爆発し、白い煙が猛烈に噴出する。瞬時に煙に飲み込まれる2人。
「な、なんだぁー!?」
「きゃあぁぁぁーーっ!」
「うわっ!やべぇぞアレ!!」
騒然となる会場、警備員が笛を吹き鳴らし飛んでくる。毒ガスかとパニックを起こす客もいる。
選手一同も、主催のキャロライン、ニルスも現場に向かう。
まさか、テロ行為?こんな場所で??

 現場にニルス達が到着した時、既に煙は収まっていた。
爆発地点から少し離れたところで、少年が左手首を抑えてうずくまっている。
その少年に心配そうに声をかける青年。
「大丈夫か、しっかりしろ宇宙!!」
「痛っ・・・た、大変だよ、兄さん。」
宇宙が搾り出した次の言葉が、周囲の人間を凍りつかせた。

「トリックスターが・・・盗まれた・・・」

第17話でした。支援感謝です、さすがにサブリミナルはバレバレでしたかねぇw
0050三流F職人垢版2015/06/27(土) 23:09:15.13ID:LBIbOZYL0
ガンダムビルドファイターズ side B
第18話:宇宙と大地

「会場出口に手荷物検査体制、幹線道路に検問の手配、急げぇっ!」
ガンプラバトル世界選手権、主催席は蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。
本戦の真っ最中に騒乱、盗難、傷害事件。世界大会始まって以来の不祥事に、
主催のヤジマ商事関係者は顔面蒼白になりながら事態の収拾に当たっていた。
「(うかつだった・・・あのトリックスターの粒子増幅は、他社にとっては
 喉から手が出るほど欲しい物、こうなる可能性はあったハズなのに・・・)」
ニルスが痛恨の表情で指揮をとる。

「世界中のガンプラGメンに連絡、特別待機と情報収集を依頼しろ!
 あとガンプラマフィアの動きにも探りを入れろ!!」
「(もし、あの機体の効果を確認したいなら、必ずバトルフィールドで起動する、
 そうなったらエマージェンシーシステムが発動して、どこでやっているのか
 ラボに情報が入る、そこを押さえれば・・・)」
皮肉にも、粒子の秘密を守るためのエマージェンシーシステムが操作の鍵となる、
社外秘のシステムゆえ、犯人たちは無警戒にトリックスターを起動させるだろう、
いや、起動させてほしい。世界大会の成功のため、純粋に戦うファイター達のため。
「(皮肉なもんだ・・・予選まではサトオカ選手の退場を願ってたのに、今は彼のために
 ヤジマ商事の総力をあげて動くコトになるなんてね。)」

 医務室から大地が出てくる、中では宇宙が手首の治療中だ。
「どうだった、弟クンは?」
廊下に集まっていた選手たちが心配そうに大地に問う。
「軽いネンザですんでる、シップで3〜4日で直るそうだ。」
骨に異常が無いことにほっとする面々、しかし幸い、という状況でもない。
「準決勝は3日後だろ、ケガしてちゃあ影響出るだろうな・・・」
ヤンが暗い表情で呟く、1回戦以来すっかり宇宙の支持者になっている。
「主催に掛け合って、日程を延ばすコトはできませんの?」
いかにもお嬢様なエマの問いにリーナが答える。
「できるわけないじゃない、世界中から観客が集まってるのよ、
 タイムテーブルの変更なんて今日ので精一杯よ、きっと・・・」
本日予定されていた第2試合、グレコVSチョマーは、安全上の理由から明日に延期になった。
観客にも、選手にも、それぞれの生活がある。規模が大きくなったガンプラバトルは
タイムテーブルの変更が極めて難しくなっていた。
「・・・にしても胸糞悪い話だ、一体どこのどいつだ!」
グレコがそう吐き出す、争いはバトルフィールドの中でやれよ、と付け足して。
0051三流F職人垢版2015/06/27(土) 23:10:06.22ID:LBIbOZYL0
 ほどなく宇宙が出てくる。選手たちが居てくれているのを見て、一礼する。
「あ、どうもご心配をおかけしました。」
「とにかく、トリックスタ−が無いことには話にならない・・・俺達はガンプラを探して
 作り直すことにするよ。」
大地が宇宙を連れて病院を後にする、他の選手もその場で解散した。

「くそっ!ここもかよ!!」
吐き捨てるように嘆く大地。トリックスターのベース機である
『ベストメカコレクション・ボール』がどこにも売っていない、既に6店は回っているのに。
不人気機体、販売魅力の無い低価格商品、しかも世界大会開催でかき入れ時のショップにとって
売れるアテの無い商品は軒並み撤去されていた。
 結局、夕方まで10件以上を回ってもベース機は見つからなかった、
ネット通販なら何とかなるだろうが、届く頃には大会は終わっているだろう。
2人の表情はいよいよ沈みがちだ。

「・・・帰ろう、兄さん。」
宿舎に引き返す、という意味なのだが、大地の耳には、もうガンプラバトルなんか止めて
徳島に帰ろう、と言ってるようにすら聞こえた。
初めてガンプラバトルを経験した時、惨敗した上に邪魔者扱いされた時と同じ表情だったから・・・
無理も無い。15歳の少年が、遊びのはずのガンプラバトルでテロまがいの
目にあってるんだから。
・・・こうなったら盗まれたトリックスターが無事に帰ってくることを期待するしかない。

 食事を済ませ、風呂に入っていた大地が上がってきた時、宇宙は大会ルールブックを熱読していた。
大地に気付いた宇宙が顔を上げこう言った、すっかり晴れやかな顔で。
「ねぇ、兄さん!準決勝、頼んでいいかな?」
「・・・は?」
ルールブックを反転させて大地に見せる宇宙。
「ほら、大会のルールで選手変更のトコ、3親等までなら認められるって書いてある。
 過去にも一例、10年前に準決勝で選手交代した事例もあるし。」
「・・・それはつまり、俺に出ろ、ってコトか?準決勝に。」
「うん!どのみちこのケガじゃ、トリックスターが帰ってきても勝てそうに無いし、
 それにもしかしたら、準決勝の相手、チョマーさんになるかも知れないよ!」
0052三流F職人垢版2015/06/27(土) 23:10:31.47ID:LBIbOZYL0
「・・・っ!」
思わぬ宇宙の提案に固まる大地。
「・・・それで、いいのか?」
半分は宇宙に、もう半分は自分に言い聞かせるように問う大地。
「うん!その代わり絶対勝ってよ、決勝はまた僕が行くつもりだから。」
満面の笑みで頷く宇宙。
「(ああそうだ、コイツはこういうヤツだった。初めてのバトルの時もあっさり立ち直って
 それがトリックスターの原案を生み出すキッカケになったんだ。)」
やれやれ、と肩を落として笑う大地、そして心のスイッチを入れる。
「よし!任せとけ、チョマーだろうがグレコだろうが蹴散らしてやるよ、
 まずはヅダを徹底改造するぜ、手伝え宇宙!」
「うん!でも・・・その前に、パンツくらい履こうよ。」

 大会主催者ルーム改めガンプラ盗難事件対策本部、24時間体制での調査は続いていた。
メイジンやイオリ・タケシ、ラルさんと呼ばれる中年ファイターも詰め掛け、対策を協議している。
コトは今回だけではない、これからのガンプラバトルの運営にすら関わる事態なのだから。
「観客の手荷物検査までしたが、盗まれた機体は出てこなかった。
 すでに会場外に持ち出されていたのか・・・」
「検問にも引っかかりませんでした。大会の最中に会場から離れる車はそう多くないから
 漏れてるとも思えませんが・・・」
会議の最中、外から入ってきた役員がニルスに耳打ちする。
「(未だエマージェンシーコールは入ってきていません、残念ですが。)」
「(そうか、引き続き監視を頼む、絶対見落とさないように。)」
進展の無いまま、時間だけが過ぎていく。明日は準々決勝残りの3試合、明後日は休養日、
それまでに何としても取り戻さなければ・・・

「(頼む、起動してくれ、お前たちの欲しいのは情報だろう!好きにデータを回収していい
 その後、機体を無傷で返してくれればそれでいいから!)」
研究者の目でもなく、企業の重役としてでもなく、純粋にガンプラバトルを愛する者の目で
ニルス・ヤジマは祈っていた。準決勝第一試合まであと60時間ー



第18話でした。今回はガンプラバトルなしですw
0053三流F職人垢版2015/06/29(月) 22:52:03.42ID:gXKSxmiN0
人いませんね・・・私だけが進めちゃっていいんでしょうか。
進めるけどw

ガンダムビルドファイターズ side B
第19話:4強決定!

「皆様大変お待たせしました!それではこれよりガンプラバトル世界選手権
 決勝トーナメント準々決勝第2試合、アメリカ代表グレコ・ローガン対
 ドイツ代表ライナー・チョマーの一戦、開始ですっ!」
明けて8/14、準々決勝の残り3試合が行われる、その会場には各所に警備員が
配置されていた。どこか張り詰めた会場はそれでも満員だ。
・・・もっとも警備員は単なるポーズだ。主催者側からすれば、あんなガンプラの
盗み方をするのは企業としての利権の絡む作りのトリックスターくらいで
他のガンプラが盗まれる心配はそうはない。

「グレコ・ローガン、呂布トールギス、出るっ!」
「ライナー・チョマー、ウォドム・ストレッチ、行くぜ!」
両者がフィールドに踊り出る、かたやSDガンダム系、かたや露骨な兵器系、
見た目に全く対照的な機体の戦いとなった、開幕の挨拶代わりとミサイルを
複数発射するヴォドム。
「でやあぁぁぁっ!」
槍を薙ぎまくってミサイルを全て両断するトールギス。そのままの勢いで
ヴォドムに突進し、槍の一刀を浴びせる。
「あらよっと!」
何と、まるで跳び箱のようにトールギスを飛び越すヴォドム、これはかなり気色悪い。
「ス、ストレッチ・・・か、なるほど、よく動くな。」
グレコが顔を引きつらせて返す。巨大な足のヴォドムがスムーズに屈伸運動をする様は
かなりシュールな動きに見える。
「コイツも、もうずっと作りこんでるからな、付き合い長い機体なんでね。」
そう言うと、猛然とトールギスに突進、その巨大な足でケンカキックをかます。
直撃し吹っ飛ばされながらも、バック転から鮮やかに着地するトールギス。
「SDに格闘戦を挑むとは、いい度胸だなチョマー!」

「通算成績5勝5敗、それがあの二人の世界大会での戦績だよ。」
ルワン・ダラーラが選手席で宇宙にそう解説する。
「・・・そんなに戦ってるんですか?あの二人。」
「ま、予選も込みでだがね。クジ運の絡みもあってよく当たるのさ。」
フェリーニがそう付け加える。二人とも第4回大会からの縁だそうだ。
「大抵の試合で、ペースを掴むのはチョマーのほうさ、それをグレコが真っ向から
 突き崩せるかが毎回勝敗の鍵となる。」
メイジンがそう語る。そして今回もその言葉通りになりつつあった。
0054三流F職人垢版2015/06/29(月) 22:52:29.79ID:gXKSxmiN0
「魂いいいっ!」
槍を右に左に振り回し、ヴォドムに斬りつけるトールギス。しかしヴォドムは
その巨体をひょいひょいクネクネ動かして、そのヤリをかわし続ける。
まるで体操選手のようなその動きは、シュールを通り越してもはや不気味の一言だ。
そしてスキを見てはパンチやキックを繰り出し、呂布トールギスを吹き飛ばす。
ただ、体系的に塊に近いSDガンダムには、その大味な攻撃はあまり効いてはいないようだ。
「(わざわざヴォドムを持ってきた以上、何か打つ手を隠していやがるはずだ。)」
距離を取り、チャージの完了した必殺技の構えを取る。
「こいつで見極めてやる!くらえ、旋風大烈斬!!」
トールギスの放った巨大な竜巻がヴォドムに向かう。
「さすがに、コイツを喰らうワケにゃいかんぜ。」
側転で竜巻の軌道から外れるヴォドム。しかしそこにはそれを予測したトールギスが
先回りして待ち構えていた。
「もらった!」
槍の一撃がヴォドムの頭に命中する。が、命中したのみで、それ以上
めり込むことは無かった。
ヴォドムの右手の甲から剣が伸び、鍔迫り合いの形で槍を防いでいたのだ。
そこからヒザ蹴りを放つヴォドム、喰らった呂布トールギスは上空に舞い上げられる。
剣を伸ばし、まるで野球の打者のように落ちてくるトールギスに狙いをつけるヴォドム、
トールギスもまた、上空から落下しつつ一撃を加えようと槍を構える。
「その剣ごと叩き折ってくれるわ!うおおおおらあぁぁっ!」
グレコが吠える、チョマーも狙いをつけ、一本足打法でフルスイングを狙う。
「せーのっ!ふんっ!!」

ヴォドムが豪快に空振りした。ずっこけるルワン他野球経験者。
当然その剣に槍を合わせようとした呂布トールギスの槍も空を切り、受身を取り損ねて
地面に激突する。
次の瞬間、呂布トールギスはヴォドムの巨大な足に踏み潰されていた・・・。

「なーんか精彩に欠けてたよな、今日のお前。」
選手席に帰ったグレコにチョマーが声をかける。
「やかましい!来年は借りを返すからな!!」
一括するグレコ。見守る宇宙たち新参組にフェリーニが耳打ちする。
「あいつ、ああ見えて意外にデリケートなんだよ、根が正直だからな。」
「・・・なんかあったんですか?」
フェリーニが宇宙の左手の包帯を指して返す。
「昨日のコレだよ、あいつずっと犯人にカンカンだったからなぁ・・・」
0055三流F職人垢版2015/06/29(月) 22:53:07.73ID:gXKSxmiN0
「続きまして第3試合、レイラ・ユルキアイネン対マツナガ・ケンショウ
 バトルスタートっ!」

 山岳地帯のステージ、マツナガのザクは背中に巨大なヒートホークを担いでいる。
某ガンダム雑誌の某隊長が愛用しているのと同じサイズだ。
対するレイラは今回も丸腰である。緩斜面でヒートホークを抜いて待ち構えるザク。
「おー!でっかいオノだねー。んじゃ、いっくよーっ!」
相手の武器もお構いなしに突撃してパンチを打つモック。それにカウンターを合わせるように
モックの正中線にヒートホークを叩き込む。
直撃したモックは、そのまま斜面下まで転がり落ちた。そして『元気に』立ち上がる。
「うっそおおおおおお!」
観客席のあちこちから驚嘆の声が上がる。1回戦を見ていない人にとっては尚更だ。
まさに不死身のモック、同じ機体でもCPUプレイヤーのモックとはえらい違いだ。
「やはり普通に戦ってもダメか・・・」
マツナガは特に慌てない。前の試合のマスターガンダム戦を見てもこのくらいは覚悟の上らしい。
「もっぺん、とっつげきぃーっ!」
助走をつけ、見え見えのパンチを放つモック。ザクはそれをかわすと、反対側の手を掴み
モックの動きを止める。
「なら関節部はどうかなっ!」
掴んだ手のヒジ関節にヒートホークを叩き込む。さすがに脆い関節部にコレを喰らえば・・・
「ふーんっ!」
そのオノを喰らった左手で平然とザクを振り回すモック。観客から悲鳴に似た声がいくつも上がる。
豪快に振り回され、投げ飛ばされるザク。

「ねぇレイジ、あれって一体どういう作りなの?」
観客席の隅でイオリ・セイがレイジに問い掛ける。超一流のビルダーのセイをしても
あのモックの強さの秘密が全く見えない。
「さぁな、作ったのはププセだ。ただ、作る時にちょいとアリスタを使ってたな。」
レイジがそう言って返す、娘の戦いを不満そうに眺めながら。
そう言っている間にも、再度ヒートホークに叩き飛ばされるモック。
「あーもうヘタクソ!それでも俺の娘か、つか俺に代わ・・・いててててっ!」
隣のアイラに耳を引っ張られ悶絶するレイジ。
「代われるなら、私が行くわよ・・・」
「そっち!?」
セイがツッコミを入れる。相変わらずの似たもの夫婦だ。

 35分後、ついにザクはその活動を停止した。攻撃をクリーンヒットさせた回数は
相手の20倍にも達するのに・・・
「しょ、勝者、レイラ・ユルキアイネーンっ!」
右手を上げられ、満面の笑みのレイラ。周囲は完全に凍りついている。
選手席でも全員が唖然とした顔だ。

 主催席改め対策本部、ニルスに一枚のレポートが届く。
ーレイラ・ユルキアイネン使用のモックに対する報告ー
目を通したニルスが、あーあ、という顔をする。そのまま隣のキャロラインに回す。
「・・・こんなことが、可能ですの?」
「来年はかなりルールを変更しなきゃならないね、これは・・・」
0056三流F職人垢版2015/06/29(月) 22:54:56.54ID:gXKSxmiN0
「そ、それでは準々決勝最終戦、サザキ・ススム対エマ・レヴィントン、始めてください!」

ーSTAGE SPACE−

「宇宙ステージとは残念、是非僕の剣技を見てもらいたかったけどね、エマお嬢ちゃん。」
サザキが剣を突きつけてそう挑発する、どうやらエマが元フェンシングの選手なのは
承知の上のようだ。
「それなら、そこのコロニーに入りません?その中なら重力もありますわよ。」
「遠慮しておくよ、オッゴ相手にそりゃいくらなんでも張り合いが無い。」
サーベルを仕舞い、代わりにビーム・スプレーガンを抜く。
「ショット!」
まるで拳銃のようにスプレーガンを連射するギャン、オッゴは大きく動いてかわすと
マニピュレーターでザクマシンガンを構え、掃射する。
互いに激しく動き、余った手で盾を操作して相手の銃撃を防ぐ。小手調べは互角と
言った所か。
「さて、そろそろ行くか。」
そう言って盾を前方に構えるギャン。ミサイルか?それとも機雷か・・・
オッゴも機体を横に向け、砲撃防御体制を取る。
「ウェイブッ!!」
サザキがそう叫んだ瞬間、盾からまるで波のような衝撃波が放たれる。
薄く広がったそれは広範囲に四散し、オッゴにも一部が命中する。
しかし攻撃密度が薄いため、それほどのダメージにはならない。

「ほう・・・ビームを極限まで細く薄くして、広範囲に放っているのか、面白いな。」
選手席からメイジンが感心する。
「けどよ、あれじゃたいしたダメージにゃならんぜ、意味あんのか?」
グレコがそう返す。確かにアレではせいぜい嫌がらせくらいのレベルだ。
「単発では無意味だ。単発では・・・な。」
そのメイジンの洞察を証明するように、高速移動を始めたギャンは盾からウェイブを連発する。
右から左から上から下から、次々と衝撃波がオッゴに飛来する。直撃しても
深刻なダメージは無いが、代わりに広範囲のこの攻撃は避けようがない。
ガンゴンガンゴンと細かい衝撃が絶えずオッゴの機体を叩く。
「なんて鬱陶しい攻撃なの!」
完全に機先を制されたエマが吐き捨てる、四方八方に飛び交い周囲全体から衝撃波が飛んでくる
下手に動けばカウンターになりダメージが倍加するし、動かなければ狙い撃ちされ続けるだけだ。
「オールレンジモード!」
しびれを切らせたエマは、オッゴを縦割りにし、十字に変形させて全包囲にミサイルを放つ。
0057通常の名無しさんの3倍垢版2015/06/29(月) 22:57:48.14ID:Ml8PRW/r0
つ@@@@
0058三流F職人垢版2015/06/29(月) 23:00:39.40ID:gXKSxmiN0
「・・・かかったね。」
ギャンが回転を始めたオッゴに突撃する、いつのまにか再びサーベルを抜いて。
全包囲に放たれたミサイルのうち、ギャンに向かったそれは全て盾に阻まれる。
「動きを止めるのを待っていたんだよ!サーブルっ!!」
ギャンの剣が振り下ろされる。しかしオッゴは前の試合同様、自らをバラバラにして
その剣をかわす。
「おっと!」
咄嗟にバーニアを吹かし距離を取るギャン、ルワンの二の舞は御免だ、といいたげに。
再び合体し、元の姿に戻ったオッゴ。ギャンが再度ウェイブを放とうとする。が、
オッゴはギャンに背中を向けて一目散にコロニー方面に逃走していく。
「(あのウェイブを宇宙空間で相手にしては不利ね、狭いコロニーの中なら・・・)」
コロニー内部に進入するオッゴ、追ってギャンも入っていく。

「結局、こうなりましたね。」
オッゴがヒートホークを、ギャンがビームサーベルを構えて対峙する。
「しょうがないね。それじゃあ行くよ、スイスの剣姫!」
ギャンが盾を捨て突撃、剣を次々と繰り出す。オッゴもマニュピレーターを器用に動かし
ヒートホークで応戦する。剣と斧が交錯し、ぶつかり、こすれて火花を釣らす。
しかしMSの腕とモビルポッドのマニュピレーター、剣と斧では動きの差は明白だ、
何度か打ち合った後、オッゴの斧は剣に絡め飛ばされる、回転しながら上空に舞い上がる斧。
「もらった!」
ギャンが放った突きがオッゴの本体左の隅をえぐる、返す刀で本体を袈裟に斬ろうとする。
が、オッゴは急発進し距離を取りにかかる。即座に追撃するギャン。
「逃がさないよ!」
「逃げるつもりはありません!」
急停止したオッゴが、マニピュレーターを上に掲げる。フライを捕球する外野手のように。
それを見たサザキがギャンにブレーキをかける。
「ま、まさか、さっきの斧の着地点に!?」
さっき弾いた斧に目をやるギャン、しかしそれはギャンの後方、あらぬ方向に落下する。。
「さすがにそれは無理です。」
サザキが一瞬、視線を切ったスキに、オッゴが変形を完了させつつあった。
「変形モードY!」
横向きから機体を3分割し、小型の加速式砲塔 ”ヨルムンガンド”の形に姿を変える。
0059三流F職人垢版2015/06/29(月) 23:02:00.74ID:gXKSxmiN0
「ファイア!」
大蛇の咆哮がコロニー内にこだまする。ギャンはかろうじてかわしたが、代わりに
コロニー自体がえらいことになっている。
どうやら心臓部に直撃したらしく、コロニーの爆発も時間の問題だ。
「とんでもないね・・・」
即座にコロニーを脱出するギャン、そしてビームスプレーガンを抜き、オプションパーツを
合体させてビームライフルに変形させる。
「出てきたところを仕留める!」
火を噴き、崩壊していくコロニーに狙いを定めるサザキ。
しかし、一向にオッゴは脱出してこない。このままでは爆発に巻かれるしかない。
やがてコロニーの心臓部が大爆発を起こし、コロニー全体に爆発が広がっていく。

ズドドドドドドォォォーーーン

豪快に爆発するコロニー、あれでは中にいたオッゴはひとたまりも・・・
サザキがそう思った瞬間、爆発の中から一本の光が飛んでくる。あまりに意外なその光線は
内部から放たれたヨルムンガンドの咆哮であった。胴体を丸ごともっていかれるギャン。
 
 ーBATTLE ENDED−

「な、なぜ・・・どうしてあの爆発の中で。」
嘆くサザキ。やがて粒子が回収され、両者のガンプラが舞台に残る。それを見たとき
彼の疑問は解けた。
オッゴのマニピュレーターは、ギャンの盾を握っていたのだ。
「そうか!それを持ってオールレンジモードで、四方八方にウェイブを飛ばして
 周囲の爆風を防いでたのか・・・。」
「ええ、脱出したら狙い撃ちに遭うと思って、周囲を見回してみたらちょうど落ちてたから
 使わせていただきました。」
「・・・お見事。」
そう言ってギャンを回収し、舞台を降りるサザキ。観客に手を振りながら通路を歩いていく。


「さぁ、いよいよベスト4が出揃いました!泣いても笑っても後3試合!
 そのバトルを飾るのはこの4組ですっ!なおサトオカ・ソラ選手は負傷のため
 次戦は兄のサトオカ・ダイチ選手の出場となります。」
ベスト4が壇上に上がる。宇宙+大地、チョマー、レイラ、エマ。
誰が優勝しても初優勝、そしてチョマー以外の3人は初出場での初優勝がかかる。
決勝戦まであと4日、運命の日が近づいて来ていた。

19話でした、支援感謝です、っていうか早いっすね・・・自動?
0060三流F職人垢版2015/07/04(土) 02:00:37.79ID:2uDPcEB50
スレの保守もかねてw20話いきまーす。

ガンダムビルドファイターズ side B
第20話:夢見た試合

「ステージの通達?」
 準々決勝終了の夜、宿舎の宇宙たちの部屋に来ていた大会主催者の使いが答える。
「はい、準決勝からは選手にのみ、先にバトルステージが伝えられることになっております。」
「ふーん、で、どんなステージだ?」
大地がガンプラを直しながら聞く。確かにステージが分かれば武器や装備のチョイスが
よりやりやすくなる。
「準決勝第一試合、あなた方とライナー・チョマー様の試合のステージは
 『大気圏突入』でございます。」
「・・・は?」
「今回より初導入される特別ステージです。最初は宇宙空間から、徐々に地球に向かって
スクロールするステージになります。」

 ライナー・チョマーの部屋でも同様に、本部役員からの説明が行われている。
「なるほどねぇ、つまり宇宙から始まって、空気摩擦に焼かれる大気圏突入時、それを抜けてから
着地までの空中戦、最後に着地してからの地上戦と、4タイプのフィールドで戦闘するわけか。」
「理解が早くて助かります。どのエリアでのバトルに重点を置くかがこの戦いの
 ポイントになるかと思われます。」
「ふぅん・・・面白いな。」
アゴに手を当て、目を閉じて一考する、戦略をイメージしているのか。
「分かった、ご苦労さん。楽しい試合を約束するよ。」
役員を追い返してから、机の上の無数のガンプラに目をやる。
ザクレロ、ウォドム、ロト、アッザム、ジュアック、ズックまである。
「ま、あの兄ちゃんのほうが相手なら、使うガンプラは決まってるけどな。」

 翌朝、朝食を済ませた宇宙達の部屋を意外な客が訪れた。
「あんたら、この後ヒマあるかい?」
マツナガ・ケンショウだった。昨日の準々決勝でレイラ・ユルキアイネンに惜敗した彼が
わざわざ宇宙たちを訪問する理由が分からない。
「まぁ少しなら大丈夫だけど・・・何の用なんですか?」
「いーから、いーから。そんなに時間はかからねぇって。」
二人を連れ外に出る。明日の試合用のガンプラはほぼ出来上がっているし、特に問題も無いが。

 やって来たのは大会用のバスターミナルだった。しかし切符を買うでもなく、ただ
立って待っているだけだ。
やがて1台の大型観光バスがターミナルに入ってくる。
「お!あれだな。来たぜお二人さん。」
目の前にやってくるバス、そのフロントガラスにはこんな文字の紙が貼り付けてあった。

 ーサトオカ兄弟応援団一同ー
0061三流F職人垢版2015/07/04(土) 02:01:10.20ID:2uDPcEB50
「やっほー!宇宙君ひさしぶり〜」
窓ガラスから一人の少女が顔を出し手を振る。
「あ、ドラッツェの人、たしか滝川さん!」
「俺らもいるぜ〜すだちくん!改め緑の彗星、とでも呼ぼうか。」
「ベスト4進出おめでとう!世界の強豪相手によくぞここまで来たな。」
「岬さんに島村さん!わざわざ応援にきてくれたんですか?」
停止したバスから次々に見知った顔が降りてくる。大阪でロワイヤルを戦った第1ブロックの
ライバル達に加え、東四国予選で相対した3人組や河野選手、矢三布監督までいる。
「ガンプラを盗まれて、ケガまでしたって?大変だったな。」
「あの初心者が、あれよあれよと世界ベスト4だもんな、羨ましいぜまったく。」
「やはり私の目に狂いは無かった、ぜひ卒業後はグラナダ学園に・・・」
旧交を温める宇宙たち。その向こうではマツナガがやはり大勢に囲まれていた。

「あとひとつだったのに、何やってんだよマツナガ!」
「まったく、お前が負けたんでツアー名が変わっちまったじゃねーか。」
手荒にマツナガを迎えたのは、かつてのガバイ学園でのチームメイトだ。
「ま、でもルーカスに雪辱したのは誉めてやるよ。」
「仮にも俺たちのブロック代表だからな、ベスト8くらいは行ってもらわないと。」
どうもバスの乗客の半分以上は、『あっち側』の応援のようだ。
西四国、西中国、全九州エリアの日本第2ブロックエリアのツワモノ達。
 どうやら元々は、ガバイ学園がマツナガの応援にと組んだツアーらしい。
しかし肝心のマツナガが負けてしまったため、急遽同じ西日本の宇宙の応援ツアーに変更、
ネットで同乗者(ワリカン担当)を募ったところ、宇宙のライバル達が集まって
こうなったようだ。

「今日から決勝までこっちにいる予定なんだ、応援するから頑張れよ!」
「ねぇねぇ、メイジン・カワグチのサインって貰えないかなぁ。」
「うな重の美味しい店知ってる?」
・・・まぁ、目的はかなりバラバラであるようだが、それでも見知った顔が大勢いると
連帯感からか、気持ちがリラックスしていくのが分かる。

 ひとしきり会話を楽しんでから、宿舎に帰る宇宙と大地。
「あれだけのビルダーが集うと壮観だねー。」
「ああ、あれがこの3ヶ月、お前が通ってきたガンプラ道で触れてきた仲間たちってワケだ。」
「そんな大層なもんでもないと思うけど・・・なんか嬉しいね。」
「明日戦うライナー・チョマー氏なんかは、世界中にガンプラ仲間がいるらしいからな、
 ああいう友人なら多分、万人単位でいるんじゃねぇか?」
「・・・兄さんもそのうちの一人なんだよね。」
「まーな、顔も覚えてないだろうけど、明日は嫌でも覚えてもらうさ。」
「うん!頼んだよ兄ちゃん、頑張って。」
0062三流F職人垢版2015/07/04(土) 02:02:03.16ID:2uDPcEB50
「それではこれより、ガンプラバトル世界選手権、準決勝第1試合を開始します!
 サトオカ・ダイチ選手、ライナー・チョマー選手、配置についてください!!」
大地と、その後ろに宇宙、反対側からチョマーが壇上に上がる。
チョマーの前まで進み、右手を出す大地。
「よろしくお願いします、負けませんよ!」
真っ直ぐに相手を見据えて言う。握手に応じたチョマーはおどけた表情でこう返した。
「こっちこそ、10年前の借りは消させてもらうぜ、ダイチ君。」
「・・・っ!」
大地の表情が固まる。
「まさか・・・俺のこと、覚えてくれてたんスか!?」
「俺は一度戦った相手は絶対忘れねぇよ、ましてや不覚を取った相手ならなおさらだ。」
「よく言いますよ、一発の攻撃もしなかったじゃないですか。」
大地の目に光が増す。憧れの人が自分を覚えていてくれた、これ以上モチベーションの上がる
サプライズは無かった。
「この日を、ずっと待ってました。全力で行かせて頂きます!」

「里岡大地、ヅダ・セイバー、出るっ!」
「ライナー・チョマー、ザクレロホイシュレッケ、出撃いっ!」
2機が宇宙空間に飛び出したと同時に、聞き覚えのあるタイトル音と共に音声が流れる。

ちゃちゃちゃ〜、ちゃらら〜ん!
 −大気圏突入ー

 大いに沸く会場、世界中のガンプラファイターの中で、このステージで戦うのは
この両名が初めてだ。
「ヅダとザクレロか、どっちも宇宙がメインの機体だな。」
「短期決戦になるかな?大気圏突入までに勝負を決めるつもりか・・・」
会場の一角で、ツアー組が試合内容を推理する。特にザクレロはMA、地上まで到達してしまうと
不利になるのは明白だ。
「エンジン全開ぃっ!」
ヅダはザクレロの下、というか地球側を飛び回りつつ、背中のコンテナの中の機雷を撒いていく。
東四国予選で宇宙に対して取った戦法の再現だ。
「ほう、思い切ったな、背水の陣かい?」
「ええ、貴方にも水際まで来て頂きますがね。」
フィールドが地球に向かって動いている以上、嫌でもこの機雷地帯に差し掛かるコトになる。
右手でザクマシンガンを抜き、左手の盾のピックを立てるヅダ。そしてその身を背後の
機雷の海にダイブさせる。
0063三流F職人垢版2015/07/04(土) 02:02:42.10ID:2uDPcEB50
「おおおっ!すげぇな兄貴のほうも・・・」
観客がヅダの見事な動きに沸く。ダッシュ&ブレーキ&アンバックで見事に機雷をかわしながら
縫うように高速移動し、ザクレロにマシンガンを放つ。
それを左右に動いてかわすザクレロ、だが徐々に機雷地帯が近づいてくる。下がればやがて
リングアウトするだけに、いつかはこの機雷地帯を突破しなければならない。
「んじゃ、行くぜ。」
そう言うとザクレロは機雷地帯に向き直る、と同時にスラスターを全開にし、フルスピードで
機雷源に突撃する。
「何っ!」
驚く大地、あのスピードで突っ込んでかわせる機雷密度ではない。しかも体よくすり抜けたとしても
止まりきれなければ地球の重力圏に捕まり、身防備に落下をはじめるハメになる。
「ここっ!」
ザクレロはただ一度、右手の鎌を振り機雷を払いのける。無論爆発するが、高速で通り抜けた
ザクレロはその爆風をかわし、機雷源を抜けきる。
「ひとつも喰らわずに抜けられないなら、ひとつだけ何とかすりゃ抜けられるワケだよ!」
振り向きざまに口の中のメガ粒子砲を発射する、1点を狙うのではなく、機雷源を薙ぐように。
熱エネルギーに当てられた機雷は次々に優爆し、一帯が爆発の絨毯と化す。
そこから一機の機体が弾かれるように飛び出してきた、無論ヅダである。
待ち構えていたザクレロが、その両の鎌をヅダに向ける。ヅダもまたピックをザクレロに構え、
速度を落とすことなくザクレロに突っ込む。
それを見ていた宇宙が勝利を確信する。
「(いける!ここで兄ちゃんの新兵器を使えば勝てる!!)」
「スタン・ピックっ!」
「サンダー・ズィッヒェルっ!」
大地とチョマーが同時に叫ぶ、と、同時に両者が接触。その瞬間二人の間にイナズマが炸裂し
激しく弾かれ吹き飛ぶ両機。
「なっ!」
「考えることは同じかよ。」
大地が驚き、チョマーが分析する。
0064三流F職人垢版2015/07/04(土) 02:19:02.56ID:2uDPcEB50
「あいつら、電池を内臓してやがる・・・」
選手席から見下ろしていたヤンがそう語る。ネーデルの最後もそうだったが、電気の類を粒子に
通すとそれに反応して放電する、大地はピックに、チョマーは鎌に、それを仕込んでいたのだ。
「だが、これでヅダが有利に立ったぞ!」
ルワンの指摘どおり、宇宙側に弾かれたヅダより、地球側に弾かれたザクレロのほうが
大気圏突入までの時間が無い、ヅダにしてみればザクレロが摩擦熱で焼かれだしてから
悠々と上から狙えばいい。
「ちいっ!」
やむなく大気圏突入のため、地球側を向くザクレロ。この機体の装甲ならマシンガン程度は弾ける
そう考えて宇宙での戦闘を終了した。多少のダメージは覚悟の上で・・・
「ヅダの突入まで耐えりゃ、摩擦圏を抜けるのはこっちが先だ!そしたら下から狙い打ってやる・・・!」
だが、その思惑は外れた。ザクレロに全力で突っ込んできたヅダは、なんとそのままザクレロの後方に
取り付いてマシンガンを押し当てた、勝利を確信して宇宙が叫ぶ。
「勝った!」
ザクレロが摩擦で火の玉となり、その後ろでヅダがマシンガンを押し当てる。
だがマシンガンは発射されなかった。
「(兄さん・・・どうして?)」
その疑問はすぐに氷解した、いつのまにかヅダの腰にハリガネムシ、いやウミヘビが
巻きついていたからだ。
「おーあっぶね、なんとか対処できたか。で、どーするねダイチ君。」
「今マシンガンを撃ってもすぐには破壊できないでしょう、お互いに、ね。」
マシンガンがザクレロの心臓部を貫くのが早いか、ウミヘビの電撃によってヅダが破壊されるのが早いか
しかも大気圏突入の真っ最中、勝負に出るにはリスクが高すぎる。
「・・・んじゃ、摩擦で燃えてる間は休戦といくか。」
「ええ、大気圏突入をシュミレートできるなんて、滅多にありませんから。」
手を止め、仲良く火の玉になり燃え上がる両者、それを見て宇宙飛行士志望の宇宙が一言。
「・・・いいなー。」
0066三流F職人垢版2015/07/04(土) 07:13:56.92ID:2uDPcEB50
 やがて2機を包んでいた火の玉も消え、背景の色が紺から青に変わる高度8000メートル。
ここからは空中戦の開始である。
「それじゃ、いきます!」
ヅダがザクレロから離れる、ザクレロは左右の巨大なスラスターを切り離し、ヅダに向き直る。
「悪いなダイチ、俺の勝負エリアはこの空中戦なんだよ!」
スラスターのなくなった部分から翼を生やすザクレロ、その羽根で風を受け落下速度を落とし
ヅダの上方に位置取る。
「空中戦ってのは、上を取った方が有利なのは知ってるかい?」
真上から急降下してヅダに襲い掛かるザクレロ、ヅダもマシンガンで応戦するが
おかまいなしに高速でヅダの脇をかすめ、すれ違いざまにヅダの右腕を
マシンガンごと鎌で切断する。
「くぅっ!」
腕を落とされながらも、下方に行ったザクレロに向き直る。が、ザクレロは翼とバーニアを使い
下降から反転、急上昇し、あっという間に再度ヅダの真上に位置取る。
「な・・・」
「地上に降りるまでにカタをつけてやるぜ!覚悟しな!」
再度急降下するザクレロ、今度はミサイルを放ち、自身はヅダの足元方向から突進、
ミサイルこそかわしきったものの、足元に突っ込んできたザクレロに今度は左足を
持っていかれる。
「ヅダの特性である機敏な動きは、手足についているバーニアの補助も大きい、
 片手片足じゃあもう俺の動きについてこれまい!」
それでも残りのバーニアを使って、ザクレロを常に正面に捕えるヅダ。
そしてまたザクレロは急上昇し、3たびヅダの直上を取る。

「あのヅダ・・・何か変だわ。」
選手席でリーナ・レナートが呟く、戦いに違和感を感じるのだ。
「どうした?」
付き添いの父フリオが問う、他の選手も耳を傾けている。
「動きは単調だけど、常に相手の正面を向いている、私と同じように。」
確かに、移動はほぼせず自然落下のままだが、常にザクレロに体の正面を向けている。
「確かにな・・・状況によっては斜に構えたり、背中を向けて誘うのもアリだが。」
「正面を向き続けてる、というよりは・・・背中を隠してる!?」
そのリーナの言葉を聞いた選手全員が、再度試合会場を見下ろし、そして悟った。
「あ・・・」
0067三流F職人垢版2015/07/04(土) 07:14:27.58ID:2uDPcEB50
 3度目の急降下攻撃、拡散ビームを盾で防ぐのが精一杯のヅダ、その右足を
ザクレロの鎌がもぎ取っていく。
その『気付き』が無い者にとっては、もはや勝敗は明白に見えた。
フルバーニアで急上昇、4度目の直上を取るザクレロ。
「残り高度1000メートル、このまま自然落下しても壊れるだろうが、そいつはしのびない。
 きっちりトドメを刺してやるぜ!サトオカ・ダイチ!!」
「望むところです!これが最後の勝負ですよ、ライナー・チョマーさん!!」
残った左腕の盾からシュツルムファウスト(ミサイルランチャー風の武器)をザクレロに向けるヅダ。
ザクレロが降下を始めるその瞬間に引き金が引かれる。
「当たれえぇぇぇっ!」
火を噴くシュツルムファウスト、が、ザクレロは急降下しながら、そのスレスレ脇をすり抜けた。
「終わりだあぁぁぁぁっ!」
今までに無いほどの高速でヅダに突撃するザクレロ、その鎌を振り上げ、そして振り下ろす・・・
その前にザクレロはヅダを通り過ぎていた。
「んなっ!?」
振り返り、後部モニターを見るチョマー。今通過したヅダの背中には、あるべきモノが無かった。
「ヅダの土星エンジン・・・バックパックが無い!どこだ!?」
聞くだけ野暮だった。自機ザクレロのこの異常な加速と照らし合わせれば答えは明白だ。
案の定、土星エンジンはザクレロの背中に、『第二のエンジン』として張り付いていた。
大地の遠隔操作によってレッドゾーンぶっちぎりにまで加速している。
「さっき、大気圏突入の時、取り付けてやがったのかあぁぁぁ!」
「エンジンカットは出来ませんよ、念のため。」
翼を使い、方向転換を試みるザクレロだが、重力+ザクレロの加速+土製エンジンの加速が生み出す
空気抵抗に耐えられず、無残にへし折れる両翼。
そのまま一筋の火の玉となったザクレロ、チョマーはコロニー落としに続いて、2度目の
コードレスバンジーを仮想体験する羽目になった。

 −BATTLE ENDED−

「やられたよ、若いのに落ち着いてるなと思ったら、えらいもん仕掛けてくれたな。」
チョマーが両手を広げて賞賛する。
「チョマーさん言ってたでしょ、青写真通りの結果になるのが一番楽しい、みたいなコトを。」
「ヅダといえば土星エンジンの暴走による自爆か、まさかそれを押し付けられるとは・・・」
がっちりと握手を交わす両選手、すぐ後ろで宇宙が全力の拍手を送っている。
いつも兄の部屋にあった色紙、その名前の選手と名勝負を演じ、ついに勝利を収めた兄に。
0068三流F職人垢版2015/07/04(土) 07:14:48.84ID:2uDPcEB50
「ガンプラバトル世界選手権、決勝進出の最初の一組は、ガンプラの本場、日本代表、
 サトオカ・ダイチ、ソラ組に決定しましたーーっ!!」
万雷の拍手が会場に鳴り響く。観客席の一角で固まっていた応援ツアー組も大歓喜状態だ。
退場する途中、観客の一部に小突き回されるチョマー、どうやら彼の応援団も大挙して
この会場に来ていたようだ、誰もがバカ笑いしながら手荒にチョマーの健闘を称える。

「さて、次は私たちですわね。」
選手席でエマ・レヴィントンがレイラ・ユルキアイネンに向き直る。
両脇にレイジとアイラを従えて、レイラが返す。
「おねーちゃんのガンプラじゃ、わたしのモックには勝てないよ!」
不敵に笑うレイラ。脇でププセが呆れて言う。
「せめて、私たちのガンプラと言って下さいよ、姫・・・」

20話終了です。つかこんな駄文がもう20話とわw
支援感謝っす。
0069通常の名無しさんの3倍垢版2015/07/05(日) 00:05:16.51ID:mpz//OFo0
お〜更新されてる♪
本編以上に遊び心>バトルが描かれてニンマリしてしまいますね
あとモデラーでもある作者さんの発想とかその才能が羨ましいです(笑)
0071三流F職人垢版2015/07/06(月) 02:02:05.29ID:edv6Smq10
>>69-70
嬉しい感想ありがとうございます〜
元々BFはパロディが多いですから、本作でもネタ的な部分は
重視したいです。
あ、モデラーじゃないですよ、たまに作る程度ですw

モチベ上がったので1話書きました、明日夜うpします。
0072三流F職人垢版2015/07/06(月) 23:55:12.42ID:edv6Smq10
それでは21話、今回はゲスト多めです。

ガンダムビルドファイターズ side B
第21話:お嬢様とお姫様

「おーい、こっちこっち。席番号このへんだ。」
準決勝、第二試合まで1時間、里岡兄弟応援団のすぐ横に、
金髪をオールバックにした男が10人ほどの若者を連れてやって来た。
第一試合でのチョマーの応援を終えたドイツ人が帰った席に次々座る、
と、そのうちの一人がこちらを見て声をかけてくる。
「あ、あんたら確か、ガバン学園とかいう所の・・・」
「ガバイ学園だ!ってお前、カミキ・セカイか!?」
里岡応援団、つまり西日本のガンプラ強者達が一斉に注目する。そこに着席した面々は
彼らに劣らぬガンプラの名手たちだ。
「スガ・アキラにアドウ・サガ!キジマ兄妹にコウサカ・ユウマ・・・」
「引率してんのはガンプラ学園の監督、アラン氏じゃねぇか。」
『関東の若きエース達』と称される面々、特にカミキ・セカイは、ガンプラと自分を
シンクロさせる技『アシムレイト』の使い手として一躍有名になった。
「きゃー、フミナちゃんひっさしぶりーっ!」
「千尋ちゃんに可憐ちゃん、あんたたちも来てたのね!」
強豪同士、当然知り合いもいるようだ。その代表格が顔を合わせる。
国内の2強学校と言われるガンプラ学園、グラナダ学園の両監督。
「お久しぶりです、矢三布監督。昨年の学生選手権以来ですね。」
「ああアラン監督、君が観客席とは珍しいな。君ならメイジンのツテで
 どこからでも観戦できるだろうに。」
「・・・この試合、というか『彼女』の試合だけは、彼らに見せたくてね。」

 1ヶ月前、日本第4ブロック(関東地区)の決勝ロワイヤル、予選を勝ち抜いた32人の
強豪たちが一同に会し、代表の一名を決定する戦い。
それは、あまりに異彩を放つガンプラの、文字通り無双劇で決着を見た。
ーレイラ・ユルキアイネン、モックー
何度も斬撃を喰らい、何度もビームで焼かれ、弾丸を雨あられと浴び、爆弾の業火に焼かれ、
それでも次の瞬間には、まるでなかったかのように平然と襲い掛かるその機体。
その恐るべきガンプラの前に、関東の若武者達は次々に粉砕されていった。
最後に残ったのはカミキ・セカイのカミキバーニングSP、何度も何度も鉄拳を見舞い、
蹴りを打ち込み、肘を突き立て吹き飛ばした。
都合一時間は続いただろうその攻撃は、やがてセカイのギブアップによって終了となった。
格闘家の彼が、完全に心を折られたのだ・・・

もっとも彼自身は、一晩寝てメシ食ったらすっかり立ち直っていたそうだが。
0073三流F職人垢版2015/07/06(月) 23:55:36.59ID:edv6Smq10
「あの光景は忘れられないよ、私の若き弟子たちやライバル達が、それこそカスリ傷一つ
 与えられずに、次々に粉砕されていった・・・」
遠い目をして語るアラン、長年ガンプラに携わってきた彼が、ビルダーとしての自信を
まるごと喪失するような試合だった、あのモックの『作り』がまるで見えてこない。
「彼女は確かファイターで、ビルダーは別にいるんだったな、確かププセとか。」
「ええ・・・私自身、あのモックの謎を解かない限り、熟睡できる夜は来そうにありません。」


「大変長らくおまたせいたしました!ただ今より、ガンプラバトル世界選手権、
 準決勝第二試合、レイラ・ユルキアイネン選手対、エマ・レヴィントン選手の試合を行います!」
壇上に上がるエマ、一方のレイラはププセを伴い、さらに父と母も壇上に上がる、大所帯だ。
その姿に観客がざわつき始める。
「なぁ・・・あれ、10年前に行方不明になった選手に似てないか?」
「ホントだ、確かイオリ・セイのパートナーのレイジ、それにネメシスのアイラ・ユルキアイネン・・・」
「間違いない、多少老け込んでるけど、間違いなくあの二人だよ!」

「今『老けてる』とか言ったヤツ、前に出てこぉーいっ!」
「ちょ、ちょっと王子!こんな場所でキレないで下さいよ!」
突然キレるレイジ、ププセが必至にはがい締めで押さえる。ジト目で見やるアイラが一言
「・・・バカ王子(中年)。」
「う、うるせーこのババア!」
「ぬわんですってぇええええ!!誰がババアよ誰がっ!」
「この場でお前意外に該当者はいねーだろー?」
「あ・ん・た・こ・そ!そのまま老人になっても『王子』って呼ばれつづければいいわ!」
「な、なんだとおぉぉぉーっ!」

選手席でルワン、フェリーニ、チョマー、そしてメイジンが腹を抱えて笑い転げている。
「じゅ、10年前に痴話喧嘩した二人が、今度は夫婦漫才やってるわ・・・」
「あの試合も・・・確か・・・準決勝だった・・・よな、ひーっひひひ・・・」
30分経過、ようやく両者のガンプラが筐体にセットされる。奥のパイプ椅子には
大会役員のイオリ・セイにこんこんと説教されたレイジとアイラが反省のポーズで座る。
0074三流F職人垢版2015/07/06(月) 23:56:14.86ID:edv6Smq10
「レイラ・ユルキアイネン、モック!いっきまーっす!」
「エマ・レヴィントン、オッゴカスタム、行きます!」

 ーSTAGE MAGMAー

「あのステージは!」
「ああ、幻のステージと言われたマグマ地帯!ついに実用化されたのか!!」
10年前、PPSE社最後の大会となった第7回大会において、決勝のPVとして
採用されていたステージ。決勝までの期間『ガンプラ・イブ』にあちこちで放映されていた
決勝のイメージPVの舞台。
しかし実際には決勝の舞台は宇宙ステージに差し替えられていた。その後も実用化はされたが
採用はずっと見送られてきた、まさに幻のステージだ。
その理由は難度の高さにあった、誤ってマグマの中に落ちればそれだけでアウトなのだから。

 モックは冷えた岩の上に立ち、オッゴはホバーで浮いて対峙している。
「オッゴは足が無い、飛び続けて20分が限界か、それまでに決めたい所だが・・・」
「あの不死身のモックを、果たして短時間で倒せるかな?」
観客が、選手が、それぞれに試合展開を予想する。特に注目を浴びているのはやはり
驚異的なタフネスを誇るモックの方だ。

「先手必勝!いくわよ、モックパーンチっ!」
ジャンプしてオッゴに踊りかかるモック、浮いたまま後退して間を取るオッゴ。
溶岩の合間にある岩に着地し、再度追撃をかけようとするモックだが・・・
「逃がさな、って、わわわわっ!!」
着地した岩は、実は溶岩の上に浮いてるだけだった、バランスを崩し、そのまま溶岩に腹ダイブする。
ーどっぱあぁぁぁんー
豪快に溶岩が飛び散り、そのまま沈むモック。5秒・・・10秒・・・一向に出てこない。
「・・・え?まさか、これで準決勝終わり!?」
「ちょ、いくらなんでもそれは・・・世界大会準決勝なんだし。」
観客のざわめきが広がっていく。30秒ほど経った時、溶岩の中から手が伸び地上の岩をつかむ。
そのまま、まるでプールから上がるように、溶岩の中から登場するモック、
あろうことか無傷、しかも焦げ目さえもついていない。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「どんだけぇぇぇぇぇぇぇ!」
もはや観客もリアクションに困る有様だ。いくらなんでも溶岩の海にダイブして、塗装色すら
影響ナシとかありえなさすぎる。
0075三流F職人垢版2015/07/06(月) 23:56:46.84ID:edv6Smq10
「えへへ、ドジっちゃった。でも!この通りあたしのモックは無敵だよっ!」
ピースサインを取るモックとレイラ。それを見たエマは、深く溜め息をついて一言。
「なってないわ、全然ダメね。」
その言葉はレイラのみならず、観客全体を驚かせた。目の前でモックのタフさを
見せ付けられて、動揺どころかダメ出しを・・・
「なっ!何よぉ、確かにドジは踏んだけど、それでもこっちは無傷なんだから!」
顔を赤くして反論するレイラに、強い口調でエマが返す。
「だから!そういう時には言うべき言葉があるでしょう!
『さすがモックだ、なんともないぜ!』って。」
選手全員と観客の8割がずっこける、宇宙も思わず苦笑い。
「エマさんって・・・黙ってればお嬢様なのに・・・」

 お嬢様VSお姫様の試合は続く。レイラは積極果敢に攻撃するが、オッゴは機動性を生かして
クリーンヒットを許さない。
しかし基本、宇宙用機体であるオッゴは、地上で無制限に飛びつづけることはできない。
このまま時間が経てば、やがてエネルギー切れを起こし、飛べなくなって粉砕されるだろう。
「(あの不死身の謎を解かなければ、私に勝ち目は無さそうですね・・・しかし一体?)」
モックのジャンピングキックをかわすオッゴ、そのすれ違いざまに、足の裏に印字された
ある文字を見つける。
「(PPSE!?あのガンプラ、バン○イ製でも、ヤジマ製でもなく、あのPPSE社の?)」
「どうしたのー?逃げてばっかじゃ勝てないよーっ!」
レイラの挑発を無視し、考えをまとめるエマ。
「(PPSE社は確か、ガンプラを市販はしなかったハズ・・・ごく一部のバトルシステムにのみ
 モックがプログラム内部に組み込まれていて、それを元に他社がいわゆる『量産機』として
 モデル化した・・・)」
すでに10分が経過している。オッゴの残りエネルギーはもう半分も残っていない。
「(もし、未だヤジマ側が解明していない粒子の謎を、彼らが知っていて、使えるとしたら・・・
 あっちの陣営の誰かがPPSE社の関係者?)」
ショルダータックルをいなし、軽くバルカンを当てながら後退するオッゴ。
「(相手のビルダー・・・ププセ・マシタ。ププセ・・・PPSE?)」
 
 ー繋がった!ー
エマが確信する。モックが傷つかないのはガンプラの素材などではない。初期設定による
粒子操作、違法スレスレのゲーム内部仕様!
0077三流F職人垢版2015/07/07(火) 00:19:13.79ID:6hTw91TX0
 オッゴがフルスピードで戦線を離脱、あっという間にモックとの距離を取ると、
リングアウトギリギリのエリアまで進み、オッゴを着地させる。
そしてなんと、操縦席を離れフィールドの外側を歩き始めるエマ。
「おいおい、試合中に操縦席を離れるなんて・・・試合放棄か?」
観客の野次を無視し、今オッゴがいる位置と、筐体の外部スイッチの位置を確認する。
駆け足でコックピットに戻った時、ちょうどオッゴを追ってきたモックが到着した所だった。
「へっへーん!リングアウト狙い?その手にはのらないよーっだ!」
無邪気に笑うレイラに対し、エマが質問する。
「ねぇレイラさん、そしてププセさん、ひとつ聞きたいんだけど・・・」
「何よ?」
「どうして『モック』なの?貴方たちのガンプラ。」
「それはもちろんモックだからですよ、それが何か?」
ププセが答える、当たり前といえば当たり前だが、確かに違和感はある。
「私が聞きたいのは、どうして名前がそのまま『モック』なのかということ。別にスーパーモックでも
 モックスペシャルでもいいじゃない、なんで『素の名前』なの?」
「・・・っ!」
顔を引きつらせるププセ、レイラのほうはというと頭にハテナを浮かべている。
「登録のGPベースに入ってる名前が、そのまんま『モック』じゃないと困るから、ではなくて?」
青ざめるププセ、状況を飲み込めないレイラ。
「つまり、こういうコトなのでしょう!」
機体を変形させ、ヨルムンガンド形態をとる。そしてマニピュレーターでヒートホークを掴み
なんと発射口に差し込んだ。しかもモックを狙わず、場外方向に狙いを定める。
「この位置でいいはず・・・ファイア!!」
大砲が発射され、差し込まれたヒートホークが吹き飛ぶ。場外に発射されたそれはフィールドを突き抜け
舞台の壁に当たって再び筐体の方に飛んでいく。
そのヒートホークが、筐体横にある『あるスイッチ』に当たる。

ーVS CPU MODE LEVEL SSSー

 筐体がその音声を告げた途端、四方八方からガンプラの射出口が現れる、そこから
次々に飛び出してくるガンプラ、驚くレイラ。
「ええっ!?モ、モック?」
CPUモード、レベルSSS。対CPU戦で敵モック100体と戦うモード、
プライヤーの人数はいくらでも可能という設定だ。
そして、次々に出てくるモックに混じって、黒コゲの機体や手足だけバラバラと落下する機体
バルカンで蜂の巣になった状態で登場し、その瞬間に爆発する機体もある。
0078三流F職人垢版2015/07/07(火) 00:19:45.93ID:6hTw91TX0
「あれは・・・まさか!?先の戦闘や、その前の溶岩に突っ込んだ時のダメージ・・・?」」
観客席でコウサカ・ユウマが呟く。キジマ・シアが続きを搾り出す。
「あのモック、まさか・・・自分のダメージを、CPUのモックに転送していた?」
「バカな、そんなコトができるわけないだろ!」
反論したのはガンプラ心形流の松岡だ、師匠の家にバトルシステムがある彼にとって
ガンプラバトルで出来る事と、出来ないことの見分けくらいはつく。
「まんざら不可能じゃない、最初からそういう設定があれば・・・」
アランが語る。元PPSEの開発主任である彼には心当たりがあった。
モックは元々ガンダムに興味が無かったマシタ会長お気に入りのガンプラだったのだ、
もしもPPSE社がモックを設定するさい、そんな機能をあらかじめ付けていれば・・・

「ダメージをCPUの同名機体に押し付ける、それがそのモックの不死身の秘密。でもCPUに
 設定されているモックは最高100機、それらを全て壊せばもうダメージを転送する術は無い
 そうですね、ププセさん。いえ、PPSE社会長マシタ氏のご令息!」
「・・・正解です。でも別にPPSE社の仕込みじゃないですよ、この機能は。」
「そうなの?」
「これはアリスタを使って・・・って、このへんは喋るわけにはいきませんが、
 あくまで後付けの機能なんです。」

「ねーってば!さっきから一体どーゆーことなの!説明してよププセ!」
「早い話が、このモックの無敵っぷりは少々反則気味、というわけですよ。
 溶岩に浸かってみればわかります。」
言われるままに溶岩に入るモック。と同時に大量にいるCPUモックが1体、また1体と
次々にドロドロ解けていく。
「あ・・・あああっ!」
状況を理解するレイラ。そして会場の全ての人間も。

 場外から少しづつブーイングが大きくなっていき、やがては会場全体を支配する。
レイラはというと、下を向いてうつむいたまま顔を上げない。
ププセが、こここまでですね、とレイラに歩み寄ろうとしたその時、

「ガンプラは自由だ!」
0079三流F職人垢版2015/07/07(火) 00:20:36.62ID:6hTw91TX0
聞きなれた声がスピーカーから会場内に響く、メイジン・カワグチだ。

「不満もあるだろう、理不尽に思うこともあるだろう、しかしそれでも全て受け入れ
 戦っていくのがガンプラバトルというものだ。」
メイジンの力説に、ブーイングをしていた者も押し黙る。
「考えてみたまえ、諸君にとって『モック』とは何だ?ただのやられ役か?
 彼の機体はアニメ化されていない、つまり『物語』が無い、
 ゆえに純粋なガンプラバトル専用の機体でしかないと、私も思っていた。」
「だが違ったのだ、彼らには『ダメージを転送する』という機能が、そういうドラマッチックな
 能力があった!彼らにとって原作はあくまで『ガンプラバトル・システム』なのだから。
 それを使うのが卑怯というのは、∀ガンダムが月光蝶を使うのが卑怯という事となんら変わりない。」

 正論中の正論である。モックが『そういう機体』ならその機能を使う事に何の問題も無い。
「だから戦え、レイラ・ユルキアイネン!君には一点の否定される理由も無い。」
選手席のメイジンを見上げていたレイラ、その後ろにいつのまにかレイジが立っていた、
肩に手をおき、愛娘に伝える。
「だってよ、見せてやれよ、お前の力を!」
「・・・うん!」

 レイラのモックがバーニアを全開し突進する。『CPUのモック』に。
数体に体当たりをかまし、溶岩の海に叩き込む。すれ違いざまにキックで胴体を上下に分断し、
パンチで数体を串刺しにする。
不死身さばかりが目立っていたモックだが、こうして見ると一撃の破壊力は恐ろしいレベルだ。
3分もしないうちに、CPUモックは全て残骸に成り果てていた、
自らの手で、『ダメージ肩代わり役』を掃除したのだ。

「さぁ、お姉ちゃん、勝負よ!」
「潔いわね、メイジンも『使っていい』って言ってたのに。」
対峙して微笑みあう二人。お嬢様と、少し大人になったお姫様が、最後の激突をする。


「ガンプラバトル世界選手権、決勝進出は、スイス代表、エマ、レヴィントン選手ーっ!」
温かい拍手に包まれる会場内、選手同士が抱擁を交わす。見守る父と母も穏やかに笑う。

おそらく彼女達は来年はもう居ないだろう、ただし本人にも、観客たちにも、その姿は
長く記憶に留まるだろう。ガンプラバトル・システムに、モックという愛すべき機体が
ある限り・・・。


第21話でした、あれ・・・ギャグに走る予定の話だったのに、どうしてこうなったw
支援感謝です。
0080通常の名無しさんの3倍垢版2015/07/07(火) 00:30:07.91ID:PgyAU0bD0
キャラが自分で動き出した証拠だと思いますよ〜
自分で生み出した設定がキャラクターになってくると段々自分で思うように動かせなくなってくる事がある
でもそれは設定が自分の手を離れてキャラが立ったということだと思いますわ
そうなると状況を作ってしまえばキャラが勝手に動いてくれるからまとめるのも楽になってくるw

しかしマグマステージ落ちたらアウトとか嫌過ぎるwww
0081通常の名無しさんの3倍垢版2015/07/07(火) 10:35:19.07ID:DbLaas5L0
いや〜相変わらずの爽快感、ヤラレ役として生まれたモックに存在する意味Wo持たせるとは相変わらず愛に溢れてますな
シカシBFTの連中は毎回同じ予選ブロックで戦ってると思うと…

次も楽しみに待っております
0082三流F職人垢版2015/07/07(火) 23:52:55.33ID:6hTw91TX0
感想が2レスも!うおおモチベ上がりますm(__)m

>>80
今の所一番勝手に動くのはチョマーですね、ついでメイジンかな。
マグマステージは1期の後半OPのアレです、見たかったなぁあのステージw

>>81
主人公機がボール、決勝戦の相手がオッゴ、メイジンを倒したのがリーオーな世界ですからw
モック普通にカッコイイと思いますよ。

残り数話、がんばって書きます!
0083通常の名無しさんの3倍垢版2015/07/08(水) 23:30:06.06ID:YEpVRs6Q0
>>81が何かインチキ外人みたいなレスになってますな(汗)
マグマステージ、プラレス3四郎のシンナーの池を思い出しました…古いな〜

決勝の前にトリックスター取り戻さないと
0084三流F職人垢版2015/07/10(金) 01:30:31.74ID:G+lBnsja0
2話、HAHAHA今回はガンプラバトル無しデスヨ。

ガンダムビルドファイターズ side B
第22話:エマ・レヴィントン

 ヤジマスタジアムの会議室、ここに決勝トーナメントに残った16人の
ファイターが集結していた。
「それでは、決勝戦のセレモニーは以上のようになります、何か質問は?」
挙手する者はいない、ほぼ全員がニヤケ顔だ。
「いやー、ヤジマさんも案外演出家だねぇ。」
チョマーが感想を漏らす、セレモニーにしては大掛かりな仕掛けに、敗退した
ファイター達も高揚気味だ。
「で、サトオカ君たちは、どちらが出場するんだ?」
ヨハン・シェクターの問いに目を伏せる大地、代わりに宇宙が答える。
「とりあえず、決勝までにトリックスターが戻ってきたら僕が、
 戻ってこなければ兄さんが出るつもりです。」

 兄と話し合った結論だった。今から慌ててトリックスターを作ろうとしても
ベース機探しすら難航する上、決勝までに間に合うかと言えばまず無理だろう、
元々が2週間以上かけて作った機体、2機目でも3日足らずで以前と同等の
性能を持たせるのはまず無理だ。
「主催者の捜査本部はどうなってる、手がかりくらいは掴めたのか?」
ヤンがキツ目に問い詰める、会議長の役員は申し訳無さそうに顔を伏せ、答える。
「今現在もニルス様はじめ、スタッフが全力をあげて捜査中です、決勝までに
 何とかしたいとは思っておりますが・・・」
「思ってる、だと!」
激高しかけたヤンをグレコが押さえる、彼自身も眉間にシワを寄せながら、ではあるが。
「仕方あるまい、まさかあのような事態、誰も予想できんよ。」

「それでは皆様、3日後の決勝までに、先ほどの規定に沿う改造をお願いします。」
「5分もあればじゅうぶんですよ、そんなの。」
ルーカスが答え、他の者もうんうんと頷く。解散し、退室するファイター達。
宇宙と大地も席を立つ、それをずっと座ったまま見送る選手が一人。
「・・・何か裏がありそうですわね。」
エマ・レヴィントンである。最後に退室した彼女は、なぜか出口ではなく
大会主催者席兼、盗難対策本部へと足を運んだ。
0085三流F職人垢版2015/07/10(金) 01:31:36.25ID:G+lBnsja0
「さーて、フリーチケットも貰ったし、明日から2日間みっちり遊ぶぞー!」
宇宙が歩きながら、プラチナチケットを嬉しそうに掲げる。
「しかし、本当に良かったのか?今からでもトリックスターを作り直してみても・・・」
「それは言いっこなし、せっかくのイベントなんだし楽しまなきゃ勿体無いよ、
 せっかく阿波踊りまでパスして来てるんだし。」
8/15〜16、大会決勝前の2日間は恒例の『ガンプラ・イブ』というイベントの日
以前は1週間ほどやっていたが、さすがに遠方の観客にとって、準決勝からそこまで
日があくのは滞在的に無理がある、で今年は2日間開催。
ちょうど彼らの地元、徳島の阿波踊りと重なってしまったのだ。
「兄さんがガンプラをはじめたキッカケのイベントでしょ?10年ぶりなんだし楽しもうよ。」
「そっか・・・そうだな。」

 明けてガンプラ・イブ初日、さっそく全開で祭りを満喫している面々がいる。
屋台エリアの一角、その近辺の出店を経営危機に陥れる一団があった。
「やっぱ、こっちの食いモンはうめぇなぁ!」
「ちょっとレイジ、そのヤキソバ私のよ!」
「ねーねーお母さん、これ何て食べ物?フワフワしてておいし〜」
・・・アリアンご一行様だ。親子3人でテーブルに山と積まれた食物が次々に消えていく。
「ねぇねぇルーカス、コレもおいしいわよ・・・って、もうダウン?若いのに小食ねぇ。」
一家に付き合ったルーカスは早々に撃沈したようだ。
「あ、あの細い体のどこに・・・入るんですか・・・うぷ。」
青い顔で苦しむルーカスをププセが介抱している。
「あの人達に付き合うのは無理ですよ。」
ちなみにルーカスもレイラも気付いていないが、貰ったフリーチケットを
宿舎に忘れてきていたりする、支払いの段になったらどうなるかはまた別の話だ。

 南側、フリーバトルエリアでは、大勢のファイター達が野試合に興じている。
「喰らえ、カミキバーニング、ナックルーっ!」
「受けてみよ、マックスター・マグナムパンチっ!」
漢のどつきあいを演じているカミキ・セカイと矢三布監督。
「出でよ、スナイバルドラゴギラ!」
「噛み潰せ!レビルガンダムうっ!」
その隣では新潟のシキ三兄弟が、ガンプラ心形流の松岡と首長竜対決の真っ最中だ。
「うわぁ・・・何アレ。」
通りがかった宇宙が漏らす、本当にアレはガンプラバトルだろうか・・・。

 中央ブースでは、メイジン・カワグチとイオリ・セイによるガンプラ製作講座が行われ
イベントスペースでは、今大会の地方予選の司会を務めた面々がカラオケ合戦の真っ最中、
その他、各ブースでもイベントが盛り沢山で、回っているだけで一日はあっという間に過ぎた。
0086三流F職人垢版2015/07/10(金) 01:32:08.64ID:G+lBnsja0
「ん〜、遊んだ遊んだ。」
「明日はどうする?兄ちゃん。」
風呂上りに牛乳を飲みながら大地に問う。
「ああ、俺は明日は、ちょいヅダをいじろうと思う、チョマーさんに会って面白い改造を
 聞いたんで、試そうと思ってな。」
「じゃあ僕も手伝うよ。」
「いや、そんな手間はかからないから、お前は明日も遊んで来いよ。」
「・・・分かった、じゃあ頑張って。」
布団に入って泥のように眠りに落ちる宇宙。それを確認した大地がやれやれ顔で漏らす。
「まさかチョマーさんに『一緒にナンパしようぜ!』って誘われてるとか言えんしなぁ・・・」

 2日目、兄を置いて出発する宇宙。宿舎を出た門の所に顔見知りが立っていた、
薄い赤色に、白いフリルの服を身を纏ったお嬢様だ。
「あ、エマさん、おはようございます、明日はよろしくお願いします。」
挨拶する宇宙に、にこやかに笑って返すエマ。
「そうね、明日は敵同士、いい試合をしたいわね。」
普段よりややオシャレの入ってる金髪の美少女の笑顔に、思わずどきっとなる。
それだけに次の言葉の破壊力は宇宙の想像を越えていた。
「だからソラ君、今日はわたしとデートしましょう!」

「ちょ、おい、なんだあのカップル」
「つり合ってねー。兄弟でもないだろーし、何なんだアレ。」
完全に公開処刑である、腕を組んで歩く男女はいいのだが、一方はいかにも田舎者の少年、
相方は頭半分は背の高い金髪のお嬢様なのだから。
顔を真っ赤にして視線に耐える宇宙、エマはエマで平然と宇宙に腕を絡めて歩いている。
「あ、あのー・・・これからドコへ?」
「ちょっと行きたい所があるの、付き合ってね。」
南エリアに歩いていく二人、そこにはヤジマ社特性のプールと、その併用ショップがあった。

「お待たせ。」
目に毒だ、目に毒すぎる。女の子と付き合った経験すらない宇宙にとって、
金髪碧眼、スタイル抜群の水着美少女など目に毒以外の何者でもない。
競泳水着なのがせめてもの救いだろう、これでビキニとかなら鼻血出してぶっ倒れるのが関の山だ。
「ふーん、もっと華奢かと思ってたけど、意外に筋肉あるのねソラ君。」
宇宙の腕を掴んでまじまじと見るエマ、指先の感覚と至近距離の女体にパニック寸前の宇宙。
「は、畑仕事とか、新聞配達とかやってますから・・・」
「ふーん、運動もできるんだ。ならいけるかもね。」
0087三流F職人垢版2015/07/10(金) 01:32:44.00ID:G+lBnsja0
 紺色の競泳水着が宙を舞い、鮮やかに回転しながら水面に吸い込まれていく。
高さの割に控えめな水しぶきを上げ着水するエマ。
周囲の人間から一斉に喝采が上がる。
「すげえええええっ!なにあの女、プロ?」
「かっこいいいいっ!」
「素敵〜」
かつてスイス国内で飛び込み競技のトップを張った実力は微塵も衰えていないようだ。
水から上がるエマにタオルを渡し、拍手する宇宙。
「すごい!すごいですよエマさん、あんなのはじめて見ました!」
「前にちょっとやってただけよ、全盛期ならもっとすごいの見せられたんだけど。」
着水までに何回転したのか、あの回転感覚があればこそのガンプラバトル、オッゴの
オールレンジ攻撃を実現させているのだろうか。
「どう、ソラ君も飛んでみる?」
「え?」
問答無用で5メートルの高さの飛び込み台に連行される宇宙、別に高所恐怖症ではないが
ここから飛び降りるとなると話は別だ。
「ちょ、ちょっと無理ですよエマさん、さすがに未経験者がここから飛び込んだら・・・」
尻込みする宇宙、その背中にぴとっと張り付き、肩に手を置くエマ。
宇宙は今、自分の顔色が真っ赤なのか真っ青なのか知りたかった。
「大丈夫、ちゃんと『少し未来の自分』をイメージして。自分がこれからどういう姿勢で
 どういう角度で飛び込むか想像して、その通りに体を動かせばいいの。」
「・・・少し先の、自分、」
イメージしてみる、軽く踏み切り台を蹴って、体をさかさまにする、後はそのまま真下に
落下して、指先で水面を突く感じ・・・
「なんとなく、分かる気がする・・・」
これでも好奇心旺盛な男子である、未体験の飛び込みに少し興味を引かれる。
「私が先に行くわ、見ててね。」
飛び込み台で宇宙と入れ替わり、オーソドックスな方法で飛び、水面に吸い込まれるエマ。
その姿を、先ほど自分が想像した飛び込みと重ね、修正する。
水から上がり、宇宙に手を振るエマ。踏み切り台の際に経つ宇宙。
「ソラ君、GO!」
その合図と共に台を蹴り、姿勢を作って、あっという間に水面に突き刺さる宇宙。
0088三流F職人垢版2015/07/10(金) 01:33:15.17ID:G+lBnsja0
ざばがぼぉぉぉぉぉっ!!!
「!!!」
着水の衝撃は予想以上だった、全身に痛みが走り、上下がどちらか分からなくなる。
必死に水面を目指しもがく宇宙、泡の上がる方向に気付いてそちらに向かい
ようやく水面まで到達し、大きく息を吸い込んだ。
「ぷっはぁっ!」
なんとかプールサイドまでたどりつき、よたよたと上がる宇宙、エマが拍手で迎える。
「上手だったわ、やっぱり運動神経いいじゃない。」
「なんか、怖かったし痛かったけど、すっごく面白かったです!」
「うんうん、さすが男の子!」
タオルを頭にかけてもらう、この時点でようやく周囲からの拍手に気付く宇宙。
「よっ!ボクちゃん男だねぇ!」
「カッコ良かったぜぃ」
「がんばったねぇ少年・・・あ、あれ?」
冷やかす面々の中に、何かに気付いた女性が一人。
「ちょ、ちょっと!あの二人・・・もしかして!」
「え?ええ!おいおいファイナリストの二人じゃねぇのか!?」
「ホントだ!エマ・レヴィントンとサトオカの弟!!」
「明日の決勝を前に、こんなところでデートかよ!写真写真、ってここプール!スマホ取って来る!」
「サインもらわなきゃ、色紙ってドコで売ってる?」
正体がバレたとたんに慌しくなる周囲。やばっ、という表情の宇宙に対し、エマは得意顔で・・・
「逃げるわよっ!ソラ君。服だけ回収して外へ!」
ソラの腕をひっつかんで更衣室に突撃する。男女に分かれてロッカーに飛び込み、服と荷物を抱えて
プール外に飛び出す二人。そのまま合流して道路でタクシーに飛び込む。

「ふぅ、なんとか振り切れましたけど・・・」
「ええ、あのまま囲まれてたらせっかくのデートが台無しですものね。」
決勝前に密会、不正を疑われるという心配はエマには無いようだ。
そのままホテルに向かい、服を着替えてレストランで昼食を取る。
一体いくらするのだろうか、名前も聞いたことの無い食材に冷や汗をかきながら喉に押し込む。
幸いここでもチケットが有効だったのが救いだったが。
0090三流F職人垢版2015/07/10(金) 02:00:27.90ID:G+lBnsja0
「そういやソラ君、君はどうしてボールを使うの?」
食後にエマが聞いてきた、色んな人に何度も聞かれた質問。
「僕、宇宙飛行士になるのが夢なんです。」
「へぇ、素敵じゃない。」
「だからボールが好きなんです、ガンダムとかは僕の生きてる間に実用化はされそうにないけど
 ボールなら今すぐにでもありそうだし、『目指す機械』に思えるんです。」
「・・・いいわね、夢があって。」
少し憂鬱な表情でエマが返す、それから彼女は自分のことを宇宙に語り始めた。

名門レヴィントン家の一女として家を継ぐ立場にあること、異常集中力の持ち主で
様々なジャンルを短期間で極めてきたこと、物事にのめり込んだらとことんハマること、
まだガンダム/ガンプラを始めて3ヶ月しか経ってない事、果たせなかったメイジンとの約束・・・

「じゃあ、エマさんもまだガンプラ歴3ヶ月なんですか?」
「エマさん『も』ってことは、ソラ君、あなたも・・・?」
「はい、兄ちゃんにボールのガンプラを貰ったことがキッカケで・・・。」
「そうなんだ、ほんと奇遇ね。私たち似たもの同士なのかも。」
「セリフまで完全暗記してるエマさんにはかなう気がしないけど・・・。」

「ねぇ、映画を見に行きましょう!」
エマの提案で映画館に足を運ぶ二人。ガンプラ1色の街では、映画館も様々なガンダム映画が
上映されていた。チョイスしたのは ”機動戦士ガンダム MS IGLOO”。
宇宙もビデオで一度見ていたが、やはり映画館で見るのは迫力がある。
エマのオッゴが変形したヨルムンガンドの話、兄の使うヅダの話、二人に共通点の多い映画だ。
「(そういえば、エマさんはどうしてオッゴを使うんだろう・・・)」
後で聞いてみようと思ったが、その必要は無かった。
第5話、オッゴのパイロットであるエルヴィン・キャデラック少年兵を見るエマの目が
完全にハートマークになっていたから。
「(もしかしてこの人、年下好み・・・?)」
微妙に身の危険を感じ、隣の席のエマから少し体を離す宇宙。
0091三流F職人垢版2015/07/10(金) 02:00:55.71ID:G+lBnsja0
 すっかり夜もふけ、帰路につく宇宙とエマ。同じ宿舎なので文字通り『帰るまでがデート』だ。
すっかり打ち解け、自然に腕を組んで歩く二人。
「明日が楽しみね、ボールVSオッゴ、いよいよ激突よ。」
「あ、でもトリックスターが戻ってこないと・・・」
「大丈夫、きっと戻ってくるわ、私が保証してあげる。」
門をくぐり、宿舎の中に入る、エマの部屋まで送る宇宙。
「それじゃ、おやすみなさい。」
「あら、忘れ物よ。」
言って頬を向けるエマ、指をほっぺたにちょんちょん、と当てる。
頬にキスしろ、ということは理解できた。
少しためらった後、意を決して顔をその白い頬に近づける・・・
 接触寸前、いきなり正面に向き直るエマ、そのまま至近距離から唇を重ねる。
「!!!!!」
少しの密着の後、すっと離れて笑い、扉を開けるエマ。
「遭遇戦では先手を取った方が有利なのよ!じゃあ、おやすみ。」
部屋に入って扉が閉まる、その後約5分間、宇宙はゆでダコのような表情でフリーズしていた。

 ようやく部屋に戻ると、大地とチョマーが向かい合って酒を飲んでいた。
「くっそおぉぉぉ、リカルド・フェリーニぃぃっ!せっかくあの娘といいフンイキだったのにいっ!」
「一体何回俺らのジャマすりゃ気が済むんだっ!フェリーニ許すまじっ!」
・・・どうやら大地も、『フェリーニ被害者の会』に名を連ねることになりそうだ。

22話でした、こーゆー話は難しい・・・いや楽しんで書きましたけどね。
支援感謝でした。
0092通常の名無しさんの3倍垢版2015/07/10(金) 14:42:41.10ID:VAdp/O5A0
OH!更新ガ!
宇宙君見事にお嬢様に転がされてますな…いやお姉さんに上手に転がされる才能か(笑)
大会終了後の里岡家が…いや止めておきましょう(笑)

決勝戦も楽しみに待ってマース(笑)
0093三流F職人垢版2015/07/12(日) 12:26:39.06ID:Z91j4mkV0
ちょいと気分転換、宇宙君とエマさんです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org412208.jpg
文章力のみならず画力もこの有様ですw
決勝前にオリキャラのイメージを掴んでいただければ幸いかと・・・
0094三流F職人垢版2015/07/12(日) 23:44:52.89ID:Z91j4mkV0
23話、いきまーす。

ガンダムビルドファイターズ side B
第23話:悪夢のセレモニー

 ー大会本部・盗難事件対策本部ー
「まだか、まだエマージェンシーは来ないのか!」
ニルス・ヤジマが吐き捨てる。大会決勝まであと30分、決勝前のセレモニーの
開始時間が来てしまった。
「・・・残念ながら、ニールセン・ラボからの連絡はありません、時間です。」
空港に輸送ジェット機も手配した、空港からのヘリ輸送も、全国のシステム付近に
ガンプラGメンも多数配置していた。
もしトリックスターを奪った犯人が起動すれば、即エマージェンシーを感知、
すぐにでも現場を押さえて奪還、大至急この会場に空輸する手配が出来ている。
 しかし、肝心の犯人がトリックスターをバトルシステムで起動させない限り
その居場所は特定することが出来ない・・・万事休すだった。

「決勝セレモニーを・・・始めてくれ。」
苦渋の決断をするニルス、キャロラインも神妙な面持ちでそれを見守る。
大会真っ最中のガンプラ強奪という大不祥事は、ついにフォローすることが
叶わなかった・・・。

 フッ・・・

 会場の照明が一斉に落とされ、会場内が闇に包まれる。ざわめく観客たち。

 ーBegining plavsky particle dispersalー
突如、ガンプラのシステムが起動し、フィールドが形成される。
20人用の大型筐体から吹き上げられた粒子が、金色の球体をでかでかと映し出す。

 ーSTAGE GRANADAー

 月、真ん丸の満月、その衛星軌道上、画面の8割がその天体で埋め尽くされている。
「月面基地グラナダ、ここが決勝の舞台か!」
「無重力の宇宙と、月面の弱重力圏内での争いか、面白いな。」
暗闇の中、観客の声をすり抜けて10数人が筐体に駆け寄り、そしてガンプラをセット。
音声も、光も点けずにひっそりとゲームに進入する。
0095三流F職人垢版2015/07/12(日) 23:45:25.16ID:Z91j4mkV0
 ー第17回世界大会、ヤジマ商事主催10周年、そのメモリアル大会ー
アナウンスが語り始める。観客が無駄口をつぐみ聞き入る。

 ー全参加ファイター32581名、総試合数9521試合、総仕様ガンプラ232機種、40000体以上ー
 ー参加国95、最大試合日程295日、数多くの名勝負、名場面を築き上げてきた今大会ー
 ーその過酷な戦いを、実力と強運で乗り越えて来たファイター達ー
 ーいよいよ今日、その頂点を決定する戦いが行われます!ー

 ー皆様、画面西側、コンペイトウ方面をご覧下さい。ー

言われて観客が西側に目をやる。十字型の要塞基地、ソロモンが遠方に見える、
そしてそこからこちらにやってくる戦艦が一隻、誰もが知る白い機体ホワイトベース。
「お、おい!あのホワイトベースに、なんかいっぱい取り付いてるぞ!」
「ホントだ!MSがいくつかくっついてる、あれってまさか・・・」

 ー無念にもファイナリストに届かなかった勇者達、その7名が今、最終決戦の場に登場ですー
 ー殿堂入りの座を捨て。現役に戻ってきたメイジン・カワグチ!ー
後部艦橋に立っているレッドウォーリアが、観客に向けて敬礼する。
 ー3連覇の夢は潰えたが、それは来年以降も現役続行の証、リカルドフェリーニ!ー
後部に取り付いているWガンダム・トレミーラが手を振る。
 ー文字通り大会に『旋風』を巻き起こした男、ヤン・ウィン!ー
主翼の上で風車を回すネーデル・エンド・オブ・ザ・ワールド。
 ー南アフリカの地から、ついにベスト16入りの大殊勲、ヨハン・シェクター!ー
艦橋下部にさかさまに立っているズサ・グッドホープ。
 ーあのメイジンを破る大金星!リーオーの価値を変えた少女、リーナ・レナート!ー
戦艦のナナメ下にいるリーディングリーオー、顔のモニターに『祝』の文字。
 ー星条旗のキラ星、その猛威はどこまで続く、グレコ・ローガン!ー
艦橋後部にてガッツポーズを取る呂布トールギス。
 ー最後に、この人がいればこそ大会は面白い、ガンプラびっくり箱、ライナー・チョマー!ー
艦橋の中心に、文字通り『木馬にまたがって』いるヴォドム・ストレッチ。

「いつのまにか!筐体にいるよ、暗くて見えなかったけど・・・」
「おいおい、ベスト16、Aブロックの選手じゃねぇか、まさか戦うのか?」
「・・・いや、全員武器は持っていない、あくまでゲストだろう。」
「よく見ろ、バルカンの発射口までパテ埋めされている、決勝には絶対に干渉しない証だ。」
0096三流F職人垢版2015/07/12(日) 23:45:55.29ID:Z91j4mkV0
 ー続きまして、画面東側、ア・バオア・クー方面をご覧下さい。ー

 やはり1隻の戦艦が向かってくる。真紅の流線型の機体、グレート・デギン。
やはり同様に複数のMSが取り付いている。

 ー香港ではなくネオホンコン国籍と言ってはばかりません、マイケル・チョウ!ー
尾翼頂上で腕組みした状態で親指を立てるマスターガンダム。
 ー女性ファンの心も勝利もその一手に、ガンプラ貴公子ルーカス・ネメシス!ー
左舷甲板の上でクロスボーンが手を上げる。
 ー軍人出身は伊達じゃない、ガンプラ殺人兵器、アレクセイ・ジョン!ー
右腕を横に突き出し、引き戻して胸にかざすガンダム・サイサリス。
 ー往年の実力衰えず、2度目の優勝は持ち越したか、ルワン・ダラーダ!ー
背中の甲羅を開き、威嚇のポーズを取る∀ガンダム。
 ー若き白狼、ついにベスト8の扉をこじ開けた、マツナガ・ケンショウ!ー
機首部分で右手を高々と上げるザク・シンデレラ。
 ー拘り、というのがどういうものか、体現し続けて15年、サザキ・ススム!ー
艦橋横で指先でフェンシングの切っ先を真似るギャン。
 ー最後に、やはり『あの』レイジとアイラのご息女でした、
  レイラ・ユルキアイネーン!ー
こちらも艦橋部分にまたがってガッツポーズを取るモック。

やがてホワイトベースとグレートデギンは、月を背景に対峙して停止する。

 ーそれでは、この14人のツワモノを打ち倒してファイナリストとなった、
  両選手の入場ですっ!ー

 西の通路に青いレーザー光線が走る、その光に照らされて現れた2名、宇宙と大地。
パイロットスーツに身を包んだ2人が筐体にゆっくりと歩み寄る。
 ー最弱機体と言われたボールをここまで昇華、アクシデントにより途中からはヅダに
  スイッチするも、その強さに陰り無し、ガンプラの本場、日本代表、
  サトオカ・ソラ、ダイチ組ーっ!ー
「頑張れーっ!二人ともーっ!」
「あとひとつで優勝だぁーっ!負けるなーっ!」
応援団から、地元日本の観客から、大歓声と応援が乱れ飛ぶ。
コックピットの前に立つのは大地のほうだ。周囲が、観客が、一斉に理解する。
もうトリックスターの勇姿を見ることは無い、と。
0097三流F職人垢版2015/07/12(日) 23:46:29.59ID:Z91j4mkV0
 東の通路に走る赤いレーザー光線に照らされた女性、エマ・レヴィントン。
こちらもジオンのパイロットスーツに身を包み、愛機オッゴを手に歩みを進める。
 ー大会メインスポンサーのご息女にして、ガンプラを始めてまだ3ヶ月!
  チェス、フェンシング、競泳飛び込みと数々のジャンルを極めてきた彼女
  その戦歴にガンプラバトルを加えるか?スイス代表
  エマー・レヴィントンーっ!ー
「お姉さまーっ!頑張って、日本代表なんか蹴散らしてーっ!」
「そうだそうだ、本場者だからって遠慮するな、やっちまえーっ!」
「GO!GO!エーマッ!GO!GO!エーマッ!!」
日本以外の国からの判官贔屓な声援を背中に受けるエマ。対戦相手の大地を見据え
反対側の筐体に立つ。

 ーそれでは両者、ガンプラをセットしてくださいっ!ー
 大地がヅダを、エマがオッゴをセット、気体が粒子に包まれる。
その瞬間、ホワイトベースとグレートデギンのハッチが開き始めた。
完全に開き、カメラがその正面画像を捕える。今セットしたヅダが
ホワイトベースの発射口に、オッゴがグレートデギンの発射口に現れる。

「日本第1ブロック代表、里岡大地、ヅダ・セイバー、出るっ!」
「スイス代表、エマ・レヴィントン、オッゴカスタム、行きます!」
両者のガンプラが戦艦のハッチから弾き飛んでくる。そしてそれを合図に、
戦闘開始を告げるように、月面から2本の特大のビームが発射される。

それは、ホワイトベースと、グレートデギンを飲み込み、爆発すら残さず消滅させた・・・。

「なっ・・・!」
「あたしのモックがぁ〜〜っ!」
悲鳴を上げたのはチョマーとレイラだ。艦橋に座り込んでいた彼らの機体はビームを
回避することが出来ずに、戦艦もろとも蒸発してしまったのだ。
「おい!聞いてないぞ、どういうことだ!!」
「ダメージレベルAだぞ!人のガンプラを何だと思ってるんだ!主催は!!」
あわやビームを回避した12人が口々に憤る。
「サプライズというには無法すぎるな、これは本当に主催の仕業か?」
メイジンが推理し、月面に目をやる。その月から6体のSDガンダムが上がってくる。
「今のはコイツらの仕業かっ!」
ミサイルを向けるズサ・グッドホープ。しかし大会前のセレモニー規定により
発射口はすべてパテで埋められている。
「ならば喰らえっ!シャーク・アタック!」
足のアギトを開き、SDナイトガンダムに食いつこうとするズサ。
次の瞬間、ナイトガンダムは閃光斬の一撃により、ズサを跡形もなく消滅させる。
0099三流F職人垢版2015/07/13(月) 00:41:17.87ID:1na2X2420
「キャロライン!これは一体・・・」
事態が飲み込めず、キャロラインに問うニルス。
しかしキャロラインは顔を真っ青にして両手を頬に当て、振えながら首を振る。
「そんな・・・私のナイト達が、なぜ・・・あんなところに!?」
涙声で答えると同時に、大会役員の一人が部屋に飛び込んでくる。
「ニルス様、キャロライン様、賊です!応接室のガラスが破られ、キャロライン様の
 ガンプラが残らず盗まれておりますっ!」
「なんだって!?」
再び舞台に目を写すニルス、そこにはSD軍団VS、武装を持たないガンプラ達の
絶望的な戦いが展開されていた。

「エマ君、ダイチ君、君たちは下がっていろ!」
「決勝戦を戦う大事な機体、壊すんじゃないぜ!」
二人の前に庇い立ったギャンとサイサリスは頑駄無大光帝のグレートバスターキャノンを浴び
煙すら残さず消え去った。
「こいつらっ!シャレにならんぜ!!」
猛スピードで飛び回りながらフェリーニが叫ぶ、先ほどからSD軍団はその強力無双の武器を
好き勝手に乱射している。
「粒子のチャージが、なぜ追いつく!?」
「こっちは丸腰だってのに、ああも無茶兵器を連発されちゃあ・・・」
動きを止めず逃げ回る各選手、敵の射線に入るだけでほぼ死亡する状況。
「見ろ!サテライトシステムの受信機だ、やつら全員付けてやがる!」
「そうか、ここは月の至近距離、いや、それにしてもこうも連発できるはずがない!」
武者ウイングゼロカスタムがツインバスターライフルをまるでビームライフルのように
連射している。サテライトシステムを持っているにしても、この粒子量は異常だ。
0100三流F職人垢版2015/07/13(月) 00:43:40.18ID:1na2X2420
 ほどなく月面から再度、巨大なビームが上がってくる。マツナガのザクが半身をもぎ取られ
吹き飛んで爆発する。
「みんな、月を背にして戦え!月からエネルギーを貰ってるならば、その月に向けては攻撃できまい!」
メイジンの指示により、一斉に月面に向かうファイター達。
間を置かず、3度上がってくる巨大ビーム。マスターガンダムがフィールドから退場するハメになる。
「どんだけ連射できるんだよっ!一体何なんだあのビームはっ!」
「下に行くのも危険ですよ、どうすれば・・・」
「ルーカス!後ろだあぁぁぁっ!」
クロスボーンを突き飛ばした∀ガンダムはファイナルフォーミュラーのサザンクロス・ソールを
受けて消滅、その余波ではるか向こうのソロモンが半分無くなった。
「虎穴に入らずんば、だな!」
先頭を切って月面に突進する呂布トールギス、4度目のビームを先読みしてかわし、その発射源の
ドーム状の建物に取り付く。
「出てこいやあぁっ!」
ドームをぶん殴って穴をあける・・・つもりだったが、まるでその一撃で穴のあいた風船が
スローモーションで爆発するかのようにドームごと四散する。
緑色の光に押し出されるようにして。

「あ、あれは・・・」
「まさか、そんな!」
「そういう、カラクリかっ!!」
そのドームの中にある物を見て、全員が悟った。

「どけえぇぇぇぇぇぇっ!!!」
宇宙空間にいたヅダが猛スピードで月面に突進する。
「いかん!ダイチ君、君は下がっているんだ。」
「やめろっ!その機体が壊れたら・・・決勝はどうなるっ。」
「うるせぇっ!邪魔をするなぁぁぁぁぁっ!」
流れ星となって月面基地に特攻する大地、バスターライフルが足先をかすめ、左足を
持っていってもお構いナシだ。

 主催席、一人の男がけたたましくドアを開け、飛び込んでくる。
役員の一人であるその男は、大声でニルスに向けてがなり立てる。
「ニルス様!来ました、エマージェンシーです!エマージェンシーコール、タイプZTですっ!」
状況が飲み込めないニルスにとって、パニックに追い討ちをかける報告だった、
しかし、その役員の男が告げる次の一言が、全ての線を一本に繋げる。
「発生源は・・・ここ!この会場の、あのバトルシステムですっ!!」
男がバトルシステムを指差す、その先のカメラは、月面基地のドームがあった場所を
アップで映し出していた。

そこにあったのは、台座に据えられ、超高速回転で粒子の増幅を強いられている1台のガンプラ。

 ートリック・スター


23話でした。本当は1話にしたかったけど長くなったので2話に分割です。
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