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新人職人がSSを書いてみる 34ページ目 [無断転載禁止]©2ch.net
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/07/11(火) 22:59:05.15ID:2NKWfveH0
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。

現在当板の常駐荒らし「モリーゾ」の粘着被害に遭っております。
テンプレ無視や偽スレ立て、自演による自賛行為、職人さんのなりすまし、投下作を恣意的に改ざん、
外部作のコピペ、無関係なレスなど、更なる迷惑行為が続いております。

よって職人氏には荒らしのなりすまし回避のため、コテ及びトリップをつけることをお勧めします。
(成りすました場合 本物は コテ◆トリップ であるのが コテ◇トリップとなり一目瞭然です)

SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
新人職人がSSを書いてみる 33ページ目
http://echo.2ch.net/test/read.cgi/shar/1459687172/

まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
http://arte.wikiwiki.jp/

新人スレアップローダー
http://ux.getuploader.com/shinjin/ 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:669e095291445c5e5f700f06dfd84fd2)
0002巻頭特集【テンプレート】
垢版 |
2017/07/11(火) 23:01:18.97ID:2NKWfveH0
■Q1 新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
■A1 ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。
但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。

■Q2 △△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
■A2 ノンジャンルスレなので大丈夫です。
ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。

■Q3 00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい?
■A3 新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。
取り扱い作品は旧シャアで取り扱われている過去作および過去作の関連作を除いた
SEED・SEED DESTINY・OO・劇OO・AGE・GB・GBF・GBFT・Gレコとなります。(H27.3現在)    

■捕捉
エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。
どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。

■Q4 ××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
■A4 基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。
理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。

■Q5 △△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい?
■A5 基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。

■Q6 ○○さんの作品をまとめて読みたい
■A6 まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます

■Q7 ○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない?△△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。
■A7 事情があって新人スレに投下している場合もあります。

■Q8 ○○さんの作品が気に入らない。
■A8 スルー汁。

■Q9 読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
■A9 現在模索中です。大変お待たせしておりますがもうしばらくお待ちください。
0003巻頭特集【テンプレート】
垢版 |
2017/07/11(火) 23:03:28.25ID:2NKWfveH0
〜投稿の時に〜

■Q10 SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良い?
■A10 タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのか、を書いた上で
投下してください。 分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……等と番号を振ると、
読者としては読みやすいです。

■補足 SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名は位は入れた方が良いです。

■Q11 投稿制限を受けました(字数、改行)
■A11 新シャア板では四十八行、全角二千文字程度が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(>>1)個数にも制限がありますが、一般的には知らなくとも困らないでしょう。
さらに、一行目が空行で長いレスの場合、レスが消えてしまうことがあるので注意してください。

■Q12 投稿制限を受けました(連投)
■A12 新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。

■Q13 投稿制限を受けました(時間)
■A13 今の新シャア板の場合、投稿の間隔は忍法帖のLVによって異なります。時間を空けて投稿してください。

■Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
■A14 設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。

■補足
話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは
読者から見ると好ましくない。 と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の短編を一つ書いてしまう手もあります。
"読み物"として面白ければ良い、と言う事ですね。
0004巻頭特集【テンプレート】
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2017/07/11(火) 23:05:08.83ID:2NKWfveH0
■Q15 改行で注意されたんだけど、どういう事?
■A15 大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われる事が多いです。
一般的にその程度の文字数で単語が切れない様に改行すると読みやすいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
↑が全角四十文字、
↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あくまで読者が読みやすい環境の為、ではあるのですが
閲覧環境が様々ですので作者の意図しない改行などを防ぐ意味合いもあります。

また基本横書きである為、適宜空白行を入れた方が読みやすくて良いとも言われます。

以上はインターネットブラウザ等で閲覧する事を考慮した話です。
改行、空白行等は文章の根幹でもあります。自らの表現を追求する事も勿論"アリ"でしょうが
『読者』はインターネットブラウザ等で見ている事実はお忘れ無く。読者あっての作者、です。

■Q16 長い沈黙は「…………………」で表せるよな?
「―――――――――!!!」とかでスピード感を出したい。
空白行を十行位入れて、言葉に出来ない感情を表現したい。
■A16 三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ使います。
『……』、『――』という感じです。 感嘆符「!」と疑問符「?」の後は一文字空白を入れます。
こんな! 感じぃ!? になります。
そして 記 号 や………………!! 



“空 白 行”というものはっ――――――――!!!


まあ、思う程には強調効果が無いので使い方には注意しましょう。


■Q19 感想、批評を書きたいんだけどオレが/私が書いても良いの?
■A19 むしろ積極的に思った事を1行でも、「GJ」、「投下乙」の一言でも書いて下さい。
長い必要も、専門的である必要もないんです。 専門的に書きたいならそれも勿論OKです。
作者の仕込んだネタに気付いたよ、というサインを送っても良いと思われます。

■Q20 上手い文章を書くコツは? 教えて! エロイ人!!
■A20 上手い人かエロイ人に聞いてください。
0005巻頭特集【テンプレート】補則@
垢版 |
2017/07/11(火) 23:07:27.13ID:2NKWfveH0
>>4
■Q18 第○話、ではなく凝った話数にしてみたい
A18 別に「PHASE-01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも「同情できない四面楚歌」でも、
読者が分かれば問題ありません。でも逆に言うとどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。
ただし長編では、読み手が混乱しない様に必要な情報でもあります。
サブタイトルも同様ですが作者によってはそれ自体が作品の一部でもあるでしょう。
いずれ表現は自由だと言うことではありま
0006通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/07/11(火) 23:16:26.24ID:2NKWfveH0
テンプレ終了
>>4 の最後が切れちゃってますなすいません
次スレ建てる時は
「いずれ表現は自由だと言うことではあります。」
でお願いします
0010三流(ry
垢版 |
2017/07/29(土) 21:58:34.60ID:zpY24ern0
すいません駄文に蛇足しますね・・・

MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」

あとがき

最後まで読んでくれた方・・・なんているのかおいw
まぁ素人丸出し、誤字多発なSSなんてとっくに見限られてるとは思いますが
それでも気分だけはラノベ作家のつもりで、あとがきなど書いてみようかと思います。

まぁ見ての通り、私はIGLOOが好きです、ええもうガンダム作品の中ではぶっちぎりに、
アニメ全体から見ても私の心をこれほど揺さぶった作品はまぁ稀でしょう。
なんでここまで好きかというと、IGLOO内のプロホノウ艦長の一言に集約されます。

「脇役は毎度のことだ」

そう、脇役が好きなんですよ、モブややられ役や日陰者や背景キャラの物語が。
伝説の英雄やら薄幸のプリンセスやらニュータイプやら運命の人やら
そんな人には興味ありません、少なくとも自分が描く物語には。

だって自分がそうですから。

ええ、ただの凡人ですよ、普通のオッサンですよ、ヒガミ入ってますよ、悪いか?ええおい。
でもそんな人にも物語あるでしょう、長い人生の中、少しくらいは。輝く時間が。
だけどガンダムはじめ一般のアニメでそんな人が輝くのはたいてい爆死する瞬間くらいでしょう
スレンダーが、クラウンが、トクワンが、デミトリーが、ジャブローの名もなきジムのパイロットが。

でもMS IGLOOは違います。時代遅れの大砲屋や戦車兵の、蹴散らされるだけのモビルポッドの少年たちの、
欠陥品を懸命にゴーストファイターに仕立てようとする悲しいピエロの、そして閑職に配属された
603技術試験隊の人たちの懸命のドラマがそこにはありました。
こんなアニメがあるのか、いや、こんなアニメを作ってくれる人たちがいるのか・・・もう一目惚れですわこんなん。
0011三流(ry
垢版 |
2017/07/29(土) 21:59:50.30ID:zpY24ern0
前作の「GBFsideB」にも多数のIGLOO機体が登場しました、やっぱ好きな機体に活躍してほしいし
GBFという素材なら脇役メカが活躍してもなんらおかしくはない、という思いがありましたから。
ただ、GBFという作品が好きかというと、正直そうでもなかったんです。
だってそうでしょ、サザキ君「お前ごときに!」で一蹴されるわ、カトーさん次回予告で敗北決定だわ
警備員たちは子供一人にノされるわ、どんだけレイジとメイジン贔屓の物語なんだよ、と。
sideBにはそんな作品へのアンチテーゼの意味も強く込められていました、だから主人公はボールだったんです。

それから約二年、新人SSスレは物凄い勢いで過疎ってしまいました。
ユーラシア兵さんが頑張ってくれてはいましたが、ほかの方の投稿も全然なく、なんか私の作品が
スレを終わらせたみたいで気が引けていました。もうSSは書かないと思っていましたが・・・

しかし最近になってミート氏の艦これとのコラボ作品が掲載され、
これは便乗して盛り上げねば、と思って駄文垂れ流しを決意しました。

やはり書くならIGLOOと思いましたが、同作品を「嫌い」と一蹴する人も結構多いです。
その原因のひとつが「連邦軍がチンピラすぎる!」というもの。
それならばそのチンピラたちの物語を描いてみよう、という発想に行きつき、
以前から妄想していた二つのSSネタ「シドニーとアイランド・イフィッシュで遠距離恋愛するカップル」と
「もしも603にザクレロが配備されたら」を取り込んで作品の骨子が決まりました。

主人公のジャック君は正直「薄いキャラ」です。透明なと言い換えてもいいかもしれません。
彼には「悲劇」と「尊敬する人物」「戦争」「部下」によって成長という色がついていくのを表現したかったんです。
そのための一番の色、それがサメジマの兄貴でした。実は彼にはモデルとなるキャラがいます、
某相撲漫画の準ラスボスで、王者でありながら相撲を愛し、研鑽を愛し、工夫、研究を楽しみ、
仲間の個性を大切に思う、作品内でもアニキと呼ばれる、そんなカリスマ性を持ったたくましい背中の漢。
0012三流(ry
垢版 |
2017/07/29(土) 22:01:12.05ID:zpY24ern0
ジャックの悲劇に釣り合うだけのポジティブさと説得力を持った人物、彼がいなくてはこの作品は
成立しなかったでしょう、事実最初の案ではジャックはア・バオア・クーでノーサイドってか?のセリフを吐き
戦死する予定でした。兄貴の言葉を支えに成長してきたからこそ、作品として曲がりなりにも
完走できたんだと思っています。。
また、最初の連邦のチンピラであるオハイオ小隊の隊長に彼を充てることで、連邦=チンピラではない、という
作品の前提を立てたかったんです。

話が進むにつれて、ジャック君以上に成長したのはこのSSそのものでした。
サメジマの兄貴の言葉が、ジャック君の成長が、ファーストガンダムやIGLOOの流れに沿った
単なるドキュメントから、彼の成長物語に引き上げてくれた、と言っていいでしょう。

それでも彼は仮にアムロと戦ったら「そこ!」の一撃で爆死でしたし、シャアと戦えば「邪魔だ」で
四散していたでしょう、それでいいんです。彼はあくまで普通の人ですから。
逆に言えば普通の人はどんだけ頑張ってもアムロにはなれませんが、
ジャック君くらいのレベルにはなれるよきっと、というメッセージでもあります。

エピローグで最後に彼がツバサちゃんと会えたのは、作者からの彼へのご褒美です
普通の人でも少々のロマンスくらいあってもいいじゃないかぁー!という願望ともいいますがw

このSSで粗末に扱ったキャラはいないと思ってます、ソーラレイで焼かれた部下3名は例外ですが
オハイオ小隊、デミトリー、カスペン、オリバー・マイ、ワシヤ、オッゴの学徒兵たち、
ワッケイン、エディ、ビル、ツバサ、最終決戦の少年兵たち・・・
だって彼らはシャアでもアムロでもなく、私の愛する脇役ですから。

駄文に駄文を足したあとがきでスレ汚して失礼しました、
脇役に幸あれ。
0013ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
垢版 |
2017/08/02(水) 00:14:11.96ID:nW3T+6Hv0
新スレ初の投稿をさせていただきます
血を流すより、汗を流す方法を学べ。汗を流しておけば血を流さずに済む エルヴィン・ロンメル

連合兵戦記 8章 雌伏の時

――――――――――C.E 70年 12月22日――――――――

大西洋連邦領  ロズウェル空軍基地 地下


西暦期……まだアメリカ合衆国という国家が超大国として世界に君臨していた頃、墜落した未知の宇宙文明による宇宙船と宇宙人が囚われているという都市伝説で有名だったこの基地では、
地球連合の反撃の糸口となる新兵器の開発、実戦投入に向けて、パイロットの訓練が日夜行われていた。

滑走路の地下に建設された人工の大地……かつて倉庫だったその場所は、改装され、そこに設置された市街地を模した施設群の中では、
地球連合とザフト………二大勢力の技術の粋を集めて作られた鉄巨人達が戦っていた。

1体は、全身がライトイエローに塗装され、翼を生やした単眼の魔神を思わせる形状で人型でありながら、所々が人間とかけ離れている形状をしている。
対するもう1体は、全身をグリーン系統の迷彩色で塗装され、兵器であることを教えている。

その形状は、敵機とは対照的に人に近い形状で、頭部には2本のアンテナが生え、バイザー型のセンサーからは青白い光が放たれていた。片方は、ザフトの開発した初の量産型MS ジン
そしてそれと交戦しているもう片方の機体…それこそ地球連合を形成する3大国の1つ 大西洋連邦の試作MS グラディウスである。

グラディウスは、ジンの重突撃機銃を左腕のシールドで受け止めつつ、廃墟の一つに隠れる。ジンの撃つペイント弾を受けとめ続けた強化特殊合金製のシールドは、
子供の落書きの後のキャンバスの様なでたらめな模様に染められている。

ジンも、同様に廃墟を即席の盾にする。グラディウスの胸部のコックピットで、橙色のヘルメット付パイロットスーツを着こんだ操縦者は、何度も荒い息を吐いていた。

彼………ハンス・ブラウンは、機甲歩兵指揮官から、この人造の巨人の操縦者となっていた。

「糞!当たれ!」

廃墟の合間を動く影を見たハンスは、トリガーを引いた。

グラディウスの両腕に抱えられた巨大な機関銃 52mmガンポッドの砲口にマズルフラッシュの輝きが生まれ、模擬戦闘用のペイント弾頭が発射される。

このガンポッドは、元々開戦前に研究されていた大型攻撃機の主力兵装になる筈だったものをモビルスーツ用に改造したものである。

大西洋連邦軍は、自軍のMSの主力兵器にはビームライフルを採用する予定だった。だが、
ビームライフル開発が失敗した場合のピンチヒッターとして52mmガンポッドを含め、数種類の実弾式のMS用火器を開発していたのであった。

その大半は、戦場で鹵獲したザフトのジンの装備火器のコピー品だったが、少数は独自開発したもので、52mmガンポッドはそれら少数派に該当した。

またビームライフルは実物こそ完成したものの練習機に装備する予定の訓練用模擬ビームライフルは開発リソースが他に取られたこともあり、未完成で、
このエリア51には、模擬ライフルは納入されていなかった。
その為、この52mmガンポッドを急遽、グラディウスの装備火器として採用しているのである。
0014ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
垢版 |
2017/08/02(水) 00:20:32.50ID:nW3T+6Hv0
廃墟にペイント弾が着弾し、蛍光色の塗料が灰色のコンクリートに歪な模様を生み出す。直後、廃墟からザフト軍の主力MS ジンが飛び出す。
ハンスのグラディウスは、右腕のガンポッドを連射する。

「あたったか!ちっ」

ジンは、スラスターを巧みに使ってその攻撃を回避する。命中したのは数発だけで、ジンを撃破認定するには至らない。
一瞬有効打を与えたと思ったハンスは、敵に対したダメージを与えられていないことに落胆した。

「…!」

数ヵ月前までこの男は、ヨーロッパ戦線で指揮下の部隊と共にモビルスーツを擁するザフトを相手に善戦した機甲歩兵指揮官だった。
今彼は、地球連合軍の試作モビルスーツ グラディウスのパイロット訓練生の一人として部隊間模擬戦闘訓練に参加していた。

ハンスの所属する訓練部隊のグラディウス4機とアグレッサー役のジン4機の戦闘は、約30分続いており、現在、グラディウス部隊で生き残っているのは、
ハンスだけだった。対する模擬戦闘の相手は、まだ2機が残っている。
早く1機を撃破しなければ…焦るハンスの心を更に追い詰める音が彼の耳朶を打った。コックピットに敵機の接近警報が鳴り響いたのである。

「ちっ!もう合流してきたか。」

ハンスにとって最も恐れていた事態が起きた―――――先程、僚機のグラディウス2機を撃破したもう1機のジンが合流したのである。そのジンも無傷ではなく、
背部のスラスターを2基共損傷し、右腕もペイント弾塗れで使用不能に陥っていたが、
戦力としての意味は大きいと言えた。特に相手がグラディウス部隊の最後の生残機のパイロットであるハンス・ブラウン少佐の様な未熟な技量の持ち主の様な場合は。

更に言えば、先程まで3対2だった戦いは、1対2に逆転する。そうなれば、形勢は一気にハンスらの対戦相手であるアグレッサー部隊に傾くことになる。
2機のジンを相手にハンスは、戦うことになるのである。まだ完全に操れているとは言い難いモビルスーツで…。
こうなってしまえば勝ち目は殆どない。第2次世界大戦のエースパイロット エーリヒ・ハルトマンは、「僚機を失った者は戦術的に負けている」という名言を残している。
モビルスーツと戦闘機の違いはあれど、僚機の喪失は、致命的である。
1人だけで2人の敵を相手にするのがいかに危険かということは、訓練を受けた軍人だけでなく、初等教育も怪しいスラムで育ったギャングの少年少女でさえ常識である。

ハンスは、この厳しい状況に歯噛みしつつ、諦めることは無かった。実戦では、諦めは死への近道である。そして、その感情を彼は、極力抱かない様に務め、事実そう振る舞っていた。

「当たれ!」

ハンスのグラディウスは、手前のジンに向けてガンポッドを連射した。手前のジンは、その攻撃を回避すると、遮蔽物にしたビルに隠れながら銃撃を浴びせる。
それらの銃撃は、散発的で、敵を倒すというより、足止めする為のものであった。
事実、そのジンのパイロットの目的は、ハンスのグラディウスの足止めにあった。
僚機と合流すれば、自部隊の勝利は確定するのだから、無理に敵を撃破する必要はない…そう判断したのである。
だが、ハンスのグラディウスが、ジンのパイロットの予想に無い行動をとった。銃撃戦を行うだけだと思ったグラディウスが、シールドを前面に立てて突進してきたのである。

「自殺しに来たか?」

ジンに乗るアグレッサー役のパイロットは、毒づきつつ、集中射撃を継続しようとした。
だが、それはハンスが更に予想外の行動をとったことによって阻止されてしまった。
目の前の敵機は、左腕に装備したシールドを投げつけたのである。

ジンは、その予想外の行動に対処できず、シールドの直撃を受ける羽目になった。
少なく見積もっても1tは軽く上回る質量を有する金属の塊が加速を受けて激突したのである。
堪らずジンは、体勢を崩しその場に崩れ落ち、後方のビル…正確にはビルを模した張りぼてを粉砕した。
0016ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
垢版 |
2017/08/02(水) 00:23:28.60ID:nW3T+6Hv0
そのチャンスをハンスは、見逃さなかった。ハンスのグラディウスが右手の52mmガンポッドを構える。

「止めだ」

ハンスはトリガーを引いた。だが、彼の期待に反し、ガンポッドから、ペイント弾は、1発も発射されなかった。
その代わりにガンポッドの弾薬が底をついたことを知らせる警報音が虚しく響いた。

「ちっ」

弾薬を使いすぎたか! 心中でハンスは毒付く。グラディウスの右腕のガンポッドから空になった弾倉が自動的に排出される。
その隙にジンは体勢を立て直そうとしていた。

弾倉を交換している暇はない。目の前のジンを撃破する為には、ビームサーベルを使用するしかない!

そう判断したハンスは、機体を操作する。背部に装備されたビームサーベルが抜かれ、
サーベル基部が握られたグラディウスの右腕を起点に鮮やかな光の刃が伸びた。ビームサーベルは、グラディウスの装備兵器では、最も高い威力を有した兵器である。

しかし、今は、模擬戦闘用に設定されている為、実際の破壊力は殆どない。それでも、模擬戦闘に参加している双方のパイロットのモニター上では、CG補正により、実戦と同様の輝きを見せていた。
模擬サーベルを右手に握ったハンスのグラディウスは、ジンにそれを振り下ろす。

ハンスは一瞬それで勝負が決まったと思った。だが、ジンのパイロットは、その動きに対応できていた。
間一髪ジンは、右手に重斬刀を保持して迎撃する。

3D処理された仮想空間の上で機械仕掛けの単眼の魔神が自身に振り下ろされる荷電粒子の刃を受け止める。

「くっ!これが…」

コーディネイターの力か・・・…。相手の反応速度の素早さに舌を巻きつつ、ハンスは、相手に止めを刺そうとする。
そのまま行けば、出力に勝り、体勢でも有利なハンスのグラディウスがジンをビームサーベルで撃破していただろう……だが、そこで時間切れとなった。

もう1機のジンが合流してきたのである。新手のジンが、左腕に握った重斬刀を振り上げてハンスのグラディウスに接近する。

「くぅ…このままでは」

ハンスは、このままでは不利だと判断し、追い詰めていたジンに頭部のイーゲルシュテルンを叩き込みつつ、後退した。もう1機のジンが重斬刀で切りかかってくる。
ジンの機体重量を上乗せしたその重い一撃をハンスは、何とかビームサーベルで受け止める。
ハンスのグラディウスは、後退を余儀なくされる。

その隙に先程追い詰めていた1機のジンは、彼に重突撃機銃を向けていた。ジンの右腕の重突撃機銃が火を噴く。

この距離では、回避は不可能、左腕にマウントされた防御用のシールドは間に合わない。スローモーションの様にハンスの認識の中で時間が流れた

その直後、ペイント弾が、グラディウスの胴体装甲に着弾し、蛍光緑色に染めた。撃破判定を受け、頭脳、神経に当るコンピュータを停止させた試作モビルスーツ グラディウスは、動きを止めた。
0018ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
垢版 |
2017/08/02(水) 00:32:40.11ID:nW3T+6Hv0
模擬戦闘であった為、両者は無傷であったが、実戦ならグラディウスは、胴体を蜂の巣にされて爆発していたことは確実だった。

「くそっ!!」

ハンスは沸き起こる怒りのままに拳を己の膝に叩き付けた。機体の正面モニターには、大きくYOU LOSEの文字が明るい赤色で表示されていた。
これは、グラディウスのOSを担当した技術者の遊び心であったが、パイロットの心情をこれ程苛立たせるものも無かった。
今回の模擬戦闘は、4機のグラディウスとアグレッサー部隊のジン4機による、市街地を再現したエリアでの模擬戦闘である。
ハンス達は、集中攻撃で1機のジンを撃墜し、もう1機を1機が、刺し違える形で撃破し、3対2に持ち込んだが、その後、
2機のグラディウスがジンに撃破され、残されたハンスも撃破されたことで逆転負けを喫した。
模擬戦闘でアグレッサー部隊に勝利した訓練生部隊はまだ10回程度しかない。…グラディウスとジンの性能差は、前者の方が若干上回っている…
それを考慮すると、問題は機体性能ではなくパイロットの方であった。
グラディウスの操縦訓練を受けるパイロット達は、決して無能というわけではない。
むしろ彼らは、様々な部署から選ばれた精鋭であり、それは、ナチュラルにとってモビルスーツの操縦がいかに困難かということを示していた。
偽りの戦いの勝者と敗者は、それぞれ帰るべき場所……格納庫に戻った。4機のグラディウスがハンガーにその機体を横たえ、
胸部のコックピットからパイロットが次々と外に出る。
30分近い模擬戦闘を経験した彼らは一様に疲労していた。
元機甲歩兵中隊指揮官 ハンス・ブラウン少佐も例外ではなかった。

「…はあっはっ」

機体をハンガーに格納させたハンスは、這い出る様にコックピットから出た。彼の身を包むパイロットスーツの内側は汗で濡れ、酷使された筋肉は発熱していた。
その呼吸は荒く、炎天下で何時間もランニングをした後の運動選手の様だった。

「少佐!冷やしておきましたよ!」

若い整備兵が、コックピットから出たばかりの彼にスポーツドリンクの入ったペットボトルを差し出した。

「ラーマン軍曹か…ありがとう。いつも助かる。」

ハンスはその整備兵に感謝の言葉をかけると、右手でそのプラスチックのボトルを受け取る。
モビルアーマーや戦闘機や機甲歩兵と同様にモビルスーツの操縦は体力を大きく消費する。その為水分補給は欠かせなかった。
ハンスは、貪るようにペットボトルに満たされたスポーツドリンクを飲み干した。
彼が、実機を使用した模擬戦闘を行うのは、これが10回目だったが、未だにMSを操縦することに慣れることは無かった。

ハンスら、グラディウスのパイロットは、試作モビルスーツ グラディウスの再転換訓練に従事していた。また彼らには、訓練だけでなく別の任務も与えられていた。
彼らに与えられた任務とは、実機を使った訓練を行うことによる地球連合軍のモビルスーツ部隊運用の研究―――――――
それには、モビルスーツの運用ノウハウと戦術を確立することも含まれる。
更に彼らは、実戦に出ることも前提に考えられていた。ハンスを含むグラディウスを与えられた訓練生は、その全員が、地球連合の反撃の切り札となるであろう人型機動兵器 
モビルスーツのパイロットになる可能性を秘めていると言えた。だからこそ、ハンスは、この機械仕掛けの巨人に乗り込むことを志願したのである。
現在の戦争における最強兵器の地位を確立したモビルスーツを操縦することが出来れば、
前線で1人でも多くの地球連合軍兵士の命を救い、ザフトに打撃を与えることが出来る。
そしていつかは、あのシグーのパイロットを………。
だが、今のハンスのモビルスーツパイロットとしての技量は、実戦に出るまでには至っていなかった。
ハンスらMSパイロット候補として選ばれた兵士達が操縦する試作MS グラディウスは、
遺伝子操作によって能力を強化されたコーディネイターによる操縦が前提となっているジンと異なり、
地球連合軍の大半を占めるナチュラルでも操縦できるようにOSの改良が重ねられていたものの、
その性能は未だに低く、グラディウスのパイロットに選ばれた訓練生達は、未だに実戦に耐えられる操縦技量を得ることは出来ていなかった。
0019ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
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2017/08/02(水) 00:35:41.55ID:nW3T+6Hv0
「申し訳ありません!小隊長、私のミスが無ければ!」

赤毛の女性士官 ニーナ・アントノフ少尉は、目の前の指揮官 ハンス・ブラウン少佐に頭を下げ、大声で謝罪した。
機甲歩兵上がりのハンスの堂々とした長身と比較すると彼女の体格は、小柄で頭一つ低かった。今回の模擬戦闘で、彼女は、グラディウス3番機に乗り込んでいた。

「私にも責任はあります!自分が無理に接近戦を挑まなければ…」

ニーナの右隣にいた漆黒の巨漢…ジョン・ハンフリーズ少尉がその厳つい顔を申し訳なさそうに歪めて謝罪する。
海兵隊の戦車兵上がりのこの男は、基地内では、隊員同士のレクリエーションで行われているバスケットボールのエースとして知られ、
その2メートル近い巨体に見合わぬ素早い身のこなしから、ステルス爆撃機の異名を持っていた。
生身では、素早い動きを見せる彼も、モビルスーツパイロットとしては、他の訓練生と同じく鈍重な動きしか出来なかった。
今回の模擬戦闘で、グラディウス2番機に搭乗していた彼は、アグレッサー役のジンと接近戦で、無理に突進して撃墜されていたのである。

「……」

グラディウス4番機に乗っていたフレドリック・バーンズ少尉も悔やむ様に顔を顰めていた。彼は、模擬戦闘の序盤にアグレッサーのジンと刺し違える形で1機を撃墜することに成功していた。

「2人とも、いい。今回は、指揮官である俺の判断だ。さっきの模擬戦闘の結果も俺の責任だ…それに俺も、褒められた操縦をしていたわけじゃない。」
「いいえ!ハンス隊長の判断は、的確でした」
「ガンポッドでは、威力が足りません。せめてビームライフルが配備されていたら…」

ハンフリーズは、ビームライフルが未だに配備されてこないことについて愚痴った。ビームライフルの火力があれば、
アグレッサー部隊との戦いを有利に進められるのではないかと考えていたのである。

「それを言うな。前線では、武器を選んでいられない。実戦で敵に今は、武器が揃っていないので次の戦いまで待ってくれ、という事は出来ないからな」

ハンスは、部下に諭すように言う。その発言は、彼の経験に基づくものであった。
彼が数ヵ月前までいたヨーロッパ戦線で準備不足、装備の不足は日常茶飯事だった。部下に損害が出る度にもう少し、準備が出来ていれば、装備が揃っていれば…と思うことも度々あった。
だが、それらの経験を経た結果、ハンスは、実戦において完璧な準備というものは、不可能に近いのだという事を十分に認識していた。
だからこそ、与えられた装備でも戦えるようにすることが大切だと考えていた。
「全員、次の模擬戦闘に備えて待機室で休憩しておけ」
「はい!」

3人のパイロット訓練生は、指揮官に敬礼すると去って行った。

「…(この機体を未だにまともに操縦できない俺が、偉そうに説教できる立場じゃないんだけどな)」

休憩室へと歩いていく部下達の背中に見つめ、ハンスは、心の中で自嘲した。
0020ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
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2017/08/02(水) 00:40:27.07ID:nW3T+6Hv0
格納庫には、彼らが模擬戦闘に使用した緑色のモビルスーツ…グラディウスが4機その巨体を誇示する様に佇んでいた。

試作モビルスーツ グラディウスは、12機の試作機が既に組み立てられ、地球連合軍…正確には、大西洋連邦の陸海空、そして宇宙の4軍から選び抜かれた兵士達が、将来の地球連合軍MS部隊の編制の基礎となるべく訓練を受けていた。
このエリア51での戦闘訓練とMS開発について全容を知っているのは、大西洋連邦の軍上層部のみである。
これは地球連合内での3国の主導権争いが関係している。

最初にモビルスーツを量産できた加盟国が地球連合内の主導権を得ることは確実で、大西洋連邦としては、それまでのライバル国であるユーラシア連邦、東アジア共和国よりも早くモビルスーツを開発したかった。
そのことは、プラント占領後の利権獲得等の戦後処理で優位に立つことに繋がるのである。これは、大西洋連邦以外の2か国も認識しており、
ユーラシア連邦や東アジア共和国等も独自のMS開発を進めている。そのことを大西洋連邦は、十分に情報を得ていないものの、
向こうも多大な費用と人的資源を注入しているのは、確実であると大西洋連邦上層部も考えていた。

その為に大西洋連邦は、エリア51の地下にこの巨大な訓練施設を建設することまでしていたのである。この広大な地下空間は、
元々、開発中の機体や予備の機体等を保管しておくための施設だった。

空軍基地の周囲の地上に模擬戦闘用の施設に転用可能な土地が余る程存在するにも関わらず、この様な地下施設が建設されたのは、ザフトに発覚するのを警戒してのことである。

ザフトは、北米大陸に拠点を有してはいないし、3大国が互いの領土を偵察するのに用いていた高高度偵察機の類は未だに保有していない。
0021通常の名無しさんの3倍
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2017/08/02(水) 00:42:54.61ID:nW3T+6Hv0
大西洋連邦の軍首脳部が恐れたのは、遥か碧空の上、真空と暗黒が支配する宇宙空間……そこに展開する偵察衛星や宇宙艦隊の艦艇の観測装置による偵察行動である。

宇宙空間からの偵察は、西暦末期実用化された技術で、ザフトと地球連合の宇宙艦隊による地球周辺の制宙権争いが激化しているのもこれが理由である。
西暦のある時代には十分な国力と技術力のある国しか打ち上げられなかった人工衛星も、C.E 70年代では、一民間企業ですら運用可能な代物になっている。

更に軍用の偵察衛星も、小型化、高性能化が進み、専門の基地ではなく、前線の地上部隊ですら、ミサイル車両を転用した発射台や輸送機を利用して人工衛星を打ち上げる時代である。
人工衛星のカメラの解像度も、地上の装甲車両や艦艇から、砂糖に群がる虫やコンクリートの染みまで鮮明に映し出せるまでに性能は向上していた。

更に宇宙艦艇も宇宙の敵を捉える為のセンサーと同じ位、地上の敵を監視する為のセンサーを搭載している。今では、殆どが退役したが、
C.E 60年代には、専門の軌道偵察艦という艦種さえあった程である。

これは、初期の宇宙艦隊が、地上軍との連携を前提に編成されたという経緯と関係している。

初期のスペースシャトルや宇宙ステーションを武装化しただけの各国の宇宙軍は、地上の敵国の監視や大陸間弾道弾の迎撃、
敵の偵察衛星、シャトルの破壊等、地上軍の支援がその主な任務だったのである。

それらの天空からの目から自軍の切り札であり、ザフトに対する反撃の糸口となるモビルスーツ開発計画を隠す目的で、地下に建設されたのである。

この広大な地下空間だけでこのモビルスーツ開発計画に大西洋連邦がいかにこの計画に重要視しているかが窺えるというものである。
0022ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
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2017/08/02(水) 00:44:56.56ID:nW3T+6Hv0
また模擬戦闘の相手を務めるアグレッサー部隊のジンを操縦するのは、コーディネイター系軍人である。

彼らは、グラディウスのパイロットと同様に厳格な守秘義務を義務付けられているだけでなく、体内へのICチップの埋め込みの強制や思想チェック、
更には任務外のプライベートの時間でさえも常に監視が付けられていた。

ある意味で捕虜収容所の捕虜よりも厳重に管理される彼らの扱いは、地球連合が、ザフトと同じコーディネイターの兵員を完全に信用しきれずにいることの証左でもある。

25分後、訓練教官と上官への報告を終えた地下の訓練施設から出たハンスは、エレベーターで地上に向かった。

エレベーターのドアには、「エネルギー節約の為、階段を使おう」というスローガンが黄色いゴシック体で描かれている。

この基地以外の多くの政府関係施設でもよく見ることのできる政府のスローガンの一つである。だが、現在の訓練で疲弊したハンスは、
それを無視し、エレベーターに乗り込んだ。エレベーターには、ハンス以外に3人の整備兵が乗り込んでいた。

地上階に出たハンスを最初に出迎えたのは、地上を吹き荒れる砂混じりの熱い風だった。この風が顔に触れると同時に、彼は、自分が地上にいることを実感させられた。

ハンスは、隣接する食堂に向かった。彼が向かった食堂……正式名称は、第2中央食堂は、地上に存在しており、このエネルギー危機の中では、珍しく開戦前と同じバリエーション豊かな料理を食べることが出来た。
防弾ガラスで出来た自動ドアのセンサーがハンスの存在を感知し、ドアを開けた。

食堂のドアが開くと同時に食欲をそそる香りが彼の鼻腔を刺激する。訓練後の空腹に堪える匂いにハンスは、早く並ばなくてはいけないな…と思った。

5分後、彼は、料理が盛られた皿やボウルが乗ったトレーを手に持ち、座る為の席を捜していた。

昼食の内訳は、ガーリックチキンステーキとトマトとレタスのサラダ、大盛りにした白米、コーンスープというもので、
体力仕事である軍人の食事としては比較的あっさりとしたメニューであった。ハンスは、両手に料理を乗せたトレーを持って座席を捜す。
0024ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
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2017/08/02(水) 00:47:42.15ID:nW3T+6Hv0
「(またプロパガンダか…)」

食堂の中に響き渡る電子機器からの声にハンスは辟易した。食堂の柱のいくつかには、薄型テレビが填め込まれており、鮮明な映像を見せていた。

テレビに映されるのは、地球連合のプロパガンダ放送やそれに附随する番組ばかりである。現在テレビには、本日の放送内容が映し出されていた。
ちなみに今日の朝の番組内容は『ネイティブ・アメリカンから学ぶ保存食・非常食の知恵』『週間愛国ニュース』『ラスト・ガンファイターV』であった。

1つ目は、NJ後のエネルギー危機による食糧確保の問題とその保存手段を少しでも改善すべく、大西洋連邦政府が、限られた資源と手間でも可能な食料の保存法や非常食についての知識を
市民に周知させる目的で制作された番組である。

2つ目は、C.E 70年8月から配信が開始された番組で、その内容は、前線や後方での地球連合兵士や部隊の活躍を紹介したもので、戦時プロパガンダの性格が強い。
ハンスが数ヵ月前に率いていた第22機甲兵中隊も1度紹介されたことがある。

最後は、C.E 15年に第一作が制作された戦闘機パイロットを主役にした大西洋連邦の人気映画シリーズである。何故Vから放映されているのかという理由は、政治的理由である。

TとUには、当時大西洋連邦空軍のパイロットだった、ファースト・コーディネイター ジョージ・グレンがエキストラとして出演しているからである。
ハンスは、窓際のカウンター席が空いているのを見つけ、その席の一つに腰かけた。

「ハンス少佐、今日の模擬戦闘見ましたよ。流石です。」

席に腰かけたハンスの後ろから声をかけたその角刈り頭の男は、防塵ゴーグルを着用していた。

「それは嫌味か?」

ハンスは肩を竦め、防塵ゴーグルを掛けたその男…ハンスと同じグラディウスのテストパイロットであるグレン・ターナー中尉は、
ハンスの左隣の席に座った。彼の今日の昼食は、合成蛋白のビーフステーキと添え物のフライドポテト、Lサイズのチーズバーガー、魚介類とトマトのパスタ、チキンスープ、ストロベリー味のアイスクリームと言う高蛋白なメニューであった。

普通の人間が見たら良くその痩身を維持できているなと感心しているところだが、ハンスは繭一つ動かさない。

モビルスーツパイロットと言うものがイメージ以上に体力を必要とする職種であると認識しているからである。

「違いますよ。負けは、負けでも今回の貴方の部隊の敗北は、惜敗と言う奴ですよ。」

ターナーは、そう言うと、ナイフとフォークを手に取って合成蛋白のステーキを解体する作業を開始した。

皿の上で白い湯気を立てるその物体は、一見すると本物の牛肉を使ったものと見分けがつかない。
だが、その味は、本物に幾らか見劣りするものだった。合成蛋白の肉の味を前線で散々味わってきたハンスは、
一応≠ヘ、本物の鶏肉を使っているチキンステーキを選択することにしていた。

「ハンス少佐、隣よろしいですか」
「ああ」

ハンスの右隣の席に座ったすらっとした長身に短く切り揃えた金髪が特徴的な士官…ハイラム・エリクソン中尉は、ターナーと同じ部隊の所属である。
彼が手に持っているトレーには、大盛りのエビピラフ、マカロニ&チーズ、チキンブリトー、ハム&トマトサラダ、ダイエットコーラである。
0025ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
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2017/08/02(水) 00:50:02.03ID:nW3T+6Hv0
「ターナー、よくそんなハンバーガーが食えるな。犬が食べられるって評判だぞ」

ハイラムは、そんなターナーを皮肉った。

「ふっ、犬も食わないハンバーガーの方が可笑しいね」

ターナーは、合成肉のパティとチーズ、数種類の野菜とそれを挟んでいたパンを嚥下しつつ、言い返す。

「飯に文句を言うな。気持ちは分かるがな、食えない奴らも大勢いるんだ。」

ハンスは、ハイラムを窘める。

NJによって齎された通信障害とエネルギー危機によって大量消費社会だった地球随一の大国であった大西洋連邦の状況は一変した。

国外からの輸入はストップし、更に国内でも通信障害によって開戦前の大西洋連邦の流通のかなりの割合を支えた
無人トラックのコンボイを用いた無人流通網も壊滅を余儀なくされた。

これにより、厖大な人口を抱える大都市を中心に各都市では、食料品を初めとする生活必需品が不足し、遠隔地では、多数の凍死者、餓死者が発生した。
様々な食料品で溢れていたスーパーマーケットやコンビニは、瞬く間に空の棚で溢れかえり、次々と閉店に追い込まれた。

また辛うじて物資の供給の続いている店舗は、政府の食糧配給センターに改装されたり、略奪を警戒して州軍や警察による警備が行われた。
食糧の生産地でも、化成肥料や飼料を調達できず、作物や家畜を餓死させるしかない状況に追い込まれる地域が相次いだ。

大西洋連邦政府は、核戦争に備えて各都市に建設されていた地下シェルターに保管されていた保存食料の放出を行った。
5月7日には、一部地域では、州政府の判断により食糧が、配給制に移行。(ユーラシア連邦初めとする地球の大半の国家では、食料の完全配給制に移行している。
一部の国家では、地球連合か親ザフト国家の占領を受け入れることで状況の好転を図った。)
更に無人流通網の再建も図られ、従来の無人トラック数両と指揮車両を1単位として編成される輸送部隊が各都市への食糧輸送に従事した。

この緊急輸送部隊は、途中で生活の為に一部市民によって襲撃されることさえあった。(更に南の旧南アメリカ合衆国領の状況は、想像を絶するもので、
軍の遺棄兵器を手に入れた犯罪組織や少数民族ゲリラ、民兵等が、民間だけでなく、占領している地球連合の補給部隊や軍に補給任務を委託された企業を襲撃する事件が多発していた。)
今では、これらの対策の為にPMCや州警察が護衛に従事していた。

民間の企業や政府機関だけでは、手が足りない為、州軍のみならず、大西洋連邦正規軍の輸送部隊までが動員されていた。
更に鉄道では、それまで人間を各地に運んできた列車までもが、食糧や生活必需品の輸送に従事させられていた。
この様な情勢下で、これだけのメニューをこの砂漠に囲まれた大西洋連邦の辺境とも言えるロズウェル基地の食堂が維持できているのは、驚異的なことだと言える。

今や開戦前に10種類のハンバーガーを客に提供してきたハンバーガーチェーン店や数十の地域の民族料理がメニューに記載されていたレストランも、
ハンバーガーやサンドイッチしか注文できない惨状に追い込まれていた。
0026ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
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2017/08/02(水) 00:52:05.61ID:nW3T+6Hv0
「…すみません。」
「にしても…外の飛行機…いつまでここで腐らせておくつもりなんでしょうね。」

ハンバーガーを食べ終えたターナーが、右手で窓の向こうを指差す。ハンスらは、防弾処置の施された窓硝子を隔てた食堂の外を見た。

窓の外には、滑走路や管制塔、格納庫といった空軍基地として必要な施設が林立している。食堂と隣接する滑走路には、
大西洋連邦軍の戦略爆撃機 B-7とその無人型QB-7が駐機されていた。
更にその奥には本来であれば、すでに退役しているはずの再構築戦争期に開発されたB-6戦略爆撃機の列線があった。
そして、その更に向こうには、黄色に染まった不毛の砂礫がただ広がるばかりであった。

「…(地の果てか)」

ハンスは、初めてこの基地に来た時に同じ旅客機に乗っていた兵士が、言った言葉を思い出していた。

「そういやターナー、お前の部隊は、勝てたらしいな。」
「ラケル中尉がいたお蔭です。彼女がいなかったら、私の部隊は、3分と持ちこたえられませんでした。」

ラケル・ジェニングス中尉……格闘戦での成績は、訓練生の中でもトップクラスであり、
対戦相手のコーディネイター系軍人の操縦するジンを格闘戦で撃破出来た数少ない訓練生であった。

その高い実力と反比例するかのようにMS訓練部隊に所属する以前の経歴は謎だった。

彼女が何処の軍、部隊に所属していたのか一切不明で、本人も語ろうとはしなかった。その為、彼女の容姿と相まって多くの基地の人間が、
「元特殊部隊員」「ハーフコーディネイターなのでは?」「コーディネイター並みの身体能力を与えられた改造人間」等といった無責任な噂に花を咲かせていた。
ハンスは、そのどれもが余りにも荒唐無稽だと考えていた。

「彼女は、コーディネイター並みの強さだからな。」

荒唐無稽な噂を信じないハンスも、ラケルの実際の強さについては十分に認識している。
彼は一度、訓練生の部隊同士の模擬戦闘で戦ったことがあった。
その時は、あっという間に近接戦闘に持ち込まれ、真っ二つにされてしまった。

ヨーロッパ戦線で、彼が交戦したザフトのモビルスーツでもあれ程の反応速度を有した機体はそうはいなかった。流石にあのシグーには劣っていたが。
0028ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
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2017/08/02(水) 00:55:28.20ID:nW3T+6Hv0
「おっ、噂をすれば………」

チキンブリトーを片手に持ちながらハイラムは、食堂の一角に視線を落した。
彼の視線の先には、ラケル・ジェニングス中尉がテーブル席に座って、食事を取っていた。

彼女の今日の昼食は、タコスとスクランブルエッグ、トマトサラダ、オニオンスープ、リンゴジュースの様であった。

プラチナブロンドの髪を短く切り揃えた彼女は、小柄な体格と相まって大人の女性というよりも少女の様な印象を与えていた。

また周囲の兵士と比較するとその小柄な体格が更に強調されている様に感じられた。

「あれだけでよく持ちますよね……俺ならグラディウスの訓練中に気絶するかもしれません」

ハイラムがラケルの食事の量を見て言う。

「同感だ。」

3人は、会話を楽しみつつ、食事を継続した。
20分後、ハンスらは食堂を出た。
外の強烈な日光がハンスの鍛え上げられた肉体に降り注ぐ。

「全く、なんて暑さだ。」

外気の熱さにハンスは辟易しつつ、地下の訓練施設に向かう。次は、シュミレーターを用いた訓練である。
実機のグラディウスはまだ12機しかこの基地に存在していない。その上、模擬戦闘で損傷して使えなくなることも良くある。
この状況では、必然的にシュミレーターを用いた操縦訓練の量が増えることになる。

今日も敗北してしまった……ハンスは、先程の実機を用いたアグレッサーのジンとの部隊間模擬戦闘の事を心の中で回想していた。酷い戦いだった。
相手を追い詰めたにも関わらず、逆転敗北の醜態を曝した。興奮の余り、自分の兵装の残弾確認すら怠ってしまうとは……。いや、これはまだいい。

今回の訓練で、自分は部下の犠牲を前提に作戦を立てていた。部下の機体が相撃ちに持ち込んでくれると考えていた。
実戦ならば、部下は死んでいたにも関わらずである。

明らかにこれが模擬戦闘であることに甘えていた………ヨーロッパ戦線の時や機甲歩兵時代の訓練ではこの様には考えていなかったというのに。

元機甲歩兵の男の胸中に現在の自身への嫌悪と、自分の技量が一向に向上しない事への嫌悪が広がっていった。

「……いかんな、これでは」

ふとハンスは自己嫌悪に陥りつつあることに気付き、その考えを振り払う。
戦友たちの為にも、モビルスーツパイロットとして、速く実戦に参加したい……その為にも強くならなくては。
ハンスは、そう自分を奮い立たせた。
今、このエリア51で、試作MS グラディウスのパイロットとして、将来の地球連合軍のMS部隊の中核となるべく訓練を受けている者は、
皆同じ様に自分がモビルスーツを上手く扱えていない事や実践水準に達していない事、実戦に参加できない事等の悩みを抱えているのである。
ハンスは、歩みを続けた。

彼の思い等、一切酌むことなく、時は過ぎていく。
0029ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg
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2017/08/02(水) 00:56:29.46ID:nW3T+6Hv0
今日は此処までです。
食堂のシーンはNJの影響なども考えて書きました
感想、アドバイスお待ちしております。
0031彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/08/02(水) 13:16:44.24ID:jVyiWOyc0
スレ立て乙です。
間が空きましたが、マリナ・イスマイールがガンダムファイターだったらというSSの続きを投下します。

皇女の戦い 第四話

 それは全身がダークグレーの装甲に包まれたMSだった。
僚機同様にステルス機能を宿していたその正体は強靭としか言いようのない姿をしていた。
全身に緑色の小型・板状スラスターが埋め込まれているのも相俟ってどこか冷ややかな印象を与える。
肩と太腿には太めのマッシブな装甲、身の丈程もあるバスターを軽々と持つ腕と脛は程良い太さなのが体型的なアクセントになっている。
兜のような頭部は簡単に貫かせてはくれないような硬さを持っていた。
「流石ガンダムファイターの端くれだな。皇女が参戦するというからお飾りと思っていたら......国を背負って立つだけのことはあるか...」
どこか中性的な声はまるで獲物を狙うかのような響き......
MF内のマリナには音声通信だけで相手の姿こそ見えないが...
冷たく蒼いバイザー状の頭部メインカメラ、中東の太陽に照らされて艶を見せる装甲はパイロットの威圧感を伝えるには十分な外観だ。
「引いて下さい...あなた達との戦いは決して望むものではありません...
私が行くべき場所は知っているのでしょう?」
マリナが感情を訴えるように下げたままの両腕を広げれば、華奢な機体も同じ動作をする。しかし...

「ふふふ、そんな温いことを言っても無駄さ。......お前達、絶対に手出しはするんじゃないよ。」
釘を刺すような声に僚機二体はじっとして動く気配を見せない。
荒くれ者達を従わせる辺りかなりの手練れだと悟ったマリナは口をきっと結ぶ
0032彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/08/02(水) 13:18:23.45ID:jVyiWOyc0
機体は猛スピードで接近、間一髪のところを避けたマリナのユディータ。
しかし、見た目から想像できない程の滑らかなモーションで方向を変えると構えた巨砲を打ち出していく。
「ぐっ!」意外な動きに戸惑ったか反応が遅れたマリナは胴体にその一撃を喰らってしまった。
態勢を崩し後方に押しやられそうになるのを何とか踏み留まるマリナ。
MFに守られていても、大きな熱が体を襲ったことには変わりない。
だがいくつものファイトを経験した彼女は耐えることに徐々に慣れていたためしっかり敵を見据えて集中力を即座に取り戻し、背中の弓に手をかける。
(こんなことに戸惑っていたらファイトには勝てない...)
爆発性の実弾によって機体の胸部と腹部から灰色の煙が立ち上っていく。
ビームではないとはいえ威力は侮れない。ガンダムの装甲が比較的頑強だったため少し焦げた跡がついたのみに留まる。
それを見るや敵の声は少し面白くなさそうに「見た目によらず結構な装甲だね。まあすぐに潰すさ!」
(今しかない!)
瞬時に次の射撃に入ると同時にマリナの矢が迎え撃つ。一気に三本程放つことで互いの武器は相殺され、煙が立ち上る。
ユディータはその直前敵の僚機の肩を蹴る。しかし......
「......っ!」自身の足に強い力を感じて唇を噛む。爆炎と煙の中から濃いグレーの腕がユディータの脚を掴んでいたのだ。

「逃がさないよ!アザディスタンの皇女様。」「あなたは何故こんな真似を...」「なぜって?勝つ為さ、それしかないだろう?」
「きゃ、きゃあああああ......!!」ユディータを逆さづりにすると強いパワーで脚を締めていく。
このままでは機体だけでなく、マリナの脚も折れてしまうだろう...
「いやぁぁぁ......」蹂躙する力に比例して段々か細くなっていく声...
意識は痛みと痛覚だけに支配されそうになる......
「もう無駄な足掻きをする必要はないよ!楽にしてやるよ、皇女様!」
暗灰色の敵は新たにバスターを向けて...
0033彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/08/02(水) 13:19:04.70ID:jVyiWOyc0
「いっぱい探して集めてきたんだよ。」

...あどけない少女の声......赤や白、様々な色で繋がれた花飾り...
色濃くマリナの心に浮かぶ...
(だめ......あの子と...シーリンと、国のみんなに誓ったから......
こんなところで裏切ったらみんなに......恥ずかしい......)


力を振り絞り矢を強く握ると、逆さに見える敵機の不遜なメインカメラ目がけ三つの矢が連続で風を破るように躍りかかった......
「がはっ!」敵は火花を頭部から出しながらグラりとよろめきユディータを離した。
「おのれっ、」

何とか体勢を立て直したユディータ。
「はあ、はぁ......」まだ足に敵に圧迫されているような感覚が残るも長い脚をすっと開き、凛として新たな矢を構えるマリナ。
「絶対に......勝つ......」
皇女の碧い瞳は敵を射抜くように見据えていた。
0034彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/08/02(水) 13:19:50.71ID:jVyiWOyc0
「こっちもまだ終わらないよ!」
モニターをやられてもまだ一定レベルの視界が確保できる程強固に作られているカメラ。
そして、かなり戦い慣れているのか咄嗟の事態にもすぐに元の調子を取り戻した敵のパイロット。
弾丸を打ち出すも、動きを見切り瞬時に避けながら矢を放ち接近するユディータ。
「ぐっ!」グリップを握っていた指を射られたショックでバスターを落としてしまう...
拳を突き出し先程攻撃した胸部を狙おうとする敵機。しかし...
すっと掴んだ敵の腕部を柔軟なモーションで捩じって落としていくユディータ。
落ちていく敵の機体...しかし何とか機体を上下回転させ元の態勢に戻ったその時、無数の矢が堅牢な胸部の装甲に舞い降りて鋭角な傷を与えていく。
相手が思わぬ猛攻にじっと動作を止めたのを見計らったマリナはそのまま飛んで行った......
「いいんですか?あいつを追わなくて?」僚機のパイロットの問いかけに対し
「いいさ。私は他のルートでいくよ。決戦の地にね。」
「パージ、忘れないで下さいよ。」「あ、わかってるさ。」
灰色の巨人の主はじっと華奢な機体を見つめていた。
「あれだけの力があるとはね......負けられないね。」
0035彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/08/02(水) 13:20:33.55ID:jVyiWOyc0
皇女の戦い 第五話

「さあ、皆さん!ガンダムファイトの名誉ある英雄たちが次々と決戦の地に降り立ってきました!
我が国が誇る時計塔が刻一刻と戦いの始まりが近づくのを我々に教えてくれています!
試合開始まで後2時間!我々は雄々しき英雄たちが揃うのをこの目に焼き付けることができるのでしょうか?!それとも全員揃わぬまま闘いを開かざるを得ないのか!
我らの心に勇気を与え、感動に胸を奮わせてくれるファイターたちが集うことを信じようではありませんか!」
司会者の言葉に湧き上がる観客達。

ここは今回のガンダムファイトの開催地、イギリスはロンドン。午後の3時。
中東のように快晴ではないが曇りが殆どない空。
会場には各国の機体が続々集結していたが一向にマリナのユディータは現れなかった...
もっともマリナ自身が謎の機体に攻撃されたことは通信で明かしたことから、現地にいるアザディスタンのメンバーをもう一つの不安が襲うことになったが...


ここはアザディスタンのスタッフとシーリンが集まっている会場の控室。
「しかし困りましたね...あのようなことが起きたとは......」
「ステルス機能の盗用の可能性...」
「重装甲の機体、圧倒的火力...一体どこの国なのでしょうね...」
「参加国の差し金である可能性はほぼ明白ですが...」
アザディスタン代表の技術者達の何人かは眉間に皴を寄せていたが...
「どこの国であろうと問い詰められて口を割る国はおりませんし、今は彼女の到着だけを待ちましょう。
今我が国の軍が国内で調査をしておりますし、この国にも派遣を要請した所ですから...」
冷静に語るのはシーリン。とは言え代表かつ皇女が狙われたのだ。内心は動揺している。
彼女とは長い付き合いなのだから。

部屋を出ると壁に凭れ掛かり小奇麗な廊下の天井を見上げる。
(早く、無事に来て。マリナ...そうでなければ私達の願いは...)
0036彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/08/02(水) 13:21:00.66ID:jVyiWOyc0
タイムリミットまで後90分。
橙色の空の下、会場には次々と新たな代表達がステージを彩り観客達を沸かせていた。
例え国同士がライバルであっても異国の思考と文化、技術の結晶であるMFを見るのは観客達の興奮を誘うには十分過ぎる程だ。
イタリアからはローマの剣闘士さながらのガンダム、ノルウェーからは僧侶のような荘厳さを持ったガンダム......多種多様な機体が人々の視線を集めていた。
到着したファイター達は祝福してくれる観衆に手を振ったり、機体の四肢を少し大仰に動かすようなサービスを見せてくれる者もいた。

その時、凄まじい轟音と共に強靭なシルエットの機体が現れた。
背中には移動用の五角形をした追加ブースター...
雲のような純白と赤みがかったオレンジに彩られた姿が一層存在感を引き立てている。
「おおっと、これは中東のダルト代表ガンダムアグニス!乗っているのはアイシェ・セレンギル!注目株の女性ファイターです!
格闘技に幼い頃より精通している選手だけにその佇まいも目を見張るものがあります!
燃え上がるような色をしたその機体、双方のポテンシャルから目が離せません!」
アグニスの内には機体同様燃えるようなオレンジ色のスーツに身を包んだ女性が堂々とした面持ちで会場を見つめていた。
年は二十台半ば、ダークブラウンの髪に細いながらも広い肩幅。褐色の肌。
余すところなく筋肉質なのがスーツの上からでも伝わってくる。

その場所から最も近い客席にはスーツを着た2人の男が不敵な笑みでアグニスを見ていた。
「無事着いたな。」「ああ、妨害には失敗したようだが彼女なら本番で敵とぶつかっても勝ってくれるだろう...」
「しかし当日にいきなり妨害と言うのもいきなりではないか?もう少し前にやっていれば......」
「ああ、彼女も国の首相も出たとこ勝負が好きでね。手段を選ばん割に...」
「お偉いさんにも困ったもんだな。」「仕方ないさ。」

「さて、あんたは着けるかな......甘ちゃんの皇女様?」
アイシェは薄い唇を挑戦的に歪めながら夕の空をエメラルドの瞳に映した。
0037彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/08/02(水) 13:21:50.45ID:jVyiWOyc0
時は少し流れタイムリミットまで後一時間程。
早朝から飛行し続けいくつものヨーロッパの街を過ぎていったユディータ。
ここはオランダの上空。イギリスに最も近い国の一つ。あと少し...気は抜けず一気に目指す。
街の人々がマリナの機体を見上げる。手を振る人、敵国の一つという意識から無視する人様々だ。
国の都市のあらゆる場所には国旗が立てられ風にはためいているのが見える。
それらはマリナの国を含めどこの国でも同じだったが。
(必ず辿り着くから!待っていて、みんな、シーリン!)
水色と白に彩られたスーツは緊張や時間と戦い続ける故の汗で濡れている。
機体内部の足場にも滴り落ちていた。
もし遅れればアザディスタンは今の地位に甘んじるどころか他国に後れを取るだろう。
そしてマリナを信じてくれた人々が失望するのも避けられない......


後30分を切ったロンドン。
「全く!攻撃を仕掛けた奴らも奴らだが代表は何をやっている!この大事な日に......!」「皇女は皇女だな。やはりファイターになるべきではなかった......もっと戦いのプロに任せていれば...」
アザディスタンの二人の技術者達は会場の隅で不満を漏らしている。彼らとて国の未来を強く案じているのだ。この事態では自然な反応と言えるのだが...
「お気持ちはお察しします。ですが今は辛抱の時です。」「......」
いつもより厳かな足取りでやってきたシーリンに目を向ける彼ら。
「マリナは、いえ皇女は約束を必ず守る方です。」
切れ長の瞳は遠く、オレンジの空を見つめていた......
0039彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/08/02(水) 13:25:41.66ID:jVyiWOyc0
開始まで後10分...時は容赦なく刻まれ続け、空はより橙色を強めている。まるで先を急ぐ皇女を嘲笑うかのように激しく燃える色。
長い黒髪を徐々に汗に濡らしながらも空を行くマリナ。
名誉ある英国の大地に鬼気迫るファイターを乗せたユディータの影が映る。
約束の地はもうすぐだ...

「さあ、皆さん。今回の闘いまでいよいよ後一分となりました。
現在到着していない機体は後一機!果たして我々にその雄姿を見せてくれるのでしょうか!
しかし、我々は母なる国のためにこの戦いの幕を開けなければなりません!
最期のファイターを信じるとともにカウントダウンをご一緒に!」
「60、59、58...!」
老若男女、人種、あらゆる人々が熱狂ともいえる声を上げて秒読みが開始される!

「マリナ、あなたは絶対に...」静かに、重く呟くシーリンの指は汗を伝いながら翠色のスカートの裾を握っている。
「30、29、...」
殆どのアザディスタンメンバーの焦燥と諦観とは裏腹に観客の声はカウントダウンを順調に進めている。
0040彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/08/02(水) 13:27:41.12ID:jVyiWOyc0
ユディータはコロシアムを下界に見下ろす。望んできたこの場所に...
「......ついに、来た...!」
熱烈な観客で埋め尽くされた会場にすることはただ一つ。
「みんな......」
背中の弓矢を細い手に携えて、ステージ上で誰も立っていないエリアに構える。
「10、9...!」
「私は、いる!!」
風を全て切り裂くような音と共に、一本の矢がそこに刺さった!
「おおっと、これは!?」
「8、7、6...」
司会者は驚き、観客の何割かの声が一瞬なくなるが、他の者達の秒読みは絶え間なく続く。
「まさか、来たのでしょうか?」
轟音を響かせユディータの白い鋼の身体がステージに降り立つ!
「3、2、1...0!!!」
「みなさん!遂に最後のファイターが到着しました!アザディスタン代表マリナ・イスマイール!そして、ガンダムユディータ!!」
会場はより強い歓声に包まれる。

タラップを伝ってステージに降り立つマリナ。清涼な色のスーツに守られた痩身は汗を流しながら、多少の揺らぎを見せながらもしっかりと歩いていく。
片手には少女からもらった花飾りが優しく、だがしっかりと...
集まった人々の声はあまりにも力強い...それは争いによる悲しい怒号とは違う、もっと陽性のものだった...
「これが世界......」
見渡す限りの人々の多さに驚きを感じながらも自国の仲間たちを探す。
「マリナ!」「シーリン!」代表の姿を認めて駆けていくシーリン達。
「ごめんなさい、本当に、心配をかけて......!」深々と頭を下げるマリナ。
シーリンの方は緊張が消えたのか少しい困った笑みを浮かべ「本当に、あなたって人は...
でも、ずっと信じてたわ。あなたのことだもの、必ず来るってね。」
「シーリン...ありがとう...」顔を上げたファイターは水色の瞳を潤ませながら旧友を見つめていたが...
「......っ、」態勢を少し崩す。シーリンがそれを支える。
切迫感でいっぱいだったのと、元々他の選手よりタフさで数段譲ってしまうのが表に出てきたのだろう...
「本当に、もっと鍛えた方が良かったかもね。」「...そうかも...でも、絶対に負けないわ。」
そっと花飾りを黒髪に被せて微笑んだ。

「みなさん、今年もやってきました!!四年に一度の大舞台...ガンダムファイトの開催です!!」
司会者の声と共に会場に今日一番の歓声が沸き起こった。


今日は以上です。
感想が欲しいと思ってたりしますw

それではまた。
0041誤字大王(ry
垢版 |
2017/08/03(木) 01:20:35.48ID:/f+1lg2h0
ユーラシア兵さん、彰悟さん、投稿乙でした〜待ってましたよ。

>ユーラシア兵さん
ミリタリーカラーの強いスタイルは健在ですな。
戦闘シーンにもうひと工夫あればなおいいかと思います。
ガンポッドを発射してからガンポッドの解説を入れるのはちょっと戦闘の緊張感や
スピーディさを欠くかと。
武器の破壊力や空気を切り裂くスピード、起こる爆風や舞う砂塵などをリアルタイムに
表現できれば解説に頼ることなく武器の強さを伝えられるのではないでしょうか。

>彰悟さん
セリフの入るところは独立改行を入れるといいと思います。
文章の中に「セリフ」を埋めてしまうと、その声を発しているキャラの絵まで
埋もれてしまう気がします。
SSがアニメになった時を妄想して、セリフを吐くときは独立行にすると、読み手に
絵が浮かぶ他、書き手もセリフを選ぶようになりますよ。

以上、誤字チェックもできん三流のタワゴトでした、失礼。
0042ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/08/04(金) 10:26:30.42ID:i6ZXHV0D0
お二方乙です。自分も投下します
――艦これSEED 響応の星海――


「じゃあ、やっぱり?」
<ああ、ニュートロンジャマ−だ。このノイズの感じは間違いない>

通信機から、苛だった様子の青年の声が聞こえた。
それは天津風の懸念を肯定する言葉。
今、九州地方全域に起こっているという異変、その謎を解き明かすものだった。

「・・・・・・そう。なら二階堂提督の報告書にあった【Titan】って新型も、アナタの世界由来のものかしら」
<それも間違いないだろうな。ソレに使われてるってパーツ、モビルスーツのと特徴が合致してるんだ。写真もないけど、こうなったらそれも確定だ>
「仮説は大当たりってことなのね」
<ああ・・・・・・くそ、ふざけんなよ。どうしてこんな>
「どうしようもなかったんでしょ? 悔やんだって仕方ないわ」
<それでも、これは『俺達の責任』なんだ。嫌なんだよもう。知らなかった、仕方なかったで終わるのは>

呉鎮守府所属の艦娘、陽炎型駆逐艦九番艦の天津風は、溜息混じりに返答した。
彼が黒髪を掻きむしりながら眉間に皺をよせてる様が、ありありと想像できた。そんな顔してるからみんな怖がるのよと呆れる。
現在は11月3日の15時丁度。福岡県北方沖の男島近海。
窮地に陥った佐世保鎮守府に急行する呉の救援部隊は、関門海峡を越えていよいよ問題の領域に突入しようとしていた。新たに発生した磁気異常帯、深海棲艦由来のものとも異なるそれに支配された海が、十数余の艦娘の眼前にあった。
ちなみに空路は勿論、陸路も使えなかった。各地の信号機が故障しており、また本州に避難しようとする人間達でごった返しているのだ。ならば遠回りでも海路を征くしかない。五年ぶりの磁気異常に見舞われた海に、少女達はゴクリと固唾を呑む。
呉と佐世保は近所なこともあって交流も盛んだが、こうなると通い慣れた海も不気味に感じてしまう。
通信機のノイズは緩やかに、しかしどんどん酷くなる。これ以上進めば、艦娘同士の通信ならともかく、人間用の通信回線は使えなくなるだろう。呉で待機している彼に簡単なデータを送ることだって出来なくなる。
通信相手である青年からデータ取りを頼まれた少女は、その彼が唱えた仮説を思い出した。

(時空の壁ってやつを超えてやって来たなんて。否定はもう出来ないけど、突拍子のない展開よね)

あの台湾に落ちたという隕石、その時空間転移と共にやって来て、高知県沖に流れ着いて呉に保護された彼。
あくまで予想でしかない、というかそれ以外に思いつけなかったという前提だが、確かに彼の仮説で今の九州に起こっている異常事態は説明できる。
要約すれば。
陸にまで発生した広域磁気異常はニュートロンジャマ−・・・・・・自由中性子の運動と電波の伝達を阻害するジャミング装置のせいで、【Titan】は深海棲艦がモビルスーツを取り込んで進化したものではないかと。
0043ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/04(金) 10:28:04.18ID:i6ZXHV0D0
台湾の隕石――いや、C.E. からワープしてきたアステロイドベルト出身の小惑星基地に、Nジャマ−とモビルスーツがあったからこその、この現状なのだ。


他の海域で似たような事例は報告されていないことから、やはり読みは当たっていたことになる。
あの隕石こそが全ての元凶、特異点だ。
不幸中の幸いであったのは、深海棲艦の出現によって国が原発全ての停止を決断していたことだろうか。敵の脅威を鑑みてのことだったが、仮にまだ原発を使っていたら今頃、電力事情でも頭を抱えていたかもしれない。
ともあれ。
その仮説はまったくもって大当たりだったわけだ。たった今、天津風の送ったデータがそれを裏付けた。
きっとなにもかもが真実を知る彼の言うとおりなのだろう。そしてまた、これは彼が責任を感じるべきものであることも。
詳細こそ黙して語らないものの、彼もまた被害者で、どうしようもない事情があったというわけだ。
しかし、それで直接被害を被った当事者としては、そう簡単に割り切れるものではないだろう。


ただでさえ厄介事ばかりのこの世界だというのに、巨大ロボットで宇宙戦争していた世界の問題まで持ち込まれたようなものじゃないかというのが、当時の率直な感想だった。
正直たまったものじゃない、そんなのは。


呉の人間でさえこう思うのだ。これが現在進行形で窮地に立たされている佐世保だったら、どうなるのだろう。
愚痴っていてもはじまらないが、まったくもってこの世というのは、いつだってままならない。

「とりあえず、それが原因だってんならやりようはある。そうでしょ?」
<そうだ。見つけさえすれば、あとは破壊するだけでいい>
「あのロボットで?」
<戦うさ。アイツさえ修理できれば、絶対に俺が破壊してやる。俺が終わらせるんだ>
「バカね」
<なッ! バカだと!?>

ただ、成すべき目標が提示されたことは素直に喜ぼう。
なんであれ状況を打開できるのなら、それに越したことはないのだ。
そして当面は一緒に戦うことになったこの男のことも、ひとまずは信じることにした。出会って以来衝突ばかりしてきたけど、彼は信頼に足る人物なんだから。

「バカよ。確かにアナタにも責任ってやつがあるのかもしれない、躍起になるのもわかるわ。でも、もうこれは私達の問題にもなってるのよ。・・・・・・一人で抱え込むことないじゃない」
<どういう風の吹き回しだよ?>
「それ私の口癖でしょ。なによ嫌がらせ?」
<お前あんなに俺に突っかかってきたじゃないか。そりゃ俺も他人のこと言えないけどさ、でもなんなんだよ>
0044ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/04(金) 10:30:29.91ID:i6ZXHV0D0
「風向きが変わったってこと。特になんだってことはない――協力してあげるってことなの。・・・・・・さ、そろそろ通信切るわよ」
<え、あ、ああ。・・・・・・まぁその、なんだ、気をつけろよ天津風。お前にはまだ――>
「はいはい任せなさい。私達の為にも、あのロボットの修理の為にも、任務遂行した上でデータをたっぷり取ってきてあげる。はい通信終わり!」

ノイズが本当に酷くなってきたこともあるが、一連の会話になんとも言えない恥ずかしさを感じた少女は、一方的に通信を切ってうんと背伸びした。ちょっと火照った頬に冬の潮風が心地良い。
自分で見て、自分で考え、自分にできることを模索する人は、天津風は好きだった。
「誰かの為に何かを遺す」ことを信条としている少女としては、彼の覚悟は好ましい。昔は猪突猛進な直情型で考えなしのガキだったと自嘲してたが、なかなかどうして、今の彼はちゃんと大人をやっていた。
そんなことを言ったら、あの万年しかめっ面の彼も少しは喜ぶだろうか。
勿論、教えてあげるわけないけど。
ちょっと見直しただなんて、口が裂けても言うもんですか。

「天津風おっそーい! 置いてくよー?」
「急がないとヤバいっぽい。パーティーに遅れちゃう」
「ああ待って待って。今行くから――って島風! 先行しすぎ!!」

さて。
天津風はぴたんと頬を叩いて気合いを入れて、気分を戦闘モードに切り替える。ここからは艦娘の独壇場だ。
大急ぎで準備してようやく整ったこの布陣、無駄にするわけにはいかない。自分達の行動に沢山の運命が左右されるのだ。鎮守府の陥落は絶対に阻止しなければならない。
時間は有限だ。
少し遅れ気味だった天津風が再度合流した呉・佐世保連合艦隊は、佐世保を目指してついに無線封鎖領域に進入したのだった。
0045ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/04(金) 10:32:06.93ID:i6ZXHV0D0
《第5話:フラッシュバック》



西に太陽輝く黄昏時。
雲一つない高い空を、一本の『矢』が過ぎる。
比喩でもなんでもなく何の変哲のない矢だ。シンプルな造りのものでこれといった特徴もありはしない、一般人がイメージする矢そのものといった感じだ。
そんな矢が、突如火焔に包まれると同時に、十数の小さな『飛行機』に分裂・変貌した。
正確には、一本の矢を媒介に、18機の飛行機が召喚されたのだ。まさに魔法。物理学もへったくれもあったものじゃないが、この世界では割とよく見られる光景だった。
奇跡も魔法も大盤振る舞いな昨今である。

矢に代わって空を征く、モスグリーンにペイントされたそれはあまりにレトロなレシプロ機。単発の可変式3枚プロペラを推進装置とした固定翼機であり、7.7mm機銃と20mm機銃で武装したその名を「零式艦上戦闘機」といった。
零戦とも呼ばれ、在りし日にはその圧倒的航続距離と旋回能力でもって旧大日本帝国海軍の主力艦載機として活躍した名機である。過去からやってきた幻影だ。
例によって縮小化しており、玩具めいた手のひらサイズはどこか愛嬌があった。
そんな70年以上も昔のロートルが今、十数機の編隊を維持したまま、21世紀の空を鋭く切り裂いた。その先には、黒々とした敵戦闘機の大群がある。
深海棲艦の航空母艦ヲ級から出撃した、真っ黒で流麗な三角形、どこか有機的でUFOみたいな機体。サイズは1m強で翼や推進装置といったものはなく、20mmチェーンガンと5inロケット弾で武装した、敵艦載機としてはオーソドックスな部類だ。


数はほぼ同数、速度も約250ノットと互角な航空部隊同士が、真っ正面からかち合った。


先頭の一機が、真正面の敵戦闘機の機銃をヒラリと躱して、翼端に雲を引きながら逆に翼内20mm機銃をお見舞いした。続けて垂直に急上昇、無理な機動で機体は失速するが、ここでラダーを打って旋回し、機首が振り子のように真下へと向き直る。
ハンマーヘッド、若しくはストールターンと呼称されるマニューバだ。
位置エネルギーを一気に運動エネルギーに変換し、直上から敵に狙いをつけて斉射。編隊を組んでいた僚機も下から突き上げるように射撃して、挟撃に持ち込まれた敵3機は瞬く間に粉々になる。
だがほぼ同時に、零戦側もまた敵機銃の直撃を受けて1機がバラバラになった。撃っては撃たれ、やられたらやりかえし戦闘機はどんどん墜落していく。
そのような光景が程度の差異こそあれ、この空域のいたる所で散見された。
互いが互いを喰いあう巴戦、持てる武装とスキルを総動員して運を味方につけて、目についたマヌケを片っ端から掃除する。己の役目を果たさんと、戦闘機達は忙しく宙を舞った。
戦況は若干、零戦側が優勢だ。
0047ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/04(金) 10:35:49.71ID:i6ZXHV0D0
そんな乱戦模様の更に上空から、恐ろしいまでのスピードで急降下してきた12機のレシプロ機があった。
急降下爆撃機の「彗星」だ。
零戦の決死の猛攻でようやく確保した虚空めがけて、零戦と似たようなペイントを施された爆撃機はキャノピーを煌めかせ加速する。敵の対空砲火と戦闘機がカバーできない、それはぽっかりと空いた間隙だ。
唸りを上げてその一瞬を駆け抜けた彗星は、何者にも阻まれることなく深海棲艦の群れへと飛び込んだ。すかさず、腹に抱えた500kg級爆弾を切り離す。
零戦部隊の三割を削られながらも敢行された急降下爆撃。極低空から投下された十二発もの爆弾は、重力に従ってまっすぐ荒れた海面に突っ込んでいき、深海棲艦群のど真ん中で炸裂した。

「着弾確認――右翼重巡殲滅! よぉーし、このまま畳みかけます!!」
「瑞鳳は第二次攻撃隊発艦後、後退開始! 木曾、雷撃用意。穴を拡げますよ!」
「はい!」
「応! 出し惜しみはしない!!」

4マイル先の海に上がった爆炎、それを確認した瑞鳳は、周囲に水柱が並び立とうともまったく動じずにどっしりと弓矢を構えた。
外見上はなんてことのない和弓に矢を番え、キリリと弦を鳴らし。

「天山、発艦します!!!!」

天頂に向けて、射る。
勢いよく放たれた矢は一拍置いて、これまた火焔に包まれ6機の艦上攻撃機「天山」と成り、編隊を組んで「彗星」の爆撃に泡食った連中へと向かっていった。
これが航空母艦の力だ。
軽空母の瑞鳳や、装甲空母の翔鶴といった空母系の艦娘はこのように、かつての戦闘機を艦載機として自在に使役することができるのだ。
夜間や悪天候では出撃できないという弱点はあるのだが、一転してお天道様の下であれば数の暴力によって戦艦以上の射程と火力を発揮できる、強力な艦種だ。
制空権を確保した方が勝つというルールを、一方的に押しつけることができるからだ。
第二次世界大戦で猛威を振るって以後の軍艦の在り方を決定付けたその実力は健在である。

「響さん、キラさん、突入準備は大丈夫ですか?」
「問題ないよ」
「僕も大丈夫」
「けっこう。榛名の砲撃後、前進開始。お姉様達の離脱を援護してください」
「了解、黒島で会おう。・・・・・・暁をよろしく」
「ええ、必ず。――では・・・・・・行きます!!」

身体中を煤まみれにさせた榛名の35.6cm連装砲が火を噴き、吐き出された砲弾は山なりの軌道を描いて、黒煙に巻かれた深海棲艦群に降り注ぐ。遅れて「天山」も同座標に向けて攻撃を開始した。
0048ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/04(金) 10:37:04.68ID:i6ZXHV0D0
艦隊の華であり主役、戦艦・空母による圧倒的飽和攻撃だ。それができる環境であれば使わない手はない常套手段である。
制空権を奪われ蹂躙される一方の深海棲艦達はたまらず、砲弾の雨霰から逃れようと散開した。幾つかの攻撃は空しく海面のみを叩く。
だが、逃げた先が必ずしも安全とは限らないものだ。

「それで逃げたつもりなのか?」

ぼそりと、眼帯に覆われていない左目を眇めて、木曾が呟く。
直後、左右に散った深海棲艦が巨大な爆発によって吹き飛ばされた。重雷装巡洋艦としての究極的魚雷運用能力を備える木曾が、回避先を見越した上で射出していた魚雷だ。
20度刻みで扇状に投入された計40発もの酸素魚雷、その半数が敵を道連れに爆散した。多数の戦艦級や空母級が無様に沈んでいく。拍手喝采ものの大戦果である。
だがそんな景気の良い話も、この状況下では焼け石に水といった効果しかなかった。
第二艦隊による全力の連撃は、南西の水平線一杯に群がっていた敵影に小さな間隙を開けるのみに留まった。
とても小さな「穴」だ。
数えるのも馬鹿らしい数の深海棲艦によって形作られた黒く長大な壁、それの極一部にありったけの火力を集中させてようやく確保した、針の穴。
それこそが欲しかった。
その穴に命綱を通すこと。今の榛名達に出来る精一杯だ。

「どうか、無事で・・・・・・」
「やれるだけのことはしたさ。――行こう、オレ達も」
「そうね・・・・・・」

榛名は、急速に縮まっていくその「穴」目がけて疾走する響とキラの背中を眺め、祈らずにはいられなかった。
駆逐艦の少女と、駆逐艦と同レベルの速力・火力・射程を持ち、且つ飛行できて硬い遊撃戦力として評価された男。
命綱と呼ぶにはあまりにか細い糸だ。正直心許ない。不安だ。でも、後は二人を信じるしかない。
自分が行けたらどれだけいいだろう。それは慢心ではなく、送り出す者としての切実な願いだった。
だが、自分にあの針の穴は通れない。それ以前に、まだ空けるべき穴が残っている。彼女達と行動を共にするわけにはいかなかった。冷静に冷徹に、任務を遂行せねば。
覚悟を決めて、榛名は号令を出す。

「ッ、転進! 進路0-2-0! 第二艦隊はこれより、第三艦隊の援護に向かいます!」

南西に向かう響達とはまったく正反対の、北東へ。
南西から迫る敵群に背を向けて、力一杯の逃走を。
榛名達は先んじて北上していた瑞鳳の背中を追いかけ、これまた北に蔓延っていた敵に主砲の照準を合わせる。
前も後ろも、右も左も敵だらけ。これを倒さなければ、自分達に明日はない。そしてそれを成せる確率は、半日前に思い描いたものよりずっと下がっていた。
0049ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/04(金) 10:40:58.15ID:i6ZXHV0D0
覆せなければ佐世保は陥落する。愛する人たちが、故郷が、いなくなる。
そんなことは。

「そんな勝手は! 榛名が!! 許しません!!!!」

現時刻は17時、救援の到着まであと約3時間。
血のように赤い夕焼けが燃え上がり、世界が紅蓮に染まっていく。
太陽が最も輝く時間だ。世にも美しいその輝きは、まるで消える直前に一際明るくなる蝋燭のような、まるで自分達が奮戦空しく敗れるという未来を暗示しているような、不吉なものに見えた。
そんな妄想を振り払うべく、榛名は41cm連装砲をぶっ放した。
0050ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/04(金) 10:42:53.48ID:i6ZXHV0D0




「かたじけないネ、響。それにキラといいましたカ。助かったヨ」
「Нет проблем。お互い様だよ。礼も不要だ」
「――ふっ。・・・・・・実はとびっきりの茶葉を取り寄せてありマース。到着は明後日、腕によりを掛けて振る舞ってあげますネ」
「楽しみにしておこう」

金剛型戦艦一番艦の金剛。
榛名達四姉妹の長女であり、佐世保艦隊最高の練度を誇るエースがキメたウィンクは、傷だらけ煤だらけの姿であっても人を魅了する力を持っていた。こういう女性を傑女というんだろうなとキラは思う。
服装は榛名とお揃い、けどスカートの色が異なる、大胆なミニにカスタマイズした白黒の巫女服。所々穴が空いて血が滲んでおり、背の艤装も半ば崩壊してしまっている。いったいどれほどの激戦を潜り抜けたのだろうか。
いや、彼女だけじゃない。第一艦隊はみんなボロボロだ。しかしそんなことはおくびにも出さず、皆はあえて明るい調子で戦意を鼓舞し合っていた。ここに絶望に沈む者はいない。
金剛は残った砲を駆動させながら、特に明るく新参者に命令を下した。

「Chitchatはここまで。討ち漏らしの掃討、お願いするネ」
「7時方向から突撃してくるのがいるのです。重巡、軽巡、駆逐の混成部隊。数13、速度21!」
「早速出番ですネ! 響、キラ。その力、期待してるヨ。雷電ズは二人の支援!!」
「任された。行くよ、キラ、雷、電」
「うん。君とならやれるよ」
「合点! 行っきますよー!!」
「なのです!」

響とキラが全速力で「穴」に辿り着いたとき、そちらもまた全速力で駆けつけてきた金剛ら第一艦隊と合流することに成功した。
左右を敵に挟まれた状態でのランデブーである。
敵に包囲されていた第一艦隊の離脱を援護する為に、その指揮下に入った二人は早速、空母の翔鶴を中心とした輪形陣の一員となり敵を振り切るべく一目散にひた走ることになった。
目指すは北、佐世保湾から西に10kmの距離にある黒島だ。
当初想定していた最終防衛ラインギリギリに位置するその島は、分断され散り散りになった佐世保守備軍の集合場所として設定された。ここに集い最後まで抵抗することが、佐世保守備軍に残された唯一の道だ。
もう後がない。
総崩れとなった第三艦隊、それの救援に向かった第二艦隊、そして孤立した第一艦隊。この全てが合流して、戦線を縮小させなければならないところまで戦局は進んでいる。
つまるところ、劣勢なのだ。
三つの艦隊と沿岸の戦車隊の連携によって戦局を有利に運んでいたつい先程までとは、うってかわった大ピンチ。敵はそんな獲物を数で押しつぶそうと、四方八方から迫ってくる。
0051ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/04(金) 10:45:03.86ID:i6ZXHV0D0
まるで想定の埒外であった敵のある一手によって、瞬く間に防衛ラインを崩された。
綻びは空からやってきた。


まさか。
まさか深海棲艦が、航空輸送機を用いた空挺降下をしてくるとは思わなかった。


そう、裏をかかれたのだ。深海棲艦の行動様式は、艦艇のそれに準ずるという思い込みの。
船が空からやってくる、それも人類の飛行艇に乗ってなど、誰が考えられるだろうか。
隕石の落下以来、敵は途轍もない速度で進化していた。
だが実際、その可能性を憶測できるだけのヒントは既にあったのだ。少なくとも、【Titan】はモビルスーツのパーツを取り込んだものだと察知できたキラこそ、それを警戒しなければならなかった。
台湾に落ちた隕石――キラを巻き込んで転移してきた、C.E. の小惑星基地かもしれないソレが、モビルスーツとNジャマ−をも連れてきたのなら。それ以外のモノがあったってなんら不思議ではないだろう。
奇跡も魔法も大盤振る舞いな昨今なのだ。
使用されたのは旧ザフトの大気圏内用大型輸送機・ヴァルファウだった。
4枚の主翼と4つの大型ローターが特徴的で、標準的なモビルスーツなら4機まで搭載できる高いペイロードを有する。かつて【GAT-X102 デュエル】と【GAT-X103 バスター】がアフリカに派遣された際にも使われたモデルだ。
夜明け前に遭遇した【謎の戦闘機】と同じく真っ黒でどこか有機的になっていたが、その機能は健在だったのだろう。
繰り返しになるが、佐世保は西に機動性に優れた第一を、東に同じく高機動な第二を前衛として展開し、北に火力に優れた第三を後衛として鎮座させる鶴翼の陣で構えた。
それこそ個々の艦隊による戦闘だけでなく、夜が明けて各艦隊の連携が可能になってからは艦隊規模で挟撃したり、片方が囮になったりと連携して防衛ラインを確実なものにできていた。
敵の別働隊や陽動隊にも対処できたし、再びやってきた【Titan】だってキラが合流してからは「ちょっと苦戦する程度」で倒せるわで、向かうところ敵無しだったのである。


これに対し、深海棲艦をしこたま詰め込んだ2機の輸送機は、第一と第二を飛び越えて第三艦隊――山城、鳥海、暁、白露――を上空から直接強襲したのだ。奇襲に浮き足だった第三艦隊は、完全に総崩れとなる。


ここで真っ先に状況を打破せんと動いたのが第一艦隊だ。
火力は必要不可欠。まず彼女らは強引に第三艦隊の救援に向かい、そのポジションを請け負うカタチで後退させることに成功する。
即座に合流するという選択肢はなかった。第三艦隊の面々は手酷い損傷を負っていて、とても戦える状態ではなかった。後退し、応急処置を施さねばマズい者もいた。
金剛達は送り狼は一歩も通さんと、その場でラインを維持し、榛名ら第二艦隊から援軍が来るまで持ちこたえた。
あとは、その代償に敵に包囲されるカタチとなった第一艦隊が脱出すれば、道は拓ける。
0053ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/08/04(金) 10:46:14.81ID:i6ZXHV0D0
黒島にはまだ一度も発砲していない大規模戦車隊が潜んでいる。もしもの為に温存していた切り札だ。そこに集った第二艦隊と第三艦隊との総火力をもって敵を釘付けにできれば、第一艦隊は離脱できるかもしれない。
まずは、そこまでたどり着けるかだ。

「左舷、タ級が・・・・・・きゃあ!?」
「損害報告!」
「――つぅ、翔鶴、中破! 飛行甲板は無事!! まだまだ戦えます!」
「にゃぁ。多摩も中破しちゃったにゃ・・・・・・」
「! 4時方向、敵艦載機接近! 数35!!」

黒島まであと9マイル。
第一艦隊は現在、左右と後方からの猛攻に晒されており、18ノットで蛇行していた。
黒島のみんなの射程圏内までは、早くてもあと20分強といったところか。前方の敵は榛名達が片付けてくれたので進路を塞がれる心配はないが、少しでも速度が鈍れば再び包囲される。
金剛達は敵が構成する巨大な円、その淵にいるのだ。
敵は馬鹿でも雑魚でもない。そうなれば5分も保たず壊滅させられる、絶体絶命の大ピンチだ。
だからこそ、榛名は響とキラを援軍として送ってくれたのだ。榛名達だってこの二人を重宝していただろうに。
ここで応えてこそ、姉というものだろう。

「翔鶴はタ級を黙らせて! 多摩は右舷艦載機を迎撃、ヲ級とル級はワタシが料理しマース!」
「流星、発艦始め!!」
「にゃー!!」

金剛が一番・二番砲塔から対空榴散弾を放ち、同時に三番・四番砲塔からの徹甲弾で確実に敵を屠っていく。
その傍らで翔鶴が矢継ぎ早に艦載機を放ち、多摩が対空砲で群がる艦載機を蹴散らした。これ以上はやらせないと気合いを入れ直した彼女達は、持てる火力全てで弾幕を張った。
目的は殲滅ではなく離脱だ。なるべく敵が近づけないよう砲撃を続ける必要がある。だが、いくら長距離砲で攻撃していたって、それを潜り抜けて近づいてくる奴はいる。
こういう時に頼りになる艦種が駆逐艦だった。
敵の注意もまた、此方の戦艦と空母に集中するからこそ、駆逐艦は随伴艦としての機能を求められる。

「ロ級、撃破したわ! 次行くわよ!」
「雷ちゃん! 後ろ!」
「ぐ、ぅッ!? この、よくもぉ!!」

響、雷、電の三人とキラは、縦横無尽に動き回って押し込まんとやってくる追撃部隊を迎撃していた。
駆逐艦は高速力・低火力・短射程が特徴の艦種だ。敵の死角をついて近接砲撃戦を仕掛けられる夜戦と異なり、視界が開けて艦載機と砲弾の飛び交う昼戦では直接の戦力にはならない。
夜の空母とは対称的に、昼の駆逐艦は非力だ。
だがそれは決して、無力であるということではなく、むしろその小回りの良さを活かした迎撃任務にこそ真価を発揮する。この状況下で駆逐艦が増強されたのは喜ばしいことだった。
0054ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/04(金) 10:48:06.07ID:i6ZXHV0D0
そしてお揃いの制服、お揃いの艤装が特徴の特三型駆逐艦――またの名を暁型四姉妹の三人は、まとめ役の長女たる暁が不在だとしてもきっちり護衛を全うできる練度の持ち主だった。
周囲に多数の水柱が並び立つなかでも果敢に前進する、栗色の髪と瓜二つの風貌をもつ三女と四女。あまりに似ているのでよく間違えられる雷と電は、片や豪快に、片や慎重に砲雷撃戦を続行する。

「雷!? ――くそっ、二人は下がって! キラ、私達でリ級を墜とす!!」
「ッ、わかった・・・・・・!」

だが、流石に分が悪い。
キラ達が加わって10分が過ぎた頃、電と雷が立て続けに被弾した。
二人の艤装の一部が砕け、戦力は大幅に低下する。


そして響が、普段の冷静な戦い方から一変して、弾けたように近接格闘戦に傾倒するようになった。


突撃癖どころではない。まるで特攻でもするかのように加速する少女は、誰が見ても明らかに暴走していた。
鬼気迫る、けどまるで地獄の淵を覗いたかのような恐怖に彩られた、青ざめた表情で次々と深海棲艦を薙ぎ倒していく。こんな表情に、キラは見覚えがあった。本当に心が氷になってしまったかのような、遠い記憶のそれ。
そうなっては誰も止められないことは、誰よりも知っていた。
できることは、彼女が自滅しないよう支えることのみ。

「あ、ちょっと!? もう、二人だけで突っ込むなんて・・・・・・! 電、合わせて!!」
「雷ちゃん大丈夫ですか!?」
「人のこと言えないでしょ! かすり傷よこんなの! とにかく、二人を援護するわ。魚雷用意!」
「――装填完了! 撃つのです!!」

キラが、せめてとばかりに前に出る。
今朝、あんた防御以外は駆逐級相当だよと告げられた時にはものすっごく微妙そうな顔をした青年は今、命の危機を肌で感じていた。
異世界のスーパーロボット引っさげてきた助っ人が駆逐艦レベルだったというのは、誰にとってもショックな話だったが、それを差し引いてもこの戦場はヤバい。
仮にフリーダムを使っても、無事に切り抜けられる自信はないと思わせる程、切羽詰まった戦況。
なればこそ自分が前に出ないでどうするのだと、キラはあえて水上をホバリングして響の前に踊り出る。

「響! 僕の後ろに!!」

シールドを構えた。
前方で幾つもの炎が迸る。
衝撃。
崩壊寸前のシールドがたわむ。だが構わず、キラは加速して弾幕の中を突き進む。その先には、重巡リ級1、軽巡ト級5、軽巡ホ級3、駆逐ロ級4がいた。正直、駆逐級のみで挑むには自殺行為な戦力差だ。
0055通常の名無しさんの3倍
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2017/08/04(金) 10:50:34.47ID:Xf3LfEdu0
規制回避
0056ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/04(金) 10:51:15.32ID:i6ZXHV0D0
特にリ級はよりによって、赤々とした瘴気を纏った高ランクの個体たる【Elite】タイプ。生半可な攻撃じゃ墜とせないし、逆に相手は此方を墜とすには充分な火力を持っている。距離をとっては戦えない。
ならどうするか?
無理を承知で突っ込むしかない。あたかも夜戦のように、けれども砲弾飛び交う戦場を一直線に。
他の雑魚は無視して、二人は最優先目標の重巡リ級を目指す。アイツを放置させてはいけない。
しかし敵はリ級を守るように群がってくる。

「そこを、どけぇぇええええええ!」
「僕が先に仕掛ける! 連携で!!」

ビームライフルで牽制射撃をするキラの後ろについた響が、10cm連装高角砲を用いた狙撃を行う。
その砲弾はしつこく接近しようとしてくる駆逐級と軽巡級群を縫止めるように命中する。直後、先行する二人を追い越して疾る魚雷が、深海棲艦の鼻っ柱にぶち当たり派手に爆発した。雷と電が射出した61cm酸素魚雷だ。
計16発の魚雷と援護射撃、更に飛来した翔鶴の艦載機の助力もあって敵は次々と沈んでいく。
残るは軽巡ト級3とリ級1。たった4隻。
そんな深海棲艦達を目前に、少女の盾になるように先頭を征く青年は勇ましく叫びながらも、内心、いきなり膨らんでいく恐怖を押さえつけようと必死になった。
重巡リ級。
両腕に黒い盾みたいな金属パーツをつけている、真っ白い肌の女性型深海棲艦だ。キラが初めてこの世界に目覚めた夜に、自分を瀕死にしてくれたヤツである。その姿が徐々に近づくにつれ、嫌な汗が噴き出てきた。
キラが戦場に出てから、もう14時間が経っている。ストライクの出力不足を補う為に、もう数えるのも馬鹿らしいほど深海棲艦と格闘戦を演じてきたが、それでもリ級を目にすると死の恐怖が心臓を鷲掴みにしてくる。
装甲越しのモビルスーツ戦とは根本的に異なる、直接的な痛みと殺意の経験に、これ以上は進むなと身体が警鐘を鳴らす。

(でも、それでも)

異世界の戦いに介入した以上、ここで退くことはできない。彼女達を背にして退くことはできない。
なにより、経過や詳細は不明だが、この戦いにNジャマ−とモビルスーツが関与しているのなら。その転移に『巻き込まれた者』としては放ってはおけない。
意識を研ぎ澄ませ。集中しろ。
今の自分には力がある。

「ストライクでだって!!」

ようやく有効射程に入ったライフルを連射する。低出力短射程設定のその威力は貧弱で、駆逐艦の主力である12cm砲と同程度でありながら、射程はもっと悲惨だ。正直単純な砲撃戦じゃ役に立たない。
だからこれは布石。
エネルギー不足の荷電粒子ビームは、派手なくせしてリ級を貫けない。確実に有効打は与えている筈だが、ヤツは高をくくって被弾を気にせずまっすぐ直進してくる。それでいい。
キラは、おもむろにライフルを上へと放り投げてスロットル全開、エールストライカーの推力最大で一気に距離を詰めた。同時に響が横にステップして、全火力をリ級とト級にぶつける。
0057ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/04(金) 10:53:06.19ID:i6ZXHV0D0
虚を突かれたト級はまともに喰らって中破。リ級は慌てて両腕の盾を掲げてガードするが、直後その二つの盾の縁にそれぞれ、ガツリと金属製の刃が食い込む。
ストライクの予備兵装、超高硬度金属製の折り畳み式戦闘ナイフ・アーマーシュナイダーだ。力任せに振り抜かれた二振りのナイフによって強引にガードをこじ開けられた胴体に、間を置かず響の錨が直撃する。
たまらずよろけるリ級。
しかし敵もさる者、体勢を崩しながらも、右腕の砲塔をピタリとキラの顔面に合わせてきた。
砲口から光が溢れる。
そう知覚したキラは流石の反射神経を発揮して、無意識に、咄嗟に、シールドを掲げた。


硬質なナニかが、砕け折れる音が、響いた。


「・・・・・・ぁ――」


――おい、しっかりしろよ! おいッ!?
――ふざけんなよ! なんでこんな!!
――駄目だ、このままじゃ・・・・・・! 誰かいないのか!?
――くそぉッ!! おい諦めんな!? 俺がアンタを――


「――が、ァあああああああ!!!!????」

キラの左腕が、あらぬ方向に折れ曲がった。
遂にシールドが粉々になり、同時にストライクの左腕フレームが限界を迎えた。元々かなりの負荷が溜まっていたのだ。それがリ級の砲撃で一線を越えて、キラ自身の腕がひしゃげ折れるというカタチでフィードバックした。
全身を引き裂くような激痛が遅れてきた。己の意志とは関係なく、掠れた絶叫が喉から絞り出される。
けど、それでも青年の意識は、たった今過ぎった記憶とおぼしき「声」のみに向いていた。

(なん、だ、今の。誰の声? 僕に向けた? わからない・・・・・・何があった?)

よく知ってる筈の声だった。
けどそれが誰のものだったか、どんな状況下だったのかまったく解らなかった。
一瞬のことで、内容も不明瞭だ。声音も、こうなっては男か女かすらも判断がつかない。
そんな記憶が突然、脳裏で再生された。青年はただ戸惑うばかりだ。
わからない。
わからない。
どうしてこんなことになっているんだろう。
意識が痺れる。
そうだ。どうしようもない何かが、あった。その時、僕は。
もう少しで何かが思い出せそうだった。
0058ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/04(金) 10:55:08.63ID:i6ZXHV0D0
だが、そのまともな思考にすらなっていない徒然とした感慨は、少女が発した現実の声によって断ち切られた。

「キラッ!?」
「ぅ・・・・・・あ、あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

意識が覚醒する。
そうだ、呆けている場合じゃない、敵は目の前にいる!
キラは背中のスラスターを全力で噴かし、且つ神懸かったコントロールで、仰け反り海面に倒れ込もうとしていた身体を跳ね上げる。
間を置かず、抜き打ちのサーベル一閃。
荷電粒子の刃、その切っ先がリ級を真っ二つに灼き裂いた。
撃破。
けどまだ、終わりじゃない。
キラは落ちてきたライフルをキャッチして、すかさず此方に駆け寄ろうとしていた傷だらけの響の背後、まだ息があったト級にトドメを刺す。
それでやっと、終わり。
それは丁度、駆けつけてきた第二艦隊と第三艦隊の砲撃が、第一艦隊を取り囲んだ深海棲艦を一掃したのと同タイミングの出来事だった。


第一艦隊は危機を脱し、黒島に辿り着いた。響とキラの獅子奮迅の働きで、負傷者多数なものの死者は無し。
全員生きて再会することができた。
二人は命綱としての役割を全うした。
0059ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/04(金) 11:00:33.70ID:i6ZXHV0D0
しかし、それ以上戦う力は残されていなかった。
戦闘継続が可能な者は、全艦隊合わせてもたったの6人。
その全員が多かれ少なかれ負傷している有様だ。ハッキリ言って、この戦力であと2時間も防衛するのは不可能だ。敵はどんどん南西からなだれ込んでくる。その中には【Titan】もいた。
二階堂提督は30隻の無人装甲船を出撃させたが、それもすぐに鉄屑になってしまうだろう。使われなくなった漁船等を流用して製造される、重巡クラスの防御力を備える艦娘支援用の自走式遮蔽物は、攻撃能力を持たない。
打つ手がない。
戦力が足りない。
八方ふさがりだ。


これまでか。


佐世保を諦める、そんな選択肢が頭を過ぎった時だった。


トリコロールに彩られた鋼鉄の巨人が一機、黒島から藍色の空へと飛翔した。
その名は【GAT-X105 ストライク】。
隻腕の機体が、単身、深海棲艦の群れへと飛び込んだ。



以上です。
ところで今更ですけど、読んでて分りにくい表現や意味不明の説明とかあったら是非とも教えてください
ちなみに戦術や戦略、兵器のスペック等は素人の付け焼き刃なのでそこはご容赦を・・・
贅沢ですけど、自分も他の方々同様に感想とかめちゃくちゃ欲しいです(自分が率先して書き込めと言われたらぐぅの音も出ませんが)
とりあえず自分は皆様のを楽しく読ませていただいてます。
0060彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/08/06(日) 21:59:12.10ID:0Ouk0LiA0
>>41
貴重なアドバイスありがとうございます!
確かにそうですよね...印象の強さや読みやすさを考慮した書き方にしていこうと思います。
教えて頂いた通りに書いたら自分でも見やすくて目が疲れなかったですw
自分のイメージについても、もっとはっきりさせて表現していきたいです。



皇女の戦い 
第六話

「本当にここまで来てくださいました!」「信じてましたよ。流石皇女だ。」

数人の技術者達が口々にマリナを誉めそやす。
その内二人は皇女の到着前に焦りによって言葉を荒げていたが、それは彼らの立場からすれば自然なことと言えるのだが......
マリナも相手が半ば無理をして話しているのを察知してか控え目に微笑んで首を横に振る。
尤も頬は赤らめていたが...

「とにかく今日は休みなさい。明日の午後からだもの。響いたら事だわ。」
「そうね。明日からだから...」

肩に手を置くシーリンに頷き会釈をするとホテルの個室に向かうマリナ。
朝何者かに襲われたのでボディガード達が二人同行してくれた。

彼らにお礼を言って別れてから入った室内は自分の王宮とは違う、西洋風の部屋だった。
イギリスなのだから当然と言えば当然なのだが、中東の伝統的な宮に住むマリナにとっては新鮮だ。

(......あんなに多くの機体が......それに今朝襲ってきた機体......あんなことをする相手は...?)

すぐにベッドに入ると今日一日の自分を取り巻く光景が頭を駆け巡る。
―――最も心に引っかかるのはあの奇襲してきた三体、特に一番好戦的なダークグレーのMSに搭乗していたパイロット...
今までは例え苦戦しても純粋なファイトのみだったが、今回は不測の事態。
動揺しつつもシーリンの言葉が頭を過ぎり―――シーツを握り静かに目を閉じた。

(...だめ。こんなことに囚われていたら全てが水の泡になってしまう...
誰にも邪魔はさせないわ...!)
0062彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/08/06(日) 22:03:37.86ID:0Ouk0LiA0
翌日――
大会の為に暫定的に設けられた施設にマリナとシーリン、スタッフ達がいた。

「マリナ様、いつも通りに戦って下さいね。勝利するにはそれしかありませんから。」
「ええ、ありがとう...肩の力を抜いていくわ。」
「...それに、強張って負けることも許されないわ。マリナ。」

シーリンの真摯な表情に重く頷くマリナ。

「そうよね。私達の未来がかかっているもの。」

ユディータを見上げるとともにタラップで登っていく。
機体内部の彼女は白い正装の服、紺色のスカート、下着を丁寧かつ素早く脱ぐとそれらは一時的に粒子に変換され消えていく。
膝を着き両手を握りしめて切実に祈るマリナ。すぐに頭上から降りてくるスーツを身に纏い力強く立つ。
胴体は水色、肩と股は薄い水色、四肢と臀部は純白だった。


会場はやはり、張り裂けんばかりの歓声で色めき立っていた。

「みなさん、記念すべき今回のファイト最初の日です!この目に焼き付けようではありませんか!」

実況を兼ねている司会者の隣にはイギリス代表にして前回優勝者がいた。
ジャスパー・ディアス。筋骨隆々とした体躯に物静かな表情を浮かべた30代半ばの男だ。

「さて、栄えある最初のファイトは中東のアザディスタン代表・マリナ・イスマイール選手!
何と皇女でありつつファイトに躍り出た異端と言うべきファイターです!
その清楚な姿に秘められた力、しかと見せて頂きましょう!」

「対するはサモア代表!マロシ・デスタン選手!正統派のファイターとも言うべきパワータイプの巨漢!」

マリナと正反対の位置にはいかり肩の青い機体、ガンダムグラスプとそれを駆るデスタン。
彼はどこかゴツゴツとした輪郭に荒くれ者の眼が印象的な大男だった。
スーツの色は紺色。ややずんぐりとしているがファイターだけあって鍛えられている。
本来ならマリナよりもこのような人物が国の代表になるのが普通だが...
0063彰悟 ◆9uHsbl4eHU
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2017/08/06(日) 22:14:48.63ID:0Ouk0LiA0
「あの姉ちゃんに似て細っこい機体だな......どこまで戦えんだか...
精々可愛がってやるぜ!」

自分の平手に拳をぶつけるデスタン。
彼は格闘家でありながら、暴力的な嗜好も持ち合わせている男。
会場の巨大モニターに映る線の細いマリナの写真は嗜虐心を煽るには十分だった。

「正にこの闘いの為に生まれてきたような男です!
その剛腕で相手をねじ伏せるのか!それともマリナ選手の勝利か!
それでは―――ガンダムファイトレディーゴー!」

ゴングと共に二体は近づいていく。
しかし、敢えてマリナは腰を少し低くしあまりスピードを出さないようにしていた。
相手の力を活かす戦法なので、行動を見て慎重にいこうとするが――

「姉ちゃん、勝たせてもらうぜ!」「!?」

得意げな声が聞こえたと同時に見た目からは想像できない程のスピードを突如見せるデスタンのMF。
彼を掴もうとしたのも束の間、逆に細い首を強靭な腕で締め付けられる。

「どうよ?こいつが本物のファイトってやつだ!!
今まで弱いのとしかやってねえんじゃねえのか!?」
「うっ...!」

振り解こうとするが力の差は明確で、苦しみと共に呼吸が弱くなっていく。
当然ながら相手の挑発を気にする余裕もない。
何よりも抵抗していた両手に力が入らなくなり、古武道を使うことも適わない。

(...どう、すれば...!先に弓を使った方が正解だったかしら......)

しかしいきなりマリナのユディータを勢いよく放してしまう。ふらつきながらも背中の弓矢に手をかけようとした矢先――

「なっ......うぐっ...!」

儚い声と共にマリナは膝を着いた。腹部にデスタンの拳が入ったのだ。
鋭い衝撃が入り込んでいくのがわかる。

(こんな......強いなんて...
ずっと戦ってきたのに......世界にはこんなファイターがいたというの...?)
0064彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/08/06(日) 22:16:08.79ID:0Ouk0LiA0
「うっ、...かはっ...!」

敢無く苦しげな息を吐いてしまうマリナ。
気づけばグラスプは眼前で女鹿を狙う獅子のように見下ろしている。
背中の矢を複数収めたボックスを強引に外され、場外に落とされてしまう。
幸い機体本体の一部ではなく、マウントされたパーツだったのでGF自身のダメージは免れた。
しかし、武器を奪われたのは絶望的だ......
いつになく怒りの籠った視線を向けるマリナ。
これまで戦ったファイターの中には流石にこのような行動に出る者はいなかった。
どんなに手強く、態度に問題がある相手でも尊敬すべきところはあったが、デスタンは違った。
どんな手段を用いても勝つ......
決して武道に造詣の深くないマリナでも相手が道を外れたものであることがわかる...

「何てやり方...恥ずかしくないのですか!?」
「ケッ、弱者の負け惜しみだな。悔しかったら実力を見せてみな。」

「おおーっと、デスタン選手。少々ダーティーなやり方だー!
マリナ選手、大丈夫なのでしょうか!これはデスタン選手が有利か?」
「全く、相変わらず大人げない奴だ。」

隣にいるジャスパーは呆れて溜息を吐く。

「彼を知っているので?」
「ああ、見ての通り相手を挑発したり甚振るのがあいつの好む手段だ。
正直まともなファイトとは言えないな。
...とはいえ、こういう状況を乗り越えられるかがカギだな。」

再度ユディータの白い機体に鈍い轟音と共にパンチが叩き込まれ、マリナは体の内外が衝撃と圧迫に襲われる不快感に襲われる。

「どうだ、パンチの味は?
今まで城でぬくぬく生きてたお姫ちゃんには堪えるだろう。
あんたみたいな姉ちゃんは王宮でお茶を啜っている方がお似合いなんじゃねえのか?」
「――!!」

反射的に腹部を抑えた手に力が入る。
男の言葉は全くの出鱈目だが心に深く突き刺さる...
元より体力、腕力や相手を直接殴るセンスは他の選手に比べて乏しい...
――やはり心のどこかで自分にファイターの素質はない、闘いに相応しくない――
そんなコンプレックスを自覚させられるが、きつく唇を噛んで相手の侮蔑を振り払う。

(だめ、挑発に乗っちゃ...聞き流さなきゃ...)
0065彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/08/06(日) 22:17:15.34ID:0Ouk0LiA0
そしてデスタンが繰り出すタックル。
文字通り目にも止まらぬ速さの攻撃を正面から喰らうマリナ。
すぐに二発目が向かってくる!
前面を向いたまま自ら後ろ側に跳ぼうとするマリナ。
基礎体力の高い敵には基本的に背中を見せても無駄だと判断しての回避だったが...

「うあ......」

身体を足場から離したその矢先、低い呻きを上げて仰向けに倒れてしまった...
気づけばステージのすぐ端。
もはや敗北は寸前...アザディスタンのメンバーは諦めとも切実さとも取れる顔で見守る。
しかしシーリンはそのどちらでもない表情で皇女を見つめていた。

(マリナ...あなたなら必ず...)

デスタンはやはりパワーとスピードを兼ね備える相手。マリナにとっては不利なファイターの一人だった。

(絶対、勝つ...!こんな人に負けられない!......イチかバチか)

痛みに耐えながらも腰を落とした姿勢で立つマリナ。
敵を見据えて敢えて微動だにしない。
集中力を意識的に高める。欲しいのは敵が見せる一瞬の隙......

(チャンスは一度だけ......!)

「観念したか!
潔さに免じてこれで楽にしてやるぜ!有難く喰らいな!」

既に勝ち誇った表情の巨漢は拳を突き出す。最後は得意のパンチでマリナに止めを刺そうとする。しかし...

「はっ!」

ギリギリのタイミングで相手の足首を蹴った直後、脚を横にスライディングさせ避けるマリナ。
元々体の軽い彼女はこのようなモーションを得意としていた。
サバイバルイレブンに於いても、回避や攻撃への繋ぎとして何度も窮地を脱してきた。
「?!」

突然のことに驚きながら倒れ掛かるデスタン。
0066彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/08/06(日) 22:19:55.25ID:0Ouk0LiA0
半端に突き出され、今正に標的のいないステージに当たりそうになる彼の腕を掴み、柔らかい動きで捩じりながら外に投げ飛ばした!
相手の不安定な態勢を利用する......マリナの得意とする技の一つだ。
グラスプの巨体は一瞬轟音を上げて観客の鼓膜に鳴り響いた!

「そんな...俺が負けるだと...?」

ショックで唖然とするデスタン。
無理もない、今まで屈強のファイターに勝ってきた巨漢が華奢な女性に負けたのだ。
ただ青空と睨み合うしかなかった......
マリナは汗を流しながら未だ真剣な表情は崩れなかった。

「おおっと!これは予想だにしなかった展開です!相手の動きを利用するとは!
勝者、マリナ・イスマイール選手!」

「ほお、タイミングを計ったのか。中々繊細な動きをする選手だな...」

司会者の横でジャスパーも静かにだが感心を見せていた。

思わぬ結果に会場は一斉に沸き立つ。
想像のできない試合を求める彼らは驚きと興奮を隠せない。
タラップを伝って降りてくるマリナ。
まだ痛みが取れず腹部を抑えているが、水色の瞳にあるのは嬉し涙だ。

「シーリン、私...」
「おめでとう、マリナ。よく闘ったわね。
まだ始まったばかりだけど今日はゆっくりおやすみなさい...」

そういって旧友にかけられたタオルで髪を拭く表情は自信と幸せに溢れていた。


今日は以上です。
すいません、途中PCの不調で動作できなくなりましたが戻りました。
色々設定や台詞に力を入れるのが前よりも楽しくなってきました。
0067誤字大王(ry
垢版 |
2017/08/08(火) 21:38:12.49ID:6mU0DSBV0
>ミートさん
感想を書きたいのですが、艦これを全く知らない自分にはお手上げです・・・
そもそも「絵」が見えてこないし、このあたりは特定作品の2次創作の弊害ですねー
艦隊戦の流れなどはよく見えてくるので、艦これ知ってる人、感想あげて下さい。

>彰悟さん
デスタンさん・・・なんて真っ当なやられキャラっぷりだwww
ザコ役のテンプレすぎて登場時から退場の姿が浮かんで気の毒に思えてなりません。
個人的な感想ですが、なぜ彼が卑怯者扱い?
相手の武器を封じるのは戦術の基本だし、威圧して戦意をそぐのも立派な兵法ではないかと・・・
なんというか今回の話の流れ自体がデスタンさんを貶める流れになってるのは
脇役至上主義な自分の目が曇ってるんでしょうかw
0068ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:20:08.23ID:5SR/j3F60
>>67
感想ありがとうございます。
そうですか。「絵」が見えてこないってのは致命的ですね・・・・・・
そりゃ興味が出て画像検索してくれるほどの面白い作品を書けりゃいいんでしょうけど、悔しいですけど自分の腕じゃ難しいですね・・・・・・
まぁ兎に角、キャラ描写をもっと頑張ります。

とりあえず投下します
0069ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:22:03.51ID:5SR/j3F60
――艦これSEED 響応の星海――


「ごめん、つきあわせちゃって。でも・・・・・・」
「いいよ。私だって、このままじゃ終われない」

鋼鉄の巨人、ストライク。
そのコクピットでキラの膝の上に座った私は、いろとりどりに輝くディスプレイを眺めながら、唐突に「過去」を思い出していた。
それは1940年代、その前半。
人類にとっては70年以上も昔、多数の艦娘にとっては主観的に10年内の出来事として認識されているそれは丁度、太平洋戦争が始まり、そして日本が敗戦国として終わった時代だ。
当時、意志もなにもないモノ言わぬ兵器であった【大日本帝国海軍特型駆逐艦22番艦の響】は、何度大破しても沈まず、その度に復活しては戦場に出ることから「不死鳥」とも称されており、
不沈艦として終戦まで戦い抜いたとされる。
あの戦争を経て生き残った艦艇は少ない。
【響】は四姉妹の次女として建造され、後に【暁】、【響】、【雷】、【電】の四姉妹揃った第六駆逐隊の一角を担った。しかし、彼女らは【響】を残して皆沈んでしまった。立て続けに、一人は手の届く場所で、死んだ。
私は独りぼっちになった。
別に珍しいことではない。そんな経験は艦娘であれば、似たようなことは沢山あっただろう。自分が死ぬ瞬間を覚えている者もいる。凄惨そのものだったよ、あの戦争は人間にとっても兵器にとっても。
そのように「記憶」は告げている。

「いや、でもさ。囮になって時間を稼ぐんだ。それって集中砲火されるってことだよ。それでも?」
「上等さ。それに囮になるなら、ちゃんと動けなきゃダメじゃないか」
「それは・・・・・・そうだけど」
「それに、あなたは私を守ってくれるんだろう? 騎士様は?」
「へ?」

この人間の躰で生まれ変わって、そういえばあの時はと思い起こす、鮮明すぎる前世の記憶。
私という存在にとってのそれは、悪夢でしかなかった。
己に乗船していた者の姿形、その情念、その記憶すらも混じり合って構成された記憶は、痛い。艦娘となって姉妹と再会してからは、もっと痛くなった。誰かが傷つくと、死にそうな気分になる。
独りは怖い。
心が氷になりそう。
この先もずっと怯え続けるだろう。
この記憶は、きっと、乗り越えられない。
生き残れたことを僥倖と思うべきなのに、死に損なったと思う自分には。生き残った喜びよりも、後悔と無念が先に立った自分には。
戦後に解体処分されることなくロシアに賠償艦として引き渡され、死に場所すら奪われたまま30年の時を刻み、何も成せないまま生涯を終えた自分には、重すぎる。
0070ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:24:48.90ID:5SR/j3F60
罪悪感。
私はきっと、赦されることはないだろう。
誰に?
わからない。
何を?
わからない。
何故?
それも、わからない。
己の過去が、己の想いが、私を幾重にも締め付ける。お前にその記憶から逃れる術はないのだと。お前は誰も救えぬまま、孤独のままなのだと、誰かが私に告げる。
そんな感傷に追い詰められた「過去」が、私にはあった。

「ふふ。氷のお姫様としては、頼れるナイトを所望するよ」
「――んな!? ちょ、それ、聞こえてたの!?」
「しっかりと。なかなか可愛らしいな? ――・・・・・・、・・・・・・とにかく、私はやるよ。最後まで抗ってみせる」
「あ・・・・・・、・・・・・・わかった。じゃあ、頼りさせてもらうよ。僕らでみんなを守るんだ」
「うん」

今も尚、その「過去」を克服することはできていない。
クールで飄々とした態度を気取っていても、心の底にこびりついた畏れは消えなかった。
言っておくが私は別に、自分が特別だなんて思っちゃいない。
この想いは、この恐怖は、みんなが持っているものだと思う。榛名も木曾も、瑞鳳も、私の姉妹達も。みんな、みんな。誰もが何かを失う恐怖と戦っている筈なんだ。みんな自分達の姉妹が心配なんだ。
この一連の戦いで、佐世保に38人いた艦娘も13人までに減った。今日の戦いでは更に7人が負傷した。こんなにも沢山の仲間が傷ついたのだ。みんなが皆、身を引き裂かれるような思いでいるのだ。
けれどみんなはぐっと堪えて、成すべきことを成すと、今度こそ大切なもの全てを守ってみせると、記憶を乗り越え戦っている。
私にはできない。
どんなに覚悟しても、昔から。「過去」が覚悟を土台から崩しにかかる。
つまり、きっと誰よりも弱いのだろう。
ちょっとしたことで自分を見失ってしまう私は、弱い。独りぼっちで生き残ってしまったこの身には、また誰かが傷ついてしまうこの現実は重すぎる。せっかく再会した姉妹達がいなくなると想像しただけで吐き気がする。
ちょっとデリケートすぎやしないか、私の精神。
そうだ。私はこの世に生まれ出でた五年前から、ちっとも前に進めていない。また、取り残されている。永久凍土のように変わらず、いつまでも弱いまま、記憶に怯えたまま。
でもこのままじゃいられない。「過去」は乗り越えなくちゃならない。
弱い自分だけど、守りたいものがあるから。
強く在らなくては守れないから。
まだこの手にチャンスがあるのなら、抗わなければならない。
脅迫的なニュアンスを含む、ひどく感傷的なその思考。
だから、後に師匠と呼ぶことになる艦娘に教えを請うた。苦笑いして「オススメはしないけど、仕方ないっぽい」と自分を鍛えてくれた彼女のおかげで、戦闘技術だけは一人前になることができた。
0071ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:26:11.57ID:5SR/j3F60
「いこう・・・・・・ストライク、戦闘ステータスでシステム再起動。OSダウングレード、エマージェンシーモード。響、両手を操縦桿に」
「神経接続、リンクスタート・・・・・・? ・・・・・・あ、操縦補助システム、更新完了したみたい。これでやれるの?」
「君が新しい担い手として登録された。やれるよ、その心のままに」

いつしか悪癖として染みついていた自分の突撃戦法は、こうして生まれた。相変わらずの悪運の強さと己の適性を振りかざした、強引な戦い方。誰かを守るなら一番確実な手段だと。
無意識の内に、接近戦に拘ることで何かが赦されると思っていた。
もはや自分の事は勘定に入れていなかった。
けれど。
それでも、自分にできることは小さすぎるわかっていても、やはり守れないものは沢山あった。
いつだって大事なものは遠ざかる。遠くで、近くで、いくら自分を捨てて頑張ったって届かないものがある。手に入れた強さはまだまだ足りない。「過去」を振り解くには足りない。
暁が重傷を負った。
雷と電も、もう戦えない。
目の前で、キラの左腕が折られた。
私も無理が祟ったのか艤装がイカれてしまって、どうしようもない。
このままではまた、誰も救えないまま独りになってしまう。
それがとても恐ろしい。
まだ自分にはできることが、抗えることがある筈なのに。己の感傷に振り回されて、他のみんなに迷惑や心配をかけている自分なのに。このまま戦線離脱なんてしたら、本当にもうどうしていいのかわからなくなる。
だから。

「キラ・ヒビキと、響。ストライク、行きます!」
「う、わぁ!?」

私はこの人の左腕になることを決めた。
囮役を買って出たその意志に賛同して、心配してくれるみんなを、負傷しているにも関わらず単独で出撃しようとしていた彼を説得して、同乗して戦うことをなんとか納得させた。
まだ道はあるのだ。
使い物にならなくなった艤装を解除して、彼の膝の上を陣取る。
これは意地だ。
左腕が使えない彼に代わって握る操縦桿を、目一杯前に倒して。彼がペダルを力一杯踏み込んで。
ストライクと名付けられた隻腕の機械人形が、単身、深海棲艦の群れへと飛び込んだ。
0072ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:28:18.97ID:5SR/j3F60
《第6話:不死鳥の炎》




「船を盾に回り込んで! スロットル下げ、操縦桿を右に!」
「こう!?」
「うまい! 四肢全部で慣性をコントロールするんだ!!」
「基本が同じなら・・・・・・! 頭部機銃を撃つ!」

深海棲艦の集中砲火、戦車隊の支援砲撃が乱れ飛ぶ戦場を、ストライクが不格好に揺れながら駆けた。
波を蹴立てて、スケートのような格好で水上をホバリングする。その背後からは黒島を目指していた敵群が一様に追いかけてきており、ストライクの排出する青白い炎も相まって、まるで誘蛾灯にでもなった気分だ。
なにせ18mの巨体であれば、狙いやすいことこの上ない。目論見通りに射撃の的になったキラ達は、今度は黒島から離れるように西へと進路をとる。できるだけ多くの敵を、できるだけ遠くへ。
囮としてこれ以上はないだろう。
白を基調に青と赤で彩られた機体は、敵の執拗な攻撃からぎこちなく逃げ惑い、30隻の無人装甲船の影を縫うように右へ左へとスラスターを噴かせてはフレームを軋ませた。
色鮮やかな装甲には傷一つないものの、被弾する度になにかのパーツがポロポロと海に落ちていく。ショックアブゾーバーも完全に壊れたらしい。
物理的な衝撃を無効化するフェイズシフト装甲が、遠慮容赦なくバッテリーからエネルギーを吸い上げていく。
ギチギチと、嫌な音がコクピットまでに届いている。
モビルスーツとしての寿命が、刻々と迫ってきている。
遮蔽物として使わせてもらっている装甲船が、次々と轟沈していく。全長200m、排水量12 ,000t級の重巡洋艦が紙のようだ。改めてその破壊力に戦慄する。
長くは保たない、キラはそう悟りながら四枚のペダルを連続的に蹴りこんで、全身のスラスターを制御する。響の操縦とリンクするように、機体に負荷をかけないようにと、いつもよりずっと繊細な操作が要求された。

「外れた!」
「照準は合ってる、そのタイミングでいい。3時方向に移動して」
「う、うん・・・・・・って、敵の本隊じゃないか!?」
「突っ込むんだ! スロットル最大!」

つい先程まで不思議な力でキラと一体化していたストライクだが、今は同化を解除して元の巨体を取り戻している。つまり、普通の18m級モビルスーツとしての運用を可能としていた。
基本的にモビルスーツの状態であろうとキラと同化していようと、その性能や能力に差はない。速度も火力も防御力も据え置きだ。
強いて言うなら、空気抵抗や投影面積を考えるなら、同化状態の方が機動力の面で圧倒的有利であろう。人間が、たかが時速1〜2kmぐらいしか出せない蚊を捉えるのに苦労するのと同じだ。
ただしリーチについてはお察しだが。
そう考えたキラは実際に、ストライクと一体化して戦闘に参加した。機体を操縦するような感覚で、己の躰を振り回してきたのだ。
0074ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:30:03.39ID:5SR/j3F60
艦娘の艤装と同じく摩訶不思議な原理原則によるものだ。考えるだけ無駄なので、そういうものとして納得するしかない。
そのコクピットに収まった響とキラは、なんとか囮の役割を果たそうと二人して懸命に機体を操っていた。
パイロットの掌部末梢神経から傍受した電気信号を、姿勢制御のサポートに使用する「神経接続型操縦補助システム」を響が使っている以上、操縦桿を握るメインパイロットは彼女。
キラがそれ以外の担当で、ぶっつけ本番の二人三脚に挑む。
そんな彼女らの目前で慌ただしく情報を更新するモニターが、主観的に豆粒大になったル級とタ級、更にヲ級が同時攻撃してくる様を出力した。

「突っ込むって――わっ!?」
「舌噛まないでね、ジャンプするよ!」

殺到する火線にアラートがより一層喧しく喚き、泡を食った響のほっそりとしたお腹を、青年はなんの前触れもなく右腕でギュッと抱き込んだ。背面スラスター全てが駆動し、機体は一息にトップスピードへ。
急激な加速Gに息がつまる。
パッシブセンサーの出力も上げてデュアルアイを煌めかせたストライクはぐっと身を沈めて、勢いよく空高く舞い上がった。脚部スラスターによる跳躍、その高度は200mに達している。
文字通りスケールの異なる鋭い機動に、深海棲艦達はデカい的であった巨体を見失った。
敵の本隊と、ストライクを追いかけていた部隊が合流し――次の瞬間、沿岸の戦車隊が吐き出した榴散弾が、そいつらを纏めて薙ぎ払らった。
そこに、着水したばかりのストライクの頭部機銃――75mm対空自動バルカン砲塔システム・イーゲルシュテルンが追い打ちにかかる。
艦艇に使用される対空機銃よりも口径は小さいが、そこはC.E. 70製ガトリング機関砲、威力は折り紙付きだ。ビーム兵器は極力使用せず、連携で敵戦力の一角を削った。

「よしいける、これなら・・・・・・って、響? 大丈夫?」
「め、目が回る・・・・・・これはちょっと、思ってたよりキツいな」
「頑張って。あと少しだ」
「ッ、――やるさ。不死鳥の名は伊達じゃない。次はどうすればいい?」
「なら、今の要領でいこう。少しずつ戦力を削るんだ」

ぶんぶんと頭を振って気を取り直した少女。
目一杯伸ばした手で握った操縦桿を、青年の指示になんとかついて行こうと必死に操作する。
5分もする頃にはその様もだんだんと洗礼されてきて、ギクシャク動いていた機体もだいぶスムーズになっていた。ノイズばかりのレーダーを分析して、今や自分で次の行動に移ることができている。
いつもとはまったく勝手の違う戦闘に、よくもここまで順応できるものだ。
膝に座る少女が動かしやすいようにと随時機体パラメータを更新しながらも、キラは内心舌を巻く。
OSは初心者用の簡易設定とはいえ、予備知識無しの初めてで、しかも操作を分担するというイレギュラーであるのに、なんという飲み込みの早さだろう。
もうちょっと大きくなってペダルに足が届くようになって、更に鍛錬すればかなりの腕になるかもしれない。
結局、彼女が正しかった。
0075ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:32:04.34ID:5SR/j3F60
彼女がサポートしてくれるという申し出には若干、いやかなり面食らったものだが。この分なら、左腕が使えない自分一人が戦うよりずっと役に立てる。
本当に、黒島に集った佐世保守備軍が体勢を立て直すまで、敵の注意を引きつけていられるかもしれない。
どのような事情や思惑があるにせよ、この娘には本当に世話になりっぱなしだ。
いつかちゃんとお礼をせねばなるまい。

救援がいつ来るのか、本当に来るのかが分らないこの状況で、まったくいつもの自分らしくない『自己犠牲』に付き合わせてしまっているのは、心苦しいが。

(あとはストライクさえ・・・・・・)

もうちょっと頑張ってくれよと、キラはそっとディスプレイを撫でた。
ストライクのエネルギー残量も少ない。動けて30分がいいとこだろうが、けれどこれでも当初の予定よりは多いほうだと腹をくくる。
黒島でちょっとだけ充電できたし、なにより午前中の戦いでは、助けてもらった借りを返すと木曾さん達が奮戦してくれたおかげでエネルギーの節約ができたのだ。それに報いる必要がある。
最後の最後まで、やってみせよう。
自分にとっても彼女らは命の恩人なのだから。
この佐世保に流れ着いて、四日間眠りっぱなしであった自分。彼女らが救助してくれなければ、戦い続けていなければ、自分はとっくに死んでいたのだ。そしてこの娘に出会わなければ、まだ迷っていたかもしれないのだ。
だから囮役を買って出た。
絶対、この仕事は失敗できない。

「・・・・・・ストライクもね、不死鳥って渾名を持ってるんだ」
「それって・・・・・・」
「僕の知っている限り、四回は大破してるんだよ。それでもパイロットは全員生還させて、また戦場に出て」

そうしてエネルギー残量が1割を切ったつい先程、ストライクの右腕までもが反応しなくなった。
肩のジョイントから火花が散り、指先一つ動きやしない。両腕が使えない。
同時にこちらに追いついてきた【Titan】のビームライフルで、エールストライカーの片翼と腰部装甲が吹き飛ばされた。頭部機銃で応戦するが、それもすぐに弾切れ。
ようやっと黒島から再出撃した艦娘からの援護は期待できない。彼女らも自分達のことで精一杯だし、なにより遠い。
万事休す。
一時的に操縦の主導権を返してもらったキラが、折れた左腕を使ってでも反撃せんと操縦桿を動かす。
敵の攻撃を、際どく後方宙返りで回避。180度逆さまになったタイミングでアーマーシュナイダーを一つ射出し、落下するそれを宙返りの勢いそのまま足の甲で掬い上げて、更に回し蹴り。
リフティングとボレーシュートの要領で放たれた巨大なナイフは寸分違わず【Titan】の喉元に突き刺さり、その無力化に成功した。
代償に青年は悶絶し、機体の右足から黒煙が上がる。
二人して汗だくになりながら、キラは根拠のないジンクスを口にする。
0076ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:34:14.60ID:5SR/j3F60
「だから不死鳥?」
「そう。別の個体も合わせてだけどね。・・・・・・だから今度もきっと、大丈夫なんだ」
「хорошо。それはまた、あやかりたいね」

尚悪いことにフェイズシフトも落ちた。
装甲から色が抜け落ち、元々の暗い鉄灰色に戻っていく。防御力はそこらの通常装甲並のものとなり、どんどん傷だらけになる。咄嗟に身を捻ったから助かったものの、ル級の砲撃で左肩部装甲が脱落した。
不死鳥が二人なら、なんとかなると思わない? なんて嘯くキラは必死の形相でキーボードを叩き、なけなしのエネルギーを最後まで搾り取ろうと思考を加速させる。予備電源もフル活用して、逃げる算段を立てていく。
離脱を開始する。
これでもう、充分だ。
できること、やれることをした。
その巨体で戦場をかき回すだけかき回し、目立ちに目立った挙げ句【Titan】すら葬ったストライクは注目の的だ。その戦力の大半を、黒島から10マイルも西の海域まで誘導することができた。
これでたった6人だけの佐世保守備軍も戦いやすくなっただろう。囮の役割は果たせたわけだ。
あとはここからどう安全に離脱するか。
背後から迫る深海棲艦の大群。その砲撃に晒されたストライクは撃墜される寸前だった。兵器としてはもう完全に死んでいる。スラスターと制御系が生きていることが奇跡だった。それももう1分も保たないだろうが。
しかし。

「響。ちゃんと君は、僕が守る。絶対にやらせはしないよ」
「頼りにしてるよ、キラ」

「生きること」への強い渇望を持つ青年と、「過去」を乗り越えたい少女は、決して諦めない。
抗うことを止めない二人はこの絶望的な状況を退けるべく、最後の賭けに出る。

「砲撃、来た!」
「エールストライカー、パージ!!」

パッシブセンサー全開。
弱々しくもその瞳を輝かせた機体が、軽くジャンプする。
ついで機体背部から切り離された高機動戦闘用装備・エールストライカーが敵の攻撃を一身に受け、爆散した。
すっかり暗くなった空に一際明るい爆炎が輝き、それは鉄灰色の機体をも朱く照らし出しては飲み込み破壊する――はずだった。

「しっかり捕まっててよ!!??」
「ッ――!!!!」

再びストライクをその身に取り込み同化したキラが、響をお姫様だっこするように抱きしめながら、爆風に煽られてくるくる飛んでいった。
同化するといっても重量がそのまま加算されるわけではない。そこに現人類が思い描く質量保存の法則は通用しない。小さな二人は炎に飲み込まれるより前に、ふわりと熱風に乗ってその殺傷圏から離脱したのだ。
0078ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:36:54.33ID:5SR/j3F60
同時に、ストライカーの爆発を目眩ましに深海棲艦の索敵から逃れることにも成功した。敵からは、鋼鉄の巨人がいきなり消えたか、撃墜できたように映っただろう。
何かが少しでもズレていたら成立しなかった絶妙なタイミング。
それを見事に掴んだ二人は炎に灼かれることなく、最後のエネルギーを振り絞ってなんとか緩やかに着水することに成功した。
着水し、その場で尻餅をつく。
しっかり抱いていたはずの少女も放り出され、二人ともびしょ濡れになる。運良く浅瀬で、溺れることはなかった。
そこは壊れてしまっている灯台が設置された小さな島、長崎県平戸市の尾上島の近く。
キラと響は、もうそこから動くことが出来なかった。体力と精神の限界だ。膝が笑って、息も上がって、身体に力が入らない。持てる総てを出し尽くした。
事実上の戦力外通告。スッカラカンになったストライク同様、これ以上なにもできそうにない。
すぐ近くには深海棲艦が徘徊しているが、それでもだ。
見つかれば今度こそ終わりだ。殺される。
だが。
幸いなことに、無防備な二人が敵に見つかることはなかった。
奴らは暗視能力を持ち合わせていない。この20時の暗闇に紛れた二人を再び捕捉するのは不可能なのだ。
そう、20時だ。
約束の時間である。


「より取り見取りっぽい?」


座り込んだ二人の隣を、黒き疾風が駆け抜けた。
月明かりに照らされた金髪と、黒い制服を靡かせ疾る少女。その背には巨大な鋼鉄の兵装。
見間違いようがなく、その後ろ姿は艦娘のものだった。
青年が初めて聞く声、初めて見る姿。
少女が久々に聞く声、久々に見る姿。
そしてそれは勿論、彼女一人だけではない。
つまり――

「よし、持ちこたえてたわね! 呉・佐世保連合艦隊!! 砲雷撃戦よーい!!!!」
「島風は夕立のフォロー! 由良と鬼怒はそこの二人を救助して!」
「りょうかい! 島風、突撃しま〜す!!」
「はい! そこの二人、大丈夫!?」


待ちに待った救援が、到着した。
0079ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:38:04.16ID:5SR/j3F60
「比叡、私達で道を切り開くわ。金剛お姉様直伝のフルバースト、決めますよ!!」
「まっかせて霧島! この比叡、通常の3倍の気合! 入れて!! いきます!!!!」
「帰ってきたぜ佐世保! 行くぞぉ天津風、阿武隈!! この摩耶様に続けぇー!!」
「了解!」
「阿武隈、ご期待に応えます!」

ぞろぞろと。
十人十色。
千差万別な少女達が。
戦場に雪崩れ込んでいく。
目がくらむほどの閃光。
頭痛がするほどの轟音。
腹まで響くほどの衝撃。
文字通りに世界が一変した。
今までの大苦戦が嘘のように、北西からやってきた十数余の艦娘達による攻撃で、深海棲艦達はあっという間に蹴散らかされていった。ブルドーザーもかくやといった凄まじい快進撃。
誰も彼もがピカピカだ。初めて会った時からズタボロだった佐世保のみんなとは全く対称的な、どこまでも希望に満ちあふれた戦士の出で立ち。
元気いっぱいに景気よく砲弾をぶっ放す様はなるほど、戦場の女神という形容詞がピッタリだった。
本当に、来てくれた。
来てくれた!!

「ぃよぉし、腕が鳴るわね! ビスマルクの戦い、見せてあげるわ!!」
「フフッ、夜戦か。いいだろう・・・・・・このグラーフ・ツェッペリンがただの空母でない所を見せてやろう」
「お〜、いいですねぇ夜戦〜。やっ、せっ、ん〜! 行ってみ〜ましょ〜! やっ、せっ、ん! 呑まずにはいられない〜!!」
「敵艦発見、砲戦用意! ポーラ? お酒はぜーったいダメだからね?」
「アッはいザラ姉様。ポーラ、お酒はモチロン飲みません・・・・・・」
「あ、あの・・・・・・私の、ビスマルクの戦いを・・・・・・」

なんか漫才してる一団もいるが。

「さてさて熊野。アレをやっちゃうよー」
「ええ、よくってよ鈴谷」
「おぉうアレやるの二人とも? こりゃ負けてらんないね大井っち」
「あら北上さん、じゃあ私達も」

なんか合体必殺技を繰り出してる人もいるが。

「ソロモンの悪夢、見せてあげる。――あたしは帰ってきたぁッ!!」
「また世界を縮めちゃった・・・・・・! 私には誰も追いつけないよ!!」
0080ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:40:27.75ID:5SR/j3F60
由良と鬼怒という少女達に背負われたキラと響は、思わず顔を見合わせて、力なく苦笑した。
なんとも賑やかなものだ。
何十回と渡った綱渡り、その対価としては妥当なところなのだろうが、この花火大会最前列みたいな姦しさはなんだ。感慨もなにもなく、まったく、ついこちらも釣られて笑いがこみ上げてくるじゃないか。
というか笑うしかない。乾いた笑い声が二人の口から漏れ出した。
その時、遠く南東の方面でもチカッと光が瞬いた。

「あれは・・・・・・?」
「きっと、鹿屋のものだろうね。よかった・・・・・・これでもう、本当に」

広島の呉鎮守府と、鹿児島の鹿屋基地。
佐世保のお隣さん的存在で、今回の騒動で修復施設を失った佐世保鎮守府に代わって、負傷した艦娘達の治療を引き受けてくれたのだという。
その流れで佐世保救援部隊を結成してくれて、元気になった佐世保所属の艦娘を伴って今ようやく到着してくれた。呉は北から、鹿屋は南から。
役者は揃った。反撃の始まりである。
今の二人に知る由もないが、呉からは22名、鹿屋からは27名と、49人もの艦娘がこの海域に集っていた。一大決戦級の大規模作戦だ。この規模の艦隊が動いた例はそう多くない。戦況は完全に形勢逆転した。
特に佐世保所属艦の働きは素晴らしく、不死鳥の如く蘇った彼女らの戦果はかつてないものになっていた。
その勢いは誰にも止められない。
この海域から深海棲艦が一掃されるのも時間の問題であろう。
また、黒島からは信号弾が上がった。
それは金剛が打ち上げたもの。救援の到着に気づいた佐世保のみんなが、自分達の状況を伝えるべく空高く放った光の玉だ。
込められた意味は二つ。
私達はここにいる。誰一人として欠けてはいないと。


間に合った。
佐世保は、救われたのだ。
0081ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:42:08.19ID:5SR/j3F60




その後、一夜明けて11月4日の8時。
夜通しかけて、この海域全ての深海棲艦とその泊地を掃討した連合艦隊は、半壊した佐世保鎮守府に集っていた。佐世保所属は復帰した者を含め38人、呉と鹿屋からそれぞれ12人ずつ、総勢62人の大所帯だ。

「暁―!!」
「響! よかった、無事――わっぷ!?」
「暁・・・・・・本当によかった・・・・・・大破しちゃったって聞いたから・・・・・・」
「あぁもう泣かないの。レディーはそう簡単に泣いちゃいけないんだから。・・・・・・無事よ、ちゃんとね」
「うん・・・・・・」

鬼怒に背負われようやく戻ってきた響は、一目散に暁に抱きついた。
意外なことにあのクールな少女が大粒の涙を流して、思いっきり泣きじゃくっている。
そんな彼女をよしよしと慰めているのが、彼女ら四姉妹の長女である、暁だ。深い菖蒲色の髪と瞳は、全体的に青白い響とは対照的。でも髪質はお揃いなのか、黒と白の長髪が潮風に靡いてふわふわクルリと広がった。

「ちょっとちょっと、私達を忘れないでよね! 雷も電も、すっごく心配したんだから!! もう・・・・・・!」
「響ちゃん・・・・・・ホントによかったのです・・・・・・ぐすっ」

その隣に控えていた三女と四女も感極まったのか、その大きな栗色の瞳に涙を浮かべて二人に抱きついた。
そして四人はしばしギュッと抱き合い、お互いの熱を交換しあったのだった。
こんな小さな躰で、今まで本当にお疲れ様と、キラはそこから少し離れた場所で想う。
長いこと絶望的な戦いを続けてきたのだ、こうなるのは当たり前だろう。約一週間にも及ぶ孤独な防衛戦。その果てにみんな無事に再会できたのだから、泣かない方がおかしい。
佐世保の港は、大勢の少女達の泣声に満たされていた。

「失礼、少しいいかしら?」
「うん? 君は・・・・・・?」
「はじめまして。私は天津風。呉の艦娘よ」
「あぁ、うん。僕はキラ。はじめまして」

そんな光景をぼんやり眺めていたキラに、声を掛けた者がいた。
振り向けばそこには、象牙色のサラサラな長髪をツーサイドアップにした女の子。
どことなく高貴な猫を想起させる、吊り気味の瞳。黒い長袖のワンピースに、紅白の髪飾りとニーソックスが特徴的だ。身長は響より少し高い程度。可愛いか美しいかで言えば、美人の部類だろう。
くせ毛でふわふわな髪、温和な小型犬のようにも見える垂れ気味の瞳、美人というよりかは可愛いの部類に入る響達四姉妹とは正反対のタイプだと、キラは勝手にそう評する。
背中には魚雷発射管を背負っていて、連装砲といった火器はショルダーバッグのように右腰に下げたパーツに集約されているようだ。
0083ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:45:07.00ID:5SR/j3F60
なんの用だろう、僕なんかに。

「・・・・・・キラ?」
「え? ・・・・・・えぇと、そうだよ?」
「その左腕・・・・・・」
「これ? ただ骨折しただけだよ。大丈夫、これぐらい」

何故か少女は驚いたように目を見張り、そしてマジマジとキラの顔と左腕を交互に凝視してきた。
なんだというんだ。
小さく「いや、そんなはず・・・・・・でも・・・・・・この制服は・・・・・・」などと、逡巡しているような呟きが聞こえる。呼びかけておいて少女は、たっぷり十秒近く俯いて思考に没頭してしまった。
取り残された青年としては根気よく待つしかない。まさか怪我の具合を訊きにきた訳でもあるまい。
更に待つこと数秒。
やっと何かの決心がついたのか、少女はこれまた小さく頷き、深呼吸して、緊張したような面持ちで訪ねてきた。

「あのっ、一つ質問、いいですか?」
「う、うん。どうぞ」

なんだろう。
こっちまで緊張してきた。
一体なにが彼女をこうさせるのか、まったく検討がつかなかった。だって、そういう場面じゃないだろう。
彼女にだってまだ任務があるんじゃないのか? こんな所で見ず知らずの自分に質問なんかして、油を売っている暇はないと思う。事情聴取にしたって、まずは他のみんなから聞き出した方が効率もいいだろうし。そもそも質問って何の為に。
本当に一体、なんなんだろう。
そんな風に疑問詞ばかり浮かべたキラは、天津風の言葉に耳を傾ける。
聞くだけ聞いてみよう。


「えーと、もしかしてシン・アスカって男の子のこと、知ってますか?」


・・・・・・え?

「アナタのと同じデザインで、紅い服を着た――」
「シン・・・・・・、シンを知ってるの!?」
「――やっぱり・・・・・・じゃあアナタが、キラ・ヤマトさんなんですね!?」
「・・・・・・!!」

なんで、その名が、その二つの名前が、ここで出てくるんだ?
いきなり頭をハンマーで殴られたが如き衝撃に、キラは呆然とする。
知っているなんてものじゃない。
0084ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:47:12.04ID:5SR/j3F60
彼は自分――キラ・ヤマトが心を開いて接することができる、数少ない友人であり、かつては部下だった男だ。
黒髪と紅い瞳という妖しい風貌の、自分と何度も殺し合いをしたエースパイロット。最強の一角を担う【紅蓮の剣】。苦手なもの、好きなもの、その拘りだって熟知している。
その彼を何故君が?
彼がここに・・・・・・この世界にいるのか?
なんで?

「ぅ、あ?」

何故か急に、息苦しくなった。
左腕が、左眼が痛い。
ああ、でも、そんなことはどうでもいい。
この少女は、何を知っている?
どこまで知っている?
僕の知らないものを、彼は知っているのか?
空白の一週間。もしかしたら二週間。
僕が、彼が、あの隕石が、この世界に来た理由。それはなんだ? なにがあった?
少女の肩を掴み、問い質そうとした。
ぐにゃりと視界が歪んだ。

「あ!? ちょっと!?」
「・・・・・・っ!! ――ごめん、ちょっと目眩が・・・・・・」
「だ、大丈夫なの・・・・・・?」
「なんとか・・・・・・」

膝から崩れそうになったが、天津風に支えられて踏みとどまる。
そうでなければ今頃、地面に顔面強打していたかもしれない。

「そう、だよ。僕が、キラ・ヤマト・・・・・・。でも、なんで」
「シンが呉に運ばれてきて、キラって人のことを言ってて・・・・・・それでアナタの制服が同じデザインだったから、もしかして関係者かなって。・・・・・・まさか本人だったなんて」

少女に手伝われて、腰を下ろす。
嫌な汗が噴き出ていて、顔は真っ青になっていた。異常だ、これは。
一過性のものだったのか今はもう落ち着いたが、まさかシンの名を聞くだけでこうなるとは。奇妙な痛みに、混濁する思考と記憶。
こんなのが、今日だけで二回だ。
というか。
強い心理的ストレスに晒された人によく見られる症状ではないだろうか、これは。例えば、初めて砂漠にきた頃の自分みたいな。知らぬ間にトラウマかなにかが増えているらしく、結構久しぶりの発作だった。
え、なに? 僕シンにナニカされたの?
0085ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:49:09.15ID:5SR/j3F60
「顔色がひどいわ。待ってて、今タオルと水を持ってくるから」

天津風がそう言い残し、いずこかへと走り去っていく。その途中に声をかけたのか、入れ替わりに響達がこっちに駆け寄ってくるのが見えた。
ああ。
それにしても。

(シンがこの世界にいる。今どうしてるんだろう。はやく、会いたいな・・・・・・)

まったく、いつも自分を驚かせてくれるところは、変わっていないようだった。
そこは少し安心した。
孤独だと思っていた自分には、仲間がいたのだ。

(やらなきゃいけないことが、できたな)

この戦いを通して、キラ・ヒビキはただの『巻き込まれた者』ではいられない理由ができた。
これからも艦娘達と一緒に戦うかは別問題として、自分が立ち向かわなければならないことが三つもある。


一つ目は、あの隕石にあるであろうNJの停止、若しくは破壊。
あれがある限り、この土地はずっと電波障害に苦しめられることになる。自分達こそが解決しなきゃならないことだ。


二つ目は、そもそも自分達がここに転移してきた謎の解明。
キラがストライクに乗っていた理由含めて、C.E. で何があったか知る必要がある。調べれば元の世界に帰る手掛かりになるかもしれない。自分だけなら兎も角、シンは帰らなきゃダメだ。


そして三つ目が、昨夜に遭遇したスカイグラスパーの正体を知ることだ。
ただの他人の空似だと思う。でも、どうしても気になる。
彼ともう一度会って、確かめたい。
君はトール・ケーニヒなのかと。
確かめて、それからどうするかは、どうしたいのかは分らないが、それはなによりも大切なことだと思った。


なにはともあれ、まずは呉にいるというシンに会おう。
きっと、色々なことが解るはずだ。
そう決心したキラはとりあえず、響達に元気だよと伝えようとして、力なく右手を挙げるのだった。
彼と艦娘達の、新しい戦いが始まろうとしていた。
0086ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/08/15(火) 12:54:29.18ID:5SR/j3F60
以上です。二人乗りってロマンだと思います。
これで予定している全体の1/3まで書けました。第一章完です。
次回からはシンが物語りに絡んできて、日常描写が増えていきます。

それと縁があって、pixivのほうにも投稿することになりました。そちらの方はちょっと加筆修正したものになりますが、こちらと平行して進めたいと思います。
0087通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/08/18(金) 12:53:37.94ID:tSosec1jO
更新乙であります。
援軍到着のくだりは「エリア88」のキムとセラの救出作戦を思い出しました。
あのシーン大好きなんですよ、なので艦これ知らない私でも
情景がありありと見えて良かったです。

二人乗り…今回は余裕なかったけど次回はぜひ
余裕の状態で当たってる当ててんのよの
ニヤニヤ展開を←下衆w
0088通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/08/18(金) 20:19:05.63ID:+GduaNAt0
乙です
シンは何かしら訳知りな立ち位置なのな

>>87
相変わらず渋い趣味のお待ちで
0090ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/09/14(木) 04:31:49.22ID:DDhAtvrz0
お二方感想ありがとうございます。
自分はエリア88は未視聴ですが、ピンチからの大逆転の描写はちゃんと伝えられたようでなによりです。
二人乗りはまたいつかやりたいです。
今回は訳知りなシンのお話です。

>>89
自分は自力更新です。でも、最初は誰かに掲載して頂いてました。
そういえばそのお礼をまだ言えてなかったので、今更ですが、どなたかわかりませんが掲載してくれてありがとうございました。

今回はかなりの難産でした。ようやく書けたので投下します。
0091ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/09/14(木) 04:33:10.22ID:DDhAtvrz0
――艦これSEED 響応の星海――


「失礼しました。――・・・・・・ふぅ」
「・・・・・・どうだった?」
「・・・・・・お前、今まで待ってたのかよ?」
「悪い? だって、気になるじゃない」

11月7日の11時。
あの佐世保防衛戦から三日後、その昼下がりのこと。
無秩序にボサボサツンツンした濡羽色の髪に、妖しい光を湛えた紅の瞳が特徴的な青年、シン・アスカは眉間に皺をよせたまま固まった。呉鎮守府の執務室から恭しく退出したら、そこで天津風とバッタリ出くわしたからだ。
お互いが大なり小なりのしかめっ面。そして互いが「ああ、いつもの顔だな」と認識するだけの、一秒間の沈黙。
別に嫌悪感とかがあるわけではないが、かといって和やかに挨拶するほどの間柄ではない微妙な距離感が、二人の間にあった。大抵、二人が会う時はこの沈黙がまず先頭に来る。
そして、先に行動するのは決まって天津風だ。
腕を組んで壁にもたれかかっていたツーサイドアップの少女はツカツカと歩み寄ってきて、かと思えば青年の袖をつまんでそのまま、いずこかへと歩き始める。なんだなんだとシンはされるがまま、その後をついて行く。
出会って以来、これが二人の関係だった。

「たかだか三十分ぐらいよ、問題ないわ。・・・・・・で、どうなのよ」
「・・・・・・とりあえず、動けるのは早くて二週間後ぐらいだと。しかも最低二人は護衛つけろって」
「あら、意外と早かったのね」
「そうか?」
「そうよ」

二人の出会いは、まぁ、そう褒められたものではなかった。
不幸な事故、不幸な行き違いがあった。口論に至るほどのものではないが、ちょっと気まずい、そういった出来事。それで二人揃って尖ってて素直になれない性格なこともあり、ほんの少しの確執が今でも残っている。
とりあえず、お互いにしばらく距離を取っておこうかなーと思うぐらいの出来事があったのだ。ある人物はそれを「ありゃあ典型的なラブコメの導入編だったね。いやぁ、見事にコッテコテな」と笑いながら評したが、
当人達は至って真面目であった。
だが神の悪戯か、悪魔の罠か。
周囲の者達からは「喧嘩するほど云々」と捉えられたのか、天津風がシンのお世話係兼監視役に任命されたのだった。そこでもまた一悶着あったのだが、それもまた別のお話。
兎も角、それから少女がぐいぐい引っ張り、青年が渋々ついて行くという図式ができあがったのだった。
しかし二人はまったくもって気づいてはいない。
その距離が以前より少し、近づいていることに。

「あっちもこっちも、まだゴタゴタしてるもの。それを二週間で、しかも少人数の護衛だけでなんとかしてくれるって、相当便宜を図ってくれてるじゃないの」
「俺一人で行けばいいじゃないか。アイツも俺に会いたがってるっていうし」
0092ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/09/14(木) 04:35:03.92ID:DDhAtvrz0
「必要なのよ。自覚ないんでしょうけど、アナタはVIPなんだから」
「VIPね」
「だから私はこうして戻ってきたんだし、ちょっとぐらいの不自由は我慢なさいな」
「やっぱりお前も付いてくるのか? 佐世保行き」

佐世保行き。
つまり、シンがキラに会いに行くにはどうすればいいのか、というのがこの話題の焦点だった。
事の発端は、昨日の夕方に呉に帰還した艦娘達からの報告。
異世界人であるシン・アスカの知り合いのキラ・ヤマトが佐世保にいたというビッグニュースを、当の天津風が持ち帰ってきたのだ。「聞いていた話とちょっと相貌が異なっていた」らしいが、とにかく五体満足で生存し、
どころか艦娘達と一緒になって戦っていたのだという。
俄には信じがたいことだったが、寧ろ自分の耳を疑ったが、これにはシンは素直に喜んだ。
自分のやったことは無駄じゃなかったと、密かに瞳を潤ませもした。
そこで、こりゃ早く会わねばとシンが呉の提督に直談判したのが、つい今さっきのことだったのだ。

「当然でしょ。なによ、文句あるの?」
「ないって。むしろ、こうなったらトコトン頼らせてもらう」
「ふ、ふん・・・・・・!」

件の防衛戦に参加した呉の艦娘は12人。その内の天津風含む5人は予定通りに昨日帰還して、残り7人は臨時防衛隊として佐世保鎮守府に長期滞在することになっている。
これは鹿屋も同様だ。流石にこのご時世に12人もの戦力を長期間他に回すほどの余裕はなく、けれど助けるだけ助けて後はほったらかしというのも有り得ないので、これが最大の譲歩案だった。
呉と鹿屋からの7人と、佐世保復帰組だけでも、体勢が整うまでの専守防衛なら事足りるであろうという計算だ。
その出向防衛組の滞在期間は二週間。
つまり、そいつらが帰って来るまでは、シンの佐世保行きはお預けということになる。
深海棲艦との戦争は若干人類側が優勢とはいえ、やはり戦力はカツカツなのだ。
異世界人とはいえシン一人の為に呉の戦力は減らせない。佐世保で一戦力となっているキラが動くなんてことも論外。それが佐世保と呉の提督が有線通信を用いて協議した末の、結論だった。
二週間。
短いようで長いなと、シンは溜息をつく。

「・・・・・・なぁ。そういえばさっきから、どこに向かってるんだ? 俺、メシ食いたいンだけど」

ところで、天津風はこれから何処かへ出かけるのか、白いロングワンピースに黒のカーディガンを羽織った私服姿だった。縁起の良い紅白カラーのマフラーを腕にひっかけて、どこかお嬢様然とした出で立ちだ。
こうなると本当にただの綺麗な女の子といったものだが、勿論彼女は立派な艦娘である。
艤装を解除して、艦娘としての超常的能力の大半を封印した非戦闘モードの彼女――因みに、艦娘としては艤装を装備している状態こそが自然体である――だが、それでも通常の人間とは比べものにならない身体能力を備え
ている。遺伝子調整を施して生まれたコーディネイターでありザフトのトップエリートだったシンだが、所詮は普通の人間、彼女に袖を掴まれては振り解くことは出来なかった。もとよりする気はないが。
しかしだからといって、このままでいいわけもなく。
0093ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/09/14(木) 04:37:05.77ID:DDhAtvrz0
代わりにシンは抗議の声を上げる。ついでに腹の虫も声を上げた。
そろそろ空腹も限界で、提督と話し終わったし食堂に行こうと思ったところで少女に捕まったのだ。いい加減解放して欲しい。食事は何よりの癒やしなのである。
それをなんの権利があって、この小娘は邪魔するのか。
方向からして食堂とは正反対の、エントランスのようだが。お出かけするなら勝手にどうぞ。

「それね、残念だけど今日は食堂やってないのよ」
「は?」
「ちょっとしたトラブルがあってね。復旧は明日の昼頃って」
「マジ? ・・・・・・え、マジで? 売店は・・・・・・てか、それでもなんかあるだろ? 賄いのとか」
「マジよ。酒保とかも今から行っても間に合わないわ。軽食争奪戦は私達の不戦敗ね」
「なんだよ、それ・・・・・・!?」

待ってほしい。
なんの冗談だ、それは。
シンの顔が絶望一色に染まる。
この呉にやって来てからというものの、食事は全てここの食堂でお世話になっていたのだ。今までずっと外出を許可されなかった――というか、実質軟禁状態のシンにとって、食堂のタダ飯は命綱である。
もはや世界の全てと言っても過言ではない。
それで、そもそも異世界人であるが故に無一文なので利用したことはないが、酒保もダメと。サンドイッチとかも全滅と。
え? 三食抜き? そりゃその気になれば耐えられるけどさ、飢えちゃうよ俺? 
となれば、それはつまり世界の終わりではなかろうか。
いやまてはやまるな。
冷静に考えればここは軍の施設、こういう事態を想定してカップメンや缶詰といった備蓄はあるだろうが、天津風曰くそういったものは出撃した艦娘に優先的に回されるらしい。
今日明日の食事は各個人でなんとかしないといけないと。
ならば、どうする? 繰り返すがシンは無一文だ。一応VIPらしいがその身分は一体如何程のものだろうと、彼は頭を捻る。上の連中はちゃんと考えてくれてるのだろうか? 正直、怪しいところだが・・・・・・上の連中、うえ、うえか・・・・・・
俄に腹の虫が、なんか食わせろと大合唱し始める。「飢え」という一文字で一杯になった頭は上手く回らなくなる。どうすればいいのか皆目見当もつかなくなった。
なんにせよ、今すぐ何かを腹に詰め込まなきゃどうにもならない。もう待ってなどいられなかった。
そんな哀れな男を助けるのは、やはりお世話係兼監視役の少女、天津風。

「だから外食するわよ。ついでに服も買わないとね。外出許可は取ってあげたから、折角だし街も案内したげる・・・・・・私の奢りよ、感謝なさい?」
「・・・・・・誠にアリガトーございます天津風サマ」
「よろしい♪」

こうしてシン・アスカは、初めて呉の街に繰り出すことになったのだった。
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2017/09/14(木) 04:39:34.29ID:DDhAtvrz0
《第7話:紅き瞳を導きし、新たなる風》



どうやら保護者と一緒なら外出許可が下りるらしい。
エントランスで待ち合わせしていたらしいもう一人の少女と合流した天津風一行は、まず服屋に立ち寄った。
買い求めるはシンの私服である。
なにせ今の彼は、全身真っ赤なザフト赤服一着しか持っていないのだ。厳密に言えばパイロットスーツもあるのだが、アレは服としてはカウントしないだろう。
一応、提督から譲ってもらった部屋着と作業着もあることにはあるが、それも借り物なうえに外出には適さない。いい加減に自前の服を揃える必要があった。なにせ赤服は目立つ。この世界ではどう控えめに見ても、何かのコスプレのようだった。
鎮守府の門から出てきた青年は、当然とばかりに世間の皆様の視線を一身に集めることと相成った。
こう言ってはなんだが、艦娘の戦闘用ユニフォームもなかなか奇抜で特異で非現実的というかソレ着てて恥ずかしくないのと疑問に思うものばかりなのだが、ぶっちゃけそれと同レベルなのだ、赤服は。
当の艦娘達はもうそんな奇異の目には慣れたし気にしない――こればかりはどうしようもないらしい。
是も非もなく、生まれた時からその服とセットだったのだ――が、今や世間では「浮き世離れした格好=艦娘」という誤解極まる図式が成り立っている。
そんじょそこらのアニメ漫画より、艦娘のほうが影響力のある世の中である。人類の希望だからね、仕方ないね。普通に学生服や和服な娘も多いんですけどね。
まぁそんなわけで、今のシンは年甲斐なく艦娘っぽいコスプレしてる残念なイケメンとして見られているのだ!
せめて誰かにコートか何かを借りるべきだった。
C.E. ではトップエリートの証だった赤服がそのように見られるというまさかの屈辱にシンの頭は沸騰寸前になるが、そこは旧ザフトが誇るスーパーエース、なけなしの自制心でぐっと堪えた。
うん。これ、なんて羞恥プレイ?

「くそぅ・・・・・・いつか見返してやる」
「誰によ」
「さぁ?」

そんなわけで、シンは普通の服を手に入れた。
嗚呼、素晴らしきかな普通。普通であることの幸福感は、きっとかけがえのないものだろう。
黒のジャケットに臙脂のシャツ、これにジーンズとブーツとでカジュアルコーディネイトされたコーディネイターは、どこからどう見ても立派な一般人である。
その他にも赤系統の服を数着入手して、部屋着共々だいぶ選択肢が増えた。しかも結構格安で。なんでも艦娘なら割引されるらしい。というか、艦娘達の給料ってどうなってるんだろう。
なにはともあれ。
これで、第一目標は達成された。

「シンさーん。これなんかどうでしょう?」
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2017/09/14(木) 04:41:04.34ID:DDhAtvrz0
「マフラーか。確かに・・・・・・サンキューなプリンツ」
「Gern geschehen! シンさんって何でも似合いますね。コーディネイトし甲斐がありますよー」

された、の、だが。
おさげにした黄金色の髪と、翡翠色の瞳を持つ少女、プリンツ・オイゲンが嬉々として次々と新しい服を持ってき始めた。フリルいっぱいのミニスカートをひらひらさせて、あれよこれよと店内を忙しく巡る。
なにやら乙女心に火がついたらしい。
彼女はドイツ生まれドイツ育ちのアドミラル・ヒッパー級三番艦重巡洋艦の艦娘。約三年前に日本国に出向してきて、天津風と同じ支援部隊に配属、その縁で彼女らはよく一緒にショッピングしたりするとか。
余談だが、呉鎮守府は彼女のような海外からの出向艦を多数受け入れており、多国籍艦隊を中心に運用している世界でも珍しい存在なんだとか。佐世保に臨時防衛隊として向かったドイツ出身のビスマルクや
グラーフ・ツェッペリン、イタリア出身のザラとポーラはその一角だ。他にもイギリスやアメリカから来ている者もいるという。
西太平洋戦線は世界中から重要視されており、呉はその前線基地として機能している為、海外からも精鋭が送り込まれてくるという理屈だ。
さて。
そんな精鋭の一人であるプリンツとシンは今回初めて会話することになったのだが、実は、彼女は彼のしかめっ面を恐れていた一人だったりする。
鬼の形相とまではいかないが、かつて「独りでにすっ飛ぶ抜き身のナイフ」とまで囁かれた青年の眼光は、多少丸くなったとはいえ少女達をビビらすには充分過ぎるものだった。
尤も、悩み多き青年が突如置かれた異世界の、軟禁同然の生活環境で「リラックスして肩の力を抜きなさい」というほうが無茶なので、ずっとしかめっ面であったのは仕方のないことなのだが。
つまるところ、この世界の人間からしたらシンは「異世界の軍人で、巨大なロボットに乗って人間同士の戦争を生業としてきた目つきの悪い青年」といった感じに映るわけで。
そりゃ誰だってビビる。たとえ大の大人であっても、歴戦の艦娘であっても。誰も彼もがシンを遠巻きに眺めるだけだった。
実際、さっきエントランスでよろしくと声を掛けられた彼女は、それはそれはわかりやすくビクゥッと身体を硬直させたものだ。内心ただならぬショックを受けたシンであったが、天津風が仲介することでなんとか
挨拶を済ませることができた。
そこまで来ればもう一息。彼は人付き合いが苦手なタイプではない。
初めての外出でリラックスできたことも大きいのだろう。移動しながら会話を重ねるにつれて「なんだ顔が怖いだけでなかなかフランクな人じゃないの」と誤解を解くことに成功し、
ついで「笑った顔は意外と可愛い」という心外な評価を得たシンは、なんとかプリンツの信頼を勝ち取るまでに至ったのだった。

「このしかめっ面さえなければねぇ」
「そうですよ。とても整った顔立ちしてるんですから、笑わなきゃ損ですって」
「そ、そうか・・・・・・?」
「あっ、天津風! これも良いかも! ・・・・・・ほぉ、ほぉほぉ、なるほどねぇー」
「プリンツ。これもイケると思わない? いい風きてるわ、この組み合わせは試す価値ありそうね」
「・・・・・・なぁ二人とも。いい加減・・・・・・」
0097ミート ◆ylCNb/NVSE
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2017/09/14(木) 04:43:51.74ID:DDhAtvrz0
天津風とプリンツ・オイゲン。
それなりにシンと仲良くなった二人の情熱は、よりヒートアップしていく。
女の子と一緒の買い物である。目的は済ませたからハイじゃあ次、とはいかないのだ。こういう時、男の立場は限りなく低い。
彼女らに「ちょっとだけ」と着せ替え人形にされるのは、もはや必然でさえあった。最初こそ悪い気はしなかったものの、流石に半時間もマネキン代わりにされると・・・・・・
とっかえひっかえ。シンはこれ以上ないぐらいに早着替えを要求された。
加速度的に、その両腕に紙袋がぶら下げられていく。男モノだけでこれだ、女モノのコーナーに行ったらどうなるんだろう。
シンは額に嫌な汗を流しつつ、同時にある懸念を抱いた。
さて、彼女達は覚えているだろうか、と。
この外出の主役はランチであるということを。
そろそろ、いやマジで、限界なんだけど。目が回り始めてきたんだけど。
まさかこのショッピングだけで、あと何十分も続くなんてことは・・・・・・
お二方、楽しむのも結構ですがね?

「・・・・・・あ」
「〜〜ッ!」
「そ、そろそろ行きましょうか?」
「そ、そうですね! お腹すきましたし!」

だが安心してほしい。
「それ」はなにも、シンだけの問題ではなかったようだ。
きゅるる〜、という可愛らしい音が、三人の腹から同時に発せられる。結構、店内に派手に響いた。主観的に。
それを合図に、三人はそそくさと服屋を後にしたのだった。
0099ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/09/14(木) 04:47:02.89ID:DDhAtvrz0




「お待たせ致しました。かずきカレーセットと、あきらカレーセット、みなしろシチューセットです。ごゆっくりどうぞ」
「おお、きたきた」

天津風が「かずきカレー」、プリンツが「あきらカレー」、そしてシンが「みなしろシチュー」だ。これに「かずきサラダ」と「みかどケーキ」が人数分。なかなかに素敵なランチが頂けそうだった。
喫茶・シャングリラ。
海辺に面したアットホームな雰囲気の店で、メニューには作った人の名前がつくというちょっと不思議なルールがある。
また、店内には何故か大きなカジキの置物があって、それらが普通の喫茶店とは一味違う独特な空気感を醸し出していた。なんでも、呉の艦娘達に人気な店なんだとか。
甘ったるい声のウェイトレスさんが下がると、三人は待ってましたと匙を握った。

「いただきます」

声を揃えて、大ぶりなスプーンで一口。

「! ・・・・・・これは、美味い」
「でしょでしょ! 今日のあきらカレーは辛口南国風みたいだけど、これもおいしー! Lecker!!」
「かずきカレーは――うん、シンプルにビーフカレーね。やっぱり流石、マスターは」
「え、なに。同じ名前で違うことあるのかよ?」
「それがお楽しみなのよ。前のかずきは甘口チキンカレー。それでいて全部美味しいんだから」

なんとまぁ、本当に独特な喫茶店のようだ。よっぽどの腕と自信が無ければこうはいかない。
シンが頼んだシチューもこれまた絶品で、苦手な貝柱とキノコが入っていたのだがペロリと平らげることができた。小娘達の手前、勇気を出して食べてみて良かったと心から思うシンであった。
こんなに美味いものを食べたのは久しぶりだ。
そうして、それぞれメインを堪能して、ケーキに舌鼓を打って。

「はいこれ、サービス。いつも来てくれるから・・・・・・好きだろ?」
「あ、マスター・・・・・・ありがとうございます。いただきます」
「メロン味! Danke、マスターさん♪」
「・・・・・・ども」

途中、マスターが飴玉をプレゼントしてくれたり、

「彼氏さん?」
「違います」
0100ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/09/14(木) 04:49:07.48ID:DDhAtvrz0
「即答かよ。いいけどさ」
「そうなの? おかしーなぁ」

ウェイトレスさんにからかわれたり、

「先輩大変です! 一航戦が・・・・・・一航戦が呉駅から接近中って!」
「なんだと!? バカな、早過ぎる!」
「ヴァッフェ・ラーデン(第一種警戒態勢)始動! 翔子、カレー増産急げ!!」
「わざわざ横須賀から・・・・・・!? こうしちゃいられないわ。プリンツ、シン、手伝うわよ!!」
「りょ、了解!」
「え、俺も!?」

なんか襲来してくるらしい計二名の団体様をもてなす為に、何故か厨房に立つことになったりもしたが・・・・・・意外と喫茶店で働くのもアリかもしれないとシンは密かに思う。うん、C.E. に帰れたら軍なんか辞めてやろう。
まぁ、なんか色々あった。

「ごちそうさまでしたー」
「あの二人は一体なんだったんだ・・・・・・」
「ただのフードファイターよ。気にしないで、私は気にしない。・・・・・・じゃあ、次にいくとしますか」

そんなこんなで満腹になって喫茶店を出た三人は、天津風が言っていた通りに呉の街を観光することになった。
二人の少女に引っ張られ、やれやれとついて行く青年の顔からは、いつの間にか皺は無くなっていた。
まだまだお昼時。すっきり晴れ渡った高い空の下、活気溢れる町並みをのんびりと征く。
ショッピングモールに突入して、女モノの服を物色して。
本屋に入って、世界情勢に関する雑誌や漫画本を買って。
ゲームセンターに行って、プリンツがジャンル問わず無双を誇って。
屋台で購入したクレープで、危うく間接キスしそうになって天津風が慌てて。
そこらの少年少女の青春模様と同じような休日を満喫する。
いつしか三人で、一緒になって笑い合って。
そうした行為のなにもかもが、シンにとっては初めての体験だった。

(ルナと一緒にこうして街を歩くことも、なかったっけな)


その体験は、否が応にも青年の過去を刺激する。


思えば。
シン・アスカという男は、いつも閉じた世界にいた。
あの運命の日、14歳の初夏。天涯孤独の身となったオーブ解放作戦まではずっと家族に、妹にべったりだった。
勿論クラスメイトと遊んだりはしたが、それも男友達とスポーツをするかゲームをするかといった感じで。あの時は家族の存在こそが世界の全てで、それ以外はいらないとさえ思っていた。
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