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0001通常の名無しさんの3倍垢版2017/07/11(火) 22:59:05.15ID:2NKWfveH0
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。

現在当板の常駐荒らし「モリーゾ」の粘着被害に遭っております。
テンプレ無視や偽スレ立て、自演による自賛行為、職人さんのなりすまし、投下作を恣意的に改ざん、
外部作のコピペ、無関係なレスなど、更なる迷惑行為が続いております。

よって職人氏には荒らしのなりすまし回避のため、コテ及びトリップをつけることをお勧めします。
(成りすました場合 本物は コテ◆トリップ であるのが コテ◇トリップとなり一目瞭然です)

SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
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新人スレアップローダー
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Rock54: Caution(BBR-MD5:669e095291445c5e5f700f06dfd84fd2)
0053ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/04(金) 10:46:14.81ID:i6ZXHV0D0
黒島にはまだ一度も発砲していない大規模戦車隊が潜んでいる。もしもの為に温存していた切り札だ。そこに集った第二艦隊と第三艦隊との総火力をもって敵を釘付けにできれば、第一艦隊は離脱できるかもしれない。
まずは、そこまでたどり着けるかだ。

「左舷、タ級が・・・・・・きゃあ!?」
「損害報告!」
「――つぅ、翔鶴、中破! 飛行甲板は無事!! まだまだ戦えます!」
「にゃぁ。多摩も中破しちゃったにゃ・・・・・・」
「! 4時方向、敵艦載機接近! 数35!!」

黒島まであと9マイル。
第一艦隊は現在、左右と後方からの猛攻に晒されており、18ノットで蛇行していた。
黒島のみんなの射程圏内までは、早くてもあと20分強といったところか。前方の敵は榛名達が片付けてくれたので進路を塞がれる心配はないが、少しでも速度が鈍れば再び包囲される。
金剛達は敵が構成する巨大な円、その淵にいるのだ。
敵は馬鹿でも雑魚でもない。そうなれば5分も保たず壊滅させられる、絶体絶命の大ピンチだ。
だからこそ、榛名は響とキラを援軍として送ってくれたのだ。榛名達だってこの二人を重宝していただろうに。
ここで応えてこそ、姉というものだろう。

「翔鶴はタ級を黙らせて! 多摩は右舷艦載機を迎撃、ヲ級とル級はワタシが料理しマース!」
「流星、発艦始め!!」
「にゃー!!」

金剛が一番・二番砲塔から対空榴散弾を放ち、同時に三番・四番砲塔からの徹甲弾で確実に敵を屠っていく。
その傍らで翔鶴が矢継ぎ早に艦載機を放ち、多摩が対空砲で群がる艦載機を蹴散らした。これ以上はやらせないと気合いを入れ直した彼女達は、持てる火力全てで弾幕を張った。
目的は殲滅ではなく離脱だ。なるべく敵が近づけないよう砲撃を続ける必要がある。だが、いくら長距離砲で攻撃していたって、それを潜り抜けて近づいてくる奴はいる。
こういう時に頼りになる艦種が駆逐艦だった。
敵の注意もまた、此方の戦艦と空母に集中するからこそ、駆逐艦は随伴艦としての機能を求められる。

「ロ級、撃破したわ! 次行くわよ!」
「雷ちゃん! 後ろ!」
「ぐ、ぅッ!? この、よくもぉ!!」

響、雷、電の三人とキラは、縦横無尽に動き回って押し込まんとやってくる追撃部隊を迎撃していた。
駆逐艦は高速力・低火力・短射程が特徴の艦種だ。敵の死角をついて近接砲撃戦を仕掛けられる夜戦と異なり、視界が開けて艦載機と砲弾の飛び交う昼戦では直接の戦力にはならない。
夜の空母とは対称的に、昼の駆逐艦は非力だ。
だがそれは決して、無力であるということではなく、むしろその小回りの良さを活かした迎撃任務にこそ真価を発揮する。この状況下で駆逐艦が増強されたのは喜ばしいことだった。
0054ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/04(金) 10:48:06.07ID:i6ZXHV0D0
そしてお揃いの制服、お揃いの艤装が特徴の特三型駆逐艦――またの名を暁型四姉妹の三人は、まとめ役の長女たる暁が不在だとしてもきっちり護衛を全うできる練度の持ち主だった。
周囲に多数の水柱が並び立つなかでも果敢に前進する、栗色の髪と瓜二つの風貌をもつ三女と四女。あまりに似ているのでよく間違えられる雷と電は、片や豪快に、片や慎重に砲雷撃戦を続行する。

「雷!? ――くそっ、二人は下がって! キラ、私達でリ級を墜とす!!」
「ッ、わかった・・・・・・!」

だが、流石に分が悪い。
キラ達が加わって10分が過ぎた頃、電と雷が立て続けに被弾した。
二人の艤装の一部が砕け、戦力は大幅に低下する。


そして響が、普段の冷静な戦い方から一変して、弾けたように近接格闘戦に傾倒するようになった。


突撃癖どころではない。まるで特攻でもするかのように加速する少女は、誰が見ても明らかに暴走していた。
鬼気迫る、けどまるで地獄の淵を覗いたかのような恐怖に彩られた、青ざめた表情で次々と深海棲艦を薙ぎ倒していく。こんな表情に、キラは見覚えがあった。本当に心が氷になってしまったかのような、遠い記憶のそれ。
そうなっては誰も止められないことは、誰よりも知っていた。
できることは、彼女が自滅しないよう支えることのみ。

「あ、ちょっと!? もう、二人だけで突っ込むなんて・・・・・・! 電、合わせて!!」
「雷ちゃん大丈夫ですか!?」
「人のこと言えないでしょ! かすり傷よこんなの! とにかく、二人を援護するわ。魚雷用意!」
「――装填完了! 撃つのです!!」

キラが、せめてとばかりに前に出る。
今朝、あんた防御以外は駆逐級相当だよと告げられた時にはものすっごく微妙そうな顔をした青年は今、命の危機を肌で感じていた。
異世界のスーパーロボット引っさげてきた助っ人が駆逐艦レベルだったというのは、誰にとってもショックな話だったが、それを差し引いてもこの戦場はヤバい。
仮にフリーダムを使っても、無事に切り抜けられる自信はないと思わせる程、切羽詰まった戦況。
なればこそ自分が前に出ないでどうするのだと、キラはあえて水上をホバリングして響の前に踊り出る。

「響! 僕の後ろに!!」

シールドを構えた。
前方で幾つもの炎が迸る。
衝撃。
崩壊寸前のシールドがたわむ。だが構わず、キラは加速して弾幕の中を突き進む。その先には、重巡リ級1、軽巡ト級5、軽巡ホ級3、駆逐ロ級4がいた。正直、駆逐級のみで挑むには自殺行為な戦力差だ。
0055通常の名無しさんの3倍垢版2017/08/04(金) 10:50:34.47ID:Xf3LfEdu0
規制回避
0056ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/04(金) 10:51:15.32ID:i6ZXHV0D0
特にリ級はよりによって、赤々とした瘴気を纏った高ランクの個体たる【Elite】タイプ。生半可な攻撃じゃ墜とせないし、逆に相手は此方を墜とすには充分な火力を持っている。距離をとっては戦えない。
ならどうするか?
無理を承知で突っ込むしかない。あたかも夜戦のように、けれども砲弾飛び交う戦場を一直線に。
他の雑魚は無視して、二人は最優先目標の重巡リ級を目指す。アイツを放置させてはいけない。
しかし敵はリ級を守るように群がってくる。

「そこを、どけぇぇええええええ!」
「僕が先に仕掛ける! 連携で!!」

ビームライフルで牽制射撃をするキラの後ろについた響が、10cm連装高角砲を用いた狙撃を行う。
その砲弾はしつこく接近しようとしてくる駆逐級と軽巡級群を縫止めるように命中する。直後、先行する二人を追い越して疾る魚雷が、深海棲艦の鼻っ柱にぶち当たり派手に爆発した。雷と電が射出した61cm酸素魚雷だ。
計16発の魚雷と援護射撃、更に飛来した翔鶴の艦載機の助力もあって敵は次々と沈んでいく。
残るは軽巡ト級3とリ級1。たった4隻。
そんな深海棲艦達を目前に、少女の盾になるように先頭を征く青年は勇ましく叫びながらも、内心、いきなり膨らんでいく恐怖を押さえつけようと必死になった。
重巡リ級。
両腕に黒い盾みたいな金属パーツをつけている、真っ白い肌の女性型深海棲艦だ。キラが初めてこの世界に目覚めた夜に、自分を瀕死にしてくれたヤツである。その姿が徐々に近づくにつれ、嫌な汗が噴き出てきた。
キラが戦場に出てから、もう14時間が経っている。ストライクの出力不足を補う為に、もう数えるのも馬鹿らしいほど深海棲艦と格闘戦を演じてきたが、それでもリ級を目にすると死の恐怖が心臓を鷲掴みにしてくる。
装甲越しのモビルスーツ戦とは根本的に異なる、直接的な痛みと殺意の経験に、これ以上は進むなと身体が警鐘を鳴らす。

(でも、それでも)

異世界の戦いに介入した以上、ここで退くことはできない。彼女達を背にして退くことはできない。
なにより、経過や詳細は不明だが、この戦いにNジャマ−とモビルスーツが関与しているのなら。その転移に『巻き込まれた者』としては放ってはおけない。
意識を研ぎ澄ませ。集中しろ。
今の自分には力がある。

「ストライクでだって!!」

ようやく有効射程に入ったライフルを連射する。低出力短射程設定のその威力は貧弱で、駆逐艦の主力である12cm砲と同程度でありながら、射程はもっと悲惨だ。正直単純な砲撃戦じゃ役に立たない。
だからこれは布石。
エネルギー不足の荷電粒子ビームは、派手なくせしてリ級を貫けない。確実に有効打は与えている筈だが、ヤツは高をくくって被弾を気にせずまっすぐ直進してくる。それでいい。
キラは、おもむろにライフルを上へと放り投げてスロットル全開、エールストライカーの推力最大で一気に距離を詰めた。同時に響が横にステップして、全火力をリ級とト級にぶつける。
0057ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/04(金) 10:53:06.19ID:i6ZXHV0D0
虚を突かれたト級はまともに喰らって中破。リ級は慌てて両腕の盾を掲げてガードするが、直後その二つの盾の縁にそれぞれ、ガツリと金属製の刃が食い込む。
ストライクの予備兵装、超高硬度金属製の折り畳み式戦闘ナイフ・アーマーシュナイダーだ。力任せに振り抜かれた二振りのナイフによって強引にガードをこじ開けられた胴体に、間を置かず響の錨が直撃する。
たまらずよろけるリ級。
しかし敵もさる者、体勢を崩しながらも、右腕の砲塔をピタリとキラの顔面に合わせてきた。
砲口から光が溢れる。
そう知覚したキラは流石の反射神経を発揮して、無意識に、咄嗟に、シールドを掲げた。


硬質なナニかが、砕け折れる音が、響いた。


「・・・・・・ぁ――」


――おい、しっかりしろよ! おいッ!?
――ふざけんなよ! なんでこんな!!
――駄目だ、このままじゃ・・・・・・! 誰かいないのか!?
――くそぉッ!! おい諦めんな!? 俺がアンタを――


「――が、ァあああああああ!!!!????」

キラの左腕が、あらぬ方向に折れ曲がった。
遂にシールドが粉々になり、同時にストライクの左腕フレームが限界を迎えた。元々かなりの負荷が溜まっていたのだ。それがリ級の砲撃で一線を越えて、キラ自身の腕がひしゃげ折れるというカタチでフィードバックした。
全身を引き裂くような激痛が遅れてきた。己の意志とは関係なく、掠れた絶叫が喉から絞り出される。
けど、それでも青年の意識は、たった今過ぎった記憶とおぼしき「声」のみに向いていた。

(なん、だ、今の。誰の声? 僕に向けた? わからない・・・・・・何があった?)

よく知ってる筈の声だった。
けどそれが誰のものだったか、どんな状況下だったのかまったく解らなかった。
一瞬のことで、内容も不明瞭だ。声音も、こうなっては男か女かすらも判断がつかない。
そんな記憶が突然、脳裏で再生された。青年はただ戸惑うばかりだ。
わからない。
わからない。
どうしてこんなことになっているんだろう。
意識が痺れる。
そうだ。どうしようもない何かが、あった。その時、僕は。
もう少しで何かが思い出せそうだった。
0058ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/04(金) 10:55:08.63ID:i6ZXHV0D0
だが、そのまともな思考にすらなっていない徒然とした感慨は、少女が発した現実の声によって断ち切られた。

「キラッ!?」
「ぅ・・・・・・あ、あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

意識が覚醒する。
そうだ、呆けている場合じゃない、敵は目の前にいる!
キラは背中のスラスターを全力で噴かし、且つ神懸かったコントロールで、仰け反り海面に倒れ込もうとしていた身体を跳ね上げる。
間を置かず、抜き打ちのサーベル一閃。
荷電粒子の刃、その切っ先がリ級を真っ二つに灼き裂いた。
撃破。
けどまだ、終わりじゃない。
キラは落ちてきたライフルをキャッチして、すかさず此方に駆け寄ろうとしていた傷だらけの響の背後、まだ息があったト級にトドメを刺す。
それでやっと、終わり。
それは丁度、駆けつけてきた第二艦隊と第三艦隊の砲撃が、第一艦隊を取り囲んだ深海棲艦を一掃したのと同タイミングの出来事だった。


第一艦隊は危機を脱し、黒島に辿り着いた。響とキラの獅子奮迅の働きで、負傷者多数なものの死者は無し。
全員生きて再会することができた。
二人は命綱としての役割を全うした。
0059ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/04(金) 11:00:33.70ID:i6ZXHV0D0
しかし、それ以上戦う力は残されていなかった。
戦闘継続が可能な者は、全艦隊合わせてもたったの6人。
その全員が多かれ少なかれ負傷している有様だ。ハッキリ言って、この戦力であと2時間も防衛するのは不可能だ。敵はどんどん南西からなだれ込んでくる。その中には【Titan】もいた。
二階堂提督は30隻の無人装甲船を出撃させたが、それもすぐに鉄屑になってしまうだろう。使われなくなった漁船等を流用して製造される、重巡クラスの防御力を備える艦娘支援用の自走式遮蔽物は、攻撃能力を持たない。
打つ手がない。
戦力が足りない。
八方ふさがりだ。


これまでか。


佐世保を諦める、そんな選択肢が頭を過ぎった時だった。


トリコロールに彩られた鋼鉄の巨人が一機、黒島から藍色の空へと飛翔した。
その名は【GAT-X105 ストライク】。
隻腕の機体が、単身、深海棲艦の群れへと飛び込んだ。



以上です。
ところで今更ですけど、読んでて分りにくい表現や意味不明の説明とかあったら是非とも教えてください
ちなみに戦術や戦略、兵器のスペック等は素人の付け焼き刃なのでそこはご容赦を・・・
贅沢ですけど、自分も他の方々同様に感想とかめちゃくちゃ欲しいです(自分が率先して書き込めと言われたらぐぅの音も出ませんが)
とりあえず自分は皆様のを楽しく読ませていただいてます。
0060彰悟 ◆9uHsbl4eHU 垢版2017/08/06(日) 21:59:12.10ID:0Ouk0LiA0
>>41
貴重なアドバイスありがとうございます!
確かにそうですよね...印象の強さや読みやすさを考慮した書き方にしていこうと思います。
教えて頂いた通りに書いたら自分でも見やすくて目が疲れなかったですw
自分のイメージについても、もっとはっきりさせて表現していきたいです。



皇女の戦い 
第六話

「本当にここまで来てくださいました!」「信じてましたよ。流石皇女だ。」

数人の技術者達が口々にマリナを誉めそやす。
その内二人は皇女の到着前に焦りによって言葉を荒げていたが、それは彼らの立場からすれば自然なことと言えるのだが......
マリナも相手が半ば無理をして話しているのを察知してか控え目に微笑んで首を横に振る。
尤も頬は赤らめていたが...

「とにかく今日は休みなさい。明日の午後からだもの。響いたら事だわ。」
「そうね。明日からだから...」

肩に手を置くシーリンに頷き会釈をするとホテルの個室に向かうマリナ。
朝何者かに襲われたのでボディガード達が二人同行してくれた。

彼らにお礼を言って別れてから入った室内は自分の王宮とは違う、西洋風の部屋だった。
イギリスなのだから当然と言えば当然なのだが、中東の伝統的な宮に住むマリナにとっては新鮮だ。

(......あんなに多くの機体が......それに今朝襲ってきた機体......あんなことをする相手は...?)

すぐにベッドに入ると今日一日の自分を取り巻く光景が頭を駆け巡る。
―――最も心に引っかかるのはあの奇襲してきた三体、特に一番好戦的なダークグレーのMSに搭乗していたパイロット...
今までは例え苦戦しても純粋なファイトのみだったが、今回は不測の事態。
動揺しつつもシーリンの言葉が頭を過ぎり―――シーツを握り静かに目を閉じた。

(...だめ。こんなことに囚われていたら全てが水の泡になってしまう...
誰にも邪魔はさせないわ...!)
0062彰悟 ◆9uHsbl4eHU 垢版2017/08/06(日) 22:03:37.86ID:0Ouk0LiA0
翌日――
大会の為に暫定的に設けられた施設にマリナとシーリン、スタッフ達がいた。

「マリナ様、いつも通りに戦って下さいね。勝利するにはそれしかありませんから。」
「ええ、ありがとう...肩の力を抜いていくわ。」
「...それに、強張って負けることも許されないわ。マリナ。」

シーリンの真摯な表情に重く頷くマリナ。

「そうよね。私達の未来がかかっているもの。」

ユディータを見上げるとともにタラップで登っていく。
機体内部の彼女は白い正装の服、紺色のスカート、下着を丁寧かつ素早く脱ぐとそれらは一時的に粒子に変換され消えていく。
膝を着き両手を握りしめて切実に祈るマリナ。すぐに頭上から降りてくるスーツを身に纏い力強く立つ。
胴体は水色、肩と股は薄い水色、四肢と臀部は純白だった。


会場はやはり、張り裂けんばかりの歓声で色めき立っていた。

「みなさん、記念すべき今回のファイト最初の日です!この目に焼き付けようではありませんか!」

実況を兼ねている司会者の隣にはイギリス代表にして前回優勝者がいた。
ジャスパー・ディアス。筋骨隆々とした体躯に物静かな表情を浮かべた30代半ばの男だ。

「さて、栄えある最初のファイトは中東のアザディスタン代表・マリナ・イスマイール選手!
何と皇女でありつつファイトに躍り出た異端と言うべきファイターです!
その清楚な姿に秘められた力、しかと見せて頂きましょう!」

「対するはサモア代表!マロシ・デスタン選手!正統派のファイターとも言うべきパワータイプの巨漢!」

マリナと正反対の位置にはいかり肩の青い機体、ガンダムグラスプとそれを駆るデスタン。
彼はどこかゴツゴツとした輪郭に荒くれ者の眼が印象的な大男だった。
スーツの色は紺色。ややずんぐりとしているがファイターだけあって鍛えられている。
本来ならマリナよりもこのような人物が国の代表になるのが普通だが...
0063彰悟 ◆9uHsbl4eHU 垢版2017/08/06(日) 22:14:48.63ID:0Ouk0LiA0
「あの姉ちゃんに似て細っこい機体だな......どこまで戦えんだか...
精々可愛がってやるぜ!」

自分の平手に拳をぶつけるデスタン。
彼は格闘家でありながら、暴力的な嗜好も持ち合わせている男。
会場の巨大モニターに映る線の細いマリナの写真は嗜虐心を煽るには十分だった。

「正にこの闘いの為に生まれてきたような男です!
その剛腕で相手をねじ伏せるのか!それともマリナ選手の勝利か!
それでは―――ガンダムファイトレディーゴー!」

ゴングと共に二体は近づいていく。
しかし、敢えてマリナは腰を少し低くしあまりスピードを出さないようにしていた。
相手の力を活かす戦法なので、行動を見て慎重にいこうとするが――

「姉ちゃん、勝たせてもらうぜ!」「!?」

得意げな声が聞こえたと同時に見た目からは想像できない程のスピードを突如見せるデスタンのMF。
彼を掴もうとしたのも束の間、逆に細い首を強靭な腕で締め付けられる。

「どうよ?こいつが本物のファイトってやつだ!!
今まで弱いのとしかやってねえんじゃねえのか!?」
「うっ...!」

振り解こうとするが力の差は明確で、苦しみと共に呼吸が弱くなっていく。
当然ながら相手の挑発を気にする余裕もない。
何よりも抵抗していた両手に力が入らなくなり、古武道を使うことも適わない。

(...どう、すれば...!先に弓を使った方が正解だったかしら......)

しかしいきなりマリナのユディータを勢いよく放してしまう。ふらつきながらも背中の弓矢に手をかけようとした矢先――

「なっ......うぐっ...!」

儚い声と共にマリナは膝を着いた。腹部にデスタンの拳が入ったのだ。
鋭い衝撃が入り込んでいくのがわかる。

(こんな......強いなんて...
ずっと戦ってきたのに......世界にはこんなファイターがいたというの...?)
0064彰悟 ◆9uHsbl4eHU 垢版2017/08/06(日) 22:16:08.79ID:0Ouk0LiA0
「うっ、...かはっ...!」

敢無く苦しげな息を吐いてしまうマリナ。
気づけばグラスプは眼前で女鹿を狙う獅子のように見下ろしている。
背中の矢を複数収めたボックスを強引に外され、場外に落とされてしまう。
幸い機体本体の一部ではなく、マウントされたパーツだったのでGF自身のダメージは免れた。
しかし、武器を奪われたのは絶望的だ......
いつになく怒りの籠った視線を向けるマリナ。
これまで戦ったファイターの中には流石にこのような行動に出る者はいなかった。
どんなに手強く、態度に問題がある相手でも尊敬すべきところはあったが、デスタンは違った。
どんな手段を用いても勝つ......
決して武道に造詣の深くないマリナでも相手が道を外れたものであることがわかる...

「何てやり方...恥ずかしくないのですか!?」
「ケッ、弱者の負け惜しみだな。悔しかったら実力を見せてみな。」

「おおーっと、デスタン選手。少々ダーティーなやり方だー!
マリナ選手、大丈夫なのでしょうか!これはデスタン選手が有利か?」
「全く、相変わらず大人げない奴だ。」

隣にいるジャスパーは呆れて溜息を吐く。

「彼を知っているので?」
「ああ、見ての通り相手を挑発したり甚振るのがあいつの好む手段だ。
正直まともなファイトとは言えないな。
...とはいえ、こういう状況を乗り越えられるかがカギだな。」

再度ユディータの白い機体に鈍い轟音と共にパンチが叩き込まれ、マリナは体の内外が衝撃と圧迫に襲われる不快感に襲われる。

「どうだ、パンチの味は?
今まで城でぬくぬく生きてたお姫ちゃんには堪えるだろう。
あんたみたいな姉ちゃんは王宮でお茶を啜っている方がお似合いなんじゃねえのか?」
「――!!」

反射的に腹部を抑えた手に力が入る。
男の言葉は全くの出鱈目だが心に深く突き刺さる...
元より体力、腕力や相手を直接殴るセンスは他の選手に比べて乏しい...
――やはり心のどこかで自分にファイターの素質はない、闘いに相応しくない――
そんなコンプレックスを自覚させられるが、きつく唇を噛んで相手の侮蔑を振り払う。

(だめ、挑発に乗っちゃ...聞き流さなきゃ...)
0065彰悟 ◆9uHsbl4eHU 垢版2017/08/06(日) 22:17:15.34ID:0Ouk0LiA0
そしてデスタンが繰り出すタックル。
文字通り目にも止まらぬ速さの攻撃を正面から喰らうマリナ。
すぐに二発目が向かってくる!
前面を向いたまま自ら後ろ側に跳ぼうとするマリナ。
基礎体力の高い敵には基本的に背中を見せても無駄だと判断しての回避だったが...

「うあ......」

身体を足場から離したその矢先、低い呻きを上げて仰向けに倒れてしまった...
気づけばステージのすぐ端。
もはや敗北は寸前...アザディスタンのメンバーは諦めとも切実さとも取れる顔で見守る。
しかしシーリンはそのどちらでもない表情で皇女を見つめていた。

(マリナ...あなたなら必ず...)

デスタンはやはりパワーとスピードを兼ね備える相手。マリナにとっては不利なファイターの一人だった。

(絶対、勝つ...!こんな人に負けられない!......イチかバチか)

痛みに耐えながらも腰を落とした姿勢で立つマリナ。
敵を見据えて敢えて微動だにしない。
集中力を意識的に高める。欲しいのは敵が見せる一瞬の隙......

(チャンスは一度だけ......!)

「観念したか!
潔さに免じてこれで楽にしてやるぜ!有難く喰らいな!」

既に勝ち誇った表情の巨漢は拳を突き出す。最後は得意のパンチでマリナに止めを刺そうとする。しかし...

「はっ!」

ギリギリのタイミングで相手の足首を蹴った直後、脚を横にスライディングさせ避けるマリナ。
元々体の軽い彼女はこのようなモーションを得意としていた。
サバイバルイレブンに於いても、回避や攻撃への繋ぎとして何度も窮地を脱してきた。
「?!」

突然のことに驚きながら倒れ掛かるデスタン。
0066彰悟 ◆9uHsbl4eHU 垢版2017/08/06(日) 22:19:55.25ID:0Ouk0LiA0
半端に突き出され、今正に標的のいないステージに当たりそうになる彼の腕を掴み、柔らかい動きで捩じりながら外に投げ飛ばした!
相手の不安定な態勢を利用する......マリナの得意とする技の一つだ。
グラスプの巨体は一瞬轟音を上げて観客の鼓膜に鳴り響いた!

「そんな...俺が負けるだと...?」

ショックで唖然とするデスタン。
無理もない、今まで屈強のファイターに勝ってきた巨漢が華奢な女性に負けたのだ。
ただ青空と睨み合うしかなかった......
マリナは汗を流しながら未だ真剣な表情は崩れなかった。

「おおっと!これは予想だにしなかった展開です!相手の動きを利用するとは!
勝者、マリナ・イスマイール選手!」

「ほお、タイミングを計ったのか。中々繊細な動きをする選手だな...」

司会者の横でジャスパーも静かにだが感心を見せていた。

思わぬ結果に会場は一斉に沸き立つ。
想像のできない試合を求める彼らは驚きと興奮を隠せない。
タラップを伝って降りてくるマリナ。
まだ痛みが取れず腹部を抑えているが、水色の瞳にあるのは嬉し涙だ。

「シーリン、私...」
「おめでとう、マリナ。よく闘ったわね。
まだ始まったばかりだけど今日はゆっくりおやすみなさい...」

そういって旧友にかけられたタオルで髪を拭く表情は自信と幸せに溢れていた。


今日は以上です。
すいません、途中PCの不調で動作できなくなりましたが戻りました。
色々設定や台詞に力を入れるのが前よりも楽しくなってきました。
0067誤字大王(ry垢版2017/08/08(火) 21:38:12.49ID:6mU0DSBV0
>ミートさん
感想を書きたいのですが、艦これを全く知らない自分にはお手上げです・・・
そもそも「絵」が見えてこないし、このあたりは特定作品の2次創作の弊害ですねー
艦隊戦の流れなどはよく見えてくるので、艦これ知ってる人、感想あげて下さい。

>彰悟さん
デスタンさん・・・なんて真っ当なやられキャラっぷりだwww
ザコ役のテンプレすぎて登場時から退場の姿が浮かんで気の毒に思えてなりません。
個人的な感想ですが、なぜ彼が卑怯者扱い?
相手の武器を封じるのは戦術の基本だし、威圧して戦意をそぐのも立派な兵法ではないかと・・・
なんというか今回の話の流れ自体がデスタンさんを貶める流れになってるのは
脇役至上主義な自分の目が曇ってるんでしょうかw
0068ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:20:08.23ID:5SR/j3F60
>>67
感想ありがとうございます。
そうですか。「絵」が見えてこないってのは致命的ですね・・・・・・
そりゃ興味が出て画像検索してくれるほどの面白い作品を書けりゃいいんでしょうけど、悔しいですけど自分の腕じゃ難しいですね・・・・・・
まぁ兎に角、キャラ描写をもっと頑張ります。

とりあえず投下します
0069ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:22:03.51ID:5SR/j3F60
――艦これSEED 響応の星海――


「ごめん、つきあわせちゃって。でも・・・・・・」
「いいよ。私だって、このままじゃ終われない」

鋼鉄の巨人、ストライク。
そのコクピットでキラの膝の上に座った私は、いろとりどりに輝くディスプレイを眺めながら、唐突に「過去」を思い出していた。
それは1940年代、その前半。
人類にとっては70年以上も昔、多数の艦娘にとっては主観的に10年内の出来事として認識されているそれは丁度、太平洋戦争が始まり、そして日本が敗戦国として終わった時代だ。
当時、意志もなにもないモノ言わぬ兵器であった【大日本帝国海軍特型駆逐艦22番艦の響】は、何度大破しても沈まず、その度に復活しては戦場に出ることから「不死鳥」とも称されており、
不沈艦として終戦まで戦い抜いたとされる。
あの戦争を経て生き残った艦艇は少ない。
【響】は四姉妹の次女として建造され、後に【暁】、【響】、【雷】、【電】の四姉妹揃った第六駆逐隊の一角を担った。しかし、彼女らは【響】を残して皆沈んでしまった。立て続けに、一人は手の届く場所で、死んだ。
私は独りぼっちになった。
別に珍しいことではない。そんな経験は艦娘であれば、似たようなことは沢山あっただろう。自分が死ぬ瞬間を覚えている者もいる。凄惨そのものだったよ、あの戦争は人間にとっても兵器にとっても。
そのように「記憶」は告げている。

「いや、でもさ。囮になって時間を稼ぐんだ。それって集中砲火されるってことだよ。それでも?」
「上等さ。それに囮になるなら、ちゃんと動けなきゃダメじゃないか」
「それは・・・・・・そうだけど」
「それに、あなたは私を守ってくれるんだろう? 騎士様は?」
「へ?」

この人間の躰で生まれ変わって、そういえばあの時はと思い起こす、鮮明すぎる前世の記憶。
私という存在にとってのそれは、悪夢でしかなかった。
己に乗船していた者の姿形、その情念、その記憶すらも混じり合って構成された記憶は、痛い。艦娘となって姉妹と再会してからは、もっと痛くなった。誰かが傷つくと、死にそうな気分になる。
独りは怖い。
心が氷になりそう。
この先もずっと怯え続けるだろう。
この記憶は、きっと、乗り越えられない。
生き残れたことを僥倖と思うべきなのに、死に損なったと思う自分には。生き残った喜びよりも、後悔と無念が先に立った自分には。
戦後に解体処分されることなくロシアに賠償艦として引き渡され、死に場所すら奪われたまま30年の時を刻み、何も成せないまま生涯を終えた自分には、重すぎる。
0070ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:24:48.90ID:5SR/j3F60
罪悪感。
私はきっと、赦されることはないだろう。
誰に?
わからない。
何を?
わからない。
何故?
それも、わからない。
己の過去が、己の想いが、私を幾重にも締め付ける。お前にその記憶から逃れる術はないのだと。お前は誰も救えぬまま、孤独のままなのだと、誰かが私に告げる。
そんな感傷に追い詰められた「過去」が、私にはあった。

「ふふ。氷のお姫様としては、頼れるナイトを所望するよ」
「――んな!? ちょ、それ、聞こえてたの!?」
「しっかりと。なかなか可愛らしいな? ――・・・・・・、・・・・・・とにかく、私はやるよ。最後まで抗ってみせる」
「あ・・・・・・、・・・・・・わかった。じゃあ、頼りさせてもらうよ。僕らでみんなを守るんだ」
「うん」

今も尚、その「過去」を克服することはできていない。
クールで飄々とした態度を気取っていても、心の底にこびりついた畏れは消えなかった。
言っておくが私は別に、自分が特別だなんて思っちゃいない。
この想いは、この恐怖は、みんなが持っているものだと思う。榛名も木曾も、瑞鳳も、私の姉妹達も。みんな、みんな。誰もが何かを失う恐怖と戦っている筈なんだ。みんな自分達の姉妹が心配なんだ。
この一連の戦いで、佐世保に38人いた艦娘も13人までに減った。今日の戦いでは更に7人が負傷した。こんなにも沢山の仲間が傷ついたのだ。みんなが皆、身を引き裂かれるような思いでいるのだ。
けれどみんなはぐっと堪えて、成すべきことを成すと、今度こそ大切なもの全てを守ってみせると、記憶を乗り越え戦っている。
私にはできない。
どんなに覚悟しても、昔から。「過去」が覚悟を土台から崩しにかかる。
つまり、きっと誰よりも弱いのだろう。
ちょっとしたことで自分を見失ってしまう私は、弱い。独りぼっちで生き残ってしまったこの身には、また誰かが傷ついてしまうこの現実は重すぎる。せっかく再会した姉妹達がいなくなると想像しただけで吐き気がする。
ちょっとデリケートすぎやしないか、私の精神。
そうだ。私はこの世に生まれ出でた五年前から、ちっとも前に進めていない。また、取り残されている。永久凍土のように変わらず、いつまでも弱いまま、記憶に怯えたまま。
でもこのままじゃいられない。「過去」は乗り越えなくちゃならない。
弱い自分だけど、守りたいものがあるから。
強く在らなくては守れないから。
まだこの手にチャンスがあるのなら、抗わなければならない。
脅迫的なニュアンスを含む、ひどく感傷的なその思考。
だから、後に師匠と呼ぶことになる艦娘に教えを請うた。苦笑いして「オススメはしないけど、仕方ないっぽい」と自分を鍛えてくれた彼女のおかげで、戦闘技術だけは一人前になることができた。
0071ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:26:11.57ID:5SR/j3F60
「いこう・・・・・・ストライク、戦闘ステータスでシステム再起動。OSダウングレード、エマージェンシーモード。響、両手を操縦桿に」
「神経接続、リンクスタート・・・・・・? ・・・・・・あ、操縦補助システム、更新完了したみたい。これでやれるの?」
「君が新しい担い手として登録された。やれるよ、その心のままに」

いつしか悪癖として染みついていた自分の突撃戦法は、こうして生まれた。相変わらずの悪運の強さと己の適性を振りかざした、強引な戦い方。誰かを守るなら一番確実な手段だと。
無意識の内に、接近戦に拘ることで何かが赦されると思っていた。
もはや自分の事は勘定に入れていなかった。
けれど。
それでも、自分にできることは小さすぎるわかっていても、やはり守れないものは沢山あった。
いつだって大事なものは遠ざかる。遠くで、近くで、いくら自分を捨てて頑張ったって届かないものがある。手に入れた強さはまだまだ足りない。「過去」を振り解くには足りない。
暁が重傷を負った。
雷と電も、もう戦えない。
目の前で、キラの左腕が折られた。
私も無理が祟ったのか艤装がイカれてしまって、どうしようもない。
このままではまた、誰も救えないまま独りになってしまう。
それがとても恐ろしい。
まだ自分にはできることが、抗えることがある筈なのに。己の感傷に振り回されて、他のみんなに迷惑や心配をかけている自分なのに。このまま戦線離脱なんてしたら、本当にもうどうしていいのかわからなくなる。
だから。

「キラ・ヒビキと、響。ストライク、行きます!」
「う、わぁ!?」

私はこの人の左腕になることを決めた。
囮役を買って出たその意志に賛同して、心配してくれるみんなを、負傷しているにも関わらず単独で出撃しようとしていた彼を説得して、同乗して戦うことをなんとか納得させた。
まだ道はあるのだ。
使い物にならなくなった艤装を解除して、彼の膝の上を陣取る。
これは意地だ。
左腕が使えない彼に代わって握る操縦桿を、目一杯前に倒して。彼がペダルを力一杯踏み込んで。
ストライクと名付けられた隻腕の機械人形が、単身、深海棲艦の群れへと飛び込んだ。
0072ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:28:18.97ID:5SR/j3F60
《第6話:不死鳥の炎》




「船を盾に回り込んで! スロットル下げ、操縦桿を右に!」
「こう!?」
「うまい! 四肢全部で慣性をコントロールするんだ!!」
「基本が同じなら・・・・・・! 頭部機銃を撃つ!」

深海棲艦の集中砲火、戦車隊の支援砲撃が乱れ飛ぶ戦場を、ストライクが不格好に揺れながら駆けた。
波を蹴立てて、スケートのような格好で水上をホバリングする。その背後からは黒島を目指していた敵群が一様に追いかけてきており、ストライクの排出する青白い炎も相まって、まるで誘蛾灯にでもなった気分だ。
なにせ18mの巨体であれば、狙いやすいことこの上ない。目論見通りに射撃の的になったキラ達は、今度は黒島から離れるように西へと進路をとる。できるだけ多くの敵を、できるだけ遠くへ。
囮としてこれ以上はないだろう。
白を基調に青と赤で彩られた機体は、敵の執拗な攻撃からぎこちなく逃げ惑い、30隻の無人装甲船の影を縫うように右へ左へとスラスターを噴かせてはフレームを軋ませた。
色鮮やかな装甲には傷一つないものの、被弾する度になにかのパーツがポロポロと海に落ちていく。ショックアブゾーバーも完全に壊れたらしい。
物理的な衝撃を無効化するフェイズシフト装甲が、遠慮容赦なくバッテリーからエネルギーを吸い上げていく。
ギチギチと、嫌な音がコクピットまでに届いている。
モビルスーツとしての寿命が、刻々と迫ってきている。
遮蔽物として使わせてもらっている装甲船が、次々と轟沈していく。全長200m、排水量12 ,000t級の重巡洋艦が紙のようだ。改めてその破壊力に戦慄する。
長くは保たない、キラはそう悟りながら四枚のペダルを連続的に蹴りこんで、全身のスラスターを制御する。響の操縦とリンクするように、機体に負荷をかけないようにと、いつもよりずっと繊細な操作が要求された。

「外れた!」
「照準は合ってる、そのタイミングでいい。3時方向に移動して」
「う、うん・・・・・・って、敵の本隊じゃないか!?」
「突っ込むんだ! スロットル最大!」

つい先程まで不思議な力でキラと一体化していたストライクだが、今は同化を解除して元の巨体を取り戻している。つまり、普通の18m級モビルスーツとしての運用を可能としていた。
基本的にモビルスーツの状態であろうとキラと同化していようと、その性能や能力に差はない。速度も火力も防御力も据え置きだ。
強いて言うなら、空気抵抗や投影面積を考えるなら、同化状態の方が機動力の面で圧倒的有利であろう。人間が、たかが時速1〜2kmぐらいしか出せない蚊を捉えるのに苦労するのと同じだ。
ただしリーチについてはお察しだが。
そう考えたキラは実際に、ストライクと一体化して戦闘に参加した。機体を操縦するような感覚で、己の躰を振り回してきたのだ。
0074ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:30:03.39ID:5SR/j3F60
艦娘の艤装と同じく摩訶不思議な原理原則によるものだ。考えるだけ無駄なので、そういうものとして納得するしかない。
そのコクピットに収まった響とキラは、なんとか囮の役割を果たそうと二人して懸命に機体を操っていた。
パイロットの掌部末梢神経から傍受した電気信号を、姿勢制御のサポートに使用する「神経接続型操縦補助システム」を響が使っている以上、操縦桿を握るメインパイロットは彼女。
キラがそれ以外の担当で、ぶっつけ本番の二人三脚に挑む。
そんな彼女らの目前で慌ただしく情報を更新するモニターが、主観的に豆粒大になったル級とタ級、更にヲ級が同時攻撃してくる様を出力した。

「突っ込むって――わっ!?」
「舌噛まないでね、ジャンプするよ!」

殺到する火線にアラートがより一層喧しく喚き、泡を食った響のほっそりとしたお腹を、青年はなんの前触れもなく右腕でギュッと抱き込んだ。背面スラスター全てが駆動し、機体は一息にトップスピードへ。
急激な加速Gに息がつまる。
パッシブセンサーの出力も上げてデュアルアイを煌めかせたストライクはぐっと身を沈めて、勢いよく空高く舞い上がった。脚部スラスターによる跳躍、その高度は200mに達している。
文字通りスケールの異なる鋭い機動に、深海棲艦達はデカい的であった巨体を見失った。
敵の本隊と、ストライクを追いかけていた部隊が合流し――次の瞬間、沿岸の戦車隊が吐き出した榴散弾が、そいつらを纏めて薙ぎ払らった。
そこに、着水したばかりのストライクの頭部機銃――75mm対空自動バルカン砲塔システム・イーゲルシュテルンが追い打ちにかかる。
艦艇に使用される対空機銃よりも口径は小さいが、そこはC.E. 70製ガトリング機関砲、威力は折り紙付きだ。ビーム兵器は極力使用せず、連携で敵戦力の一角を削った。

「よしいける、これなら・・・・・・って、響? 大丈夫?」
「め、目が回る・・・・・・これはちょっと、思ってたよりキツいな」
「頑張って。あと少しだ」
「ッ、――やるさ。不死鳥の名は伊達じゃない。次はどうすればいい?」
「なら、今の要領でいこう。少しずつ戦力を削るんだ」

ぶんぶんと頭を振って気を取り直した少女。
目一杯伸ばした手で握った操縦桿を、青年の指示になんとかついて行こうと必死に操作する。
5分もする頃にはその様もだんだんと洗礼されてきて、ギクシャク動いていた機体もだいぶスムーズになっていた。ノイズばかりのレーダーを分析して、今や自分で次の行動に移ることができている。
いつもとはまったく勝手の違う戦闘に、よくもここまで順応できるものだ。
膝に座る少女が動かしやすいようにと随時機体パラメータを更新しながらも、キラは内心舌を巻く。
OSは初心者用の簡易設定とはいえ、予備知識無しの初めてで、しかも操作を分担するというイレギュラーであるのに、なんという飲み込みの早さだろう。
もうちょっと大きくなってペダルに足が届くようになって、更に鍛錬すればかなりの腕になるかもしれない。
結局、彼女が正しかった。
0075ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:32:04.34ID:5SR/j3F60
彼女がサポートしてくれるという申し出には若干、いやかなり面食らったものだが。この分なら、左腕が使えない自分一人が戦うよりずっと役に立てる。
本当に、黒島に集った佐世保守備軍が体勢を立て直すまで、敵の注意を引きつけていられるかもしれない。
どのような事情や思惑があるにせよ、この娘には本当に世話になりっぱなしだ。
いつかちゃんとお礼をせねばなるまい。

救援がいつ来るのか、本当に来るのかが分らないこの状況で、まったくいつもの自分らしくない『自己犠牲』に付き合わせてしまっているのは、心苦しいが。

(あとはストライクさえ・・・・・・)

もうちょっと頑張ってくれよと、キラはそっとディスプレイを撫でた。
ストライクのエネルギー残量も少ない。動けて30分がいいとこだろうが、けれどこれでも当初の予定よりは多いほうだと腹をくくる。
黒島でちょっとだけ充電できたし、なにより午前中の戦いでは、助けてもらった借りを返すと木曾さん達が奮戦してくれたおかげでエネルギーの節約ができたのだ。それに報いる必要がある。
最後の最後まで、やってみせよう。
自分にとっても彼女らは命の恩人なのだから。
この佐世保に流れ着いて、四日間眠りっぱなしであった自分。彼女らが救助してくれなければ、戦い続けていなければ、自分はとっくに死んでいたのだ。そしてこの娘に出会わなければ、まだ迷っていたかもしれないのだ。
だから囮役を買って出た。
絶対、この仕事は失敗できない。

「・・・・・・ストライクもね、不死鳥って渾名を持ってるんだ」
「それって・・・・・・」
「僕の知っている限り、四回は大破してるんだよ。それでもパイロットは全員生還させて、また戦場に出て」

そうしてエネルギー残量が1割を切ったつい先程、ストライクの右腕までもが反応しなくなった。
肩のジョイントから火花が散り、指先一つ動きやしない。両腕が使えない。
同時にこちらに追いついてきた【Titan】のビームライフルで、エールストライカーの片翼と腰部装甲が吹き飛ばされた。頭部機銃で応戦するが、それもすぐに弾切れ。
ようやっと黒島から再出撃した艦娘からの援護は期待できない。彼女らも自分達のことで精一杯だし、なにより遠い。
万事休す。
一時的に操縦の主導権を返してもらったキラが、折れた左腕を使ってでも反撃せんと操縦桿を動かす。
敵の攻撃を、際どく後方宙返りで回避。180度逆さまになったタイミングでアーマーシュナイダーを一つ射出し、落下するそれを宙返りの勢いそのまま足の甲で掬い上げて、更に回し蹴り。
リフティングとボレーシュートの要領で放たれた巨大なナイフは寸分違わず【Titan】の喉元に突き刺さり、その無力化に成功した。
代償に青年は悶絶し、機体の右足から黒煙が上がる。
二人して汗だくになりながら、キラは根拠のないジンクスを口にする。
0076ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:34:14.60ID:5SR/j3F60
「だから不死鳥?」
「そう。別の個体も合わせてだけどね。・・・・・・だから今度もきっと、大丈夫なんだ」
「хорошо。それはまた、あやかりたいね」

尚悪いことにフェイズシフトも落ちた。
装甲から色が抜け落ち、元々の暗い鉄灰色に戻っていく。防御力はそこらの通常装甲並のものとなり、どんどん傷だらけになる。咄嗟に身を捻ったから助かったものの、ル級の砲撃で左肩部装甲が脱落した。
不死鳥が二人なら、なんとかなると思わない? なんて嘯くキラは必死の形相でキーボードを叩き、なけなしのエネルギーを最後まで搾り取ろうと思考を加速させる。予備電源もフル活用して、逃げる算段を立てていく。
離脱を開始する。
これでもう、充分だ。
できること、やれることをした。
その巨体で戦場をかき回すだけかき回し、目立ちに目立った挙げ句【Titan】すら葬ったストライクは注目の的だ。その戦力の大半を、黒島から10マイルも西の海域まで誘導することができた。
これでたった6人だけの佐世保守備軍も戦いやすくなっただろう。囮の役割は果たせたわけだ。
あとはここからどう安全に離脱するか。
背後から迫る深海棲艦の大群。その砲撃に晒されたストライクは撃墜される寸前だった。兵器としてはもう完全に死んでいる。スラスターと制御系が生きていることが奇跡だった。それももう1分も保たないだろうが。
しかし。

「響。ちゃんと君は、僕が守る。絶対にやらせはしないよ」
「頼りにしてるよ、キラ」

「生きること」への強い渇望を持つ青年と、「過去」を乗り越えたい少女は、決して諦めない。
抗うことを止めない二人はこの絶望的な状況を退けるべく、最後の賭けに出る。

「砲撃、来た!」
「エールストライカー、パージ!!」

パッシブセンサー全開。
弱々しくもその瞳を輝かせた機体が、軽くジャンプする。
ついで機体背部から切り離された高機動戦闘用装備・エールストライカーが敵の攻撃を一身に受け、爆散した。
すっかり暗くなった空に一際明るい爆炎が輝き、それは鉄灰色の機体をも朱く照らし出しては飲み込み破壊する――はずだった。

「しっかり捕まっててよ!!??」
「ッ――!!!!」

再びストライクをその身に取り込み同化したキラが、響をお姫様だっこするように抱きしめながら、爆風に煽られてくるくる飛んでいった。
同化するといっても重量がそのまま加算されるわけではない。そこに現人類が思い描く質量保存の法則は通用しない。小さな二人は炎に飲み込まれるより前に、ふわりと熱風に乗ってその殺傷圏から離脱したのだ。
0078ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:36:54.33ID:5SR/j3F60
同時に、ストライカーの爆発を目眩ましに深海棲艦の索敵から逃れることにも成功した。敵からは、鋼鉄の巨人がいきなり消えたか、撃墜できたように映っただろう。
何かが少しでもズレていたら成立しなかった絶妙なタイミング。
それを見事に掴んだ二人は炎に灼かれることなく、最後のエネルギーを振り絞ってなんとか緩やかに着水することに成功した。
着水し、その場で尻餅をつく。
しっかり抱いていたはずの少女も放り出され、二人ともびしょ濡れになる。運良く浅瀬で、溺れることはなかった。
そこは壊れてしまっている灯台が設置された小さな島、長崎県平戸市の尾上島の近く。
キラと響は、もうそこから動くことが出来なかった。体力と精神の限界だ。膝が笑って、息も上がって、身体に力が入らない。持てる総てを出し尽くした。
事実上の戦力外通告。スッカラカンになったストライク同様、これ以上なにもできそうにない。
すぐ近くには深海棲艦が徘徊しているが、それでもだ。
見つかれば今度こそ終わりだ。殺される。
だが。
幸いなことに、無防備な二人が敵に見つかることはなかった。
奴らは暗視能力を持ち合わせていない。この20時の暗闇に紛れた二人を再び捕捉するのは不可能なのだ。
そう、20時だ。
約束の時間である。


「より取り見取りっぽい?」


座り込んだ二人の隣を、黒き疾風が駆け抜けた。
月明かりに照らされた金髪と、黒い制服を靡かせ疾る少女。その背には巨大な鋼鉄の兵装。
見間違いようがなく、その後ろ姿は艦娘のものだった。
青年が初めて聞く声、初めて見る姿。
少女が久々に聞く声、久々に見る姿。
そしてそれは勿論、彼女一人だけではない。
つまり――

「よし、持ちこたえてたわね! 呉・佐世保連合艦隊!! 砲雷撃戦よーい!!!!」
「島風は夕立のフォロー! 由良と鬼怒はそこの二人を救助して!」
「りょうかい! 島風、突撃しま〜す!!」
「はい! そこの二人、大丈夫!?」


待ちに待った救援が、到着した。
0079ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:38:04.16ID:5SR/j3F60
「比叡、私達で道を切り開くわ。金剛お姉様直伝のフルバースト、決めますよ!!」
「まっかせて霧島! この比叡、通常の3倍の気合! 入れて!! いきます!!!!」
「帰ってきたぜ佐世保! 行くぞぉ天津風、阿武隈!! この摩耶様に続けぇー!!」
「了解!」
「阿武隈、ご期待に応えます!」

ぞろぞろと。
十人十色。
千差万別な少女達が。
戦場に雪崩れ込んでいく。
目がくらむほどの閃光。
頭痛がするほどの轟音。
腹まで響くほどの衝撃。
文字通りに世界が一変した。
今までの大苦戦が嘘のように、北西からやってきた十数余の艦娘達による攻撃で、深海棲艦達はあっという間に蹴散らかされていった。ブルドーザーもかくやといった凄まじい快進撃。
誰も彼もがピカピカだ。初めて会った時からズタボロだった佐世保のみんなとは全く対称的な、どこまでも希望に満ちあふれた戦士の出で立ち。
元気いっぱいに景気よく砲弾をぶっ放す様はなるほど、戦場の女神という形容詞がピッタリだった。
本当に、来てくれた。
来てくれた!!

「ぃよぉし、腕が鳴るわね! ビスマルクの戦い、見せてあげるわ!!」
「フフッ、夜戦か。いいだろう・・・・・・このグラーフ・ツェッペリンがただの空母でない所を見せてやろう」
「お〜、いいですねぇ夜戦〜。やっ、せっ、ん〜! 行ってみ〜ましょ〜! やっ、せっ、ん! 呑まずにはいられない〜!!」
「敵艦発見、砲戦用意! ポーラ? お酒はぜーったいダメだからね?」
「アッはいザラ姉様。ポーラ、お酒はモチロン飲みません・・・・・・」
「あ、あの・・・・・・私の、ビスマルクの戦いを・・・・・・」

なんか漫才してる一団もいるが。

「さてさて熊野。アレをやっちゃうよー」
「ええ、よくってよ鈴谷」
「おぉうアレやるの二人とも? こりゃ負けてらんないね大井っち」
「あら北上さん、じゃあ私達も」

なんか合体必殺技を繰り出してる人もいるが。

「ソロモンの悪夢、見せてあげる。――あたしは帰ってきたぁッ!!」
「また世界を縮めちゃった・・・・・・! 私には誰も追いつけないよ!!」
0080ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:40:27.75ID:5SR/j3F60
由良と鬼怒という少女達に背負われたキラと響は、思わず顔を見合わせて、力なく苦笑した。
なんとも賑やかなものだ。
何十回と渡った綱渡り、その対価としては妥当なところなのだろうが、この花火大会最前列みたいな姦しさはなんだ。感慨もなにもなく、まったく、ついこちらも釣られて笑いがこみ上げてくるじゃないか。
というか笑うしかない。乾いた笑い声が二人の口から漏れ出した。
その時、遠く南東の方面でもチカッと光が瞬いた。

「あれは・・・・・・?」
「きっと、鹿屋のものだろうね。よかった・・・・・・これでもう、本当に」

広島の呉鎮守府と、鹿児島の鹿屋基地。
佐世保のお隣さん的存在で、今回の騒動で修復施設を失った佐世保鎮守府に代わって、負傷した艦娘達の治療を引き受けてくれたのだという。
その流れで佐世保救援部隊を結成してくれて、元気になった佐世保所属の艦娘を伴って今ようやく到着してくれた。呉は北から、鹿屋は南から。
役者は揃った。反撃の始まりである。
今の二人に知る由もないが、呉からは22名、鹿屋からは27名と、49人もの艦娘がこの海域に集っていた。一大決戦級の大規模作戦だ。この規模の艦隊が動いた例はそう多くない。戦況は完全に形勢逆転した。
特に佐世保所属艦の働きは素晴らしく、不死鳥の如く蘇った彼女らの戦果はかつてないものになっていた。
その勢いは誰にも止められない。
この海域から深海棲艦が一掃されるのも時間の問題であろう。
また、黒島からは信号弾が上がった。
それは金剛が打ち上げたもの。救援の到着に気づいた佐世保のみんなが、自分達の状況を伝えるべく空高く放った光の玉だ。
込められた意味は二つ。
私達はここにいる。誰一人として欠けてはいないと。


間に合った。
佐世保は、救われたのだ。
0081ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:42:08.19ID:5SR/j3F60




その後、一夜明けて11月4日の8時。
夜通しかけて、この海域全ての深海棲艦とその泊地を掃討した連合艦隊は、半壊した佐世保鎮守府に集っていた。佐世保所属は復帰した者を含め38人、呉と鹿屋からそれぞれ12人ずつ、総勢62人の大所帯だ。

「暁―!!」
「響! よかった、無事――わっぷ!?」
「暁・・・・・・本当によかった・・・・・・大破しちゃったって聞いたから・・・・・・」
「あぁもう泣かないの。レディーはそう簡単に泣いちゃいけないんだから。・・・・・・無事よ、ちゃんとね」
「うん・・・・・・」

鬼怒に背負われようやく戻ってきた響は、一目散に暁に抱きついた。
意外なことにあのクールな少女が大粒の涙を流して、思いっきり泣きじゃくっている。
そんな彼女をよしよしと慰めているのが、彼女ら四姉妹の長女である、暁だ。深い菖蒲色の髪と瞳は、全体的に青白い響とは対照的。でも髪質はお揃いなのか、黒と白の長髪が潮風に靡いてふわふわクルリと広がった。

「ちょっとちょっと、私達を忘れないでよね! 雷も電も、すっごく心配したんだから!! もう・・・・・・!」
「響ちゃん・・・・・・ホントによかったのです・・・・・・ぐすっ」

その隣に控えていた三女と四女も感極まったのか、その大きな栗色の瞳に涙を浮かべて二人に抱きついた。
そして四人はしばしギュッと抱き合い、お互いの熱を交換しあったのだった。
こんな小さな躰で、今まで本当にお疲れ様と、キラはそこから少し離れた場所で想う。
長いこと絶望的な戦いを続けてきたのだ、こうなるのは当たり前だろう。約一週間にも及ぶ孤独な防衛戦。その果てにみんな無事に再会できたのだから、泣かない方がおかしい。
佐世保の港は、大勢の少女達の泣声に満たされていた。

「失礼、少しいいかしら?」
「うん? 君は・・・・・・?」
「はじめまして。私は天津風。呉の艦娘よ」
「あぁ、うん。僕はキラ。はじめまして」

そんな光景をぼんやり眺めていたキラに、声を掛けた者がいた。
振り向けばそこには、象牙色のサラサラな長髪をツーサイドアップにした女の子。
どことなく高貴な猫を想起させる、吊り気味の瞳。黒い長袖のワンピースに、紅白の髪飾りとニーソックスが特徴的だ。身長は響より少し高い程度。可愛いか美しいかで言えば、美人の部類だろう。
くせ毛でふわふわな髪、温和な小型犬のようにも見える垂れ気味の瞳、美人というよりかは可愛いの部類に入る響達四姉妹とは正反対のタイプだと、キラは勝手にそう評する。
背中には魚雷発射管を背負っていて、連装砲といった火器はショルダーバッグのように右腰に下げたパーツに集約されているようだ。
0083ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:45:07.00ID:5SR/j3F60
なんの用だろう、僕なんかに。

「・・・・・・キラ?」
「え? ・・・・・・えぇと、そうだよ?」
「その左腕・・・・・・」
「これ? ただ骨折しただけだよ。大丈夫、これぐらい」

何故か少女は驚いたように目を見張り、そしてマジマジとキラの顔と左腕を交互に凝視してきた。
なんだというんだ。
小さく「いや、そんなはず・・・・・・でも・・・・・・この制服は・・・・・・」などと、逡巡しているような呟きが聞こえる。呼びかけておいて少女は、たっぷり十秒近く俯いて思考に没頭してしまった。
取り残された青年としては根気よく待つしかない。まさか怪我の具合を訊きにきた訳でもあるまい。
更に待つこと数秒。
やっと何かの決心がついたのか、少女はこれまた小さく頷き、深呼吸して、緊張したような面持ちで訪ねてきた。

「あのっ、一つ質問、いいですか?」
「う、うん。どうぞ」

なんだろう。
こっちまで緊張してきた。
一体なにが彼女をこうさせるのか、まったく検討がつかなかった。だって、そういう場面じゃないだろう。
彼女にだってまだ任務があるんじゃないのか? こんな所で見ず知らずの自分に質問なんかして、油を売っている暇はないと思う。事情聴取にしたって、まずは他のみんなから聞き出した方が効率もいいだろうし。そもそも質問って何の為に。
本当に一体、なんなんだろう。
そんな風に疑問詞ばかり浮かべたキラは、天津風の言葉に耳を傾ける。
聞くだけ聞いてみよう。


「えーと、もしかしてシン・アスカって男の子のこと、知ってますか?」


・・・・・・え?

「アナタのと同じデザインで、紅い服を着た――」
「シン・・・・・・、シンを知ってるの!?」
「――やっぱり・・・・・・じゃあアナタが、キラ・ヤマトさんなんですね!?」
「・・・・・・!!」

なんで、その名が、その二つの名前が、ここで出てくるんだ?
いきなり頭をハンマーで殴られたが如き衝撃に、キラは呆然とする。
知っているなんてものじゃない。
0084ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:47:12.04ID:5SR/j3F60
彼は自分――キラ・ヤマトが心を開いて接することができる、数少ない友人であり、かつては部下だった男だ。
黒髪と紅い瞳という妖しい風貌の、自分と何度も殺し合いをしたエースパイロット。最強の一角を担う【紅蓮の剣】。苦手なもの、好きなもの、その拘りだって熟知している。
その彼を何故君が?
彼がここに・・・・・・この世界にいるのか?
なんで?

「ぅ、あ?」

何故か急に、息苦しくなった。
左腕が、左眼が痛い。
ああ、でも、そんなことはどうでもいい。
この少女は、何を知っている?
どこまで知っている?
僕の知らないものを、彼は知っているのか?
空白の一週間。もしかしたら二週間。
僕が、彼が、あの隕石が、この世界に来た理由。それはなんだ? なにがあった?
少女の肩を掴み、問い質そうとした。
ぐにゃりと視界が歪んだ。

「あ!? ちょっと!?」
「・・・・・・っ!! ――ごめん、ちょっと目眩が・・・・・・」
「だ、大丈夫なの・・・・・・?」
「なんとか・・・・・・」

膝から崩れそうになったが、天津風に支えられて踏みとどまる。
そうでなければ今頃、地面に顔面強打していたかもしれない。

「そう、だよ。僕が、キラ・ヤマト・・・・・・。でも、なんで」
「シンが呉に運ばれてきて、キラって人のことを言ってて・・・・・・それでアナタの制服が同じデザインだったから、もしかして関係者かなって。・・・・・・まさか本人だったなんて」

少女に手伝われて、腰を下ろす。
嫌な汗が噴き出ていて、顔は真っ青になっていた。異常だ、これは。
一過性のものだったのか今はもう落ち着いたが、まさかシンの名を聞くだけでこうなるとは。奇妙な痛みに、混濁する思考と記憶。
こんなのが、今日だけで二回だ。
というか。
強い心理的ストレスに晒された人によく見られる症状ではないだろうか、これは。例えば、初めて砂漠にきた頃の自分みたいな。知らぬ間にトラウマかなにかが増えているらしく、結構久しぶりの発作だった。
え、なに? 僕シンにナニカされたの?
0085ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:49:09.15ID:5SR/j3F60
「顔色がひどいわ。待ってて、今タオルと水を持ってくるから」

天津風がそう言い残し、いずこかへと走り去っていく。その途中に声をかけたのか、入れ替わりに響達がこっちに駆け寄ってくるのが見えた。
ああ。
それにしても。

(シンがこの世界にいる。今どうしてるんだろう。はやく、会いたいな・・・・・・)

まったく、いつも自分を驚かせてくれるところは、変わっていないようだった。
そこは少し安心した。
孤独だと思っていた自分には、仲間がいたのだ。

(やらなきゃいけないことが、できたな)

この戦いを通して、キラ・ヒビキはただの『巻き込まれた者』ではいられない理由ができた。
これからも艦娘達と一緒に戦うかは別問題として、自分が立ち向かわなければならないことが三つもある。


一つ目は、あの隕石にあるであろうNJの停止、若しくは破壊。
あれがある限り、この土地はずっと電波障害に苦しめられることになる。自分達こそが解決しなきゃならないことだ。


二つ目は、そもそも自分達がここに転移してきた謎の解明。
キラがストライクに乗っていた理由含めて、C.E. で何があったか知る必要がある。調べれば元の世界に帰る手掛かりになるかもしれない。自分だけなら兎も角、シンは帰らなきゃダメだ。


そして三つ目が、昨夜に遭遇したスカイグラスパーの正体を知ることだ。
ただの他人の空似だと思う。でも、どうしても気になる。
彼ともう一度会って、確かめたい。
君はトール・ケーニヒなのかと。
確かめて、それからどうするかは、どうしたいのかは分らないが、それはなによりも大切なことだと思った。


なにはともあれ、まずは呉にいるというシンに会おう。
きっと、色々なことが解るはずだ。
そう決心したキラはとりあえず、響達に元気だよと伝えようとして、力なく右手を挙げるのだった。
彼と艦娘達の、新しい戦いが始まろうとしていた。
0086ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/08/15(火) 12:54:29.18ID:5SR/j3F60
以上です。二人乗りってロマンだと思います。
これで予定している全体の1/3まで書けました。第一章完です。
次回からはシンが物語りに絡んできて、日常描写が増えていきます。

それと縁があって、pixivのほうにも投稿することになりました。そちらの方はちょっと加筆修正したものになりますが、こちらと平行して進めたいと思います。
0087通常の名無しさんの3倍垢版2017/08/18(金) 12:53:37.94ID:tSosec1jO
更新乙であります。
援軍到着のくだりは「エリア88」のキムとセラの救出作戦を思い出しました。
あのシーン大好きなんですよ、なので艦これ知らない私でも
情景がありありと見えて良かったです。

二人乗り…今回は余裕なかったけど次回はぜひ
余裕の状態で当たってる当ててんのよの
ニヤニヤ展開を←下衆w
0088通常の名無しさんの3倍垢版2017/08/18(金) 20:19:05.63ID:+GduaNAt0
乙です
シンは何かしら訳知りな立ち位置なのな

>>87
相変わらず渋い趣味のお待ちで
0090ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:31:49.22ID:DDhAtvrz0
お二方感想ありがとうございます。
自分はエリア88は未視聴ですが、ピンチからの大逆転の描写はちゃんと伝えられたようでなによりです。
二人乗りはまたいつかやりたいです。
今回は訳知りなシンのお話です。

>>89
自分は自力更新です。でも、最初は誰かに掲載して頂いてました。
そういえばそのお礼をまだ言えてなかったので、今更ですが、どなたかわかりませんが掲載してくれてありがとうございました。

今回はかなりの難産でした。ようやく書けたので投下します。
0091ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:33:10.22ID:DDhAtvrz0
――艦これSEED 響応の星海――


「失礼しました。――・・・・・・ふぅ」
「・・・・・・どうだった?」
「・・・・・・お前、今まで待ってたのかよ?」
「悪い? だって、気になるじゃない」

11月7日の11時。
あの佐世保防衛戦から三日後、その昼下がりのこと。
無秩序にボサボサツンツンした濡羽色の髪に、妖しい光を湛えた紅の瞳が特徴的な青年、シン・アスカは眉間に皺をよせたまま固まった。呉鎮守府の執務室から恭しく退出したら、そこで天津風とバッタリ出くわしたからだ。
お互いが大なり小なりのしかめっ面。そして互いが「ああ、いつもの顔だな」と認識するだけの、一秒間の沈黙。
別に嫌悪感とかがあるわけではないが、かといって和やかに挨拶するほどの間柄ではない微妙な距離感が、二人の間にあった。大抵、二人が会う時はこの沈黙がまず先頭に来る。
そして、先に行動するのは決まって天津風だ。
腕を組んで壁にもたれかかっていたツーサイドアップの少女はツカツカと歩み寄ってきて、かと思えば青年の袖をつまんでそのまま、いずこかへと歩き始める。なんだなんだとシンはされるがまま、その後をついて行く。
出会って以来、これが二人の関係だった。

「たかだか三十分ぐらいよ、問題ないわ。・・・・・・で、どうなのよ」
「・・・・・・とりあえず、動けるのは早くて二週間後ぐらいだと。しかも最低二人は護衛つけろって」
「あら、意外と早かったのね」
「そうか?」
「そうよ」

二人の出会いは、まぁ、そう褒められたものではなかった。
不幸な事故、不幸な行き違いがあった。口論に至るほどのものではないが、ちょっと気まずい、そういった出来事。それで二人揃って尖ってて素直になれない性格なこともあり、ほんの少しの確執が今でも残っている。
とりあえず、お互いにしばらく距離を取っておこうかなーと思うぐらいの出来事があったのだ。ある人物はそれを「ありゃあ典型的なラブコメの導入編だったね。いやぁ、見事にコッテコテな」と笑いながら評したが、
当人達は至って真面目であった。
だが神の悪戯か、悪魔の罠か。
周囲の者達からは「喧嘩するほど云々」と捉えられたのか、天津風がシンのお世話係兼監視役に任命されたのだった。そこでもまた一悶着あったのだが、それもまた別のお話。
兎も角、それから少女がぐいぐい引っ張り、青年が渋々ついて行くという図式ができあがったのだった。
しかし二人はまったくもって気づいてはいない。
その距離が以前より少し、近づいていることに。

「あっちもこっちも、まだゴタゴタしてるもの。それを二週間で、しかも少人数の護衛だけでなんとかしてくれるって、相当便宜を図ってくれてるじゃないの」
「俺一人で行けばいいじゃないか。アイツも俺に会いたがってるっていうし」
0092ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:35:03.92ID:DDhAtvrz0
「必要なのよ。自覚ないんでしょうけど、アナタはVIPなんだから」
「VIPね」
「だから私はこうして戻ってきたんだし、ちょっとぐらいの不自由は我慢なさいな」
「やっぱりお前も付いてくるのか? 佐世保行き」

佐世保行き。
つまり、シンがキラに会いに行くにはどうすればいいのか、というのがこの話題の焦点だった。
事の発端は、昨日の夕方に呉に帰還した艦娘達からの報告。
異世界人であるシン・アスカの知り合いのキラ・ヤマトが佐世保にいたというビッグニュースを、当の天津風が持ち帰ってきたのだ。「聞いていた話とちょっと相貌が異なっていた」らしいが、とにかく五体満足で生存し、
どころか艦娘達と一緒になって戦っていたのだという。
俄には信じがたいことだったが、寧ろ自分の耳を疑ったが、これにはシンは素直に喜んだ。
自分のやったことは無駄じゃなかったと、密かに瞳を潤ませもした。
そこで、こりゃ早く会わねばとシンが呉の提督に直談判したのが、つい今さっきのことだったのだ。

「当然でしょ。なによ、文句あるの?」
「ないって。むしろ、こうなったらトコトン頼らせてもらう」
「ふ、ふん・・・・・・!」

件の防衛戦に参加した呉の艦娘は12人。その内の天津風含む5人は予定通りに昨日帰還して、残り7人は臨時防衛隊として佐世保鎮守府に長期滞在することになっている。
これは鹿屋も同様だ。流石にこのご時世に12人もの戦力を長期間他に回すほどの余裕はなく、けれど助けるだけ助けて後はほったらかしというのも有り得ないので、これが最大の譲歩案だった。
呉と鹿屋からの7人と、佐世保復帰組だけでも、体勢が整うまでの専守防衛なら事足りるであろうという計算だ。
その出向防衛組の滞在期間は二週間。
つまり、そいつらが帰って来るまでは、シンの佐世保行きはお預けということになる。
深海棲艦との戦争は若干人類側が優勢とはいえ、やはり戦力はカツカツなのだ。
異世界人とはいえシン一人の為に呉の戦力は減らせない。佐世保で一戦力となっているキラが動くなんてことも論外。それが佐世保と呉の提督が有線通信を用いて協議した末の、結論だった。
二週間。
短いようで長いなと、シンは溜息をつく。

「・・・・・・なぁ。そういえばさっきから、どこに向かってるんだ? 俺、メシ食いたいンだけど」

ところで、天津風はこれから何処かへ出かけるのか、白いロングワンピースに黒のカーディガンを羽織った私服姿だった。縁起の良い紅白カラーのマフラーを腕にひっかけて、どこかお嬢様然とした出で立ちだ。
こうなると本当にただの綺麗な女の子といったものだが、勿論彼女は立派な艦娘である。
艤装を解除して、艦娘としての超常的能力の大半を封印した非戦闘モードの彼女――因みに、艦娘としては艤装を装備している状態こそが自然体である――だが、それでも通常の人間とは比べものにならない身体能力を備え
ている。遺伝子調整を施して生まれたコーディネイターでありザフトのトップエリートだったシンだが、所詮は普通の人間、彼女に袖を掴まれては振り解くことは出来なかった。もとよりする気はないが。
しかしだからといって、このままでいいわけもなく。
0093ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:37:05.77ID:DDhAtvrz0
代わりにシンは抗議の声を上げる。ついでに腹の虫も声を上げた。
そろそろ空腹も限界で、提督と話し終わったし食堂に行こうと思ったところで少女に捕まったのだ。いい加減解放して欲しい。食事は何よりの癒やしなのである。
それをなんの権利があって、この小娘は邪魔するのか。
方向からして食堂とは正反対の、エントランスのようだが。お出かけするなら勝手にどうぞ。

「それね、残念だけど今日は食堂やってないのよ」
「は?」
「ちょっとしたトラブルがあってね。復旧は明日の昼頃って」
「マジ? ・・・・・・え、マジで? 売店は・・・・・・てか、それでもなんかあるだろ? 賄いのとか」
「マジよ。酒保とかも今から行っても間に合わないわ。軽食争奪戦は私達の不戦敗ね」
「なんだよ、それ・・・・・・!?」

待ってほしい。
なんの冗談だ、それは。
シンの顔が絶望一色に染まる。
この呉にやって来てからというものの、食事は全てここの食堂でお世話になっていたのだ。今までずっと外出を許可されなかった――というか、実質軟禁状態のシンにとって、食堂のタダ飯は命綱である。
もはや世界の全てと言っても過言ではない。
それで、そもそも異世界人であるが故に無一文なので利用したことはないが、酒保もダメと。サンドイッチとかも全滅と。
え? 三食抜き? そりゃその気になれば耐えられるけどさ、飢えちゃうよ俺? 
となれば、それはつまり世界の終わりではなかろうか。
いやまてはやまるな。
冷静に考えればここは軍の施設、こういう事態を想定してカップメンや缶詰といった備蓄はあるだろうが、天津風曰くそういったものは出撃した艦娘に優先的に回されるらしい。
今日明日の食事は各個人でなんとかしないといけないと。
ならば、どうする? 繰り返すがシンは無一文だ。一応VIPらしいがその身分は一体如何程のものだろうと、彼は頭を捻る。上の連中はちゃんと考えてくれてるのだろうか? 正直、怪しいところだが・・・・・・上の連中、うえ、うえか・・・・・・
俄に腹の虫が、なんか食わせろと大合唱し始める。「飢え」という一文字で一杯になった頭は上手く回らなくなる。どうすればいいのか皆目見当もつかなくなった。
なんにせよ、今すぐ何かを腹に詰め込まなきゃどうにもならない。もう待ってなどいられなかった。
そんな哀れな男を助けるのは、やはりお世話係兼監視役の少女、天津風。

「だから外食するわよ。ついでに服も買わないとね。外出許可は取ってあげたから、折角だし街も案内したげる・・・・・・私の奢りよ、感謝なさい?」
「・・・・・・誠にアリガトーございます天津風サマ」
「よろしい♪」

こうしてシン・アスカは、初めて呉の街に繰り出すことになったのだった。
0095ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:39:34.29ID:DDhAtvrz0
《第7話:紅き瞳を導きし、新たなる風》



どうやら保護者と一緒なら外出許可が下りるらしい。
エントランスで待ち合わせしていたらしいもう一人の少女と合流した天津風一行は、まず服屋に立ち寄った。
買い求めるはシンの私服である。
なにせ今の彼は、全身真っ赤なザフト赤服一着しか持っていないのだ。厳密に言えばパイロットスーツもあるのだが、アレは服としてはカウントしないだろう。
一応、提督から譲ってもらった部屋着と作業着もあることにはあるが、それも借り物なうえに外出には適さない。いい加減に自前の服を揃える必要があった。なにせ赤服は目立つ。この世界ではどう控えめに見ても、何かのコスプレのようだった。
鎮守府の門から出てきた青年は、当然とばかりに世間の皆様の視線を一身に集めることと相成った。
こう言ってはなんだが、艦娘の戦闘用ユニフォームもなかなか奇抜で特異で非現実的というかソレ着てて恥ずかしくないのと疑問に思うものばかりなのだが、ぶっちゃけそれと同レベルなのだ、赤服は。
当の艦娘達はもうそんな奇異の目には慣れたし気にしない――こればかりはどうしようもないらしい。
是も非もなく、生まれた時からその服とセットだったのだ――が、今や世間では「浮き世離れした格好=艦娘」という誤解極まる図式が成り立っている。
そんじょそこらのアニメ漫画より、艦娘のほうが影響力のある世の中である。人類の希望だからね、仕方ないね。普通に学生服や和服な娘も多いんですけどね。
まぁそんなわけで、今のシンは年甲斐なく艦娘っぽいコスプレしてる残念なイケメンとして見られているのだ!
せめて誰かにコートか何かを借りるべきだった。
C.E. ではトップエリートの証だった赤服がそのように見られるというまさかの屈辱にシンの頭は沸騰寸前になるが、そこは旧ザフトが誇るスーパーエース、なけなしの自制心でぐっと堪えた。
うん。これ、なんて羞恥プレイ?

「くそぅ・・・・・・いつか見返してやる」
「誰によ」
「さぁ?」

そんなわけで、シンは普通の服を手に入れた。
嗚呼、素晴らしきかな普通。普通であることの幸福感は、きっとかけがえのないものだろう。
黒のジャケットに臙脂のシャツ、これにジーンズとブーツとでカジュアルコーディネイトされたコーディネイターは、どこからどう見ても立派な一般人である。
その他にも赤系統の服を数着入手して、部屋着共々だいぶ選択肢が増えた。しかも結構格安で。なんでも艦娘なら割引されるらしい。というか、艦娘達の給料ってどうなってるんだろう。
なにはともあれ。
これで、第一目標は達成された。

「シンさーん。これなんかどうでしょう?」
0096ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:41:04.34ID:DDhAtvrz0
「マフラーか。確かに・・・・・・サンキューなプリンツ」
「Gern geschehen! シンさんって何でも似合いますね。コーディネイトし甲斐がありますよー」

された、の、だが。
おさげにした黄金色の髪と、翡翠色の瞳を持つ少女、プリンツ・オイゲンが嬉々として次々と新しい服を持ってき始めた。フリルいっぱいのミニスカートをひらひらさせて、あれよこれよと店内を忙しく巡る。
なにやら乙女心に火がついたらしい。
彼女はドイツ生まれドイツ育ちのアドミラル・ヒッパー級三番艦重巡洋艦の艦娘。約三年前に日本国に出向してきて、天津風と同じ支援部隊に配属、その縁で彼女らはよく一緒にショッピングしたりするとか。
余談だが、呉鎮守府は彼女のような海外からの出向艦を多数受け入れており、多国籍艦隊を中心に運用している世界でも珍しい存在なんだとか。佐世保に臨時防衛隊として向かったドイツ出身のビスマルクや
グラーフ・ツェッペリン、イタリア出身のザラとポーラはその一角だ。他にもイギリスやアメリカから来ている者もいるという。
西太平洋戦線は世界中から重要視されており、呉はその前線基地として機能している為、海外からも精鋭が送り込まれてくるという理屈だ。
さて。
そんな精鋭の一人であるプリンツとシンは今回初めて会話することになったのだが、実は、彼女は彼のしかめっ面を恐れていた一人だったりする。
鬼の形相とまではいかないが、かつて「独りでにすっ飛ぶ抜き身のナイフ」とまで囁かれた青年の眼光は、多少丸くなったとはいえ少女達をビビらすには充分過ぎるものだった。
尤も、悩み多き青年が突如置かれた異世界の、軟禁同然の生活環境で「リラックスして肩の力を抜きなさい」というほうが無茶なので、ずっとしかめっ面であったのは仕方のないことなのだが。
つまるところ、この世界の人間からしたらシンは「異世界の軍人で、巨大なロボットに乗って人間同士の戦争を生業としてきた目つきの悪い青年」といった感じに映るわけで。
そりゃ誰だってビビる。たとえ大の大人であっても、歴戦の艦娘であっても。誰も彼もがシンを遠巻きに眺めるだけだった。
実際、さっきエントランスでよろしくと声を掛けられた彼女は、それはそれはわかりやすくビクゥッと身体を硬直させたものだ。内心ただならぬショックを受けたシンであったが、天津風が仲介することでなんとか
挨拶を済ませることができた。
そこまで来ればもう一息。彼は人付き合いが苦手なタイプではない。
初めての外出でリラックスできたことも大きいのだろう。移動しながら会話を重ねるにつれて「なんだ顔が怖いだけでなかなかフランクな人じゃないの」と誤解を解くことに成功し、
ついで「笑った顔は意外と可愛い」という心外な評価を得たシンは、なんとかプリンツの信頼を勝ち取るまでに至ったのだった。

「このしかめっ面さえなければねぇ」
「そうですよ。とても整った顔立ちしてるんですから、笑わなきゃ損ですって」
「そ、そうか・・・・・・?」
「あっ、天津風! これも良いかも! ・・・・・・ほぉ、ほぉほぉ、なるほどねぇー」
「プリンツ。これもイケると思わない? いい風きてるわ、この組み合わせは試す価値ありそうね」
「・・・・・・なぁ二人とも。いい加減・・・・・・」
0097ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:43:51.74ID:DDhAtvrz0
天津風とプリンツ・オイゲン。
それなりにシンと仲良くなった二人の情熱は、よりヒートアップしていく。
女の子と一緒の買い物である。目的は済ませたからハイじゃあ次、とはいかないのだ。こういう時、男の立場は限りなく低い。
彼女らに「ちょっとだけ」と着せ替え人形にされるのは、もはや必然でさえあった。最初こそ悪い気はしなかったものの、流石に半時間もマネキン代わりにされると・・・・・・
とっかえひっかえ。シンはこれ以上ないぐらいに早着替えを要求された。
加速度的に、その両腕に紙袋がぶら下げられていく。男モノだけでこれだ、女モノのコーナーに行ったらどうなるんだろう。
シンは額に嫌な汗を流しつつ、同時にある懸念を抱いた。
さて、彼女達は覚えているだろうか、と。
この外出の主役はランチであるということを。
そろそろ、いやマジで、限界なんだけど。目が回り始めてきたんだけど。
まさかこのショッピングだけで、あと何十分も続くなんてことは・・・・・・
お二方、楽しむのも結構ですがね?

「・・・・・・あ」
「〜〜ッ!」
「そ、そろそろ行きましょうか?」
「そ、そうですね! お腹すきましたし!」

だが安心してほしい。
「それ」はなにも、シンだけの問題ではなかったようだ。
きゅるる〜、という可愛らしい音が、三人の腹から同時に発せられる。結構、店内に派手に響いた。主観的に。
それを合図に、三人はそそくさと服屋を後にしたのだった。
0099ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:47:02.89ID:DDhAtvrz0




「お待たせ致しました。かずきカレーセットと、あきらカレーセット、みなしろシチューセットです。ごゆっくりどうぞ」
「おお、きたきた」

天津風が「かずきカレー」、プリンツが「あきらカレー」、そしてシンが「みなしろシチュー」だ。これに「かずきサラダ」と「みかどケーキ」が人数分。なかなかに素敵なランチが頂けそうだった。
喫茶・シャングリラ。
海辺に面したアットホームな雰囲気の店で、メニューには作った人の名前がつくというちょっと不思議なルールがある。
また、店内には何故か大きなカジキの置物があって、それらが普通の喫茶店とは一味違う独特な空気感を醸し出していた。なんでも、呉の艦娘達に人気な店なんだとか。
甘ったるい声のウェイトレスさんが下がると、三人は待ってましたと匙を握った。

「いただきます」

声を揃えて、大ぶりなスプーンで一口。

「! ・・・・・・これは、美味い」
「でしょでしょ! 今日のあきらカレーは辛口南国風みたいだけど、これもおいしー! Lecker!!」
「かずきカレーは――うん、シンプルにビーフカレーね。やっぱり流石、マスターは」
「え、なに。同じ名前で違うことあるのかよ?」
「それがお楽しみなのよ。前のかずきは甘口チキンカレー。それでいて全部美味しいんだから」

なんとまぁ、本当に独特な喫茶店のようだ。よっぽどの腕と自信が無ければこうはいかない。
シンが頼んだシチューもこれまた絶品で、苦手な貝柱とキノコが入っていたのだがペロリと平らげることができた。小娘達の手前、勇気を出して食べてみて良かったと心から思うシンであった。
こんなに美味いものを食べたのは久しぶりだ。
そうして、それぞれメインを堪能して、ケーキに舌鼓を打って。

「はいこれ、サービス。いつも来てくれるから・・・・・・好きだろ?」
「あ、マスター・・・・・・ありがとうございます。いただきます」
「メロン味! Danke、マスターさん♪」
「・・・・・・ども」

途中、マスターが飴玉をプレゼントしてくれたり、

「彼氏さん?」
「違います」
0100ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:49:07.48ID:DDhAtvrz0
「即答かよ。いいけどさ」
「そうなの? おかしーなぁ」

ウェイトレスさんにからかわれたり、

「先輩大変です! 一航戦が・・・・・・一航戦が呉駅から接近中って!」
「なんだと!? バカな、早過ぎる!」
「ヴァッフェ・ラーデン(第一種警戒態勢)始動! 翔子、カレー増産急げ!!」
「わざわざ横須賀から・・・・・・!? こうしちゃいられないわ。プリンツ、シン、手伝うわよ!!」
「りょ、了解!」
「え、俺も!?」

なんか襲来してくるらしい計二名の団体様をもてなす為に、何故か厨房に立つことになったりもしたが・・・・・・意外と喫茶店で働くのもアリかもしれないとシンは密かに思う。うん、C.E. に帰れたら軍なんか辞めてやろう。
まぁ、なんか色々あった。

「ごちそうさまでしたー」
「あの二人は一体なんだったんだ・・・・・・」
「ただのフードファイターよ。気にしないで、私は気にしない。・・・・・・じゃあ、次にいくとしますか」

そんなこんなで満腹になって喫茶店を出た三人は、天津風が言っていた通りに呉の街を観光することになった。
二人の少女に引っ張られ、やれやれとついて行く青年の顔からは、いつの間にか皺は無くなっていた。
まだまだお昼時。すっきり晴れ渡った高い空の下、活気溢れる町並みをのんびりと征く。
ショッピングモールに突入して、女モノの服を物色して。
本屋に入って、世界情勢に関する雑誌や漫画本を買って。
ゲームセンターに行って、プリンツがジャンル問わず無双を誇って。
屋台で購入したクレープで、危うく間接キスしそうになって天津風が慌てて。
そこらの少年少女の青春模様と同じような休日を満喫する。
いつしか三人で、一緒になって笑い合って。
そうした行為のなにもかもが、シンにとっては初めての体験だった。

(ルナと一緒にこうして街を歩くことも、なかったっけな)


その体験は、否が応にも青年の過去を刺激する。


思えば。
シン・アスカという男は、いつも閉じた世界にいた。
あの運命の日、14歳の初夏。天涯孤独の身となったオーブ解放作戦まではずっと家族に、妹にべったりだった。
勿論クラスメイトと遊んだりはしたが、それも男友達とスポーツをするかゲームをするかといった感じで。あの時は家族の存在こそが世界の全てで、それ以外はいらないとさえ思っていた。
0101ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:51:20.60ID:DDhAtvrz0
それから独りで宇宙に上がり、「己にもナニかを護れる力を」とザフトに入隊してからは自ら独りでいることが多く、もう戻らない、家族と過ごした幸せな日々に想いを馳せてばかりだった。
猪突猛進に、直情的に、考えなしのまま力を求めた。
それでも何人か友人はできたが、いつも腹の中に渦巻く怒りが、彼らと自分の間に明確な線を引いていた。彼らに遊びに誘われても、どこかが醒めていた。なんでお前らはそんな暢気なんだと。
チームメイトで相棒のレイ・ザ・バレルにも、後に恋人になったルナマリア・ホークにも。また戦争が始まるまでは本音をぶつけた合ったことさえもなかった。
彼は決して、人付き合いが苦手なタイプではない。けれど自身の悲惨な過去が、他人との接点を拒んでいた。他人を軽んじていた。今にしてみれば、なんて冷たいヤツだろう。
かつて「独りでにすっ飛ぶ抜き身のナイフ」とまで囁かれた狂犬は、誰にも心を赦していなかった。

(戦争になってからは、どんどん余裕もなくなって。なにも見えなくなって)

シンはいつも閉じていた。
アーモリー・ワンでの騒動を機に始まったユニウス戦役では少しは仲間達と打ち解け、正面から臆面無くモノを言い合える上司にも出会ったのだが、しかし自分の心が限界を迎えるほうが早かった。
状況はちっぽけな少年の許容値を軽々と超えた。
信じていたものに裏切られ。
護りたいものは守れず。
大切な人を殺して、あるいは殺しかけて。
何度も、何度も。
望む世界があった筈なのに、無自覚に周囲に流されてしまっていつの間にか望むモノをすり替えられて。
募るばかりの怒りと困惑に、ただただ支配された。なにも考えられず、示されるまま力を振るうしかなかった。
戦争だからと、平和の為だからと、お前らが悪いと、最後まで走り続けた。
己にもナニかを護れる力を。その想いばかりを暴走させて。
もう、どこまでも閉じるしかなかった。

(欲しかった世界、力。俺は結局、誰も見ていなかった癖に、見ようとしなかった癖に、何を為せると思ってたんだろう)

だから、与えられた力で己の心と過去を護ろうと、目と耳を塞いで戦った自分が。
最後に、開いた未来を求める彼らに敗北したのは、必然であったのかもしれない。
その後。戦争に負けて、唯一自分のそばに残ってくれたルナに支えられ救われたシンだったが、けれど新地球統合政府の為に戦う日々の中では、二人の時間というものもなかなか取ることが出来なかった。
だから、こんな風に誰かと街を歩くことなんてなかったのだ。
そんな過去が、青年の首筋をちくちくと刺激した。
そんな人間が、今この時、二人の少女と笑い合ってるなんて、どんな因果だろう。

「――ふぅー」
「お疲れ様。コーヒー、ブラックで良かったかしら」
「サンキュ。・・・・・・にしたって、買いすぎだろ」
0102通常の名無しさんの3倍垢版2017/09/14(木) 04:53:32.04ID:F/9FvV3M0
連投回避
0103ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:53:59.92ID:DDhAtvrz0
「あら、女の子はこれぐらい普通よ」
「そうかよ」

太陽が西に傾きかけてきた頃。
一行は臨海公園で一休みすることにした。整備が行き届いたベンチに座り、三人揃って缶コーヒーを啜る。流石に歩きぱなっし喋りぱなっしで疲れたのか、暫し無言のまま蒼くさざめく海を眺める。
眺めてシンは、今度はこの二人と歩いたこれまでの道筋を思い返す。
たった四時間と少しだけだが、確かに沢山の出来事があった。どれもこれもが大切な思い出になると断言できるような、濃密な時間。
その尊さを知ってから初めて享受できた、普通の人間としての平和。
そう。


この街は、本当に平和そのものだった。


戦時下とはいえ、人類共通の敵を相手にしていることもあるのだろう。
幼き自分が力を得て、戦ってでも欲しかった優しくて暖かい世界が、ここにはあった。

「受け入れられてるんだな」
「そうね。ありがたいことにね」

おもむろにシンは紅の瞳を細めて、力なく呟いた。

「極端な人もたまにいるけど、私達はここで生きていくことができてるわ。普通の女の子としても」
「ここだけじゃないですよ。皆さん、どこに行ってもよくしてくれます」
「そうか・・・・・・」

それはただの感想、独り言のつもりだったが、それぞれ思うところがあったのだろう。天津風とプリンツはしみじみと頷いて応える。ミルクたっぷりのコーヒーを口に含み、その眼差しを遠く水平線へと向ける。
彼女達もまた、自分達という存在が「どういうモノ」かを十全に理解しているのだ。
青年が何故そんな感想に至ったのかをも察して、静かに次の言葉を待つ風情で

「――っ」

そうと感じ取れたから、だからこそ、シンは溢れ出てくる感情を押し込めることができなくなった。
言葉を聞いて貰いたくて、たまらなくなる。
ただの独り言のつもりが告白となって、勝手に青年の心情を少女達に伝達する。

「俺には、眩しすぎる」
0104ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:56:05.49ID:DDhAtvrz0
歩いてみてわかった。
この街の人々は平和に感謝し、そして艦娘という存在を受け入れているということが。
共存。
共栄。
この二つの単語が根付いているということが。

「なんで――」
「?」
「――なんで、俺は。俺達は。こんな世界にいられなかったんだろう」
「・・・・・・」

シンの言葉に、二人は困ったように顔を見合わせた。
彼女達は艦娘。
人間と同じような姿形をしているが、根本的に異なる生命体だ。遺伝子改造の有無とか、そんな次元の話ではなく、存在の在り方そのものに絶対的な違いがある。
誰がどう唱えたところで艦娘と深海棲艦はヒトデナシの化物である。
人間は窺知しがたいモノを、己とは違うモノを、わからぬモノを拒み遠ざけようとする生き物だ。異質は不安を呼んで、やがて憎しみとなって対立することも沢山ある。
人は容易く敵になることを、容易く手のひらを返すことを、シンは戦争を終えてから知った。
人同士が殺し合う戦争がなくても、それが平和と、平穏とイコールになることはない。
争いは何処にだってあって、たとえ夫婦だろうが家族だろうが、わかりあえずに、けど無関心ではいられずに牙を剥くことは珍しくない。
同じ人間同士なのにあらゆる分野で状況で、故あれば争わずにいられない。容易くその手に銃をとる。
他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。
部族間戦争、国家間戦争、種族間戦争、夫婦喧嘩、兄弟喧嘩、いじめ、利害、契約、命令、怒り、憎しみ。
ただの人間同士でこれだ。
だからC.E. では、コーディネイターとナチュラルが宇宙に上がってまで戦争をした。取り返しのつかない大き過ぎる人種間対立の果てに、総人口は最盛期の3割以下までに減った。
人類史上最大最悪の殺し合い。嫉妬と羨望、傲慢と優越感の極み。コーディネイターとナチュラルは、所詮遺伝子を弄ったか否かの違いしかないのに、互いが互いを窺知しがたいモノと、己とは違うモノと、
わからぬモノとして扱った。互いが欲しがった世界が、力が、良かれと思って起こした行動が、世界を容易く引き裂いた。
互いがちゃんと真っ正面から受け入れ合うようになったのは、二度の大戦を経て新地球統合政府が発足してからのことだった。ようやくの、余りにも遅い和解だった。

「あんなハズじゃなかった。あんな世界が欲しくって戦ったんじゃない。俺も、みんなも、大切な誰かと静かに暮らせる世界が欲しかっただけなのに、平和を願って争うんだ」

なのにここに争いはなく、両者は善き隣人として受け入れ合っている。
街を歩けば誰もが笑顔で迎えてくれた。
服屋で、喫茶店で、ショッピングモールで、本屋で、ゲームセンターで、屋台で。
0105ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 04:58:04.07ID:DDhAtvrz0
少女達が艦娘だと気づけば、お疲れ様とか、いつもありがとうとか、頑張ってねとか。そういった暖かい言葉が当たり前のように降り注ぐ。
何故?
人間と艦娘は、コーディネイターとナチュラルの比ではないぐらいに違う存在なのに。
神格化されているわけではない。畏怖されているわけではない。迫害されているわけではない。
深海棲艦という強大な人類の敵がいるからといって、それは余りにも不思議だった。
これでは、まるで。


「まるで、人間の出来そのものが違うみたいじゃないか」


「それは・・・・・・」
「選んだ道を後悔してるわけじゃないけどな・・・・・・。けどやっぱり、こんな世界を見てるとそう思うよ、俺は」

それっきり、シンは瞳と口を固く閉ざして俯いた。
しばし波の音だけが空間を支配する。三人は黙りこくって、すっかり空になった缶を弄ぶ。シンはどうしてこんな泣き言めいたことを言ってしまったのかと後悔して缶をグシャリと握り潰し、天津風とプリンツはシンの言葉を反復するように淵をなぞった。
沈黙が重い。
想いが重い。

「・・・・・・」

天津風はその想いにどう応えるか、決めあぐねていた。
この青年が人間同士の戦争に参加していたのは、表面上のみだが知っていた。その言葉に込められていると感じた、計り知れないほどの悔恨の念と憧憬の念は間違いようもなく本物なのだろう。

(きっと自分の世界を、人間を、好きになれていないのね)

この世界と比較して、自分達にはできないと感じてしまったのか。
言いたいこと、言えることは沢山あるが、さてどう切り出したらいいものか。
柄にも無く迷う。
そうして意味もなく青年の横顔を見詰めていると。
一陣の風が三人の間を吹き抜けた。
キリリと身が引き締まる冷たい風。
それに後押しされるように、ええいままよと天津風は意を決して、思考を言葉に乗せた。

「――結局、そこにいるヒト同士の気持ち次第なんじゃないかしら」
「え?」
「受け入れること、受け入れられること。アナタの世界には、それが欠けてたって思うのね?」
「・・・・・・ああ」
0106ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 05:00:11.67ID:DDhAtvrz0
「・・・・・・でもね。この世界も多分、アナタが思ってるような都合のいい、優しいだけの世界じゃないわ。みんなが私達を受け入れてくれたキッカケは、けして善意だけじゃない」
「・・・・・・どういうことだ?」
「政治的な思惑もあるってことですよ、シンさん」

今まで沈黙を保っていたプリンツが、天津風の言葉を引継ぐ。

「私達がちゃんと人類の意に沿うようにと。そういったオトナの事情があったのも確かなんです」
「なんだよ、それ。そんなの――!」
「私達が艦娘と呼ばれるようになった経緯はご存知ですか?」
「・・・・・・え、あ、ああ。知ってる。でもそれがどうしたんだよ」

その突然の質問に、シンは面食らった。本題とズレてないか? と訝るが、プリンツにまぁ聞いてと宥められる。
一体どういうつもりだ?
疑問に思うが、ひとまずシンは呉の提督が言っていたことを思い出す。
艦の娘と書いて「かんむす」。
彼女達を単なる兵器として扱いたくない派閥が提唱し、定着したその名称。

「最初にかんむすって聞いた時、どう思いました?」
「それは・・・・・・」
「正直に言っていいわ」
「・・・・・・、・・・・・・あー。ぶっちゃけ、なんだその巫山戯た名前って、思った。はぁ? 仮にも軍のモノの名前がそんなんでいいのかよって」
「あ、やっぱり? 実は私もそう思ったの」
「私もって・・・・・・なんなんだよ、そんな質問をいきなり」

にっこりと笑顔を浮かべるプリンツに続けて、天津風。

「その呼称と一緒にね、ある仮説が発表されたの。深海棲艦と艦娘を、人智を超えた存在を、まったくわからないなりに大衆に解りやすく定義付けた仮説が」
「それも提督から聞いた。防衛省のだろ?」
「そうよ」

命を産んだのが海であるのなら、心を産むのもまた海である。
人間の記憶や想いといった霊的エネルギーが海に集い、飽和し、カタチあるものとして顕現したのが彼女らである。
艦娘は人間の善意が、深海棲艦は人間の悪意が。それぞれ過去に沈んだ少女と艦、それに残留していた記憶と想いを媒介に誕生した新しい生命体なのだと。
そんな抽象的で勧善懲悪的で幻想的な仮説。
どうせわかりもしない真相などどうでもよい、わかりやすさと聞き心地の良さだけを追求した「人間の言葉」。
艦娘という固有名詞とソレは、瞬く間に世界中に広まった。
0107ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 05:02:06.14ID:DDhAtvrz0
「仮説というよりはプロパガンダのほうが近いかも」

全ては艦娘を人類の味方につける為の「言葉」だった。
是非とも、艦娘には戦って欲しい。人間同士で、艦娘と人類とで疑心暗鬼になっている場合じゃない。
艦娘は人類の味方である崇高な存在であることを民衆に、人類は一枚岩であることを艦娘に、それぞれ示さなければならない。
人間に不審の目で見られ、脱走や反逆を考えられたら堪らない。人間は信用ならないと、敵になったら最悪だ。
艦娘の精神構造も人間のソレと大差はないらしい。人間とは全く違う、人の手に負えない存在を懐柔する為には、まず世論操作が必要だった。
人間社会では当たり前の計算と計画があった。

「でもその妙ちきりんな名前とふんわりした仮説がね、私達を助けてくれたのも事実なの。それまで、みんなピリピリしてたから。人間が相手でも、艦娘同士でも」
「みんな雰囲気が柔らかくなったよねぇ。利用されてるってのは変わらないけど、まぁ悪くないかなって」

その政治的な目論見は成功した。
海を化物に支配された現状で、みながみな緊張状態だったなか、民衆が艦娘を受け入れる下地ができた。「私達は貴女達を歓迎します。だからどうか戦ってください」と、更なる軍拡をスムーズに進行させる用意ができた。
艦娘側も、人類に認めて欲しかったから、あえてそれに乗った。
ただそれもキッカケに過ぎなくて。
そしてそこで、誰もが予想しえなかった方向に状況が動いた。

「そしたらね、私アイドルになる! って言い出す艦娘とかが出てきてね」
「・・・・・・は? なんだそれ」
「おかしいでしょ? けどそれで本当に、私達は世間に受け入れられるようになった。同時に、彼女達によって戦い以外の選択肢も提示されて」
「今やトップアイドルだもんね那珂ちゃん達。最初は勢いとやる気だけで凄く苦労したらしいけど・・・・・・私もファーストライブ観たみたかったなぁ」
「あら、じゃあDVD貸すわよ。・・・・・・それは今は置いといて」

偶然テレビで見たアイドルに憧れ、自身もそうでありたいと願った少女を筆頭に、人類の思惑を超えて自ら人間社会に干渉し始める者が出てきたのだ。
認められたくて、自由になりたくて。刺激を求めたくて、満たされたくて。表現したくて、繋がりたくて。思い思いに、普通の人間と同じように戦争以外の道を模索する。
芸術の道を志したり、レーサーをやってみたり、グルメの旅をしてみたり、料理をしてみたり。艦娘の機嫌を損ねることを恐れた軍令部はそれを止めず、渋々とある程度の自由を容認することしかできず。
そんな艦娘に感化されて、それまで軍施設に引きこもっていた少女達もおっかなびっくり街に出るようになって。
そして遂に艦娘達は民間人と交流するようになり、やがて、みんなから愛される存在になることができた。


自分を知り、他人を知り、繋がり方を自分で考え感じる。
0109ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 05:03:12.30ID:DDhAtvrz0
己の記憶と信念に基づいて自ら戦うことを選び、けれど命じられるまま戦うしかなかった少女達が、一人の女の子として人類に受け入れられた瞬間だった。
人間社会と同じように、個人的な繋がりが大きな流れになった。

「結局何が言いたいっていうと、人間と精神構造が変わらない私達だから、社会的な隣人との付き合い方も同じなの」
「そういった一つ一つの思惑や思いが絡み合って、偶然、運良く善い方向に転がった結果が今。人は容易く敵にもなるけど、友達にもなれるのが人だから」

同じような展開があっても、何かが違えば実験動物扱いされてたか、三つ巴の戦いになっていたかもしれないと苦笑して締めくくった天津風。
その言葉に、シンは絶句する。
結局、そこにいるヒト同士の気持ち次第なのだと。隣人と敵になるか友達となるかは。
そんな当たり前のことを忘れていた。


C.E. でも、何かが違えばもっと早くから平和になってた――?


歴史にifはない。そんな仮定に意味はない。
けれど「そんな可能性もあったかもしれない」ということを考えられる思考回路そのものがすっかり抜け落ちていたことに、彼は今になって気づいた。
あの戦争はなるべくしたなった、必然のものだと思っていた。
個人の想いなど何にもならない、募った悪意と煽動者によって突き動かされたコーディネイターとナチュラルの敵対は、絶対に逃れられない運命だったのだと。
人間の在り方そのものが、それ以外の道を消していたのだと。
でも、違った? 結局のところ、状況を言い訳にして受け入れること、受け入れられることを自ら放棄していた?

「俺の世界の人間も、こうなれたかもしれない可能性があったのか?」
「都合のいい、優しいだけの世界なんてないもの。どこも政治的な思惑に満ちてて・・・・・・言葉で、状況で、人は簡単に大きな流れに飲み込まれて。
けど、受け入れること、受け入れられることはやっぱり当人同士の気持ちの持ちようでしかないのよ、きっと」
「だからそんな、自分の世界のことを悪く思わないであげてください。そんなの悲しすぎますよ」
「・・・・・・!!」

計算通りにいかない、儘ならない、何がどう転がるのかわからないのが世の中というものだから。
二つの世界といっても人間の精神構造はそう大差ないのだから。

「この世界も、アナタの世界も、ちょっとだけ何かが違っただけでしかないと思うの。だから・・・・・・そう、アナタの世界もそんな悲嘆することばかりじゃないって、人は過ちを繰り返すばかりじゃないって私は信じてるわ」
「いつかシンさんの世界も、この世界より平和になりますって。だって、シンさんが頑張ったから、地球もキラって人も助けられたんでしょう?」
0110ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 05:05:19.44ID:DDhAtvrz0
「・・・・・・そうか、そうだな」

あの戦争は本当に、どうしようもなく避けられない、仕方のないものだったのかもしれないけど。
だけどもうちょっと、あの世界の可能性を信じてみても良いのかもしれない。
そう。あんな世界だけど、それでも護る為に再びその手に剣をとったのは自分自身じゃないか。
少し、ほんの少しだけ、自分自身が開けたような気がした。

「ありがとな、天津風、プリンツ」

また明日、という言葉が何処かから聞こえてきた気がした。
それは幻聴だと知っていたが、懐かしいその声に思わず肩が震えた。

「いらないわよ礼なんて。アナタがあんまり情けないコト言うから、思ったことを言っただけなんだから」
「シンさん、とても沈んだ顔してましたから。放っておけませんよ」
「わかってるさ。でも、楽になった」
「そう。ならよかったわ」

素直な感謝の言葉が自然と出てきたことに自分でも驚きつつ、でもそれは良いことだと受け止める。
まったく、他人から見ればなんとてこともない平凡な一日だったというのに、なんだか昨日までの自分とはまるで別人になれたような気分で。
久しぶりにとても良い気分だ。

「さっ、難しい話はこれまで。夕飯の材料を買いに行くわよ!」
「作るのか?」
「キッチンが使えないから、今夜は庭でバーベキューパーティーらしいわ。外出するならついでに食材買ってきてって言われてるのよ」
「Wunderbar! ドイツ出身艦娘の腕の見せ所です!」

ぽんっと掌を合わせた天津風が立ち上がりながら言い、プリンツが瞳を輝かせて勢いよく飛び上がる。
早くも夕飯に思いを馳せているのか、二人とも本当に良い笑顔だ。
そうしていると本当、ただの歳相応の子どものように見えた。さっきまで人間についての持論を語っていた人物と同じとは思えなくて、そのギャップに思わず笑みが零れる。
今までずっと燻っていた自分がバカみたいだ。

(もう、らしくもなく思い悩むのは止めだ)

ここに転移してきてからずっと考えていた。
C.E. はちゃんと破滅を免れたのか、とか。
この世界でどうやって生きていけばいいのか、とか。
そういうのは、この世界の人間を信頼して、自分にできることをやりきってからにしよう。
そして、これもこの街を歩いてみてわかったことだが、やっぱり自分は行動してなきゃ気が済まない性分なのだ。鎮守府で大人しく誰かが持ってくる結果を待つだけの生活など、性に合わないのだ。
0111ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 05:07:08.75ID:DDhAtvrz0
だから行動しよう。
今の自分自身にできることをしよう。
自分一人でやるつもりでいたが、愛機のデスティニーを修理にみんなに協力してもらおう。そしてできるだけの準備をしてキラに会うのだ。
そうと決まれば、きっとやらなきゃならないことは沢山ある。

(二週間なんてあっという間だ)

長いようで短い二週間。
忙しくなるぞと、シンは気合いを新たに立ち上がる。

「バーベキューするなら、焼き芋も一緒にどうだ? たしか今が旬だろ?」
「ナイスアイディアね。いいじゃないの」
「レンタカー手配してきますね! 買いまくりますよー!」

そうして二人の少女と共に、青年は再び紅に染まりつつある呉の街を練り歩くことになったのだった。
0112ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/09/14(木) 05:16:53.30ID:DDhAtvrz0
以上です。
ナイーブ回路全開のシンというものを上手く表現できてるといいんですが。

ところで、今回は自分のSSのイメージ画を描いてみました。
もし興味があったら見てみてください。こういうのOKですよね?
ttps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=64763737
0113通常の名無しさんの3倍垢版2017/09/15(金) 00:43:17.50ID:zrkPeqNx0
更新乙です、てか絵うまっ!
何気ない服のシワとか「描いてる人」を彷彿とさせますねぇ。

本編ですがシンそこ代われ・・・もといこの板らしからぬ甘々な展開ですなw
人類と艦娘と繋ぐ糸は、やはり深海棲艦という共通の敵があるのが大きいかと。
昔、中国の梁山泊が政府に反骨していながらも、国のために外敵と戦った
エピソードを思わせますね。

>>90
エリ8のエピソードは漫画版のほうです。指令のサキが単独でキムとセラを救出に行こうとして
部下の傭兵たちが次々と「散歩なら付き合うぜ」と合流、はいいんですが
ハンガーで整備員たちがドヤ顔で「全機装弾完了、いつでも散歩に出られます」て言った時の
サキ指令の呆れ顔がすごく笑えました。
0114通常の名無しさんの3倍垢版2017/09/15(金) 18:05:43.82ID:O5nOgpy/0
乙です
絵の後ろにいる黒いのは新型フリーダム?
しかし何故2次創作のシンはいつもモテモテなのか
0115彰悟 ◆9uHsbl4eHU 垢版2017/09/20(水) 14:37:23.27ID:ZVWxYBiY0
>>67
ご感想ありがとうございます。
最近てんてこまいで中々書けませんでしたが少し落ち着いてきました。

デスタンに関してはやり過ぎだったかも知れませんw
後で見返したら、闘いのモラル?のようなものに対して厳しく書きすぎちゃったw

もう少し今より緩くした方が戦法のバリエも広がりそうですし、射撃タイプによくありそうな敵の武器だけを狙い撃ちというのもできそうですし...
それくらいした方がマリナももっと強いイメージにできると思うので。

元々マリナみたいに大人しいけど健気な女性キャラが力一杯戦うのが好きでして
ファイトが似合わなそうな彼女が戦うギャップが好きだったりします。

合気道と弓術だけだと一見幅を広げられなさそうな気がしましたが(俺の力が足りないともw)
彼女にピッタリな競技とバトルスタイルだと信じてますw
ただ、これから武装の強化を予定していますので(他にもGガンで目を引くあの強化も...?)

個人的な語りになってしまいましたが、近い内に書けると思いますのでこれからの拝読をよろしくお願いします。
それでは。ノ
0117通常の名無しさんの3倍垢版2017/09/22(金) 11:29:45.71ID:LPYPlU8b0
こういう作者の語りってのもたまにはいいものだと思う
0118ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:37:03.13ID:1DSJ8VNR0
5ちゃんになって初めての投稿です。仕様が変わってなければいいですが。
>>113
ありがとうございます。絵は最近になって描き始めたのですけど、文共々もっと上手くなりたいと思ってます

>>114
新型機です。その内登場させる予定ですが・・・・・・何ヶ月後になることやら
0119ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:39:10.80ID:1DSJ8VNR0
――艦これSEED 響応の星海――


「んっ・・・・・・!」
「ほい【マッチング】クリアっと。どう響? 問題ない?」
「大丈夫、だね。むしろ前より調子が良いよ。Спасибо тебе всегда、明石先生」
「なんのなんの、お安いご用ってね。んじゃあ最終調整するから、もーちょいそのままでね」
「了解」

ザァ、ザァと、強い雨音に包まれた夕刻の佐世保鎮守府。
急ピッチで進められている鎮守府復興作業の中でも特に優先して人手が回され、その甲斐あってつい一昨日に再建できたばかりの工廠にて、二人の少女がおろしたてピカピカの艤装を整備していた。
これまたおろしたてピカピカのセーラー服を着込んだ響と、使い込まれたツナギをラフに着こなす紅梅色の髪の明石だ。互いに長い髪をポニーテールに結い上げて、組み上げたばかりの装備の隅々までを共に点検する。
共に、といっても二人してスパナやドライバーを手に精密機械と格闘するのではなく、作業するのは基本的に明石だけだ。響は背に装着した艤装に違和感などが無いか、口頭で教えるだけである。

「痒いところはございませんかー?」
「ふふ、まるで美容師さんみたいだね」
「似たようなもんでしょ。・・・・・・ん? ここちょっちキツいかな?」
「ちょっとだけ。でもこのぐらいなら自分で調整できるよ」

まぁ、言わなくても直ぐさま不具合を察知してくれるのが明石という少女なのだが。
彼女は工作艦という、艦船の補修・整備を行うための艦種に分類される艦娘で、【移動工廠】や【先生】といった二つ名で国中の艦娘達から慕われている存在だ。
横須賀軍令部に籍を置き、日本各地の軍施設を渡り歩いて艤装のメンテナンスやバージョンアップをしたり、直接戦場に赴いて艦娘達の応急修理をしたりすることが主な仕事で、
平時には軍専用通信販売サイトのオペレーターも兼任している。
加えて、艦娘・艤装の治療・修理を行う施設の建築と改善といった方面にも精通しており、つまり彼女は戦闘以外で日本国の戦線を支える裏方専門の職人艦娘なのである。
他にも明石のように軍令部に籍を置き、国中を飛び回る者は数名いるが、それは割愛させて頂く。
さて。
そんな、誰よりも艦娘に詳しいスペシャリストがこの佐世保鎮守府に滞在する期間は、10月中旬から12月いっぱいまでの約二ヶ月半を予定している。
丁度隕石が落下してきたタイミングであったことは佐世保にとってはまさに地獄に仏、僥倖だった。彼女がいたからこそ、半壊した鎮守府でも戦線を維持できたといっても何ら過言ではない。
ただし、文字通り休む暇もない一週間を戦い抜くことになった明石本人にとっては地獄以外の何物でもなかっただろうが。

「まぁまぁ。ようやっとのラストなんだからさ、折角だし最後まで任せなさいって。それにただでさえ君のはバカみたいにピーキーなんだから」
「バカみたいにとは失礼な・・・・・・否定はしないけど」
0120ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:41:15.07ID:1DSJ8VNR0
「師匠譲りの突撃仕様だかんね。今回も夕立のメンテには苦労させられたもんよ」
「それは・・・・・・お疲れ様。・・・・・・でもこれで、やっと終わりだね」

運良く、或いは運悪く佐世保入りしていた明石は死ぬほど頑張った。
先日まで出張していたトラック泊地やリンガ泊地といった最前線よりずっと安全な場所で、しかも基本的に損耗率の低い佐世保なら楽ができると思っていたのに、まさか最終防衛ラインで爆撃に怯えながら働くことになるとは。
しかもまさか、鎮守府の生命線である工廠が壊れるとは。
それでも弱音一つ吐かず、最終的には自ら黒島まで出向いて頑張った。
そんなこんなで影ながら防衛戦を勝利に導いた彼女は、しかし流石に限界が来て11月4日に倒れた。緊張の糸が切れて爆睡した。それは前線で戦い続けた少女達も同様だったが。
しかし彼女の戦いはまだまだ終わらない。
壊れたら直すまでがセットである。
その後束の間の休息を経て復活した明石は、まず艤装のパーツや燃料弾薬といった資源を手配しつつ、工廠再建の指揮をとることになった。
続々と搬入される物資を分別し、響達を始めとする「戦闘不能艦娘」に的確な指示を与え、みんなして初めてであった建築作業をスムーズに進行させた。
こんなこともあろうかと簡単に組み立てられるモジュール構造を設計し、あらかじめ日本各地の内陸部に用意させていたのが役に立った。
スペシャリストの名は伊達ではないのだ。
そして一昨日工廠が一応完成し、そのまま明石による艤装総点検がスタート。丸々二日かけて行われたその作業は、特注パーツの到着が遅れた響を最後に、11月10日の今この時をもってようやく終わろうとしていた。

「やー、流石に疲れた! いい機会だから全員オーバーホールするようにって命令も来たもんでさー、人使いが荒いったら。わたしは一人しかいないんだから仕方ないって分かってるんだけどね」
「それって、呉と鹿屋に行った娘も含めて?」

艤装の修理はなにも明石の専売特許ではない。
というか、仮に専売特許だとしたら明石が百人いたって手が足りない。故に常在戦場の身である艦娘達は、常日頃から自分の装備は自分で整備している。
機材と触媒さえ揃っていればちょっとした不具合なら簡単に直せるし、艤装の半分が崩壊するほどの損傷を負っても、時間さえかければ殆ど元通りに復元できる。そういったメカニックな知識と技術は、
少女達にとっては必須のモノだった。
工廠さえあれば、艦娘は自己メンテできるというわけである。
また、簡単なメンテなら普通の人間でも可能なので、各鎮守府には専門の整備スタッフが常駐し、少女らに代わって修理を受け持つ体制が整えられている。
国家資格を持つ優秀な人材であり、且つ普通の人間の女性のみで構成されたその後方支援部隊は、常に東奔西走な明石に次ぐ実力を備えており、それぞれの戦場を支えている。


しかし、そんな彼女達でも対処仕切れない事もある。
0121ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:43:05.30ID:1DSJ8VNR0
艤装はただの兵器・機械ではない。
艦艇の砲塔や艦首等を模したソレは、艦娘の躰と密接にリンクしている摩訶不思議な存在だ。
現人類が思い描く物理法則がまったく通用しない原理原則は、例えば、艦娘の意思一つで空間を超えて自動的に装着することや、砲弾が腹部や頭部に命中したとしてもダメージの殆どを艤装に引き受けさせることだって可能
にしてしまう。
つまり、ただ機械的な部分を弄るだけでは直せないファンタジックな機能が満載で、どころか漫然と修理を続けていくうちに艦娘の躰と艤装との間にズレが生じてしまうこともある、非常に厄介な代物なのである。
であれば、定期的に両者を馴染ませる必要があるわけで。
その作業を【マッチング】というが、これを得意とするのが明石というわけだ。ある意味、明石は国でたった一人の艦娘専用整体師ということになる。
艤装全体が壊れてしまったり、ガタが来てしまったり、新品に換装したりする時も同様で、これを怠ると最悪リンクしている艦娘の躰そのものに悪影響が出てしまうこともあり、彼女が国中を飛び回る最大の理由になっている。
これは余談だが、事情が少々異なるもののキラがここに来た際に動けなくなっていたのは、艤装となったストライクとの【マッチング】が上手くいってなかったからだ。
幸いあの時は簡単な処置をするだけで時間が解決してくれたが、大抵の場合は明石が付きっきりになって調整することとなる。

「そりゃもう丸々全員、48時間で38人分+α! これはボーナスがあって然るべきだよねぇ?」
「改めて、凄い人数だ・・・・・・。そんなのよくこなせたね」
「とりあえず間宮と伊良湖のスペシャルチケット一年分は当然として・・・・・・、・・・・・・ん? ああ、まぁ一人じゃ厳しかったろうけど、優秀な助っ人君がいたから」
「助っ人君?」
「そ。そろそろ戻ってくる頃合いだと思うけど・・・・・・っと、噂をすればなんとやら」

今回実施された佐世保の艤装総点検は、その【マッチング】を全員に施すことが主目的だったと言ってもいい。艦娘達が自力で修理、或いは新造した艤装を片っ端から整備して回ったのだ。
響の指摘した通り、一人でこなすのはどだい無理な作業量に思えたが、しかしどうやら手伝った人物がいるようだ。
もしかしてと、響はある一人の青年を思い浮かべた。
それと同時に、工廠奥の資材置き場の扉がスッと開いて。振り向くとそこにはやはり、少女が思った通りの人がいた。

「明石さん、三番と十番ありましたよ。それと家具の搬送はやっぱり明後日にずれ込むって連絡が」
「おー、ありがとキラ。丁度いいや、ちょっと手伝って」
「うん、わかった」

新品のツナギをキッチリ着込んだキラ・ヒビキ。
年季の入った工具箱を持ってやって来た彼は、この五日間殆ど顔を合わせることがなかった少女に気づくや否や、すっかり完治したらしき左手を挙げて微笑みかけてきて。

「やぁ、久しぶり。・・・・・・えぇと、プリヴィエート、響」
0123ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:47:23.43ID:1DSJ8VNR0
「あ・・・・・・Привет、キラ」

その不慣れなロシア語の挨拶がなんだかおかしくて、響もつい微笑んで流暢なロシア語の挨拶を返したのだった。



《第8話:繋がる力、繋がっていく道》
0124ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:50:08.72ID:1DSJ8VNR0
「ずっと先生の助手をやってたんだ?」
「うん。ちょっとスカウトされちゃって」

なんでも怪我が治ってからこっち、明石の指名でずっと補佐をしていたらしい。ボロボロのストライクの状態をチェックしようとしたところに通りがかった明石が見学したいと名乗り出てきて、その流れで行動を共にする
ようになったとのことだ。
なるほど姿を見なかったわけだと、宿舎の再建作業に従事していた少女は納得した。
大忙しな明石の助手をしてたとなれば、きっと工廠周辺に張り付いていたのだろう。仮設宿舎にも休憩所にもいなかったのはそういうことだったのだ。

「全然見かけなかったから、どうしたんだろうと思ってたよ」
「結構忙しかったから・・・・・・やってたことは雑用だけどね。業者さんと電話したり、部品を探したりとか。ここ二日は整備も手伝うようになったけど」
「先生曰く、優秀な助っ人君だって」
「買いかぶりだよ。ホント、大したことはしてないし」
「そう。・・・・・・ともあれ、大丈夫そうでなによりだ」

別に、自分から探した訳でも、会いたいと思ってた訳でもないが、なんとなく気にはなっていて。その元気そうな顔を見てどこかホッとした響だった。

「ほほーぅ?」
「・・・・・・なにさ?」
「いやぁなんでもないデスヨ」
「?」

なんか明石が意味深っぽくニマニマしているが・・・・・・なんだろう、ちょっと気味が悪い。
それに気づいていないのか、はたまた無視しているのか、いつもと変わらない穏やかな顔のままのキラを加えて調整作業は再開する。

「でもさーキラ、実際アンタなかなか見込みあるわ。ちゃんと修行すれば整備士としてやっていけるし、なんだったら弟子3号にしたいぐらい。――っと、四番と六番取って」
「どうぞ。明石さんそっちの十番を――どうも。・・・・・・そう言ってくれるのは嬉しいですけど、でも男ってのは問題じゃない? そりゃ僕としても整備士ってのは性に合うけどさ」
「女装すればいいじゃないの」
「そういう問題じゃ・・・・・・てか、嫌ですよそんなの」

二人は雑談しながらも流石の手際の良さでアレコレ弄り回していき、艤装の完成度をどんどん高めていく。
それは少女一人でやっていた時のものよりずっと上の次元で、自分の整備技術はまだまだ未熟であると痛感してはもっと励まねばなと内心決意を新たにする響だが、
同時に、たった数日しか艤装というものに触れていないのに明石に追随できているキラの腕にも舌を巻いた。
青いツナギの青年は手慣れた様子で工具を操っては、響のオーダーに順当に応えていく。本人は謙遜していたが、これなら本当に整備スタッフとしても生活できるかもしれない。
0125ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:52:06.16ID:1DSJ8VNR0
訊けば、自分の機体は自分で整備しなければやっていけない環境で培われた技術のようで、専門はソフトウェア関係だけどハードにも多少の覚えがあるそうだ。
偉い立場になっても整備を手伝ったりして、勘は鈍らせないようにしていたらしい。艤装もモビルスーツも基本は同じということか。
おかげで、今こうして明石の助手をしているのだから、世の中何が役に立つか分からないものだ。

「こんなもんかな?」
「こんなもんでしょ。よし、終わり!」

そんなこんなで整備はあっという間に終了。いつでも全力全開で戦闘できる万全の状態になって、更に言えば佐世保鎮守府の戦力も完全復活したことになる。

「хорошо。軽くて、出力も上がって・・・・・・これは良いな。力を感じる」
「剛性に抗堪性、駆動速度もよ。最初に断った通りに、試作の新型パーツを使わせてもらったわけだけど――うん、良い感じに仕上がったようでなにより」
「私が試作一号機ということだったね。思いっきり暴れてテストすればいいのかな」
「つっても劇的に変わったわけじゃないし、あくまで試作品なんだから。あんまブン回すと壊れるかもだから、ほどほどにね?」

いや、むしろパワーアップしたとまで言っていい。ほんのちょっとだけだが。

「ストライクの部品が使えるなんて意外だったけど・・・・・・できるもんなんだね」

そう。
今回、修理するにあたって響の艤装には【GAT -X105ストライク】に使用されていた特殊合金や超伝導技術等を多数、試験的に組み込んでいる。
これはストライクを修理する為に採取・解析したパーツ群を複製していた時に、明石が遊び心でサンプルの一つを艤装のフォーマットに落とし込んでみたら偶然発見した――いわば副産物的な新技術なのだが、
ある意味それはストライクの修理以上にこの世界にとって重要なものだ。なにせ、宇宙で活動できる巨大人型有人機動兵器モビルスーツを構成するパーツとなれば、上手く流用・実用化できれば艦娘の性能が
ぐんと向上すること間違いなしなのだ。
今まで数度に渡り近代化改修を施してきたもののベースが第二次世界大戦期の艦艇である以上、大幅なパワーアップをすることができなかった艦娘だが、異世界のロボット技術がそのまま使えるとなれば話は別だ。
棚からボタ餅的な展開ではあるが、これを逃す手はない。
そこで明石とキラは、空いた時間を使って艤装用の部品に新規開発にも挑戦し、幾つかの使えそうな小物を揃えることに成功した。
だがその試作品が形になった頃には既に、ほぼ全員が自分の艤装を組み上げ終えていた。ただ一人、特注パーツ――近接戦闘用に剛性を強化した錨――の到着が遅れて修理が後回しになっていた響を除いては。
故に、更なる力を望んでいた本人の了解もあって、彼女の艤装への導入に踏み切ることになった。

「でもやっぱり、今でも信じられないよ。そんな都合良く技術を使い回せるなんて」
0126ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:54:03.88ID:1DSJ8VNR0
「アレが純然な『普通の兵器』だったら流石のわたしもどうしようもないし、こうはならなかったけどねー。けど今はアイツもわたしら同様の不思議存在だから、なんかコンバートできちゃったのよ」
「僕共々、存在自体が変わっちゃってるからだね。艤装と同じように扱えるようになってなきゃ、修理だって絶対不可能だし」

この試みが上手くいってデータが蓄積すれば、あのストライクを媒介にすれば、いずれはフェイズシフト装甲やビームライフルといったものを艦娘全員に導入することだってできるかもしれない。
あの深海棲艦の【Titan】のように、ミサイルやスラスターを使うことだって。
深海棲艦にできて自分達にできないという道理はないのだ。
これからはC.E. の技術をいかに有効的に使うかが勝敗の鍵を握るだろうねぇと、明石は感慨深げに言った。

「なんか凄いことになっちゃってるんだね・・・・・・」

先の防衛戦で猛威を振るった【Titan】の力を、今度は自分達が使うかもしれないという近未来。
そんな予想図をどうにもイメージしきれない響は、ただ呆気にとられるしかなかった。ただ力が欲しくて安請け合いした依頼が、まさかそこまでの大事に繋がっていたなんてと思わず首を竦める。
あの巨人と戦って、キラと共闘して、ストライクに乗って、直接肌に感じた強大な力。その一端をもう己が身の内に取り込んでいることの重要性に、今になって圧倒された。
それって、とても大変なことだ。これまでの常識が全部ひっくり返る急展開で、この先どうなるんだろうという漠然とした不安感が胸中に渦巻く。予兆を感じてはいたものの、よもやこんなにも手の届く場所まで来ていたとは。

(あの力があれば、私は過去を乗り越えられる――? ・・・・・・いや、どうなんだろうな。そういう問題、なのかな。よくわからない・・・・・・)

例えば暁や雷、電が、高速で空を飛んだり鉄壁の防御力を得たりすることもありえるのだろうか。
例えば木曾や榛名が、荷電粒子砲や高誘導高速ミサイルを自在に操ることもありえるのだろうか。
そうなったら、自分達はどんな道を歩いていくことになるんだろう。自分は望んだ強さを手に入れられるのか。
わからない。
少なくとも、明石とキラが見ている未来は、自分にはまだ見えない。自分のことだけで精一杯だから、変わっていく明日がどのようなものか想像できない。
未だ弱い自分が世界を変え得るかもしれないことを、認めることができない。

(・・・・・・まぁそうなったらなったらで、その時に考えればいいさ)

だんだんと思考回路がネガティブになってきたなと自覚したところで、響はこれ以上考えることを止める。
正直、この話題にはついていけそうもなかった。
だから代わりに、いい機会だから、今まで気になっていたことを訊いてみることにする。

「――そういえばさ。ストライク、直せそうなのかい?」
0127通常の名無しさんの3倍垢版2017/10/07(土) 20:56:28.33ID:Qc4ggDli0
連投回避
0128ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:57:09.26ID:1DSJ8VNR0
それは工廠の奥にひっそりと、けれど確かな存在感をもって鎮座している、左腕とバックパックを失って穴だらけなモビルスーツのこと。
工廠に来て最初に目にした、今や自分の艤装を構成するパーツのルーツにもなった異世界の力のこと。
主人の身体は治っても、あの機体はずっと変わらずにボロボロのままで。一度操縦した身としては、アレが今後どうなるかは知っておきたいところだった。
二人の口ぶりからすると、なんとかなりそうな感じのようだが。

「そうだね、ようやく修理の目処が立ったってところかな」

キラはモノ言わぬ鉄灰色の機械人形を見上げながら応える。
この戦友となった青年にとって唯一無二の力は現状、兵器としては完全に死んでいる。なまじ人型だからかその姿はとても痛ましくて、目にする度にもっと上手く出来たのではないかという感傷が溢れてくる。
少なくとも、自分が冷静に立ち回っていれば左腕を失うことはなかったと、少女にはそう思えてならない。
しかし彼はそんなことを微塵も考えてなさそうな様子で、微笑みながら言葉を紡ぐ。

「君が協力してくれたおかげで分かったことも色々あるし、みんながストライクや【Titan】のパーツを集めてくれたりもしたからね。艤装用のパーツも代用品として使えるかもだし・・・・・・スペック低下は否めないけど」
「私はなにもしてないよ」
「試作品を使ってくれるじゃない。それだけでも結構重要なデータになるんだ。戦うことが僕の目的じゃないけど、いつかまた一緒に戦うこともあるんじゃないかな、きっと」

そう言ってやにわに、いつかのように頭を撫でてきた。ストライクがここまで壊れたのは君のせいなんかじゃないと言うように、優しくゆっくりと。
まるで心の内を見透かされたようで、少し恥ずかしくて。帽子越しなのが、なんだかもどかしくて。

「・・・・・・うん。役立てるなら、いいかな。・・・・・・なにか力になれることがあったら、手伝うよ。艤装を整備してくれたお礼に」
「ありがとう。その時はよろしくね」
「Ладно」

まるっきり子ども扱いされているのに、嫌ではなく。どころかひしめいていた不安感がすっかり霧散していくように思えた。
これもまた、あの時と同じだ。不思議だ。彼といると少し安心する。

「ほっほーぅ?」
「・・・・・・だから、なにさ?」
「いやいやぁなんでもないデスヨ」
「??」

そんでもってまた明石がニマニマしているが・・・・・・本当に、なんなんだろうか。

「明石先生、さっきから本当にどうしたんだい? なにか良いことでもあったの?」
0129ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 20:59:35.15ID:1DSJ8VNR0
「んー、そんなもんかな。・・・・・・それはそうと、そろそろ夕ご飯の時間でしょ。ちゃっちゃか後片づけしちゃおうか」
「もうそんな時間なのか」

心配になって訊いてみたものの、わざとらしく時計を指さす明石にうまいことはぐらかされた――ような気がする。
しかし彼女の指摘も尤もでつられて見てみれば、時計はキラの歓迎会を兼ねた食事会が始まる30分前を指しており、こんなところで油を売っている暇はないと思い知る。
明石のこと、ストライクのこと、気になることは尽きないが遅刻するわけにもいかない。移動に時間がかかるわけでもないが、最低5分前には集合していたほうがいいだろう。
というか、主役がこんな所でこんな時間まで何してるのさ。言われるまで忘れていた自分も大概だが。
片づけと聞いて離れてしまった彼の掌に若干の名残惜しさを感じて、そんな自分に少しの疑問を持ちながらも、響は忙しく動き始めた二人の背を追うように後片づけに参加することにした。

「工具は私がやるよ」
「あんがと。じゃあそこに纏めといてくれると助かるわー」

その後、響とキラが工廠を出るまで、何故だか明石はずっとニヤけっぱなしだった。
なんだろう、なにか悪いものでも食べたのかもしれない。後で薬でも持っていってあげよう。
0131ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:03:07.38ID:1DSJ8VNR0




天気予報によると明日の朝方まで続くらしい嵐は更にその勢いを増し、大粒の雨を新品の窓ガラスに激しく打ちつけてはガタガタバタバタと騒音をまき散らす。
真っ黒な海は荒れ狂い、おまけに遠くのほうではピカリと閃光が瞬くのが見えた。あれは多分、あと数時間もしない内に恐ろしい轟音を伴ってやってくる。
そしたら今夜はトランプ大会かなと、響は雷雨にめっきり弱い姉妹達を思い浮かべながら歩を進めた。正直自分も得意ではない――というか苦手なので、そうしてくれると非常にありがたい。
気が紛れればなんでもいいが、今日は初心に帰って大富豪でもしようか。そろそろ電に借りを返す頃合いだろう。

「こんなに降ってたんだ。気付かなかったな」
「工廠に中にずっといたんじゃ仕方ないよ」

艤装を格納庫に収めてポニーに結っていた髪をストレートに戻した響と、ツナギからザフト白服に衣装チェンジしたキラ。
二人で工廠と鎮守府とを繋ぐ連絡通路を経て、つい先程リニューアルオープンできたという食堂を目指してのんびり歩いていると、隣を歩くキラが顎に指を当てて呟いた。

「嵐だから深海棲艦も艦娘も海には出れないってのも、なんか可笑しな話だね。すごい力を持ってるのに、変なところで現実的っていうか」

素朴な疑問だが、確かに言われてみるとちょっと面白い制限だなと改めて思う。
超常の存在たる自分達。でもその実態は人間が思ってるよりはずっと非万能的で人間的で、どうしたって大自然には勝てないちっぽけな存在だということはもう常識となっている。
戦うには燃料弾薬が必要不可欠なこと、艤装はメンテナンスしなければいけないこと、自分達にも人間の三大欲求があること等といった常識。その変なところで現実的な制限が常識として広く認知されるまでは、
いろいろと苦労したもので。
超常的なのか人間的なのか、どっちだよって話だ。彼が可笑しいと思うのも良くわかる。
そういえば昔、こんな日に出撃してエラい目にあった娘がいた。

「どうしたって船がベースだから、難破することもあるよ。・・・・・・そう、最初期の頃には台風の日に無理矢理出撃した艦娘達が行方不明になった――なんて事件もあったね。艦娘ならいけるだろうって・・・・・・実際ダメだったわけだけど、あれは大変だった」
「そんなことが。その娘達は見つかったの?」
「無事にね。その時私も捜索隊の一つに参加してて、けど見つけたのは流されて難破した深海棲艦の大群。流石にびっくりしたよ。で、以降嵐の日は出撃禁止というか、安息日になったというわけさ」

根性入れて頑張ればどんな天候であろうと戦うことはできるが、やはり非常にリスキーなことに変わりはない。
アメリカの調査団の報告によると、深海棲艦も嵐が近くなると占拠した島々に引きこもるようになったことが確認されている。
0133ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:06:25.82ID:1DSJ8VNR0
敵も動けないのに自分達だけが難破する危険性を負っても、ただでさえカツカツな戦力が更に厳しくなるだけ。ならば休息に充てたほうがよっぽど有意義というもので、
大規模作戦等でない限り出撃は禁じられるようになった。
勿論出撃中に嵐に遭遇した際も同様で、そんな時はすぐさま最寄りの泊地に避難することが推奨されている。
要は事実上の停戦期間だ。もっとも互いに、勝機と見れば奇襲・強襲することもままあるし、長期的な戦略に組み込むこともあるが。

「へぇ、向こうも苦労してるんだ」
「おかげでこうして全員集まって食事会なんてこともできる。勿論警戒しながらだけど」

これから食堂で行われる食事会は――ついでに、その後に予定している全体会議も――つまり、こんな日でしか実施できない貴重な催しということだ。
ローテーションで常に誰かが海に出ているのが当たり前である鎮守府の日常では、こうして全員が集まること自体がとても珍しい。であればこの機会に会議や親睦会をするのは至極当然のことといえよう。
彼の歓迎会を兼ねた、佐世保鎮守府の復活を祝う食事会。これには人間の職員も出向防衛組も含め、今この鎮守府にいる全員が集まることになっている。ちなみに明石は少し遅れて参加するらしい。
食事会といえば、やはり厨房には瑞鳳もいるのだろうか。久々に姉妹揃って美味しいものが食べれるし、そう思うとだんだん楽しみになってきた。

「みんなで集まるのは4日以来だね。キラはもうみんなと顔は合わせたの?」

そこでふと、彼はどこまでここの人達と知り合ったのだろうと気になった。明石の助手をしていたとはいえ、もしかしたらこの集まりで初顔合わせになる人もいるのだろうか。
全体会議では佐世保鎮守府の今後の方針が決まるし、それに伴い艦隊が再編成されるかもという噂もある。なら皆と知り合っていればいるほど、その時間を有意義に過ごせるというもの。そこんところどうなんだろう。

「整備の時に一通り自己紹介はしたけど。でもまだちゃんとは覚えきれてないかな・・・・・・てか、似たような名前ばかりでさ」
「慣れないとそうなるね。・・・・・・多分、この後また改めて自己紹介することになるとは思うけど、それでなんとかなりそうかい?」

まいったと首筋に手をやっては、困ったように苦笑するキラ。その気持ちは分からんでもないと、響も着任当初を思い出しては同じように苦笑した。特に空母と駆逐艦は似たようなのが多い。
この鎮守府は38人だけしかいないが、共闘した人は兎も角、名前と顔を一致させて覚えきるには数日かかるだろう。
いや、場合によってはこれから全員一気に集合するのだから、無駄に混乱してしまうこともあるかもしれない。みんな個性的だからすぐ覚えられるとは思うが、万が一間違って覚えたらその後が大変だ。
例えば響の妹達、雷と電は間違えられる筆頭である。

「大丈夫だと思うけど、問題は漢字表記かな。会話だけなら兎も角、漢字の読み書きはちょっと・・・・・・整備してる時も苦労したよ。君の妹達とか」
「ああ、その問題があったか・・・・・・基本的に英語で生活してたって言ってたね、そういや」
0134ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:09:12.07ID:1DSJ8VNR0
「オーブ公用語・・・・・・いや、日本語はオーブの人と話し言葉でしか使わなかったから」

それはまた、結構重大な案件だ。
というか、異世界人なのに今日まで会話に不自由しなかったというのが既に奇跡か。下手をすればまったく言葉が通じない可能性もあったということ。これは本当に、運が良かったという他ない。
しかし読み書きできないというのは、これからの生活にかなり影響しそうだ。この施設は漢字表記ばかりなのだから、難易度はあらかじめ勉強してから来日した海外艦と同等かそれ以上かもしれない。
興味本位で訊いてみたら、意外と深刻な問題が発覚してしまった。

「コツとかないかな?」
「こればっかりはどうしようも。聞いた話だとビスマルクさん達も最初はそんな感じだったって」
「そうなんだ。じゃあ君達も外国の言葉とかに苦労するのかな? ・・・・・・そういえば今更だけどさ、なんで君って時々ロシア語混じりなの?」
「私の前身、船の【響】はロシアにいた時間のほうが長いからね、染みついてしまったのさ。油断するとつい・・・・・・変かな?」
「そんなことはないよ。いいと思う」
「Спасибо。まぁ、それで時々苦労することはあるね。木曾は未だに理解を示してくれないし――っと、話が逸れた。・・・・・・私達も昔、言語に限らず数学とか歴史とか、出撃してない時は勉強したよ。懐かしいな」
「そういうことなら僕も勉強しないとかなぁ・・・・・・。この世界のことだってまだよく知らないや」

でも勉強って嫌いなんだよなぁとぼやくキラに、努力あるのみだねと相槌を打つ。
そう、自分達が得た常識も、経験という名の勉強によって知ったことだ。
ヒトデナシであるものの頭脳を持つ人である以上、やはり勉学が基本。自分達のこと、この世界のことも含め、ちょっとずつ知ってもらうしかないと思う。
昔使っていた教科書を貸してあげるのもいいかもしれないと考えたところで、響は丁度近くに資料室があることに気付き、あることを思いついた。

「だから地道に・・・・・・と言いたいところだけど、これも運かな。ちょっとこっち来て」
「響?」

ちょっと寄り道で進路変更、相方を手招きしてスルリと室内へと入る。幸い施錠はされていなかった。
そこには海図や教本、過去の報告書といったものが収められており、奥には目当ての文机と筆記用具一式がある。きょろきょろと子どもみたいに室内を観察してるキラはほっといて、さっさと済ませてしまおう。
市販品のボールペンを手にとって、サラサラとまっさらな白紙に人名を書き連ねていく。もうすっかり書き慣れたものだが、これもやはり昔は苦労していたと懐かしくなった。
0135ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:11:05.44ID:1DSJ8VNR0
戦艦:金剛(こんごう)・比叡(ひえい)・榛名(はるな)・霧島(きりしま)
   扶桑(ふそう)・山城(やましろ)

空母:翔鶴(しょうかく)・瑞鶴(ずいかく)
   祥鳳(しょうほう)・瑞鳳(ずいほう)
   龍驤(りゅうじょう)

重巡:摩耶(まや)・鳥海(ちょうかい)
   鈴谷(すずや)・熊野(くまの)

軽巡:球磨(くま)・多摩(たま)・木曾(きそ)
   阿賀野(あがの)・能代(のしろ)・矢矧(やはぎ)・酒匂(さかわ)

駆逐:暁(あかつき)・響(ひびき)・雷(いかづち)・電(いなづま)
   白露(しらつゆ)・時雨(しぐれ)・村雨(むらさめ)・夕立(ゆうだち)・春雨(はるさめ)・五月雨(さみだれ)・海風(うみかぜ)・山風(やまかぜ)・江風(かわかぜ)・涼風(すずかぜ)

潜水:伊13(ひとみ)・伊14(いよ)


「これって、名簿?」
「あれば便利かなって。手書きで悪いけど・・・・・・余計なお世話だったかな」

数分かけて出来上がったものは、この佐世保鎮守府に所属する艦娘の一覧表だ。出向してきてる明石や呉・鹿屋の者は除いているが、最低限これだけ覚えれば暫くは問題ないだろう。
これから寝食を、戦場を共にするのだ。ちょっとずつと思ったがやはり、名前だけは早く覚えてほしいという想いはあった。
名はその存在を示すもので、とても大切なものだから。互いに名を呼び合えるから、今ここに生きていることを実感できる。
だから彼にだってちゃんと名前を呼んでほしいと思うのも自然なことで。

「ううん、とても助かるよ。ありがとう」

その為ならこれぐらい安いものだし、喜んでくれるのなら自分も嬉しいと思った。

「なら良かった。・・・・・・私達の名前は大抵、川とか山とかが由来で、それを意識すれば覚えやすいと思う。食事会も多分同型艦で固まって座ると思うし、それと照らし合わせるといいよ」
「・・・・・・響達は一文字で分かりやすくていいね。潜水艦の娘もこれでヒトミとイヨって言ってたけど、格好共々すごい異彩を放ってるなぁ」
「そこはそういうもんだって割り切るしかない。潜水艦を集中運用してる鹿屋とか、凄いよ」
「凄いんだ・・・・・・」
0136ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:13:06.80ID:1DSJ8VNR0
響は資料室の一角を指さして続ける。

「ここには私達が使ってた教科書とかもあるから・・・・・・気が向いたらここから持っていけばいいよ。基本的に閲覧と持ち出しは自由で、日本語学は瑞鳳が教え上手。教えてもらうといい」
「瑞鳳さんが? 迷惑にならないかな」
「榛名ほどじゃないけど世話好きだし平気だと思う」
「なにからなにまで、ホント、ありがとう」
「大したことじゃない。普通だよ。・・・・・・じゃあ、行こうか」

さぁ。
目的地はもう目と鼻の先で、今尚も改装工事まっただ中の医務室を通り過ぎたら食堂の正面扉が見えてくる。ちょっと寄り道したせいで、時間に余裕がなくなってきた。些か急がなければならないだろう。
紙切れ一枚の簡易的な名簿を渡して踵を返し、少し軽くなった足取りで資料室から出る。
その時だった。


「――あわわぁ!? 装備したまま来ちゃったっぽい〜!?」


廊下に出た二人の隣を、黒き疾風が駆け抜けた。
蛍光灯に照らされた金髪と、黒い制服を靡かせ疾る少女。その背には巨大な鋼鉄の兵装。
見間違いようがなく、その後ろ姿はうっかり者のものだった。

「わっ、夕立師匠!?」
「あー響久しぶりー! キラさんこんばんはー!! また後でっぽいー!!! あと師匠はや〜め〜て〜!!!!」

わたわたぱたぱたと可愛らしく、けどそれでも並みの人間よりも速く。
すれ違いざまの挨拶だけを残して、かつて見た勇猛なソレとは真逆な後ろ姿のまま、真っ白なマフラーを靡かせた夕立が曲がり角に消えた。
――と思ったら、ひょっこり角から顔だけを出して、

「ひーびーきー! 模擬戦、明後日やっていいってー! 準備お願いねー!!」
「わ、わかったー!!」

それだけ言って、今度こそ走り去る。まるで文字通り夕立のような勢いに、二人はポカンと見送ることしかできなかった。
しばらくして顔を見合わせてみれば、なんだかおかしくなって。あんなうっかりはなかなか見れるものじゃない。

「師匠・・・・・・艤装をつけたままここまで来ちゃったのかな」
「それはまた・・・・・・それにしても、師匠? 模擬戦って?」
0138ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:14:49.03ID:1DSJ8VNR0
するとキラが興味深げな様子で訊いてきた。
まぁ、その質問は当然だよねと、響は帽子の鍔をつまんで頷く。隠すようなことじゃないし、黙っていてもいずれは分かることだ。

「そのままの意味で、彼女が私に戦い方を教えてくれたんだよ。半年に一回、師弟対決だって模擬戦するんだ。・・・・・・まだ勝てたことないけどね」
「それって・・・・・・凄く強いんだ。一回も?」
「そう、一回も。でも今度こそ勝つ」

独特の語尾が特徴的で、平時は結構なドジッ娘なのだが、あれで佐世保の駆逐艦では最強の使い手で、【ソロモンの悪夢】や【狂犬】といった二つ名を持つ白露型駆逐艦の四番艦。それが夕立という艦娘だ。
手にした魚雷を直接相手に叩き込む高速格闘戦を得意とし、舞鶴の川内と江風とで培った戦闘技術は、戦艦すらも容易く撃沈する程の破壊力を発揮する。勿論、接近できればという但し書きはつくが。
しかしそれを問題にしないセンスがあるからこそ最強なのである。持久力がないのが玉に瑕だが、響の遙か上をいく火力と機動力は佐世保第一艦隊の切り込み隊長としてその名を轟かしている。
いずれ、響が超えなくちゃいけない相手だ。

「超えるべき壁、か。なんかいいなぁ、そういうの」
「そうかな?」
「そうだよ」

降って湧いてきた師匠との模擬戦。
これは新しい艤装を試すにはうってつけかもしれない。ちょっと反則臭いが、それくらい許してくれるだろう。いろいろと新しく戦略を練る必要があるなと、少女は拳を固めた。
けどまぁ、今は。

「急ごう。このままじゃ本当に遅れるかもだ」
「置いてっていいのかな」
「自己責任だね」
「わぁ、厳しい」

夕立のことはひとまず置いといて、いざ食事会へ。
キラの手をとって、響は食堂へと走ることにした。
美味しいものと新たな道標が、そこで待っている。
0139ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/07(土) 21:17:35.01ID:1DSJ8VNR0
以上です。
暫く戦闘がない回が続いていきます。

>>115
自分も楽しみにしてます
0140通常の名無しさんの3倍垢版2017/10/08(日) 22:47:58.37ID:WPot6gFx0
投下乙です。
申し訳ないがちと辛口評価を。




ちょっと文章量のわりに話が進んでなさすぎな気が・・・
メンテして模擬戦の約束して食堂行くのにここまで詰め込むと正直お腹が膨れます。
もっとも今回の話に重要なワードや伏線があるならその限りではないので
今後の展開に注目ですね。
0141ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/10/08(日) 23:20:44.03ID:4F6X68Gh0
>>140
いえ、辛口評価こそが一番ありがたいです。

確かにちょっと贅肉が多いかも? と思っていたところで・・・・・・言われてみると、世界観を拡げようとして重要でない情報をつらつらと語りすぎてしまっている状態ですねこれは。
ダイエットする気持ちを忘れてました。ありがとうございます。
0142ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:11:41.71ID:zDocJJyd0
贅肉はなるだけ刮ぎ落とした! つもり! の精神で投下します。
どうでもいいですが風邪引いてました。皆さんはお気をつけて
0143ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:13:01.80ID:zDocJJyd0
――艦これSEED 響応の星海――


以前は医務室と同様、木組みの壁に天井と古めかしく和風な造りだった食堂は、その面影を一片たりとも感じさせないほどまでにリニューアルされていた。
抑えめで温かみのある照明に照らされた、レンガ造りで広々ゆったりとした空間には重厚感のある木製のテーブルが並び、そこかしこに観葉植物までも飾ってある。まるでテレビで見るお洒落なカフェテリアのようで、
ずっと厨房に籠もっていた瑞鳳はしばし、時を忘れてその金糸雀色の瞳を輝かせた。
前までの町の食堂然とした雰囲気も好きだったけど、これも素敵だなぁと思う。料理作りが趣味で、たまに食堂のおばちゃん達のお手伝いもする少女は、急にオムレツを作りたい欲求に襲われた。
しかしまぁ、それはまたの機会に。今は我慢の時。
時計を見れば、食事会の開始まであと5分を切っていた。

「・・・・・・っと、あれ。響たちは?」

参加者の殆どは既に食堂に集い、自由気ままに動き回りながらそこら中で雑談に花を咲かせていた。
今回は珍しく立食のビュッフェ形式のようで、艦娘達は中央に並べられていく出来たてアツアツの料理に釘付けになっていながらも、あえて遠ざかって意識しないようにしている様が見て取れる。
その一部を作った自分が言うのもなんだが、まるでお預けくらった子犬のようで少し微笑ましい。
でも、ざっと見たところ明石と夕立、響とキラの姿がなかった。
元々少し遅れる予定の明石は兎も角、あの三人はどうしたんだろう。瑞鳳は少し、会場内を歩いて探してみることにした。この時間にいないとなると遅刻してしまわないか心配になる。
別に遅刻のペナルティーはないとはいえ、一度気になると頭から離れなくなるもので。

「ちーっす瑞鳳(づほ)。誰かお探し?」
「鈴谷。や、探してるってほどじゃないけど、響と夕立とキラさんいないのかなーって」
「それなら来る途中で見たよ」

そうしてキョロキョロしていたのが目に余ったのだろう、いつものブレザーを羽織った翡翠色の髪の少女、鈴谷がいつもの軽いノリで声を掛けてきた。

「そうなの?」
「んーとね、なんか響とキラってば揃って資料室に入ってった。んでもって夕立ったら可笑しくてさぁ、入口手前まで艤装つけたまんま来てて、教えてやったら慌てて格納庫まで一直線。
・・・・・・鈴谷も今来たとこだから、もーちょいしたらじゃん?」
「わぁ、流石のうっかりっぷり。そういうことなら心配いらないのね、ありがと」
「いーってお礼なんて。・・・・・・にしても、言ってて思ったんだけど、なぜに資料室?」
「さぁ? でもあそこ時計なかった筈よね。大丈夫かなぁ」

噂では共に第二艦隊に配属されるらしい、フットワークが軽くてコミュニケーション能力も抜群な最上型航空巡洋艦三番艦。偶然ではあったが彼女の活躍により、あっけなく瑞鳳の心配の種は解消された。
しかし、同時に生まれた新たな疑問に、二人は頭を傾げることとなったのだった。
0145ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:13:57.06ID:zDocJJyd0
なんで今になってそんなところに? うーん、様子見てこようかな? なにをしているのか知らないけど、響ってわりと時間忘れっぽいし、キラさんもけっこーなのんびり屋さんみたいな感じだし。

「相変わらずの心配性だねぇ。大丈夫じゃん? 片方は本日の主役なんだしさ」
「あ、それもそっか」

この食事会はキラの歓迎会も兼ねている。なら流石に本人が遅れることはないだろうというのが、彼女の主張だった。言われてみればそうだ。それに瑞鳳も同調して、今度こそ胸をなで下ろそうとした。
すると、そんな心配性な少女をからかうようにして、

「ッハ、いや、待てよ。こう考えてみるのはどーだろう」
「?」

鈴谷はおどけた様子でニヤリと笑いながら言った。

「うら若き男女が人目のない資料室に・・・・・・それってもしかすると、もしかしたらなんて可能性もなきにしもあらずじゃん? 聞くところによると何故だか仲がいいらしいあの二人、何も起きないはずがなく・・・・・・ってね」
「・・・・・・」

思わず溜息が出た。
まったく、この冗談好きの恋愛偏重主義者ときたら、言うに事欠いて。
分かってて言ってるんだろうけど、そんなことばっかり言ってるから熊野に怒られるんだよ? いつも熊野の愚痴に付き合わされる私の身にもなってほしいと、少女は切に思った。
そして同時に。
いつもなら普通に笑い飛ばせるような冗談に、自分でも驚くぐらいの強烈な非現実感も抱いた。スッと、心の何処かが醒めた。

(あるわけないのよ、そんなこと)

実際にナニをどうしたかという問題ではなく、あの響がそんな類いの行動をするというイメージ自体が湧かない。どころか、ありえないと強く否定する自分がいた。

「・・・・・・えーと、そんな難しい顔しないでって冗談だって。だからその、真面目に受けられると困るっつーか、ボケ殺しは勘弁してくださいマジで」
「ツッコミが欲しいなら話題には気をつかおう?」
「ごめんて。・・・・・・でもさぁ実際ありえるかもじゃん? つーかみんな気にしなさすぎだけど、いつの間にか溶け込んじゃってるけど、鎮守府に出入りする男なんて提督以外初なんだよ? 
面白いことが起こらないはずがないよ状況的にお約束的に」

ちなみに提督はというとあれでちゃんとお嫁さんがいるし、まず軍令部から「才能有り、問題無し」と判断されて――時々の査察もクリアして――いるからこそ提督として鎮守府を運営することが赦されている。
0146ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:15:03.87ID:zDocJJyd0
「それはそうかもだけどぉ。でも・・・・・・」

鈴谷の言いたいこともわかる。
そりゃ初めて会った時から、あの二人なんか妙に仲がいいなーと思ってはいた。いや、馬が合っていると言うべきか。第二艦隊として合流する前から既に顔合わせしてた為か、
戦闘中でも移動中でも二人一緒でいることが多く、時には初めてとは思えないコンビネーションを発揮したこともあった。
あの二人は何故だか仲がいい。
その片割れが詳細不明とはいえ、他の人間とは明確に異なる【自分達と一緒に戦う男性】なのだから、パートナー次第では彼女の冗談が現実になる可能性もなくはない。
客観的にみれば惚れた腫れたと茶化したくなる状況なのかもしれない。
だから、そんなわけだから。鈴谷は軽い気持ちで、いつもの趣味の宜しくない冗談を言ったのかもしれない。
でも。
響に限ってそんなことあるわけがないと、瑞鳳は強く思ってしまうのだ。仮に少しでもそういうことができる娘なら、どんなにいいだろうと。


だって、あの娘はそういった余裕なんか少しも持てなくて、未だ進めずにいるのだから。あのクールでシニカルなペルソナの下には、私達でも溶かせない氷塊を抱いているのだから。


そんな事情を知っている数少ない者の一人としては、その冗談はあまりにも趣味が悪すぎた。
てか、そもそも鈴谷はなんでもそういう方向に持っていきたがりすぎ。このスケベ艦娘め。

「ていうか本能に忠実な鈴谷じゃないんだから、みんな慎みってのを持ってるんだから。いきなりそんなの有り得ないってば」
「む、失敬な。なんだよー人をケダモノみたいに」
「えぇー? だってこの前も熊野の誕生日に――あ。響たち来た」
「・・・・・・え、ちょ、なんでソレ知ってんの!? しかも、もって言った!?」

たまにはお灸を据えるのもいいだろうと思って、とっておきの切り札を切ってみた。その直後。
慌てふためいているケダモノの背後、人だかりの向こうに特徴的なツンツン頭が見えた。「なんとか間に合ったね」「おや、今回は立食式だったか。これは読みが外れたな」「名簿あるし、なんとかなるよきっと」という
会話も聞こえてきて、無事に二人がやって来たことを知る。
よかった、これで安心できるというものだ。引き続き、バレてないと思っていたらしい元お隣さんに現実を教えてあげることにする。ところで宿舎が再建したら部屋割りはどうなるんだろう。

「ま、まさか・・・・・・全部筒抜け?」
「うん、わりと。壁薄いのにあんな大声なんだもん」
0147ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:17:22.93ID:zDocJJyd0
自室でナニをするのも勝手だけど、もうちょっと隣人を気にしてほしい。もっと言うと、いつも熊野の惚気に付き合わされる私の身にもなってほしい。

「ノーーーー!! やだ・・・・・・マジ恥ずかしいって・・・・・・! つーか熊野なに言ってくれちゃってんのー!?」

そこまで言うと、耳まで真っ赤になった鈴谷は勢いよくしゃがみこんでしまった。
あら意外と可愛い反応・・・・・・じゃなくて、ちょっとからかいすぎたかも。ただの八つ当たりでしかなかったけど、今日はここら辺で勘弁してあげよう。これで少しは懲りてくれればいいのだが。
そう思い、やれやれと肩を竦めた時だった。

「――え」

鈴谷の背後の、ごった返していた人だかりが少しだけ散っていて。


響がうっすら笑みを浮かべて、青年の手を引いている姿が見えて。
まだありえないと思っていた、まだ遠いと思っていた様が見えて。


少女の脳裏に、先の冗談が鮮明に蘇って。
ある一つの可能性を、試みを思いついた。
その為には。



《第9話:ある意味ここがスタートライン》
0148ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:19:03.77ID:zDocJJyd0
<マイク音量大丈夫? ・・・・・・よし。白露秘書殿、どうぞ>
<ありがとー霧島さん。・・・・・・コホン。えー、それでは全員揃ったみたいなので! 長ったらしい挨拶は全面カットで!! 佐世保鎮守府の一応の復活と、キラさんが正式にウチに配属されたことを祝して――かんぱーい!!!!>
「かんぱーい!!!!!!」

その後。
夕立がもの凄いスピードで駆け込んできたのを皮切りに、特設ステージで仁王立ちになった司会係の白露の元気な声が食堂内に響き渡って、ついに食事会がスタートした。
ここ数日の質素な缶詰生活が嘘のような豪華絢爛な料理はもの凄いスピードで消化されていき、それはアルコール類も同様で、大小様々な空ボトルがどんどん量産されていく様にはいっそ爽快感すら覚える。
この勢いは多分、会議開始まで衰えることはないだろう。
ちょっと明日のお腹まわりが心配だ。
いつもの着座のコース形式ならもうちょっと落ち着きがあるのだが、最近ずっと苦しかった反動もあってか、誰も彼もが浮かれていた。でも心機一転で再出発するにはこれぐらいが丁度良いのかもしれない。
ちなみに、今回立食のビュッフェ形式になったのは、呉と鹿屋から来てくれた出向防衛組との交流を深める狙いもあるからだそうな。特に、ここ数日大活躍らしい呉のイタリア重巡姉妹、その妹ところにはかなりの人が
集まって大賑わいになっていた。

「えっへへ〜、このチキンもおいひぃ〜。あー、ワイン赤と白、もう1本おねがぁ〜い」
「すっげーなオイ底なしかよ。よっしゃ、この摩耶様もつきあうぜ。おーい金剛ー、お前も来ーい!! 久しぶりにカーニバルだ!!」
「村雨の姉貴〜、ありやしたぜ! 提督秘蔵のヴィンテージ!!」
「ナイスよ江風。はいはーい、ポーラさんこれ一緒に飲みましょ!」
「Grazie、Grazieですね〜。さっそくいってみ〜ましょ〜。んぐ・・・・・・ぅあ〜。いいですね〜暑くなってきた〜、もー服がすごい邪魔ぁ!!」
「うわ、なにこの人だかり――ってポーラぁ!? うそ、ちょっとぉ! なーにやってんのー!?」
「ぅへあ!? ザラ姉様!?」

・・・・・・見なかったことにしよう。なにあの脂肪の塊。ぜんせんうらやましくなんてない。

「みんな、よく食べるね。いつもこんな?」
「違うわよぅ。今日が特別なの、いろいろと。これもあなたが協力してくれたからだけど・・・・・・そういえばちゃんとお礼言えてなかったよね。ありがとう、キラさん」
「お礼を言うのは僕のほうだよ」

そうして皆が久しぶりに明るく楽しく騒いでるなか、瑞鳳はキラと二人っきりになっていた。

「・・・・・・それで、なにかな? 僕に話って」
「うん、ちょっとね。あなたに訊いてみたいことと、お願いしたいことがあるのよ」

なっていたというよりかは、その状況を作ったというべきか。
0150ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:19:56.21ID:zDocJJyd0
青年に対する質問攻めタイムがようやく落ち着いた頃を見計らって、響にちょっと借りるねと断ってから共に食堂の端っこに移動した。単刀直入に、一対一で。話したいことがあったからこその行動だった。
遅まきながらロゼのスパークリングで満たされたグラスをチリンと鳴らし合って、二人は正対する。思えば男性と二人っきりになるのは提督以外じゃ初めてだ。ぜんぜんそのつもりはないけど。

(・・・・・・つもりはない、けど。なんでこんなどきどきするのよぅ)
「?」

昨夜に艤装を整備してもらった時と変わらず、穏やかに微笑む青年。
まだ殆どの人にとっては、まだそうたいして親しくない男性。未だ詳細不明の異世界人。いきなり女性だらけの鎮守府に所属することになって、でもいつもノンビリのほほんとしていて、
いままでトラブルを起こすこともなく至って普通の好青年で通している男。
・・・・・・ふむ、改めて見てみると顔立ちはなかなか。どこか中性的で正直男性としては好みのタイプじゃないけど、その若さにそぐわない静謐な雰囲気は人を安心させる力があるように感じて、これはこれで。
元の世界じゃ結構偉い立場だったと聞くし、強いし、間違いなく優良物件ではある。
――って、なんで私が品定めみたいなことしてるの。もう、調子狂うなぁ。鈴谷が変なこと言うから変に意識しちゃうじゃない。
じっとり汗ばんできた掌を、ひっそり袴で拭う。
これはそう、緊張しているだけだ。ただ単に、自分に男性の免疫がないからこその緊張だと、これからの質問が自分にとって大事なものになるという気負いもあるからだと、少女は頭を振った。

「暁〜、響〜、コレ食べて食べて! わたしと電で作ったの。ど〜お?」
「肉じゃが! 二人で作ったの? やるじゃない!」
「うん、いいな。美味しいよ二人とも。・・・・・・木曾と鈴谷もどう? きっと気に入る」
「! ――ほう、響のお墨付きか。なら頂こう・・・・・・、・・・・・・なんだこれは、こんなに美味くていいのか!? 美味すぎる!!」
「・・・・・・え、このオーバーリアクションの後に食べるのってめっちゃハードル高いんですケド」
「鈴谷さんファイト、なのです」

遠くの方で、暁型の四人と木曾、そして鈴谷が肉じゃが一つで楽しくはしゃいでる声が、やけにハッキリ聞こえてきた。
そしてそれを最後に、周囲から音が遠ざかった。まるで世界には自分達しかいないと錯覚するような、そんな静寂の世界を意識して形作る。これからの一語一句をけっして聞き漏らさないよう、少女は集中する。
そう。ここからはシリアスに。
シリアスが私を呼んでいる。
そんな少女の気合いに気付いたのか、青年も真面目な顔になった。今だ、訊くにはこのタイミングしかない。これにどう応えるかによって、少女のこれからの行動指針が決定される――これはそういう質問だ。
空回りしそうな舌を必死に制御して、まっさきに本題を。

「――ええっと、ね? ぶっちゃけさ、あなた自身は、響のことどう思ってるのかなって」
0151ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:22:06.66ID:zDocJJyd0
・・・・・・にしては質問内容が些か緊張感に欠けるというか、恋愛モノの三流TVドラマみたいに青臭くて、しかも漠然とし過ぎていると瑞鳳は言ってから気づいた。
気付いて、頭を抱えた。
キラも苦笑して、場に和やかな空気が流れる。しまった、ぜんぜんシリアスっぽくない。それどころかこんなんじゃ意図の半分も伝えられてないではないか。そりゃ究極的には「どう思ってるか」が核心ではあるけども。

「これはまた漠然とした・・・・・・」
「うぅ、ごめんなさい今のナシで」
「とりあえず、可愛くて良い子だと思ってるよ。でも瑞鳳さんは訊きたいのって、そうじゃないでしょ? ・・・・・・そうだね、でもなんとなくだけど何が訊きたいのか、わかるような気がする」
「え、ホントに?」

わかってくれたのだろうか。
キラはしばし考え込むように、言葉を探すように俯いた。
心当たりがある、というのだろう。そういえばこの人は元の世界じゃ結構偉い立場だったという。何か似たような問題を知っているのかもしれない。世界広しといえど、
人間が抱えるような問題なんてのは限定されていると言ったのは、どこの誰だったろうか。
少しだけ沈黙が続く。
ちびちびとグラスを傾けて、口を開きかけては閉じての繰り返し。その顔は先までと打って変わって、それこそ戦闘中でもあるかのように真剣で。でもどこか迷っているような素振りで。
その横顔を見て、瑞鳳はゴクリと喉を鳴らした。
そうして彼のグラスが空になった頃。
しばしの黙考を経てキラは「多分だけどね」と前置いて言った。哀しそうに瞳を伏せ、言った。
それは、先の問いの核心に触れるものだった。


「響が。彼女が僕と一緒にいてくれる理由は、罪悪感が一番大きいんだろうなって。僕はそう思ってる」


――ああ。この人はちゃんと、思っていたよりもずっと、あの娘のことをよく見てくれているようだ。
瑞鳳はその言葉だけで、この人は信じてもいいと確信した。

「だから僕は・・・・・・受け入れて――支えてあげたいとも思ってるよ。あの娘はね、恩人だから。それが報いになるかはわからないけど・・・・・・こんな答えでいいかな?」
「・・・・・・うん、充分。ありがとうキラさん。気付いてくれてたんだ」
「流石にそこまで鈍くできてはいないよ。・・・・・・でも、そっか。勘違いじゃなかったんだね・・・・・・」

百点満点とまではいかないけど、期待以上。
認識を共有できていること以上に嬉しいことはない。勇気出して訊いてみてよかった、これならきっと上手くやっていける。この人なら、あるいは。
自分と同じように彼女を支えてあげたいと思ってくれている青年は、肩を落として言葉を紡ぐ。勘違いであって欲しかった、己の感覚をなぞるようにゆっくりと。ため込んでいた想いを吐き出すように。
0152ミート ◆ylCNb/NVSE 垢版2017/11/11(土) 23:24:03.49ID:zDocJJyd0
「すごく優しくて、律儀で、けど脆くて。なんでも自分のせいだって思ってるような――なんとなく、そういう印象を受けるんだ。
罪悪感とか罪滅ぼしとかがずっと向けられてて・・・・・・無意識なんだろうけど、今日だってそんな感じでさ。それに響には突撃癖があるって前に木曾さんから聞いて、僕も実際に見た。だから」
「見てられない?」
「そう、見ちゃいられない。みんなの怪我もストライクのことも、多分本人が思ってる以上に気にしてるのがわかっちゃって、見てて辛い。彼女の在り方は危うすぎる。
気付いちゃったらほっとけないよ、あんなんじゃいつか・・・・・・」
「あれでも、すごくマシになってきるんだけどね・・・・・・」

応じて瑞鳳も改めて、響がどういう性格であったかを思い起こす。
そうだ。
近年はなりを潜めているけれど、響はそういう女の子だった。
自分を必要以上に追い詰めるタイプ。自信が持てなくて、なんでもネガティブに捉えてしまうタイプ。あのクールでシニカルなペルソナの下にある氷塊の正体はソレだ。
殆どの者が知らない彼女の闇は、彼女自身が思っているよりもずっと深い。
その片鱗は時々、トラウマというカタチで現れる。
仲間が危険となれば暴走して接近戦に傾倒してしまうアレ。生きたいのか死にたいのかも判らない特攻癖。船の【響】の経歴から考えれば何故そうなったかは大体察することができるけど、
他人が思うよりずっと悪化して凝り固まってしまったが故の、悪癖。
殆どの者は彼女の闇に気付かない。元々そういうものだと思っているから。弱さを晒すことが嫌いな響がそうなるように努力しているから。知っているのは、最初期から彼女のことを知っている者か、ずっと一緒にいる者だけ。
そして気付いたとしても、最奥まで踏み込めなくて、気遣いながら時間の解決を待つだけで。そんな日々があった。

「・・・・・・昔はもっと酷かったの。表面上は今とそんな変わらないけど、ずっと何かに怯えてて、ずっと一人で、なにをするにしてもすぐ謝って主張しなくて・・・・・・想像できないでしょ? 
今は気持ちに制限をかけてるようなものよ」
「気持ちを、制限・・・・・・。今の彼女になったのは、やっぱり・・・・・・」
「夕立のおかげでもあるし、言い方は悪いけど、せいでもあるかな。でもちょっと自信がついてからだいぶまともになれたのは事実だから、やっぱりおかげ。相変わらず、姉妹以外にはそう関わろうとはしないけど」

自分達が、あの娘の姉妹でさえも溶かせなかった氷塊。夕立を師事することで少しだけ柔らかくなった少女。人付き合いに臆病でナイーブな、強さだけを求めて余裕が持てないあの娘。
響は、トラウマを克服する為には強くなることが必要だと思っている。なまじ成果があったから、思い込んでる。
しかし瑞鳳には、それは彼女が強さを追い求め続ける限りは克服できないものだと思えててならないのだ。
直感だけど、自分が正しいとは思わないけど、彼女も認識が間違っているとも思う。それじゃ正解にたどり着けない。たどり着けないから、彼女はまた自分を責める。
もどかしい。
かつての自分は力になれなかった。彼女の弱さを知っていながら、彼女の望むものを与えることができなかった。ただ折れないように、支えてあげるのが精一杯で。それはとてももどかしく、悔しいことで。
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